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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

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Academic year: 2021

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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

論文提出者氏名 前嵩西 一馬

論 文 題 目 「ネイティブの語り」に関する民族誌的実践と分析

-現代沖縄における表象の不安とパフォーマンスの文化戦略-

審査要旨

本論文は、前嵩西氏が、長年積み上げて来た研究の集大成と言える。前嵩西氏は、論文の完成までに国 内、国外の多くの人類学者に師事してきた。それぞれの人類学者の考えと助言を取り入れながら、この論文を まとめた。論文執筆の動機は、文化に内在する固有の経験を記述しうる民族誌を書くことをめぐる考察とその実 践であった。1980 年代以来の文化人類学界における、文化本質主義批判を踏まえ、その落とし穴に陥ることな く、人々の動態(文化)を記述することへの意欲的な試みがこの論文でなされている。

前嵩西氏の研究は現代沖縄の文化、政治状況に関する民族誌を書くことである。前嵩西氏自身沖縄出身者 であり、自らのネイティブとしての感情を交えた民族誌を書くため、コロンビア大学大学院時代の指導教授から の助言に基づき、あえて「私小説的手法」によって、この論文を書いている。

論文の特徴は、大きく二つある。第一に、生活空間からテクストの中まで、文化が文化として成立する条件を 問い直すことで、ともすれば見逃され、語られなかったトピックを詳細に叙述することで、沖縄における文化理 解を深めようとしていることである。それによって、前嵩西氏は基地問題に揺れる沖縄社会をどのように語ること ができるかという問いに一つの答えをあたえ、現在進行形の文化現象を記述する際の新たな視点を提供しよう としている。第二に、記述の方法の模索の点に特徴がある。前嵩西氏は、沖縄のネイティブとして、じかに現代 沖縄社会の危機的状況が現れる場を経験してきた。それを踏まえて、メディアや研究を通して流布する「沖縄」

と、前嵩西氏自身の個人的な親密な生活圏における「沖縄」のリアリティとの齟齬を理解する方策として、前嵩 西氏自身が自己の生活空間を反省的に見つめて叙述する実験的な試みを行っている。

論文は、序論と結論を除いて、全 8 章から構成されている。序論で、問題提起と論文執筆の動機について述 べた後、第 1 章で、論文の理論的主題である、文化を語ることの多義性について考察している。第 2 章では、

前嵩西氏自身の立場である、ネイティブ・アンソロポロジスト(自文化を研究する人類学者)としての参与観察者 の立ち位置を、ポストモダンやポストコロニアル・スタディーズ、カルチュラル・スタディズと呼ばれる領域を横断 する形で再編し、新たな文化を語る試みについて論述している。第 3 章では、沖縄表象の問題を、サブカルチ ャー化された笑いの場を例にしながら、沖縄と日本という二項対立を止揚する方向で、主体的に訛るという文 化戦術について解説している。第 4 章では、文化研究者たちの共同体という視点から、沖縄について論じてい る。ここで研究者たちが、反日性や日本全体などという概念に必要以上に気を取られている特殊な様子につい て述べている。第 5 章では、前嵩西氏が教えている大学での学生とのディスカッションの経験から、沖縄を遠く の共同体として眺める日本語環境に身を置く他者に対して、どのような語りが求められているのかについて具 体的な実例を挙げて論じている。第 6 章では、沖縄の内部で通用する会話を分析することにより、積極的な沖 縄人というアイデンティティの主張というより、日本人ではない、また日本人になりきれないという否定的考えか らくる沖縄の人々の自己認識について語っている。 第 7 章は、同じく沖縄の人々の笑いについて分析し、笑 いの中に含まれる隠喩、錯綜した考えを明らかにしている。第 8 章で沖縄人による事件をとりあげ、筆者自身 が、もう一度所与の環境や条件を学び直すことで文化の語りを再考する試みをしている。最後に結論では、こう した様々な実験的な方法も踏まえた、ネイティブ(沖縄の人)が自身の沖縄文化について語る際用いる日本語 の意味との齟齬について注意を払いながら、現代沖縄の文化の表象は異質なものとの出会い、すなわち日本 人との出会い、日本の政治、文化との経験が反映していることを改めて述べて締めくくっている。

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氏名 前嵩西 一馬

審査委員会では、総じて本論文が長い年月をかけてよく考察された労作であるという点で高い評価を下し た。特にネイティブが自身の文化をどのように語るのかという点で、多くの試行錯誤のあとが見られること、また 筆者が人類学者であるがゆえのジレンマ:一度論文として沖縄文化について語ると、それが独り歩きして、本質 論になりかねないということへの悩みも考慮して論文が書かれている点など、文化人類学的研究の新しい方向 性を示すものとして評価された。

こうした点で高い評価はあったが、以下のような問題点も指摘された。

1. 沖縄の文化を語る問題で、論文では悩み、問題解決へのチャレンジが見られるが、そのうち解けたもの、

解けなかったものの整理は必要ではなかったか。

2. 章の分別の意味がはっきりしない。

3. 本質主義を批判しながら、論文の出だしからネイティブという言葉を使っているが、そもそも論文で言うネイ ティブとはだれのことか、またネイティブ間の多様性について説明する必要があったのではないか。

4. 論文中の写真・図版資料について、出典情報を付す必要があるのではないか。

これに対して、前嵩西氏からの回答は以下の通りであった。

1. 沖縄の近現代文化の重層性は、事象ばかりでなく、それを調べる方法論でも見られる。その中で、解答を 見つけるとすると、沖縄人であることを過剰に求めるがゆえに、保守的になってしまうジレンマがあることが 分かってきた点であり、また沖縄の人々の考え方、感じ方は外からの刺激が与えられてきた影響ではない かという点が明らかになってきたことであるが、その点を日本語で書けば書くほど、沖縄のリアリティを示す ことから遠ざかってしまう点がまだ解決されていない。

2. 沖縄の現状を伝える意味で、様々な角度からの事象の描写と、分析を必要とした。単なるフィールドのイン フォーマントとフィールドワーカーの関係だけで描写するのではなく、自分自身が依って立つ空間の位置 からみた沖縄、学問の世界で語られる沖縄も含めて章に分けて多彩な描写を試みた。

3. ネイティブという言葉の持つ本質的性格を十分認識しているが、あえてネイティブという言葉を使った。この 言葉を使うことで、政治と文化の関係が示せると考えた。政治的文脈で沖縄文化を見た時、そこで政治と 文化の葛藤をみることができる。沖縄の多様性を言うと、政治的立ち位置を弱めることなり、日本寄りと見ら れてしまう危険性がある。これが沖縄の保守性と繋がっている。

4. 写真、図版の撮り手書き手も含めて文章に書きこんでゆく必要がある。

本論文は、沖縄が日本に返還された後も状況が大して変化せず、植民地的状況が続く中で、沖縄の人々が 最初日本人と同化することで解決できると期待し、そうした状況からの脱却を目指して来たものの、その期待か らはずれ、外の政治的状況に翻弄されてきた現状を、沖縄の内部から描写し、分析した意欲的なものであり、

外部の人々が書いた沖縄論と全く違った新しい見解を提示している。審査委員一同、沖縄人である前嵩西氏 が苦悩しながら、どのように沖縄の現状を描写しようとしてきたかを論文から読み取っており、そのことを含め て、論文を高く評価した。審査委員会では全員一致して、本論文は博士(文学)の学位にふさわしいものと判断 した。

公開審査会開催日 2014 年 4 月 26 日

審査委員資格 所属機関名称・資格 博士学位名称 専門分野 氏 名

主任審査委員 早稲田大学文学学術院・教授 Ph.D. (ミシガン大学) 文化人類学 西村 正雄

審査委員 早稲田大学文学学術院・教授 考古学 高橋 龍三郎

審査委員 早稲田大学文学学術院・教授 博士(文学)京都大学 日本史、民俗学 鶴見 太郎 審査委員 早稲田大学国際学術院・教授 博士(文学)早稲田大学 政治経済史 勝方 恵子 審査委員

参照

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