神奈 川大学大学院経営学研究科 『研究年報』第15号 2011年3月 101
■ 修士論文要 旨
日本 における老舗企業の競争優位
一老舗企業の企業経営についての一考察 ‑
CompetitivenessofLong‑livedCompaniesinJapan
‑A StudyforBusinessManagementofLong‑livedCompanies一
神奈川大学大学院 経営学研究科 国際経営専攻 博士前期課程
楊 金 城
YangJln e
■キー ワー ド
老舗企業 競争優位 長期存続 家訓 伝統継承 革新
企業 ・組織 は人々の生活や企業 ・組織 の生産 に 必要 な財 を提供 す る役割 を担 う 「社会 の公器」で ある。企業の基本前提条件 は何かを考 えるときに、
第 1にその継続性が挙 げ られ るで あろ う。顧客 に 商品やサー ビスを提供 して喜んで もらう。社員 を 雇用 し、 その家族 を幸せ にす る。雇用、納税、 そ のほか、様々な活動 を通 じて地域や社会に貢献す る。 これ らは、企業が継続 し続 けるか らこそで き ることである。企業 内部の人々 も企業の外部で関 連す る人々 も企業が半永久的に存続す ることを暗 黙的に考 えてい る。 しか し、今 この激動す る環境 の中において、 それは非常 に困難 な ことになって いる02003年度 までの 日本 の企業倒産件数 による と、1990年代 に入 ってか らの企業倒産件数 は上昇 傾 向にあるが、開業率が伸 びてはいない。 『新民 晩報』の報道で は、母国の中国では今や民間企業 の数が大 き く増 えているものの、 その多 くが3年 も持たず倒産 して しまっている現状が明 らかになっ ているOいかに して存続 の能力 を確保 し維持す る かは常 に追及 され るもので あ り、企業 に とって根
本的な課題で あるとuえるO
一方、 日本 の老舗企業 は江戸以来、明治維新や 関東大地震、戦争 な ど幾多の危機 的な状況 を乗 り 越 えて、現在 まで継続 している。 日本 の老舗企業
の経営 に触れ、老舗企業 の持つ知恵や競争優位性 を探 り、学 んで行 くことは多 くの企業経営者 に と
り、企業経営 の参考 になるもの と思われ る。
本論文 の第 1章では老舗企業の定義、 日本老舗 企業の概要及 び日本老舗 企業誕生の時代背景か ら 老舗企業 を概観 す る。老舗 とは、仕似せ る とい う 言葉 に語源が あるC似せ てす る。先祖 か らの家業
を絶 えずに続 ける といった意味か ら生 まれたもの で、先祖代 々か らの生業 を守 り継 ぐこ と、 または 先祖代 々か ら続 いていて繁盛 してい る店 を意味す る。言葉の意味か らす ると、少な くとも3代以上、
創業以来 の ビジネスが継続 してい ること、 またそ の ビジネスが上手 くいっていることが、老舗 とい われ るための必要条件で ある。本論文 は世紀
( l o o
年) を超 えて事業 を継続 して きてい る企業 を老舗 企業 と定義 とす る。
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第2章では商売繁盛の基本 とな る老舗企業の家 訓が示す5つの具体的な行動指針 を検討す る。
老舗企業 とい うと、昔なが らの事業 を続 けている、
あるいは固 く昔のや り方を守 っている とい う印象 が あるか もしれないが、平成20年 に東京商工会議 所中央支部が老舗企業に対 して、実施 したアンケー ト調査結果 か ら決 してそ うで はない ことが明 らか になった。第3章では事例 を介 して、老舗企業 の 長期存続要件 の一つである経営革新 につ いて考察 す る。
近年 になって企業の社会責任が声高 にいわれ る よ うになってきたO企業の長期的な存続 に欠かせ ない重要 な要素であることを欧米か ら指摘 され る まもな く、老舗企業 はすでに何世代 にも渡 って、
一番身近 な地域社会の一員 として、企業 としての 責任 を果た し、実践 して きた。第4章では老舗企 業 と地域社会の共存共栄、老舗企業が地域繁盛 へ の貢献 について述べ る。
長寿企業 は、変化 しない伝統 を継承 す ると同時 に、時代 に合わせた革新 を常 に行 うとい う、2つ の側面 を持 っている。 そ して、伝統継承 と革新 を 絶妙 なバ ランスで とって きたのが長寿の秘密だ と 指摘 されている。第5章では老舗企業の伝統的な
「家」制度、 そ して、世紀 を超 えて も変 っていな いもの及 び変わった ものを企業永続要因 として追 究す る。
第6章では、数 ある老舗企業 の中か ら業種や地 域、年商規模 な どを勘案 した うえで、 ここ数年業
績が伸 びて きた5社 を紹介す る。
第7章で は 日本 の老舗企業の競争優位 を整理す るといった視点か ら、長期存続 を果 た している老 舗企業の競争優位 を検証 し、母国の企業経営 の参 考 に したい と考 える。
老舗企業 の経営の根幹 には、 ビジネスに対す る 一貫 した考 え方が存在 している。家訓や社訓等 と いった守 るべ き方針や事業 を進 めてい く上での行 動指針 を大切 にす るとい う価値観、すなわち、経 営理念 に対す る強 い思い入れが経営の礎 (い しず え)にな り、競争優位 の源泉の一つ と考 え られ るO
企業経営での中核 的な課題 は、 ビジネスの仕組 みを環境 の変化 に合わせて変容 させ てい くことで ある。 自社 の企業 らしさを失 うことな く、市場 の 変化 に応 じて ビジネスのあ り方 を変 えてい く。 こ の意味では、中核 となる強みを構築 してい くこと が老舗企業の もう一つの競争優位 といえるO
中核 とな る強みの構築 に連動 して、人材育成 に も秘訣が ある。 ビジネスを動か してい るのは最終 的に人であるか らである。 自社 の競争優位 をさ ら に強化 して、弱みを克服 してい くためには、従業 員の技術 や熟練、知識が不可欠なのである。
また、人材育成 と並んで、取 引先 との関係構築、
顧客 との結 びっ きのマネジメ ン トも重要 な要素 と な るO老舗企業が長期的に存続 し得 たのは、顧客
との長期的な関係づ くりに長けていたか らであ り、
短期で はな く長期的に取 引先 との信頼 関係 を築 き 上 げて きているか らである。