経済と経営 44−1・2(2014.3)
論 文>
海外M&Aと中国多国籍企業の競争優位 造
汪
志 平
はじめに 近年,中国企業の海外進出が急増していることが注目を集めている。WTO加盟した 2001年末の 少し前の 1999年頃から,海外多国籍企業との中国市場での競争を勝ち抜くため,また中国経済を世 界経済に統合していくため,中国政府が企業国際化を加速させる必要性を認識し, 走出去 (go global,海外進出)の政策を打ち出した。その背景には,貿易黒字の拡大,アメリカとの貿易摩擦の 激化,そして国内賃金の上昇などがあった。中国政府は第 10次五カ年計画(2001∼2005年)におい て,対外直接投資を国家の重要課題として位置づけた。具体的には,海外における加工貿易の展開 を奨励し,国内で不足している資源の海外開発を奨励し,海外でのR&D・設計センターの設立を 奨励し,実力ある中国企業の多国籍経営とグローバルな発展を支持すること,などである。その後, 第 11次五カ年計画(2006∼2010年)においても,同様の戦略が提示されたが,異なる点は原産地の 多元化と資源開発の面での対外投資促進が謳われていることである。 走出去 は中国企業の海外買収を奨励するため,長年積み上げた外貨準備を背景に,多くの国有 企業および民営企業は海外での企業買収を加速し,世界各地で大小の企業に投資した。トムソン・ ロイター社(Tomson-Reuters)の統計によると,中国企業による海外M&Aの金額は 2000年の 16 億米ドルから,2008年の 703億米ドルへ急増した。2009年には世界金融危機の影響で 406億米ドル に減少したが,2010年に 554億米ドルへ回復した。一方,中国商務部の統計によれば,2010年の海 外直接投資額(金融業を含まず)は,前年比 36%増の 590億ドルに増え,世界 129の国と地域にあ る 3,125社の企業に対して投資を行った。2011年上半期だけで 239億ドルに達し,前年同期比で 34%増となっている。 ところが,このような 計数字の推移の背後に,中国企業の海外M&A(cross-border M&A, overseas M&A)活動が時間とともに大きな変化を遂げてきた。中国企業の海外M&Aをみると, 大きく3つの波があった。 第1波は 2006年まで,主な目的は海外の製品設計,ブランド,販路,そして時には生産能力を取 得し,海外市場での売上を増大させることであり,一部の文献ではこれを 踏み台型買収 (spring-board acquisitions)と名付けている。 第2波は 2006年に始まり,買収の対象は鉱物埋蔵地と石油・ガス田などに移り,(天然)資源追 求型買収 (resource seeking acquisitions)が急増した。同時に,巨額の外貨準備を抱えている中 国の国有銀行が海外事業を拡張するため,外国の金融サービス会社への出資が 2007年に急増した( ) 1 1
(図1を参照)。事後的に見れば,そのタイミングは最悪であり,他国の多くの金融機関と同じく世 界金融危機で大きな損失を被って大きなやけどをした。 そして,2008年以降,エネルギー・資源の安定供給を確保するための買収が引き続き増えていた が,同時に,第3波が現れ始まった。それは外国の工業企業(industrial companies)の買収が安定 的に増えたことである。買収の主要目的は,外国の技術・ノウハウ,時にはブランドを獲得し,海 外での売上増大よりも,これらの無形資産を って中国国内での事業活動を改善することである。 概観すれば,第1波では失敗例が多く,第2波では純粋な資源追求型買収は中国企業の競争優位 への影響が限られた。しかし,2008年以降の第3波において,中国企業は海外M&Aによって入手 した資源と能力を,既存の能力と優位性を結合させ,新しいユニークな競争優位の源泉を作り出し て,これからグローバル市場で活用される可能性を秘めている。
本稿はこれらの海外M&A活動が中国の若き多国籍企業(Emerging Market Multinational Enterprises:EMNEs)の競争優位への影響を 析し,いくつかの事例を引用しながら,中国企業は 如何に海外M&Aによって得た資源とコンピタンスを自 固有のものと結合させ,競争力を強化・ 拡大してきたのかに焦点を当てたい。
1 中国の EMNE:既存の競争優位の源泉と限界
EMNE に多くの国特有の優位性(country-specific advantages:CSA)を入手する可能性を持っ ているが,中国の CSA の中で最も重要なのは,おそらく大量の廉価で未熟練労働者の利用による低 い製造原価を得られることであろう。多くの学者が,EMNE が企業特有の資産(firm-specific assets: FSA)を持っておらず,グローバル競争に参加する主な武器は,CSA に依存せざるをえな いと主張している。しかし,同様の CSA へアクセス可能な他の中国企業と競争する上で,CSA だ けでは不十 である。さらに外国企業が,自ら中国で製造工場を設立するか,生産や他の基本活動
出所:P.J.Williamson and A.P.Raman, M&A and competitive advantage of Chinese EMNEs, p.261.
図1 中国企業の部門別海外買収活動
を中国企業にアウトソーシングすることにより,この安い労働力の優位性を容易に利用できるので, CSA のみに依存することが世界市場での競争優位の源泉としても不十 であろう。 また, 国家資本主義 と呼ばれるような広範囲の国家所有権に由来する潜在的な CSA も,中国 の EMNE のグローバルな拡張を支える競争優位の持続可能な源泉ではない。多くの代表的な中国 企業に対し,政府が資産・資本および知的財産を,発展の初期段階で市場価格より安く提供したこ とは確かあった。しかし,ほとんどの企業は持続的な補助金や特別支援に依存することができない。 特に再編され部 的に民営化された後は,市場で自立してハイブリッドな所有権を持った他の企業 と競争しなければならない。 したがって,国内的またグローバル的な市場競争に勝ち抜きたい中国企業は,根本的な新しい方 法を見つけることを強いられた。その方法とは,中国のコスト優位性という CSA を利用しながら, 外国ならびに国内のライバルにとって模倣しがたい企業特有の優位性(FSA)を構築することであ る。中国の成功企業は,最初にコスト・イノベーション(cost innovation)と名付けられる方法に よって達成した。コスト・イノベーションは下の3つの次元の結合によって展開された。 第1に,中国の EMNE は,顧客に低価格の先端技術を提示することを可能にした戦略および組織 的なルーチンを開発した。既存のグローバルな競争企業が製品ライフサイクルに ってゆっくりと 移動し,新技術を高価なセグメントから次第に大衆市場へ応用することにより,利益の最大化を図 る。このサイクルの中断を恐れるため,既存のグローバル企業は積極的に中国企業の戦略を模倣し ようとしない。たとえルーチンを模写したくても,既存企業は相当な組織的・文化的な 直性に直 面してしまうので,中国企業はこれで競争優位を構築する可能性がある。 第2に,中国の EMNE は,既存競争企業のマス市場向けの標準化した製品提供に対して,競争力 の高い価格でバラエティ豊かなカスタマイズされた幅広い選択肢を顧客に提供できるようなプロセ スを確立した。これらのプロセスは,競争企業にとって認識と複製することが困難な数多くの詳細 なプロセス・イノベーションを含んでいる。 第3に,中国企業はニッチ商品を生産する損益 岐点を引き下げるための低コストを利用できる 戦略およびプロセスを開発した。外国の多国籍企業がしばしば かったことは,このような FSA に 応対するために,中国の CSA にアクセスするだけでなく,既存のビジネスモデルを完全に再設計す ることが要求される。しかし,既存のビジネスモデルは,ニッチ商品が永久に小さなボリュームの まま高価格をつけられるという仮定に基づいており,それを変 することが非常に困難である。 中国の EMNE は母国での経験に基づいて,さらに他のタイプの FSA をも開発できた。たとえば, ローエンド・セグメントの潜在需要を発見する能力や,未発達の制度とインフラストラクチャーの 下で取引する能力を含んでいる。中国の EMNE による FSA の開発を掘り下げて 析することは本 稿の目的ではないので,ここでは,彼らはすでに中国の CSA へのアクセスによって提供される初期 賦存量を越えて,いくつかのユニークな優位性を構築していることを指摘しておきたい。 これらの FSA の多くは,中国市場および他の新興市場での競争において特に役立つ。他方,ほと んどの中国の EMNE によって蓄積された FSA のタイプは,グローバル市場とくに先進国市場で成 功する必要条件と比較して,著しい限界を持っている。次のようなことが挙げられよう。弱いブラ ンド,特有技術の欠如,各地域の消費者の無数の好みへ商品の適応および世界市場環境への適応の 経験不足,限られた国際経験を備えた経営者の存在,および多国籍競争企業が数十年間をかけて構 海外M&Aと中国多国籍企業の競争優位 造 3 3( )
築されたグローバルな洗練した組織の欠如,等々。 海外M&Aは,中国の EMNE にグローバルな競争力を高めるために必要とする能力のギャップ を埋める機会を提供する。選ばれた戦略によって,中国の EMNE が海外M&Aを利用することの結 果は,単純なキャッチアップを越え,現存の多国籍企業(MNE)になかなか利用できない新しいタ イプの競争優位性を構築できるかもしれない。 2 中国の EMNEの海外M&Aに対する可能な解釈 クロスボーダーM&Aに関する従来の理論では,先進経済での買収者が自ら磨いたノウハウ,シ ステムおよび能力の移転により,未発達経済にあるターゲットに価値を加える可能性に注目する傾 向があった。しかしながら,事実上,多くの中国の EMNE の海外買収(例えば,レノボによる IBM のパソコン事業の買収)は,先進国市場に本拠地を置いたターゲットを含んでいる。中国の EMNE がもたらす FSA が主として新興市場での競争に成功したものであれば,これらの解釈に反すると 見なされるかもしれない。 中国企業の海外買収に対するもう1つの解釈は,それらが純粋な資源追求の動機を表わすものと いうことである。しかし,この解釈は,中国の買収者が企業コントロールの市場(株式市場)で競 争相手をどのように勝てたのか,またそのような買収は経済的に有益であるかという問題を答えて いない。もし中国の EMNE が世界市場で純粋なキャッチアップのゲームをしていれば,グローバル なライバルに劣ったポジションで,買収後のパフォーマンスは経済的なリターンをもたらすことが できないであろう。 さらに,様々な純粋に財務的な解釈で中国企業の行動を説明する説も現れた。情報の非対称性に よって,中国の EMNE が買収合戦を勝ち取るために,過大な買収プレミアムを払ったかもしれな い。しかしながら,事例研究によれば,中国企業がライバル買収者の提示した価格をめったに上回 らないし,しばしば先進国企業が参加した買収合戦で負けている。さらに,中国の EMNE が享受し ている高い株価収益率(PER)あるいは大きな新規株式 開(IPO)の収益は,世界株式市場で決定 的な優位性を与えたのかは不明である。 3番目の可能な解釈は,中国の EMNE による買収の場合には,新しい能力を加えることにより, 買収対象企業に価値を付加できたかもしれない。中国の EMNE による海外M&Aの以前に 散し た能力間の相互作用によって新しいタイプの競争優位を構築できた。この解釈は,中国の EMNE の 海外買収の動機を資源追求から拡張する可能性に結びつく。これらの買収は,より多くの既存ライ バルに追いつくことを単に可能にするのではなく,ユニークな FSA の生成,従って競争優位の源泉 の 造に道を開くにより,中国の EMNE が世界市場で差別化を図ることが可能となる。 以下では,事例研究を って,先に触れた中国の EMNE の海外M&A活動の3つの波を 析す る。この 析の目的は,上述した理論上の可能性のどれ,あるいはそれらの混合が,実際に観察さ れた行動を最も説得力のある解釈を提供するかを明らかにすることである。
3 中国の EMNEの海外M&Aの第1波:失敗した足がかり獲得 1990年代半ば以降,中国政府は,国内需要を満たす供給を確保するために,基本的に国有企業が 海外のエネルギーおよび他の天然資源生産者への少額出資を認めた。ところが 2001年 12月に中国 が WTOの協定に署名したが,その準備段階にある 2000年 10月にそれまでのアプローチが変わっ た。中国政府の対外貿易と経済協力省は次の文章を発表した。 走出去 を通して,企業は海外投資し工場を設立できるし,よりよく国内および海外の市場と資 源を利用し,さらに設備・材料および労働サービスの輸出を拡大でき,新しい輸出の成長点を作り 出すことができる。その結果,中国の外部世界への開放レベルを高めることができる。 その後,中国政府が 1990年代に外国投資のパスで設けてきた官僚的なハードルおよび障壁の多く を撤廃した。2004年末に温家宝首相(当時)が正式に,中国の政府はより多くの国内企業が 走出 去 を奨励すると発表したが,これを受けて,海外進出の流れが加速された。以下に挙げる3つの 事例は,この 走出去 の第1段階で,中国の EMNE がとった戦略およびそれがなぜ持続可能な競 争優位を構築できなかったかを理解するのに役立つ。 事例1:上海汽車―双竜自動車
上海汽車工業 司(Shanghai Automotive Industrial Corporation:SAIC)は,中国で最大規模 の歴 の古い自動車メーカーの1つであり,2004年 10月に5億ドルで韓国の双竜自動車(Ssang Yong Motors)の株式 49%を取得して買収した。SAIC は 1980年代以降,フォルクスワーゲン (VW)および GM とのジョイント・ベンチャーを運営してきたにもかかわらず,スポーツ多目的 車(SUV)の設計能力をずっと入手できなかったため,この買収の狙いは,双竜が持っている高級 SUV の設計能力へのアクセスと同時に,双竜の海外販売網の獲得にあった。 双竜自動車は 1954年に設立された韓国の独立系企業であったが,1986年に双竜財閥が買収した。 1998年には大宇自動車が吸収合併し,銀行管理下に置かれていた。 当時の双竜自動車は,スマートな SUV および RV 車の開発に関して評判を持っていたが,重い債 務負担の下で苦闘していた。韓国第4位の自動車メーカーとして,韓国市場の 10%を占め,かつ輸 出も増加していた。SAIC は,双竜自動車を買収することによって,自 の新車開発能力を高め,米 国などの海外市場で販売拡大のプラットフォームを獲得することを期待していた。SAIC―双竜の 経営チームは,まず四ドア・セダンの World Zenithから着手し始め,韓国での生産能力拡張と5つ の新車モデルの世界展開をすばやく計画した。 しかし物事は計画通りに進まなかった。2006年に起こった石油価格の上昇,さらにヨーロッパと 北米が厳しい排気基準を導入したことの影響で,SUV の販売が不振に陥った。その間,SAIC と双 竜の強い労働組合との関係は緊張となり,さらに中国と韓国の経営幹部間の文化的違いが,事業改 善の方法についてコンセンサスを見出すことを困難にした。2007年 12月に世界同時不況が始まっ た以降,自動車の世界需要が急落し,ポスト買収の統合問題はいっそう困難になった。SUV の販売 台数が急減し,2008年 12月に双竜の売上は前年比で 53%も下がった。SAIC は支援するため,2008 年 12月に 450万ドルの双竜製品を購入して,中国市場に投下した。 しかし,その後状況がいっそう悪化したため,SAIC の経営陣はタフな再 計画を発表した。2億 ( ) 5 5 海外M&Aと中国多国籍企業の競争優位 造
ドルの追加投資の条件として,双竜の労働者 36%削減と生産性改善のための労働慣行の刷新を要求 した。しかし,双竜の労働組合は,この再 計画を拒否してストライキに突入した。 現地での協力関係が進まず経営が悪化し,ついに双竜は 2009年1月に経営破綻して破産保護を申 請した。これを受け SAIC はほぼ双竜への投資全額を減損処理したため,2009年上半期の利益が 26%減少した。2010年7月中頃,SAIC の双竜株式の所有比率を 3.79%まで引き下げた。それまで SAIC が支配権を握っていた6年間に合計6億 1800万ドルを双竜に投資したが,双竜の販売網を海 外市場開拓の足がかりとして売上を拡大する目的はほとんど進展がなかった。 なお,この双竜については,2010年8月,インドの商用車・RV 大手のM&Mが買収することで 決着した。 事例2:徳隆集団―Murray
中国の EMNE の中で最も早く北米市場に進出した企業の1つは,徳隆集団(DeLong Group)で あった。唐氏兄弟たちが新彊で始まった小さな写真の現像とプリント会社が,他の企業を次々と買 収して急成長を遂げ,トマトペーストから自動車部品まで多様なビジネスを抱える巨大なコングロ マリットとなっていった。2000年に,徳隆集団が GE キャピタルによって提供された4億ドルの融 資でマレー社(Murray)を買収して,グローバルな芝刈り機および 関連のビジネスに参入した。 米国テネシー州のブレントウッド(Brentwood)に本拠を置くマレー社のルーツは,1919年に り,アウトドア動力設備製品の主要ブランドの1つであった。マレー社は,米国で約 1,700人の従 業員を抱え,子会社としてマレー・カナダ(Murray Canada)および英国の姉妹会社ヘイター (Hayter)を持っていた。1990年代半ば以降,海外とくに中国からの激しい低コスト競争で,マレー 社の収益力は次第に低下していった。 徳隆集団は買収後,中国での生産能力をマレーのものに統合し,また間接費を縮小するために組 織を再編し,さらに低コストの部品調達先を探した。アメリカのブランド,流通チャネルおよび設 計技術を,中国の競争力のあるサプライ・チェーンと結び付けさせることによって,徳隆集団は中 国国内および西側のライバル企業に対して,大きな競争優位を獲得できると信じ,マレーの売上高 が 2005年までに大きく伸びるだろうと予測した。 しかしながら,マレーはその後,一連の品質問題および製品のリコールで,ブランドが傷つき, 売上も低迷していった。例えば,2004年には,いくつかの燃料タンクに燃料漏れの危険をもたらす 割れ目があったので,徳隆集団は米国で 10万台のトラクター式芝刈り機をリコールしなければなら なかった。また, 米国での企業組織の高コスト体質を変えることがほとんど進ままかった。結局, 2005年2月にマレー社は破産申請をし,事業活動中止となった。英国の Briggs and Stratton Power Products社は,以前に販売されたマレー・ブランドの製品を修理する必要がないことを条件で,そ のブランドを買い取った。
事例3:TCL―Thomson Electronics
2000年に,当時中国で最大のカラーテレビ・メーカーおよび2番目に大きい携帯電話メーカーで ある TCL は,国際的に事業展開することに着手した。2004年1月に,TCL は5億 6000万ドルでフ ランスの家電企業トムソンを買収した。新しい会社は TCL―Thomson Electronics Co Ltd(TTE)
となり,当初 TCL は 67%を保有していたが,2006年に残りの株式も全部取得した。 TCL の戦略は,自社の製造コスト優位性をトムソンのブランド力と研究能力で補完して,グロー バル市場での競争優位を構築することであった。しかし,ヨーロッパでのトムソン・ブランドおよ びアメリカでの RCA ブランドが,明瞭な差異化を提供するものではなく,2つのブランドは共に古 くて活力を失っており,復活させるには多くの投資を必要とすることを,TCL は理解しなかった。 トムソンのテレビと DVD 事業は 2003年に1億ドル以上の損失を出したことは,売りに出される理 由であった。さらに TCL は,トムソンを統合して同化する能力も欠いた。TCL では,国際経験と グローバル・マーケティングの専門知識を持った経営幹部が不足していた。この他に,異なる企業 文化と活動ルーチンの衝突もあった。TCL が中国に相応しい組織構造をトムソンに導入しようとし た時,多くのフランス人スタッフが辞めっていった。 ヨーロッパ事業の巨額赤字が TCL 本体の経営を圧迫するに至り,2005年と 2006年に合計6億 8000万ドルの損失が発生した。2007年に入って,海外M&Aに失敗した中国企業の事例として, TCL が頻繁に取り上げられるようになった。2007年 11月に,TCL はそのヨーロッパ事業の失敗を 宣言し,トムソンのビジネスモデル,販路およびブランドを廃止して,テレビ事業をオーバーホー ルした。その結果,ヨーロッパの7つの事業センターのうち5つが閉鎖され,大量の解雇を実行し た。 これらの事例が示したことは,中国企業の海外買収の第1波の主な目的は,グローバルな売上を 伸ばすための足掛かりを獲得することであった。競争優位を構築するために買収を利用するロジッ クは特に問題もないように見えた。最新の技術,ブランド・エクイティおよび販売網を持ちながら, 高コスト体質に苦しんでいる西側の会社を買うことにより,低コストの中国製造能力と結合すれば, 大きな競争優位を獲得できる。アメリカかヨーロッパの技術およびマーケティングと中国の製造力 の結合はまるで夢の結婚といえよう。しかしながら,理論上の 益は実際に実現されなかった原因 の一部は,中国の EMNE が買収前に適切な精査(due diligence)を行う能力の不足にあり,そして 買収後は,外国の環境で複雑な組織を統合する力も欠いていた。 このような能力の不足は,多くの中国の EMNE の買収者が価格の安い取引に注目したという事 実によってさらに悪い結果をもたらした。安く買収した企業を復活させることは非常に高度な再生 能力を必要とするからである。これらの買収は,ブランド,システム,従業員,企業文化およびノ ウハウのような無形資産の管理を要求する複雑なシナジーによって,はじめて競争優位を構築でき る けであったが,無形資産はすべて微妙であり,国境を越えた統合がいっそう困難である。多く の場合に,中国の EMNE の国際的な組織構造,システムとプロセスの相対的未発達と,国際経営能 力の蓄積不足を反映して,外国の環境と絶えず変化している市場に対する本社のトップ・ダウン思 による反応は拙かった。 4 中国の EMNEの海外M&Aの第2波:有形資産への退却 2007年頃になって,多くの中国企業が海外買収で苦しんでいる現実に,中国政府が関心を持ち始 めた。その結果,中国政府は,可能な限り利益出るか発展可能性のある企業を買収対象とするよう との合図を出した。と同時に,2008年に中国の外貨準備が2兆ドルの大台を突破したため,アメリ ( ) 7 7 海外M&Aと中国多国籍企業の競争優位 造
カ国債の大量保有から,インフレ・ヘッジでき,かつデフォルト危険のない実物資産へのポートフォ リオ多様化は,ますます魅力的に見えた。したがって,ブランドや流通関係のような無形資産を取 得して統合することの代わりに,海外M&Aの焦点は鉱山や油田・ガス田などの有形資産にシフト していった。社風やブランドのような微妙な査定はないため,有形資産の適切な評価が比較的に簡 単である。さらに,買収した資源物は中国に既存の巨大市場があり,買収後の統合はより単純であ る。 驚かずに,2009年までに,75%以上の中国の海外M&A取引額は,エネルギーか天然資源を含ん でいた。たとえば,2009年に, 州煤業(Yanzhou Coal)はオーストラリアの Felix Resourcesを 32億ドルでの買収,中国石化(Sinopec)はスイスの石油・ガス会社 Addax を 72億ドルでの買収が 目立っている(図表2を参照)。 確かに,中国の EMNE はそれらの買収によって,より安定的なエネルギーと資源の供給を確保で きた。しかし,有形資産と天然資源への海外M&Aの退却は,中国の EMNE が世界市場に競争優位 を構築する能力を制限した。例えば,資源の買収は,製品差別化や企業運営の効率向上のために, 付加価値の新しい源泉を生み出す可能性をほとんど提供できない。 このような狭い意味での 資源 追求型買収がまだ続いており,そして取引金額の凄さでしばし ば大きく報道されるが,中国の EMNE はより広範囲でより重要な競争優位の源泉を構築するのに 役立つ潜在的な海外買収に対して新しい視点をとり始めている。 5 中国の EMNEの海外M&Aの第3波:ダブルのハンドスプリング 2008年以降,中国の EMNE は海外買収に際して,新技術および海外研究開発施設の取得に対す る関心が高まった。技術と研究開発施設の価値は,知的財産,知識,研究開発および設計過程にあ るから,買収後の統合が有形資産より難しい。しかしながら,それらの統合は組織全体の統合ほど 複雑ではなく,危険度も高くない。特許と青写真(設計図)が中国へ発送されれば,中国のエンジ 図表2 2008∼2010年に中国企業による主な海外資源関連M&A 時期 中国企業名 相手企業 買収金額 (億米ドル) 2008.9 中国石油化工(Sinopec) タンガニイカ・オイル(加) 18 2008.11 中国石油天然気(CNPC) アフダブ油田(イラク) 30 2009.1 州煤業 フェリックス・リソーシズ(豪) 32 2009.4 中国石油天然気(CNPC) マンギスタウムナイガス(カザフスタン) 26 2009.6 中国石油化工(Sinopec) アダックス(スイス) 72.4 2009.6 中国石油天然気(CNPC) ルメイラ油田(イラク) 150 2010.4 中国石油天然気(CNPC) アロー・エナジー(豪) 34.4 2010.5 中国中化集団(SINOCHEM) ペレグリノ油田(ブラジル) 30 出所:浦田秀次郎・小島眞・日本経済研究センター編著 インド VS.中国:二大新興国の実力比較 日本経済新聞出版社,2012年,218頁より作成。
ニアは容易にそれらを理解できる。研究開発センターは比較的少人数のスタッフを抱えているが, 非常に高い技能を持つ彼らは注意深く管理してモティベーションを与える必要がある。しかし,中 国の買収者は研究開発に高い投資意欲を持っているし,イノベーションを広大な中国市場で応用す る意欲は,ほとんどの研究開発スタッフを興奮させる。 同時に,研究開発センターと中国企業との組織インターフェースは単純にしておくことができる。 外国のエンジニアは,製品とプロセスに関して革新的な えを生み出してから,中国の EMNE は固 有の補完的な能力を って,彼らの発明を中国で大規模に応用し,コストを押し下げることができ る。 事例4:西安飛行機―FACC
西安飛行機工業 司(Xian Aircraft Industrial Company: XAC)は,中国航空工業集団 司 (Aviation Industry Corporation of China:AVIC)の深圳証券取引所に上場する子会社であるが, 技術と研究開発の能力にアクセスするために海外M&Aを利用する戦略のよい例を提供している。
2009年 10月に,航空産業の専門家を驚かしたのは,XAC がオーストリアのフィッシャー先端複 合材料コンポーネント(Fischer Advanced Composite Components:FACC)の 91.25%の所有権 を取得することで合意に達したと発表した。FACC はエアバスとボーイングのような航空機製造会 社への先端材料の第一層サプライヤー(tier 1 supplier)である。 FACC は,航空機の翼からエンジン・ナセルそしてキャビンまで 用される複合材料の主要サプ ライヤーの1つである。2008年までに,FAAC の売上高は3億 9300万ドルに達し,1,580人の従業 員があった。50%は複合材料で作られる新世代のボーイング Dreamlinerとエアバス 350XWB,そ して 20%は複合材料で作られるエアバスA 380を支援するために,FACC が2億 3000万ドルを投 資した。しかし,これらの新型飛行機開発プログラムが遅れた時,FACC は損失を出し始めた。世 界同時不況が発生してから,赤字が一層膨らみ,2009年初めまでに累積赤字が 2890万ドルに達し た。XAC が買い手として現われた時,FACC の現金準備は底に付いていた。XAC は,新しい資本 として 6000万ドルを投入することに合意し,買収価格は約1億 3500万ドルと推測される。FACC はこの取引により,財務が安定となると同時に,AVIC を通して中国の航空機市場,さらにエアバス とボーイングが中国で 造していた新工場へのアクセスを改善できた。 この買収のため,XAC および親会社の AVIC が最先端の複合材料技術と大勢の技術者を獲得で きた。それらは中国での航空機開発プログラム,たとえば地方路線用のジェット機 ARJ21,そして エアバス 320とボーイング 737と競合するC 919の開発に活用することができる。FACC の第一層 サプライヤーの地位を活用して,XAC はまた主要な国際航空機メーカーと間接的に仕事できるよ うになった。 買収後,XAC が FACC をヨーロッパでの中国会社に変えてしまうようなことはしたくなかった。 国際的な経営陣を組織し,FACC の先端技術の研究開発を支えるオリジナルの管理方式を維持しよ うとした。 このような戦略に乗り出した他の会社も相次いでいる。海外M&Aを って,先端技術にアクセ スするかあるいは先端技術クラスタにおける研究開発センターの既存のネットワークを獲得する。 ( ) 9 9 海外M&Aと中国多国籍企業の競争優位 造
自動車産業は典型例である。
2009年 11月に,自動車部品サプライヤーの京西重工(Beijing West Industries)が1億ドルで デルファイ(Delphi)のブレーキおよびサスペンション装置事業を取得した時,最先端の MagneR-ide技術だけでなく,北米・中国・日本・フランス・ポーランドの研究開発センター,またオースト ラリア・ドイツ・インド・台湾・英国にある応用サポートセンターをも入手した。
2009年 12月に,北京汽車工業控股(Beijing Automotive Industry Holdings:BAIC)は GM か ら,同社傘下のスウェーデン系自動車会社サーブ(SAAB)の2車種の知的財産権と金型(Saab9-3 および 9-5),2つのエンジン技術および2つの伝動装置の権利と製造設備を2億ドルで買収した。 この取引はさらに,サーブは BAIC の中国市場のために導入される車種に,これらの技術を統合す ることを支援し,エンジニアとデザイナーを提供することを協定した。それから丁度4カ月後に開 幕した北京オートショーで,BAIC はサーブの技術に基づいた新車種C-71を出展した。 中国の EMNE の海外M&Aの第3波のもう1つ顕著な特徴は,外国市場でマーケット・シェアを 獲得するよりも,中国の国内市場でのポジションを強化することに目的が変わってきたことである。 この第1波に見られる海外市場開拓の足掛かり戦略からの逆転は明白な長所を持つ。 まず,中国の EMNE が買収対象の資産と能力を統合する上で,中国市場はより有利な環境を提供 する。新技術,新製品およびノウハウを統合するタスクは,親会社の経営陣が土地を熟知している 国内市場中で遂行する方がはるかに簡単であろう。 次に,成熟した先進国市場で陣取った競争相手からマーケット・シェアを奪い取る代わりに,買 収者は急成長している中国市場で買収の利益を速く獲得できる。 第3に,被買収会社の経営者および従業員から見れば,自 の技術が恐らく世界で最も急成長し ている中国市場に応用される機会が提供されるので,その買収に賛同してくれる可能性が大きい。 例えば,2010年8月に,スウェーデンの老舗高級車メーカー・ボルボ(Volvo)が,1997年に設 立した中国の若い民族系最大の自動車メーカー吉利(Geely)に 18億ドルで買収されたことは,世 界を驚かせた。吉利が買収の対象としたのは,スウェーデンの他に,ベルギー,マレーシアにある ボルボの4つの組み立て工場をはじめ,エンジンなど4つの部品工場,スウェーデン,米国とスペ インにある3つのR&Dセンター,世界各地にある 2,341の販売店,9つの製品シリーズおよび3 つの新しいプラットフォーム,そして関連特許 2,450件などである。ボルボの生産能力は年間 60万 台弱であるが,2009年の販売台数は 33万台しかなく,半 近くのキャパシティは遊休状態であった ので,厳しい経営状況にあった。
買収後の吉利ボルボの CEOには,VW の前北米 CEOであった Stefan Jacobyが就任した。新し いボルボの取締役会に,吉利からは李書福会長を含め,2名しか派遣されていないが, 一票否決権 を持つ立場を与えられている。両社間の関係は 吉利は吉利,ボルボはボルボ と棲み けること が基本方針になっている。 吉利は,ボルボの技術と設計ノウハウを中国の現地市場に役立つため,3つの新しい製造拠点(上 海,成都,大慶)に統合すると発表した。計画は中国での年間販売台数を,2.4万台から 30万台に 大幅に引き上げ,これはほぼボルボの世界販売台数に相当する(2009年は 33.5万台)。 ところで,吉利とボルボという企業文化もブランド・イメージも全く違う企業が,果たしてうま
く統合できるのだろうか。北欧の血統を引き継いだボルボの高級車ブランドは維持できるのか,不 安感が増幅するばかりである。仮に買収が成功したとしても,合併後の企業統合(post-merger inte-gration)の問題や経営管理面の諸課題は,中国企業自らが克服せざるを得ない。これこそ,若き中 国発多国籍企業のアキレス腱なのである。 さて,買収によって獲得した技術と研究開発の流れを中国のオペレーションへ成功裡に統合した 後,いくつかの中国の EMNE は,改善された能力ベースおよび規模を,世界市場に参入するための プラットフォームとして利用することを計画している。このアプローチを成功裡に展開させた中国 企業の1つは,2006年 12月に,フランスの動物栄養添加物メーカーAdisseoを4億 8000万ドルで 買収した中国化工集団(ChemChina)である。 Adisseo は,メチオニン(養鶏業で 用される重要な添加物)の世界第二位のメーカーであり,29% の世界市場シェアを持っていたが,中国の急速に成長している養鶏部門での存在感がほとんどな かった。Adisseoはまた,2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)の発生で大きな打撃を受け,弱 くなったバランス・シートのために,独自で中国市場を開拓する力が持たなかった。 このフランスの会社を買収したことによって,ChemChinaは中国に存在しなかったメチオニン の生産技術を入手した。ChemChinaは傘下に 107社の国有企業を抱え,年間 200億ドルの売上高を 持つ中国最大の化学薬品生産企業の1つであり,急速に売上を拡大するために必要な流通経路およ び全国に跨る地方組織を既に持っている。ChemChinaの董事長任 新はこれを 外国に出て,国内 に持ってくる 戦略と呼ぶ。彼は Adisseoの経営陣にこの えを懸命に売り込んだ。そして,Adisseo の経営陣がそれを株主に対して,ChemChinaの買収を受け入れるようと薦めた。その理由として, この買収は中国巨大市場への門戸を開き,会社をより明るい将来に導くことであった。 これまでのところ,この戦略はうまくいったように見える。ChemChinaが Adisseoを買収した 後,中国でメチオニン・ビジネスの育成を支援する責任を Adessioのマネージャーおよび技術者に 与えたが,ちょうど4年で ChemChinaが中国最大のメチオニン・サプライヤーになった。続いて, ChemChina は,ヨーロッパの工場を拡張・改良し,かつグローバルな生産能力を拡張する大規模な 新投資計画を発表した。 ChemChina がしたのは,外国の技術とノウハウを取得して,それを中国の大衆市場向けのコス ト・イノベーションおよび迅速な全国展開という自身の中国的固有能力と組み合わせることである。 コスト効率の良い生産と流通を開発するノウハウとプロセス,および中国でマーケット・シェアを 勝ち取ることができる競争優位を構築したのである。 いったんこれが成功すれば,次に第2段階に移っていく。そこでは,大規模投資を行う資本力に 支えられながら,新しく 造された競争優位を応用して,中国以外の市場で勝ち抜こうとする。こ の2段階戦略は図3のように示される。 2段階戦略は次のように展開する。最初に,外国の技術・ノウハウ・人材を獲得して,中国市場 で勝利のポジションを構築するためにそれらを展開させる。次に,これを新らたな強力なプラット フォームとして利用し,世界市場を勝ち取る。 ChemChina はこのような道に って歩んできた。2006年に,ChemChinaがオーストラリアの Qenos社を買収した。この会社は包装,ホーム用品, 設用配線および他の多くの産業で 用され るポリエチレン製品の主要メーカーである。2007年に,ChemChinaが5億ドルでフランスの ( ) 11 11 海外M&Aと中国多国籍企業の競争優位 造
Rhodia 社の有機シリコーン・ビジネスを買収した。その技術はシリコン・ゴム,シリコン・オイル, シリコーン接着剤およびコーティングの製造に われる。2010年 12月に,ChemChinaは 14億 4000万ドルを払って,イスラエルの Makhteshim-Agan Industries社の株式 60%を取得した。この 会社は殺菌剤,殺虫剤および除草剤を含むブランドの特許の切れた作物保護製品の世界リーダーで ある。 結 論 本稿はまず萌芽状態にある中国の EMNE によって開発された FSA の限界を指摘した上,国際競 争力を改善するために,中国の EMNE が海外M&Aを行う際に 用されるいくつかの方式を 察 した。国際的な拡張の足掛かりとしての海外M&A,資源追求目的の海外M&A,そして新しいタ イプの競争優位を構築するために既存の FSA と結合できる能力にアクセス方法としての海外M& Aである。 個別企業の戦略に違いがあったことは避けられないが, 計データの 析および特定の買収事例 研究から,世界市場における中国の EMNE の競争優位の生成に寄与する海外M&Aの推移には3 つの波を識別できた。 最初の波において,海外M&Aをグローバルな拡張の足掛かりとして 用することを,中国の EMNE は試みたが,ほとんど失敗に終わった。第2段階では,中国の EMNE の買収対象は,ほと んど有形資産と天然資源に価値のある会社への集中が見られた。これらの場合では,買収された会 社のコア事業は既存の経営陣によって相対的に独立した運営が続けられ,中国企業の既存サプラ イ・チェーンに接続すれば, プラグ・アンド・プレイ (すぐに機能する)ができるので,獲得し た資源を中国企業に統合することが非常に簡単であった。他方,獲得した資源と能力の性質から, 統合の潜在可能性が限られた。これらの買収から広範囲に重要な競争優位の源泉を生成する潜在力 があまり期待できない。 このような限界を認識して,中国の EMNE は海外買収の対象候補を新たな視点から 察し始め た。関心の焦点は特許技術・ノウハウおよび国際的な研究開発センターのネットワーク,そして時 図3 中国の EMNEの海外M&Aの ダブル・ハンドスプリング 戦略
にはブランドのある企業に変わった。戦略は,中国の EMNE 自身の FSA と買収した能力を組み合 わせて,新しいタイプの競争優位を構築することである。広範囲な運営ノウハウ・文化・価値およ びブランド構築のような能力に比べて,確かな技術と知的財産がより明文化され,よりコンテキス ト依存でないため,買収した資源と能力は中国の EMNE の既存 FSA に統合することが本質的によ り簡単であった。研究開発センターの場合,中国の EMNE のR&D投資意欲が高く,しかも研究者 たちにとって,本国市場よりもはるかに巨大で急成長の中国市場で彼らのイノベーションを利用で きるという見通しが大きな動機づけとなる。外国の技術者が製品とプロセスの革新的な えを生み 出し,次に中国の EMNE が自 の補完的なスキルを用いて,それらの発明を大規模に応用し,かつ コストを押し下げることができる。 同様に重要なことは,中国の EMNE はこの新しい過程で,買収した能力の統合にあたって,中国 市場に焦点を当てるべきと決定した。そうすれば,既に熟知している国内環境,資源の深さ,規模 および範囲を活用すれば,統合がよりスムーズに進められる。 中国の EMNE は,いったん海外買収を通じて得た資源と能力を国内市場で統合し,競争優位の新 しい源泉を 造することに成功してから,次に世界市場でそれを活用する方法を模索し始めた。 したがって,全体としての結論は,中国の EMNE が実験,失敗と学習の反復プロセスを通じて, 次第に海外M&Aを上手に利用して競争優位の源泉を強化・拡大し,グローバル市場へのさらなる 拡張を支える戦略に集まっている。 参 文献
Peter J.Williamson and Anand P.Raman (2013), Cross-border M&A and competitive advantage of Chinese EMNEs ,in Williamson,Ramamurti,Fleury and Fleury ed.The Competitive Advantage of Emerging Market Multinationals, Cambridge University Press, pp.260-277.
Peter Nolan (2013), Chinese Firms, Global Firms―Industrial policy in the era of globalization, Routledge Studies on the Chinese Economy 51, Routledge.
Nirmalya Kumar and Jan-Benedict E.M.Steenkamp (2013),Brand Breakout―How Emerging Market Brands will go global, Palgrave.
丸川知雄 現代中国経済 有 閣,2013年 丸川知雄 他 中国発・多国籍企業 同友館,2008年 堀口正 中国経済論 世界思想社,2010年 浦田秀次郎・小島眞・日本経済研究センター編著 インド VS.中国 二大新興国の実力比較 日本経済 新聞出版社,2012年 魯桐 中国企業海外市場進入模式研究 経済管理出版社,2007年 ( ) 13 13 海外M&Aと中国多国籍企業の競争優位 造