ボルト材の疲労強度に及ぼすひずみの影響
真 武 友 一 * ・ 今 井 康 文 * 松 永 栄 八 郎 料
E f f e c t o f t h e P r e ‑ s t r a i n o n t h e F a t i g u e S t r e n g t h o f a B o l t S t e e l
b y
Tomokazu MATAKE , Y a s u f u m i IMAI
( D e p a r t m e n t o f M e c h a n i c a l E n g i n e e r i n g ) a n d
E i h a c h i r o MA TSUNAGA
( H i t a c h i M e t a l s
,L t d . )
Fatigue s t r e n g t h of a p r e ‑ s t r a i n e d b o l t s t e e l , SCM 3 , has been i n v e s t i g a t e d i n r e l a t i o n t o t h e e f f e c t s o f t h e amount o f p r e ‑ s t r a i n and t h e a d d i t i o n a l s t r a i n i n g o f t h e p r e ‑ s t r a i n e d specimen i n t h e c o u r s e o f t h e f a t i g u e p r o c e s s and t h e i n f l u e n c e o f t h e time when t h e secondary s t r a i n was a p p l i e d . This simulated r e ‑ f a s t e n i n g t h e r e l a x e d b o l t s commonly encountered i n s e r v i c e . Furthermore , d i f f e r i n g from t h e c u r r e n t i n v e s t i g a t i o n s , where average d i a m e t r a l s t r a i n i s used , a c t u a l s u r f a c e s t r a i n which was o b t a i n e d by FEM a n a l y s i s was employed c o n s i d e r i n g t h e f a c t t h a t t h e f a t i g u e damage i s c o n c e n t r a t e d on t h e specimen s u r f a c e .
1 .
患者 Eヨ予加工によって金属材料は硬化し,その材力値が向 上するために,たとえばクレーンのフックなどは予ひ ずみを施して使用した.また,圧延,ショットピーニ ング等による疲労強度の増強も行われている.このよ うな予加工による疲労強度の増強の基本的な調査研究 が予加工の種類と大きさ,繰返される応力の種類と大 きさなど種々の組合せに対して行われて来て,そのデ ータもかなりの数にのぼっている1)‑11) これらの結 果,一般に,予加工を施した材料の疲労強度は,処女
昭和
5 4
年4
月2 5
日受理* 機 械 工 学 科 料目立金属株式会社
材のものより上昇していることが明らかになってい る.
他方,重複疲労被害に関する研究も
1 9 6 0
年代に盛ん に行われた.Miner
の直線被害則12)や修正マイナの 法貝U13)などが提唱された.特に2
段2
重の重複被害に ついては多くの実験がある.また,ランダム荷重によ る疲労強度は航空機や自動車にとって重要な問題でも ある.本研究は, (1)予加工を施した材料の疲労試験の途中 に,さらにひずみを加えて疲労強度を求めるというこ
と,(2)従来の研究で予ひずみは直径の変化より求める
有効ひずみ,すなわち断面全体で考えているのに対
し,疲労現象は表面の局部的な問題であるから有限要 素法を用いて得られる最大ひずみを用いたこと,(3)さ らに,ボルトが使用中に弛緩する場合の増締めによる 追加ひずみの影響の調査を目的としてボルト材を用い たこと,(4)ボルト材であるから繰返し荷重を緩圧と し,予ひずみおよび追加ひずみも同一試験機で与えた こと,などに特色がある.特に,2回に分けて与えるひずみの総量を,予ひず みとして1回で与えた場合の疲労強度を比較したが,
2回目のひずみを与える時期を変えて繰返数の影響も 調査して新知見を得たので報告する.
Table 1 Chemical composition and mechanical properties Chemical composition(%)
C
0.38
S、0.26
Mn
0.96
P
0.024
S
0.02 N、
0.03
Cr
1.11
M。0.18
Cu
0.01
Mechanical properties(々9加魏2,%)
E
2.13×104 σB
92.9
σ0。2
67.9
φ10.4 ψ
49.4
HB
277
2.実験材料及び実験方法
本研究に用いたのは調質されたボルト材,SCM−3
鋼(φ32×4.8〃3)で,その化学成分及び機械性質をTable 1に,組織写真をFig.1に示す.なお,この
材料にはひずみ時効がおこらないことを確めている.試験機はサーボペット(容量5t,島津製作所製)で,
ひずみを引張り荷重で与え,20Hzで引張圧縮の両振
り疲労試験を行った.この試験機に使用した試験片の形状をFig.2に示す.試験部は疲労試験中の表面観 察を便にするため,僅かに中央部を細めた鼓状とし た.このための応力集中係数は有限要素法によれぽ
α≡1.02である.
素材はボルト材として調質されているので,受入れ の状態で実験することにした.しかし試験片を機械加 工することによって生ずる加工硬化層を除去するため に,試験部を0/4のエメリ紙で研摩した後,電解研摩 で20〜30μを除去した.
試験部に所定のひずみを与えるために,巨視的に荷
E=Modulus of elasticity σB=Tensile strength
σG.2= 0.2% Offset yield strength
φ =Tensile elongationψ =Area contraction at fracture
HB=Brinell hardness number
Heat treatment;8700C OQ,590QC WC重あるいは変形を制御する必要がある.このために有
限要素法を用いた。その要素分割はFig.3に示すと
おりで要素数460,節点数264である.本計算には全ひ ずみ理論及び,ひずみ増分理論に依って,供試材の応カーひずみ線図を求めた.Fig.3の要素20のひずみ
が最大ひずみになるが,これが所定の大きさのときの 試験片の一様な引張応力およびゲージ間の伸びを求める.計算の精度は,Fig.4およびFig.5に不した
ように,要素#20のひずみと試験片の相当応力および 相当応力と相当ひずみの計算結果と実験は良く一致し ている.Fig.5に,要素20の塑性ひずみがεp=o.3%および0.6%の線を記入したが,この時ゲージ間の
螺 擁灘
鑛懸
cross sectlon
饗
璽雛懇箕
馨
一
〇.1mm longitudinal section axial direction Fig.1 Micro−photograph of material1
・ 3 .4
3
嶋鞠 起し
oo
も ド
嘔
Fig.2 Dimension of specimen
100
『
∈i
.δ
E90
き
6
80
70
60
50 O
一 一
『 一 一
一 一 一
O F19.5
LO 2.O・ 3。0 4,0
6q(%l Nominal stress−strain diagram
Fig.3Elements of FEM
IOO
go
訂∈
∈
9
》80
ぎ 70
60
50 O
o
一Experimen曾
盾e:巳M. l elemen含201
一
Elemen↑2
噛
O
鍵
俘
o E
o
/
ξP
≦
β
NlorN2
ξP2
T
1 2 3
ξ†{%》
.True stress−true strain diagram of
eler芝ユent 轄 20
ε
Q o
∈PI
一ni
n2Fig.6 Schematic diagram of、 expOriment
Fig.4
T
伸びは0.110および0.146,π規で応力はσn=74.7およ び80.5々9/〃zがである.この値を目標に試験片に所定 のひずみを与える.
予ひずみの疲労強度に及ぼす影響をみるため次の2
通りの方法に従った.(1)予ひずみを与えた試験片の疲 労強度を調査し,処女材の疲労強度と比較検討する.
(2)予ひずみεpを与えた試験片に,応力繰返し後さら に塑性ひずみεp2を与えた場合の疲労強度を塑性ひず みの総量εp=εp、+εp2を1度に予ひずみとして与え た場合と比較し,応力繰返数比の影響を調査する.こ
れらの方法を模型的に表わせばFig.6のようにな
る.
3.実験結果およびその考察 3−1予ひずみの効果
両振りの引張圧縮応力によるS−N線図をFig・7
に示す.この図で処女材の疲労限はσw。=38.0ゐg/㎜祝2である.
所定の塑性ひずみ量として引張試験の応カーひずみ 線図から,加工硬化が期待できるεp=0.3%と0.6%を 採用した.εP=0.3%およびεP=0.6%のS−N線も Fig.7に記入したが,その疲労限はそれぞれσp=38.o および36.5んg/〃z祝2となって塑性ひずみの大きい方が 弱くなっている.時間疲労限については塑性ひずみに よる特性はみられない.
これらの結果を処女材の疲労限との比で予ひずみ効
果を表わしたのがFig.8である.この図からわかる
ように,処女材εp=0とεp=0.3%とでは疲労限に変 化はなく,εP=0.6%の場合は,かえって4%の低下
となっている.
これは,疲労限は予ひずみ量とともに増加するとい う従来の結果に反する.この原因についてはよくわか らないが,素材が伸びφ≡10%という延性の少ない材 料であるためと考えられる.また,従来の研究が主と
f
∈も
5
塗
あ
1.1
む
§ 61ρ
o.9
0 ◎.3 0.6 α9
ξP㈱
Fig.8 Relation of fatigue limit to pre−strain
して焼鈍材やひずみを与えた大きな母材から試験片を 作製したのに比べて,本材料は直径32勉魏の引抜き棒 材であり,更に熱処理をしているために当初より残留 応力が存在していることが考えられるが,試験部は直 径8鋭窺(Fig.2参照)まで削出すから大部分は解放 されているはずである.εp=0.3%と0.6%の場合の残 留応力のX線による詳細な比較調査は行っていない.
ノ〉〆 よ ノく9メ 1〈」 似rノ」剛㍉IJr糺
5%大のσ=40kg/mm2を選んだ・
oξP80
OξP・o・3%
「ξP・o.6%
o
引
3−25S昌含9menσ・4・・γmm・ 61・0・3% 1ξP2=O・3% 1
42
S0
R8
R6
?
3−2451
3−6
I l「8
1◎ら lO5 N2 1(
@ N
eig.9 Fatigue life under double strains
@ ( T 1■ fh ρrl南v
34 @ 104 lOs IO6 107 108
Number of repe↑i舗ons(cyclesl
Fig.7 S−N diagram
3−2重複ひずみによる効果
εp=εp1+εp2となる1次ひずみεp1と2次ひずみ εp2の組合せは無数に存在するが,本実験ではεp=
0.6%とし,εP1=εP2=・0.3%とした・これはεP=0・3
%の予ひずみの疲労被害現象が,光学および電子顕微 鏡で観察され,同一場所を比較検討するのに便利であ るからである.
実験を行った応力レベルは予ひずみ効果による影響
の少ない処女材の疲労限付近とし,この疲労限の
○:Tlme when the secondary strain was apPlied
● =Broken
lO6
1次ひずみ(予ひずみ)を与えて,応力繰返数n、回
後2次ひずみを与えた後,破壊までの繰返数を恥と し,1次ひずみεp1および総ひずみεpのみの場合の
寿命をそれぞれN1およびN2とすれぽ, n1/N、は1次 繰返数比,n2/N2は2次繰返数比である.本実験においては1次繰返数比をn1/N1=0.25,0・5 および0.75の3通りとし,予ひずみをうけた試験片が 応力の繰返数によって,どのように変化するかを調査
した.その結果をFig.9に示したが,白丸は2次ひ
ずみを加えた繰返数で,黒:丸は破断繰返数である.縦 の破線はε=0.6%の破断繰返数N2=4.54×105であ る.この破線を越すか否かによってひずみを2回に分 けて与えることが有効か否かになる.Fig.9では上か らη1/N1=0.25,0.5および0.75となっているが,η1/N1=0.75のみが,2次ひずみによって寿命が低下
している.
また,この結果を表に作製すれば,Table 2のよう
になる.この表は1次繰返数比および2次繰返数比で 整理してある.この表から,2段2重の疲労被害線図 としてよく用いられる繰返数比による図をかけぽ Fig.10となる.この図の対角線(破線)がMinerの
直線被害則を表わしている.n、/N、=0.75の場合が対 角線の上方にあって寿命の低下を示している.この3本の試験片については光学および電子顕微鏡
で,ある繰返数ごとに表面観察をしているが,2次ひ ずみを与える以前では,同一繰返数は同様な表面状態 でいずれも異常は発見出来なかった.Fig.11に示す ように疲労き裂は,n1/N1=0.25の繰返数比では,い ずれも同じように発生している.n1/Nl=0,75の場合 は2次ひずみを与えた時,伝ぼしていたき裂が大きく 開口した.これはn2/N2=0.75の状態とは異なると考 えられ,この2次ひずみの量と時期が試験片の強度を1.0
ど1乏
⊥
0.5
00
!
!!
!!
!
!
/
1
!!
!
!!
!
!
! ノ!
!
!
!
!
! ノ
!
!
/
!
! ノ
Table 2 Results of fatigue damage under double strains
1
rpecim。nl nl
@No. (×104) 1
n2 i×104) nl
ml II
n21一_塾2一Σ_⊇L−1
Fig.10
O.5
血 Nl
Cumulated fatigue damage
diagram
し0
、2.236.9。.251。.81 1
一
Fig.11 Fatigue crack O・01 mm (No.3−24,σ=40々g/吻初2,εp1=0.3%, n1/N1=0.25)
3−25
3−24
3−26
24.4
36.6
35.3 0.50 0.78
1.,i。.75!。.。31
0.19
0.22
0.96 0.06
0.28
一〇.22
N1=48.8×104(εp=0.3%,σ=40々g/祝祝2)
N2=45.5×104(εP=0.6%,σ=40々9/彿呪2)
低下させたものと考えられる.
市販の材料を使用する場合,そのバラツキを最小限 に止めるためには1本の棒材で実験を終了することが 不可欠である.特に本材料のように調質してある合金 鋼の場合はそうである.したがって,εp=1.2%の疲
労強度ならびにεp=(0.6十〇.6)%,εp=(0.3十〇.3十
〇.3+0.3)%あるいはεP=(0.3+0.3+0.6)%,εP=
(0.3十〇.6十〇.3)%,εp=(0.6十〇.3十〇.3)%など加工
ひずみの順序,およびその時期,さらに応力レベルの 影響等について詳細に調査できなかったのは残念であ る.また,実用材料であるため実験も破断,非破断の 型式としたためき裂の発生進展状況の詳細も明らかで ない.しかしながら,ボルト材に関して一通りの知見
を得たつもりである.
4.結 論
以上の実験結果から次のような結論が得られた.
(1)調質されたボルト材(SCM−3鋼)の平滑材に耐力 を越えるひずみを与えた場合の疲労限は,εp=0.3%
の場合は平滑材と等しく,εp=0.6%の場合は4%低下 した.低下の原因は調質によって材料の伸びが減少し ていると考えられる.
②予ひずみを0.3%与え,応力繰返しの途中に,さら に0.3%のひずみを追加した.この総ひずみ量0.6%の 場合の疲労強度と,予ひずみ0.6%の場合のものを比 較検討した.実験応力は処女材の疲労限の約5%大の 40々9/祝吻2である.1次ひずみの繰返数比がn1/N1=
0.25および0.5の場合は,2次のひずみによる加工硬
化が疲労被害より優位で寿命は伸びるが,n1/N1=
0.75の場合は2次ひずみを与える際進展したき裂が拡 大して,寿命は低下する.
したがって,繰返しの初,中期に増締め等の加工を 与えることは有利である.
終りに本実験を熱心に手伝った八谷正隆,中田靖博
両君に感謝する.なお,FEMの計算には九州大学大
型計算機を利用した.文 献
1) 福井伸二,佐藤四郎,北川義雄,東大理工学研 究報告Vol.3, No.11,12(1g4g),311;vol.4,
No.7,8(1950),210;Vol.5, No.6(1951),259 ;Vol.6, No.4(1952),259;Vol.6, No.6 (1952),359;Vol.7, No.1(1953),447;VoL7,
No.3(1953),135;Vol.7, No.6(1953),245;Vo1.
8,No.6(1954),265.
2)Frost. N.E, Metallurgia, Vol,57(1958),279.
3)Frost.N.E, Metallurgia, Vol.62(1960),85.
4) Cratchley. D, Smith. J, Journal of the Iron and Steel Institute, Vol.203(1965),461.
5)真武友一,材料,Vol.16, No.168(昭42),732.
6) 今井良一,肥山央,久留米高専研究報告,10(昭
43),1.
7) 真武友一,日本機械学会講演論文集,No.710−
1(1971), 69.
8) 真武友一,日本機械学会講i演論文集,No.710−
9(1971), 61.
9) 真武友一,藤村顕世,長崎大学工学部研究報告,
2(昭46),1.
10) 今井良一,日本機械学会九州支部講演論文集,
No.718−1(昭46),51.
11) 真武友一,藤村顕世,日本機械学会講演論文集,
No.720−9(1972),179.
12)Miner,M,A,J.ApPl. Mech, Vol.12(1945),
A159.
13) Corten.H.T,&Dolan.T.J, Proc. Intern.
Conf. on Fatigue of Metals(1956),235.