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有機色素を含む1次元フォトニック結晶中での共振器ポラリトンの超高速分光-香川大学学術情報リポジトリ

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(1)

平成

25

年度 博士論文

有機色素を含む

1

次元フォトニック結晶中での

共振器ポラリトンの超高速分光

香川大学大学院 工学研究科

材料創造工学専攻

指導教員 : 鶴町徳昭 准教授

11D551

石井健太

平成

26

1

6

(2)

i

目次

第1章 序論 1 1.1 背景. . . 1 1.2 実験目的と論文構成 . . . 4 参考文献. . . 6 第2章 光と物質の相互作用 9 2.1 緒言. . . 9 2.2 量子化された光と物質の相互作用 . . . 10 2.3 ドレスト原子 . . . 16 2.4 ラビ振動 . . . 18 2.5 ポラリトン . . . 20 2.6 結言. . . 22 参考文献. . . 23 第3章 フォトニック結晶微小共振器 25 3.1 緒言. . . 25 3.2 フォトニック結晶 . . . 26 3.3 微小共振器中での光と物質の相互作用 . . . 37 3.4 弱結合 . . . 38 3.5 強結合 . . . 40 3.6 結言. . . 45 参考文献. . . 46 第4章 有機色素分子会合体 49 4.1 緒言. . . 49 4.2 会合体 . . . 50 4.3 チタン酸ナノシート中での会合体 . . . 53

(3)

ii 目次 4.4 結言. . . 59 参考文献 . . . 60 第5章 共振器ポラリトンの観測 63 5.1 緒言. . . 63 5.2 PIC/gelatineを含む微小共振器中での共振器ポラリトン . . . 65 5.3 PIC/HTOを含む微小共振器中での共振器ポラリトン . . . 74 5.4 結言. . . 79 参考文献 . . . 80 第6章 共振器ポラリトンの超高速分光 85 6.1 緒言. . . 85 6.2 ポンププローブ過渡透過分光 . . . 86 6.3 結果と考察 . . . 89 6.4 結言. . . 94 参考文献 . . . 95 第7章 結論 97 謝辞 99

(4)

1

1

序論

1.1

背景

光と物質の相互作用は古典的には光を電磁波として扱い,物質系を電荷の振動子として 考えることで議論が行われてきた.例えば,物質をローレンツ振動子として考えることで 誘電体や半導体中での光伝播について議論することが可能である.更に議論が進むと光は 古典的な電磁波として取り扱うが,物質系を量子論的に取り扱う半古典論が現れる.半古 典論を用いることで古典論では説明出来なかった事象を説明できるようになった.例え ば,水素原子の輝線スペクトルが離散的に現れるのは水素原子にボーア量子条件を適用 して,量子論的議論を行う事によって説明できる現象である.更に光を古典的な電磁波 から,量子論的な取り扱いに変えることによって更に複雑な議論を行うことが可能にな る.1905年にA. Einsteinよって光量子仮説が提唱され,更に1916年にR. A. Millikan の光電効果の実験によって光量子仮説は実験的に証明された.この光の量子は光子と呼 ばれている.そして光子と,量子論的に取り扱った物質との相互作用を取り扱う分野の ことを量子電磁力学(Quantum electrodynamics : QED)とよぶ.朝永振一郎や R. P. FeynmanらはQEDの研究によってノーベル物理学賞を受賞している.また,2012年に もS. HarocheらがQEDの分野での功績によりノーベル物理学賞を受賞している.この 様に,QEDは現代物理学において重要な位置を占めている. QEDにおいて,単一モードの光子と物質の相互作用について研究を行う場合,自由空 間中では光の取りうるモードが無数にあり単一モードの光子と物質の相互作用を観測する のは少し難しくなる.そこで物質を微小共振器中に置くことで,微小共振器によって単一 モードに限定された光子との相互作用を観ることにより,単一モードの光子と物質の相互 作用を観測することがより容易になる.この様に微小共振器構造を用いて光と物質の相互 作用を量子力学的に取り扱う分野は共振器QEDと呼ばれている.共振器QEDにおいて 光と物質の相互作用は,その結合の大きさによって弱結合と強結合の2種類に分類され

(5)

2 第1章 序論 る.弱結合領域では光と物質の結合は摂動論的に取り扱われる.その結果,共振器中に置 かれた物質の自然放出のレートの増大が起こる.この様な現象はPurcell効果としてよく 知られている.一方で強結合領域においては,光と物質の結合は摂動論の範疇を超える. この様な領域での光と物質の相互作用はJaynes-Cummingsのモデルを用いることで説明 することが出来る [1].Jaynes-Cummingsのモデルを解くことによって,光と物質の混 成状態を形成することが分かる.この光と物質の混成状態は,共振器内部の物質によって 原子の場合は真空ラビ分裂と呼ばれ,半導体や分子が挿入された場合は共振器ポラリトン と呼ばれている.共振器ポラリトンを用いることで,通常,物質をレーザー冷却などの方 法で冷却する必要があるボース・アインシュタイン凝縮を,液体ヘリウム程度の温度で観 測することが可能である [2, 3].その他にも低閾値で発振するポラリトンレーザー [4, 5], 超高速光スイッチング [6]など様々な報告がなされおり,基礎研究,応用研究を問わず注 目を集めている. 真空ラビ分裂と共振器ポラリトンのどちらの状態も光と物質の強結合状態であり,この ような状態では取りうるエネルギー状態が 2つの状態に分裂する.これらのどちらの状 態も,エネルギー状態の分裂を発光・反射・透過測定によって観測が行われてきた [7–9]. 光と物質の強結合状態は原子系では1989年にM. G. Raizenらによって観測が報告され た [10].その後,1992年にC. Weisbuchらによって GaAs系量子井戸を含む微小共振 器で共振器ポラリトンの観測が初めて報告された [11].さらに1998年にD. G. Lidzey らによって有機物半導体を用いて有機物で初の共振器ポラリトンの観測の報告がなされ た [12].その後も共振器ポラリトンの観測の報告は現在まで無機系・有機系共に様々に報 告されてる [13–15]. 光と物質の強結合状態は Jaynes-Cummingsのモデルによって表すことができること は前述したが,このモデルで考えると多量の光子が存在する場合,つまり高強度の光を 入射した場合は Mollow三重項スペクトル(ACシュタルク三重項)が観測される.これ はJaynes-Cummingsモデルの高い準位間の遷移を観ていることと同等である.この現 象は B. R. Mollowによって提唱された現象で [16],1997年に原子系での観測がなされ た [17].その後,1998年にInGaAs系の量子井戸を含む微小共振器において観測の報告 がなされ [18],2011年に量子ドットを用いて観測がなされている [19, 20].このように Mollow三重項スペクトル関する様々な研究がなされている [21–24].通常の光子数の少 ない場合の強結合状態である真空ラビ分裂・共振器ポラリトンの研究は原子系から始ま り,無機物での観測報告の後に有機物での観測がなされてきている.一方で光子数が多い 場合でのMollow三重項・ACシュタルク三重項に関しては原子系,無機物系での報告は なされているが有機系では我々の報告まで,観測の報告はなされていなかった [25]. 共振器QEDは微小共振器中に物質を置いた場合の光と物質の相互作用を研究する分野 である.物質を挿入する微小共振器に関しては様々な構造を考えることが出来る [26].例

(6)

1.1 背景 3 えば,マイクロピラー [27]やマイクロディスク [28],微小球 [29]などが近年盛んに研究 されている.本研究では特に微小共振器としてフォトニック結晶構造を用いた.フォト ニック結晶はE. Yablonovitchによって提唱され,誘電率が周期的に配列したような構造 体である [30].この様な構造では固体結晶と同様に光に対するバンド構造が現れる [31] など光学に固体物理的な考え方を導入して議論をすることが可能である.この様な構造で は周期を乱す様な欠陥を導入することによって欠陥準位に対応するするようなエネルギー 準位が現れる [32].この様な構造は欠陥準位に対応するエネルギーが共振エネルギーにな る微小共振器構造となる.つまり,欠陥部分に物質を挿入することによって,単一モード の光子と物質の相互作用を観測することが可能である.実際に,フォトニック結晶微小共 振器を用いて光と物質の相互作用の研究は盛んに行われている.

(7)

4 第1章 序論

1.2

実験目的と論文構成

共振器ポラリトンはこれまで,原子系,無機物系,有機物系と観測の報告がなされてき た.一方で,Mollow三重項・ACシュタルク三重項は原子系,無機物系で観測がなされ ているが有機物系での観測はなされていなかった.そこで,本研究は有機物を含む1次元 フォトニック結晶中での共振器ポラリトンの観測を行い,さらに超高速分光を行うことに よってACシュタルク三重項状態の観測を行うことを目的とした.さらに本研究の過程に おいて非発光な系を微小共振器中に含む場合における共振器ポラリトンの観測という興味 深い現象を観測したため共振器ポラリトンの超高速分光と共に報告を行う.共振器ポラリ トンは,無機物系に比べ振動子強度の大きい有機物系を用いることによって結合強度が大 きくなり,室温での観測が可能であるなどのメリットがある.そこで有機物系を含む微小 共振器中でのACシュタルク三重項状態を用いた新たな光デバイスへの可能性を示す. 本論文では,有機色素J会合体を含む1次元フォトニック結晶微小共振器中での共振器 ポラリトンの超高速分光を行うことで,ACシュタルク三重項状態の観測を行った.1章 では,本研究の背景及び研究目的,論文構成を述べた, 2章では,光と物質をそれぞれ量子論的に取り扱い,光と物質が結合している系での理 論的な解釈についての説明を行う.モデルとしてはJaynes-Cummingsのモデルを用いる ことで,光子数が少ない場合と光子数が多い場合に分けて真空ラビ分裂とMollow三重項 についての説明を行う.またこの章でポラリトンに関する説明も行う. 3章では,フォトニック結晶微小共振器について説明を行う.本研究では1次元フォト ニック結晶微小共振器を用いている.そこでフォトニック結晶についての概論を述べ,1 次元フォトニック結晶について伝播行列を用いた理論解析を行う.更に微小共振器中に物 質が置かれた場合について,光と物質の結合の大きさによって弱結合と強結合の2種類に 分けて説明する.本研究であつかう強結合領域においては,古典論的な手法で透過スペク トルのシミュレーションも行う. 4章では,微小共振器内部に挿入する物質であるJ会合体についての説明を行う.本研 究では,通常の有機色素分子J会合体と,チタン酸ナノシート中でのJ会合体を用いてい る.その2種類について説明を行い,それぞれ吸収スペクトル及び発光スペクトルの測定 結果を述べる. 5章では,Jaynes-Cummingsモデルにおいて光子数の少ない領域に対応する,共振器ポ ラリトンの観測に関して述べる.共振器ポラリトンの観測は,よく発光するPIC/gelatine 薄膜を含む微小共振器での観測の報告および発光が抑制されている PIC/HTO薄膜を含 む微小共振器中での観測の2種類の試料での報告を行なう. 6章では,PIC/gelatine 薄膜を含む1次元フォトニック結晶微小共振器中での共振器

(8)

1.2 実験目的と論文構成 5 ポラリトンに関して,高強度の光を入射し分光を行った.その結果,Jaynes-Cummings モデルにおいて多数の光子が存在する領域で観られるACシュタルク三重項を観測した. ACシュタルク三重項の観測は,入射光強度依存性の測定及びポンプ・プローブ過渡透過 分光を行うことによって行ったのでそれぞれ報告する. 7章では,本論文の総括を行う.

(9)

6 第1章 序論

参考文献

[1] E.T. Jaynes and F. W. Cummings. Comparison of quantum and semiclassical radiation theories with application to the beam maser. Proceedings of the IEEE, Vol. 51, No. 1, pp. 89–109, 1963.

[2] J. Kasprzak, M. Richard, S. Kundermann, A. Baas, P. Jeambrun, J. M. J. Keel-ing, F. M. Marchetti, M. H. Szyma´nska, R. Andr´e, J. L. Staehli, V. Savona, P. B. Littlewood, B. Deveaud, and L. S. Dang. Bose-einstein condensation of exciton polaritons. Nature, Vol. 443, No. 7110, pp. 409–414, 2006.

[3] R. Balili, V. Hartwell, D. Snoke, L. Pfeiffer, and K. West. Bose-einstein con-densation of microcavity polaritons in a trap. Science, Vol. 316, No. 5827, pp. 1007–1010, 2007.

[4] X. Fan, H. Wang, H. Q. Hou, and B. E. Hammons. Laser emission from semi-conductor microcavities: The role of cavity polaritons. Phys. Rev. A, Vol. 56, pp. 3233–3236, 1997.

[5] S. Christopoulos, G. Baldassarri H¨oger von H¨ogersthal, A. J. D. Grundy, P. G. Lagoudakis, A. V. Kavokin, J. J. Baumberg, G. Christmann, R. Butt´e, E. Feltin, J.-F. Carlin, and N. Grandjean. Room-temperature polariton lasing in semicon-ductor microcavities. Phys. Rev. Lett., Vol. 98, p. 126405, 2007.

[6] G. G¨u nter, A. A. Anappara, J. Hees, A. Sell, G. Biasiol, L. Sorba, S. De Liberato, C. Ciuti, A. Tredicucci, A. Leitenstorfer, and R. Huber. Sub-cycle switch-on of ultrastrong light-matter interaction. Nature, Vol. 458, No. 7235, pp. 178–181, 2009.

[7] R. Houdr´e, C. Weisbuch, R. P. Stanley, U. Oesterle, P. Pellandini, and M. Ilegems. Measurement of cavity-polariton dispersion curve from angle-resolved photoluminescence experiments. Phys. Rev. Lett., Vol. 73, pp. 2043– 2046, 1994.

[8] R. Stanley, R. Houdr´e, U. Oesterle, and M. Ilegems. Excitons in microcavities: Cavity polariton photoluminescence. Il Nuovo Cimento D, Vol. 17, pp. 1323– 1332, 1995.

[9] D. G. Lidzey, D. D. C. Bradley, T. Virgili, A. Armitage, M. S. Skolnick, and S. Walker. Room temperature polariton emission from strongly coupled organic semiconductor microcavities. Phys. Rev. Lett., Vol. 82, pp. 3316–3319, 1999. [10] M. G. Raizen, R. J. Thompson, R. J. Brecha, H. J. Kimble, and H. J. Carmichael.

(10)

参考文献 7

Normal-mode splitting and linewidth averaging for two-state atoms in an optical cavity. Phys. Rev. Lett., Vol. 63, pp. 240–243, 1989.

[11] C. Weisbuch, M. Nishioka, A. Ishikawa, and Y. Arakawa. Observation of the coupled exciton-photon mode splitting in a semiconductor quantum microcavity. Phys. Rev. Lett., Vol. 69, pp. 3314–3317, 1992.

[12] D.G. Lidzey, D.D.C. Bradley, M.S. Skolnick, T. Virgili, S. Walker, and D.M. Whittaker. Strong exciton-photon coupling in an organic semiconductor micro-cavity. Nature, Vol. 395, No. 6697, pp. 53–55, 1998.

[13] S. Mosor, J. Hendrickson, B. C. Richards, J. Sweet, G. Khitrova, H. M. Gibbs, T. Yoshie, A. Scherer, O. B. Shchekin, and D. G. Deppe. Scanning a photonic crystal slab nanocavity by condensation of xenon. Appl. Phys. Lett., Vol. 87, No. 14, p. 141105, 2005.

[14] A. Kimura, S. Nakanishi, H. Itoh, and N. Tsurumachi. Optical properties of cavity type one-dimensional photonic crystal with organic dye molecules. The Review of laser Engineering, Vol. 38, No. 4, pp. 279–285, 2010.

[15] K. Bando, H. Nagai, M. Amano, K. Kanezashi, S. Kumeta, and H. Kondo. Cavity polaritons in a single-crystalline organic microcavity prepared at room temperature using a simple solution technique. Appl. Phys. Express, Vol. 6, No. 11, p. 111601, 2013.

[16] B. R. Mollow. Power spectrum of light scattered by two-level systems. Phys. Rev., Vol. 188, pp. 1969–1975, 1969.

[17] C. C. Yu, J. R. Bochinski, T. M. V. Kordich, T. W. Mossberg, and Z. Ficek. Driving the driven atom: Spectral signatures. Phys. Rev. A, Vol. 56, pp. R4381– R4384, Dec 1997.

[18] F. Quochi, G. Bongiovanni, A. Mura, J. L. Staehli, B. Deveaud, R. P. Stanley, U. Oesterle, and R. Houdr´e. Strongly driven semiconductor microcavities: From the polariton doublet to an ac stark triplet. Phys. Rev. Lett., Vol. 80, pp. 4733– 4736, 1998.

[19] C. Roy and S. Hughes. Phonon-dressed mollow triplet in the regime of cavity quantum electrodynamics: Excitation-induced dephasing and nonperturbative cavity feeding effects. Phys. Rev. Lett., Vol. 106, p. 247403, 2011.

[20] S. M. Ulrich, S. Ates, S. Reitzenstein, A. L¨offler, A. Forchel, and P. Michler. Dephasing of triplet-sideband optical emission of a resonantly driven InAs/GaAs quantum dot inside a microcavity. Phys. Rev. Lett., Vol. 106, p. 247402, 2011. [21] J.M. Fink, M. G¨oppl, M. Baur, R. Bianchetti, P. J. Leek, A. Blais, and A.

(11)

Wall-8 第1章 序論

raff. Climbing the Jaynes-Cummings ladder and observing its √n nonlinearity in a cavity qed system. Nature, Vol. 454, No. 7202, pp. 315–318, 2008.

[22] O. Astafiev, A. M. Zagoskin, A. A. Abdumalikov, Yu. A. Pashkin, T. Yamamoto, K. Inomata, Y. Nakamura, and J. S. Tsai. Resonance fluorescence of a single artificial atom. Science, Vol. 327, No. 5967, pp. 840–843, 2010.

[23] J. Kasprzak, S. Reitzenstein, E.A. Muljarov, C. Kistner, C. Schneider, M. Strauss, S. H¨ofling, A. Forchel, and W. Langbein. Up on the jaynes-cummings ladder of a quantum-dot/microcavity system. Nat. Mater., Vol. 9, No. 4, pp. 304– 308, 2010.

[24] E. del Valle and F. P. Laussy. Mollow triplet under incoherent pumping. Phys. Rev. Lett., Vol. 105, p. 233601, 2010.

[25] K. Ishii, S. Nakanishi, and N. Tsurumachi. Ultrafast transition between polariton doublet and alternating current stark triplet in organic one-dimensional photonic crystal microcavity. Appl. Phys. Lett., Vol. 103, No. 1, p. 013301, 2013.

[26] K. J. Vahala. Optical microcavities. Nature, Vol. 424, No. 6950, pp. 839–846, 2003.

[27] G. S¸ek J. P. Reithmaier, A. L¨offler, C. Hofmann, S. Kuhn, S. Reitzenstein, L. V. Keldysh, V. D. Kulakovskii, and A. Forchel T. L. Reinecke. Strong coupling in a single quantum dot–semiconductor microcavity system. Nature, Vol. 432, No. 7014, pp. 197–200, 2004.

[28] S. L. McCall, A. F. J. Levi, R. E. Slusher, S. J. Pearton, and R. A. Logan. Whispering-gallery mode microdisk lasers. Appl. phy. lett., Vol. 60, p. 289, 1992. [29] M. L. Gorodetsky, A. A. Savchenkov, and V. S. Ilchenko. Ultimate q of optical

microsphere resonators. Optics Letters, Vol. 21, No. 7, pp. 453–455, 1996. [30] E Yablonovitch. Inhibited spontaneous emission in solid-state physics and

elec-tronics. Phys. Rev. Lett., Vol. 58, pp. 2059–2062, 1987.

[31] E. Yablonovitch, T. J. Gmitter, and K. M. Leung. Photonic band structure: The face-centered-cubic case employing nonspherical atoms. Phys. Rev. Lett., Vol. 67, pp. 2295–2298, 1991.

[32] E. Yablonovitch, T. J. Gmitter, R. D. Meade, A. M. Rappe, K. D. Brommer, and J. D. Joannopoulos. Donor and acceptor modes in photonic band structure. Phys. Rev. Lett., Vol. 67, pp. 3380–3383, 1991.

(12)

9

2

光と物質の相互作用

2.1

緒言

本章では光と物質の相互作用について簡単に解説を行う.通常,光と物質の相互作用を 考える場合,光を電磁波として取り扱い,また物質をローレンツ振動子として取り扱うよ うな古典論や,物質を2準位系として考えるような半古典論的な議論をすることが多い. 一方で,光と物質がエネルギーの交換を行い結合している様な系に関して考えるには量子 論的な議論を行う必要がある.量子論的な取り扱いでは光を量子化した光子と考えて光 と物質の相互作用を考えることになる.量子論的な光と物質の相互作用の議論では,U. Fano [1]や,J. Hopfield [2]などが提唱した様々なモデルが役に立つ.中でも,単一モー ドの光と2準位系が互いにエネルギーを交換して結合をしているような系を取り扱う場合 はJaynes-Cummingsのモデルを用いるとよい [3]. 本研究で用いる系は,Jaynes-Cummingsのモデルを用いることで説明することができ る.このモデルで,低強度の光を入射した場合と高強度の光を入射した場合について一貫 した議論を行うことが可能である.そこで本章では,単一モードの光子と2準位系の相互 作用についてJaynes-Cummingsのモデルを用いて理論的な枠組みを述べ,光と物質の混 成状態について述べる.

(13)

10 第2章 光と物質の相互作用

2.2

量子化された光と物質の相互作用

本節では,光を古典的な電磁波ではなく¯ のエネルギーを持つ粒子として取り使うこ とで,光と物質が相互作用をしてエネルギーの交換を行う場合について考える.古典的に は電磁波はその名の通り波として扱われる.したがって光を量子化した光子は調和振動子 モデルで記述される.そこで調和振動子に関して,エネルギー固有値とハミルトニアンを 考える.まず質量がm,角周波数がωの調和振動子のハミルトニアンは, ˆ H = pˆ 2 2m + 2xˆ2 2   (2.1) と表される.位置演算子と運動量演算子は交換関係, [ˆx, ˆp] = i¯h (2.2) が成り立つ.ここで,2つの演算子 ˆ a = 1 2m¯hω (mω ˆx + iˆp) (2.3) ˆ a†= 1 2m¯hω (mω ˆx− iˆp) (2.4) を定義する.この時,交換関係  ˆ a, ˆa†= 1 (2.5) が成り立つ.これらを用いて式(2.1)を変形すると, ˆ H = ¯hω  ˆ a†ˆa + 1 2  (2.6) となる. これが電磁波のハミルトニアンである.図2.1 に光子のエネルギー準位図を示 す.ここでaˆは生成演算子であり,ˆaは消滅演算子である.aˆはエネルギーを持った量 子を1個生成する役割を持っており,ˆaはエネルギーを持った量子を1個消滅させる役割 を持っている.ここで|niというn個の光子が生成された状態について考えるとその固有 値方程式は ˆ H|ni = En|ni (2.7) となり,そのエネルギー固有値は調和振動子であるため, En = ¯  n + 1 2  (2.8) となる.これを式(2.6)と比較すると数演算子, ˆ n≡ ˆa†ˆa (2.9)

(14)

2.2 量子化された光と物質の相互作用 11

Energy

図2.1 光子のエネルギー準位図

を定義出来る.式(2.9)について考えると,

ˆ

n|ni = ˆa†ˆa|ni = n |ni (2.10)

を満たしている.消滅演算子 ˆaはエネルギーを持つ量子を1つ消滅させる演算子である ため,ˆa|ni|n − 1iに比例すること,および式(2.9)を考慮すると, ˆ a|ni =√n|n − 1i (2.11) が成り立つことがわかる.また同様に,生成演算子はエネルギーを持つ量子を1つ生成す る演算子であることと,式(2.5),(2.9)を考慮することで, ˆ a† =√n + 1|n + 1i (2.12) という結果を得ることが出来る. 一方,原子などの2準位系において上の準位を |ui ≡  1 0  (2.13) ,下の準位を |di ≡  0 1  (2.14)

(15)

12 第2章 光と物質の相互作用 図2.2 2準位系の原子のエネルギー準位図 とそれぞれ定義する.そうすると原子のハミルトニアンは,2準位間のエネルギー差を ¯ ,2準位の中間を原点として ˆ Hatom =  1 0 0 12¯  = 1 2¯hω ˆσz (2.15) と表すことが出来る.図2.2に2準位系の原子のエネルギー準位図を示す.この時σˆz は パウリ行列のz成分で, ˆ σz =  1 0 0 −1  (2.16) である.この時原子に関する固有値方程式は上の準位|uiと下の準位|diでそれぞれ, ˆ Hatom|ui = 1 2¯hω|ui (2.17) ˆ Hatom|di = 1 2¯hω|di (2.18) となる.ここで下の準位から上の準位への遷移を表す上昇演算子,及び上の準位から下の 準位への遷移を表す下降演算子について考える.これらの昇降演算子はそれぞれ, ˆ σ+ =  0 1 0 0  (2.19) ˆ σ =  0 0 1 0  (2.20)

(16)

2.2 量子化された光と物質の相互作用 13 と書ける.昇降演算子と,上の準位と下の準位の関係をそれぞれ書き下すと以下 ˆ σ+|di =  0 1 0 0   0 1  =  1 0  =|ui (2.21) ˆ σ+|ui =  0 1 0 0   1 0  =  0 0  = 0 (2.22) ˆ σ|di =  0 0 1 0   0 1  =  0 0  = 0 (2.23) ˆ σ|ui =  0 0 1 0   1 0  =  0 1  =|di (2.24) となり,|di ↔ |uiの遷移を表していることがわかる.このとき交換関係 [ˆσ+, ˆσ−] = ˆσz (2.25) が成り立つ. ここでω0の光子と2準位系が相互作用している状態について考える.電磁波のハミル トニアンは定数であるゼロ点エネルギーを無視すると ˆ Hphoton = ¯a†ˆa (2.26) と書ける.2準位系において光子の吸収・放出について考えると,生成消滅演算子および 昇降演算子を用いることによって以下のように表すことが出来る.光子を吸収し励起され る場合,光子が消滅し,準位が下から上に遷移するので,σˆ+ˆaと表すことが出来る.次 に,光子を放出し緩和する場合,光子が生成され,準位が上から下に遷移するので,σˆˆa† と表すことが出来る.図2.3に,これらの2つの場合についてのエネルギーダイアグラム を示す,これらの場合に関して,相互作用の大きさを表す定数¯hgを考慮すると,2準位 系と光子の相互作用ハミルトニアンは ˆ Hinteraction = ¯hg ˆσ+a + ˆˆ σ−ˆa†  (2.27) となる,したがって,2準位系と光子の相互作用がある場合の系全体のハミルトニアンは ˆ

HJC = ˆHatom+ ˆHphoton+ ˆHinteraction =

1 2¯hω ˆσz+ ¯a ˆa + ¯hg ˆσa + ˆσ−ˆa†  (2.28) となり,これはJaynes-Cummingsハミルトニアンと呼ばれている [3]. 次に式(2.28)で与えられるJaynes-Cummingsハミルトニアンのエネルギー固有値を 求める.シュレーディンガー方程式 ˆ HJC|Ψi = E |Ψi (2.29) の固有関数を, |Ψi = ψ |d, n + 1i + φ |u, ni (2.30)

(17)

14 第2章 光と物質の相互作用 (a) (b) 図2.3 2準位のエネルギー準位間での遷移(a)吸収,(b)放出 と仮定する.ここで,|d, n + 1iは原子は下の準位にあり光子がn + 1個存在する状態を 表し,|u, niは原子は上の状態にあり光子がn個存在する状態を表している.これを式 (2.29)に代入すると右辺は, ˆ HJC|Ψi =  1 2¯hω + ¯hω0(n + 1)  ψ + ¯hg√n + 1φ  |d, n + 1i +  ¯ hg√n + 1ψ +  1 2¯hω + ¯hω0n  φ  |u, ni (2.31) となる.また左辺は,

E|Ψi = Eψ |d, n + 1i + Eφ |u, ni (2.32)

となる.これら式(2.31),(2.32)の|u, niおよび|d, n + 1iの係数がそれぞれ等しいとす ると,  1 2¯hω + ¯hω0(n + 1) ¯hg n + 1 ¯ hg√n + 1 12¯hω + ¯hω0n   ψ φ  =  E 0 0 E   ψ φ  (2.33) となる.ここで, Ephoton= 1 2¯hω + ¯hω0(n + 1) (2.34) Eatom= 1 2¯hω + ¯hω0n (2.35) とおく.これはそれぞれ光子のエネルギーと,原子のエネルギーに対応する.そうすると 式(2.33)は  Ephoton ¯hg n + 1 ¯ hg√n + 1 Eatom   ψ φ  =  E 0 0 E   ψ φ  (2.36)

(18)

2.2 量子化された光と物質の相互作用 15

Energy

Two-level

system Photon Dressed state

図2.4 Jaynes-Cummingsモデルのエネルギー準位図 と簡単化でき,これを解くと E = Ephoton+ Eatom 2 ± 1 2 q (Ephoton− Eatom)2+ 4 ¯hg n + 12 (2.37) となる.式(2.37)から分かるように,このような系では取りうるエネルギー状態が2本

に分枝することが分かる.Jaynes-Cummingsのモデルにおいて,Ephoton= Eatomの光

子と原子が共鳴している場合のエネルギーダイアグラムを模式的に表したものを図2.4に 示す.これはJaynes-Cummingsの梯子と呼ばれている.特に真空場と物質の結合状態と なるn = 0で観測される準位の分裂のことを真空ラビ分裂と呼ぶ.

(19)

16 第2章 光と物質の相互作用

2.3

ドレスト原子

前節で述べたJaynes-Cummingsのモデルは,原子と光子が結合してあたかも光の衣を まとった原子のような描像でとらえることが出来る.そのためこの様な原子はドレスト原 子と呼ばれる.この様な状態では,光子と原子の結合の大きさは光子数によって決まる. 光子が増えるというこは,図2.4の高い準位間の遷移が起こることに対応する.光子数が 非常に大きくなった場合,√n√n + 1を近似的に等しいと考えることが出来る.そう なると図2.4の√nの準位と√n + 1の準位の分裂幅が等しいとみなせるので,それらの 準位間での遷移のみを考えると図2.5のような4つの準位からなるエネルギーダイアグラ ムを考えることが出来る. これは光を古典的な電場として考えるRabiのモデルで,高強度の光を原子に入射した 場合に光と強く原子が結合して起こる準位の分裂と同等の状態である [4].Rabiのモデル は,高強度の光について考える場合の理論であるのに対して,Jaynes-Cummingsのモデ ルは低強度から高強度まで包括したモデルになっていると言える. このドレスト原子は,裸の原子がシュタルク効果によって光を着衣した状態になる.こ こで光はAC電場なので,特にこの時生じているシュタルク効果はACシュタルク効果で ある.この様なドレスト状態を形成することで,図2.5のようなエネルギーダイアグラム なることは先に述べたが,この4つの準位からなるエネルギーダイアグラムでは,その遷 移エネルギーはEE + ¯hΩE− ¯hΩの3種類を取りうる.したがって,ドレスト原子で 図2.5 ドレスト状態のエネルギーダイアグラム

(20)

2.3 ドレスト原子 17 は3つのピークを持つ発光スペクトル,または反射,透過スペクトルを示す.この様な3 本のピークをもつスペクトルはMollowらによって提唱され [5],Mollow三重項と呼ばれ ている.Mollow三重項は実際に2準位系の物質で観測されており,原子系での観測 [6], 半導体系では量子井戸での観測 [7]や量子ドットでの観測 [8, 9]が報告されている.これ らのMollow三重項は,ACシュタルク効果によって準位の分裂が引き起こされていると 考えることがき,共振器モードと物質が結合した系において観測された場合,ACシュタ ルク三重項と呼ばれる場合があり [10],本研究でもこの呼称を用いる.

(21)

18 第2章 光と物質の相互作用

2.4

ラビ振動

前節まではJaynes-Cummingsのモデル関して,定常状態での議論を行なってきた.本 節ではJaynes-Cummingsのモデルの時間発展について考える. Jaynes-Cummingsの時間発展について考える場合,Jaynes-Cummingsのハミルトニ アンを用いて時間に依存するシュレーディンガー方程式, i¯h ∂tψ = ˆHJCψ (2.38) を解くと良い.これを解き,時刻tに原子が上の準位として見出される確率Pu(t)と,下 の準位として見出される確率Pd(t)をそれぞれ求めると Pu(t) = sin2  ΩRabit 2  (2.39) Pd(t) = cos2  ΩRabit 2  (2.40) となる.この時 ΩRabi= 2g n + 1 (2.41) である.これの周波数はラビ周波数と呼ばれ,原子はラビ周波数で光子の吸収と放出を繰 り返す振動をする.この様な吸収と放出の振動はラビ振動と呼ばれており,考えている原 子が上の準位に見出されるか,下の準位に見出されるかの確率は図2.6で示すような振動 をする.実線は上の準位にある原子の存在確率,破線は下の準位にある原子の存在確率で ある.この時,時刻0は励起直後であると考えて,励起直後は原子は上の準位に見出され るが,時間が経つにしたがい下の準位に見出される確率が増えてくる.その結果ラビ振動 数で上の準位と下の準位の存在確率が交互に振動する.ドレスト原子の準位の分裂はこの 様な振動をスペクトル領域で観測しているものだと考えられる.このラビ周波数を使っ て,Jaynes-Cummingsのエネルギーの分裂幅を表すと ∆E = ¯hΩRabi (2.42) となる.この様なドレスト状態における準位間での存在確率の振動は,I. Rabiによって 提唱されたものである [11].I.Rabiの報告は電波領域についてのものであるが,今回考え ている光に対して準位間での振動が起こる現象とは等価な現象である.実際に光を物質に 入射することによって,実験的にRabi振動を観測した報告もなされている [12, 13].

(22)

2.4 ラビ振動 19

0.0

0.5

1.0

Time

P

op

ul

at

io

n

図2.6 ラビ振動

(23)

20 第2章 光と物質の相互作用

2.5

ポラリトン

さて,ここで物質系を原子から半導体結晶などの結晶に変えた場合について考える.結 晶は原子が周期的に配列している構造なのでミクロに見ると2準位系で考えることの出来 る励起子が図2.7の様に並んでいるような構造だとみなすことが出来る.このような系に 光子が入射すると,結晶で光子の吸収と放出を繰り返しながらエネルギーが伝搬していく 描像を考えることが出来る [2].これは物理的には先ほど述べた,光子の吸収と放出を繰 り返すというラビ振動と同等の現象が結晶内を伝播しながら起こっていることが分かる. このような結晶内を伝播する励起子と光子が結合した新たな量子状態を準粒子的に捉え て,これをポラリトンと呼ぶ. さらに話を拡張して図2.8の様に微小共振器中に2準位系が置かれた場合について考え る.すると1つの光子が共振器中に存在して,その光子を内部の物質が吸収・放出した場 合,両側の微小共振器を構成する鏡によって光子が反射されて,再度内部の物質に吸収さ れ,これを繰り返す様な描像を考えることができる.これは共振器構造によって強制的に ラビ振動を起こしているような状態にほかならない.つまりこのような現象は先程まで議 論してきた,ラビ振動と同等な現象であると考えることが出来る.したがってこの様な系 に関してもJaynes-Cummingsのモデルによって取り扱うことが出来る. この場合,内部に入る物質系が原子の場合は真空ラビ分裂,半導体や分子等の物質系が 入った場合は共振器ポラリトンと呼ばれる. 図2.7 励起子ポラリトンの模式図

(24)

2.5 ポラリトン 21

(25)

22 第2章 光と物質の相互作用

2.6

結言

本 章 で は ,光 と 物 質 が エ ネ ル ギ ー を 交 換 し 結 合 し て い る 様 な 系 に つ い て Jaynes-Cummings のモデルを用いて説明を行った.本章で述べた Jaynes-Cummings のモデ ルは本研究で用いている共振器ポラリトンや真空ラビ分裂について説明することの出来る モデルである.また本研究では共振器ポラリトンの観測と共にACシュタルク三重項の観 測を行った [14].共振器ポラリトンの観測とACシュタルク三重項の観測についての実験 結果は5章,6章で述べるが,どちらの結果の説明も共に本章に記したJaynes-Cummings のモデルを用いて行うことが出来る.

(26)

参考文献 23

参考文献

[1] U. Fano. Atomic theory of electromagnetic interactions in dense materials. Phys. Rev., Vol. 103, pp. 1202–1218, 1956.

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[4] M. Fox. Quantum Optics: An Introduction: An Introduction, Vol. 15. Oxford university press, 2006.

[5] B. R. Mollow. Power spectrum of light scattered by two-level systems. Phys. Rev., Vol. 188, pp. 1969–1975, 1969.

[6] R. E. Grove, F. Y. Wu, and S. Ezekiel. Measurement of the spectrum of resonance fluorescence from a two-level atom in an intense monochromatic field. Phys. Rev. A, Vol. 15, pp. 227–233, 1977.

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[8] X. Xu, B. Sun, P. R. Berman, D. G. Steel, A. S. Bracker, D. Gammon, and L. J. Sham. Coherent optical spectroscopy of a strongly driven quantum dot. Science, Vol. 317, No. 5840, pp. 929–932, 2007.

[9] M. Kroner, C. Lux, S. Seidl, A. W. Holleitner, K. Karrai, A. Badolato, P. M. Petroff, and R. J. Warburton. Rabi splitting and ac-stark shift of a charged exciton. Appl. Phys. Lett., Vol. 92, No. 3, p. 031108, 2008.

[10] F. Quochi, G. Bongiovanni, A. Mura, J. L. Staehli, B. Deveaud, R. P. Stanley, U. Oesterle, and R. Houdr´e. Strongly driven semiconductor microcavities: From the polariton doublet to an ac stark triplet. Phys. Rev. Lett., Vol. 80, pp. 4733– 4736, 1998.

[11] I. I. Rabi. Space quantization in a gyrating magnetic field. Phys. Rev., Vol. 51, pp. 652–654, 1937.

[12] H. M. Gibbs. Spontaneous decay of coherently excited rb. Phys. Rev. Lett., Vol. 29, pp. 459–462, 1972.

(27)

24 第2章 光と物質の相互作用

with atoms and photons in a cavity. Rev. Mod. Phys., Vol. 73, pp. 565–582, 2001. [14] K. Ishii, S. Nakanishi, and N. Tsurumachi. Ultrafast transition between polariton doublet and alternating current stark triplet in organic one-dimensional photonic crystal microcavity. Appl. Phys. Lett., Vol. 103, No. 1, p. 013301, 2013.

(28)

25

3

フォトニック結晶微小共振器

3.1

緒言

本章では,本研究のサンプルに用いている微小共振器構造についての説明を行う.微小 共振器とは,光の波長程度の共振器長を持つ共振器構造のことを言う.この様な構造を用 いることで共振層内部で光の電場が増強される,光のモード密度が自由空間に比べて抑 制・増大される,単一モードの光と物質の相互作用を観ることができる等が起こる.それ らの現象を用いて様々な研究が行わている [1–4]. 微小共振器中での光と物質の相互作用は,光と物質の結合の大きさによって弱結合と強 結合の2種類に分けることが出来る[5, 6].弱結合領域では,Purcell効果として知られる ような自然放出の増強が起こる [7].強結合領域としては,真空ラビ分裂や共振器ポラリ トンが知られている [8, 9]. 微小共振器構造として,最も一般的な光共振器と知られているファブリペロー共振器構 造だけでなく,マイクロピラー [10],マイクロディスク[11],微小球[12]など様々な構造 が考えられている [13].微小共振器の一種類として,1次元フォトニック結晶微小共振器 がある.この構造は,1次元フォトニック結晶で微小なファブリペロー共振器を構成した ものとなる.この様な構造は,多層膜構造によって実現可能であり比較的作製の容易な微 小共振器構造の一種である.本研究では,この様な1次元フォトニック結晶微小共振器中 に有機色素分子を挿入することによって,光と物質の強結合状態である共振器ポラリトン の観測を行った.

(29)

26 第3章 フォトニック結晶微小共振器

3.2

フォトニック結晶

フォトニック結晶とは 1987 年に E.Yablonovitch によって提唱された概念であり,誘 電率が光の波長程度の長さで周期的に配列した構造のことを言う [14]. 図3.1のように誘 電率の分布の次元によって, (a)1 次元 [15], (b)2次元 [16], (c)3 次元[17] フォトニック結 晶と分類される.フォトニック結晶中では,その構造によって自然放出を抑制あるいは増 強を制御することが可能である,負の屈折率を持つ構造が実現可能である [18],非常に小 さい領域で光を導波させることが出来る [16]など自然界に存在する通常の物質では起こ りえない光学特性を観測することが出来る. 通常の結晶中では正電荷を持つ原子核が周期的に配列し電気的ポテンシャルの周期構 造ができる.この周期ポテンシャルによって電子波がブラッグ反射することによって電子 のエネルギーバンド構造が現れる.それと同様にフォトニック結晶は誘電率が周期分布し ている構造である. 誘電率の周期的分布は光に対するポテンシャルの分布と言える.この 光に対するポテンシャルの周期的分布によって光がブラッグ反射することで,通常の結晶 と同様に光に対するエネルギーバンド構造が現れる.このエネルギーバンド構造のことを フォトニックバンド構造と呼ぶ [19]. このフォトニックバンド構造に起因して起こる現象は光波と電子波でほぼ同様である. 例えば通常の結晶に現れるエネルギーバンドギャップはその結晶中にバンドギャップのエ ネルギーに対応するエネルギーを持つ電子が存在できない状態である.これによって結晶 中にバンドギャップのエネルギーに対応するエネルギーを持つ電子が進入できず全て反射 される.それと同様に光に対する結晶であるフォトニック結晶構造で現れるフォトニック バンドギャップでは.フォトニック結晶中にそのエネルギーに対応するエネルギーの光が 存在しない状態となる.この状態では通常の結晶と同様にそのエネルギー帯の光はフォト (a) (b) (c) 図3.1 フォトニック結晶の模式図(a)1次元,(b)2次元,(c)3次元

(30)

3.2 フォトニック結晶 27 ニック結晶中に進入できず全て反射される.この起源は光波,電子波共にブラッグ反射に よるものであり, 光波においてはこの現象を分布ブラッグ反射鏡という形で利用している. またフォトニックバンド構造では固体結晶と同様に,その周期を乱すような構造欠陥を 導入した場合,バンドギャップ中に欠陥準位に対応するようなモードが現れる [20].この 様な構造は本章で詳しく説明するが微小共振器構造になっており,この欠陥準位が光の共 振モードになっている.このようにフォトニック結晶が結晶と呼ばれる所以はフォトニッ ク結晶と通常の結晶中で,それぞれ光波と電子波の振る舞いを対応させて考えることが可 能であるためである.このようにフォトニック結晶とは通常の光学現象に固体物理的な考 え方を導入した比較的新しい概念である. フォトニック結晶は様々な構造を考えることができるが,本研究では 1 次元方向にのみ に屈折率分布を持つ 1 次元フォトニック結晶を用いた. 1次元フォトニック結晶に限定し て考えても様々な構造を考えることが出来る.その中でも本研究は誘電体多層膜構造を用 いた1次元フォトニック結晶を使用した.そこで,次節から多層膜の光学特性の理論解析 について述べていく.

(31)

28 第3章 フォトニック結晶微小共振器

3.2.1

伝送行列による多層膜の理論解析

本研究では 1次元フォトニック結晶構造を用いた.1次元フォトニック結晶構造は 2 種類以上の屈折率の異なる物質を交互に積層した多層膜構造で作製することが可能であ る [21].このような構造の透過スペクトルや反射スペクトルは伝送行列を用いる方法に よって記述することが出来る.図3.2に示すように,2つの異なる物質の界面に対して光 が垂直に入射した場合について考える.図の様にそれぞれの物質中での電場の大きさ,波 数を定義し,A層の屈折率をnA,B層の屈折率をnBとする.A層内での光の電場は EA= E (1) A exp n i  kA(1)x− ωt o + EA(2)exp n i  kA(2)x− ωt o (3.1) と表すことが出来る.同様にして,B層内での光の電場は EB = E (1) B exp n i  kB(1)x− ωt o + EB(2)exp n i  kB(2)x− ωt o (3.2)

E

A

(1)

, k

A

(1)

E

A

(2)

, k

A

(2)

E

B

(1)

, k

B

(1)

E

B

(2)

, k

B

(2)

A

B

図3.2 2つの物質の境界面での電場

(32)

3.2 フォトニック結晶 29 と表すことが出来る.光が垂直に入射した場合,A 層とB層の境界における電場と磁場 の境界条件により EA(1)+ EA(2) = EB(1)+ EB(2) (3.3) nA  EA(1)+ EA(2)  = nB  EB(1)+ EB(2)  (3.4) となる.ここで新たに計算のため E+ = E(1)+ E(2) (3.5) E− = E (1)− E(2) i (3.6) と定義すると,式(3.1),式(3.2)は行列表記を用いて次のように記述できる.  EB+ EB  =  1 0 0 nA nB   EA+ EA  = TAB  EA+ EA  (3.7) ここで, TAB = TBA−1 =  1 0 0 nA nB  (3.8) となる.TABはA 層とB層の境界面を A層からB層へ透過する光の伝播を表す行列で ある.次に,単一の物質中での光伝播を表す伝播行列について考える.そこでA 層1層 のみの場合について考える.図 3.3に表す様に,A 層への入射電場とA 層からの出射電 場を定義する. ここでA層の膜厚がdAであるとすると,光がA層を通過した場合の位相変化は, δA= nAdAk (3.9) となる. Ein(1) = EA(1) (3.10) とすると,透過光の電場は次のように記述される.

Eout(1) = EA(1)exp (−iδA) = E (1)

A (cos δA− i sin δA) (3.11)

同様にしてEin(2) は

Ein(2) = EA(2)(cos δA+ i sin δA) (3.12)

となる.ここで,

Eout+ = Eout(1) + Eout(2) (3.13)

Eout = E (1) out− E (2) out i (3.14)

(33)

30 第3章 フォトニック結晶微小共振器

E

in (1)

E

in (2)

E

out (1)

E

out (2)

A layer

図3.3 A層単層に光を入射した場合の電場 を新たに定義し,式(3.11),(3.12)をそれを用いて行列表記すると  Eout+ Eout  =  cos δA sin δA − sin δA cos δA   EA+ EA  (3.15) となる.ここで,A層での伝播行列は TA=  cos δA sin δA − sin δA cos δA  (3.16) となる.同様にして,B層での光伝播を表すTBについても求めることができる.多層膜 全体の伝送行列は,ここまで解いてきた単層の伝送行列と,異なる物質の境界面での伝送 行列の積によって表すことが出来る.例えばA層とB層の積層を1周期とし,N周期の 多層膜の場合その伝送行列は M = (TATABTBTBA)NTA (3.17) となる.図3.4に示すように,入射電場と出射電場を設定した場合,Ein(1) が入射光電場, Eout(1) が透過光電場,Ein(2) が反射光電場となる.ここで,出射側から入射する光は無いた め,Eout(2) = 0となる.これらの光と多層膜の伝送行列の関係は M =  A B C D  (3.18) とすると  Eout+ Eout  = M  EA+ EA  (3.19)

(34)

3.2 フォトニック結晶 31

E

in (1)

E

in (2)

E

out (1)

E

out (2)

M

図3.4 多層膜構造に光が入射した際の電場 となる.式(3.19)を解くと, {(A + D) + i (B − C)} E(1) out = 2 (AD− BC) E (1) in (3.20) となる.このとき行列式|M| = (AD − BC) = 1となり,これをふまえて式(3.20)を変形 すると振幅透過率tが求まる.振幅透過率tt = E (1) out Ein(1) = 2 (A + D) + i (B− C) (3.21) となる.したがって透過率は T =|t|2 = E (1) out Ein(1) = 4 (A + D)2+ (B− C)2 (3.22) となる.今回の計算では,それぞれの物質に関して吸収を考慮していないため,反射率は R = 1− T (3.23) となる.

(35)

32 第3章 フォトニック結晶微小共振器

3.2.2

1

次元フォトニック結晶構造

A層と B層の光学膜厚がすべて等しくなるような多層膜構造について考える.このよ うな構造は誘電率が1方向に周期的に配列しているので1次元フォトニック結晶構造で ある.この様な構造は特定の周波数帯において高反射率を示す誘電体多層膜鏡となる.図 3.5に1次元フォトニック結晶構造の模式図を示す.特に, nAdA= nBdB = λ 4 (3.24) という関係を満たす波長の光が結晶に垂直に入射したときブラッグ反射が起こる.このブ ラッグ反射を起源として,通常の固体結晶同様に光のバンド構造が形成される. この光の バンド構造をフォトニックバンド構造と呼び,固体結晶のバンドギャップに対応するエネ ルギー帯をフォトニックバンドギャップと呼ぶ. 図3.6に,伝送行列法を用いて計算した, 1 次元フォトニック結晶の透過スペクトルを示す.計算では,多層膜を形成する物質は TiO2 とSiO2 を想定して,屈折率はそれぞれ2.48,1.46とし5周期10層でシミュレー ションを行なっている.式 (3.24)の関係を満たすときλ に対応するエネルギーがフォト ニックバンドギャップの中心のエネルギーとなる.フォトニックバンドギャップのエネル ギー帯の光はフォトニック結晶中に存在することができないため,そのエネルギー帯の光 をフォトニック結晶に入射した場合非常に高い反射率を示す. そのためこの様な構造の フォトニック結晶は光反射鏡構造として用いられている. 無限に続く周期構造において, フォトニックバンドギャップは完全に光の存在を禁止する禁制帯となる.有限の周期構造 SiO 2 TiO2

Substrate SiO2 / TiO2 : 5 pairs

B

A

(36)

3.2 フォトニック結晶 33

0.0

0.5

1.0

0 250 500 750 1000

Photon energy

Transmittance

図3.6 1次元フォトニック結晶の透過スペクトルのシミュレーション の場合,真の意味での禁制帯とはなっておらず,透過率が完全に0にならない.しかし ながら,この様な光の透過率が非常に低い周波数帯のことを便宜上フォトニックバンド ギャップと呼ぶ.

(37)

34 第3章 フォトニック結晶微小共振器

3.2.3

微小共振器構造

前節では,周期性をもった多層膜構造について議論したが,本節では周期性を乱す層が 導入された多層膜構造について考える.この様な構造は1次元フォトニック結晶微小共振 器となる.図 3.7に今回考える1次元フォトニック結晶微小共振器構造の模式図を示す. A層,B層,C層の屈折率をそれぞれ,nA,nB,nC,膜厚をそれぞれdA,dB,dCとし, その光学膜厚がそれぞれ nAdA= nBdB = λ 4 (3.25) nCdC = λ 2 (3.26) の場合について考える.このような構造は前節で述べたように周期的な光学膜厚となって いる部分がミラー構造となり,間に導入された光学膜厚の異なるC層が共振層となるよ うな,微小共振構造になる.さて,この場合A 層,B層を透過した光の位相変化はそれ ぞれ, δA = δB = π 2 (3.27) となる.式(3.16)からA層,B層の伝播行列は, TA= TB =  0 1 −1 0  (3.28) となる.一方,C層を透過することによる位相の変化は, δC = π (3.29) SiO 2 TiO2

Substrate Cavity layer

A

B

C

(38)

3.2 フォトニック結晶 35 となる.A層,B層の場合と同様に式(3.16)を用いて伝送行列を求めると, TB =  −1 0 0 −1  (3.30) となる.また,A層とC層の境界面における伝送行列は TAC = TCA−1 =  −1 0 0 −nC nA  (3.31) である.式(3.17)を用いて,共振層を挟むミラー部の伝送行列を表すと,それぞれ M1 = M TAC =     −nB nA N 0 0 nC  −nA nB N    (3.32) M2 = M TAC =     −nA nB N 0 0 n1 C  −nB nA N    (3.33) となる.したがってこの微小共振器構造全体の伝播行列は Mcav = M1TCM2 =  −1 0 0 −1  (3.34) となる.したがって全体の透過率は,式(3.22)より, T = 4 (−1 − 1)2+ (0− 0)2 = 1 (3.35) となり,共振周波数に対応する波長 λに光は全て透過するようになることがわかる.図 3.8 に伝送行列を用いて計算した,1次元フォトニック結晶微小共振器構造の透過スペ クトルのシミュレーション結果を示す.この時,前節と同様に多層膜を形成する物質は TiO2とSiO2を想定して,屈折率はそれぞれ2.48,1.46とし片側5周期10層の多層膜を 考え,共振層は屈折率1.5の物質を想定している.シミュレーションの結果,フォトニッ クバンドギャップ中に光を透過するエネルギー帯が現れており,これは共振モードに対応 するエネルギーである.このエネルギーの光は,内部で電場が増強する,フォトニック結 晶内部でモード密度の増強が起こるなどしており広く研究に用いられている.

(39)

36 第3章 フォトニック結晶微小共振器

0.0

0.5

1.0

0 250 500 750 1000

Photon energy

Transmittance

図3.8 1次元フォトニック結晶微小共振器の透過スペクトルのシミュレーション結果

(40)

3.3 微小共振器中での光と物質の相互作用 37

3.3

微小共振器中での光と物質の相互作用

微小共振器中に2準位系の物質が置かれている場合について考える.この時,共振器中 に光子が入射した場合,内部の物質が光子を吸収し励起状態となる.その後,共振器内部 で光子を放出して,その放出した光子は共振器モードへ放出される,共振器モード外へ放 出される,共振器構造によって多重反射されて再度内部の物質に吸収されるという3つの 経路を考えることが出来る.図3.9に微小共振器中に物質が置かれた場合の光の経路の模 式図を示す.図中のg0,κcav,γ は,それぞれ,光子と物質の結合定数,共振器モードへ の放出レート,共振器モード外への放出レートである.この時,それぞれの経路の割合に よって光と物質の結合の状態を以下のように強結合と弱結合の2種類に分類することが出 来る. g0 < κcav or γ (3.36) g0 > κcav and γ (3.37) ,前者は共振器内の物質に再結合される前に共振器外へ光子が放出される.その結果,自 然放出と同等の現象として捉えることができるが,共振器の効果によってその放出レート が変化する [22].この様な現象はパーセル効果としてよく知られている.後者の場合,共 振器外へ光子が放出される前に,共振器内部の物質に光子が再吸収される.この様な状態 は,2章で述べた光と物質に相互作用が有るような系として捉えることが出来るため,共 振器内部でRabi振動が起きる.内部に挿入されている物質によっては,共振器ポラリト ンとよばれる. 図3.9 微小共振器中での光と物質の相互作用の模式図

(41)

38 第3章 フォトニック結晶微小共振器

3.4

弱結合

弱結合状態では2準位系から放出された光子が再吸収されることなく,微小共振器外に 放出されるような状態である.この状態は2準位系と光子の結合がない,または非常に弱 く無視できるため自然放出と同じ現象であると考えられる.自然放出の確率は,フェルミ の黄金律によって記述されるので, W = h |M12| 2 ρ (ω) (3.38) となる.ここでM12 は基底状態から励起状態へ遷移する時の行列成分であり,遷移モー メントと呼ばれ,次のような電気双極子相互作用を用い M12 =hp · εi (3.39) と表される. 一方で自由空間について考えると,自由空間での光の状態密度は ρfree(ω) = ω2V 0 π2c3 (3.40) と表すことが出来る.ここで,V0 は実効的モード体積で R V  (r)|E (r)| 2 dr3   (r)|E (r)|2  MAX (3.41) で表される.共振器内には他に光源が存在していないため,式(3.39)中のε は真空場を もちいてεvacと置き換えられる.その結果行列成分M12 の2乗は M122 = 1 3µ 2 12ε 2 vac= µ212¯ 60V0 (3.42) となる.したがって式(3.38)から Wfree 1 τR = µ 2 12ω3 3πhc3 (3.43) となる.ここでτR は輻射寿命で,周波数の3乗と,遷移モーメントの2乗に比例する. 次に,微小共振器中に置かれた二準位系について考える.微小共振器中に置かれた二準 位系と光が弱結合することによって,自然放出レートが変化することはPurcell効果とし てよく知られている.まず,共振器モードの光の状態密度について考える.この時,単一 モードの共振器ついて考えると Z 0 ρ (ω) dω = 1 (3.44)

(42)

3.4 弱結合 39 となる.さらにこれを変形すると ρcav(ω) = 2 π∆ωc ∆ω2c 4 (ω− ωc) 2 + ∆ω2 c (3.45) となる.この時ωc は共振モードの周波数,∆ωc は共振モードの半値幅である.2準位系 の遷移周波数がω0であった場合について考えると.式(3.45)は ρcav0) = 2 π∆ωc ∆ωc2 4 (ω0− ωc) 2 + ∆ω2 c (3.46) と変形できる.さらに,2準位系と共振器が共鳴している場合について考えると ρcav0) = 2 π∆ωc = 2Q πω0 (3.47) となる.ここで新たに ξ = |p · ε| |p| |ε| (3.48) を定義して,行列要素について考えると M122 = ξ2µ212ε2vac = ξ2µ 2 12¯ 20V0 (3.49) となる.式(3.46),(3.49)を式(3.38)に代入して,自然放出レートを求めると Wcav = 2Qµ212 ¯ h0V0 ξ2 ∆ω 2 c 4 (ω0− ωc) 2 + ∆ω2 c (3.50) となる.自由空間での自然放出確率である式(3.43)と,共振器中での自然放出確率であ る式(3.50)を比較して, FP = Wcav Wfree τRfree τRcav (3.51) として新たに定義されるパーセル因子について考えると, FP = 3Q nλ3 2V 0 ξ2 ∆ω 2 c 4 (ω0− ωc) 2 + ∆ω2 c (3.52) となり,2準位系と共振器が共鳴している場合について考えると FP= 3Q λn3 2V 0 (3.53) となる.式(3.52)から,2準位系と共振器が共鳴している近傍でのみ自然放出の増強がお こり,非共鳴な周波数帯ではほぼ0となることがわかる.また,式(3.53)から自然放出確 率が最大となる,2準位系と共振器モードが共鳴しているときの増強度は,Q値が高いほ ど大きく,V0が小さいほど大きいことがわかる.

(43)

40 第3章 フォトニック結晶微小共振器

3.5

強結合

強結合状態は,共振器中で光子と物質が強く結合した状態である.このような状態は, 共振器外に光子が放出されるよりも早く共振器内部に置かれた物質と光子がエネルギーの 交換を行うことによって生じる.この様な状態は前章で述べたような,光と物質系に相関 があるような系になっているためJaynes-Cummingsのモデルで,エネルギー状態を説明 することができる.この強結合状態は前章で共振器中に2準位系が置かれた場合について 述べた様に,共振器の多重反射効果によって,強制的に物質系のラビ振動を引き起こして る様な状態である. この様な微小共振器の内部での物質と真空場の相互作用エネルギー∆E は,電気双極 子相互作用によって決まり,

∆E =|µEvac| (3.54)

となる.この時µは遷移双極子モーメント,Evac は真空場の大きさである.真空場の大 きさは, Evac = r ¯ 20V0 (3.55) と表される.この時V0はモード体積を表している.モード体積は V0 = R 0(r)|E (r)| 2 dr3  0(r)|E (r)| 2 max (3.56) で表され,微小共振器の構造によってきまる.ここで∆E は¯hg0 となるので,物質と光 の結合定数は g0 = s µ2ω 2hV0 (3.57) となる.このことから,この様な系では結合の大きさは内部の物質,微小共振器の構造, そしてこれらの共振周波数によって決定される値であることが分かる. 本研究では,特に共振器中に有機色素J-会合体を挿入することによって,有機色素 J-会合体の励起子と光子が結合した,共振器ポラリトンについて研究を行った. さて,前章ではJaynes-Cummingsのモデルを用いて,光子と物質系に相関の有るよう な状態におけるエネルギー状態について議論してきた.このモデルは,光子と物資が強く 結合している様な状況に関して,どの様なエネルギー状態をとるかはよく説明している が,その透過スペクトルや反射スペクトルといった情報までは含んでいなかった.しかし 透過スペクトルや反射スペクトルについて量子力学的に考えると数式が複雑化し考えづら くなってしまう.一方で,この様な系のエネルギー状態やどのような描像で捉えられるか

(44)

3.5 強結合 41

0.0

0.5

1.0

2.0

2.1

2.2

2.3

Photon energy (eV)

Transmittance

図3.10 仮定した共振器の共振モード と言った議論を差し置いて,透過スペクトルのみ考える場合は,古典物理を用いる方法で 十分な説明出来る.ある共振器中にローレンツ振動子が有る場合について考えることに よって,その透過スペクトルを計算することが可能である [23].実際に以下の計算を行 い,共振器中にローレンツ振動子がある場合の透過率Tc(ν)を求めた. まずはじめに内部にローレンツ振動子を含まない空の共振器について考える.共振器の 共振器長をLc とすると,その共振器のフリースペクトルレンジは ∆FSR= c 2Lc (3.58) となる.さらに共振器を構成する鏡の反射率と透過率をそれぞれRT とすると,その共 振器の共振モードの鋭さてあるフィネスは F = π R (1− R) (3.59) となる.式(3.58),(3.59)から共振器モードのスペクトル幅は, δc = ∆FSR F (3.60) となる.共振器を構成する鏡に吸収は無いと仮定しその反射率Rと透過率T をそれぞれ 0.995,0.005とし,共振エネルギーを 2.14eVとして図3.10のような共振モードを仮定 してシミュレーションを行った. 次に,内部に挿入するローレンツ振動子について考える.ローレンツ振動子はスペクト ル幅をδHとして,その吸収を0.05,共振エネルギーを2.14eVとして図3.11のような吸 収を持つと仮定してシミュレーションを行った.

(45)

42 第3章 フォトニック結晶微小共振器

0.00

0.05

2.0

2.1

2.2

2.3

Photon energy (eV)

Absorbance

図3.11 仮定した吸収スペクトル これらの仮定から,透過率Tc(ν)Tc(ν) =|tc(ν)| 2 = T 2e−αL (1− Re−αL)2+ 4Re−αLsin2(/2) (3.61) を,計算することによって求めることが出来る.この時  (ν) = 2π (∆− ∆m) ∆FSR + 4π (n− 1) Lν c (3.62) は,共振器を透過することによる位相の変化を表している.これは,光の周波数とローレ ンツ振動子の共振周波数の差である, ∆ = ν− ν0 (3.63) と,共振モードの周波数とローレンツ振動子の共振周波数の差である, ∆m = νm− ν0 (3.64) を用いて計算できる.更に式(3.62)中のαnはそれぞれ, α = α0 δH 4∆2+ δ2 H (3.65) と, n = 1− α0 c 2πν ∆δH 4∆2+ δ2 H (3.66) で表される.ここで,α0 は先に仮定したローレンツ振動子の吸収ピーク0.05を用いて計 算を行った.先述の仮定を用いて,実際に透過スペクトルの計算を行った結果を図 3.12 に示す.

図 2.4 Jaynes-Cummings モデルのエネルギー準位図 と簡単化でき,これを解くと E = E photon + E atom 2 ± 12 q (E photon − E atom ) 2 + 4 ¯ hg √ n + 1  2 (2.37) となる.式 (2.37) から分かるように,このような系では取りうるエネルギー状態が 2 本 に分枝することが分かる. Jaynes-Cummings のモデルにおいて, E photon = E atom の光 子と原子が共鳴している場合のエネルギー
図 2.8 共振器中に置かれた 2 準位系
図 3.5 1 次元フォトニック結晶の模式図
図 3.7 1 次元フォトニック結晶微小共振器構造の模式図
+7

参照

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