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目次 はじめに 第 1 章移動体通信市場の現状 1. 移動体通信の定義 2. 市場内分析 第 2 章競争優位分析 1. 競争優位とは 2. KDDI の競争優位分析 3. ソフトバンクの競争優位分析 第 3 章ソフトバンクの具体的な戦略の分析 1. 戦略的コミットメント 2. 範囲の経済性をもたらす

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「日本における移動体通信市場での競争優位分析と

資源ベース理論による政策提言」

学 籍 番 号 :

05W1407001D

雨宮

樹里

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目次 はじめに 第1章 移動体通信市場の現状 1. 移動体通信の定義 2. 市場内分析 第2章 競争優位分析 1. 競争優位とは 2. KDDI の競争優位分析 3. ソフトバンクの競争優位分析 第3章 ソフトバンクの具体的な戦略の分析 1.戦略的コミットメント 2.範囲の経済性をもたらす戦略 -仮想移動体通信- 3.ソフトバンクと他社との次世代通信規格への移行猶予期間の違い 4.ソフトバンクモデルの戦略上の欠点 第4章 政策的提言 1.欠点から導き出した解決すべき問題 2.資源ベース理論と組織的資源 3.提言の具体的内容 おわりに 参考文献

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はじめに 移動体通信市場は、つい最近まで競争の激しい市場ではなかった。それは、シェア第 1 位のNTT DoCoMo がシェア56%(2005 年末時点)と過半数を取っていたこと、さらに は、市場に参加する通信キャリアが価格競争を行わないことにより、市場にある富を分か ち合うことを行ってきたことも大きな理由である。これは、談合を行っていたからという 訳ではなく、NTT DoCoMo による戦略的コミットメントに他キャリアが追随した結果であ る。 今回論文で分析を行う2005 年末以降の移動体通信市場は激しい競争が起きている。この 転換期となった2005 年は、当時の旧ボーダフォンを買収して既存通信業者として、ソフト バンクが参入してきた年である。ソフトバンクは、市場内で行われていた戦略的コミット メントとは相対するコミットメントを行うと共に、報奨金制度により疲弊しきっていた既 存の携帯電話端末の販売形式を改めるなど、市場環境を大きく変える戦略を取った。その 結果、今まで非常に高かった通話・通信料や基本料金が大きく値下がりし、通信キャリア 間では積極的な価格競争が起きている。その結果、煩雑な料金体系が生まれたりとマイナ ス面も現れたが、それを差し引いてもなお余りある便益を消費者が享受できるようになっ た。また、最近では、料金体系のシンプル化が重用視され、その便益はさらに大きくなっ たと考察する。 以上のことをふまえた本論文の構成は以下の通りである。第 1 章では今回扱う市場であ る移動体通信市場の定義をすると共に、社団法人電気通信事業者協会の提供する携帯電話 のシェア・純増数の統計を自分で加工し、統計的に変化が起きていることを分析を通して 指摘する。とくに、純増数の推移のグラフから、或る期間に於いて他キャリアよりも純増 数を増やしている、もしくは高水準で維持しているキャリアが存在していることに重点を 置く。第2 章では、第 1 章で指摘した純増数において他キャリアよりも優位にたっていた KDDI の分析を行う。分析を行うに当たって、競争優位を軸に扱う。そのために、競争優位 とはどのようなものなのかということを示す。また、同じく、ある期間で他キャリアより も優位に立っているソフトバンクの分析を競争優位を用いて分析する。第 3 章では KDDI の戦略にはないソフトバンクの戦略を挙げ、分析する。この章ではいままで通信キャリア が消費者に還元することなく蓄えていた剰余分、具体的には創出価値に占める高い生産者 余剰を消費者余剰に還元する戦略、また価格競争を仕掛ける上で、戦略的コミットメント による戦略を中心に分析する。分析を行う上で、最初に、戦略的コミットメントがどのよ うなものなのかを示す。また、再び統計分析を用いて、ソフトバンクと他社との次世代通 信規格への移行猶予期間の違いを指摘する。この指摘は、第2 章で分析した、KDDI の戦 略が技術革新により生まれた競争優位に頼った結果、次世代規格への移行が迫るほど効果 が弱くなることを示す一方、既存の資源や戦略的コミットメントを利用したソフトバンク の戦略が新規顧客の獲得により、次世代規格への移行期間に猶予期間が生まれてることを 示す。そして、章の前半で発見した、ソフトバンクの戦略モデルの優位に潜む欠点を指摘

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する。第 4 章では、発見した欠点から生まれた解決すべき問題を提示し、それを解決する 政策的提言を行う。政策的提言を行う上で、資源ベース理論を用いるために、資源ベース 理論の枠組みを示す。また、政策的提言では資源ベース理論における組織的資源に重点を 置くため、ソフトバンクの有する、組織的資源を提示し、具体的な政策的提言とその提言 がもたらす効用を分析する。 第1章 移動体通信市場の現状 1.移動体通信の定義 移動体通信とは、携帯電話や可搬性に優れたノートパソコンなどによる、 移動先でも利用可能な通信全般のことである。(1) 本論文では、通信キャリアの扱う通信ということを強調するため、狭義的に携帯電話・ スマートフォンといった、 携帯電話型の通信端末の事を指すことにする。 2.市場内分析 2005 年 7 月末 2008 年 7 月末 【図1】移動体通信市場のシェア推移(2) この市場は、参入障壁が高い。それは、通信事業を行うには総務省から電波の周波数帯 を割り当ててもらわなくてはならず、また、その周波数帯は数が非常に限られているため に参入の最低条件を満たすことが難しい。さらに、電波を全国規模でつなげるためには基 地局などへの設備投資を行う必要があり、多額の初期投資が発生する。その結果、現在も なお寡占状態が続いているのが特徴である。 上記の市場内のシェア推移グラフをみると、2005 年から 2008 年にかけて、第 1 の NTT (1) 小学館『大辞泉』編集部著「大辞泉」 (2) 社団法人電気通信事業者協会http://www.tca.or.jp/database/index.html 「事業者別月別累計契約数」より作成 2008 年 8 月 27 日取得

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DoCoMo がシェアを落としている。どの通信キャリアがどのような戦略を用いてシェアを 奪ったのかを知るために、純増数をグラフ化したものが以下のグラフである。 【図2】2001 年―2008 年にかけての各通信キャリアの純増数の推移(3) 2005 年から 2006 年の後半まで、KDDI(au)が純増数をほぼ一定で維持しているに対し て、旧ボーダフォンやNTT DoCoMo が純増数を落としている。これは、KDDI が他社に対 して競争優位を発揮していると言えるのではないか。一方で、2006 年から 2008 年現在ま で、ソフトバンクが他社よりも圧倒して純増数を確保している。この 2 社の競争優位を比 較分析することによって、ソフトバンクの戦略が斬新かつ、市場環境を大きく変化させた ことを示そうと思う。 第2章 競争優位分析 1.競争優位とは ある企業が、同一市場において、 平均よりも高い経済利益率を得ること 競争優位を得るには、競合他社以上の価値の創出が必要であり、創出能力は、競争下での 自身のポジショニングに依存する 【図3】競争優位の定義(4) (3)社団法人電気通信事業者協会http://www.tca.or.jp/database/index.html 「事業者別月別累計契約数」より作成 2008 年 8 月 27 日取得 (4)デイビッド・ベサンコ著『戦略の経済学』P455,図 12-2 ダイヤモンド社 2002 年、

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企業の競争優位がもたらす経済利益は大きく2 つの要因から成り立っている。1 つめは市 場の経済要因であり、2 つめは競合他社に対する創出価値である。 1つめの市場の経済要因について分析する。通信業は製造業などに見られる、原材料を 仕入れて加工し最終製品にするという、バリューチェーン的な構造ではない。また原材料 を仕入れるということもないので、原材料の市場価格によりコストが変動すると言うこと もない。通信業に必要な電波は、総務省から割り当てられていて、電波の利用料を払う必 要もない。以上のことから、競争優位における経済的要因はゼロであると考えてよい。 2 つめの競合他社に対する創出価値は、コストポジションと便益ポジションの2つにさら に分解することが出来る。 2.KDDI のケース 2005 年から 2006 年にかけて、KDDI は CDMA 1xという第 3 世代通信規格を他社に先 駆けて導入した。この方式は、当時のNTT DoCoMo や旧ボーダフォンが採用していた第 2 世代携帯電話規格よりも低コスト・高速通信というメリットを持っていた。つまり、低コ ストによるコストポジション、高速度による便益ポジションの二つを同時に達成した。コ ストポジションと便益ポジションの両方で新しく生まれた創出価値をKDDI はどのように 配分したのか。コストポジションで得た利益の剰余分は学割という形で消費者余剰として 還元する一方で、高速通信によって得られた便益ポジションは音楽配信という今までの移 動体通信では見られなかったサービスを行うことにより、共通の生産要素を利用した範囲 の経済をもたらした。コストポジションで得た剰余分を学割で還元したこと、便益ポジシ ョンで音楽配信を始めたのは、若年層をターゲットにした集中戦略であった。 3.ソフトバンクのケース ソフトバンクは、2005 年に旧ボーダフォンを買収し、移動体通信市場に参入した。その 後、2006 年から現在にかけて 19 ヶ月連続純増数第 1 位を達成している。これは、ソフト バンクの行っている戦略が競合他社に対して優位をもたらしていると言えるだろう。まず は、コスト優位に注目する。結論から述べれば、コストポジションは達成している。しか しながら、それは KDDI のときの様な新技術によるものではなく、価格戦略により知覚便 益にしめる生産者余剰を消費者余剰に回したり、携帯電話端末の販売における報奨金制度 の撤廃、携帯電話コンテンツにヤフーを利用することで、コスト削減をおこなった。 便益ポジションでは、第3.5 世代携帯電話の高速通信を利用したモバイルインターネット の提供があげられるだろう。第3.5 世代携帯電話はソフトバンクを始め、KDDI や NTT DoCoMo でも採用されているが、KDDI では従来の戦略通り、音楽配信に利用し、NTT DoCoMo では、既存のモバイルコンテンツにアクセスする際の高速化を謳っている。ソフ トバンクは積極的に、PC などから利用できるインターネット環境を提供できるスマートフ

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ォンと呼ばれる高性能端末を選択できるようにしている。 第3章 ソフトバンクの具体的な戦略の分析 -消費者の便益を高め、生産者のコストを削減する- 1.戦略的コミットメント 移動体通信市場に参入するにあたって、ソフトバンクは料金プランでの対抗を明言した。 具体的な内容は、「競合他社の提供する料金プランと全く同じ物を提供する。新しい料金プ ランが競合他社から発表された際には24 時間以内に同等の料金プランをソフトバンクから 提供する。」というものである。これは、戦略的コミットメント戦略であり、価格競争を仕 掛け、勝つために攻撃し続けるという戦略的補完によるタフコミットメントである。この コミットメントが有効である理由として以下のことがあげられるだろう。移動体通信市場 は、寡占状態であることから、価格競争を行わずに市場参加者で富を分かち合うという戦 略的コミットメントが行われていた。その結果、高い利益率を得られていたのだが、それ は消費者余剰を大きく引き下げるコミットメントであった。また、買収した旧ボーダフォ ンは業界 3 位であり、戦略的補完のソフトコミットメントを行っても得られる富は少ない 上に、シェア拡大をねらうこともできない。以上の理由から、シェア拡大をねらうために は戦略的補完によるタフコミットメントは有効な戦略であったと分析する。 また、自社の価格プランとしての戦略的補完によるタフコミットメントの代表格は「ホ ワイトプラン」と呼ばれる、月額 980 円で、ソフトバンク携帯電話との通話・メール無料 の料金プランである。これは、今までの通信キャリアが消費者余剰に還元していなかった 創出価値を消費者に還元する戦略である。 【図4】ホワイトプランの利益率とシェアの関係 【図4】は、ホワイトプランのシェアと利益率の関係を示したものである。ホワイトプラ ンは、生産者余剰を消費者余剰に還元することで、契約純増数拡大に大きく貢献するも、 シェアが拡大すると利益率が下がる性質を持っている。ホワイトプランは、ソフトバンク 同士での通話通信が無料になるかわりに、他キャリアとの接続料で収益を上げる構造にな っているために、利益率とシェアとの間にトレードオフの関係が発生する。しかしながら、

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ソフトバンクの戦略はシェアを獲得できるのであれば、音声通話は赤字でなければそれで よく、音声通話よりも移動体通信でのインターネット関連で利益を得るのが目的あるとい う理由から、ホワイトプランにトレードオフの関係があることを認識しつつも提供してい るのである。 2.範囲の経済性をもたらす戦略 -仮想移動体通信- 通信企業において、有効活用できる経営資源である通信インフラ。この通信インフラを 利用して範囲の経済性を利用した戦略も行っている。仮想移動体通信業者というのは、物 理的な移動体回線網を自社で持たず、実際に保有する他の事業者から借りて、 自社ブラン ドで通信サービスを行う事業者のことである。ソフトバンクは、ディズニーモバイルや iphone などの仮想移動体通信事業者に通信インフラを提供し、利用料を得ている。 ソフトバンクが参入するにあたって、戦略的補完によるタフコミットメントのみによる 規模の経済性でシェア拡大を狙うのではなく、資源の有効利用によって、タフコミットメ ントを達成するための補完戦略として、この仮想移動体通信の積極利用は非常に有効な戦 略であると分析する。 以上の競争優位分析より、KDDI とソフトバンクの戦略の大きな違いが明白となった。つま り、KDDI は新技術(新しい通信規格)の登場による競合他社に対して優位なポジションの 獲得だったのに対して、ソフトバンクは価格戦略やコンテンツの内製化といった事を行う ことによる、新技術に頼らない戦略により優位なポジションを獲得した。 また、KDDI は若年層にターゲットを絞る集中戦略を取ったために、コスト優位で得られた 余剰を狭いセグメントにしか還元できなかった。一方でソフトバンクは、経営理念にも有 るように、すべての人々にデジタル革命で得られる便益がもたらされるべきであるという 考えの基、すべての顧客の便益が高まるように基本料金という部分で還元した。 技術革新による優位なポジションの獲得よりも、既存の物を新しく繋ぎ直したり配分を 変更したりして新しいビジネスモデルを構築する戦略を取る企業の方が分析をするにはと ても面白く魅力的である。 3.ソフトバンクと他社との次世代通信規格への移行猶予期間の違い 2002 年ごろから始まった第 2 世代携帯電話から第 3 世代への移行がもうすぐ終わろうと している。しかしながら、移行が何時終わるのかという問題は、各通信キャリアごとに異

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なっている。これにはNTT DoCoMo, KDDI, ソフトバンクの 3 社の移行数の推移をグラフ 化すると、以下のように大きな差が生まれていることがわかる。 【図5】NTT DoCoMo 第 2 世代から第 3 世代への移行の推移(5) 【図6】KDDI 第 2 世代から第 3 世代への移行の推移(6) 【図7】ソフトバンク 第 2 世代から第 3 世代への移行の推移(7) (5)(6)(7)社団法人電気通信事業者協会http://www.tca.or.jp/database/index.html 「事業者別月別累計契約数」より作成 2008 年 8 月 27 日取得

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上の3 つのグラフを比較しながら見ると、第 2 世代の純減数と第 3 世代の純増数が互いに ゼロになるということから、KDDI の第 3 世代への移行が終了していることがわかる。KDDI は他の2 社にくらべて 1 年ほど早くから第 3 世代へ移行を開始していることから、一番早 くに行こうが完了したのだと思われる。また、KDDI に続き、NTT DoCoMo、ソフトバン クとつづいて第3 世代への移行が完了しようとしている。 第2 世代から第 3 世代への移行が始まった前後の期間をグラフから見ると、移行が終わ ってから 2 年ほどで新しい規格の次世代携帯電話が登場している。また、この通信規格の 世代が新しくなるまでの2 年間で契約者純増数が大きく増減することが、【図2】から読み 取ることが出来る。当時のKDDI は、他キャリアとは違う通信規格による第 3 世代への早 期移行がもたらす便益ポジションとコストポジションで得られた新規の創出価値を若年層 という特定のセグメントへの集中戦略に使うことにより、純増数を増やすことに成功した。 KDDI は一足先に世代移行をしてしまったために、次世代規格が商業ベースに乗る前に転換 期を迎えることになった。この論文ではソフトバンクの政策的提言を行うことを目的とし ているために、KDDI への提言は行わないが、KDDI はより魅力的な新しいサービスをもっ て創出価値を現行よりも高めなくてはシェアを落としていくだろう。 KDDI を除く、他の 2 社は、転換期を迎えるにはまだ期間がある。NTT DoCoMo とソフ トバンクでは、ソフトバンクの方がさらに期間の余裕がある。次世代への移行に伴う新し い創出価値の提供するための新しい戦略を構築する猶予期間を見る限り、ソフトバンク、 NTT DoCoMo、KDDI の順番で余裕がある。ということは、現在の移動体通信市場でもっ とも優位に立っているのはソフトバンクだと言えるだろう。 4.ソフトバンクモデルの戦略上の欠点 ソフトバンクが移動体通信市場に参入する際に取った戦略の大きな柱は、今まで高い比 率で生産者余剰に分配されていた創出価値を、生産者余剰に大きく配分することであった。 それを競合他社にも影響を与えるために、戦略的補完によるタフコミットメントを行い、 市場内での価格競争を実現させた。この価格競争を勝ち残るために、仮想移動体通信を利 用した範囲の経済性による資源の有効利用や、グループ企業のヤフーが携帯のコンテンツ を担当することにより、コストの削減を行い、また、携帯電話端末販売における報奨金制 度の撤廃など、収益構造を改善することにより価格競争で対等に勝負することができた。 一見して欠点がないモデルのような気がするが、問題はいくつか存在する。特に問題な のは、シェア拡大をねらったホワイトプランは利益率とシェアとの間にトレードオフの関 係が発生していることから、上記の様な収益構造の改善だけでは今後成り立たなくなると いう点である。業界内では転換期への猶予期間が一番長いという点から、競合他社よりも 一番優位に立っているが、この期間を利用して先の分析で見つかった欠点を解決しておか

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ないと、選択できる戦略の幅を縮めてしまう可能性がある。 第4章 政策的提言 1.欠点から導き出した解決すべき問題 今までの分析の通り、ソフトバンクは次世代への移行を行う前に、ホワイトプランのト レードオフ関係を緩和させるための策を取らなくてはならない。また、通信インフラを保 有しているグループでありながら、仮想移動体通信程度にしか資源を活用できていないこ とから、これら2つの問題を解決するための政策的提言を行う。 2.資源ベース理論と組織的資源 資源ベース理論(8) 範囲の経済は企業内の使われていない経営・組織的資源を、 新しい分野で活かすこ とにより生まれる。 そうした資源を使い切るために本業の規模を拡大することは、 競争が激しく難しいかもしれないが、 他の製品市場においてはそうした経営戦略を 有効活用でき、 それにより、範囲の経済が生まれることがあり得る。 資源ベース理論における、組織的資源を利用し、既に行われているサービスを強化する形 で提言を行えば、より実効性の高い提言となる。また、グループの連携という形の組織的 資源の利用を行えば、シェア第1 位の NTT に対して非常に有効な戦略にもなる。なぜなら ば、NTT DoCoMo などの NTT グループは NTT 法により、規制を受けるからである。 「2001 年 改正 NTT 法」(9) NTT 東西地域会社がインターネット上のサービスなど新たに業務範囲を拡大するこ とを 「地域電気通信業務等の円滑な遂行に支障を及ぼすおそれがない」 「電気通 信事業の公正な競争の確保に支障を及ぼすおそれがない」 という条件をクリアすれ ば、総務省が認可できるよう改められた。 総務省が指定した市場支配的な通信事業 者(NTT 東西地域会社や NTT ドコモが含まれる)の他社との接続の際には接続料金の 算定根拠の公表を定め、特定の事業者の優遇や差別を禁止した。 (8)デイビッド・ベサンコ著『戦略の経済学』P218、ダイヤモンド社 2002 年、 (9)『日本電信電話株式会社等に関する法律』1984 年発効、2001 年改正

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NTT を規制する法律は、逆手に取れば NTT と戦うための有効な戦略を提言するのに非常 に役立つのではないか。法律という強力な模倣障壁を利用した戦略は、仮にNTT が戦略的 コミットメントにより追随しようとしても、総務省の認可が必要となる。これらのことか ら、資源ベース理論を土台に、既存サービスを応用する形で、ソフトバンクの欠点を補完 するとともに、NTT への有効的な戦略を提言する。 ソフトバンクグループはNTT の電話網を通さない直収型の固定通話サービス「お得ライン」 を行った際に、自前の通信網を多額の投資で作り上げた。また、ブロードバンド接続サー ビスである「ヤフーBB」のサービスを開始する際に光ケーブル網を整備している。これら の資源は、移動体通信市場においてはほぼ活かしきれていない資源でありながら、有効活 用すれば非常に強力な競争優位となる。 3.提言の具体的内容 提言1 パステルコール24 ソフトバンクの提供するIP 電話からソフトバンクの IP 電話とソフトバンク携帯電話へ の通話料を無料にする。他社IP 電話への通話をほぼ無料での接続料にする。 このプランは、NTT に対抗するために敷設した自前の通信網を利用したサービスであり、 グループ内で活かし切れていない資源の有効利用をねらった提言である。 そもそも、IP 電話はコストが非常にやすく、同一キャリア間での通話はすでに無料となっ ている。 ケータイ電話から IP 電話にコールする場合、デジタル信号を変換する必要があ るが、それを考慮しても かなり定額なサービスが提供できる。 提言2 パステルプラン 他社携帯電話への通話無料 このプランはシェアと利益率が反比例のホワイトプランと真逆の関係を持つ。 ・ホワイトプランではシェアを獲得すると利益率が落ちる。 ・パステルプランはシェアが上がると利益率が上がる。 この二つのプランを同時に提供すると、以下のような収益率とシェアの関係が生まれる。

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【図8】ホワイトプランとパステルプランの関係図 その結果、携帯電話事業における料金から得られる利益率とシェアは二つの曲線の交点を 通り、且つシェア軸に対して平行な直線を通るようになる。これは、シェア拡大に伴う利 益率の低下を回避すると共に、他キャリアの携帯電話にかけても定額という高い消費者余 剰を提供することができる。 提言1パステルコール24と提言2のパステルプランは、前者はグループの連携による 組織的経営資源の利用であり、改正NTT 法を逆手にとった戦略である。後者は、ホワイト プランにおけるトレードオフの関係を解消するための補完プランであり、この 2 つの提言 は、現在ソフトバンクが抱える問題を解決するために最も有効な戦略であると判断し、こ の2つを政策的提言とする。 おわりに ソフトバンクが移動体通信市場に参入した際に取った戦略は市場内で競争を起こすこと により、自社の戦略的コミットメントをより効果的にすることであった。また、創出価値 にしめる生産者余剰を消費者余剰に還元することで、消費者への訴求力を高めることも行 った。これらの戦略の面白さ・有効性を本論文では理論的枠組みを用いて分析し、第 3 世 代から第 4 世代への移行が近づいている今日、この戦略が他社に対して競争優位をいつま でも持続させることができないということを指摘した。世代移行を迎える新しい転換期に おいて、次にソフトバンクがどのような戦略を採るのか、そしてその戦略が私の政策的提 言とどの様な違いがあるのか、という新しい興味が今回の分析を通して生まれた。

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参考文献 『戦略の経済学』デイビッド・ベサンコ ダイヤモンド社 『携帯電話の技術とサービス』 塩田紳二 技術評論社 『知られざる通信戦争の真実―NTT、ソフトバンクの暗闘』 日経コミュニケーション編集 日経BP 社 『ソフトバンク株式会社2009年3月期第一四半期決算短信 』 『エヌ・ティ・ティ・ドコモ株式会社2009年3月期第一四半期決算短信 』 『KDDI 株式会社2009年3月期第一四半期決算短信 』 『NTT DoCoMo11月期料金プランカタログ』 『ソフトバンク11月期料金プランカタログ』 『au 11月期料金プランカタログ』 『日本経済新聞2008/09/30, 朝刊ソフトバンク割賦債権流動化、4―9月、1000億円 超。』

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