テレメータ方式による冠血管径計測システム
小山 純*・筒井 宣雄*
樋口 剛* 上野 昭**
Telemetry System used for Coronary Artery Diameter Measurement
by
Jun OYAMA*, Nobuo TSUTSUI*, Tsuyoshi HIGUCHI*
一and Akira UENO**
In order to make remote recordings of coronary artery diameters from unanesthetized and unrestrained animals, we developed a transit−time dimens玉on telemetry system. It consists of a ultrasonic dimension gauge with FM transmitter, carried by animal, and radio−receiver.
We applied the system to examine effects of some anti−anginal drugs on diameters of epicardial large coronary artery in conscious dogs.
1.まえがき
虚血性心不全と呼ばれる心疾患群の代表は狭心症な らびに心筋梗塞である.
前者は冠状動脈の器質的あるいは機能的狭窄により 心筋組織への血行一酸素供給一が減少し,心筋の酸素 需要を充足出来ないときに発症する疾患である.その 症状は,心臓を締め付ける特殊な胸痛を主微とするこ とからangina pectoris一狭心症と命名されている.
一方,心筋梗塞は血管内凝血により,その末梢部分 の血行が途絶え心筋の壊死を招く重篤な疾患であり,
その一部は狭心症を基礎疾患として発病する.
いずれも冠血管の本幹あるいはそれに直接連なる太 い枝に原因となる器質的変化一主として冠動脈硬化症,
粥状変性一または機能的変化一血管攣縮一が存在する.
近年我が国でも,飽食時代を反映してか,本疾患に よる死亡率が増加し,この治療予防薬の開発は国家的 課題になっている.従来その開発研究は麻酔開胸動物 一主として犬一で行われているため薬物の経口投与は 不可能であった.さらに麻酔薬の影響により副交感神
経系の緊張喪失,従って交感神経系の異状興奮状態を 招き,正常状態と比較すると心拍数は2倍以上,血圧 は高血圧状態になっており,生理状態から著しく逸脱 した特殊条件下で行われているので,その実験結果は 臨床効果の有効な指標とならなかった.
我々は生理学的状態にある無麻酔無拘束犬での基礎 的薬理学的研究を可能とするため,諸種の技術開発を 行ってきたが,今回は虚血性心不全の原因部位である 太い冠血管の直径変化の直接的な観察記録を可能とす
る冠血管径テレメータシステムの開発をおこなった.
従来,抗狭心症薬の開発は冠血行の増加を指標にし て行われており,冠血管の血流抵抗部位である小動脈 の拡張を観察するに過ぎなかった.
本システムの開発により,原因部位である太い冠血 管の薬物反応を直接観察できるため,予見性が飛躍的 に向上すると考えられる.
2.冠血管径テレメータシステムの構成
超音波計測は,(1>測定環境を乱すことなく遠隔計測
昭和62年4月30日受理
*電気工学科(Department of Electrical Engineering)
**キ崎大学医学部(Nagasaki University School of Medicine)
ができる,(2)応答速度が早い,(3)波長が短く精度が高 い,などの特長があり, 医学・診断領域に広く用いら れている.
生体内の超音波平均伝播速度は約1.54[㎜/μs]であ る.したがって血管外壁の相対する位置に超音波発信 素子と受信素子を装着し,超音波パルスの伝播遅延時 間を計測することによって,血管の直径を直接測定す ることができる.
今回試作した冠血管径テレメータシステムは,生理 学的状態にある無麻酔無拘束犬の冠血管の直径変化を 直接観察記録できるもので,(a)冠動脈血管外壁に縫 着・保持される1対の超音波振動子,(b)犬の背中に装 着され,伝播遅延時間を計測しFM変調して送信する テレメータ送信部,(c)FM電波を受信し,血管の直径 に比例する直流電圧に変換するテレメータ受信部,に より構成されている.
Fig.1に本システムのブロックダイアグラムを示す.
テレメータ送信部は,一定の間隔で超音波パルスを 発信する超音波発信回路,超音波受信回路,発信パル スと受信パルスの時間差を計測する伝播遅延時間測定 回路,V/F変換回路および信号をFM変調して送信す るFM送信回路より構成される.またテレメータ受信 部は,FM電波を受信するFM受信回路, FM信号を 復調し血管径に比例する電圧に変換するF/V変換回 路および記録装置から成る.
3.冠血管径テレメータ送信部の動作
諸種の薬物をそれぞれの臨床応用形態にて投与した 場合の効果を精査するためには,自由に動け極めて自 然な状態の無麻酔無拘束犬から得られる生体データを 長時間無線送信できることが必要である.したがって
冠血管径テレメータ送信部には,
・バッテリー方式,かつ長時間連続して使用できる。
・小形・軽量であり,実験犬の運動を拘束しない。
・いかなる体位でも安定した計測ができる。
ことが要求される.そのため我々は低消費電力の CMOSICを多用し10時間以上の連続使用を可能にし た.また高密度実装することにより小形化をはかった.
今回試作した冠血管径テレメータ送信部の諸元は次 のとおりである.
寸法60×50×15㎜
重 量 本体449 電池369 測定範囲2.2㎜〜6.8㎜
電 池 HM−4N(5.6V)
消費電流25岨
FM周波数 FM放送波内(82MHz)
Fig.2に本装置の回路図を, Fig.3に各テストポイ ントの動作波形を示す.
ま
IC 5は繰り返し周波数113kHzの矩形波パルス④ を同期信号として発生する.この矩形波をIC 4によ、
り微分して作成した0.1μs幅のパルス⑤でFETをオ ンし,超音波振動子X2を発振させ◎,5MHzの超音 波パルスを発生する.
超音波受信素子X1で受信された受信パルスはIC 1で広帯域増幅され⑥,LIC,C、から成るフィルタを通 り⑨,さらにIC 2により基準レベルと比較して波形 整形㊦される.
IC 3により送信パルスと受信パルスの時間差を求 め,黛0 の継続期間が伝播遅延時間に相当する矩形波 電圧⑧を発生する.この矩形波の平均電圧はIC 6に より2.0〜4.3kHzの周波数にV/F変換され,さらに 中心周波数82MHzでFM変調されて,送信される.
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Fig.1 Block diagram of telemetry system.
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Fig.2 Schematic diagram of dimension gauge transmitter.
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実際に本装置を実験犬に装着した場合,
(1)振動子の慢性植え込みには技術を要する.また血 流のある血管はたえず複雑な伸展・収縮を行ってい るので,相対する振動子面の位置関係を直接的に保 つことが困難である.
(2)冠動脈に装着された振動子から体外までのリード
④
⑤
◎
⑥
◎
①
⑧
Fig.3 Transmitter circuit waveforms.
(5μs/div)
線間や,超音波送受信回路間にコモンモードノイズ が発生する.
(3)振動子の裏面や血管無茶により不用反射が発生す
る.
などの理由により,超音波受信波形はレベル変動を伴 う複雑な波形となる.そのためコンパレーターC 2の 基準レベルやフィルタの定数を適切に設定することが 必要になる.
Fig.4に本装置を実験犬に装着し,フィルタの定数 を変化させて冠動脈の血管径を測定した結果を示す.
Fig.4(a)の場合,振動子裏面の反射によると思われる ノイズの影響が現れている.
Fig.5に生理食塩水を用いて求めた,血管径と直流 出力電圧の関係を示す.図の様に本システムの測定範 囲(2.2〜6.8㎜)では直線関係となる.
4.実験結果
麻酔人工呼吸下で無菌的に犬心臓を露出し,左冠血 管回旋枝を周囲組織から剥離し,自家製のセラミック 振動素子(1.5×1.5m)一対を血管の対象面に無傷針 で縫付し,閉創した.1〜2週間静養させ,犬が術前 の状態に戻ったのち実験を行った.
Photo.1にテレメータ送信部の装着状況をしめす.
装置の概要を示すためコーティングは行っていない.
FM発信器の出力を大きくしたため,方位による死 角は見られずコンクリート建物内でも有効伝送距離は
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Fig.4 Effects of low・pass filter,
(a) L1=47μH, C5=150pF, C6=150pF (b) L1=150μH, C5=150pF, C6=150pF
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0.0 1.5 390 495 6.0 7.5 CRYSTAL SEPARATION (mm)
Fig.5 Calibration of dimension gauge with known crystal separation distances.
20m以上に達した.
実験犬にnitroglycerinおよびnifedipineを投与し,
他現象とともに遠隔記録した結果をFig.6に示す.
なお図中の略号はそれぞれ,
BP:血圧, BP:平均血圧
CD:冠血管径, CD:冠血管径の平均 EKG:心電図, HR:心拍数
CBF:冠流血量, CBF:平均冠流血量
を表わす.
開発した冠血管径テレメータシステムによる記録波 形を市販の有線方式の測長器によるものと比較し,波 形が同一であることを確かめた.すなわち本システム は無麻酔無拘束動物実験に応用しうる十分な性能を有
二二下
灘
灘難 Photo.1 Dimension gauge transmitter carried by do9.
することを確認した.
5.あとがき
抗狭心症薬の開発にとって不可欠な太い冠血管の直 径変化の直接的な観察記録を可能とするテレメータシ ステムを開発し,それが実用的な性能を有することを 確認した.
生体内動脈は血管内圧すなわち血圧により常に伸展 される力をうけている.一方動脈側には血管壁に強力 な弾性組織と常にある程度収縮状態にある血管平滑筋 があり,これらが内圧による伸展に抵抗しており,両 者のバランス点が血管径を決定している.
血管内圧は心臓から周期的に駆出される血液量と動 脈系の末端に近い部位にある細動脈の緊張性により決 定される.動力学的にみると,心臓の駆出時間は心臓 周期の一小部分に過ぎないために,血流エネルギーは
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Fig.6 Experimental results.
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Fig.6 Experimental results.
(b)Nifedipine 20M I,V
まず大血管の伸展にもとつくコンプライアンス増加に 変換され,その弾性復元によりある程度定常的な血流 が駆出期以外にも保持される.なお駆出期最大となる 内圧の血管伝播は2〜3m/sに達する.
このため血管に縫着された振動子は血流軸に対し波 状に振動し,振動子の音波ビームは変化しうる.事実 受信波波形はかなり複雑な形状を呈することがあった.
その対策としては
(1)振動子表面をレンズ加工し音波ビームを拡散させ,
角度変化効果を低減する.
(2)振動子裏面を音波伝播遮断効果の高い材質(例え ば硬質シリコンラバー)で覆い,反射波の発生・受 信を減少させる.
などが考えられる.
本システムは太い冠血管の直径を無麻酔無拘束動物 で測定するために製作された.しかし,その応用は冠 血管にとどまらず,あらゆる血管径の測定,心筋長の 測定,心筋の厚さ測定,心室内径の測定,諸種臓器径
の測定に応用可能であり,今後心臓機能の評価,血圧 下降薬の作用部位決定にも威力を発揮すると考えられ
る.
参考文献
1)T.A. Patrick, S. F. Vatner et al.;Telemetry of
left ventricular diameter and pressure measure ments from unrestrained animals, J. ApPl.
Physiolgy,37,2(1974)p276
2)綿貫・内山・池田;生体用テレメータ・電気刺戟 装置(昭55)コロナ社
3)松本;バイオテレメトリ,医用電子と生体工学,
18, 7, (日召55), P463
4)池田;新しいバイオメレメトリ方式,医用電子と 生体工学,18,7,(昭55),P479
5)菊池・奥山;超音波による生体計測,計測と制御,
13, 8, (日召49), P669