グローバル・アライアンス戦略のダイナミズム
― 競争優位の構築の視点から ―
桑名 義晴要 旨
近年企業を取り巻く環境は激変し、企業間のグローバル競争もますます熾烈になってきてい るが、企業がこのような環境変化に対応し、競争優位を構築していくためには他企業との提携 が不可欠になっている。この企業間提携はかつてもみられたが、いまでは「グローバル」で「戦 略的」なものになっている。すなわち、多国籍企業がその戦略的意図を実現するために、仮に それがライバル企業であっても、世界の多くの企業と手を組むようになっているのである。こ こに、近年の企業間提携は「グローバル・アライアンス」と呼称され、その戦略が企業の命運 さえも左右するほどの重要性を持つようになっている。 また、近年の多国籍企業は世界の非常に多くの企業、あるいは政府機関、大学、研究機関、 NGOなど、いわゆる非営利組織とも提携関係を結ぶようになってきている。このため、企業に は2つの企業間のアライアンスや単なる企業間のそれとは異なる戦略の展開やマネジメントの 能力も求められるようになってきている。本稿では、多国籍企業の競争優位の構築の視点から、 グローバル・アライアンス戦略の展開にかかわる重要課題や将来の挑戦課題について、その変 質や現状を踏まえて議論を展開する。はじめに
企業を取り巻くビジネス環境は、この数十年に劇的に変化するようになった。それはかつて ないスピードで、多様な要因が絡みながら複雑に、しかも国境を超えて広範囲に影響を及ぼす ように変化している。また企業間のグローバル競争も熾烈を極めている。このため、世界のど の企業も、その環境変化に経営資源をフルに活用しながら、俊敏でダイナミックに、かつフレ キシブルに対応する経営を展開しなければならなくなっている。 このような経営を展開するには経営資源に制約のある単独企業では限界がある。そこで1980 代半ば頃から国際的な企業間提携が活発に行われるようになってきたが、その頃から「グロー バル」で「戦略的」な性格を持つ提携が目立つようになってきた。すなわち、多国籍企業がグロ ーバル競争優位(global competitive advantage)を構築するために、たとえライバルであって も、世界の多数の企業と手を組み、スキルや能力を獲得するものになってきた。ここに近年世 界の企業間提携は「グローバル・アライアンス(global alliance)」と呼称されるようになった が、それにはさらにパートナー同士で相互に学習してスキル、能力、企業の価値の創造に向け て共進化を遂げる提携を目指すものもみられるようになった。しかし、現在のグローバル・アライアンスは戦略的であるがゆえに、そのマネジメントを誤ると、途中で挫折し、その関係を 解消せざるを得ないケースも多い。その意味ではグローバル・アライアンスはきわめて脆い面 をも有している。ここにグローバル・アライアンスのマネジメントの重要性がある。 一方、近年の多国籍企業は、実に数多くの企業とアライアンス関係を結ぶようになっている。 その数は多い企業では1000件を超える。このように企業が複数の企業とアライアンス関係を 結ぶと、そのマネジメントも二社間のそれとは異なってくる。さらに、最近の多国籍企業はグ ローバル社会の一員として地球温暖化、資源・エネルギーの枯渇、低開発国の貧困問題など、 人類の生存すら脅かすような大きな課題にも、政府機関、大学、研究所、NGOなど、新たなス テークホルダーと手を組み、「持続可能な社会」の実現に向けて責任を果たさなければならな くなっている。こうして、今後日系多国籍企業のグローバル・アライアンス能力も問われるこ とになる。 本稿の目的は、このような問題意識のもとで、主に多国籍企業の競争優位の構築の視点から、 グローバル・アライアンス戦略(global alliance strategy)の重要課題について議論しようとす るものである。まず、アライアンス戦略の必要性と主な課題について指摘する。第二に、企業 間提携の変質、グローバル・アライアンスのダイナミックなマネジメント・プロセスとそこに おける重要課題を概説し、その進化と組織間学習の関係について議論する。第三に、近年盛ん になってきた複数の企業間のグローバル・アライアンスについて、そのマネジメント上の課題 を検討する。そして最後に、グローバル・アライアンスの将来の挑戦課題と日系多国籍企業の それらについて言及する。
Ⅰ アライアンス戦略の必要性と課題
1 アライアンスの増加の背景 この数十年間で企業を取り巻くビジネス環境は大きく変化した。その大きな要因となったの が、国際輸送手段や通信手段などの飛躍的な発達であるが、これによって経済や市場のグロー バル化が進展し、企業は国境や業界を越えて事業活動を展開するようになった。この結果、い まや「国境」や「業界」という、これまで企業の経営活動の障壁となっていたものが消滅するか のような状況を迎えつつあるといっても過言ではない(石倉、2009)。こうして、ここ数十年間 において企業を取り巻く環境には、次のような変化がみられるようになってきた。 (1)世界の顧客の価値観やニーズの同質化 (2)製品ライフサイクルの短縮化 (3)技術革新の急速な進展 (4)リスクの増大 (5)グローバル競争の激化 この数十年間において、このような環境変化がわれわれの想像を超えるスピードで起こって いるため、企業としてもその経営資源をフルに活用して、その変化に俊敏かつダイナミックに 対応しなければならなくなった。ここに企業には新しい経営が求められているが、企業がこのような環境変化に俊敏かつダイナミックに対応していくには経営資源に制約がある単独企業で はなかなか難しい。 ところで、企業の経営資源の蓄積や獲得の方法には種々のものがあるが、その代表的なもの として、①内部開発、②市場取引、③M&A、④アライアンスがある(寺本編、1993)。 第1の内部開発は、既存の内部保有資源を活用する方法で、自ら資源蓄積と実行過程をコン トロールできる。それゆえ、この方法ではその調整上のコストは少なくてすむが、一定の成果 を得るまでに時間がかかるというデメリットがある。次に市場取引の場合も、個々の資源ごと に市場で取引相手を探さなければならないので、非常に多くの時間がかかる。また、M&Aは 必要な知識や技術などの資源を短時間で獲得できるというメリットがある半面、失敗した時の リスクは大きい。これに対して、第4のアライアンスは、必要な資源をスピーディに獲得でき ると同時に、リスクも相対的に少なく、都合が悪くなれば比較的簡単に関係を解消できる、と いう柔軟性を有している。 こうして企業間のアライアンスは、近年のような環境が急速で劇的に変化する時代において は有効な経営方法と考えられるようになってきた。象徴的な事例を示そう。周知のように、 IBMはかつて単独型経営を展開する典型的な会社であった。同社は1980年代までメインフレ ーム・コンピュータ事業で世界的にも圧倒的な競争力を有し、単独でIBM王国を築きあげ、長 年にわたって「世界の超優良企業」として君臨していた。グローバル戦略の展開に際しても、 原則として海外子会社に対し、100%出資する完全所有方式を採用してきた。しかし、1980年 代後半からコンピュータ業界において、いわゆる「ダウンサイズ」が主流になり、パーソナル・ コンピュータが普及し始めると、IBMの業績は急速に悪化するようになった。そこで、IBMは 抜本的なリストラクションを断行するとともに、コンピータのダウンサイズ化に対応するた め、これまでの単独型経営を放棄し、アップルやモトローラとアライアンス関係を結ぶように なった。その後もIBMは多くの企業と相次いでアライアンスを結び、ハードウエアー志向のコ ンピュータ企業からソフトウエアー志向の企業のサービス企業へと変身し、2002年以降再び 順調に業績を伸ばすようになった(中村・山下, 2008)。 近年、このようにIBMに限らず、アライアンス戦略を展開して業績を回復させたり、さらに 成長を実現させた企業は少なくない。たとえば、グローバル競争優位という視点からみると、 必ずしも立地上優位性がなく、むしろ競争劣位にある、といってもよいフィンランドと台湾か ら誕生したノキアとエイサーというような企業も、アライアンス戦略の展開によって成長・発 展し、世界有数の企業になった。このため現在では、自動車、エレクトロニクス、半導体、化 学・医療、金融など、ほとんどの産業の企業間でアライアンスが日常茶飯事のように行われる ようになっている。ヨーロッパの多国籍企業であるフィリップスやシーメンスなどは、実に 1,000社以上とアライアンス関係を結んでいるといわれる(Hoffmann, 2005)。 2 アライアンスの効果と競争優位の構築 さて、アライアンス戦略が、この数十年間で企業のグローバル戦略の中のセカンドベストな
戦略というよりも、むしろファーストベストな戦略として、その中核的な位置を占めるように なってきたけれども、ではそれにはどのような効果があるのか。また、それは企業の競争優位 の構築とどのような関係があるのか。
まず、企業が他の企業とアライアンス関係を結ぶのは、次のような効果があるからである。 (Inkpen & Ramaswamy, 2006 ; 髙井, 2008)
(1)外部資源の獲得 企業がアライアンスによって、そのパートナーから自社が保有していなかったり、不足し ている経営資源を獲得することができる。これによって、企業は規模の拡大、新市場や新事 業への参入、リスク負担の軽減などを可能にすることができる。 (2)規模の経済性 これは企業がアライアンスを行う理由として、最も多く取り上げられものである。それは 企業が単独で経営している場合には実現できない規模の経済によるコスト優位を実現しよう とするものである。たとえば、中小企業が他企業とアライアンスを結ぶことによって、製造、 購買、流通、販売などの面でコストを削減するようなケースである。 (3)スピーディな行動 アライアンスによって企業は市場のニーズに迅速に対応できたり、いち早く市場に参入で きて優位な地位を構築できる。たとえば、海外市場に進出する場合、現地の市場ニーズを十 分に把握できなかったり、種々な法的規制などにより、多くの時間がかかるが、現地企業と 提携すれば、そのような問題は比較的短期間に解決する。 (4)リスクの分散 アライアンスには、新規事業や新製品の開発の際に生じるリスクを分散できる効果もあ る。たとえば、石油、ガス、医薬品などの開発には膨大な投資が必要であるが、その投資に は不確実性があり、リスクを伴うことが少なくないが、企業同士が共同で出資し運営すれば、 そのリスクを分散できる。 (5)新しいスキルや能力の学習 ある企業が異質なスキルや能力を有する企業とアライアンス関係を結ぶと、それは絶好の 学習機会ともなる。しかも、パートナー企業から学習したスキルや能力は企業全体の競争力 の向上に資するので、この効果は大きい。 (6)新規事業の開発 アライアンスは新規事業の機会の探索と開発のベースともなる。とくにベンチャー企業な ど、新規事業開発に先行している企業とのアライアンスは、新規事業についての学習や開発 の機会となる。 このように、企業間のアライアンスには多くの効果があるが、近年ではそれは企業の競争優 位を構築する手段と考えられるようになっている。というのは、昨今のようなグローバル競争 が激しい時代において、企業が他企業との競争で勝っていくためには、グローバルな視点でビ ジネス・チャンスを感知し、外部資源へアクセスしつつ、絶えずイノベーシションに挑戦し、
新しいスキル、能力、企業の価値創造を実現していかなければならないからである。また一方、 最近のようなわれわれの想像を超えるスピードで変化する不確実性の高い時代では、企業が競 争優位を構築するためには、常にスピード感やリスク感覚を持ちながら、フレキシブルな経営 をも展開する必要がある。そうでないと、企業は熾烈な競争で勝てないのみならず、生き残る ことすらできない。 このような時代の要求に応えることのできる経営の一手段がグローバル・アライアンスにほ かならない。こうして、いまやグローバル・アライアンス戦略の策定と実行が企業の大きな課 題となっている。
Ⅱ グローバル・アライアンスのダイナミックスと進化
1 国際提携の変質 近年、グローバル・アライアンスの重要性が指摘され、その戦略の策定と実行が多くの多国 籍企業の経営課題になってきているが、企業間の提携それ自体は決して新しい経営現象ではな い。それはかなり古くからみられたものである。たとえば、化学、製薬、重電など、早くから 国際化の進んだ産業では、1920年代頃から巨大企業間でクロスライセンスが行われていたし、 1930年代にも石油産業で国際的なR&Dコンソーシアがあった。また、1960年代後半から欧米 や日本の多くの企業は、発展途上国へ合弁会社方式で進出していた(長谷川, 1998)。しかしそ れらは、現在のアライアンスとは質的に大きく異なるものであった。国際提携は1980年代の中 頃から質的に大きく変化するようになったのである。 では、企業間の国際提携(international alliance)はどのように変化したのであろうか。この 国際提携の質的変化については、ポーター &フラーをはじめ、多くの研究者が指摘しているが (Porter et al., 1986,竹田, 1994, 竹田, 1998, 長谷川, 1998, 松行, 1999)、それらを参考にして整 理すると、次のようにいうことができよう(桑名, 2003) (1)従来は先進国の企業と発展途上国の企業との提携が多かったが、近年は日、米、欧の先 進国の企業同士で、また同じ産業に属しており、ライバル関係にあっても提携する。 (2)従来の提携は、企業が海外進出するときに、その進出国でのマーケティングや労務管理 など日常業務のノウハウを得るというように、戦術的な性格であったが、最近の提携は最初か ら競争優位を獲得しようとする戦略的意図を持ったものになっている。 (3)従来の提携は、大企業と中小企業というように、企業規模や企業力で格差があり、従っ て支配・従属の垂直関係のものであったが、現在の提携は企業規模に格差があっても、提携内 容に関しては、お互いに対等で水平的な性格のものになっている。 (4)従来の提携では経営資源の移転は支配企業から被支配企業へと一方通行であったが、現 在の提携では対等な企業間で相互補完的になり、しかも学習によって新しい知識、情報、技術 などを獲得するものになっている。 (5)提携はかつて企業の特定の活動、たとえば生産、販売、研究開発など、その1つか2つの 局面で行われたが、現在は各局面で異なる企業と同時並行的に行われる。(6)従来の提携は、2社間であったが、現在は2社以上の複数企業間で、さらに企業グループ 間でも行われている。 従来の国際提携は、概してその多くが企業が海外進出するときに、その進出国の諸制度、市 場動向、経営慣行などに精通していないので、それらの情報、知識、ノウハウなどを得るため に仕方なく現地企業と手を組むというものであった。したがって、それは「ローカル(local)」 で「戦術的(tactical)」な性格のものであった(Porter et al., 1986)。だからこそ、それは多国籍 企業にとってはセカンド・ベストなものであった。しかし、近年の国際提携は多国籍企業が、 たとえば最初からグローバル競争優位を得ようというように、何らかの戦略的意図(strategic intent)を持って行うものになっている。それゆえそれは、たとえ同じ産業のライバル企業であ ろうとも、あるいは世界の複数の企業であろうとも、その戦略的意図が実現できる可能性があ ると判断されれば、実行されるようになっている。したがって、それは「グローバル(global)」 で「戦略的(strategic)」な性格を持つようになり(Porter et al., 1986)、またそれは「競争的共 存」とも表現されるようになっている。こうして、その用語も単なる国際提携から「国際戦略 提 携(international strategic alliance)」 と か「 グ ロ ー バ ル 戦 略 提 携(global strategic alliance)」、あるいは「グローバル・アライアンス(global alliance)」へと変わってきている。 加えて、近年の企業間のアライアンスは、多国籍企業のグローバル・ネットワーク構築の一 環として位置づけられ、前述のように、その競争優位を獲得する手段と考えられている。また、 それはイノベーションの創発との関連でスキル、能力、企業の価値を獲得・創造する方法とも 考えられている。このため、それは多国籍企業のグローバル戦略の中で中核的な位置を占める ものと考えられるようになっている(1)。こうして、近年の多国籍企業のグローバル・アライア ンスには、従前とは異なる新しい役割も期待されるようになっている(2)。 このように、ここ数十年間で国際提携は大きく変質してきたが、その多国籍企業における新 しい役割という視点からみると、グローバル・アライアンスは図表1のように示すことができ よう。 図表1 グローバル・アライアンスの進化プロセス スキルや能力 の獲得・創造 組織間学習 価値創造 資源のインプット 企業 A 企業 B シ ナ ジ ー 効果 シ ナ ジ ー 効果 出所:筆者作成。
多国籍企業Aが企業Bとアライアンスを結ぶと、まず両社間で経営資源のインプットがある。 次に、この経営資源のインプットを通じて、そのパートナーから、あるいはその両社間で組織 学習(organizational learning)が行われる。そのパートナー同士はそれぞれ異なる理念・ビジ ョン、戦略、経営管理システム、技術などを有しているので、両社が学習すると、そのプロセ スでコンフリクトが発生することもあるが、シナジー効果も期待できる。その結果、両社は新 しいスキルや能力を獲得・創造できるようになり、企業の価値創造へとつながっていく。この 一連の活動はアライアンスの進化プロセスでもあるが、このような活動によって、イノベーシ ョンが創発され、企業の競争優位が構築できることになる。現在のグローバル・アライアンス には、このような役割が期待されているのである。 2 グローバル・アライアンスのダイナミック・プロセス 多国籍企業が他企業とアライアンスを結び、競争優位を構築するために新しいスキルや能力 を獲得し、さらに企業の価値創造へと進化させていくには、その一連の活動プロセスをどのよ うにマネージするかにかかっている。このマネジメント次第で、アライアンスがダイナミック なものになるかどうかが決まる。しかし、それはグローバル・アライアンスの場合にはとくに 難しい。そこで、ここでは、そのマネジメント・プロセスについて議論していきたい。 グローバル・アライアンスのマネジメント・プロセスは、図表2に示すように、大別すると、 (1)アライアンスの形成段階、(2)アライアンスのガバナンス段階、(3)アライアンスの進化 段階に分けることができる(3)。以下、それぞれの段階について、その重要課題を指摘しょう。 図表 2 グローバル・アライアンスのマネジメント・プロセス アライアンスの形成 段階 目標の明確化 アライアンス形態の 選定 パートナーの決定 アライアンスのガバナ ンス段階 パートナーのコミット メント パートナー間の信頼 関係の構築 パートナー間のコンフ リクトの解決メカニズム アライアンスの 進化段階 共同学習 再評価 再調整 出所:筆者作成。 (1)アライアンスの形成段階 この段階は、企業のグローバル戦略に基づいて、他企業と提携契約を結ぶまでの段階である。 この段階では多くの重要課題があるけれども、その中でもアライアンス目標の明確化、アライ アンス形態の選定、パートナーの決定が重要になる。 まず、企業はアライアンス目標を明確にする必要がある。前述のように、アライアンスの効
果には多様なものがあるが、企業はどのような効果を期待して他企業と手を結ぶのかを明らか にしておく必要がある。この目標が明確でないと、アライアンスは失敗する可能性が大きい。 とくに、グローバル・アライアンスの場合、パートナーには戦略的意図があるので、その目標 が明確でなければ、自社の貴重なスキルやコア能力さえもパートナーに奪われてしまう危険性 もある。後述するように、とくに全社のグローバル戦略との関連でアライアンス目標を明確に する必要があろう。 次に、アライアンス形態の選定がある。アライアンスと一言でいっても、その形態には多種 多様なものがある。それには大別すると、資本提携と契約提携があるが、後者にはライセンシ ング、共同R&D、共同生産、共同販売、コンソーシアムなどがあり、前者には合弁会社があ る。それらにはそれぞれメリット、デメリットがあるので、企業はアライアンス目標に基づい て、その形態を選定していく必要がある。 さらに、アライアンスの形成段階の中で最も重要な課題といってよいのがパートナーの決定 である。これまでの多くの研究によれば、もし企業が最良のパートナーを発見し、その企業と 提携すれば、アライアンスの成功の確率は高いが、逆のケースは失敗の確率が高い。パートナ ーの決定に際しては、とりわけ相互補完性(complementarity)と親和性(compatibility)が重 要になる(Kale and Singh, 2009)。相互補完性とは、パートナー間の資源面での貢献度であり、 親和性とはパートナー間の理念、戦略、経営管理システム、組織文化などの適合性をいう。す なわち、企業がパートナーを決定するときには、自社が保有していない、または自社に不足す る資源を有しており、それらを提供できる企業、および自社の理念、戦略、経営管理システム、 組織文化などと類似している企業を選択することが重要なのである。 (2)アライアンスのガバナンス段階 グローバル・アライアンスは、外国企業同士が手を組み、しかもそれぞれが戦略的意図を持 っているがゆえに、それには多くの不安定要素があり、両者間でいつコンフリクトが顕在化し 提携解消へと至るかはわからない。このような事態に陥らないように、企業は常にアライアン スを統治しておく必要がある。 アライアンスのガバナンスの手段としては、提携の契約条項や出資比率もあるけれども (Kale and Singh, 2009)、パートナーのコミットメント、パートナー同士の信頼関係の構築、パ
ートナー間のコンフリクトの解決メカニズムの構築が主な課題となる。 まず、アライアンスを安定させ成功させるためには、パートナーのコミットメントが不可欠 となる。パートナー同士が本気で熱意を持って共同事業に取り掛からないと、アライアンスは 途中で挫折する危機に見舞われる。とくに、それぞれのトップのコミットメントがアライアン スの成否を決定するといってよい。 次に、パートナー同士の信頼関係の構築が大事である。パートナー同士の信頼関係は多くの 要因から構築されるが、双方がWin-Winの関係になることが第一条件である。どちらか一方が Winで、他方がLoseの関係ではアライアンスは長続きしないし、大きな成果も期待できない。 とくに戦略的なアライアンスでは、パートナーが自己の利益を優先して機会主義的な行動に走
ることも少なくないので、細心の注意を払う必要がある。パートナー同士が信頼関係を構築す るには、さらに双方が透明性を保ち、互恵関係を築くことも重要であることを忘れてはならな い。 とはいっても、グローバル・アライアンスでは、パートナー間のコンフリクトの発生は不可 避である。そのコンフリクトはパートナー間の戦略、経営管理システム、組織文化、さらには その背後に存在する国や地域の文化的価値観の相違に起因するものかもしれない。また、双方 のミス・コミュニケーションによるものかもしれない。パートナー間でコンフリクトが発生す ると、両者間の協力や共創は不可能である。したがって企業には、そのようなコンフリクトの 解決メカニズムの構築がきわめて重要である。 (3)アライアンスの進化段階 さらに、企業は長期的な観点に立ち、グローバル・アライアンスを通じて、自社のスキルや 能力を強化し、その価値創造を目指すには、パートナー同士が協力してアライアンスを進化さ せることが不可欠となる。とくに、これは合弁形態のアライアンスに当てはまる。アライアン スが短期間で終結に至るのではなく、長期間にわたって双方のパートナーにとって価値あるも のとなるには、ドーズらによれば(Doz and Hammel, 1998)、パートナーが共同学習によって、 それを進化させることが重要となる。彼らの研究によれば、成功しているアライアンスは、い ずれも時間とともに進化しており、学習、再評価、再調整のサイクルを相互に展開していると いう。それに反して、失敗しているアライアンスは、初期の惰性が強く、学習が乏しく再評価、 再調整が機能していないケースが多いという。 3 グローバル・アライアンスの進化と組織間学習 多国籍企業がアライアンスによってパートナーから新しいスキルや能力を獲得したり、また それらをパートナー同士で共同で創造していくためには、それを進化させる必要があるが、そ の前提条件となるのがパートナー間の学習である。アライアンス関係を結ぶ企業がパートナー から新しいスキルや能力を学習したり、両者でそれらを共同して創造すれば、双方にとってよ り高い価値が創造され、アライアンス自体が高次元なものに姿を変えるという、いわゆる「進 化」の段階に達するのである(4)。その意味ではアライアンスは、別言すると、組織間の「学習 メカニズム」でもある。 事実、過去のアライアンスについてみると、それを絶好の学習機会とみなし、他企業から新 しいスキルや能力を学び、成長・発展を遂げた企業は少なくない。その典型的な企業が第二次 大戦後の日本企業であった。欧米の研究者によれば、日本企業は早くから外国企業との提携を 学習の場として利用してきた(Pucik, 1995 ; Hammel, Doz and Prahalad, 1989, Hammel, 1990)。その2、3の事例を挙げれば、たとえば、NECはハネウエルなど、また松下電器(現パ ナソニック)はフィリップスなどとの提携関係を通じて、多くの先進的な技術や経営管理ノウ ハウを学習して優れた製品を製造できるようになったし、ホンダもローバーとの提携でヨーロ ッパ的なスタイリング技術やマーケティング・スキルを身に付けた。このような事例は枚挙に
いとまがない。
1970年代頃まで、日本企業は欧米企業に対して、いわゆる「生徒」の立場で先進的な技術や スキルを学習したからこそ(Hammel, Doz and Prahalad, 1989)、優れた製品を製造すること ができ、結果的には欧米企業をキャッチアップするまでに成長・発展し、国際競争力をも身に 付けることができたのである。しかし、1980代頃から、今度は逆に欧米企業や韓国、台湾など アジア企業が日本企業とのアライアンスを通じて、その優れた生産技術や経営管理ノウハウを 学習するようになった。とくに、日本企業の生産システムや生産管理ノウハウは非常に優れて いるので、それを学習しようとした外国企業が多い。トヨタとGMのアライアンスもその事例 の1つであった(5)。両社は1983年にアメリカのカルフォルニアに合弁会社、NUMMIを設立し たが、トヨタ側はアメリカでの現地生産のためのノウハウ、たとえば労働組合への対応や販売 方法などを学習する狙いがあったが、一方GM側はトヨタの優れた生産方式を学習し、その知 識やスキルを自社のいくつかの工場へ移転し、それらの生産性や自動車の品質を高めようとし た(Inkpen, 2008)。 また、韓国や台湾などのアジア企業も、日本企業から日本的な生産技術や生産管理ノウハウ をはじめ、多くの経営管理に関するスキルやノウハウを学習し急成長を遂げた。近年では中国 企業が日本企業から非常に熱心に学習しているのは周知の事実である。 このように、企業が新しいスキルや能力などを獲得するにはアライアンスを学習の機会と捉 える必要があるが、さらにそれらを企業同士で共同して創造していくためにはアライアンスを 進化させる必要がある。こうして、アライアンスの進化と組織間学習の間には、図表3で示す ような関係がある。この図表で示すように、アライアンスの組織間学習プロセスがパートナー からのスキルや能力の獲得から、そのパートナー同士の創造へと進展すれば、アライアンスが 進化したことになる。まさにアライナンスがダイナミックに展開されるとともに、イノベーシ ョンへと進展することになるのである。 図表 3 組織間学習とアライアンスの進化 組織間学習 アライアンスの進化 スキルや能力の 獲得
組織間学習プロセス
スキルや能力の 創造 出所:筆者作成。日産とルノーのアライアンスは、そのようなケースに近い。このアライアンスは、アジア市 場での地位を確立したいルノーと財務状態が悪化し、経営の再建を模索していた日産の思惑が 一致して1999年に締結された。当初日産はルノーのコスト管理、製品デザイン力などを学習 し、他方ルノーは日産の品質管理、製品開発や技術などを学習することを目的としていたが、 アライアンスが進展するにつれて、両社はシナジー効果を追求するようになり、共同プロジェ クトを立ち上げるようになった。ルノー日産共同購買会社の設立、日産のメキシコ工場でのル ノー車の開発などから始まり、現在では製品開発、購買、供給体制、生産、マーケティングな ど、実に多くの面で、日産とルノーの共同プロジェトがある。この共同プロジェクトの根底に あるのは、両社にある相互の学習とシナジー効果を活かす共創の精神だという(野中・徳岡 ,2009)。こうして、このアライアンスはスタート時は「日産の技術をルノーのコスト」という合 言葉で相互学習が中心であったが、いまでは両社による地球環境問題への対応など、大局的な 戦略まで話し合いが行われる段階にまで進化しているという(野中・徳岡,2009)
Ⅲ 複数のグローバル・アライアンスのマネジメント
さて、前節まではグローバル・アライアンスといっても、2 つの企業間のアライアンス (dyadic alliance)を中心に議論を展開してきた。しかし実際には多国籍企業の場合、多数の企 業とアライアンスを締結しており、その数は一社で数百件、多い場合には1,000件を超える。こ のような現実から、最近ではグローバル・アライアンスについて研究するとき、2つの企業間 のアライアンスだけではなく、複数の企業間のアライアンス(multiple alliance)をも対象にす るようになってきた。そこで、ここでは複数のグローバル・アライアンスのマネジメントの問 題について検討することにする。 現在の多国籍企業は、実に多様な企業とアライアンスを結ぶようになっている。また、それ は、航空産業のStar AllianceやOne Worldのように、同じ産業に属する企業同士が形成するグ ローバル・グループのアライアンスにも加盟するようになっている。このため、現実には多様 なグローバル・アライアンスがある。ハメルとドーズは、複数のパートナーから成るアライア ンスを①アライアンス・ネットワーク、② アライアンス・ポートフォリオ、③ アライアンス・ ウェブの3つにタイプに分類している(Hammel and Doz, 1998)。彼らの分類が妥当であるか 否かは別にして、現在の多国籍企業は複数の企業とアライアンスを結ぶようになっているの で、それをどのようにマネージするかがきわめて重要な課題になっている。このマネジメント が巧みであれば、企業はそのアライアンスから多くのベネフィットを得ることができようが、 逆にそれが拙いと、失うものも少なくない。こうして、最近複数のアライアンスをどのように マネージしていくかということで、「アライアンス・ポートフォリオ・マネジメント(alliance portfolio management)」が議論されるようになってきている。 では、アライアンス・ポートフォリオ・マネジメントの課題にはどのようなものがあるのか。 ホフマンによれば、それには次のような課題がある(Hoffmann, 2005)。 (1) ポートフォリオ戦略の策定と実行現在の多国籍企業は、多様な事業を行っているので、アライアンスも事業レベルで行われるケ ースが多い。しかし、それはあくまで事業レベルのアライアンスであり、全社的なものではな い。そのため、企業は事業レベルのアライアンスの目標や方針を明確にすると同時に、それら を全社的な視点で管理するルールを決定する必要がある。これによって、企業はグローバル・ ネットワークや組織間関係の中での各アライアンスのポジションを明確にすることができると ともに、その資源の最適配分をも可能にさせることができて、結果的に全社的な競争力を向上 させることができる。 (2) ポートフォリオの調整 企業が複数のアライアンスを構築している場合、そのアライアンス間でシナジー効果が期待 できる反面、コンフリクトも発生する。このため、企業はアライアンス間の調整をする必要が ある。この場合、全社レベルのグローバル戦略と一致させるような形で各アライアンスを調整 することが肝要となる。とりわけ、アライアンス間でシナジー効果が創出されるように調整す れば、全社的にもアライアンス効果は大きい。 (3) ポートフォリオのモニタリング また、多国籍企業はアライアンスがどのように実行され、かつどのような成果を上げている かについてもモニターする必要がある。この場合でも、事業単位レベルで各アライアンスをモ ニターすると同時に、全社レベルでもアライアンスをモニターする必要がある。このモニタリ ングは全社のグローバル戦略との関連で、各アライアンスの貢献度という視点から行われる必 要がある。そのモニタリングの手段には戦略目標の達成度、財務指標、評判などがある。 (4) アライアンス・マネジメント・システムの確立 さらに企業は、複数のアライアンスのマネジメント能力を向上させる必要もあるが、そのた めにはアライアンス・マネジメント・システムの構築が不可欠である。このアライアンス・マ ネジメント・システムは、換言すれば、事業レベルと全社レベルの両方のアライアンスのマネ ジメントを支援するインフラストラクチャーとなるものである。ホフマンの調査研究によれば (Hoffmann, 2005)、このマネジメント・システムとして、能力開発センター(centre of competence)やアライアンス・マネジメントの専門組織を設立している企業がある。このよう な組織はアライアンス・マネジメントに関する有効な手法や方法を開発・提供して、多様なア ライアンスを支援するのである。 世界の多くの企業とアライアンス関係を結んでいる多国籍企業は、このようなアライアン ス・ポートフォリオ・マネジメントを実践し、アライアンスの中でも将来の長期にわたっても 継続するもの、あるいは進化させるもの、さらにその提携関係を解消するものなどを決定して いく必要がある。昨今のように、環境変化が激しい時代においては、企業はその変化に応じて、 アライアンス関係を見直し組み替えていくことも必要である。GEは日本企業とも非常に幅広 いアライアンス関係にあり、その分野も宇宙・航空、医療、発電機、金融などに及んでいる。 だが、同社はコア技術については、手元に置きながら、アライアンスのパートナーを柔軟に選 択し、その組み換えを巧みに行っているという(髙井, 2008)。これからの多国籍企業のグロー
バル・アライアンス戦略には、このGEのような戦略や能力が求められるのである。
Ⅳ グローバル・アライアンス戦略の挑戦課題
1 グローバル・アライアンスの拡大 以上でみてきたように、企業間提携は時代とともに変化し進展してきている。国際提携の場 合も、最初は2つの企業間で不足する資源を補完するケースが多かったが、その後企業のグロ ーバル化が進展し、世界の企業間競争が激化すると、競争優位を獲得するため、戦略的なもの になり、ライバル企業であろうとも、さらに複数の企業であろうと、アライアンス関係を結ぶ、 という性格に変わってきた。さらに近年ではパートナー同士が学習し、共進化を目指すような アライアンスもみられるようになってきた。この結果、現在では多くの多国籍企業は、アライ アンスをグローバル・ネットワーク構築の一環とみなし、自社のスキル、能力、価値の創造に 不可欠なもとの考えるようになってきている。 しかしこれは、前述したように、多国籍企業がグローバル・アライアンスから多くのベネフ ィトを得ることがある半面、そのマネジメントが拙いと、失うものも少なくないし、さらに最 悪の場合にはその関係を解消する、というリスクをも抱えていることを意味している。こうし て、グローバル・アライアンスの範囲が拡大するにつれて、そのマネジメントがきわめて重要 になってきている。 それだけではない。今日の多国籍企業はグローバル社会の一員として自らの利益を追求する にとどまらず、プロアクティブにCSR(社会的責任)を果たし、世界の持続可能な発展に向け て貢献することが求められている。このような社会的責任を果たすためには、多国籍企業は政 府機関、大学、研究機関、NGOなど、新たなステークホルダーともアライアンス関係を結ぶ必 要もある。とくに近年では地球温暖化、資源・エネルギーの枯渇、低開発諸国における貧困問 題など、人類の生存自体をも脅かす深刻な問題が多く顕在化してきているので、このような問 題への取り組みには、多国籍企業だけでは不可能で、政府機関、大学、研究機関、NGOなどと アライアンスを構築することが不可欠となっている。 こうして、いま革新的な多国籍企業は、このような組織とも連携し、かつて想像もしなかっ たような新しい課題に取り組み始めるようになっている。たとえば、ナイキはインドネシアの 委託工場で、従業員の劣悪な労働条件、低賃金労働など、その社会的責任を追及されたとき、 「グローバル・アライアンス」というNGOと提携し、その問題解決に乗り出した。また、ヒュ ーレッド・パッカードも人口の半数以上が貧困線を下回る暮らしをし、3人に1人が読み書き もできないインドのある貧困地域で、市民や行政と協力しながらITを梃子にして新規市場の 開拓や新しい製品・サービスの開発を進め、その地域の経済・社会の発展に貢献する活動を始 めた(Dunn and Yamashita, 2003)。このような経営活動については、欧米企業に遅れをとっている日系多国籍企業も、最近国際 機関や外国のNGOなどと連携し、BOP(Base of Pyramid)ビジネスという新しい事業に乗り 出し始めている。たとえば、住友化学がアフリカにおける貧困削減とマラリア防止に不可欠な
「防虫蚊帳」を開発し、世界保健機構(WHO)、ユニセフ、世界銀行などの国際機関と協力した 事業を展開している(菅原・大野・槌屋, 2011)。ヤマハ発動機もアフリカのセネガルでベルギ ーのNGOと協力して「点滴灌水」という新しい農法を開発し、地域の農業支援事業を行ってい る(菅原・大野・槌屋, 2011)。 最近、多国籍企業は、このような政府機関、大学、研究機関、NGOなどの非営利組織と連携 し、これまでビジネス面で等閑視されてきた地域や問題に取り組みは始めているが、このよう な動きは将来においてますます活発になると思われる。また、それは今後の多国籍企業の新た な成長・発展のためのビジネスとなり、新たな競争優位の構築にも貢献するものと予想される。 しかし、それはまた、多国籍企業にとっては新しいアライアンスであり、そこには営利組織と のそれとは異なる多くの複雑な課題がある。したがって、そのような課題へのアプローチは将 来の多国籍企業のグローバル・アライアンス戦略の新しい挑戦課題となろう。 2 日系多国籍企業のグローバル・アライアンス能力の課題 以上のように、現在ではグローバル・アライアンス戦略は多国籍企業のグローバル戦略にと って不可欠なものになり、したがってその展開能力が多国籍企業の将来の経営業績を左右する ようになっているといってもよいが、では日系多国籍企業のグローバル・アライアンス戦略の 展開能力は高いのであろうか。今後の日系多国籍企業のグローバル戦略の展開にはどのような 課題があるのか。最後に、この問題について考えてみたい。 前述したように、第二次大戦後日本企業は、欧米企業から先進的な技術や経営管理ノウハウ を学習・獲得するために、彼らと提携関係を結んだ。その結果、日本企業は欧米企業から、そ のような技術や経営管理ノウハウを獲得・応用しつつ高品質の製品を生産し、彼らをキャッチ アップすることに成功して、国際競争力をも身に付けることができた。その意味では、日本企 業はアライアンスを構築し、運用する能力に長けていたといえる。しかし、それは過去のこと である。世界の企業がグローバル競争優位を構築するために、多くの外国企業とアライアンス 関係を結ぶ今日では、日本企業のグローバル・アライアンス能力は必ずしも高いとはいえない のではないか。そこで、今後日系多国籍企業がグローバル・アライアンス戦略を展開・実行し ていくための課題について考えると、次のような点を挙げることができよう。 第一に、グローバル・アライアンス戦略の展開には全社的なグローバル戦略との整合性が課 題になる。現在の多国籍企業にとって、グローバル・アライアンス戦略が重要になってきてい るといっても、その戦略はあくまで全社的なグローバル戦略の一部でしかない。ところが、多 くの日系多国籍企業においては、現在のところ、その両者の関係を明確にしないままにアライ アンスを結ぶケースが少なくない。これでは企業の戦略間で混乱が生じ、アライアンスのメリ ットを十分に活かすことができない。全社的なグローバル戦略とアライアンス戦略の目標や方 針を明確にしたうえで、他企業とのアライアンスに乗り出すべきである。また、日系多国籍企 業は生産現場の技術や生産管理のノウハウには優れているが、グローバル戦略の策定能力に関 しては、欧米の多国籍企業に劣るといわれている。それゆえ、この面での能力も向上させない
と、日系多国籍企業のグローバル・アライアンス戦略は成功しないであろう。 第二に、近年日系多国籍企業も欧米多国籍企業と同様に、多くの外国企業とアライアンスを 結ぶようになっているが、そのマネジメントが課題となる。企業が複数のアライアンスを形成 すると、各アライアンスの全社的なポジショニング、その目標や方針、さらには成果などをモ ニタリングをしないと、それらのメリットを活かすことができないのみならず、アライアンス 間のシナジー効果も期待できない。それにはアライアンス・ポートフォリオ・マネジメントを 行う必要があるが、日系多国籍企業でそのようなマネジメントを導入しているところはまだ少 ない。したがって、日系多国籍企業においても、アライアンスに関する専門組織を設置するな どして、そのマネジメントを行うことが急務となっている。 第三に、日系多国籍企業にも地球環境問題、資源・エネルギーの枯渇、低開発国の貧困問題 をはじめとする今後の国際社会にとってきわめて重要な問題に取り組むため、世界の多くの政 府機関、大学、研究機関、NGOなど、いわゆる非営利組織とアライアンス関係を結ぶ機会がま すます増えることが予想される。しかし、いうまでもなく、このような組織とのアライアンス は、営利組織のそれとは多くの点で異なる。日系多国籍企業は欧米の多国籍企業に比べ、この ような組織とのアライアンスの経験が少ないで、そのスキルやノウハウを十分に持っていると は言い難い。したがって、このような点も日系多国籍企業の大きな学習課題になるだろう。 第四に、グローバル・アライアンスの形成には異質な文化を持った人々との交渉や濃密なコ ミュニケーションが必要となるが、日本人はこのような能力も決して高いとははいえない。む しろ、日本人は外国人に比べると、そのような能力で劣るといった方が適切かもしれない。と いうのは、ホールの研究に従えば(Hall, 1976)、日本人は高コンテクストの文化に属し、コミ ュニケーションの仕方は、低コンテクストの文化を有する世界の多くの国々の人々とは大きく 異なり、かなり特殊であるからである。加えて、日本人はビジネスの世界共通語である英語能 力にも劣るので、アライアンス戦略の展開の際には、それがアキレス健にもなりかねない。今 後日系多国籍企業は、このような言語能力も高める必要がある。 いずれにしても、日系多国籍企業がグローバル・アライアンス戦略を展開し、それを成功さ せるためには、最終的にはその主体となる人材の能力にかかっているといえる。したがって、 今後の日系多国籍企業のグローバル・アライアンス戦略の成否は、グローバル人材の獲得や育 成にかかっているといっても過言ではない。日系多国籍企業のグローバル・アライアンス戦略 の展開には、少なくとも以上のような課題への挑戦が望まれる。このような課題に果敢に挑戦 し、グローバル・アライアアンスを通じて新たなスキルや能力を獲得・創造することができれ ば、日系多国籍企業はこれまでとは異なるグローバル競争優位を構築することもできるのでは ないだろうか。
おわりに
以上、本稿では多国籍企業の競争優位の構築という視点からグローバル・アライアンス戦略 の展開にかかわる重要課題について議論してきた。国際的な企業間提携はかつて自社に不足する経営資源を補完するために、現地企業などと手を組むという、いわゆる「ローカル」で「戦術 的」なものであったが、近年ではグローバルな競争優位を構築するために、たとえライバル企 業であっても、アライアンス関係を結ぶという、「グローバル」で「戦略的」なものに変質して きた。また、最近のグローバル・アライアンスにはパートナー同士が共同でスキルや能力を創 造し、企業の価値創造を目指す、という共進化を遂げようとするものもある。 一方、近年の多国籍企業は世界の多数の企業ともアライアンス関係を構築するようになって いる。このグローバル・アライアンスは二社間のそれとは異なり複雑であるので、企業に新た なマネジメント上の問題を提起している。さらに、最近の多国籍企業は地球温暖化、資源・エ ネルギーの枯渇、低開発国の貧困問題など、人類の生存すらも脅かすような世界的規模の課題 にも政府機関、大学、研究機関、NGOなどとアライアンス関係を構築し、「持続可能な社会」 の構築に向けて責任を果たさなくなければならなくなっている。しかし、このような新たな課 題への挑戦は、多国籍企業に対し、グローバル・アライアンス戦略の展開能力とそのマネジメ ント能力を問うものでもある。これは、換言すれば、グローバル・アライアンス戦略の展開能 力とそのマネジメント能力が将来の多国籍企業の競争優位を決定するものであるともいえる。 このようなグローバル・アライアンス戦略の展開能力とそのマネジメント能力について、日 本企業のそれらをみると、欧米企業をキャッチアップするときまではかなり高いレベルにあっ たけれども、その後そのような能力は次第に低下するようになったのではないかと思われる。 近年ではそれらは欧米企業、あるいは韓国、台湾、中国などのアジア企業に比べると、むしろ 劣るようになっているのではないだろうか。ここに日本企業にはグローバル・アライアンス能 力の向上が喫緊の課題になっていると同時に、それがまた、グローバル競争優位の構築のキメ 手にもなるように推察される。しかし、その能力向上に向けての道程は必ずしも平坦ではな い。 *本稿は、平成21 ~ 23年度科学研究費補助金(基盤研究(C)課題番号21530405)による研究 成果の一部である。
[注]
(1) 竹田によれば、国際提携が変質するにつれて、その活動は多国籍企業の基本経営戦略に組み込ま れるようになった(竹田、1996,59ページ)。 (2) 国際戦略提携の新しい役割については、桑名(2003)を参照されたい。 (3) このグローバル・アライアンスのマネジメント・プロセスについては、Faulkner(1995)、Kale and Singh(2009)などを参考にして議論している。 (4) 野中によれば、戦略提携には補完性の獲得を目的とする段階の「相互補完」型と新しい知識の創造 が行われる段階の「共同創造」型があり、後者の段階に到達することによって、それは真に意味があ るものとなる(野中、1991)。 (5) この合弁会社は自動車業界では歴史的な提携であったが、2009年に解消している。参考文献
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