第 4 章 有機色素分子会合体 49
4.3 チタン酸ナノシート中での会合体
54 第4章 有機色素分子会合体
HTO nanosheet
Dye molecule
図4.4 層間に有機色素を含むHTOナノシートの模式図
4.3 チタン酸ナノシート中での会合体 55
4.3.1 サンプル作製
本研究では水熱化学法を用いて合成された,HTO ナノシートを用いた.このHTOナ ノシートは香川大学工学部の馮研究室により提供していただいたものである.
有機色素/HTO複合体の作製方法について述べる.まず,0.5 mol/LのPICメタノー ル溶液を作製した.作製したPICメタノール溶液とHTOナノシートのコロイド溶液を,
それぞれ10 mLずつ取り混合した.これを室温,回転速度10000 rpmで10分間遠心分
離を行った.その後,沈殿物を取り出し沈殿物を蒸留水に分散させ再度遠心分離を行い,
HTO 中に含まれていないPIC分子をとりのぞいた.これを 3回繰り返し取り出した沈 殿物に,再度PICメタノール溶液を加え遠心分離を行った.その後,取り出した沈殿物 を蒸留水に分散させ遠心分離を行い,これを3回繰り返し,PIC/HTO複合体を得た.こ
のPIC/HTO複合体において,示差熱・熱重量同時測定を用いPICとTiOの分子数の比
率を求めるとPIC : TiO = 0.022 : 1であった.
作製したPIC/HTO複合体を蒸留水に分散させ,それをガラス基板上にキャストし乾
燥させることによってPIC/HTO複合体薄膜を作製した.
56 第4章 有機色素分子会合体
4.3.2 PIC/HTO 複合体
作製したPIC/HTO複合体の薄膜の吸収スペクトルを図4.5に示す.破線がPIC/HTO
複合体の透過スペクトルであり,実線が比較として作製した PIC/gelatine 薄膜中での PIC J会合体の吸収スペクトルである.PIC/gelatine 薄膜の作成法の詳細は5.2.1節で 述べる.図から分かるようにPIC/HTO複合体の場合も,PIC/gelatineの場合と同様に単 量体の吸収ピークとは別に低エネルギー側に新たな吸収ピークが現れていることがわか る.この吸収ピークは単量体のものと比べ十分にシャープでかつ低エネルギー側に現れて いることから,J会合体に起因する吸収ピークであると考えられる.これは,層間に有機 色素が取り込まれる際にHTOナノシートと有機色素の間だけではなく,有機色素同士に も相互作用が働き,層間で有機色素が配列をしているためだと考えられる.HTOの層間 隔を XRD法を用いて調べて,PIC分子の大きさからPIC分子がどの程度傾いているか を計算した結果,PIC分子は29.2◦ 程度傾いて配向していることがわかっている [32].図 4.2で示したように,色素の配向角から単量体の吸収ピークに比べて,どの程度ピークの シフトが見られるかがわかる.このことから考えて,もしPIC/gelatine の場合にほぼ理 想的なJ会合体で遷移モーメントの角度が0◦ であったと仮定したとき,遷移モーメント が29.2◦ 傾いている状態ではその吸収ピークが約50 meV程度高エネルギー側にシフトす る.ホストの違いもあるため正確にシフト量を求めることは困難であるが,概ねシフト量 は実験結果と一致している.このことからPIC/HTO複合体中でのJ会合体の吸収ピー
クがPIC/gelatineにおけるJ会合体の吸収ピークと比べて高エネルギー側に出現してい
ることの説明は可能である.
1.6 1.8 2 2.2 2.4
0 0.5 1
Absorption
Photon energy (eV)
(a)
図4.5 PIC/HTO複合体薄膜の吸収スペクトル
4.3 チタン酸ナノシート中での会合体 57
1.6 1.8 2 2.2 2.4
0 0.5 1
Intensity (a.u.)
Photon energy (eV)
(b)
図4.6 PIC/HTO複合体薄膜の発光スペクトル
次に,図4.6にPIC/HTO複合体の発光スペクトルを示す.実線が,PIC/gelatineの 発光スペクトル,破線がPIC/HTO複合体の発光スペクトルである.発光スペクトルか
ら,PIC/HTO複合体の場合について発光がほぼ見られないことが分かる.一般にJ会
合体の特徴として,0-0遷移による強い発光が起こることが知られている.しかし,今回 我々が作製したサンプルに関しては,J会合体を形成しているにも関わらず,発光が観測 されなかった.これは前述のとおり,有機色素からHTO への電子移動が起こったため,
発光のレートが減少したためだと考えられる.図4.7にPIC/HTO複合体のエネルギー 準位の模式図を示す.励起された電子は発光せず,PIC J会合体のLUMOより0.5eV程 度エネルギー的に低い位置にあるHTOナノシートの伝導帯へ移動する.我々が用いた検 出器の性能からPIC/HTO複合体での発光は観測されなかったが,実際には確率的にご く微量の発光は起こっていると考えられる.しかし測定のS/Nから考えてPIC/gelatine の場合に比べて1/1000以下になっており,その発光は十分小さいことが言える.
58 第4章 有機色素分子会合体
J-aggregate HTO
Electron transfer
0.5 eV
図4.7 PIC/HTO複合体のエネルギーダイアグラム