第 4 章 有機色素分子会合体 49
4.2 会合体
会合体とは,シアニン系,ポルフィリン系,フタロシアニン系などのイオン性有機色素 が双極子相互作用により自己組織的に1次元鎖状に配列したような構造である.会合体に ついて考えるため,まず遷移モーメントがµの2つの分子が有る場合の励起子相互作用に ついて考える.この様に2つの分子について考えると2つの分子の分極の方向の違いに よって,2つの状態に分裂する.この分裂のことをDavydov分裂と呼び,これらの状態 からの緩和はそれぞれ許容遷移と禁制遷移になっている.図4.1に示すように遷移モーメ ントの距離r,分子の配向方向に対する遷移モーメントの角度θ で2つの分子が平行に配 置されている場合の,励起子相互作用エネルギーは
Eexciton = |µ|2
r3 1−3 cos2θ
(4.1) となる [27].この時1つの分子から別の分子へ励起状態が移る結合強度は|µ|2 に比例し ており,吸収係数の大きな系では励起状態が非局在化しやすいことを意味している.つま り,吸収係数の大きな系で励起子相互作用が起こりやすい.励起子相互作用エネルギーは 分子が配列した場合の吸収ピークエネルギーのエネルギーシフトに対応しており,配列 する分子の種類と分子配列のしかたによって決まる.図4.2に式(4.1)を考慮した,遷移 モーメントの方向と吸収ピークエネルギーの関係の模式図を示す.実線が許容遷移の遷移 エネルギーを示し,破線が禁制遷移の遷移エネルギーを示している.許容遷移において角 度θが0◦ の時,吸収ピークエネルギーの低エネルギー側へのシフトが最も大ききく,角 度θ が90◦ の時,吸収ピークエネルギーの高エネルギー側へのシフトが最も大きい.ま た,角度θ が54.7◦の時に分子単体の吸収ピークエネルギーと等しくなる.
ここまでは,2分子の場合について考えてきたが分子の個数が複数個連なって配向して いる会合体のような場合も2分子の場合と同様のことが言える.この場合,低エネルギー 側に吸収ピークがシフトしているものをJ会合体と呼び,高エネルギー側に吸収ピークが シフトしているものをH会合体と呼ぶ.本研究で用いたJ会合体を形成する場合の1つ の特徴として,単量体に比べ鋭い吸収ピークが現れる.これは励起状態の非局在化によっ
図4.1 2つの分子の配置の模式図
4.2 会合体 51
Energy
図4.2 遷移モーメントの配向角と遷移エネルギーの関係
1.5 2 2.5 3
0 0.5 1
0 0.5 1
Absorption Intensity (a.u.)
Photon energy (eV)
図4.3 J会合体を形成している分子の吸収スペクトルと発光スペクトル
て,分子内振動を励起する前に他の分子へ励起状態が移るためである.更に,このJ会合 体に起因する吸収帯からの発光はストークスシフトが非常に小さく,その遷移の約8割が 0-0遷移であることが理論的にも実験的にも知られていることからも,分子内での振動の 励起が少ないことがよくわかる [28].図4.3にJ会合体を形成している分子の吸収スペク トルと発光スペクトルを示す.これは本研究で実際に用いた有機色素J会合体の溶液の吸 収スペクトルと発光スペクトルであり,実線が吸収スペクトル,破線が発光スペクトルを 示している.この時,用いた溶液は0.5 mMのPICメタノール溶液である.2.14 eV付 近にJ会合体に起因するシャープな吸収ピークが観測でき,かつストークスシフトの小さ
52 第4章 有機色素分子会合体 い0-0遷移による強い発光が観測できており,J会合体を形成していることが分かる.
また,J会合体の特徴として,強い発光が観測されることがよく知られている.一方で,
H会合体を形成した場合,発光が消失することが知られている.これは許容遷移である高 い励起準位から禁制遷移である低い励起準位へ非常に速い無輻射失活が起きるためである と報告されている.