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鳥獣保護法改正の論点整理

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富 山 大 学 紀 要. 富 大 経 済 論 集 第60巻第 2 号抜刷(2014年11月)

富山大学経済学部

神 山 智 美

鳥獣保護法改正の論点整理

――法律名に「管理」が加わることに関する法学的な一考察

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鳥獣保護法改正の論点整理

――法律名に「管理」が加わることに関する法学的な一考察 神 山 智 美

キーワード:鳥獣保護法,鳥獣保護管理法,鳥獣害対策,特定鳥獣保護管理計 画制度,指定管理鳥獣捕獲等事業,認定鳥獣捕獲等事業者制度

1.はじめに

 鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律1(以下,「鳥獣保護法」もしくは

「現行法」という。)の改正案が,2014年(平成26年)3月11日に閣議決定さ れた。続く4月18日に衆議院環境委員会で全員一致により可決され,5月23日 に参議院で可決された。その結果成立した「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の 適正化に関する法律」(以下,「鳥獣保護管理法」もしくは「新法」という。)

が5月30日に公布された2。施行は,新法附則1条により,遅くとも2015年(平 成27年)5月30日までにはなされることになっている。

 筆者は,かつて拙稿3において自然保護法の「進化」4の一つである鳥獣保護 法の「進化」を扱った。すなわち,生き物たちが織り成すつながりの重要性が 着目されてきたことを背景として,生態系及び生物多様性という視点が人間社 会における一定の価値付けがなされ鳥獣保護法に加えられることによって,鳥

1 2002年(平成14年)7月12日法律第88号。

2 2014年(平成26年)5月30日法律第46号。

3 拙稿(2013)「狩猟動物から生物多様性保全へ――鳥獣保護法における地域で取組む科学的 計画的保全の導入を中心として」九州国際大学法学論集第20巻第1・2合併号,1-18頁。

4 及川敬貴(2010)『生物多様性というロジック』勁草書房,50頁によれば,「生物多様性・

生態系という視点の法目的へのとり入れや新たな手法(経済的手法や科学的管理手法)の開 発導入が進められていること」と説明されている。なお,及川は,同著の中で,開発法全般 が環境配慮化していることには,別途 「環境法化」 という語を充てている(60頁以下)。

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獣保護法という自然保護法が,より環境配慮化していることをとりあげた。さ らに,その価値付けを実践化するために特定計画制度というロングレンジ(長 期スパン)の科学的かつ計画的な保全5施策が導入されてきていることを指摘 したのである。具体的には,生物の多様性に関する条約6(以下,「生物多様性 条約」という。)が1993年に批准され,その履行を担保するための国内法とし て鳥獣保護法も位置づけられることとなった7。その後, 2002年(平成14年)の 改正時に,法目的(1条)に「生物多様性の確保」が追加されることとなった に伴いあるいはこの前後に,ある種の質の転換がなされたと考えたのである。

すなわち,ツキノワグマ等地域的に絶滅が危惧されている種がいる一方で,イ ノシシやニホンジカ等のように,個体数や分布域の増大により,重大な農林水 産業被害を与えたり,生態系の攪乱8を起こしたりしている種もある。よって 生物多様性の確保のためには,それらのいずれにも「地域の実情に即した」9 生動物の保全を行う必要があるための転換であったと考えている。併せて,別

5 本稿では,「保護(Protection)」「保全(Conservation)」「保存(Preservation)」の概念を,

岩佐茂((1994)『環境の思想』創風社,19頁)及び広井敏男((1984)「資源と自然保護」『環 境科学への扉』日本環境学会編集委員会編,235頁)により,以下のような意味として用い ることとする。「保存」は「現状凍結」を,「保護」は「積極的にあるものを守ること」を,

それらに対して「保全」は「保存や保護を含むより広い概念であって,(環境を現状のまま で守ろうというスタティスティックな概念ではなく,)人間がかかわることによって常に変 容されつつある環境をその質を落とさないで守っていこうというダイナミックな概念」を意 味するとする。

6 19993年(平成5年)条約第9号。

7 第164回国会(常会)における谷博之議員による2006年(平成18年)6月9日付けの「鳥 獣保護行政に関する質問主意書(質問第69号)」に対する答弁書(答弁書第69号)による。

8 「攪乱」とは,生態系・群集・あるいは個体群の構造を乱し,資源・基質の利用可能量・物 理環境を変えるような,顕著なイベントと定義される。例として,河川の氾濫原で攪乱が不 定期に生じるが,生態系にとっては長期的な視座に立てば,攪乱は重要な要素の一つである といえる。確かに,更新プロセスには決まった道筋はなく,撹乱と再生のプロセスにより,

生態系に多様性が生み出されるという重要なプロセスではあるが,本稿では,「地域の実情 に応じた」望ましい生態系や鳥獣の個体数が存在すると想定し,それを著しく乱すイベント を 「攪乱」 と表現することとする。

9 拙稿(2013)前掲3)13-15頁。

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の拙稿10においては,野生動物の法的価値付けを,他の動物関連個別法の罰則 規定と比較検討して整理している。ここでは,少なくとも愛護・愛玩動物との 比較においては,野生動物は,人間社会においては関心の低い存在であり,そ れを適正かつ積極的に保護管理することが社会的利益であるという合意形成が 望まれると述べている。

 このように鳥獣保護法は,哺乳類又は鳥類に属する野生動物を射程範囲とす る自然保護法(本稿の定義(注5)によれば「自然保全法」が正しいが,本稿 では既に定着した法体系をさす一般的な表現として「自然保護法」という表現 を用いることとする。)の一つとして,着実に進化してきたのである。しかし ながら,今般の鳥獣保護管理法への改正というように名称に「管理」という語 を加えて,すなわち名称変更までして行った改正については,筆者は法の性質 を更に変革するものであると考えており,その変革の性質を検討するのが本稿 の目的である。

 よって以下に鳥獣保護管理法への改正の経過(2)と改正の概要(3)を整 理し,特に自然保護法の進化という観点から,すなわち生態系及び生物多様性 に対する人間社会における価値づけを明らかにして(4),それを科学(経済 的手法や科学的管理手法,分析的技術的手法等という自然科学や社会科学の手 法)によって法の中に導入してきた経過として検討したうえで(5),改正時 の諸議論をもとにいくばくかの検討を試みることとする(6)。

 尚,本稿での試論の対象とするのは,野生動物のなかでも鳥獣保護法の対象 となっている野生鳥獣 とし,以下「鳥獣」と記すこととする。

2.改正の経過

 今回の改正を促した背景の最たるものは,生息数が増加し生息域が拡大した 鳥獣による自然生態系への影響,食害等の農林水産業や生活環境への被害の深 10 拙稿(2013)「罰則から見る野生動物の位置づけ――動物法制における野生動物の法的価

値を考える」社会文化研究所紀要第73号,37-61頁。

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刻化である。この問題は,1999年(平成11年)の鳥獣保護法改正の頃から既 に指摘されていたのであり,当時は特定鳥保護管理計画制度(以下,「特定計 画制度」といい,特定鳥獣保護管理計画を「特定計画」という。)の創設と,

狩猟免許制度の改善により対応された。

 人口増加時代には耕作地や居住地の拡大のため,中山間地にも人が住み,そ の結果として,一部の鳥獣は生息域や個体数が減少したり絶滅したりするもの もあらわれた。しかし,産業構造が変化し大都市圏に人口が集中するようにな り,その後おとずれている人口減少社会のなかでは,中山間地はより一層の過 疎化と,耕作放棄地や荒れた人工林が現れるという第一次産業の衰退に見舞わ れている。かつては農業者や林業者が生業に加えて従事していた狩猟である が,狩猟者の減少及び高齢化によって次第に行われなくなり,こうした人口圧 や狩猟圧の減少も一つの要因として鳥獣の生息可能な地域が拡大してきた。一 部の鳥獣は,昨今では,中山間地のみならず市街地にまで姿を現し,農獣害被 害をはじめとするときには人の生命をも脅しかねない軋轢をもたらしている。

更に,山間地では,ニホンジカの群れが,樹木だけでなく下草を食べ尽くすこ とで保水力を失うことによる土砂災害のおそれも指摘されており,防災・減災 の視点からの対策も求められているのが現状である11

 そもそも鳥獣行政は,2000年の地方分権改革により都道府県の自治事務と されている。国の所管としては,鳥獣行政は環境省と農林水産省の両省に関連 する課題であるため,各都道府県でも部局の構成によりその扱いはいくばくか は異なるところ,環境省では1999年(平成11年)の鳥獣保護法改正に基づき,

鳥獣保護事業計画(4条)の下に,特定計画制度を創設し(7条),狩猟免許制 度の改善(39条)及び地方分権化を推進している。ここで重要になってきて いるのが自治体の策定する特定計画であるが,これは個体数が増えすぎたり,

減少しすぎたりした「特定鳥獣」を定め,その科学的な保護管理を集中的に進 11 2014 年10月6日東京新聞web:www.tokyo-np.co.jp/article/kakushin/list/CK201410062000132.

html(2014年10月8日閲覧)。

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めるものである。

 また,この特定計画制度の開始にあたり,「保護管理」の三本柱が立てられ た。この「保護管理」の三本柱の考え方は,いわゆる「カモシカ問題」(カモ シカは法律によって狩猟が原則禁じられている動物ではあったが密猟が絶えな かった。しかし,密猟が激減した高度経済成長期以降は,狩猟圧の減少によ り,カモシカの分布域拡大と個体数増加が問題とされた。)における環境庁(当 時),文化庁,林野庁の3庁の対応に由来する。当該3庁は,1979年(昭和54年)

にカモシカ保護管理方針の大幅な転換への合意(いわゆる「3庁合意」とよば れている。)を行ったのであり,その内容は,①地域を限って天然記念物に指 定し保護する方向で対処することとし,これに至る措置として保護地域を設け る,②保護地域内に関しては管理機関を定め,被害防除とカモシカの保護管理 を進め,保護地域内に関してはカモシカの捕獲を認めない,③保護地域以外で は被害防除を進めるとともに,必要な場合は個体数の調整を行う(被害防除目 的の捕獲の許可)ことである12。よって,「保護管理」の三本柱を本来的に採る べき対策順に並べるとすれば,「生息地管理(生息環境又は生育環境の保全)」

「被害防止」「個体数管理」となる。

 この3本柱は2008年(平成20年)成立の生物多様性基本法1315条2項にも明 記されたように,野生生物の種の多様性の保全等のために,「野生生物が生態 系,生活環境又は農林水産業に係る被害を及ぼすおそれがある場合」にとり得 る施策として明記されてもいる。しかしながら,各都道府県における資源不足

(資金・人員や技術等の不足を含む)により,この任意の計画は十分には策定 されず,またその「計画」という性質から実効性を担保するものでもなかっ 14。なお,1999年(平成11年)改正で影響を与えたのは自由民主党の「農林 漁業有害鳥獣対策議員連盟(会長 衛藤征士郎衆議院議員,座長 宮路和明衆議

12 環境省の「カモシカ特定鳥獣保護管理計画技術マニュアル」2頁。

13 2008年(平成20年)6月6日法律第58号。

14 拙稿(2013) 前掲3) 11-12頁。

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院議員)」であり,宮路私案が環境省に提示されたことが発端である。

 さらに, 農獣害被害が深刻化する中で,鳥獣保護法及び山村振興法15等も改 正されたが,未だ十分には奏功していないという経過がある。しかしながら,

それは法制度の不備のみが原因とはいいきれない。というのも,現行法におい ても,特定鳥獣保護管理制度という著しく個体数が増加した種及び減少した種 の双方にも十分に対応できる制度が既にあるのであり,結局はそれを機能させ るだけの原資(人員,資金及び技術)の不足という運用面が理由なのではない かという側面も否めないからである16

 そうしたところ,自由民主党に「農林漁業有害鳥獣対策検討チーム(座 宮路和明衆議院議員)」が設置された。2009年(平成19年)には彼らのイ ニシアティブによる議員立法により,農林水産省所管の「鳥獣による農林水産 業に係る被害の防止に係る被害の防止のための特別措置に関する法律17(以下,

「特措法」という。)が成立し,同法に基づき鳥獣害対策に取組む市町村を支 援している。ここでは,市町村が被害防止計画を策定することになり(特措法 4条1項),これは前述の鳥獣保護計画や特定計画と整合性があるべきものとの 配慮がされている(特措法4条4項)。しかしながら,この特措法は,国会議員

(いわゆる農政族議員等)が,主として自身の選挙区内の農林業家から寄せら れる農獣害防止を求める声を受けて18,前述の保護管理のための三本柱のうちの

「個体数管理」を優先させて議員立法によって制定された法である。補助金も その点を重んじて拠出されてきたことから,費用に対して保護管理にとり十分

15 1965年(昭和四十年)5月11日法律第64号。平成17年3月に,国及び地方公共団体に対 して鳥獣被害の防止について適切な配慮を求める規定(同法21条の3)が設けられた。

16 ただし,筆者は運用面の不備もひいては法制度設計の不備といえると捉えており,原資

(予算)措置をとりうる法制度設計へと改変していくことが望ましいと考えている。

17 2009年(平成19年)12月21日法律第134号。

18 自由民主党農林漁業有害鳥獣対策検討チーム編著(2008)『Q&A 早わかり農獣被害防止 特措法』大成出版社,巻頭言。

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な効果をあげているとはいえない状態であった19

 こうしたところ,特措法改正の議論が沸き起こった。第176回国会参議院農 林水産委員会20の議論では,地方議会からの意見書の内容に関して「例えば中 山間地域の振興の一環としてそういった問題が取り上げられたり,あるいは多 面的機能の発揮というようなところで出されて,一つの項目として鳥獣対策が 取り上げられていましたが,今年に入って明らかにタイトルそのものが,もは や野生鳥獣,有害鳥獣の被害対策をしっかりしてくれというものに変わってき ているということ,つまりこれだけ地方の切実な声4 4 4 4 4 4 4だということをやっぱり真 剣に受け止めていただきたいと思いますし,国としても何らかの抜本的な対策 を講じていただきたいと思っているところです。(傍点は筆者による)」との発 言もあった。更に,「根本的に鳥獣の個体数を減らさなければならない21」「住 民の生命財産を脅かす問題22」との指摘もなされた。そのため, 2011年(平成 23年)2月に, 当時は野党であった自由民主党は鳥獣捕獲緊急対策議員連盟(会 武部勤衆議院議員)を立ち上げ23,議論を重ね自民党案を作成した。これを ベースとして,続いて民主党,公明党とも協議を経て,農林水産委員会提出の 法律案として提出され,2012年(平成24年)3月に可決された。こうした特措 法制定及び改正により,鳥獣被害防止のための事業が創設され,より厚く予算 措置がなされることとなった24

19 拙稿(2013) 前掲3) 14-15頁。ただし,例として三重県のように野生鳥獣による農林水 産物への被害金額を減少させている事例報告もある。2014 年10月8日中日新聞web:www.

chunichi.co.jp/article/mie/20141008/CK2014100802000024.html(2014年10月9日閲覧)。

20 参議院農林水産委員会会議録第2号 2010年(平成22年)10月21日の柴田巧議員(富山 県選出)意見。

21 第177回衆議院予算委員会第六分科会会議録第1号 2011年(平成23年)2月25日空本誠 喜議員(広島県選出)意見。

22 第177回衆議院予算委員会第六分科会会議録第1号 2011年(平成23年)2月25日小原舞 議員(京都府選出)意見。

23 山下慶洋(2012)「農林水産業の鳥獣被害への対応」『立法と調査』№.334,121頁。

24 2010年(平成22年)度までは20億円あまりで推移しているが,2011年(平成23年)度以 降は100億円程度が充てられている。

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 この鳥獣捕獲緊急対策議員連盟は,今回の改正においても,与党に返り咲い た政党を代表する議連の一つとして同じ自由民主党の環境部会とともに合同会 議を開催する等して,鳥獣保護管理法改正へと大きな影響力を行使した25。こ の鳥獣捕獲緊急対策議員連盟の構成員の重視するところは,選挙区をはじめと する「地方の切実な声」であり,主として中山間地の農林業従事者の要望に応 えることであったといえよう。

3.改正の内容

 こうした背景の下で実施されたのが鳥獣保護管理法への改正である。「地方 の切実な声」を受け止め,中山間地の農林業従事者の生命・財産を守るための 鳥獣の個体数の削減,という傾向が如実に現われている。

 改正内容を以下に順に列挙する。 

 第1に,題名,目的等の改正である。数が著しく増加し,又はその生息地の 範囲が拡大している鳥獣による生活環境,農林水産省又は生態系に係る被害に 対処するための措置を法に位置づけるため,法の題名に「管理」を加え,法 目的に鳥獣の管理を加えた(1条)。これに伴い,鳥獣の「保護」及び「管理」

の定義が規定された。

 第2に,「保護」及び「管理」は,従来の鳥獣保護事業計画に代わり鳥獣保 護管理事業計画(4条)として位置付けられた。また,特に「保護」すべき鳥 獣のための計画と,特に「管理」すべき鳥獣のための計画が,従前の特定計画 に代わり二分化とともに位置付けられた(7条及び7条の2)。

 第3に,指定管理鳥獣捕獲等事業の創設である。集中的かつ広域的に管理を 図る必要があると環境大臣が定めた鳥獣については,都道府県または国が指定

25 影響力の大きさに関しては,省庁の対応が例示できる。本文中にも触れるが,鳥獣捕獲緊 急対策議員連盟は2013年12月12日に総会を開き,今後の鳥獣害対策について検討した。そ の中で,環境省と農林水産省は「初めて」シカ,イノシシの成育頭数を10年後までに半減 を目指すという目標を示したことが挙げられる(全国農業新聞2013年12月20日版)。

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管理鳥獣捕獲等事業を出来るようになったことである。具体的には,捕獲等の 許可を不要とし,あるいは,一定の条件の下で夜間銃猟を可能とする等の規制 緩和措置を取ることとしている(14条の2)。

 第4に,認定鳥獣捕獲等事業者(以下,「認定事業者」という。)制度の導入 である。鳥獣の捕獲等をする事業を実施する者は,従事する者の技能及び知識 等が一定基準に適合していることについて,都道府県知事の認定を受けること ができる(18条の2から10)。

 第5に,住居集合地域等における麻酔銃猟の許可である。都道府県知事の許 可を受けた者は,集合住宅地域等において麻酔銃による鳥獣の捕獲等ができる ようになった(38条の2)。 

 第6に,網猟免許及びわな猟免許の取得年齢が20歳以上から18歳以上に引 き下げられたことである(40条)。

 いずれも鳥獣の管理のための捕獲の一層の促進と,捕獲等の担い手の育成の 施策であるといえよう。

 特に着目すべきは,先に挙げた第1の点である。新法においては,法名称に

「管理」の二文字が加えられた。更には法目的(1条)に従前からの「鳥獣の 保護」に加えて「管理」を図るための事業の実施が加わり,これにより,同法 における目的達成の手段は鳥獣の「保護」及び「管理」であることが明らかに された。更に,法目的の一つとなっている「生物多様性の確保」には,「(生態4 4 系の保護4 4 4 4を含む)(傍点は筆者による)」という説明が加えられた。併せて,新 法2条(定義等)2項及び3項の「保護」と「管理」の定義には,「生活4 4環境の4 4 4 保全4 4又は農林水産業の健全な発展4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4を図る観点から」というフレーズが記されて いる。この「生態系の保護」「生活環境の保全」「農林水産業の健全な発展」は,

現行法の1条(目的)の「鳥獣による生活環境,農林水産業又は生態系に係る 被害を防止し」に該当するものであり,現行法の手段は,新法においては「保 護」及び「管理」といういずれも重要な施策に置き換えられ遂行されるように ある種の進展(進化)をしたと考えてよかろう。

(11)

 他方,自然科学的側面は後退(退化)したと捉えることも可能である。詳し くは,後述するが,「保護」又は「管理」に分けねばならないという方策選定は,

自然科学の知見をないがしろにするものといえるからである。しかしながら,

そもそも,鳥獣保護法は,哺乳類及び鳥類に属する野生動物を射程とする法 で,野生動物を規定する法としては最も基本的かつ重要な位置を占める。1892 年(明治25年)制定の狩猟規則26を前身とする長い歴史があるところ,その後 1895年(明治28年)に狩猟法27,1963年(昭和38年)に鳥獣保護法へと法目的 と名称を変えつつ現代に至っている法である。大雑把な表現ではあるが,元来 は「生業」ないしは「副業」としての狩猟を規定し,それらの業の維持のため の鳥獣を確保していたのであるが,今や生活環境の保全や生物多様性の確保ま でを射程に入れているのである。つまり,法体系を基本的に維持しながら中身 を現代型にするべく改正を重ねてきているという性質を持つため,新しい概念 の導入にはいくばくかの困難さを伴っているといえる。この傾向は,生物多 様性条約が批准された後の2004年(平成16年)に制定された特定外来生物に よる生態系等に係る被害の防止に関する法律28(以下,「外来生物法」という。)

と比較しても顕著である。外来生物法は,生物多様性という新しい概念の下で,

特に生態学者等の自然科学者の声により策定されたものであるため,そのなか に込められた科学的概念および法策定段階においてもその見直し段階において も,科学者の位置づけが明確であり,仕組みの改変に柔軟さをみることができ るからである。加えて,自然資源管理分野の進捗は目覚ましく,生態系サービ スという考え方やグリーンイノベーションのスキームは,鳥獣保護法の歴史か ら勘案すれば非常に新しい仕組みといえる。よって,鳥獣保護法にこうした概 念やスキームを導入して進化させるには,野生動物に関する基本的かつ重要な 位置を長らく占めてきた法ゆえの困難さの再認識とその克服が求められるとい

26 1892年(明治25年)10月6日勅令第84号。

27 1895年(明治28年)3月27日法律第20号。

28 2004年(平成16年)6月2日法律78号。

(12)

えよう。

4.法政策における生物多様性及び生態系に対する価値づけ 

(1)検討の段階措定

 このような経過と内容をもつ今般の鳥獣保護管理法への改正であるが,本稿 では鳥獣保護法の進化という観点から検討したい。そのためまずは,鳥獣保護 法制においてどの段階まで生態系及び生物多様性という視点の法目的への導入 や新たな手法の開発・導入が進められているかを検討するためにも,検討の段 階の措定が必要であろう。そこで,「①法に環境の整備・保全や生物多様性保 全の規定やフレーズが加えられている又は法律そのものが新法として生まれ変 わっている」「②環境配慮化した規定又はフレーズ等の実施を担保するための 環境要件が,当該環境個別法の中に規定されたり,環境配慮化された規定又は フレーズ等の実施の実効性に関する議論が裁判の主張中で活用されたりしてい る」「③実際にこうした環境要件が行政実務の中で実効力を発揮し(法的な管 理がなされているか),併せて裁判においても環境配慮化の必要性が積極的に 認められてきている」の三段階に分けることとする29。しかしながら,当該鳥 獣行政分野においては訴訟も少なく,新法は制定・公布されたものの関連規則 やガイドライン等が制定途上であるため,今回は①の段階を中心とし,制定中 の②への要望なども若干込めつつ,すなわち法条文とその実施規則及び環境要 件等において,以下のような検討を行うことになる。

(2)生物多様性及び生態系の価値づけ

 まず本節では,新法における生態系及び生物多様性の価値づけを検討した い。鳥獣を含む生態系及び生物多様性は,自然界の生物物理的な「作用(メカ ニズム:例として光合成作用,呼吸作用,分解作用,蒸散作用,植生遷移作用 等)」という自然の本質部分がさまざまな「機能(二酸化炭素吸収機能,水質 29 措定は,あくまで暫定的なものではあるが,拙稿(2014)「森林法制の「環境法化」に関

する一考察」九州国際大学法学論集第20巻第3号,44頁にならった。

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浄化機能,快適環境・景観形成機能等)」につながり相互に関連している。こ れらのうちの自然が人間にもたらすプラスの機能(サービス)を「生態系サー ビス」といい,供給サービス(食糧,水,繊維,燃料等),調整サービス(気 候調節,水,疾病等),文化的サービス(精神的,審美的,レクリエーション 的,教育的等),基盤サービス30(一次生産,土壌形成等)の四種類に分類して いる31。こうした生態系サービスは,人間の豊かさや幸福のための「便益(福 利)」を提供するが,他方,自然界の作用は,人間にとって不都合なことすな わち「害悪」ももたらしうる32。例として,人間に「害悪(棘のある植物やか ぶれる植物の生育,毒ヘビ・ハチ・ダニ・ヒル・木を枯らす病害虫の存在等)」

をもたらす生物の存在がある33

 こうしたところ,我々は,人間社会に対してトータルでこの「害悪」を低減 させ「便益(福利)」をより増加させるべき仕組みを築くように努めねばなら ない。そのためには人間が自然に期待する機能である「生態系サービス」の中 のどの機能に重点を置くかということで,自然とのかかわり方が決まってく る。よって,各種の機能間の調整をする必要が出てくるが,その調整原理の根 本の一つは自然の人間社会に対する価値付けであるといえ,それを議論し,発 揮させるべきサービスを決定したうえで,より効果的なものとするために,科 学的かつ専門的知見をもって実行せねばならないということになる。ここに,

「人間社会における自然(鳥獣)の価値づけ」と,「それを実践するための科学」

30 「生物多様性の経済学(TEEB)」報告書では, Millennium Ecosystem Assessment. 分類を基本として,「基盤サービス」の代わりに「生息・生育地サービス」としている。

http://www.iges.or.jp/jp/archive/pmo/1103teeb.html(2014年9月15日閲覧)。

31 Millennium Ecosystem Assessment.Ecosystems and Human Well-being : Synthesis(ミ レニアム生態系評価)(2005)UNEP。

32 蔵冶光一郎(2012)『森の「恵み」は幻想か 科学者が考える森の人の関係』化学同人4頁。

33 生態系サービスという概念がかなり浸透している中で,ここで,「生態系サービス」を仲 立ちに施策化しているという考え方は,保谷野初子(2014)「グリーン・インフラストラク チャーとしてのEUの治水」蔵治光一郎・保谷野初子編『緑のダムの科学 減災・森林・水 循環』築地書館213-229頁及び蔵治光一郎(2013)前掲32)等を参考にしている。

(14)

を法的安定性を持って適正化すること,すなわち法制度化する必要がでてくる といえる。尚,前者については「21世紀環境立国戦略」のなかではじめて公 式に用いられた「自然共生社会」が現在のところではスローガンになっている といえよう34。他方,後者に関しては,本稿の扱う範疇においては野生動物保 護管理学という分野が牽引している。

 翻って,法律のなかでは,この価値付けは,生物多様性基本法の前文におい ても,「我らは,人類共通の財産である生物の多様性を確保し,そのもたらす 恵沢を将来にわたり享受できるよう,次の世代に引き継いでいく責務を有す る。」「今こそ,生物の多様性を確保するための施策を包括的に推進し,生物の 多様性への影響を回避し又は最小としつつ,その恵沢を将来にわたり享受でき る持続可能な社会の実現に向けた新たな一歩を踏み出さなければならない。」

と格調高く謳われている。

 更に,鳥獣は民法35第252条(無主物の帰属)によると,日本の法律上は,「野 生動物は無主物(所有者が存在しないもの)」とされており,野生の動植物の 捕獲・採取行為は財産の取得行為とみなされると読める。よって野生のままの 鳥獣は無主物であり,こうした無主物から被る「便益(福利)」に対して対価 を支払うことも,「害悪」に対して公等に対して損害賠償を請求することもで きないことになっている。

 これらを踏まえて,中山間地や里山における鳥獣行政で検討してみると,「便 益(福利)」は,野生動物の存在により生物多様性の保全がなされていること,

それらにより地域に固有の生態系が維持されていること,それにより鳥獣と共 生できる快適な生活環境や景観が形成されていること,地域のひいては日本の

(狩猟文化やまたぎ文化の伝承を含む)文化や教育が多くの恩恵をうけて発展

34 武内和彦・奥田直久「自然とともに生きる――自然共生社会とはなにか」武内和彦・渡辺綱 男編(2014)『日本の自然環境政策 自然共生社会をつくる』東京大学出版会,1-11頁には,自 然保護から自然との共生へとその視野を広げてきた自然環境政策の展開がまとめられている。

35 1896年(明治29年)4月27日法律第89号。

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してきているということになろう。もちろん狩猟の対象,すなわち獲物であっ たという側面も否めない。他方,生態系及び生物多様性の重要な構成要素とな る野生鳥獣であるが,それらのバランスが欠いたときや攪乱がもたらされたと きには,人間社会に「害悪」をもたらすことにもつながりうる。害悪には,人 間社会に有害な鳥獣の存在とそれらによる生命・財産への損害があげられる。

 このように見てくると,概して人間社会における鳥獣の価値づけは広範かつ 深甚である。生物多様性基本法の前文にも,「生物の多様性は,地域における 固有の財産として地域独自の文化の多様性をも支えている」と記されているよ うに,とりわけ地域固有の生態系及び生物多様性に期待されるものは少なくは ないといえよう。

 そのため,現行法1条の目的の大原則は「鳥獣の保護」である。一方そのた めに,農林水産業に被害が出ること36もまた無視してはならないので,その「健 全な発展に寄与する」ために必要な調整,すなわち本稿でいう保全が図られる という構成であった。なお,「もって」以下は,同法の最終的な目的を規定し ている。そこには二つの目的が掲げられている。「自然環境の恵沢を享受でき る国民生活の確保」と「地域社会の健全な発展に資すること」である。この二 つの目的は,「生物多様性の確保」「生活環境の保全」「農林水産業の健全な発 展」に寄与することで達成されるべきものと位置づけられているのであり,法 の規定する生物多様性への価値付けの高さが確認できる。

(3)生態系及び生物多様性の価値づけの変化

 野生生物の価値37については,A.商業的価値(商業的な利用として必要だか

36 農林水産業に被害が出ることは無視できないのであるが, 鳥獣と共生できる快適な生活環 境や景観が形成されていることとはトレードオフの関係となるのであり,被害の許容範囲の 検討(生業としての農林業の存続を脅かさない程度又は中山間地における居住を持続する意 欲を喪失させない程度等)が,別途必要となる。

37 環境省HP: 「自然の恵みの価値を計る―生物多様性と生態系サービスの経済的価値の評価

―」http://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/valuation/shuhou.html(2014年9 月15日閲覧)。

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ら:例としてクジラ),B.狩猟的価値(獲物として重要:例としてシカやイノ シシ),C.美的価値(美しいと感じるから重要:例として観葉植物やペット),

D.倫理的価値(道徳的な考え方から重要:例として「かわいい」),E.科学的 価値(科学的に重要な種であるから),F.生態学的価値(特有な生き物であり 生態学的に重要),G.教育的価値(教育的な価値が有るから)の7種類がある と整理されている。また,生物多様性の経済的評価も進んできている38  では鳥獣保護管理法への改正は,どのような価値付けの変化をもたらしたの であろうかということをいくつか検討してみる。

 第一に,今回の鳥獣保護管理法への改正でとりわけ焦点が当てられたのは

「害悪」の部分であり,なかでも農獣害である。従前の農獣害被害対策のため の特措法制定とその後の特措法改正においても,成果が十分ではなかったこと からの鳥獣保護法改正であるといえる。

 これは,今回の鳥獣保護管理法への改正には,前述の農林漁業有害鳥獣対策 議員連盟及び鳥獣捕獲緊急対策議員連盟39が機動的に動いていることからも確 認できる。これらの議連のメンバーは北海道,新潟,福島,長野,福井,富 山,鳥取,徳島,和歌山,兵庫,山口,福岡,佐賀,大分,熊本,鹿児島等と いう有権者による農林業被害の深刻化が訴えられている地方から選出された地 方議員が多い。彼らの活動は有権者の「地方の切実な声」を錦の御旗にしてお

り, 2013年(平成25年)12月12日の自民党の鳥獣捕獲緊急対策議員連盟総会

では,今後の鳥獣害対策についての検討がなされ,環境省と農林水産省はその 中で「初めて」,シカ,イノシシの生息頭数を10年後までに半減を目指すとい う目標を早くも示した40。このように,今回の改正は初めに農獣害被害対策あ

38 環境省HP: 「自然の恵みの価値を計る―生物多様性と生態系サービスの経済的価値の評価

―」 経済的価値の評価事例http://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/valuation/

jirei.html(2014年9月15日閲覧)。

39 自由民主党HP:https://www.jimin.jp/activity/news/113558.html(2014年8月17日閲覧)

40 全国農業新聞 「農政の動き・シカ,イノシシ 10年後は半数に 自民・鳥獣対策議連総会」

(2013年12月20日版)

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りきであり,それも駆除頭数目標まで具体的になされたうえでの法改正である ことに,まずは注目せねばならない。

 第二に,筆者は,拙稿において41,「昨今の鳥獣保護法の進化は,生物多様性 の確保といういわば全体論的な視点が導入されたといえ,人間にとって有益な 種の保全から,有益か無益か,有害か無害かというショートレンジ(短期スパ ン)で実利実益を重んじる発想」ではなくなったと進化の特徴を指摘している ところ,こと今回の法改正においてはかなりの「ショートレンジ」での実利実 益が重んじられていることも特徴的である。言うなれば,とにかく結果を出す ことが重視されているものの,それらを「ショートレンジ」で成し遂げること のインパクトすら検討されていない点が問題といえる。

 第三に,現行法にあった12個の「生態系」という表現が消えたことである。

12個の分析は,①「保護」及び「管理」の定義に「生態系の確保,生活環境 の保全又は農林水産業の健全な発展を図る観点」が加わったために「管理」と いう語に置き換えられた箇所が3件(現行法2条3項,4条2項4号,9条3項2 号),②同理由で「保護又は管理」に置き換えられた箇所が1件(現行法9条1 項),③「生態系の保護(のため必要があると認めるとき)」が「第二種特定鳥 獣管理計画又は特定希少鳥獣管理計画に係る鳥獣の管理」に置き換えられた箇 所が3件(現行法9条3項3号,9条5項,10条1項2号),④「生態系の保護」

が既出の「保護」と意味が重複するとして割愛された箇所が5件(現行法15条 5項2号,15条6項,15条10項,24条9項2号,25条6項2号)である。①②④ は,「保護」及び「管理」を定義したことで表現の重複が現われ,訂正したと ころを除いたものであるため,ここでは③に注目する。さすれば,新法が「生 態系の保護」に置き換えているのは,第二種特定鳥獣と特定希少鳥獣のいずれ も「管理」であることが確認できる。このことからも,「管理」によって生態 系の確保を試みている,いわば「管理」偏重の姿勢がみてとれよう。

41 拙稿(2013) 前掲3) 10頁。

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 以上を要するに,「生物多様性の確保」の後退及び価値付け(重み付け)の 下方修正と,それに呼応するように「管理」の偏重がみてとれる。よって,も はや鳥獣保護のための法とは言えず,自然保護法としてはいくばくかの「退化」

が確認できると考えている。退化と評するさらなる理由として,以下の二点の 懸念を述べておく。第一に,現行法においても著しく個体数が減少した鳥獣に 対する特定計画の策定は可能であるにもかかわらず,一本も作られていなかっ た。とすれば,おそらく新法の下では,より一層,「保護」のための第一種特 定鳥獣保護計画の策定は困難であろうと推測されるからである。第二に,鳥獣 の人間社会における価値づけにおいては,今回は生物多様性の確保という全体 論的な視点の下に,保護管理の三本柱である「生息地管理」「被害防止」「個体 数管理」という施策がその施策の重要さの順に実施されるのではなく,被害防 止のための「個体数管理」のみに重きを置かれているからである。

(4)管理の重視と狩猟(捕獲)の位置づけ

 更にこうした経緯は,政策ベースで補助金が投入されていることにも影響し ている。そもそも鳥獣保護法は農林水産省所管の法律であったところ,環境庁 が設置された後に1971年(昭和46年)に環境庁に移管されている。そのため,

重要な施策を立案しようとも資源(資金,人員や技術等)を配備できなかった 時代が短くはなかったことになる。こうしたところ複数の議連からの要望があ り進められている農獣害対策事業のための補助金支出増といえ,そうした支出 の合理性を事業の公益性の検討から改めて議論すべきではなかろうか。

 本来補助金支出の適法性は地方自治法232条の2の定める「公益上必要」の 有無によって判断されるべきであるところ,今回の農獣害バブルと評される農 獣害被害防止事業への補助金の投入には疑問点も多い。というのも,本来自然 災害に対しては補償はなされないところ,農獣害被害対策事業のための補助金 であるから確かに補償とは性質は異なるものではあるが,農産物を自然由来の 被害から守って農業従事者の財産権を保護するというほぼ類似の目的の元に多 くの補助金が投入されているからである。従来,農林業はそもそもその業に従

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事する人たちが生業を成り立たせるために農獣害対策をしながら進めるべきも のであったこと,獣害対策による利益は私人に帰することから,本事業の公益 性に関しては,より丁寧かつ綿密な検討が必要なのではないかと考えるのであ る。確かに,(そもそも野生鳥獣は民法第252条により無主物であるため,農 獣害への補償という構成はとれないため)農獣害被害への補償という性質のも のでもなく,農業は中山間地や過疎化が危惧される地域の保全にも奏功してい るという性質をもつことからも一定の公益性を発揮する業への補助金であると いえ,さらに有害鳥獣が増えたことは決して農業従事者の責めに帰すべきもの ではないことも理解できる。しかしながら,人災ともいえる特定外来生物導 42による私人の財産権への被害補償や,全国に杉の人工林が植林されたこと 等から生じた多数の花粉症患者の健康被害の治療費等には直接的で適正な補償 措置が取られていないこととの衡量も考えねばならない。

 他方,狩猟43という行為あるいは有害鳥獣を捕獲44するという行為の公益性 についても検討すべき必要がある。狩猟(捕獲)は, 農獣害被害対策というい わば防御を基調とする「守りの事業」よりも,かなり積極的に個体数管理に介 入するという「責めの事業」というべき側面が強いといえるからである。更に,

狩猟は,歴史的には,中山間地域に居住する人たちの「マイナーサブシステン

42 ただし,特定外来生物の導入には,非意図的導入もあることには留意を要する。

43 「狩猟」とは,現行法2条4項により,「法定猟法により,狩猟鳥獣の捕獲等をすること」

をいう。なお,「法定猟法」とは,同胞2条2項により,「銃器(装薬銃及び空気銃(圧縮ガ スを使用するものを含む。以下同じ。)をいう。以下同じ。),網又はわなであって環境省令 で定めるものを使用する猟法その他環境省令で定める猟法をいう」。

44 今般の改正においては,狩猟一般ではなく,特に農獣害を及ぼす有害鳥獣の捕獲が問題と なっていることから,有害鳥獣対策の狩猟に関しては別途「捕獲」という表現をとることと する。

(20)

ス(副次的生業・遊び仕事)45」であるという側面もあり,それは個人の幸福追 求権の一部を担うものであるといえることも重視せねばならない。つまり狩猟 免許という許可制度(危険な行為について禁止をしておいて,それを特定の場 合に解除する仕組み)が採られているように(現行法39条以下),狩猟の自由 というものが前提となっているのである。そのため,そうした制度が,捕獲と いう行為の公益性が増すなかで,いかなる制度であるべきかということが検討 されねばならないのである(この件については後述する)。

 概して,民事の事項であっても,それが民―民の関係のみでは成立しづらい もしくは不当・違法なものとなる可能性が高い場合には,それを回避すべく公 が介入する必要が出てくるといえる。それが生命・健康という消極目的に対す る施策ともなればなおさら放置することは許されないともいえよう。そうした ところ,狩猟者の高齢化及び減少は否めず46,狩猟圧の継続的な確保のために は狩猟者の確保は必要とも考えられるが,それが直接に公が狩猟一般ではなく 捕獲という「責めの事業」の拡大に尽力せねばならないということに結びつく ともいいがたい。そうしたところで必要となるのが,鳥獣からうける「便益(福 利)」を勘案した鳥獣の価値付けであり,そうした鳥獣が存在することで生じ る「害悪」に抗う農獣被害対策や捕獲事業の公営化・補助金助成額増が担保す べき保護法益ないし公益性の検討であろう。他方,中山間地や里山における農 業の保全も高い公益性を有していると思われる。よってその上で,私益すなわ ち農業という「業」で得る財産権の保全という私益と,公益すなわち中山間地 に人が住み農地や林地を保全できるというものとのバランス,及び,居住者が

45 松井健(2005)「生業のなかの労働のおもしろさと農業・農村体験」,佐藤誠・篠原徹・山 崎光博他,高校教科書『グリーンライフ』農文協 によれば,(1)最重要とされている生業 活動の陰にありながら,それでもなお脈々と受け継がれてきている生業,(2)消滅したとこ ろで,たいした経済的影響をおよぼさないにもかかわらず,当事者たちの意外なほどの情熱 によって継承されてきたもの(しかし,経済的意味が少しでもあることが重要),(3)きわ めて身体的な,自然のなかに身体をおき身体を媒介として対象物との出会いを求める行為と 定義されている。

46 環境省自然環境局(2011)「鳥獣の個体数管理に関する実例集」83-88頁等。

(21)

安心・安全に暮らせるという生命被害に関する問題と,農林業従事者が得るべ き収穫という経済的利益に資する問題とのバランスを十分に検討したうえで,

そのために必要な狩猟者ないしは狩猟圧の確保が担う公益性をより精緻に,す なわち科学的にかつ分析的に検討する必要があると考える。

5.法の中への科学の導入

(1)国家の責務

 鳥獣保護法が生物多様性条約を履行するための国内法規の一つとして位置づ けられたのであるが,歴史のある法律であり,マイナーチェンジという形をと らざるを得ないことは前述した。他方,生物多様性条約批准後には,新しい概 念及び科学的知見を盛り込んだ法律が制定されていること(例として外来生物 法)も述べた。

 生物多様性基本法も,後者の一つであることから,この法にも,科学的知見 及びその蓄積の必要が「国」の果たす役割として明記してある。具体的には,

「生物の多様性の状況の把握及び監視などの生物の多様性に関する調査の実 施」「調査に必要な体制の整備」「標本等の資料の収集及び体系的な保存」「情 報の提供」(22条1項),「評価のための適切な指標の開発」等(22条2項),及 び,科学技術の振興のための「野生生物の種の特性の把握」「生態系の機構の 解明等の研究開発の推進及び成果の普及」「試験研究の体制の整備」「研究者の 養成」等(23条)である。

 これらがより早く鳥獣保護法及び鳥獣行政の中に明確に導入され,位置づけ られていくことが進化の一つであるといえ,今後を注視したい。

(2)生態系保全及び生物多様性の確保の手法の選択

 次に,科学(経済的手法や科学的管理手法,分析的技術的手法等)によって 法の中に野生動物保護管理の手法を取り込んできた経過として,鳥獣保護管理 法への改正を検討したい。

 第一に,前節で生態系及び生物多様性というものの価値付け(重み付け)が

(22)

下方修正されたということを指摘した。これはそのまま生態系保全や生物多様 性の確保のための自然科学の知見の導入がうまくなされていないこととも連動 していると思われる。というのも「順応的(生態系)管理手法47」という「自 然の環境変動により当初の計画では想定しなかった事態に陥ることや,歴史的 な変化,地域的な特性や事業者の判断等により環境保全・再生の社会的背景が 変動することをあらかじめ管理システムに組み込み,目標を設定し,計画がそ の目標を達成しているかをモニタリングにより検証しながら,その結果に合わ せて,多様な主体との間の合意形成48に基づいて柔軟に対応していく手段49」が 未だ導入されていないからである。この順応的(生態系)管理手法の導入が審 議会50においても議論されているにもかかわらず51「保護」「管理」という2つ の選択肢しか準備されなかったことは,まずもって生態系の保全及び生物多様 性の確保に対しての自然科学的知見の導入がなされなかったといっても過言で はないといえよう。その為,動的な自然に対しての対応は想定されていないと もいえ,「管理」がなされた結果として何が起こるのか,そのときにどう対処

47 生物多様性国家戦略及び生物多様性基本法の基本原則(3条3項)に明記され,自然再生 推進法(2002年(平成14年)12月11日法律第148号)における自然再生の基本理念でもある。

北米や欧州における管理手法であったが,これらを見てもわかるように,国内においてもか なりの程度は,市民権を得てきていると考えられる。

48 ここで「合意形成」とは,「合意」 すなわち意を合わせることであり,それを形成するた めに段階を踏むことであると考えている。例として,コンセンサス会議の段階的意見形成モ デルが参考になる。科学技術庁科学技術政策研究所木場隆夫(2000)「コンセンサス会議に おける市民の意見に関する考察」 及び,小林傳司(1997)「拡大されたピアレビューの可能 性――『コンセンサス会議』の事例」『STS NETWORK JAPAN YEARBOOK』5-17 頁を 参考にした。

49 国土交通省港湾課(2007)『順応的管理による海辺の自然再生』「順応的管理の考え方」。

50 中央環境審議会 自然環境部会 鳥獣の保護及び管理のあり方検討小委員会。

51 併せて,審議会のあり方,すなわち構成員選定のあり方やその役割を果たすにふさわしい 手続きが公正かつ合理的なものとして確立されているかという点が問われてくる。まずもっ ては私的諮問機関のような位置づけになりがちな環境NGO等の席を確保し,意見交換及び 情報共有,更には合議体としての意見集約まで参加できるようにすることが求められよう。

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するのかということが予見できない。いたって「予防的措置52」「予見可能性」

「おそれの蓋然性」等を無視したものと評価できよう。

 また現行の管理手法である特定計画制度についてであるが,「生息地管理」

「被害防止」「個体数管理」という保護管理の三本柱がしっかりと運用され てこそ成立するものといえるが,結果は,筆者の大まかな感触では生息地管 :10%,被害防止:60%,個体数管理:30%程度と捉えている。すなわち,

圧倒的に被害防止に補助金も政策も注力してきたのである。それを今回の改正 においては,「管理(第二種特定鳥獣管理計画及び特定希少鳥獣管理計画)」の 新たな導入により全体のエフォートを増した上で,その中身を個体数管理を 70%,被害防止を30%程度にしようとするようなものと捉えている。最も求め られるべき「生息地管理」がなおざりになっているのである。

 そもそも環境省は,種を指定してその種の保全(「保護」ないしは「管理」)

という施策をとってきている。鳥獣保護区等の規定はあるが,集水域や生態系 等の「系」単位で保全区とするツールも予算も持っていないことが根本的な欠 陥といえる。グリーンイノベーション分野の進展も著しい。2010年名古屋の COP10で採択された「愛知ターゲット」には,生態系の保護区を世界の陸地 の17%,海洋の10%を保護地域にするという具体的な数値目標が盛り込まれ た。また,日本が提唱する「Satoyama イニシアティブ」(日本の伝統的な里 山に見られるような,農地,森林などの持続可能な管理による生物多様性の保 全・利用を世界的に推進する)が採択された。そのため,日本でも,欧州で推 進されている「自然保護区ネットワーク「ナチュラ2000」」のような仕組みの 導入も検討されるべきであろう。

 こうしたところ新法で着眼すべきは,特定計画制度(新法7条,7条の2)が,

鳥獣保護管理事業計画制度(新法4条)の後に位置し,「鳥獣保護管理事業計 画に適合したものでなければならない」(新法7条4項,7条の2第3項)と規 52 1992年の環境と開発に関する国際連合会議(UNCED)リオデジャネイロ宣言の第15原

則にまとめられ,その後国内外の環境条約や法規の中に導入されている。

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