第 3 章 フォトニック結晶微小共振器 25
3.5 強結合
強結合状態は,共振器中で光子と物質が強く結合した状態である.このような状態は,
共振器外に光子が放出されるよりも早く共振器内部に置かれた物質と光子がエネルギーの 交換を行うことによって生じる.この様な状態は前章で述べたような,光と物質系に相関 があるような系になっているためJaynes-Cummingsのモデルで,エネルギー状態を説明 することができる.この強結合状態は前章で共振器中に2準位系が置かれた場合について 述べた様に,共振器の多重反射効果によって,強制的に物質系のラビ振動を引き起こして る様な状態である.
この様な微小共振器の内部での物質と真空場の相互作用エネルギー∆E は,電気双極 子相互作用によって決まり,
∆E =|µEvac| (3.54)
となる.この時µは遷移双極子モーメント,Evac は真空場の大きさである.真空場の大 きさは,
Evac =
r ¯hω 20V0
(3.55) と表される.この時V0はモード体積を表している.モード体積は
V0 =
R 0(r)|E(r)|2dr3
0(r)|E(r)|2
max
(3.56)
で表され,微小共振器の構造によってきまる.ここで∆E は¯hg0 となるので,物質と光 の結合定数は
g0 = s
µ2ω
20¯hV0 (3.57)
となる.このことから,この様な系では結合の大きさは内部の物質,微小共振器の構造,
そしてこれらの共振周波数によって決定される値であることが分かる.
本研究では,特に共振器中に有機色素J-会合体を挿入することによって,有機色素 J-会合体の励起子と光子が結合した,共振器ポラリトンについて研究を行った.
さて,前章ではJaynes-Cummingsのモデルを用いて,光子と物質系に相関の有るよう な状態におけるエネルギー状態について議論してきた.このモデルは,光子と物資が強く 結合している様な状況に関して,どの様なエネルギー状態をとるかはよく説明している が,その透過スペクトルや反射スペクトルといった情報までは含んでいなかった.しかし 透過スペクトルや反射スペクトルについて量子力学的に考えると数式が複雑化し考えづら くなってしまう.一方で,この様な系のエネルギー状態やどのような描像で捉えられるか
3.5 強結合 41
0.0 0.5 1.0
2.0 2.1 2.2 2.3
Photon energy (eV)
Transmittance
図3.10 仮定した共振器の共振モード
と言った議論を差し置いて,透過スペクトルのみ考える場合は,古典物理を用いる方法で 十分な説明出来る.ある共振器中にローレンツ振動子が有る場合について考えることに よって,その透過スペクトルを計算することが可能である [23].実際に以下の計算を行 い,共振器中にローレンツ振動子がある場合の透過率Tc(ν)を求めた.
まずはじめに内部にローレンツ振動子を含まない空の共振器について考える.共振器の 共振器長をLc とすると,その共振器のフリースペクトルレンジは
∆FSR= c 2Lc
(3.58) となる.さらに共振器を構成する鏡の反射率と透過率をそれぞれR,T とすると,その共 振器の共振モードの鋭さてあるフィネスは
F = π√ R
(1−R) (3.59)
となる.式(3.58),(3.59)から共振器モードのスペクトル幅は,
δc = ∆FSR
F (3.60)
となる.共振器を構成する鏡に吸収は無いと仮定しその反射率Rと透過率T をそれぞれ 0.995,0.005とし,共振エネルギーを 2.14eVとして図3.10のような共振モードを仮定 してシミュレーションを行った.
次に,内部に挿入するローレンツ振動子について考える.ローレンツ振動子はスペクト ル幅をδHとして,その吸収を0.05,共振エネルギーを2.14eVとして図3.11のような吸 収を持つと仮定してシミュレーションを行った.
42 第3章 フォトニック結晶微小共振器
0.00 0.05
2.0 2.1 2.2 2.3
Photon energy (eV)
Absorbance
図3.11 仮定した吸収スペクトル
これらの仮定から,透過率Tc(ν)は
Tc(ν) =|tc(ν)|2 = T2e−αL
(1−Re−αL)2+ 4Re−αLsin2(/2) (3.61) を,計算することによって求めることが出来る.この時
(ν) = 2π(∆−∆m)
∆FSR + 4π(n−1)Lν
c (3.62)
は,共振器を透過することによる位相の変化を表している.これは,光の周波数とローレ ンツ振動子の共振周波数の差である,
∆ =ν−ν0 (3.63)
と,共振モードの周波数とローレンツ振動子の共振周波数の差である,
∆m =νm−ν0 (3.64)
を用いて計算できる.更に式(3.62)中のαとnはそれぞれ,
α=α0
δH
4∆2+δ2H (3.65)
と,
n= 1−α0
c 2πν
∆δH
4∆2+δ2H (3.66)
で表される.ここで,α0 は先に仮定したローレンツ振動子の吸収ピーク0.05を用いて計 算を行った.先述の仮定を用いて,実際に透過スペクトルの計算を行った結果を図 3.12 に示す.
3.5 強結合 43
0.00 0.05 0.10 0.15
2.0 2.1 2.2 2.3
Photon energy (eV)
Transmittance
図3.12 真空ラビ分裂のシミュレーション
−3
−2
−1 0 1
2.0 2.1 2.2 2.3
Photon energy (eV)
Transmittance (a.u.)
図3.13 共振器長の変化を仮定した時の共振モード
図3.10 では,1本であった透過ピークが内部にローレンツ振動子を挿入することに よって,2本に分裂していることが分かる.ここで,共振モードの透過ピークを変化させ てそれぞれ真空ラビ分裂の計算を行うことによって,様々な周波数の光と,ある共鳴周波 数を持つ物質が結合した場合の真空ラビ分裂を求めることが出来る.共振器モードは共振 器長を変化させることによって共振周波数を変化することができる.図3.13に,共振器 長を変化させ共振器モードに対応する透過ピークがシフトしていく様子のシミュレーショ ンを示す.この共振器モードに対して,それぞれ真空ラビ分裂を計算すると図3.14のよ うになる.この計算結果から真空ラビ分裂による2つの透過ピークのシフトの様子が分か
44 第3章 フォトニック結晶微小共振器
−3
−2
−1 0 1
2.0 2.1 2.2 2.3
Photon energy (eV)
Transmittance (a.u.)
図3.14 共振器長を変化させた場合の真空ラビ分裂
2.0 2.1 2.2 2.3
16.5 17.0 17.5 18.0
図3.15 シミュレーションから求めた分散関係
る.この透過ピークのエネルギーと,その時の共振器モードの波数から,この光と物質の 混合状態の分散関係を求めることができる.その分散関係を図3.15に示す.この図から.
2つに分枝した分散関係が分かり,これは光と物質の強結合状態である共振器ポラリトン に関しても同じ事である.