博 士 ( 工 学 ) 横 山 光 伯
学 位 論 文 題 名
ジ ル コ ニ ア 系 , ハ フ ニ ア 系 お よ び チ タ ニ ア 系 酸 化 物の 結 晶 成 長 法 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
ジルコニア,ハフニアおよびチタニアは,いずれも高融点を有する酸化物であり無機材料の主 要な構成酸化物である。これらの酸化物は,他の金属酸化物と固溶体または複酸化物を形成する ことにより,イオン導電体,誘導体などとしての機能を発現することができる。最近は希土類酸 化物との複酸化物において,希土類の種類による特性の変化に関心が持たれている。それらの特 性の評価のために単結晶が必要とされるが,このような結晶の育成では,熱歪がなく組成的にも 均質な結晶が得られるフラックス法が優れている。しかしながら,例えば酸素イオン導電体であ る希土類酸化物を固溶した安定化ジルコニアやハフニア結晶のフラッスク成長に関する研究は,
これまでに行われていなかった。また,希土類チタネートのうち,誘導体として関心が持たれて い る ペ ロ ブ ス カ イ ト 型R2ノ ョTi0ヨ の 単 結 晶 は こ れ ま で に 合 成 さ れ て いな か った 。 本研究では,まず,これらの固溶体または複酸化物の結晶をフラックス法で育成することを試 みた。安定化ジルコニア結晶を育成するために多種にわたるフラックスを用いて検討した結果,
KF・NaヨB。0,系フラックスを用いた蒸発法により目的の結晶相を成長させることが可能である ことを見出した。っぎに,この系のフラックスを用いて出発組成,反応温度等を検討することに より,種々の安定化ハフニアおよび希土類チタネート結晶の育成条件を明らかにした。チタニア 系にっいてはアルカりとの複酸化物結晶にっいても研究した。これらのフラックス蒸発法による 結晶成長の研究過程において,フッ化物系の融液からは結晶原料のフッ化物が蒸発することが認 められた。このフッ化物の蒸発に着目し,フッ化物系融液の上方において気相反応により複酸化 物単結晶を析出させ,その結晶成長法にっいて研究した。この方法によルジルコニア系およびチ タニア系結晶を成長させた。すなわち本研究は融液の組成を調整することにより,融液中および 融液上方の気相からの結晶成長を試みたものである。
本論文は8章より成り,以下に各章の要約を述べる。
第1章では,まず,ジルコニア系,ハフニア系およびチタニア系酸化物の特徴および用途につ
い て 概 説 し , っ ぎ に , 本 研 究 に お い て 検 討 し た 結 晶 育 成 方 法 の 特 色 に っ い て 述 べ た 。 第2章 で は ,安 定 化 ジ ル コニ ア お よ び 安定 化 ハ フ ニア 結晶の ,おも にKF―NaZB40ア系 フラッ クスを 用い た蒸発 法によ る成長 にっ いて述 べた。 これら の高融 点を 持つ固 溶体単結晶を,融点よ りも極 めて 低い約1000℃に おいて 成長さ せるこ とが できた 。種々 の希土 類酸 化物を用いて系統的 に 実験 を 行った 結果,2r02−RユOヨ系 では希 土類の イオン 半径 がSrri3゛以下 の場 合,す なわち 2r02ーSm:0ヨ ,‑Gdユ0ヨ,―Dy:Oヨ ―YbエOヨお よび‑YよOヨ 系で ホタル 石型方立晶安定化ジ ル コニ ア 固溶体 単結晶 が成 長した 。また ,Hf02―Rっ0ヨ系 にお いては ,Gd3゛以下 の希土 類で 安 定化ハ フニ ア結晶 が成長 した。 立方 晶固溶 体単結 晶の格 子定数 の測 定値か ら,希土類酸化物の固 溶 量 は 結 晶 原 料 の 組 成 に 依 存せ ず 一 定 で ,ジ ル コ ニ ア で は約18mole% , ハ フニ ア で は 約20 mole%で あるこ とを 見出し た。
第3章 では, フッ化 物融液 を用 いて, イット リア安 定化 ジルコ ニア結 晶を気 相から 成長 させる 方 法に っ い て 述 べた 。NaエZrF。 融 液 からZrF4が 蒸 発種 とし て発生 し,こ れが空 気中の 水分 に より加 水分 解して ジルコ ニア結 晶が 析出す ること を見出 した。 結晶 成長に 好ましくない高温にお け る 速 いZrF4の 蒸 発 速 度 は , 原 料 にZr0エ 粉 末 を 加 え る こ と に よ り 抑 制 し た 。 第4章 で は, 誘 電 的 性 質 にお い て 関 心 のも た れ る 希 土類 チ タ ネ ー ト結 晶 のKF−Na2840ワ 系 フ ラッ ク ス を 用 いた 蒸 発 法 によ る成 長にっ いて述 べた。 原料酸 化物 の組成 比(R20ヨ /TiOa) を 変 えた 場 合 に お いて も , 一 定 組 成の 希 土 類 チ タネ ー ト が 成 長し た が , 成 長結晶 の組成 より も Ti0: 過 剰の原 料を用 いたと きに 結晶は 大きく 成長し た。 生成結 晶相は ,用い た希土 類酸 化物の 種 類, す なわち ,希土 類の イオン 半径に 依存し て異な った 。希土 類酸化 物がLaエOヨ ,Nd20ヨ , Smユ0ヨ,Gd20ヨの場 合に はぺロ ブスカイト型Rユノ。Ti0ヨ結晶が,DyユOユ,Erユ0ユ,Yb:Oユの 場 合は パ イロク ロア型RユTiエ07結 晶が成 長した 。と くに, ぺ口ブ スカイ ト型 希土類 チタニ ネー ト単結 晶は これま でに結 晶とし ては 得られ ていな かった もので あり ,本研 究において初めて成長 させる こと ができ た。こ れらの 生成 結晶に っいて 誘電率 の温度 およ び周波 数依存性を測定した。
その結 果, 固相反 応によ り合成 され た粉体 試料よ りも誘 電率の 温度 依存性 が小さいなど応用面で 興味あ る特 性が見 出され た。
第5章 で は ,人 工 鉱 物 繊 維と して知 られ る六チ タン酸 カリウ ム(KユTi60,ヨ )の ホウ酸 塩系フ ラック スお よびモ リプデ ン酸塩 系フ ラック スから の成長 にっい て述 べた。 ホウ酸塩系フラックス を 用い た 場 合 に は,K20―B203系 にNaよ0を 加え る こ と に より 長 繊 維 が 育成 でき ること を示し た 。 ま た , モ リ ブ デ ン 酸 塩 系フ ラ ッ ク ス にっ い て は ,K2M004に 少 量 のLi20の 添 加 する こ と により ,KよTi00,ヨが 飛躍的 に長繊 維化 するこ とを見 出した 。
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第6章では,フッ化物融液を用いてルチル針状晶を気相から成長させる方法にっいて述べた。
原料にNa2TiF6を用いて空気中で加熱することより,原料融液の上方に発生する気相種の加水 分解が起こり,極めて容易に数cmのルチル針状晶が得られた。結晶成長速度は大きく,最大で0. 5mm/minであった。さらに,粉末 のTi02をNaユTiF。に加える ことにより,チタン酸ナトリ ウムの生成を抑えることが可能であることを見出し,これにより結晶の形態が改善され,また,
針状晶の合成条件の範囲を広めることができた。
第7章では,フッ化物融液を用いてチタン酸力・リウム繊維状晶を気相から成長させる方法につ いて 述べた。K2TiFeおよびKF・Ti02系混合融液から発生するフッ化物蒸気と空気中の水分と を反応させることにより,従来行われていなかった気相からのチタン酸カリウム繊維状晶の成長 が可 能であることを見出した。K2TiF6融液上方には,1.3mm/min以上の成長速度で最長20mm のK2Ti00,ヨ繊 維 状晶 が成 長した。一方,KF ‑ Ti02混合融液の場合には,KF(液 相)と Ti02(固相)の反応により,KよTiF6融液の場合よりも緩やかにチタンフッ化物蒸気が発生す るため,より細くしなやかな繊維状晶が得られた。また,原料組成を調整することにより,カリ ウム分の多いKエTi40g繊維も成長させることができた。
第8章は本論文の総括そある。本研究の成果にっいて要約した。
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 小 平 紘 平 副 査 教 授 稲 垣 道 夫 副査 教授 古市隆三郎
高融点を有する金属酸化物は、他の金属酸化物と固溶体,複酸化物などを形成し材料として多 くの機能を発現する。それらの特性評価には単結晶が必要とされているが,熱歪がなく組成的に も均質な結晶育成に関する研究はこれまでに行われていなかった。
本論文は,高融点を有するジルコニア,ハフニア及びチタニア系固溶体または複酸化物単結晶 の成長法を確立し、それらの結晶にっいて結晶学的に考察した結果をまとめたものである。本論 文は全8章から成り立っている。
第1章はジルコニア,ハフニアおよびチタニア系酸化物の特徴および用途にっいて概説すると
とも に単結 晶の必 要性 を論じ ,本研 究にお いて検 討し た結晶 育成法 の特色 にっいて述べている。
第2章 で は 安 定 化 ジ ル コ ニ ア お よ び 安 定 化 ハ フ ニ ア 単 結 晶 にっ い て , お も にKF‑Na28407 系フ ラック スを用 いた 蒸発法 による 成長に っいて 述べ ている 。これ らの高 融点を持つ固溶体単結 晶はZr0: ・Sm:O。 ―Gd:0ヨ ―DY20ヨ,―Ybエ0よおよ び―Y:Oヨ系 でホタル石型立方晶安 定化 ジルコ ニア固 溶体 単結晶 が成長 してい る。ま た,Hf0よ‑R:Oヨ系に おいて も,安定化ハフニ ア結 晶が成 長して いる 。これ らの固 溶体単 結晶中 への 希土類 酸化物 の固溶 量はジルコニアでは約 18mole% 及びハ フニア では 約20mole% である と結論 してい る。
第3章で は,フ ッ化物 融液 を用い て,イ ットリ ア安定 化ジ ルコニ ア結晶 が気相 から 成長さ せる 方 法 を述 べ て い る 。す な わ ちNa:ZrF。 を融液 からZrF。を 蒸気 種とし て発生 させ, これ を空気 中 の 水 分 で 加 水 分 解 す る と , ジ ル コ ニ ア 単 結 晶 が 得 ら れ る こ と を 見 い だ し て い る 。 第4章で は,誘 導的性 質に おいて 関心が 持たれ てい る希土類タチタネー卜単結晶を得るために,
KFーNaユBユ0ワ 系フラ ック スを用 いた蒸 発法に よる成 長に っいて 述べて いる。 生成結晶相は,希 土類 酸化物 がLa:Oヨ,Nd:0ヨ,Sm:Oユおよ びGdユ02の場合にはぺロブスカイト型R:ノュTi0ユ 結晶 が,Dy:0ヨ ,Er:OヨおよびYb:0ヨの場合はパイ口クロア型RオTi:Oワ結晶が成長している。
とく に,ぺ 口ブス カイ ト型希 土類チ タネー ト単結 晶は これま でに結 晶とし ては得られていないも ので あり, 本研究 にお いて初 めて成 長した ことを 述べ ている 。これ らの結 晶は,固相反応によっ て合 成され た粉末 試料 よりも 誘電率 の温度 依存性 は小 さく, 応用面 などで 興味ある特性があるこ とを 論じて いる。
第5章で は,人 工鉱物 繊維 として 知られ ている 六チ タン酸 カリウ ム(K2Ti60,ヨ)がK20−Bユ0ユ 系 にNaよ0を 加 える こ と に よ って , 長 繊 維 とし て 成 長 し ,ま たKよM00。 に少 量のLi:Oを 添加
す る と 飛 躍 的 に 長 繊 維 化 す る こ と を 述 べ て い る 。 第6章で は,フ ッ化物 融液を 用い てルチ ル針状 晶を気 相か ら成長 させる 方法に っいて 述べ てい る。 原料のNa:TiF。を 空気中 で加熱 すると ,原料 融液 上に発 生した 気相種 は加 水分解 し,容 易 に数 センチ メート ルのル チル 針状晶 になる ことを 明らか にし ている 。さら に,粉 末のTi0。 を加 えると ,チタ ン酸ナ トリ ウムの 生成を 抑え結 晶が 大きく なると ともに ,その合成条件の範囲が広 げられ ること を論じ てい る。
第7章で は,フ ッ化物 融液を 用い てチタ ン酸カ リウム 繊維 状晶を 気相か ら成長 させる 方法 を述 べて いる。KよTiF。 およびKF・Ti0よ系 混合融 液から 発生す るフ ッ化物 蒸気と 空気中 の水分 が反 応し , 気 相 か らチ タ ン 酸 カ リ ウム 繊 維 の 成 長が 可 能 で あ るこ と を 見 だして いる。 また,KF− Ti0: 系 混 合融 液 の 場 合に は,KF(液相 )とTi0:( 固相) の反 応によ り穏や かにチ タンフ ッ化
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物蒸気が発生するため,K2TiF6融液の場合より細かく弾力性のある繊維状晶が得られている。
さらに,原料組成を調整すると,カリウム分の多いKユTiイ09繊維も成長することを述べている。
第9章は,本論文の結論であり,高融点酸化物の単結晶の成長法に新しい知見を与えるととも に,この方法は広範囲に適用可能であることを論じている。
これを要するに,著者は,高融点酸化物単結晶の成長法を確立し,金属酸化物固溶体および複 酸化物の結晶成長に寄与するところ大である。よって,著者は,博士(工学)の学位を授与され る資格あるものと認める。