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エネルギー業界における競争優位の

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(1)

現在、電力、都市ガスの小売り自由化の拡大期にある。エネルギー需要の大

きな伸びが期待できないなかで、従来の各社横並びの経営のままでは成長を維

持することが難しい時代に突入した。一方で、電力会社、大手都市ガス会社は、

大型設備投資が一巡し、キャッシュが潤沢な財務状況にある。だが、それを目

先の値下げに費やすだけでは、自由化の成果が十分に得られたとはいえない。

自由化、規制緩和で先行する通信、金融などの分野では、競争力の源泉が明

確になるなかで、各社が自社の強みを見極め、独自の戦略で成長を実現してい

る。エネルギー業界でも、各社の独自の強みを見極めて成長のシナリオを構築

し、コアコンピタンス(中核業務)の強化を急ぐべきである。

そのためには、自社のアクションが他社の経営に及ぼす影響について、総合

的かつ動的なシミュレーション分析を行うことが極めて重要になる。この結果

を経営情報として統合化することで、独自の成長に向けた第一歩を速やかに踏

み出していくことが可能になる。

エネルギー業界における競争優位の

確立に向けて

石上圭太郎      山内 朗

特集

エネルギー業界

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1

エネルギー自由化の進展

2004年度に入って、電力では高圧需要家に 対する小売りの自由化、都市ガスでは同様に 50万m3以上の需要家への自由化などが進み、 1996年から始まった電力、ガスの自由化も対 象顧客数が飛躍的に増加する局面を迎えてい る(図1)。 従来は、政府の規制のもとに、電力、都市 ガスなどのエネルギー会社は、定められた供 給エリア内で、認可を受けた規制料金で、同 じ属性の顧客には同一料金で、エネルギーを 提供してきた(いわゆる地域独占)。空調機 器やコージェネレーション(熱電併給)シス テムなど一部のものについて、電力会社と都 市ガス会社との間で機器選定をめぐる競合が あった程度で、エネルギー会社間での競争は 極めて限定的であった。 顧客獲得や価格での競争が許容されていな かったエネルギー業界では、自由化に対応し て、まず、同業他社の陣地を攻めることより も、自社の布陣を固めることに重点が置かれ てきた。実際、2004、2005年度の自由化に備 えるために、電力、都市ガスの各エネルギー 会社は、自らの供給エリア内の顧客が他のエ ネルギー会社に乗り換えないよう、ソリュー ション営業を強化してきている(本号の「自 由化拡大期を迎えた電力業界の営業再構築」 を参照)。 一方で、エネルギー業界でのいわゆる新規 事業者の存在感はいまだに薄い。エネルギー の需要家は、2000年以降の小売部門の自由化 に対し、他の先進諸国に比べて高いといわれ てきた電気、ガスの料金が低下するのではと 熱い期待を寄せていた。特に、強力な新規参 入者の出現によって、既存の電力会社を巻き 込んだ価格競争が一挙に進む構造的な変化を 思い描いていた。 しかし実際は、自由化により、PPS(特定 規模電気事業者)や 自家発電代行サービス 会社などの新規参入者が電力会社に競争を挑 み、ある程度のシェアを獲得したことも事実 だが、これまでのところ、売り上げで1兆円 クラスの電力会社、大手都市ガス会社に対し ては、本質的な意味での競合とはなり得てい ない(次ページの図2)。 この背景としては、電力会社の電力料金に おける価格競争力が、新規参入者に対して十 分に高かったこともあげられる。たとえば、 2002年の電力料金の引き下げは、当時の自家 発電(コージェネレーション)導入ブームに 水をさす効果があったといわれている。 これに対して、2004年度に幕を開けた新し い競争のフェーズは、売り上げ1兆円クラス のエネルギー会社間の「ダイヤモンド・カッ ト・ダイヤモンド」(強者同士の戦い)にな る可能性がある。

Ⅰ エネルギー自由化の

意味するもの

図1 エネルギー自由化の拡大に伴う対象顧客数の増加 自 由 化 対 象 顧 客 の 比 率 ︵ 電 力 契 約 ベ ー ス ︶ 2000年3月30日 >特別高圧需要  家への小売り  自由化開始 2004年4月の自由化 拡大 >高圧大口需要家 (500kW以上)へ  の小売り自由化 2005年4月の自由化 拡大 >高圧小口需要家 (50kW以上)へ  の小売り自由化 >パンケーキ問題  の緩和 0.1% 0.3% 7.0% 2000年 2004年 2005年

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2

静的なベンチマーク競争の終焉

地域独占のフレームワークの中で、電力会 社間では従来、緊密な情報交換を行い、設備 投資や供給コストなどさまざまな側面で互い にベンチマークを行ってきていた。こうした ベンチマークを通じて、一歩一歩他社との間 合いを測り、他社の状況を確認しながら、戦 略の舵取りを行うことも可能であった。実 際、各社の財務体質強化の歩調は、驚くほど 一致している(図3)。 しかし、小売りの部分自由化を境に、こう した他社との交流は急速に途絶えている。電 力会社の企画、財務、大口営業の各部門にお いて、「昔と違って情報を交換しづらくなっ ている一方で、会社がどのような戦略を考 え、将来どのような行動に出ようとしている のかもわからず、不安である」といった声が よく聞かれる。 こうした状況下で、各社には、好むと好ま ざるとにかかわらず、独自の個性を活かした 成長戦略が求められてくる。

3

自由化に立ち向かうエネルギー

業界のトリレンマ

自由化時代のエネルギー会社間競争のあり 方は、他産業における競争とは様相が異なる 可能性がある。その特徴は、以下の3点に集 図2 電力、ガス、PPSなどの会社規模比較 設 備 容 量 ︵ 千 キ ロ ワ ッ ト ︶ 電力小売り新規参入者 注)PPS:特定規模電気事業者 出所)日本電気協会『電気事業便覧』および各社の事業計画などより作成 東 京 電 力 関 西 電 力 中 部 電 力 九 州 電 力 東 北 電 力 中 国 電 力 四 国 電 力 北 陸 電 力 北 海 道 電 力 大 阪 ガ ス ︵ 2 0 1 0 年 、 計 画 ︶ ダ イ ヤ モ ン ド パ ワ ー ︵ 2 0 1 0 年 、 計 画 ︶ エ ネ ッ ト ︵ 2 0 1 0 年 、 計 画 ︶ エ ネ ッ ト ︵ 2 0 0 3 年 度 ︶ ダ イ ヤ モ ン ド パ ワ ー ︵ 2 0 0 3 年 度 ︶ 新 日 本 石 油 ︵ 2 0 1 0 年 、 計 画 ︶ 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 60,377 35,434 32,733 19,347 16,048 12,204 6,893 6,759 6,604 1,640 552 391 326 252 58 図3 電力中央3社の有利子負債比率の変化 出所)各社の有価証券報告書より作成 東京電力 関西電力 中部電力 % 年度 70 75 80 85 90 1992 93 94 95 96 97 98 99 2000 01 02

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約できるだろう。 (1)コミュニケーションの断絶 競争の経験に乏しい電力会社、都市ガス会 社は、競争環境下で、競合他社との情報交換 やコミュニケーションも困難な状況に置かれ ている。たとえば、統計整理の必要から他社 に高圧電力の顧客数を尋ねた電力会社が、営 業戦略の立案に利用するのではないかと疑わ れて、公開データであるにもかかわらず、な かなかデータを提供してもらえなかった、と いったエピソードがある。 自由化のもとでの競争に対する不安感か ら、他社の一挙手一投足に注目し、そこから 意図を読み取ろうとしている現状がある。 (2)業際競争本格化の可能性 同業の電力会社間でもコミュニケーション の断絶により不安が高まっているなかで、都 市ガス会社の電力小売事業への参入、電力会 社のガス事業への参入による業際競争によっ て、企業文化、行動原理が異なる他業界の会 社との本格的な競争が始まっている。 電力会社はガス会社について、ガス会社は 電力会社について、「相手が何を考えている のかわからない。われわれの想像もつかない ような突拍子もないことを始めるのではない か」といった不安を抱いている。電力会社と ガス会社とでは、業種が異なるため、強みを 持ちこだわりを持っている機能や顧客もかな り異なる(図4)。 同じエネルギー業界でも、電力とガスでは 競争力の源泉が異なり、このため行動原理が 大きく異なっている可能性がある。意図せざ る全面戦争に巻き込まれる危険性は、随所に 生じてくるのである。 このような疑心暗鬼、不安をコミュニケー ションにより晴らすことも難しい状況下で、 ひとたび大手エネルギー会社間で本格的な競 争が始まれば、行き着くところまで行ってし まうのではないか、という漠然とした不安感 がエネルギー業界を覆っている。 (3)際限なき消耗戦の可能性 電力会社、大手都市ガス会社は、売上高が 1兆円クラスの企業である。また、電力、大 手都市ガス各社は、大規模な設備投資が一巡 した後のコスト低減と財務体質の強化を通じ て、すでに膨大なキャッシュを生み出せる体 力を備えている。こうしたキャッシュによる 有利子負債の削減は相当進み、自社株の購入 でも消化しきれない状況が生じつつある。 東京電力、関西電力、中部電力の間でも値 下げの余力は肉薄しており、全面的な価格競 争は勝者を生まない消耗戦になる可能性が大 きい。競争の果てに勝ち残った会社も、勝者 とはいえない状況に置かれる可能性がある。 図4 電力事業とガス事業の違い 【需要】 >負荷率 【供給】 >系統電力の使用 >高負荷率、大口顧客の 離脱 >コージェネレーション による離脱 (系統電力からの100% 離脱となる) >高負荷率、大口顧客の 離脱 >オール電化化 (都市ガスからの100% 離脱となる) 【需要】 >小口需要家の収益性 【供給】 >都市ガスの使用 重視する ポイント 互いに鋭い 反応を引き 起こす要因 電力会社 ガス会社

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これまでのように同業他社と歩調を合わせ ているだけでは、エネルギー事業各社がトリ レンマを乗り越え、独自の事業戦略を展開し ていくことはできない。そこで、公益性やネ ットワーク性の側面でエネルギー業界と類似 性があると考えられる通信業、金融業(銀 行)、国鉄の規制緩和・自由化の事例から、 エネルギー業界への示唆を探ってみたい。

1

通信業界

(1)技術進歩により競争優位が変化 国内の通信市場は、1985年の NTT民営化 を端緒とする通信の自由化により、異業種か らの新規参入が活発化し、さまざまな事業者 が低廉、多様なサービスを提供するに至って いる。 家計の消費支出に占める通信料を見ると、 世帯当たりの支出額は拡大しているものの、 携帯電話という新技術・商品が、固定電話か ら市場を奪取したことがよくわかる(図5)。 実際、大手の固定電話会社が軒並み売り上げ を減らしている一方で、携帯電話会社は売り 上げを増やしている(図6)。 (2)アクセスインフラと顧客獲得 野村総合研究所(NRI)が著した『これか ら情報・通信市場で何が起こるのか』(東洋 経済新報社、2003年)では、携帯電話会社の 好調の理由として、特に以下の2点を指摘し

Ⅱ 自由化で先行した

他業界からの示唆

図5 1カ月の通信料(住宅用)の推移 出所)総務省統計局『家計調査年報』 6,988 7,556 5,816 5,408 4,569 0 0 2,382 3,217 4,638 1998 1999 2000 2001 2002年 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 円 移動電話 固定電話 図6 大手通信事業者の売上高の推移(2000年=100) 固定通信 移動体通信     140   120   100   80   2000      2001      2002      2003   2004年度 (推)     (推)   (推) 2000      2001      2002      2003   2004年度 (推)     (推)   (推) 日本テレコム NTT コミュニケーションズ NTT東日本 NTT西日本 KDDI J−フォン KDDI(au) NTTドコモ ツーカーセルラー DDIポケット 出所)野村證券金融研究所『野村テレコム・マンスリー』2002年8月号および野村総合研究所の分析による     95   90   85   80 75 60 100 160

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ている。 ①アクセスインフラの保有 「現在、携帯電話大手3社が安定的な利益を 出すことができるようになってきている要因 の1つは、アクセスインフラを自社で押さえ ているからである」。ネットワークサービス を提供する事業者では、エンドユーザーにつ ながるアクセスインフラの保有が成功の鍵と なってきている。 ②顧客にとっての主契約者となる 「携帯電話会社が堅調なのも、通信料はもち ろん、コンテンツ料、端末代金などが、いっ たん携帯電話会社を経由するという分配構造 になっていることが理由の1つとしてあげら れる」。また、「携帯電話会社は全国に数千カ 所に及ぶ販売網を保有し、またコールセンタ ー設備も保有する。消費者向けサービス分野 では、単に携帯電話に限らない、IT(情報 技術)および関連サービスまで含めた総合サ ービス会社へと転換していく可能性もある」。 (3)エネルギー業界への示唆 エネルギー業界でも、技術トレンドの影響 が大きい。産業用では、LNG(液化天然ガ ス)を使ったコージェネレーションシステム の、従来の系統電力に対する優位性が注目さ れた一方、家庭用では、オール電化の都市ガ スに対する競争力が注目を集めている。ま た、燃料電池や水素活用の実用化も視野に入 り始めている。各エネルギー会社にとって、 どのような技術を選択していくのかが重要な 課題となっている。 通信におけるアクセスインフラは、エネル ギー業界では配電網やガス導管に相当する。 通信業界でアクセスインフラの保有会社が、 他社に課金することで安定収入を確保できた のと同じことが、エネルギー業界でも起きる 可能性がある。

2

金融業界

(1)都市銀行では格付けの格差が鍵 1985年に一口10億円以上の大口預金の金利 が自由化されるなど、80年前後から金融の自 由化が始まり、98年からは段階的に「日本版 金融ビッグバン」が始まった。 都市銀行の場合、自由化初期の銀行間で商 品、価格にあまり差がない段階では、高い格 付けが低い資金調達コストにつながり、その 結果、高い収益力に直接つながった。都銀の 場合、格付け決定の大きな要因は健全性と収 益力である一方で、格付けが落ちれば資金調 達コストが上昇し、収益力が落ち、格付けに も悪影響が及ぶという形で、悪循環に陥りや すい傾向がある。 実際に、金融ビッグバン以前から主要都銀 間には格付けの格差があり、それがビッグバ ン後さらに拡大している(次ページの図7)。 都銀の場合には、競争力の強弱の結果が格付 けの格差に表れるだけでなく、格付けの格差 が競争力そのものを強く規定している。 (2)量の拡大よりも質の経営を重視 自由化初期の段階に、大手銀行は上記のよ うな理由から、「量の拡大」からリスクや効 率を重視する「質の経営」へと転じ、預金シ ェアを減少させてでも信用度や採算性の低い 取引の縮小を進めた(次ページの図8)。 (3)顧客密着リテール営業 他方で、信用金庫は顧客シェアを拡大させ

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ている。これは狭い地域における高密度のフ ェース・ツー・フェースの渉外活動を重視す るリテール営業を展開している成果である。 (4)信用力が活きる 郵便貯金は、国営であることによる高い信 用力、ATM(現金自動預け払い機)の全国 ネット、土休日の利用料無料といった利便性 もあって、1990年代を通じて民間からの資金 シフトを呼び込んだ。 近年では、ペイオフの解禁を控えて、預貯 金が中小金融機関から大手銀行にシフトして おり、都銀や財務の健全性が高い地方銀行が 「質への逃避現象の利益」を享受している。 (5)エネルギー業界への示唆 上述のように、銀行業界では自由化以降、 格差の発生、業界の階層化という動きが明確 に発生してきた。 銀行業界では格付けによる資金調達力の格 差が銀行間の優劣を決定づけたように、エネ ルギー業界でも、資金調達力がエネルギー会 社間の収益力格差の鍵となる可能性がある。 このため、財務の健全性やリスク管理が資金 調達力の格差につながるならば、大手銀行と 同様に、高い営業コストをかけてでも供給エ リア内の全顧客を維持するという従来の方向 性ではなく、顧客の選別が検討されることに なると思われる。 他方で、エネルギー業界でも、銀行業界に おける信金などのように、顧客との密着度を 図7 主要都市銀行の格付け(R& I)の推移  注)各年とも 3 月末時点の格付け 出所)格付投資情報センター『R& I 金融業界展望2004』 1990 92 94 96 98 2000 02 04 年 91 93 95 97 1999 01 03 BBB BBB− A− BBB+ A+ A AA AA− AAA AA+ 金融ビッグバン りそな銀行(大和銀行) みずほホールディングス (第一勧業銀行、富士銀行) UFJ銀行(三和銀行) 三井住友フィナンシャルグループ (住友銀行) 三菱東京フィナンシャル・グループ(三菱銀行) 図8 業態別の預金シェアの推移 出所)金融ジャーナル社『金融マップ 47都道府県の金融勢力』各年版より作成 都市銀行 長期信用銀行 信託銀行 地方銀行 第二地方銀行 信用金庫 信用組合 労働金庫 農業協同組合 郵便貯金 % 0 20 40 60 80 100 1993年 3月 1998年 3月 2003年 3月 1989年 3月 25.5 17.9 6.4 10.4 7.2 25.3 28.4 19.4 7.2 10.5 7.5 20.3 31.1 18.9 7.3 9.6 6.7 18.0 26.3 18.8 5.7 10.6 7.6 23.8

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高めることで独自のポジションを築くことを 志向する企業も出てくるだろう。 また、銀行では預金の安全性という観点か ら、信用力が顧客にとって非常に重要であっ たのと同様に、エネルギー業界でも、供給の 安定性が顧客への究極の訴求点となる。現在 は各エネルギー会社とも非常に高い供給信頼 性を維持しているが、今後は、競争環境下で どの程度の供給信頼性を確保するかの費用便 益分析が問われることになる。

3

国鉄

(1)各社ごとに異なる課題と戦略 経営破綻した日本国有鉄道(国鉄)が1987 年4月に分割民営化され、2001年12月には JR会社法(旅客鉄道株式会社及び日本貨物 鉄道株式会社に関する法律)も改正施行され て、JR本州3社は法律上、民鉄各社と同等 の純粋な一般会社となった。 JR東日本は、東京圏の最も恵まれたフラ ンチャイズを背景に、投資家などからの期待 が大きく、それに応えていかねばならない重 荷を背負っていた。JR西日本は、フランチ ャイズである大阪経済圏の弱体化から、収益 の確保が他社より難しく、2001年に策定した 中期経営計画でもコスト削減に焦点が定めら れた。JR東海は、東海道新幹線の運営会社 であり、大都市経済圏をフランチャイズとし たJR東日本、西日本とは収益構造が異なっ ているため、圧倒的な収益力を活かして、国 鉄から継承した債務を削減するよう動機づけ られている。 低成長経済へと移行するなかで、JR各社 の鉄道旅客事業は停滞しているにもかかわら ず、利益拡大を実現し株価を上昇させている のは、固定費削減効果によるところが大き い。一方でJR本州3社は、それぞれに異な る事業環境と課題を抱えて、異なる事業、異 なる株価パフォーマンスを実現することとな った(図9)。 (2)エネルギー業界への示唆 エネルギー消費が停滞するなかでの固定費 削減による利益の創出など、JR各社とエネ ルギー業界には多くの類似点がある。一方 で、JRではフランチャイズとする経済圏の 経済力格差により経営戦略の方向性に差が生 じたように、電力会社間でも供給エリアの経 済力格差により、異なる戦略の追求が必要と なる可能性が高い。

1

競争パラダイムの転換

これまでの自由化の進展状況、および自由 図9 JR本州3社の営業利益率と株価の推移 出所)各社の有価証券報告書より作成 株 価 ︵ 万 円 ︶ 営 業 利 益 率 ︵ % ︶ 1990 92 94 96 98 2000 02 04年 JR東日本株価 JR西日本株価 JR東海株価 JR東日本利益率 JR西日本利益率 JR東海利益率 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 60 40 20 0

Ⅲ エネルギー業界における

競争力の源泉

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化で先行した他業界での事例から、今後エネ ルギー業界における業界構造、競争環境が大 きく転換していくことが予想される(図10)。 エネルギー会社間の格差が拡大して階層化 が進むなかで、エネルギー会社間のアクショ ンの相互波及効果が大きくなるため、動的な 施策・戦略の競争が行われる時代が到来する と考えられる。 従来と違って、同業他社をベンチマークし て横並びの競争を行っていれば良い時代では ないとすれば、エネルギー会社は各社独自の 差別化ポイントを見出すことが必要となる。

2

電力事業のバリューチェーン

各社が差別化のポイントを特定していくう えでは、バリューチェーン(価値連鎖)の分 析が有効である。たとえば、電力会社、ガス 会社をはじめ多くの会社の参入によって激戦 区になり始めている大口(産業、商業)向け 電力供給事業のバリューチェーンは、図11の ようになっている。 当然のことながら、規模の大きなエネルギ ー会社ほど「燃料調達」で大きなバーゲニン グパワーを持つことができる可能性がある。 たとえば、東京電力は東京ガスの2倍以上の LNGを調達している。 「エネルギー転換」についても、たとえば電 力会社の場合、規模や電源構成などの違いも あり、各社の燃料調達力やエネルギー転換コ ストにはかなりの違いがすでに存在している (図12)。今後、競争が本格化するにつれて、 各社の強み・弱みがより明確になってくるに 違いない。 「営業」「顧客サービス」については、すで に格差が生じているといわれる。現状では、 たとえば、小回りの利くガス会社の方が、大 規模な電力会社よりも顧客密着度が高いとい う傾向がある。今後は、エネルギー調達の提 案、エネルギー設備の提案を行う力を持った 会社が、顧客との主契約者となり、勝ち組と なる可能性もある。 電力会社の場合には、燃料調達、発電(エ ネルギー転換)、送配電、営業など機能別に 組織が分かれている。このため、これまでは 図10 エネルギー業界の新しい競争パラダイム 業界構造 競争環境 競争内容① 競争内容② 自由化前 自由化後 横並び構造 格差、階層化 供給エリア外の企業との 競争は間接的 局地的競争に全国のエネ ルギー会社が反応する可 能性 同業他社との静的ベンチ マーク競争 動的な施策・戦略の競争 異業種エネルギー会社と の顧客獲得競争 行動原理が異なる異業種 との企業戦略競争 図11 電力事業のバリューチェーン 研究開発 商品・サー ビス企画、 開発 資源開発 燃料生産・ 調達 燃料輸送 エネルギー 転換 送配電 営業 顧客サー ビス 新たな付加価値創造のフロンティア 規制下での付加価値 の源泉 新たな付加価値創造 のフロンティア

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バリューチェーン上のどの機能に競争力の源 泉を求めるかといった議論はあまり行われて こなかったと考えられる。 また、エネルギー会社として本質的に備え 持っている強みを発揮していないようにも見 受けられる。たとえば、世界に冠たるビッグ ユーザーにもかかわらず、燃料調達コストの 大部分は外部に流出している。

3

求められる各社の競争力の

源泉の明確化

新しい競争パラダイムのもとでは、電力会 社同士でも、バリューチェーン上の機能別の 強み・弱みの違いから、自社の競争力を高め るためにリソースの集中と選択を行うべき領 域が異なってくる可能性がある。 また、電力会社がガス事業へ、ガス会社が 電力事業へと相互参入していくなかで、新規 参入側は従来の業界常識とは異なったところ に競争力の源泉を見出すかもしれない。この ため、自社の競争力強化のためのリソース集 中においては、行動原理の異なる異業種会社 との競争も考慮しておくことが必要となる。

4

財務力と競争力は

相互に規定し合う

現在、電力会社10社と東京ガス、大阪ガス の格付けはほぼ横並びである。一方で、前述 したように、都市銀行間での格付けの格差は すでにかなり大きい。また、JR東日本の格 図12 企業により異なるエネルギー構成比と単価水準(2002年) 16.2   15.8   15.4   15.0   14.6   14.2 東京電力 石炭 0.3% 水力 5.0% 原子力 30.6% LNG 39.4% 石油 6.6% その他 18.1% 水力 9.8% 原子力 7.7% LNG 46.5% 石油 4.9% 石炭 20.7% その他 10.3% 水力 10.7% 原子力 50.4% LNG 15.1% 石油 2.5% 石炭 0.0% その他 21.4% 注)LNG:液化天然ガス 出所)日本電気協会『電気事業便覧』、資源エネルギー庁『電力需給の概要』より作成 総 合 単 価 ︵ 円 / キ ロ ワ ッ ト 時 ︶ 中部電力 関西電力

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付けはJR西日本、JR東海よりも若干高い。 格付けは、競争戦略の結果であると同時に、 資金調達力や顧客に対する信用力の形成を 通じて、将来の競争力を規定する要因とも なる。 今後、各エネルギー会社が自社の競争力の 源泉をどこに置いて強化していくにしても、 競争戦略・施策の財務へのインパクトを十 分に理解し、検討することが不可欠である。 エネルギー会社の設備投資の規模は非常に 大きく、そのための資金調達力および調達の 金利水準は格付けにより変わってくるからで ある。 NRI のラフなシミュレーションでは、規模 の異なる会社間で価格競争を行った場合の財 務インパクトは、かなり非対称であることが わかっている。 今後、エネルギー業界でも、他の業界では 当たり前のように行われている「3C分析」 (顧客、競合他社、自社の分析)や、「5フォ ーシーズ分析」(同業他社、新規参入者、代 替品、需要家、供給者の5つの各主体と自社 との競合関係の分析)を踏まえての競争戦略 が必要となる。場当たり的な局地戦ではな く、大局的なシナリオに基づく競争戦略が必 要になろう。

1

競争環境シナリオの構築

(1)自社のポジションの明確化 競争戦略を立案するうえで、まず重要にな るのは、自社が他社のベンチマークとなるよ うな全国展開のトップランナー企業なのか、 地域に密着したエリア型の企業なのか、ある いはさらに違った位置付けの企業なのかを明 確にすることである。 (2)競合他社、関係第三者の想定 競合他社を具体的に実名でリストアップし て、戦略分析のケーススタディーを行うの は、電力会社、ガス会社にとっては新鮮な活 動といえる。 また、自社と競合他社が顧客獲得競争、価 格競争を展開することになった場合に、連鎖 反応的に自社に敵対してくる可能性がある第 三者をも特定しておく必要がある。 (3)自社と競合他社の事業環境、 経営課題の認識 電力会社同士の場合には、燃料調達力、電 源構成、供給エリア内の顧客分布およびその 属性が、会社によりかなり異なることを理解 する必要がある(図13)。 また、異業種間の場合には、顧客構成、事 業ポートフォリオ、収益の源泉などが、業態 によって意外に異なることに留意する必要が ある。 (4)他社の施策オプションの絞り込み NRI が電力会社、ガス会社と議論をしてい る範囲では、同業他社の供給エリア内に積極 的に展開して事業の拡大を狙うことを、現時 点で真剣に考えているエネルギー会社は意外 に少ない。 しかし、供給エリアが重なる電力会社と都 市ガス会社の間の競争が激化するなかで、エ リア内の限られたパイを奪い合うよりも、新 しいフロンティアとしてエリア外の同業また

Ⅳ 競争戦略の構築に向けて

(12)

は LPG(液化石油ガス)、重油などの市場を 奪取しに行こうという動きが始まる可能性が 高い。 このような可能性に対して、たとえば、競 合他社の事業戦略、供給余力、営業体制や、 自由化対象顧客に合理的に提示し得る価格水 準、グループ会社の陣容・実力(ソリューシ ョン営業の尖兵として活用することが多い) などを分析すれば、その施策オプションの範 囲をある程度絞り込むことが可能である。 (5)財務シミュレーションの実施 自社および他社が取り得る戦略オプション を想定し、主な変数と感度について財務シミ ュレーションを行うことは、これまで各社の 社内において半ば感覚的に語られてきた競合 他社の報復オプションを具体的にイメージで き、その情報を社内の関係者に提供すること ができるので有効である。 営業の現場での顧客獲得競争、価格競争が 全社の財務にどのようなインパクトをもたら し得るか、また、競合他社にどのような財務 インパクトを及ぼし得るかといった評価は、 社内の部門間、グループ企業間での認識のず れを矯正し、より効果的な戦略オプションを 発想するために重要である。

2

コアコンピタンスの強化と

アライアンス

競争環境シナリオを描いたうえで、自社の ポジションを強化するためには、たとえばバ リューチェーン上のどの機能を強化し、他社 と差別化するかを決めていく必要がある。 また、他社に対する比較優位を維持するた めには、他社とのアライアンス(戦略的提 携)が効果的な場合がある。 ガス業界では、パイプライン、基地アセッ トのロケーションを通じて、大きなレバレッ ジ(影響力)を持っている中堅プレーヤーが 少なくない。このような企業とのアライアン スを構築することや、場合によっては競合他 社が自社にとってインパクトの大きい施策を 1000億円以上 500億円以上1000億円未満 100億円以上500億円未満 北 海 道 青 森 県 岩 手 県 宮 城 県 秋 田 県 山 形 県 福 島 県 茨 城 県 栃 木 県 群 馬 県 埼 玉 県 千 葉 県 東 京 都 神 奈 川 県 新 潟 県 富 山 県 石 川 県 福 井 県 山 梨 県 長 野 県 岐 阜 県 静 岡 県 愛 知 県 三 重 県 滋 賀 県 京 都 府 大 阪 府 兵 庫 県 奈 良 県 和 歌 山 県 鳥 取 県 島 根 県 岡 山 県 広 島 県 山 口 県 徳 島 県 香 川 県 愛 媛 県 高 知 県 福 岡 県 佐 賀 県 長 崎 県 熊 本 県 大 分 県 宮 崎 県 鹿 児 島 県 沖 縄 県 事 業 所 数 出所)経済産業省「平成11年工業統計表」より作成 図13 都道府県別の工業出荷額100億円以上の事業所数 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0

(13)

打つのを妨げるために、関連する第三者とア ライアンスを組むことの検討も必要である。 業際間での相互参入が進むなかで、昨日の敵 を仲間に引き込むことが求められるという事 態も、すでに起こり始めている。 自由化された市場での競争においては、自 社の強みを強化していくだけでは思いどおり の成長は得られない。自社の競争力の源泉を 徹底的につきつめ、自社のアクションが競合 他社や第三者に及ぼす影響についても、具体 的に評価していくことが必要になる(図14)。 自由化された市場環境に適応し、競争優位 を確立していくためには、そうした多面的な 分析から判断に至る、新たな経営情報のマネ ジメントが必要になる。 自由化に対応したエネルギー事業の新たな 経営ナレッジを組織に定着させるためには、 以下の3点を実現することが求められる。 (1)自由化市場における 戦略評価モデルの構築 自社のアクションの影響を、潜在的な競合 までをも含めて、動的に評価できるシミュレ ーションモデルが有効である。 評価の対象は、相互に代替関係にある電 力、都市ガス、石油、LPG、IPP(卸電力事 図14 自社、競合他社、第三者について把握すべきデータ ポジション    事業環境、経営課題 の認識    方策のオプション 財務 自社の戦略オプション A B C 他社の戦略  ① オプション         ② ③ 第三者 自社       競合他社     第三者 >供給エリア    【事業性評価】 >収益モデル(B/S、P/L) >キャッシュフローモデル >収益インパクト評価モデル >事業価値評価モデル >顧客構成    >企業グループ構成    >他社との依存関係:地帯間電力購入量、卸電力購入量 燃料調達の依存関係(LNG) 卸供給(ガス) 資本関係 >経営計画:中期経営計画 >顧客マーケティングデータ:顧客数、販売量、分布(大口) >経営計画:中期経営計画 >値下げ余力(シミュレーション) >営業体制 >グループ経営 >売上高、格付け、フリーキャッシュフロー >投資計画 >値下げ余力 注)B/S:貸借対照表、P/L:損益計算書 制度など >取引市場 >環境 リソース >人材 >技術 >組織 設備・投資 >設備投資 >設備除却 >買収 マーケティング データ  >顧客  >需要  >エリア 財務データ  >売上高  >供給原価   >設備投資   >B/S  >変動リスク

Ⅴ 競争優位の確立に向けた

経営情報の革新

(14)

業)の各社、あるいは燃料調達にかかわる商 社、船会社などであり、自社の戦略オプショ ンが実施された場合の対象各社の得失が評価 の内容となる。 この分析により、自社のアクションによっ て引き起こされる反応を想定し、自社の競争 優位を確立するための施策をより精度の高い ものへと磨き上げていくことができる。 このためには、競合他社、自社、第三者の それぞれについて、それぞれの立場から見て 合理的な競争戦略オプションのデータをそろ えることが、まず必要となる。 (2)営業現場での情報収集の高度化 競合他社の動向は、自社の意思決定に影響 を及ぼす極めて重要な要素である。特に、足 元で展開されている競合の様相を正確に把握 しておかないと、その後の分析の精度を著し く損なう可能性がある。 営業現場からの情報は、評価の前提の精度 を高めるうえで重要である。たとえば、競合 他社が特定の顧客属性に対してアプローチし てくることが想定されれば防衛もしやすく、 逆に、既存顧客の離脱が特定の属性に偏らな いと見られるならば、これを前提に全体的な 対抗策を講じることになる。 営業の現場も、自由化のもとで必要になる 重要なナレッジの源であり、戦略構築上重要 なデータを逃さずに把握する情報感度が求め られる。 (3)戦略評価モデルの経営情報への統合 自社の戦略オプションを評価する際には、 自社の財務状況と、売上高、コスト、フリー キャッシュフロー、投資額の現在および将来 の水準を、判断のタイミングごとに高い精度 で設定する必要がある。 また、アライアンスを実施する場合には、 財務に及ぼす影響を具体的にはじいておく必 要がある。この意味で、戦略評価モデルは、 会計、工務、資材、調達など従来の経営情報 と不可分な関係にある。 戦略オプションの評価に当たって、自社の コスト効率化の状況と見通し、および料金メ ニュー変更の見通しを踏まえておくことは重 要であり、関連システムと統合することが望 ましい。 自由化の段階的な拡大に対応して、こうし た新たな経営情報のマネジメントを実現した 企業が、競争優位の確立に向けた第一歩を踏 み出していくことになる。

者―――――――――――――――――――――― 石上圭太郎(いしがみけいたろう) 事業戦略コンサルティング部上級コンサルタント 専門はエネルギー・ユーティリティ分野の事業戦 略、民営化・官民パートナーシップ 山内 朗(やまのうちあきら) 事業戦略コンサルティング部上級コンサルタント 専門はエネルギー分野の事業戦略、危機管理

参照

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