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抜歯後に鼻腔内浸潤した上顎扁平上皮癌に対して

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麻布大学雑誌 第17・18巻 2008年

第83回麻布獣医学会 一般演題4

抜歯後に鼻腔内浸潤した上顎扁平上皮癌に対して

     放射線・化学療法を行った犬の1例

野田 正志,信田 卓男,圓尾 拓也,伊藤 哲郎,川村 裕子,高平 篤志 麻布大学附属動物病院腫瘍科

[はじめに]

 口腔内扁平上皮癌は麻布大学附属動物病院腫瘍科 で診察した犬5819例中 106例を占め,平均9.6歳の 犬において認められ,多くは歯列異常と潰瘍を伴う。

遠隔転移で死亡するよりも,局所の増大によるQOL の低下を原因として最終的に死に至ることが多い。

 今回ホームドクターでの抜歯後に患部が急速増大 し,鼻腔内に浸潤した扁平上皮癌に対し,放射線・

化学療法を実施し,良好な結果が得られたため報告

する。

[症 例]

 ポメラニアン,オス,8歳。歯肉腫脹を主訴に紹 介獣医を受診し,抜歯および同部位の切除を実施し た。病理組織検査にて扁平上皮癌,マージン不明瞭 と診断された。切除部位は術後すぐに再発してきた ため,今後の治療方針の相談のため大学病院を受診 した。初診時,上顎歯肉に赤色で2×1cmの腫瘤が 存在していた。全身への転移所見は確認されず,口 腔扁平上皮癌T2aNOMO,ステージHと診断し,外科

療法を提示した。

[治療および経過]

 術前のCT検査では鼻腔内浸潤が認められたため,

根治目的の拡大手術を行なう外科療法か緩和目的の

放射線・化学療法を提示した。オーナーは放射線療 法を選択し,合計32Gy/4回/21日照射した。終了時 には当初認められていた鼻出血やCT検査での異常 所見は消失し,骨溶解部は再骨化した。その後化学 療法としてカルボプラチンを総量で1260mg/m2使用 し,ピロキシカムも併用した。放射線療法終了から 2年,化学療法終了から10ヶ月経過した現在,局所 再発・遠隔転移も認められず全身状態は良好であ

る。

[考 察]

 悪性腫瘍が疑われる際の抜歯は歯周組織を破壊 し,癌の増殖範囲を増やしてしまうため禁忌であり,

中高齢の口腔内病変に対しては慎重な対応が必要で

ある。本症例のような鼻腔内に浸潤した扁平上皮癌

に対し,外科療法を行わず,放射線・化学療法で早

期の局所再発・転移を予測していたが,2年の長期

にわたり再発・転移もなく良好なQOLが得られてい

る。このことは口腔扁平上皮癌に罹患した際の有効

な治療法が外科療法だけでなく放射線・化学療法も

存在することを示唆している。この癌の罹患平均年

齢は高齢であり,外科的治療を望まないオーナーに

対して本症例は他の治療選択肢を提示できる可能性

があることを教えてくれた貴重な一例となった。

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