38 臨床報告 ( 東 女 医 大 誌 第55巻 第6
号
)
頁 518-521 昭和60年6月胆嚢腺扇平上皮癌の
1
例
東京女子医科大学第二病院 外科 イ イ ダ ト ミ オ ハ ガ シュンスケ ナ カ タ カ ズ ヤ カ ワ タ ヒロカズ飯 田 富 雄 ・ 芳 賀 駿 介 ・ 中 田 一 也 ・ 川 田 裕 一
ヤ ク シ ジ コ ウ イ チ キ ク チ トモミツ カデワラ テツロウ サカキパラ ノプル薬 師 寺 公 一 ・ 菊 池 友 允 ・ 梶 原 哲 郎 ・ 榊 原
宣
東京女子医科大学第二病院 中央検査科藤林真理子
( 受 付 昭 和60年3月6日〉 はじめに 胆嚢癌の発生率は,胆道系に対する検査技術の 進歩,平均寿命の延長による高齢者の増加などに 関連し,年々増加の傾向にある九しかし,胆嚢癌 は高齢での発症が多く,特徴的な症状を欠くため, 早期診断が困難であり,依然として予後不良の疾 患である.胆嚢癌の多くは腺癌であるが,一部は 肩平上皮化生を認めるものがある.腺扇平上皮癌 は,胆道系では,胃や大腸と比較して多いと考え られているが,文献的に詳細な記載例は少ない. 今回,胆嚢腺扇平上皮癌の1
例を経験じたので, 若干の文献的な考察を加えて報告したい 症 例 患者:H.Y. 72歳,女性. 主 訴 右 側 腹 部 痛 . 現病歴:昭和5
9
年1
月未より右側腹部痛が出現 した.近医を受診して胆石と診断され,保存的治 療を受けていた. 2月下旬再度痛みが出現し,持 続するため,3
月1
日入院した.全経過を通じて, 黄痘はみられなかった. 既往歴:特記することなし. 家族歴:特記することなし. 入 院 時 現 症 : 身 長140cm. 体 重42kg. 体 温 38.10 C.脈拍84/min.整.血圧150/112mmHg.眼 険結膜貧血あり.眼球結膜黄染なし.表在リンパ 節触知せず.肺に異常所見なし.右上腹部に抵抗, 圧痛あり.肝,牌触知せず.腫癌,腹水なし. 入院時検査所見:末梢血液で著明な貧血.血沈 は軽度上昇.CRP陽性.生化学検査は低蛋白を認 めるのみで,他に異常は認めなかった〔表1). 上部消化管おまび下部消化管のX
線検査所見: 特に異常を認めなかった. 腹部超音波検査所見:胆嚢内に音響陰影を伴っ た2
個の結石像を認めた.また,胆嚢体部付近に low echo levelを呈する球形のmassechoがあ り,胆嚢を圧排,変形させていた.総胆管の拡張 はなく,肝にも異常は認められなかった. 腹部CT所見:胆嚢体部に結石像を認めた.5X 5cmの腫癌陰影が胆嚢体部付近に認められ,胆嚢 内腔は狭小し,変形していた.CT所見より,胆嚢 腫蕩と診断した(写真1). 手術所見:3月22日,胆嚢腫虜の診断のもとに 上腹部正中切開で開腹した.胆嚢底部に4X4cm の白色調を帯びた癌浸潤を認めた.母指頭大,弾 性硬の転移と思われるリンパ節を上騨頭後部に認 めた.肉眼的には,いわゆる胆道癌取扱い規約2)に Tomio I1DA, Shunsuke HAGA, Kazuya NAKATA, Hirokazu KAWATA, Koichi YAKUSHIJI, Tomomitsu KIKU CHI,
Tetsuro KAJIW ARA and N oburu SAKAKIBARA. CTokyo W omen's Medical College Daini Hospital Department of Surgery CDirector: Noburu SAKAKIBARA)) . Mariko FU-JIBA YASHI. CTokyo Women's Medical College Daini Hospital Department of Central crinicallabora. toryJ
:
A case of adenosQuamous cell carcinoma of the gallblodder-518-表l 入院時検査所見 未梢血液 生化学 WBC 5000/mm' 総蛋自 5. 62g/dl
•
RBC 271X lO'/mm' Albmin 2.89g/dl Ht 25.4% T.T.T 0.3U Hb 7.8g/dl Z.T.T 4.1U Platelet GOT 11U•
19.4XlO'/mm' GPT 11U 血 沈 ALP 6.9U 1時間値 34 r.GTP 12U 2時間値 77 LAP 125U CRP 3t LDH 208U 凝 固 T.Bil. 0.4mg/dl 出血時間 1'30" S.Amylase 126U/1 凝固時間 7'00" U.Amylase 558U/1 写真2 摘 出 標 本 尿 Na 140mEg/1 糖 (ー) K 4.6mEg/1 蛋白(ー〉 Cl 100mEg/1 - 腺 癌 !ZZa扇平上皮癌 写真l 腹部CTscan いう S2'H
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2 (+)であった.術 前より全身状態不良なため,肝切除を断念し,肝 床切除を伴う胆嚢摘出術および第2
群のリンパ節 郭清術を施行した. 39 底 部 頚 部 図 l 癌病巣における両癌組織型の分布 摘出標本:胆嚢は9
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5x
1
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大で,体 部から底部にかけて粘膜側および奨膜側へ発育し た5
.
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大の境界明瞭な腫癌を形成 していた.体部にえん豆大とさくらんぼ大のコ系 石を認めた(写真2入
病理組織所見 :頚部および底部の一部で粘膜は 正常であるが,禁膜下にリンパ行性および血行性 の転移結節を作り,さらに腫癌からの奨膜下への 直接浸潤もみられる.腺癌の部分はわずかで,粘 膜に浸潤しているところに認められる程度である (図1).浅層では不規則に潰れた腺腔形成を認め るが深部ではすぐに肩平上皮癌へ移行している (写真3
).また,転移リンパ節の組織像は扇平上 皮癌であった. 術後経過:順調に経過し術後5
5
日目に退院した n w d40 写真3 組織像 CH-E,x160) が,
6
カ月後肝転移のため死亡した. 考 察 胆嚢癌の多くは腺癌であるが,なかには扇平上 皮化生を伴い,腺扇平上皮癌の所見を呈するもの もある.腺肩平上皮癌の組織学的特徴は,同一病 巣内に腺癌組織と扇平上皮癌組織とが共存するこ ととされている.そこで,本症の特徴となるのは, 胆嚢粘膜のような腺組織より肩平上皮癌組織が発 生することであり,これについて検討した. 胆嚢癌における扇平上皮癌組織の発生頻度は,A
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例中4
4
例,西ら4)によると3
4
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例中2
2
例であった.扇平上皮癌の組織発生につ いては,次のような諸説がある.一つは胎生期に おける迷芽による異所性扇平上皮が癌化するとい う説ベあるいは腺組織が肩平上皮化生を起こし た後,癌化するという説6にさらに腺癌が発生した 段階で肩平上皮化生を起こして癌化するという 説7)などである.これらの説のうち,胆嚢の異所性 肩平上皮の存在を示す報告はなく,腺組織の扇平 上皮化生についても,小島ら8)は5
0
0
例,武藤ら9)は1
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例の切除胆嚢の組織学的検索で,1
例の化生 もみとめることはできなかったと報告している. したがって現在では,腺癌の扇平上皮化生がもっ とも有力視されている.これを支持する点として, 早期癌はほとんど全症例が腺癌であること10) 腺 肩平上皮癌で円柱上皮と肩平上皮との直接の移行 が認められたこと11)などがあげられる.自験例に おいても,腺癌から扇平上皮癌への移行像が認め られており,腺癌の扇平上皮化生を支持するもの -520 と思われた. つぎに腺肩平上皮癌と扇平上皮癌の関係につい て検討すれば,武藤ら9)は,腺肩平上皮癌の癌病巣 の形態的特徴として,病巣では腺癌組織と肩平上 皮癌組織とが比較的明瞭に区分されていること や,癌の進行度が進むにつれて癌病巣の大部分を 肩平上皮癌が占めるようになっていることをあ げ,腺扇平上皮癌の終末像が扇平上皮癌の形態を 呈するようになると考えている.一方,伊藤ら12) は,経験した胆嚢扇平上皮癌症例において,腫蕩 は他への転移を認めず限局して発育していたこと から,扇平上皮癌は,腺癌,腺肩平上皮癌と比べ て生物学的悪性度が異なるのではなし、かと考えて いる.自験例においてリンパ節転移巣は,ほとん どが肩平上皮癌組織であった.このことは,病変 の進行とともに転移巣においても肩平上皮癌組織 が認められることを示しており,腺扇平上皮癌の 終末像が肩平上皮癌の形態を呈する可能性を支持 する所見と思われた.この点から腺肩平上皮癌の 予後は,腺癌と比して悲観的であると考えられる. 小島ら11)~土,主腫癌が肝内にあるか,肝外にある かを基準として,胆嚢癌を肉眼的に肝外型,中間 型,肝内型の3型に分類した.その中で興味ある こととして,腺肩平上皮癌は7例中6例が肝内型 に属していたと報告している.自験例においても, 主腫癌は肝内にあり,胆嚢内腔を外から圧排する 形で発育しており,肝右葉内の腫癌との鑑別が困 難であった.腺扇平上皮癌では,なぜ肝内型が多 いかについては今後の検討を要するが,肝内型は 黄痘等の症状も少し早期診断も困難であり,腺 肩平上皮癌の予後が悲観的なものになる一因であ ると考えられた. む す び 72歳女性の胆嚢腺肩平上皮癌を経験したので, その組織発生と進展形式について若干の文献的考 察を加え報告した. 文 献 1)亀田治男・ほか 日本人胆石症の年代的推移.日 本医事新報 292428 -31(1980) 2)日本胆道外科研究会編・外科胆道癌取扱い規約. 金原出版東京(1981) 3) Arminski, T.C.: Primary carcinoma ofthegaIlbladder. A coIlective review with the addi. tion of 25 cases fium the Grace HospitaI, Detroit,民'lishigan.Cancer 2(5) 379-398 (1948) 4)西 満正・ほか・胆嚢癌の臨床的ならびに病理学 的研究.癌の臨床 10(12) 869-877 (1964) 5)江口秀雄・松野義光:胆嚢の「アデノカンクロイ ド」の1例並びに其の組織発生に就て.病理学紀 要 2(2)263-276 (1925)
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,
J.H. and Shaka,
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-521-41 ceIlcarcinoma and adenoacanthoma of the stomac. A ciinicopathoiogic study. Cancer 18(2) 181-192 (1965) 8)小島田次・ほか:摘除胆嚢500例の臨床病理学的研 究.癌の臨床 17(11) 799-805 (1971) 9) 武藤良弘・ほか:胆道の腺扇平上皮癌症例の臨床 病理学的検討.癌の臨床 28(5)440-444 (1982) 10)吉 田 衛 ・ ほ か ・ 早 期 胆 嚢 癌 の 1例 . 癌 の 臨 床 28(11)1305 -1308 (1982) 11)小 島 国 次 ・ 斉 藤 清 子 胆 嚢 癌32剖検例の病理学的 研究.癌の臨床 14(2) 114-123 (1968) 12)伊藤和郎・ほか・胆嚢扇平上皮癌の2例.癌の臨 床 26(15)1681-1686 (1980)