• 検索結果がありません。

新興国市場と先進国市場における競争優位の構築

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "新興国市場と先進国市場における競争優位の構築 "

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

担当:山口隆英教授

(論文要旨)

新興国市場と先進国市場における競争優位の構築

―リバース・イノベーションの概念から―

兵庫県立大学 経営学研究科博士後期課程 2012年度入学 BD12B004 山部 洋幸

2014年12月19日

(2)

1

論文要旨

本論文の目的

本論文は新興国市場で起きるイノベーションが先進国市場へと移転していくプロセスと、

そのイノベーションに対する先進国企業への対応を考察していくことを目的としている。

この目的を達成するためにリバース・イノベーションの概念を用いている。リバース・イ ノベーションとは、新興国で最初に採用されたイノベーションが先進国に移転するもので あり、そのイノベーションは業界秩序に影響を与える。本論文においては、考察に当たっ て3つの課題を設定している。第1に、どのようなリバース・イノベーションが業界秩 序に変化をもたらすのか、第2に、業界秩序に変化をもたらすリバース・イノベーショ ンが先進国企業にどのような影響を与えるのか、第3に、リバース・イノベーションの 影響を受けた先進国企業がどのように対応し、自社の競争優位を再構築するのか、であ る。

先行研究レビュー

先行研究のレビューとして、リバース・イノベーションと従来の国際経営研究を比較し、

リバース・イノベーションの研究の学説史的位置づけと、その意義について論じている。

その視点として、多国籍企業からの新興国市場へのアプローチという点からレビューを行 っている。従来の国際経営研究において新興国市場は研究の対象として検討されておらず、

イノベーションの発生源は先進国であった。リバース・イノベーションでは新興国に焦点 を当てている点が新しく、その重要性について論じていた。

課題の導出

Govindarajan and Trimble(2012)がリバース・イノベーションの概念を用いて取り上げ た課題として、新興国企業の脅威が強く主張されていた。しかし、彼らの主張におけるリ バース・イノベーションの枠組みでは、新興国企業の脅威について検討する枠組みが不足 していた。そこで理論の整理を行い、新興国企業も担い手として含めた。そして、新興国 企業の脅威とは何かを明らかにする目的から、①どのようなリバース・イノベーションが 業界秩序に変化をもたらすのか、という課題を設定した。

しかし、リバース・イノベーションは比較的新しい理論であり事例の蓄積が進んでいな い。よって、過去の事例を取り扱うことで課題の検討を試みた。取り上げた事例は自動二 輪産業である。自動二輪産業は 2 度のリバース・イノベーションが起こっており、そのい ずれもが業界秩序に変化をもたらしたと考えられる。事例として 1 度目が戦後の日本とア メリカ、2度目が2000年前後の中国、ベトナム、タイの事例となる。事例を歴史的に見る ことで業界に影響を及ぼしたイノベーションがどういったものか考察できると考えている。

しかし、過去の日本の事例を取り扱うことはGovindarajan and Trimble(2012)によって、

(3)

2

留意するべき部分があると主張されている。その主たる理由として、経済規模を挙げてい る。先行研究では主にインドや中国といった大きな国でリバース・イノベーションが起こ ることを想定していた。インドや中国は市場規模が大きく、規模の経済性が働くからであ る。結果、安価で十分良いイノベーションが生まれると考えられていた。その点、日本は 中国・インドに比べ人口が少なく、そこそこの規模がある市場であった。よって、本論文 においては同一産業において市場規模の小さい新興国と市場規模の大きい新興国企業にお ける事例を比較することでリバース・イノベーションの理論の拡張を図る。

そして、2度目の業界秩序の変化のきっかけは中国企業がおこしたローカル・イノベーシ ョンであった。この変化に対して先進国企業は反応し、リバース・イノベーションのため のプロジェクトチーム(ローカル・グロース・チーム)がなくとも、リバース・イノベーショ ンが起きた。この反応は従来の理論で主張された先進国企業が自発的にリバース・イノベ ーションをおこなったのではなく、自然発生的にリバース・イノベーションが生じた事例 であった。新興国企業が起こしたローカル・イノベーションに影響を受け、先進国企業に 大きな変化があったことを示している。理論と異なる事例から自動二輪産業における市場 の変化は先進国企業が新興国市場で起きるイノベーションの脅威に対する反応が検討でき、

その対応についても検討が出来る。②業界秩序に変化をもたらすリバース・イノベーシ ョンが先進国企業にどのような影響を与えるのか、そして、③リバース・イノベーショ ンの影響を受けた先進国企業がどのように変化し、自社の競争優位を再構築するのか、

という課題が設定された。本章において、3つの課題が設定され、これら課題を本論文 では明らかにしていった。

分析枠組みについて

分析枠組みの検討にあたって Porter(1985)の提唱したバリューチェーンに着目した。な ぜならば、Govindarajan and Trimble(2012)の考察では主に製品イノベーションの移転に 焦点をあてていたが、彼らも指摘するように、リバース・イノベーションの多くは実態と してビジネスモデルのイノベーションを伴っており、リバース・イノベーションを実行す る上でバリューチェーンの再構築が図られているからである。しかし、先行研究ではその 指摘に留まり、バリューチェーンの再構築の観点からは深く検討されていなかった。した がって、本研究では製品そのものではなく、その製品を提供するバリューチェーンに焦点 を合わせた考察に重きを置く。バリューチェーンに関する先行研究をレビューすると、

Porter(1985, 1996)の研究から、企業が行う経営活動は他の経営活動と整合性があることが 示されていた。先行研究であるGovindarajan and Trimble(2012)の、新興国市場と先進国 市場は異なる市場であるとの主張から、新興国企業が行う活動と先進国企業が行う活動は 異なることが想定される。本論文では自動二輪産業におけるバリューチェーンにおける一 連の活動を比較(図表1を参照)しながら、バリューチェーンの違い、変化を見ていくことで 提示した課題を明らかにしていった。

(4)

3

図表1 自動二輪作業で想定されるバリューチェーン

出典:筆者作成。

事例について

4章、第5章、第6章は新興国企業の視点から検討し、第1の課題を考察した。第7 章、第8章は先進国企業の視点から検討し、第2の課題、第3の課題を明らかにした。

4 章では新興国企業であるホンダが、新興国市場である戦後の日本で起こしたローカ ル・イノベーションについて考察している。ホンダは、自動二輪の生産において、従来の

「外注依存組立型」の生産方式から、T型フォード方式の大量生産を実現させた。生産面 におけるイノベーションであった。それに伴い、販売面では新しい販路として自転車屋、

製造面ではサプライヤーとの共同開発といった新しい活動が見られ、従来の自動二輪産業 と異なるバリューチェーンが形成されていたことを明らかにした。

5 章では新興国企業であるホンダが、先進国市場であるアメリカへと進出し、新興国 市場で起きたイノベーションが先進国へと移転するイノベーションと見ることのできる事 例を考察している。ホンダは新しいジャンルの自動二輪で参入し、日本市場同様の販路を 開拓していった。様々なモデルを開発し、上位市場へと進出した。上位市場の製品の開発 においては、最初は既存ラインの遊休設備で少量生産していたが、評判になってからは大 量生産できる体制へと切り替えることで高い商品力を実現していた。

4章と第5章から、第1の課題を考察した。第1の課題は、どのようなリバース・イ ノベーションが業界秩序に変化をもたらすのか、について検討することである。考察の 結果、従来の研究で指摘されていた製品のイノベーションが業界秩序に変化をもたらすの ではなく、その製品を支える仕組みであるバリューチェーンが業界秩序に変化をもたらす ことが明らかとなった。

6章では、新興国市場である中国市場で、新興国企業である中国企業が起こしたロ ーカル・イノベーションについて考察している。先進国企業であるホンダとの比較から、

中国企業は設計面のイノベーションを起こし、それに伴いホンダと異なる独自のバリュ ーチェーンが構築されていることが明らかになった。これは過去のアメリカ市場の事例 と同様、バリューチェーンのイノベーションが起きていることが観察された。

前章までにおける考察から、中国企業は独自のバリューチェーンを構築しており、上 位市場への進出が推測される。しかし、結果として、上位市場への進出は行われなかっ た。この事実について、第4章と第5章のホンダの場合と本章における中国企業の事例 を比較した。比較に当たってはGovindarajan and Trimble(2012)の想定している新興国市 場の特徴から考察した。彼らの主張はつまり、市場規模の大きい方がリバース・イノベー

(5)

4

ションは起こりやすいということを述べていた。しかし、考察の結果、市場規模の大きな 新興国市場ではローカル・イノベーションは起きるが、それがリバース・イノベーション へと移行する可能性は低いことを指摘した。新興国企業の視点から捉えると自国のローカ ル市場の規模が大きく、商慣習に慣れた市場であれば、先進国の規制や基準にあわせて まで、先進国に進出することが困難になることが仮説的に導き出された。

7 章では本章は新興国市場であるベトナム市場で、先進国企業であるホンダが起こし たローカル・イノベーションについて検討している。結果、先進国企業は新興国間のネッ トワークを構築していた。そこで新興国市場の情報が共有され、バリューチェーンの組 み換えがおこり、新しい価値提案が起きたというプロセスを経ていたことが明らかとな った。

8章では新興国市場であるタイ市場から、先進国企業であるホンダが起こしたリバ ース・イノベーションについて検討している。タイで生産されたモデルがグローバルに 展開された。さらに大型排気量の自動二輪も生産され、タイから上位市場への展開も行 われた。結果、ホンダにとってタイからリバース・イノベーションが起きた。リバース・

イノベーションが発生する上で注目すべき点はベトナム市場で構築された新興国間の ネットワークが影響していた。

第2の課題として、業界秩序に変化をもたらすリバース・イノベーションが先進国企 業にどのような影響を与えるのか、第3の課題として、リバース・イノベーションの影 響を受けた先進国企業がどのように対応し、自社の競争優位を再構築するのか、本論文 において提示していた。第7章と第8章の議論をまとめると、新興国間のネットワークを 構築し、そこからバリューチェーンの組み換えを行うことで業界秩序に変化をもたらす イノベーションについて対応していることが明らかとなる。結果、ホンダにおいては競 争優位を再構築できたといえる。

本論文の貢献点

本論文における貢献は次のようになる。第1Govindarajan and Trimble(2012)

は先進国企業のみをリバース・イノベーションの対象としていたが、リバース・イノベ ーションの理論に新興国企業も担い手に含め検討した。第2に多くのリバース・イノベ ーションは製品イノベーションの移転に置かれていたが、我々の研究ではビジネスモデ ルのイノベーションに着目し、製品を提供するまでのバリューチェーンを検討したこと である。これら2点から、新興国市場では先進国市場と異なるバリューチェーンが構築 されること、そしてそのバリューチェーンは先進国企業にとって対応を困難にし、業界 秩序に変化をもたらすことが明らかになった。

3に先進国企業の対応と他の新興国へと移転するプロセスを考察することで、新興 国間のネットワークの存在(ローカル・グロース・ネットワーク)とネットワークを構 築するプロセスを明らかにした。第4に、Porter(1985,1998)のバリューチェーンと

(6)

5

その活動に関する理論では、活動間の連携が競争優位を生むという主張であったが、本 研究では活動の組み換えによって新たな競争優位の構築が図られる可能性があること が明らかになった。第3と第4の貢献点から、先進国企業の起こすリバース・イノベー ションは、新興国間のネットワークから生じること、そして、このネットワークによっ て、バリューチェーンの組み換えが生じ、新たな競争優位の構築へとつながることが、

ひとつの要因といえることについて仮説的に導き出した。

5に従来のリバース・イノベーション研究においては主として中国やインドといっ た現代の市場規模の大きい新興国市場を対象にしていたが、市場規模の小さい戦後の日 本をリバース・イノベーションの対象として含めて検討した。結果、新興国企業は市場 規模の大きい新興国市場ではローカル・イノベーションを起こすが、それがリバース・

イノベーションへと変化する可能性が低い点を指摘した。

本論文の限界と課題

本論文は単一の産業を取り扱った歴史的なケーススタディであり、記述的分析に留まっ ているため、より深い見地を求めるためには多くの事例を集める必要がある。多くの事例 を集める必要のある課題として、第1に今回検討した事例は新興国企業におけるリバース・

イノベーションを先進国企業は新興国市場で対応することが出来たが、携帯電話やテレビ といった分野では既に韓国や中国企業が市場で大きな地位を占めている。これはリバー ス・イノベーションによって新興国企業に市場が奪われた結果の可能性がある。つまり、

これら事例から脅威に対応できなかった事例を検討することでインプリケーションを得る 必要があるといえる。

2 にローカル・グロース・ネットワークがどのようにしてバリューチェーンの組み換 えを促すのか、そのメカニズムの細部が明らかではない。よって、詳細な検討をする必要 がある。

3 にホンダは資本規模も大きい多国籍企業の会社であり、業界においての影響力も大 きい。結果、ホンダ自身が持っている海外拠点を有効に活用することでローカル・グロー ス・ネットワークを構築できたことを指摘できる。よって、資本規模の小さい会社、例え ば中小企業などはどのようにしてローカル・グロース・ネットワークが構築され、自社の 活動を組み替えが出来るのか検討が必要であるだろう。

4 に本論文においてはローカル市場でのバリューチェーンの構築に主眼をおいたもの であった。しかし、リバース・イノベーションは新興国から先進国に展開するバリューチ ェーンの構築も検討する必要がある。1960年代のホンダのアメリカ市場における進出の事 例で販売活動について新たなバリューチェーンの構築が見られた。よって、ローカルから グローバルに展開する場合、販売面においてどういったバリューチェーンの違いがみられ るのか考えていくべきであろう。

5 に本事例では新興国市場を画一的なものとして取り扱っているが、各新興国市場の

(7)

6

嗜好によって、構築されるローカル・グロース・ネットワークが異なるかもしれない。よ って、どういった条件で構築されるのか検討する必要がある。また、本論文で取り上げた ホンダの事例は中国市場における危機感から自然発生的に構築されたものであった。つま り、自発的に構築する場合、戦略的にどのように取り組むことでローカル・グロース・ネ ットワークを構築するのか検討する必要があるといえるだろう。

以上、5つの点について今後の課題としたい。

参考文献

Govindarajan, V. and Trimble, C. (2012) Reverse innovation, Harvard Business

Review Press (渡部典子訳『リバース・イノベーション』ダイヤモンド社, 2012年)

Porter, M. E.(1985)Competitive advantage, The Free Press, (土岐坤・中辻萬治・

小野寺武夫訳『競争優位の戦略』ダイヤモンド社, 1985年)

参照

関連したドキュメント

「世界の市場」と化した.巨大な購買力に伴い1960年代の日本のように「大衆消費社会」が到来し

ムを開発し,通常なら年間6億円かかるトランスポンダ契約料を,1チャネル

企業の競争優位がもたらす経済利益は大きく 2 つの要因から成り立っている。1

59 立教ビジネスレビュー  第

規模の経済性の存在は,産業によっては国内市場における集中を高めると

付けはJR西日本、JR東海よりも若干高い。

中核 とな る強みの構築 に連動 して、人材育成 に も秘訣が ある。 ビジネスを動か してい るのは最終 的に人であるか らである。 自社 の競争優位 をさ