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第 5 章 共振器ポラリトンの観測 63

5.3 PIC/HTO を含む微小共振器中での共振器ポラリトン

5.3.1 サンプル

非発光な物質と微小共振器中の光子の結合について議論するため,4.3.2 節で述べた

PIC/HTO複合体を微小共振器中に挿入することにより生成される共振器ポラリトンの

観測を行った.図5.12にサンプル構造の模式図を示す.

サンプルとして,2種類の1次元フォトニック結晶微小共振器構造を用いている.1つ は,PIC/gelatineの場合と同様に5周期の1次元フォトニック結晶鏡を用いた構造.2 目は,6周期の1次元フォトニック結晶鏡を用いた微小共振器である.これは,PIC/HTO

複合体はPIC/gelatine薄膜の場合に比べて振動子強度が小さいため,よりQ値の大きい

微小共振器を用いた測定を行うためである.微小共振器の作製方法はPIC/gelatineの場 合と同様に1つの1次元フォトニック結晶上にPIC/HTO複合体薄膜をスピンコート法 によって作製して,その薄膜を別の1次元フォトニック結晶で挟み込むことによって作製 した.この時用いた1次元フォトニック結晶は平行度λ/10,厚さ1mm,1辺10mmの正 方形の BK7基板上に真空蒸着法によって作成されたSiO2,TiO2 の多層膜構造である.

詳しい構造は,SiO2の膜厚が102.7nm,TiO2の膜厚が60.5nmで6周期12層の表面が

6 pairs

5.12 PIC/HTO複合体を含む1次元フォトニック結晶微小共振器の模式図

5.3 PIC/HTOを含む微小共振器中での共振器ポラリトン 75 TiO2 となっている構造である.

76 第5章 共振器ポラリトンの観測

5.3.2 測定方法

測定は,PIC J会合体を含む1次元フォトニック結晶微小共振器中での共振器ポラリト

ンの観測と同様にウェッジ形状の共振層を持つサンプルであるため,透過スペクトルの入 射位置依存性を測定することにより,共振器ポラリトンの観測を行った.測定に用いた光 学系は図5.6に示す光学系と同様の系を用いた.光源はハロゲンランプを用い,コリメー ションレンズにより平行光線とした後,集光レンズでサンプル上に集光した.サンプルを 透過した光を再度平行光線にし,レンズにによって集光しマルチチャンネル分光光度計へ 接続した光ファイバーへ入射した.マルチチャンネル分光光度計はオーシャンオプティク

ス社のUSB4000を用いた.図5.6のサンプル位置にあるxステージをマイクロメーター

を使って100µmずつ移動させながら透過スペクトルの測定を行った

5.3 PIC/HTOを含む微小共振器中での共振器ポラリトン 77

5.3.3 結果と考察

作製した,PIC/HTOを含む2種類の 1次元フォトニック結晶微小共振器の透過スペ クトルを図5.13と図5.14にそれぞれ示す. 5周期の1次元フォトニック結晶鏡を用いた 場合は共振モードが入射位置の変化に伴って単調に変化している様子を観測した.これは 微小共振器Q値が小さいため,PIC/HTO複合体と光子が強結合状態に至っていないた めであると考えられる.一方で,6周期の1次元フォトニック結晶鏡を用いた微小共振器 の場合は,共振モードが入射位置によって変化し,PIC/HTOの吸収ピークエネルギーと 共鳴する付近でのみピークの分裂が起こっていることがわかる.これは,5周期の場合と 比べ微小共振器のQ値が大きく強結合状態に至ったためであると考えられる.この時こ の2つのピークの分裂幅は5.8meVで,前章のPIC/gelatine薄膜の場合に比べて約1桁 程度小さい値であった.

さてここで3章で述べた微小共振器中での光と物質の強結合状態について考えると,共 振器外に光子が放出されるよりも早く共振器内部に置かれた物質と光子がエネルギーの交 換を行うことによって生じると説明した.本研究の結果から光と物質のエネルギーの交換 過程に発光という過程が必要無いことが分かる.実際,共振器ポラリトンやポラリトンは 放出と吸収を繰り返し行うことで形成されると説明されることが多いが [9, 37],光子と物 質はコヒーレントにエネルギーの交換を行なっておりインコヒーレントな過程である発光 過程は必要とされない.このコヒーレントにエネルギーを交換する周期がラビ周波数であ

Position

2.0 2.1 2.2 2.3

Photon energy (eV)

T ransmission (a.u.)

5.13 PIC/HTO複合体を含む1次元フォトニック結晶微小共振器の透過スペクト

ルの入射位置依存性:5周期

78 第5章 共振器ポラリトンの観測

2.0 2.1 2.2 2.3

Photon energy [eV]

T ransmittance

5.14 PIC/HTO複合体を含む1次元フォトニック結晶微小共振器の透過スペクト

ルの入射位置依存性:6周期

り,式(2.42)から分裂幅が5.8 meVの場合のラビ周波数を求めることができる.そのラ

ビ周波数の逆数である周期を求めると720fsとなり,この時間が今回の実験で用いた微小 共振器中でPIC/HTO複合体と光子がコヒーレントにエネルギーを交換する時間となる.

この PIC/HTO複合体と光子がコヒーレントにエネルギーを交換する時間が,PICから

HTO への電子移動よりも速いため,式(3.37)の条件を満たし強結合状態に至っている のだと考えられる.そのため,PICのからHTOへの電子移動は720fsよりも遅い時間ス ケールで起きていることが考えられる.

この結果は,微小共振器中で光子と物質が結合するにために共振器モードへの放出は必 ずしも必要でないことを示唆している.過去に,二光子吸収の分極と共振器モードの結合 によって共振器ポラリトンが生成されるという理論が報告 [38]されているが,二光子吸 収を用いる場合共振器モードへの放出がない.本研究から共振器モードへの放出がない場 合においても光と物質がコヒーレントにエネルギーを交換することが出きれば共振器ポラ リトンが観測されていることから,二光子吸収の分極と共振器モードの結合による共振器 ポラリトンの観測が実際に可能であると示唆される.また,その他にも共振器モードへの 発光はないが光子と物質がコヒーレントにエネルギーを交換する可能性のある系を考える ことが出来る.