慢性 硬膜下血腫 にお ける局所線溶活 性 克進
一 プラス ミ ソーα2‑ プラス ミ ンイ ン ヒ ビ タ ー 複 合 体 (pla s min‑α2‑pla s min inhibito r c o m ple x)
お よ び α2‑ プラス ミ ンイ ン ヒ ビ タ ー (α2‑Pla s min inhi bito r) の意 義に つ い て ‑
金 沢 大学 医学 部 脳 神経 外 科 学 講 座 (主任: 山下純 宏 教 授)
斎 藤 研
( 平成4 年7月2 9 日受 付)
慢 性 硬膜 下血腫 患 者6 3例7 3側におい て硬 膜 下血腫 内容 液上清 中の線 溶 活 性 因子である プラス ミンー柑プラス ミンイ ン ヒ
ビタ ー複 合 体 (pla s min‑α2‑Pla s mininhi bito r c o mple x,P L N‑A 2 P I c o m ple x),a2‑プラス ミソイン ヒビタ ー (α2
‑pla s min inh ibito r,
A 2 P I), 組 織 塾プ ラス ミ ノ ー ゲ ン ア ク チ べ ‑ タ ー (tis s u e‑t y pe pla smi n oge n a ctiv ato r, t‑P A), プ ラ ス ミ ノ ー ゲ ン
(pla s min oge n, P L G), フィ プ リンお よ びフ ィブ リノ ー ゲン分解 産 物 (fibrin a nd fi brin oge n degr adatio n pr odu cts, F D P) を測 定 し臨 床 症 状との関 連を調べた . 測 定 方 法は酵 素 免 疫 測 定 法 (e n zym e‑1inked im m u n o s o rbe nt a s s ay, E LI S A) (P L N‑A 2 P I
c o m ple x, A 2 P I, t‑P A), 2次 元 単 純 免 疫 拡 散 法 (r adial im m u n od iffu sio n) (P L G), 抗 体 感 作ラ テ ッ クス によ る免 疫 比 濁 法 (F D P) を用いた, 硬 膜 下血腫 内 容 液上清の P L N‑A 2 P I c o m ple x (4.8 ± 2 .6〟g/ml, n =7 2), トP A (1 2.5 士 8.4ng/ml, n = 73),
F D P(6 3 4 ±2 41p g/ ml, n =5 7) は高 値を 示 し, A 2 P I(1 0.5 士4.8p g/ ml, n =7 0),P L G (4.1 ±2.4m g/dl,n = 70) は低 値を 示 した.
一 九 慢 性硬 膜 下血腫 患 者の末梢血液 中の線 溶 因子 はいずれ も正常 範 囲 内であった. これ らの所 見は慢性 硬 膜 下血腫における 血腫の局所 線 溶 活 性 先 進 状 態を 示 し ている。 血腫上清の線溶 活 性 国 子のうち F D P を除いた 4 つの線 溶 活 性 因 子 間に ほ 互い に
有意の相 関があった. 昏 迷 あるいは昏 睡 状 態の高 度 意 識 障害 患 者における 血鷹 P L N‑A 2 P I c o m ple x (p< 0.0 1) お よ び t‑P A (p <0.0 5) は, 意 識 清 明ま た は失見 当 識, 傾 眠を示し た軽度 意 識 障 害 患者に比べ有 意に高値を 示 した. 一方 ∴運動 麻痔を 示 した 患者の血腫P L N‑A 2 P I c o mple x ほ麻 痔を認め な かっ た患 者に比べ有 意に低かっ た(p <0,0 5). 頭 部C T スキャ ンの所 見によっ
て慢 性 硬膜 下血應を 5 型に分 額し た ところ層 形 成 型を 示す硬 膜 下血腫で は, P L N‑A 2 P I c o m ple x 値は高 値を 示す 傾 向を認め た. 血腫の各 線 溶 因 子ほ, 術 後硬 膜 下血魔の再 貯 留を生じた群と生じ な かっ た群の間で有 意 差が な かった. 慢 性 硬膜 下血腫 患 者の術 後 硬膜 下 腱 留 置ドレー ン排 出液上清 中の各 線 溶 活 性 因子の値は, 治癒 症 例では 日毎に減少を 示 した が再 発し た 2 症 例で ほ F D P を除 き 増 加を 示 し た. 術 後ドレ ー ン排 出液の P L NTA 2 P I c o mple x お よ び A 2 P I の増 加は硬 膜 下腔における線 溶, 出 血, 凝 固, 止 血の サイク ルが 再燃し たこと を示 唆 する.
Key w ords chr o nic s ub dur al he m ato m a, pla smin‑α2‑plas min inhibito r com ple x, a2
‑pla smi n
i
n hibitor,hy pe rfibrin olys I S,fibrinoly tic a ctiv lt y
慢性硬 膜 下血歴は流 動 性の血腫が徐々 に進 行 性に増 大 するこ とによっ て, 頭痛, 嘔吐, 意 識 障 害な どの頭 蓋 内圧 克 進 症状や 片麻軋 あるいは痴 呆 等の精 神 症 状をきた し発 症 する. 軽度の 外傷が誘因 と なって発 生 する といわ れ る. 発 症まで数 週か ら数
ヶ月の無症 状の期 間があり明ら か な外 傷の既 往が 不明である場 合も多い. 血腫は硬 膜 側の外 側 被膜とク モ膜 側の内側被 膜に囲
まれ て お り,
一 般に流 動 性 暗 赤 色を 呈する. 馳硬 膜 下血塵の成 因につし
.
、て ほ, V ir cho wl) の硬 膜 炎 症 説 以乳 慢性 硬膜 下血腫の被 膜 形成と進 行 性血腫 増 大について多 くの学 説がある. 慢 性 硬 膜 下血魔の 血腫 増 大の磯 序について ほ, 主と し て浸透 圧, 溶 出お よ び漏 出, 反 復 性 出血の 3因子が
A b br e viatio n s : A 2 P I, α2
‑pla s min inhibito r; E LI S A ,
考え られている. Ga rdn e r2)によ る と, 慢 性 硬 膜 下血腰 被 膜は半
透 膜の性 質を持ち, 血腫は脳 脊髄 液との蛋 白 含 有 量の差によ る 膠 質 浸 透 圧によ り増 大 する と し た が,Ito ら3 )ほ膠 質 浸 透圧の慢 性 硬 膜 下血腰増 大に対 する関 与ほ全血腫 容 積の5 % 程 度にす ぎ ない こと を 示 し た. 放 射性 核 種によ る脳スキャ ソで慢 性 硬 膜 下 血腫 腔が描 出さ れ ること4}や 血腫 蛋 白含 有 量が 血清よ り高 値を 示す5 ) こと か ら, 溶 出お よ び漏 出 も血腫 増 大 因子 と考え ら れて いる. 1 9 2 5年,Putn a m ら6)は反 復 性 出血によ り慢性 硬 膜 下血腫 は増 大 する と した. 山 本られによ れば, 慢 性 硬 膜 下血腫には新 鮮 出血によ る変 形の少 ないドーナ ツ型 赤血球が認め ら れ る. ま た,Ito ら8)は Cr51標 識 赤血球を用い血腫 被膜か ら 血腫 脛へ の間
e n zym e linked im m u nds o rbe nt a s s ay ; F D P, fib rin a nd fib rin ogen degr adatio n pr odu cts; P L G , plasmi n oge n; P L N ‑A 2 P I c o m plex, plasmi n 竹pla smi n in hibitor C O mple x; t‑P A ,tis s u e‑t y pe pla s m in oge n activ ato r; 線溶, 線維素溶 解
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軟 性 出血 を証 明し, 水 腰5 ), 山嶋9)は形 態 学 的に血腫 外 側 被 膜 毛 細血管の血腫 腔への窓 状 開口を 示 し た, こ のよ う な反 復 性 出血 の原 因と して慢 性 硬 膜 下血腫の局 所 線 維 素 溶 解 ( 線 溶) 活 性 克 進が最 近 注目 さ れて いる.
Ito ら1 0 ) 8) 1 1) は慢 性 硬 膜 下血魔の血腫 中の フ ィ プ リンお よ び
フィブ リノ ー ゲン分 解 産 物 (fibrin a nd fibrin oge n degr adatio n pr odu cts, F D P), お よ び tis s u e‑t y Pe Pla s min oge n a ctiv ato r
(トP A ) が高 濃 度を 示すこと を認め, ま た 血腫 外 側 被 膜をフ ィ プ リン膜に重 畳 する とフ ィプ リン溶 解 窓が でき, これ ほ 血腫 中の 局 所 線溶 活 性 克進を 示唆する と し た. ま た Fujis a w a ら1 2 )1 3 ) は t‑P A に対 するモ ノ クロ ー ナ ル抗 体を用いた免疫 組 織 化 学 的 同 定 法に よ り, 慢性 硬 膜 下血塵 外 側 被 膜の血管 洞と毛 細血管の内 皮 細 胞に t‑P A が豊 富に存 在 すること を 示 し た.
そこで慢 性 硬膜 下血腫 内容 液の線 溶 活 性を検 索 する た め, 生 体 内線 溶 現 象 進 行の指 標と な る プラス ミンーα2‑プラス ミ ンイ ン
ヒ ビ タ ー 複 合 体 (pla s min‑α㌻pla s min inh ibito r c o mple x,
P L N‑A 2 P I c o mple x)1 4 )と α‑2 プラス ミ ンイ ン ヒ ビタ ー(α2‑PIa s‑
mininh ib ito r,A 2 P I) の慢 性 硬 険下血踵 内容 液上帝お よ び術 後 硬 膜 下ドレ ー ン排 出 液における値を測定し トP A , プラ ス ミ ノ ー
ゲン(pla.smi n oge n,P L G),F D P と臨床 所 見との関 連を調べた. 対 象およ び 方 法
金 沢 大学 医学 部 附 属 病 院お よ び関 連 病 院脳 神 経 外 科に おける 6 3例7 3例の慢 性 硬 膜 下血腫を対 象と し た. 性 比ほ男 子5 1例, 女 子 1 2例で, 年 令ほ 2 6才か ら8 7才であった(r n e a n± S D =6 4 ±1 5).
6 3例 中7 例ほ 両側 性で 4 例5側に硬 膜 下血魔の再 発を認め 3 例3 側に再 手 術が行わ れ た. 再 手 術3側を含め 7 3側の慢 性 硬膜 下血腫 内溶 液お よ び1 2例の術後 硬 膜 下 腔 留 置ドレー ン排 出 液上 構, 患 者 静 脈血 を研 究 材 料と し た. 手 術は頭 頂 部 近 くの径 4c m の小 関頭ま た は穿 頭によって行われた.
Ⅰ. 試 料の採 取 法
線 溶活 性の測 定は6 3例7 3側の硬膜 下血腫 内 容 液上清と1 2例の 術後 硬膜 下 腔 留 置ドレー ン排 出 液上宿につ い て行った. 硬 膜 下 血腫 内容 液の採 取は術 中に末 梢血 が混入 し ないよ う細心の注 意 を ほ らって シリ コ ン コ ー テ ィ ング を し たシ リンジで硬 膜 穿 刺に よ り行った. 1 2例で術 後, 硬 膜 下 陛にシリコ ン製カ テ ー テ ルを 留 置し排 出液を採 取し た. 血紫は術 前 安 静 時に末梢 静脈血 よ り 採血 し た.
F D P を測 定 する た めの試 料は採 取 後 直ちに トロ ン ビ ンとア ブロ チニ ンを含む試験 管に注入混 和し, それ以外の試 料ほ採 取 後 直ちに0.1 1 M の クエ ン酸ナト リ ウムと1 0: 1 に混 合しアイ
スボッ クスに いれて3 0分 以 内に 2 0 0 0 G で1 0分 間 遠心分 離し た.
分離し た 上清ほ ポリプロ ピレ ン製チ ュ ー ブに分 注し ‑7 0 ℃で測 定日 ま で保 存し た.
Ⅲ∴検査 項 目と測 定 法 1 . プラ ス ミ ソーa2
‑プラス ミソイ ンヒビタ ー複 合 体 (pla s min‑ α‑2Pla s min in hib ito r c o mple x, P L N‑A 2 P I c o mple x) お よ び
α2‑プラ ス ミ ソ イ ン ヒ ビ タ ー (α2
‑Pla s min inh ib ito r, A 2 P I) P L N‑A 2 P I c o mple x お よ び A 2 P I 抗 原 畳の測 定はモ ノ ク ロ ー ナ ル抗 体を用いたワ ンステッ プサンド ウィ ッチ法に よ る酵 素 免 疫 測 定 法 (e n zym e‑1inked im m u n o s o rbe nt a s s ay,E L IS A) キッ ト
T D 8 0 C お よ び T D 8 01 5 即)に よって行った.
2 . 組織型プ ラス ミ ノ ー ゲ ン ア ク チ ベ ー タ ー(tis s u e‑t y Pe Pla smi n oge n a ctiv ato r, t‑P A)
t7 A 濃 度ほ t‑P A e n zym e linked im m u n o s o rbe nt a ss ay ( E L IS A) キ ッ ト (Am e ric a n Diagn o stic a in c・, Ne w Yo rk,
U S A ) を 用い サン ド ウィ ッ チ E L IS A に て測 定し た1 T). 3 . プラス ミ ノ ー ゲン(pla s min o e n)
血祭 蛋 白定 量 用 免 疫 拡 散 板 (M‑Pa rtige n‑P la s min oge n㊧
, ヘ
キス トジャ パ ン
, 東 京) によ る 2 次 元 単 純 免 疫 拡 散 法 (r adial im m u n od iffu sio n) を 用いた1 8).
4 . フィ プ リンお よ びフ ィ ブ リノ ー ゲン分解 産 物 (fibrin a nd fibrin oge n degr adatio n pr odu cts,F D P)
抗フィブ リノー ゲン抗 体感 作ラ テ ックスに よ る免 疫比 濁法Ig ) を 用いた.
Ⅲ ∴統 計 地理
測 定 結 果は, m e a n±S D で 示 し た. 2群 間の有 意差 判定ほ,
Stude nt ま た ほ W elch の t 検 定,M a n n‑W h itn ey U 検定を用い た. 3群 以上の群 間 有 意 差 検 定に は 1 元配 置 分 散 分 析を おこ なったうえ Scheff 6 法によ り多 重 比 較検 定を行った. 対数正規 分布を 望 した測 定 値に対してほ対 数 変 換 後 同 様の検 定を行っ た. 分 布 型の不明瞭な変 数の3 群 以上の群 間 有 意 差 検 定に は Kr u skal‑W auis No npa r a m etric 分 散 分 析を施 行 後 Holla nde r・ Wolfe 検 定を 用いた2 8). 正規 分 布を 示 し た変 数の相 関は F 検定
で有意 差を判 定し, 分 布 型の不明瞭 な 変 数の相 関ほ Spe ar m a n の順位 相 関 計 算法によ り検 定した. 危 険 率 (p) が0.0 5 以下を有 意と し た.
成 績
Ⅰ. 血腫 内 容 液上清の緑 酒 因子
慢 性 硬 膜 下血腫 内容 液上清 中の P L N‑A 2 P I c o mple x お よ び A 2 P I の値は, 各々 4.8 ±2.6 (n = 7 2, 最 小 値1 .4, 最 大値1 3.4)
〟g/ml お よ び 1 0.5 ±4.8(n =7 0, 最 小値0.5, 最 大 値2 3.9)鵬/
ml であった. 血腫 中の P L N‑A 2 P I c o mple x と トP A ほ対数正 規 分 布 型を 示 し, A 2 P I,F D P は 正規 分布 型を 示 し た が, P L G の分 布ほ ほ っきり し た傾 向が な かっ た( 図1 A,B,C,D,E ). 血腫 中の P L N‑A 2 P I c o mple x の値はすべ て正常血梁上限値0.8p g/
ml1 5)を越え ていた. A 2 P I の値は 全 て 正常血凍 下 限値44〃g/ml 未満で, 最 大でも正常 下 限 値のお よ そ半 分の値であった. 血腫
中の トP A 値の7 7% は 正常血凍上限値7ng/ml1 7 )を越えていた・
血種 中の P L G ほ全て正常血祭 下 限 値 1 0m g/d l1 8、未 満であっ た. 血腫 中の F D P 値ほ 1 例(3 .1〃g/ ml) を除 き全て 20 0〃g/
m 仁以 上で, 正常血清上限 値を は る かにう わ ま わ った (表1 ).
Ⅲ. 末 梢血中の線 溶 因子と血 種 内 容 液上清の繚 溶 因子 の比較 対 象と なった慢性 硬 膜 下血頗 患 者のう ち末 梢血液 中の線溶因 子を測 定できた例で ほ‑ その値ほいずれも 概ね 正常 範囲 内で
あった( 表1).
P L N‑A 2 P Ic o m pIe x, A 2 P I,t‑P A ,P L G,F D P につき末梢血液 中の値と 血腫上清 中の値を比 較する と1 いずれも 明らか な有意 差を認め た (p <0.0 0 0 5, M a n n‑W hitn ey U 検定). 即 ち, 血腫上 清のP L N‑A 2 P I c o mple x,t‑P A,F D P は末 梢血液のそれらに比
べ著しい高 値を 示 し,P L G,A 2 P I は著しい低 値を 示 し た. いず れの線 溶 因 子においても 末 梢血液 中の値と 血腫上清 中の値との 間には相 関が な か った.
Ⅲ. 血腫 内溶 液 上 清の線 溶 因 子 相互間の相 関
. 血腫 内溶 液上清の線 溶 因 子 相 互 間で相 関の有 無を調べる と,
t‑P A と P L N‑A 2 P I c o mpIe x, A 2 P I と P L N‑A 2 PI c o r nple x・
P L G と A 2 P I,t‑P A と P L G, P L G と P L N‑A 2 P I c o mple x と