博 士 ( 歯 学 ) 松 沢 祐 介
学 位 論 文 題 名
口腔扁平上皮がん予後因子の検討
ー EIAF. MTl‑MMP・ VEGFの 発 現 と 転 移 と の 関 連 ―
Expression of EIAF, MTl‑MMP and VEGF as predictive factors for the metastasis of oral squamous cell carcinomas.
学位論文内容の要旨
が ん の 浸 潤 ・ 転 移 に は , 原 発 巣 で 増 殖 し た が ん 細 胞 の 原 発 巣 か ら の 遊 離 , 周 囲 組 織 間 の 移 動 , 基 底 膜 等 の 分 解 と 脈 管 内 へ の 侵 入 , な ら び に 原 発 巣 と 離 れ た 部 分 で の 再 増 殖 な ど 様 々 な 要 因 が 関 与 し て い る ,
今 回 著 者 は , が ん の 浸 潤 ・ 転 移 能 を 術 前 に 把 握 す る こ と が 可 能 か 否 か を 明 ら か に す る た め に , 細 胞 外 基 質 分 解 酵 素 マ ト リ ッ ク ス メ タ ロ プ ロ テ ア ― ゼ ( 以 下 MMP) の 発 現 を 誘 導 す るetsが ん 遺 伝 子 群 転 写 因 子EIAFと , が ん 細 胞 が 産 生 し 周 囲 基 質 の 分 解 を 促 進 す る 膜 型 マ ト リ ッ ク ス メ タ ロ プ ロ テ ア ー ゼ1( 以 下 MT1―MMP) , お よ び 脈 管 新 生 能 カ と の 関 連 が 報 告 さ れ 種 々 の が ん で 腫 瘍 の 増 大 や 予 後 と の 関 連 が 示 唆 さ れ て い るVascular Endothelial GrowthFactor( 以 下 VEGF) の 発 現 を 検 索 し , 転 移 と の 関 連 に つ い て 検 討 し た . E1AFはe亡Sが ん 遺 伝 子 群 転 写 因 子 で , 口 腔 扁 平 上 皮 が ん の 浸 潤 能 に 関 与 し て い る 可 能 性 が あ る こ と が 報 告 さ れ て い る .
MT1―MMPはE1AFに よ り そ の 転 写 が 亢 進 す る こ と が 報 告 さ れ て い る . ま た , MMP―2( ゼ ラ チ ナ ― ゼA) は 口 腔 を 含 む 様 々 な ヒ ト 扁 平 上 皮 が ん で そ の 発 現 が 亢 進 し て お り , が ん の 浸 潤 ・ 転 移 に 深 く 関 与 し て い る と さ れ て い る が,MT1−MMP は , 生 体 内 で 通 常 不 活 性 な 潜 在 型 酵 素 と し て 存 在 し て い るMMP−2を 活 性 化 す る こ と が 知 ら れ て い る .
VEGFは 血 管 内 皮 細 胞 に 特 異 的 に 作 用 し 内 皮 細 胞 の 増 殖 を 促 進 す る 血 管 新 生 増 殖 因 子 で , 様 々 な が ん で 血 管 密 度 とVEGFの 発 現 強 度 お よ び 転 移 と の 間 に 相 関 が 認 め ら れ ,VEGFの 発 現 は 予 後 因 子 と な り 得 る こ と が 示 唆 さ れ て い る . 対 象 症 例 は ,1992年 か ら1998年 ま で の 間 に 北 海 道 大 学 歯 学 部 附 属 病 院 口 腔
外科で治療を行った口腔がん症例のうち,病理組織学的に扁平上皮がんと診断 され,初診時の原発巣の大きさがT1 および
T2で術前放射線療法ないし化学療 法が行われ ていなかっ た
32例とした ,性別は男 性
18例,女性
14例で,初診 時年齢は
28歳 から
81歳(平 均
64.1歳)であ った.腫瘍の臨床病期的分類は
1987年 の
UICC分 類 に , 腫 瘍 の 組 織 学的 分 化度 は
WHO分 類に 従 った .
TNM分類 の 内訳は
TINOが
6例,
T2NOが
19例,
T2Nlが5 例,
T2N2bが
1例,
T2N2bM1が
1例 であった.
NO症例
25例中
11例にりンパ節後発転移が認められたため,
全経過中で は
18例
(56.3%)がりンパ節転移例であった,組織学的分化度は
Grade|が
15例 ,Grade II が
17例であっ た.原発部位は舌
20例,下顎歯肉5 例 , 上 顎
3例 , ロ 底 , 下 唇 , 頬 粘 膜 , 中 咽 頭 が 各
1例 で あ っ た .
EIAFと
MT1―
MMPの検 索 は
RT−
PCRで行 っ た. 構 造タ ン バク を コ ード し ているロ
‑actinの増幅を行いRNA が保存されているのを確認した後に,oligo
(dT)プライマ−(GibcoBRL U.S.A.) とSuperscript II (GibcoBRL U.S.A.) 逆転写 酵素 に より
cDNAを 合成 し ,
EIAFと
MT1一
MMPに 対す る
RT−
PCRを 行っ た .
EIAFの セ ン ス プ ラ イ マ ― は
5| ―
TCAGGTACCAGACAGTGATGAGCAGTTT GT−31(n.n.1 40 一169) ,ア ンチセンス プライマ―は
51―AAGGGCTGTAGGGGC
GACTG―
3 (n.n.378―397) を用いた,
MT1−MMP のセンスプライマーは5 ―
AAGCTGATGCAGACACCCATGAAGG−
3|(n.n.347 −
370),ア ン チ セン ス プラ イマ ― は
5t―
TTATCAGGAACAGAAGGCCG一
3.
(n.n.1 015−
1034)を用いた.
VEGF
の発現は免疫染色で検索した.手術時に得られたパラフィン包埋標本か ら
4umの薄 切 標本 を 作成 し ,抗
VEGFマ ウス モ ノク ロ ―ナ ル 抗体 と 抗CD34 マウスモノクローナル抗体を用いた免疫染色を行い、腫瘍細胞の
VEGFの発現 と血管新生との関連を検索した。判定は
Kayaらの報告に準じ,薄切々片中腫 瘍 細 胞 の
30% 以 上 が 染 色 さ れ る 症 例 を
VEGF発 現 症 例 と し た .
全 症 例 中
EIAF陽 性 症 例 は
11例
(34.4% ) で あ っ た ,
MT1―
MMPは
5例
(
15.6%)が陽性で,その全例がEIAF 陽性であった.VEGF は
11例(34.4 %)
が陽性であ った.
VEGF陽性 例のCD34 免疫染 色像では,腫瘍細胞間に認めら れ る 血 管 は 微 細 で 数 も 多 く 活 発 な 血 管 新 生 を 示 し て い た .
リ ン パ 節 転 移 と
EIAFお よ び
VEGFの 発 現と の 関連 で は ,
EIAF陽 性例
11例の う ち
7例
(63.6% ) にり ン パ節 転 移 を認め,
EIAF陰性 症例
21例中
11例
一 741ー
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
口腔扁平上皮がん予後因子の検討
‑ EIAF. MTl‑MMP・ VEGFの 発 現 と 転 移 と の 関 連 ―
Expression of EIAF, MTl‑MMP and VEGF as predictive factors for the metastasis of oral squamous cell carcinomas.
審 査 は 、 審 査 員 全 員 出 席 の 下fこ 、 申 請 者 に 対 し て 提 出 論 文 と そ れ に 関連 した 学科 目に つ い て 口 頭 試 問 に よ り 行 わ れ た . 審 査 論 文 の 概 要 は 、 以 下 の 通 り で あ る .
本 研 究 は 、 が ん の 浸 潤 ・ 転 移 能 を 術 前 に 把 握 す る こ と が 可 能 か 否 か を 明 ら か に す る 目 的 で 、 細 胞 外 基 質 分 解 酵 素 マ ト リ ッ ク ス メ 夕 □ プ □ テ ア ー ゼ ( 以 下MMP) の 発 現 を 誘 導 す るetsが ん 遺 伝 子 群 転 写 因 子EIAFと 、 が ん 細 胞 が 産 生 し 周 囲 基 質 の 分 解 を 促 進 す る 膜 型 マ ト リ ッ ク ス メ 夕 □ プ □ テ ア ― ゼ1( 以 下MTl‑MMP) 、 お よ び 脈 管 新 生 能 カ と の 関 連 が 報 告 さ れ 種 々 の が ん で 腫 瘍 の 増 大 や 予 後 と の 関 連 が 示 唆 さ れ て い る Vascular Endothelia|Growth Factor( 以 下VEGF)の 発 現 を 検 索 し 、 転 移 と の 関 連 に つ い て 検 討 し た も の で あ る .
対 象 症 例 は 、 外 科 単 独 治 療 を 行 っ た 口 腔 扁 平 上 皮 癌Ti.T2症 例32例 で 、 男 性18例 、 女 性14例 、 初 診 時 年 齢 は28歳 か ら81歳 ( 平 均64.1歳 ) で あ る ,NO症 例25例 中11例 に り ン パ 節 後 発 転 移 が 認 め ら れ 、 全 経 過 中 で は18例 (56.3% ) が り ン パ 節 転 移 症 例 で あ る , 組 織 学 的 分 化 度 はGradeIが15例 、GradelIが17例 で あ る , 原 発 部 位 は 舌20例 、 下 顎 歯 肉 5例 、 上 顎 3例 、 ロ 底 、 下 唇 、 頬 粘 膜 、 中 咽 頭 が 各 1例 で あ る . EIAFとMTl‑MMPの 検 索 は 、RT‑PCR法 に よ り 行 っ た . 組 織 よ りRNAを 抽 出 し 逆 転 写 酵 素 に よ りcDNAを 合 成 し た の ち 、 こ れ を 鋳 型 と し てEIAFとMTl‑MMPに 対 す る 特 異 的 プ ラ イ マ ― を 用 い たPCRに よ り 増 幅 産 物 の 有 無 を 検 索 し た .
VEGFの 発 現 は 免 疫 染 色 で 検 索 し た . 手 術 時 に 得 ら れ た バ ラ フ ィ ン 包 埋 標 本 か ら4弘m の 薄 切 標 本 を 作 成 し 、 抗VEGFマ ウ ス モ ノ ク □ ― ナ ル 抗 体 と 抗CD34マ ウ ス モ ノ ク □ ― ナ ル 抗 体 を 用 い て 免 疫 染 色 を 行 い 、 腫 瘍 細 胞 のVEGFの 発 現 と 血 管 新 生 と の 関 連 を 検 索 し た .
則
男
博
靖 隆
塚
後
田
戸
向
福
授
授
授
教
教
教
査
査
査
主
副
副
全
32症例 中 、
EIAF陽 性症 例 は
11例 (34.4 % ) であった ,
MTl‑MMP陽性 症例は
5例
(15.6 %)で、いずれもEIAF 陽性症例であった,VEGF は11 例(34.4 %)が陽性であっ た,
VEGF陽性例のCD34 免疫染色像では、腫瘍細胞間に認められる血管は微細で数も多
〈活発な血管新生を示していた,
リンパ 節転移とEIAF およびVEGF の発現との関連では、
EIAF陽性症例に転移の多い傾 向がみられたが、
EIAFの発現とりンパ節転移との間に統計学的有意差は認められなかっ た,― 方、
VEGF陽性例11 例 では
10例(
90.9% )、
VEGF陰性症例
21例中
8例
(38.1%)
にりンパ節転移を認め、
VEGFの発現とりンパ節転移との間に、
X2検定で危険率
5%以下 の統計学的有意差が認められた,EIAF とVEGF が共に陽性であった
5例では全例にりンパ 節転移を認め、いずれか一方が陽性であった17 例では12 例(
70.6%)にりンパ節転移を 認めた ,これに対して、
EIAFとVEGF が共に陰性であった15 症例ではりンパ節転移を認 めたものは
6例(40.0 %)に過ぎなかった.病理組織学的分化度とEIAF およびVEGF の発 現と間には統計学的有意差は認められなかった,
以上の 検索結果か ら、
EIAFの発現お よびこれに伴う
MTl‑MMPによる細胞外基質の分 解と、腫瘍細胞が産生する血管増殖因子による新生血管の増加が、口腔扁平上皮がんの悪 性度の指標の―つである腫瘍の転移に関して重要な役割を演じていることが示唆され、
EIAF
、MTl‑MMP 、
VEGFの術前の検 索が患者の予後を決定する因子のーっとなりうるも のと考えられた,