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第 5 章 共振器ポラリトンの観測 63

5.2 PIC/gelatine を含む微小共振器中での共振器ポラリトン

5.2 PIC/gelatine を含む微小共振器中での共振器ポラリトン

5.2.1 サンプル

本研究では共振器中に導入する有機色素として,Pseudoisocyanine (PIC) を用いた.

図5.1PICの分子構造を示す.PICはシアニン系有機色素であり,J会合体を形成す ることでよく知られており,その物性やプロセスの研究報告が多くなされている[31–34]. PICモノマーの吸収帯は2.2 eVから3.0eV付近に存在している.一方で,PICの濃度 が高くなると,PICが自己組織的に配列しJ会合体を形成する.そうすると2.14eV近傍 に,J会合体に起因するシャープな吸収が現れる.本研究では,PICを分散させる媒質と して,gelatineを用いた.PICをgelatine中に分散させることにより,J会合体を形成し やすいという報告があるため,分散媒質としてgelatineを用いた.

PICを7mgとgelatineを50mg,電子天秤で計量した.これらに水を2ml,メタノール を2ml加え密閉式の容器に移し75Cに加熱しマグネティックスターラで攪拌した.攪拌 の後,溶液が75Cの状態でスピンコートをすることによってPIC/gelatine薄膜を作製し た.この時,スピンコーターの回転数は2000rpmとした.実際に作製したPIC/gelatine 薄膜の吸収スペクトルを図 5.2に示す.2.14eV付近にJ会合体に起因するシャープな吸 収が現れているのがわかる.この時の吸光度がおよそ0.7であった.

PIC J会合体を1次元フォトニック結晶微小共振器の共振層に導入したサンプルの作製

を行った.本研究で作製したサンプルの模式図を図5.3に示す.このサンプルは,2枚の 1次元フォトニック結晶鏡の平行度を干渉縞を観察しながら微調整することによって,共 振層がウェッジ状になるように作製している.この様なサンプルの作製方法は過去に報告 がなされている [35, 36].模式図では形式上,誇大に表現しているが実際には直径30mm の1次元フォトニック結晶鏡に対して,1から2本程度の干渉縞が現れる程度のウェッジ 各に調整している.つまりθwedge = 600nm/30mm [rad] = 2×107[rad]程度の非常に 緩いウェッジ角になっている.そのため,共振器Q値には大きな影響を及ぼしていないと

N+ N

5.1 PICの分子構造

66 第5章 共振器ポラリトンの観測

0.0 0.2 0.4 0.6

1.8 2.0 2.2 2.4

Photon energy (eV)

Absorbance

5.2 PIC/gelatine薄膜の吸収スペクトル

5 pairs

5.3 PIC J会合体を含む1次元フォトニック結晶微小共振器の模式図

5.2 PIC/gelatineを含む微小共振器中での共振器ポラリトン 67

1.5 2 2.5 3

0 0.5 1

Transmittance

Photon energy (eV)

5.4 本研究で用いた1次元フォトニック結晶の透過スペクトル

5.5 サンプル固定具の模式図

考えている.実際に使用した1次元フォトニック結晶鏡の構造は直径30mm,厚さ5mm 平行度がλ/10のBK7基板上に高屈折率層としてTiO2,低屈折率層としてSiO2 の多層 膜を構造を用いた.それぞれ屈折率と膜厚は,TiO2は屈折率2.48,膜厚60.5nm,SiO2 は屈折率1.46,膜厚102.7nmの5周期10層で表面はTiO2 となるような構造になって いる.実際に用いた1次元フォトニック結晶の透過スペクトルを図5.4に示す.1.5eVか

ら2.5eVに透過率が 0.1程度の,光を透過していないエネルギー帯があるのがわかる.

このエネルギー帯のことをフォトニックバンドギャップと呼ぶ.このエネルギー帯に対し てTiO2 とSiO2 及び基板のBK7はどれも透明であり,このエネルギー帯の光が透過し ていない理由は吸収ではなく,Bragg反射によって1次元フォトニック結晶内部に光が侵 入することが出来ず,反射したためである.したがってこのフォトニックバンドギャップ に対応するエネルギー帯の光に対して,この1次元フォトニック結晶は高反射率のミラー となっている.

次に微小共振器の作製方法について詳細を述べる.まず1枚の1次元フォトニック結

68 第5章 共振器ポラリトンの観測 晶鏡上にPIC J会合体を含むgelatineフィルムを作製した.gelatineフィルムの作製時 の条件は先述の薄膜の作製方法と同様の条件を用いている.1次元フォトニック結晶鏡上

にPIC J 会合体のgelatine薄膜を作製した後,別の1次元フォトニック結晶鏡を重ね,

図5.5の様なサンプル固定具によって2枚の1次元フォトニック結晶鏡を固定した.こ の固定具はネジによって2枚の 1次元フォトニック結晶鏡の平行度を調整できるように なっているため,干渉縞を観察しながら共振層をウェッジ状にした.本研究では,以上の ようにして作製したサンプルを用いて共振器ポラリトンの観測を行った.

5.2 PIC/gelatineを含む微小共振器中での共振器ポラリトン 69

5.2.2 測定方法

測定に用いた光学系を図5.6に示す.光源はハロゲンランプを用い,コリメーションレ ンズにより平行光線にした後,集光レンズでサンプル上に集光した.サンプルを透過した 光を再度平行光線にし,レンズにによって集光しマルチチャンネル分光光度計へ接続し た光ファイバーへ入射した.マルチチャンネル分光光度計はオーシャンオプティクス社

のUSB4000を用いた.図のサンプル位置にあるxステージをマイクロメーターを使って

100µmずつ移動させ,サンプルに対する光の入射位置を変化させながら透過スペクトル

の測定を行った.

この測定は図5.7に模式図を示すように入射光に対してサンプルの位置を変化させて,

それぞれ透過スペクトルの測定を行なっている.サンプルの共振層がウェッジ状になって いるため,サンプルへの光の入射位置を変化させることは共振層の膜厚を変化させること に対応する.つまり共振モードのエネルギーをシフトさせることが出来る[11, 35, 36].共 振モードのエネルギーは光の波数に対応するので,入射位置を変化させることは波数を変 化させることに対応する.したがって透過スペクトルの入射位置依存性を測定しその時の 透過ピークエネルギー,すなわち共振器ポラリトンのエネルギー状態を調べることによっ て共振器ポラリトンの分散関係を測定することが出来る.

Multi-channel spectrometer PC

Translation stage

5.6 透過スペクトル測定系

70 第5章 共振器ポラリトンの観測

Incident light

5.7 サンプルに対する光入射位置の関係

5.2 PIC/gelatineを含む微小共振器中での共振器ポラリトン 71

5.2.3 結果と考察

作製した微小共振器の様々な入射位置ごとでの透過スペクトルをまとめたものを図5.8 に示す.それぞれ入射位置が100µmずつ異なるときの透過スペクトルである.これらの 透過スペクトルは,約1.7eVから約 2.3eVのエネルギー帯でフォトニックバンドギャッ プが現れていることがわかる.1.8eV付近に共振モードが現れていることがわかる.これ は共振層の厚みがλ/2より厚く2つのモードを取りうるためである.この共振モードの 変化の様子を見ると,入射位置を変化させることによって共振モードが変化している様子 がわかる.

図5.9に1.8eV近傍の共振モードのエネルギーの入射位置依存性を示す.図の黒丸が測

定結果,実線が測定結果の回帰直線である.この時,相関係数が0.995でありきわめて強 い相関があることが分かる.つまり本研究で作製したサンプルは入射位置を変化させた場 合,共振層の厚みは入射位置に対して線形に変化していると考えて良いといえる.

また,2eV から2.2eVにかけて共振器ポラリトンに起因する透過ピークが現れている

ことがわかる.2.0eVから2.3eVの範囲を拡大したものを図5.10に示す.図5.10の破線

は,PIC J会合体の吸収ピークエネルギーを表している.共振モードがPIC J会合体の

吸収ピークに近づくにつれ新たなピークが出現して2つのモードが現れていることがわか る.更に入射位置を変化させることによって共振モードの分裂がシフトしている様子を観 測することが出来る.この共振モードの分裂は共振器ポラリトンの特徴的な透過スペクト

Position

1.6 1.8 2.0 2.2 2.4

Photon energy [eV]

T ransmittance

5.8 PIC J会合体を含む1次元フォトニック結晶微小共振器中での共振器ポラリト

ンの透過スペクトルの入射位置依存性:広帯域

72 第5章 共振器ポラリトンの観測

0 1 2

1.76 1.8 1.84 1.88

Incident position (mm)

Cavity mode energy (eV)

5.9 1.8eV近傍の共振モードのエネルギーの入射位置依存性

Position

2.0 2.1 2.2 2.3

Photon energy [eV]

T ransmittance

5.10 PIC J会合体を含む1次元フォトニック結晶微小共振器中での共振器ポラリ

トンの透過スペクトルの入射位置依存性:狭帯域

5.2 PIC/gelatineを含む微小共振器中での共振器ポラリトン 73

0 1 2

2.05 2.1 2.15 2.2

Incident position (mm)

Transmissionpeakenergy(eV)

5.11 PIC J会合体を含む1次元フォトニック結晶微小共振器中での共振器ポラリ

トンの分散関係

ルである.図 5.10の入射位置と,透過ピークエネルギーの関係をプロットしたものを図 5.11に示す.これは横軸の入射位置が前述したとおり入射光の波数に対応するためこの グラフは共振器ポラリトンの分散関係となる.上肢ポラリトンと下肢ポラリトンの2つに 分枝したポラリトン特有の分散関係を観測した.このことから有機色素J会合体を含む1 次元フォトニック結晶微小共振器中での共振器ポラリトンの観測に成功したと言える.共 振モードとJ会合体の吸収ピークが共鳴する時のエネルギーの分裂幅であるラビ分裂エネ

ルギーは49.2meVであった.これは,これまで共振器ポラリトンの研究で多く用いられ

てきたGaAs系の量子井戸の場合に比べて約1桁程度大きな値である [9].また,室温の エネルギーに比べ十分大きいため,室温での観測も可能であった.