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日本統計学会誌, 第44巻, 第2号, 251頁-270頁

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(1)

第 44 巻, 第 2 号, 2015 年 3 月 251 頁∼ 270 頁 特 集  

順序制約下の正規母平均列間の差に関する多重比較法について

今田 恒久

Multiple Comparison Procedures for Checking Differences among

Sequence of Normal Means with Ordered Restriction

Tsunehisa Imada

本稿では順序制約下にある正規母平均列間の差を見つけるための多重比較法を議論する.Lee and Spurrier (1995) は,この問題に対して隣り合う母平均間の差を同時検定するシングルステッ プ式多重比較法を提案した.Lee and Spurrier (1995) の方式に基づき,白石 (2014) は閉検定手 順に基づくステップダウン式多重比較法を構築し,道家他 (2006) は逐次棄却型ステップダウン 式多重比較法を構築した.本稿では,さらに,ステップアップ式多重比較法を提案する.以上 4 つの手法に対して指定した有意水準を満たす棄却限界値と検出力についての数値例を与え,手法 を比較する.

In this study we discuss multiple comparison procedures for checking differences among a sequence of normal means with ordered restriction. Lee and Spurrier (1995) proposed a single step multiple comparison procedure checking difference between adjacent two means. There exists two kinds of stepwise multiple comparison procedures developing Lee and Spurrier (1995). Shiraishi (2014) proposed a step down multiple comparison procedure based on closed testing procedure. Douke et al. (2006) proposed a sequentially rejective multiple comparison procedure. In this study we propose a step up multiple comparison procedure developing Lee and Spurrier (1995). We give numerical results regarding critical values for a specified significance level and power of the test intended to compare single step procedure and three kinds of stepwise procedures.

キーワード: 検出力,閉検定手順,ステップアップ法,ステップダウン法 1. K 個の独立な正規分布に従う確率変数 X1, X2, . . . , XK があり,Xk ∼ N(µk, σ2) (k = 1, 2, . . . , K) と仮定する.母平均列間に順序 µ1≤ µ2≤ · · · ≤ µK (1.1) 東海大学熊本教養教育センター:〒 862-8652 熊本市東区渡鹿 9 丁目 1-1 東海大学熊本校舎 (E-mail: timada@ktmail.tokai-u.jp).

(2)

を仮定し,µk < µk+1を満たす k を見つけたい.Lee and Spurrier (1995) は仮説 Hk,k+1: µk = µk+1 vs. Hk,k+1A : µk< µk+1. を設定し, H1,2, H2,3, . . . , HK−1,K に対するシングルステップ式の同時検定方式を構築 した.この多重比較法について述べる.母集団 N (µk, σ2) (k = 1, 2, . . . , K) からの標本 xk1, xk2, . . . , xknk に対して,Hk,k+1 を検定するための統計量は tk,k+1= ¯ xk+1− ¯xk √ 1 nk+1 + 1 nks とした.ただし, ¯ xk= 1 nk nki=1 xki, s = v u u t 1 φ Kk=1 nki=1 (xki− ¯xk)2, φ = Kk=1 nk− K. 対比較の棄却限界値 c を指定し,tk,k+1> c ならば Hk,k+1 を棄却し,そうでなければ保留 とした.c は指定した有意水準 α を満たすように決定する.

一方,白石 (2014) は,より検出力が高い手法を得るため,Lee and Spurrier (1995) の シングルステップ法に基づき,閉検定手順に基づくステップダウン式多重比較法を構築し た.また,道家他 (2006) は,Dunnett and Tamhane (1991) の研究を参考にして,仮説の

族 H1,2, H2,3, . . . , HK−1,K に対する逐次棄却型ステップダウン法を提案し,さらに検出力

を定式化している.

上述の先行研究に対し,本研究では,Dunnett and Tamhane (1992) の研究を参考にし

て仮説の族 H1,2, H2,3, . . . , HK−1,K に対するステップアップ式多重比較法を提案し,検出 力を定式化する.さらに先行研究である上述の 3 手法と合わせて数値例により手法の優劣 を比較する. 本稿の内容の構成は以下の通りとする.まず,第 2, 3, 4 節では,先行研究である Lee and Spurrier (1995) のシングルステップ法,白石 (2014) の閉検定手順に基づくステップダウン 式多重比較法,道家他 (2006) の逐次棄却型ステップダウン法について順次議論する.第 5 節では本研究で提案するステップアップ式多重比較法について議論する.第 6 節では,こ れら 4 手法に対して指定した有意水準を満たす棄却限界値と検出力の数値例を与え,手法 の特徴および優劣を比較する.最後に第 7 節では,問題点と今後の課題について触れる.

2. Lee and Spurrier (1995) のシングルステップ式多重比較法

本節では本研究の基本となる Lee and Spurrier (1995) のシングルステップ法について 議論する.

(3)

2.1 指定した有意水準を満たす棄却限界値の決定

Lee and Spurrier (1995) のシングルステップ法では H1,2, H2,3, . . . , HK−1,K のうち少な

くとも 1 つの仮説が棄却される確率は P (max{t1,2, t2,3, . . . , tK−1,K} > c) により与えられる.c は H1,2, H2,3, . . . , HK−1,K がすべて真であると仮定し,有意水準 α を指定して, P (max{t1,2, t2,3, . . . , tK−1,K} > c) = α (2.1) となるように決定する.(2.1) は P (t1,2≤ c, t2,3≤ c, . . . , tK−1,K ≤ c) = 1 − α (2.2) と同値である.(2.2) の左辺の確率を計算する方法を議論する.(t1,2, t2,3, . . . , tK−1,K) は相 関行列 Λ =               1 ρ1,2,3 0 · · · 0 0 ρ1,2,3 1 ρ2,3,4 · · · 0 0 0 ρ2,3,4 1 · · · 0 0 .. . ... ... . .. ... ... 0 0 0 · · · 1 ρK−2,K−1,K 0 0 0 · · · ρK−2,K−1,K 1               , 自由度 φ の多変量 t 分布に従う.ここで, ρk,k+1,k+2=nknk+2 (nk+ nk+1)(nk+1+ nk+2) . その確率密度関数は f (t1, t2, . . . , tK−1; Λ, φ) = Γ((K− 1 + φ)/2)) (φπ)(K−1)/2Γ(φ/2)|Λ|1/2 ( 1 + 1 φt 0Λ−1t)−(K−1+φ)/2 である.ただし,t = (t1, t2, . . . , tK−1)0.このとき, P (t1,2≤ c, t2,3≤ c, . . . , tK−1,K ≤ c) = ∫ c −∞c −∞· · ·c −∞ f (t1, t2, . . . , tK−1; Λ, φ)dt1dt2· · · dtK−1. (2.3) 2.2 検出力の定式化

次に Lee and Spurrier (1995) のシングルステップ法の検出力について議論する.1

i1< i2<· · · < ik ≤ K − 1 であるとして,

(4)

と仮定する.多重比較法の検出力の定義は一様ではないが,ここでは,差がある母平均の対を すべて検出する総対検出力に着目する.これは (2.4) の下で Hi1,i1+1, Hi2,i2+1, . . . , Hik,ik+1 が棄却される確率であるから,検出力は P (ti1,i1+1> c, ti2,i2+1 > c, . . . , tik,ik+1> c) (2.5) により与えられる.検出力を実際に計算するため,母平均間の差の値を指定し,(2.4) を改 めて以下のように表す. µij+1− µij = ηij > 0 (j = 1, 2, . . . , k), µl= µl+1 (l6= i1, i2, . . . , ik). (2.6) (2.6) の下での (2.5) の計算方法を議論する.この場合,ti1,i1+1, ti2,i2+1, . . . , tik,ik+1 の同時 確率分布の決定は困難であるため,別の計算方法を考える. t0,ij,ij+1= ¯ xij+1− ¯xij √ 1 nij +1 + 1 nijσ (j = 1, 2, . . . , k), s0= s σ とおくと, tij,ij+1= t0,ij,ij+1 s0 (j = 1, 2, . . . , k) であり, P (ti1,i1+1> c, ti2,i2+1 > c, . . . , tik,ik+1> c)

= P (t0,i1,i1+1> cs0, t0,i2,i2+1 > cs0, . . . , t0,ik,ik+1> cs0)

を得る.このとき,(t0,i1,i1+1, t0,i2,i2+1, . . . , t0,ik,ik+1)0は k 変量正規分布 Nk(δ, Λ1) に従う.

ただし, δ =  √ ηi1 1 ni1+1 + 1 ni1σ ,ηi2 1 ni2+1 + 1 ni2σ , . . . ,ηik 1 nik+1 + 1 nikσ   0 , Λ1は Λ の部分行列として定まる.f1(t1, t2, . . . , tk; δ, Λ1) を Nk(δ, Λ1) の確率密度関数と すると,s0 の値が与えられた条件の下で,

P (t0,i1,i1+1> cs0, t0,i2,i2+1> cs0, . . . , t0,ik,ik+1> cs0|s0)

= ∫ cs0 ∫ cs0 · · · cs0 f1(t1, t2, . . . , tk; δ, Λ1)dt1dt2· · · dtk を得る.一方,φs2 0 は自由度 φ の χ2 分布に従い,s0 の確率密度関数は g(s0) = φφ/2 2(φ−2)/2Γ[φ/2]s φ−1 0 exp [ −φs20 2 ] により与えられる.従って,検出力は以下のように表される. P (ti1,i1+1> c, ti2,i2+1 > c, . . . , tik,ik+1> c)

(5)

= ∫ 0 g(s0) {∫ cs0 ∫ cs0 · · · cs0 f1(t1, t2, . . . , tk; δ, Λ1)dt1dt2· · · dtk } ds0. (2.7) (2.6) の下で実際に検出力を計算する場合,δ は σ の値に依存するため,検出力の計算に おいて未知である σ の値を指定する必要がある. 3. 閉検定手順に基づくステップダウン式多重比較法

白石 (2014) は,より検出力が高い手法を得るため,Lee and Spurrier (1995) のシングル ステップ法に基づき,閉検定手順に基づくステップダウン式多重比較法を構築した.

H1,2, H2,3, . . ., HK−1,K のうち,あらゆる複数個の仮説の積集合,および H1,2, H2,3,

. . ., HK−1,K から構成される仮説の族 F は閉じている.F に含まれる各仮説の表示につ

いて考える.I は集合 {1, 2, . . . , K − 1} の部分集合で,連続した 2 個以上の自然数で構

成されるとする.I ={i, i + 1, . . . , j} とするとき,HI : µi = µi+1=· · · = µj とおくと,

F に含まれる各仮説は単一の HI,あるいは,複数個の互いに素な I1, I2, . . . , Ik に対して

HI1∩ HI2∩ · · · ∩ HIk と一意的に表される.

仮説の族 F に対する閉検定手順に基づくステップダウン式多重比較法を構築するにあた

り,まず,F に含まれる各仮説に対する検定方式を構築する.仮説 HI : µi= µi+1=· · · = µj

の検定では tI = max{ti,i+1, ti+1,i+2, . . . , tj−1,j} とおき,

P (tI > cI) = α, すなわち, P (tI ≤ cI) = P (ti,i+1 ≤ cI, ti+1,i+2≤ cI, . . . , tj−1,j≤ cI) = 1− α (3.1) を満たすように棄却限界値 cI を決定し,tI > cI ならば HI を棄却し,そうでなければ保 留とする.(3.1) の左辺は (2.3) と同様に j− i 変量 t 分布の確率密度関数を被積分関数と した多重積分として表される. 次に,仮説 HI1 ∩ HI2 ∩ · · · ∩ HIk の検定について議論する.この場合,まず各仮説

HIl (l = 1, 2, . . . , k) に対する検定方式を構築する.](I1), ](I2), . . . , ](Ik) は,それぞれ集

合 I1, I2, . . . , Ik の要素の個数を表すとする.このとき,M = ](I1) + ](I2) +· · · + ](Ik) と

して P (tIl > cIl,M) = 1− (1 − α) ](Il)/M を満たすように棄却限界値 cIl,M を決定し,tIl > cIl,M ならば HIl を棄却し,そうでなけ れば保留とする.HI1∩ HI2∩ · · · ∩ HIk の検定では,HI1, HI2, . . . , HIk 各々の検定により, HI1, HI2, . . . , HIk のうち少なくとも一つの仮説が棄却されるときに HI1∩ HI2∩ · · · ∩ HIk を棄却し,そうでなければ保留とする.この方式では,白石 (2014) で示されているように

(6)

HI1∩ HI2∩ · · · ∩ HIk が正しいときに誤って棄却される確率は α 以下となる.以上より族

F の各仮説に対して有意水準 α を満たす検定方式が決定された.

以上の取り決めに基づき,族 F に対する閉検定手順に基づくステップダウン式多重比 較法では F に含まれる各仮説に対して,その仮説を誘導するすべての仮説が棄却され,さ らに,その仮説自身が棄却されるとき,その仮説を棄却することにする.この多重比較法 の最大タイプ I FWE (familywise error rate) は α 以下となる.このことの証明は例えば, 永田・吉田 (1997) の第 7 章で与えられている. この多重比較法に対し,(2.6) の下での検出力を定式化することは困難であり,その計算 にはモンテカルロ・シミュレーションが用いられる.付録において,K = 3, 4 の場合に, 対立仮説を指定したとき,ステップダウン法において族 F の中で棄却されるべき仮説を与 える.  4. 逐次棄却型ステップダウン法

道家他 (2006) は,Dunnett and Tamhane (1991) の研究を参考にして仮説の族 H1,2, H2,3,

. . . , HK−1,K に対する逐次棄却型ステップダウン法を構築している.さらに,Dunnett et al. (2001) の研究を参考にして検出力を定式化している. 4.1 検定方式の構築 標本より統計量 t1,2, t2,3, . . . , tK−1,K を計算し,大きさ順に並べたものを t(1)≤ t(2)≤ · · · ≤ t(K−1) (4.1) と表す.t(1), t(2), . . . , t(K−1)に対応する仮説を H(1), H(2), . . . , H(K−1)と表す. 逐次棄却型ステップダウン法は最大 K− 1 回検定を行う.c1< c2<· · · < cK−1 を満た す各段階の棄却限界値 c1, c2, . . . , cK−1 を指定して以下のように検定を実行する. Step 1. Case 1. t(K−1)≤ cK−1ならば, H1,2, H2,3, . . . , HK−1,K をすべて保留として検定を終了す る. Case 2. t(K−1)> cK−1 ならば, H(K−1) を棄却して Step 2 へ進む. Step 2. Case 1. t(K−2)≤ cK−2ならば, H(1), H(2), . . . , H(K−2) をすべて保留として検定を終了す る. Case 2. t(K−2)> cK−2 ならば, H(K−2) を棄却して Step 3 へ進む. 以下同様にして最大 Step K−1 まで検定を続ける.各段階の棄却限界値 c1, c2, . . . , cK−1 の決定について議論する.cK−1は第 2 節で求めたシングルステップ法の棄却限界値とし,

(7)

c1 は自由度 φ の t 分布の上側 α 点として定める.2≤ k ≤ K − 2 であるときの ck は,

t1,2, t2,3, . . . , tK−1,K より任意に選んだ k 個の ti1,i1+1, ti2,i2+1, . . . , tik,ik+1 に対して

P (max{ti1,i1+1, ti2,i2+1, . . . , tik,ik+1} > ck)≤ α (4.2)

を満たすように決定する.ck は (4.2) を満たすものの中で最小のものを選ぶ.

このような逐次棄却型ステップダウン法の最大タイプ IFWE は α 以下となる.このこ との証明は,例えば Imada and Douke (2007) で与えられている.

4.2 検出力の定式化

次に,(2.6) の下での検出力を定式化する.まず,Hayter and Tamhane (1991),Dunnett

et al. (2001) が用いた記号を導入する.これは本節と次節で用いる.一般に,l(≥ 2) 個の 統計量 w1, w2, . . . , wlと順序関係にある棄却限界値 c1< c2<· · · < cl に対し,標本より計 算した w1, w2, . . . , wl を大きさ順に並べて w(1) < w(2)<· · · < w(l) となったとき, c1< w(1), c2< w(2), . . . , cl< w(l) となるならば, (w1, w2, . . . , wl) >∗(c1, c2, . . . , cl) (4.3) と表し, w(1) ≤ c1, w(2) ≤ c2, . . . , w(l)≤ cl となるならば, (w1, w2, . . . , wl)≤∗(c1, c2, . . . , cl) (4.4)

と表す.Hayter and Tamhane (1991),Dunnett et al. (2001) で記述されているように, 事象 (4.3),(4.4) は帰納的に複数個の互いに排反な事象に分割される.両者に対し,その 過程は同様であるので,(4.3) に対して分解される過程を説明する.(4.3) の下では,wlの 取り得る値は wl> cl, cl> wl> cl−1, cl−1> wl> cl−2, . . . , c2> wl> c1 の l 通りである.これに応じて,残りの w1, w2, . . . , wl−1 が満たす条件は以下のように定 まる. wl> cl ⇒ (w1, w2, . . . , wl−1) >∗(c1, c2, . . . , cl−1), cl> wl> cl−1 ⇒ (w1, w2, . . . , wl−1) >∗(c1, c2, . . . , cl−2, cl), cl−1> wl> cl−2 ⇒ (w1, w2, . . . , wl−1) >∗(c1, c2, . . . , cl−3, cl−1, cl), .. . c2> wl> c1 ⇒ (w1, w2, . . . , wl−1) >∗(c2, c3, . . . , cl).

(8)

このように細分された各事象は同じ手順により,さらに細分され,最終的には各事象にお いて w1, w2, . . . , wlのすべての値の範囲が決定される. ステップダウン法では,m (1≤ m ≤ K − 1) 個の仮説 Hj1,j1+1, Hj2,j2+1, . . . , Hjm,jm+1が Step m までに棄却され,Step m + 1 で他の仮説がすべて保留となるのは, (tj1,j1+1, tj2,j2+1, . . . , tjm,jm+1) >∗(cK−m, cK−m+1, . . . , cK−1) かつ tl,l+1≤ cK−m−1 (l6= j1, j2, . . . , jm) が成立する場合である. ステップダウン法での検出力は (2.6) の下で,Step K− 1 までに Hi1,i1+1, Hi2,i2+1, . . ., Hik,ik+1 がすべて棄却される確率で定義される.k = K− 1 であれば,検出力は P ((t1,2, t2,3, . . . , tK−1,K) >∗(c1, c2, . . . , cK−1)) である.次に k < K−1 の場合を考える.Step K −1 までに Hi1,i1+1, Hi2,i2+1, . . ., Hik,ik+1 が棄却されるとき,他の K− 1 − k 個の仮説 Hj,j+1 (j 6= i1, i2, . . . , ik) の中からも誤って 棄却され得る.すなわち,Hi1,i1+1, Hi2,i2+1, . . . , Hik,ik+1 が棄却されると共に E0 : Hj,j+1 (j6= i1, i2, . . . , ik) はいずれも保留となる. E1 : Hj,j+1 (j6= i1, i2, . . . , ik) のうち,1 つだけ棄却される. E2 : Hj,j+1 (j6= i1, i2, . . . , ik) のうち,2 つだけ棄却される. E3 : Hj,j+1 (j6= i1, i2, . . . , ik) のうち,3 つだけ棄却される.        ... EK−1−k : Hj,j+1 (j6= i1, i2, . . . , ik) はすべて棄却される. のいずれかの場合となるが,これらの事象は互いに排反する.まず,E0では,Step k までに Hi1,i1+1, Hi2,i2+1, . . . , Hik,ik+1が棄却され,Step k + 1 で他の仮説 Hj,j+1(j6= i1, i2, . . . , ik) がすべて保留となるから,E0 が生ずる確率は P ((ti1,i1+1, ti2,i2+1, . . . , tik,ik+1) >∗(cK−k, cK−k+1, . . . , cK−1), tj,j+1≤ cK−k−1(j6= i1, i2, . . . , ik)) である.E1では,Step k + 1 までに Hi1,i1+1, Hi2,i2+1, . . . , Hik,ik+1,および他の K− 1 − k 個の仮説 Hj,j+1 (j6= i1, i2, . . . , ik) の中の一つが棄却され,Step k + 2 目で残りの仮説は すべて保留となる.このとき,K− 1 − k 個の Hj,j+1 (j6= i1, i2, . . . , ik) のいずれが棄却 されるかにより E1 はさらに K− 1 − k 個の排反な事象に分割する.よって,E1が起こる 確率は以下のような K− 1 − k 個の確率の和により与えられる.

(9)

l6=i1,i2,...,ik P ((ti1,i1+1, ti2,i2+1, . . . , tik,ik+1, tl,l+1) > (c K−k−1, cK−k, . . . , cK−1), tj,j+1≤ cK−k−2(j6= i1, i2, . . . , ik, l)). 他の事象 E2, E3, . . . , EK−m−1が生ずる確率も同様にして決定される.よって,ステップダ ウン法の検出力は, P ((ti1,i1+1, ti2,i2+1, . . . , tik,ik+1) > (c K−k, cK−k+1, . . . , cK−1), tj,j+1≤ cK−k−1(j6= i1, i2, . . . , ik)) + ∑ l6=i1,i2,...,ik P ((ti1,i1+1, ti2,i2+1, . . . , tik,ik+1, tl,l+1) >∗(cK−k−1, cK−k, . . . , cK−1), tj,j+1≤ cK−k−2(j6= i1, i2, . . . , ik, l)) + ∑ l1,l26=i1,i2,...,ik P ((ti1,i1+1, ti2,i2+1, . . . , tik,ik+1, tl1,l1+1, tl2,l2+1) >∗(cK−k−2, cK−k−1, . . . , cK−1), tj,j+1 ≤ cK−k−3(j6= i1, i2, . . . , ik, l1, l2)) + ∑ l1,l2,l36=i1,i2,...,ik P ((ti1,i1+1, ti2,i2+1, . . . , tik,ik+1, tl1,l1+1, tl2,l2+1, tl3,l3+1) >∗(cK−k−3, cK−k−2, . . . , cK−1), tj,j+1≤ cK−k−4(j6= i1, i2, . . . , ik, l1, l2, l3)) +· · · + P ((t1,2, t2,3, . . . , tK−1,K) >∗(c1, c2, . . . , cK−1)). (4.5) これらの和におけるそれぞれの確率は上述のように帰納的にさらに複数個の確率の和に細 分される.最終的に得られた和において各確率は (2.7) の導出と同様な手順により多重積 分として表される. 付録において,K = 3, 4 の場合に検出力の細分化された確率和としての表示を与える. 5. ステップアップ法

この節では,Dunnett and Tamhane (1992) の研究を参考にして仮説の族 H1,2, H2,3, . . .,

HK−1,K に対するステップアップ法を構築する.さらに,検出力を定式化する. 5.1 検定方式の構築 標本より統計量 t1,2, t2,3, . . . , tK−1,K を計算し,大きさ順に並べたものを (4.1) のように 表し,t(1), t(2), . . . , t(K−1)に対応する仮説を H(1), H(2), . . ., H(K−1)と表す. ステップアップ法は最大 K− 1 回検定を行う.c1< c2<· · · < cK−1を満たす各段階の 棄却限界値 c1, c2, . . . , cK−1 を指定して以下のように検定を実行する.

(10)

Step 1. Case 1. t(1)> c1 ならば, H1,2, H2,3, . . . , HK−1,K をすべて棄却して検定を終了する. Case 2. t(1)≤ c1 ならば, H(1) を保留として Step 2 へ進む. Step 2. Case 1. t(2)> c2 ならば, H(2), H(3), . . . , H(K−1)をすべて棄却して検定を終了する. Case 2. t(2)≤ c2 ならば, H(2) を保留として Step 3 へ進む. 以下同様にして最大 Step K− 1 まで検定を続ける.各段階の棄却限界値 c1, c2,. . ., cK−1 は制約条件 c1< c2<· · · < cK−1 の下で以下の通りに逐次決定される.c1 は自由度 φ の t 分布の上側 α 点として定める. 次に,t1,2, t2,3, . . . , tK−1,K より任意に選んだ 2 個の ti1,i1+1, ti2,i2+1 に対して 2 つの条件 P ((ti1,i1+1, ti2,i2+1)≤∗(c1, c2))≥ 1 − α, c1< c2 (5.1) を満たすように c2を決定する.c2 は (5.1) を満たすものの中で最小のものを選ぶ.このよ うな条件を満たす c2 が存在することは証明可能である.証明は,類似した状況において,

Imada and Douke (2008) により与えられている.

次に t1,2, t2,3, . . . , tK−1,K より任意に選んだ 3 個の ti1,i1+1, ti2,i2+1, ti3,i3+1 に対して 2 つ の条件 P ((ti1,i1+1, ti2,i2+1, ti3,i3+1)≤∗(c1, c2, c3))≥ 1 − α, c1< c2< c3 (5.2) を満たすように c3 を決定する.c3 は (5.2) を満たすものの中で最小のものを選ぶ.しか し,c3が存在することは理論的に証明されない.よって,t1,2, t2,3, . . . , tK−1,K より任意に 選んだ k 個の ti1,i1+1, ti2,i2+1, . . . , tik,ik+1 に対して P ((ti1,i1+1, ti2,i2+1, . . . , tik,ik+1) (c 1, c2, . . . , ck))≤ α, c1< c2<· · · < ck を満たす c1, c2, . . . , ck は k = 2 のときしか存在することが理論的に証明されない.しか し,第 6 節では K = 3, 4, 5 の場合に条件を満たす各段階の棄却限界値が数値計算により得 られている. c1, c2, . . . , cK−1が決定された場合,ステップアップ法の最大タイプ IFWE は α 以下と

なる.このことの証明は,Imada and Douke (2008) で与えられている.

5.2 検出力の定式化

次に,(2.6) の下での検出力を定式化する.ステップアップ法での検出力は (2.6) の下 で,最終段階までに Hi1,i1+1, Hi2,i2+1, . . ., Hik,ik+1がすべて棄却される確率で定義される.

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k = K− 1 であれば,検出力は P (min(t1,2, t2,3, . . . , tK−1,K) > c1) である.次に k < K− 1 の場合を考える.Hi1,i1+1, Hi2,i2+1, . . ., Hik,ik+1が Step K− 1 ま でに棄却されるとき,他の仮説 Hj,j+1 (j6= i1, i2, . . . , ik) もまた棄却され得るため,4.2 節 で導入した互いに排反な事象 E0,E1,E2,. . . ,EK−k−1が生じ得る.一般に Hj1,j1+1, Hj2,j2+1, . . ., Hjm,jm+1が保留となり,他の仮説が棄却されるならば,Hj1,j1+1, Hj2,j2+1, . . . , Hjm,jm+1 は Step m までに保留となり,他の仮説は Step m + 1 で棄却される.よって,このことは (tj1,j1+1, tj2,j2+1, . . . , tjm,jm+1) (c 1, c2, . . . , cm) および min l6=j1,j2,...,jm tl,l+1> cm+1 と表される.それゆえ,(2.6) の下での検出力は以下の式により与えられる.ここで,j1, j2, . . ., jK−k−1は 1, 2, . . . , K− 1 から i1, i2, . . . , ik を除いた整数を表す. P ((tj1,j1+1, tj2,j2+1, . . . , tjK−k−1,jK−k−1+1)≤∗(c1, c2, . . . , cK−k−1), min(ti1,i1+1, ti2,i2+1, . . . , tik,ik+1) > cK−k) + K−k−1 l=1 P ((tj1,j1+1, tj2,j2+1, . . . , ˇtjl,jl+1, . . . , tjK−k−1,jK−k−1+1)≤∗(c1, c2, . . . , cK−k−2), min(ti1,i1+1, ti2,i2+1, . . . , tik,ik+1, tjl,jl+1) > cK−k−1) + ∑ 1≤l1<l2≤K−k−1 P ((tj1,j1+1, tj2,j2+1, . . . , ˇtjl1,jl1+1, . . . , ˇtjl2,jl2+1, . . . , tjK−k−1,jK−k−1+1) ≤∗(c1, c2, . . . , cK−k−3), min(ti1,i1+1, ti2,i2+1, . . . , tik,ik+1, tjl1,jl1+1, tjl2,jl2+1) > cK−k−2) +· · · · · · · + P (min(t1,2, t2,3, . . . , tK−1,K) > c1). (5.3) ここで,記法 ˇtjl,jl+1は tjl,jl+1を省くことを意味する. これらの和におけるそれぞれの確率は帰納的にさらに複数個の確率の和に細分される. 最終的に得られた和において各確率は (2.7) の導出と同様な手順により多重積分として表 される. 付録において,K = 3, 4 の場合に検出力の細分化された確率和としての表示を与える.

(12)

6. 数値例

順序制約下の母平均列間の差を見つけることを目的として Lee and Spurrier (1995) が 提案したシングルステップ法,白石 (2014) が提案した閉検定手順に基づくステップダウン 法,道家他 (2006) が提案した逐次棄却型ステップダウン式多重比較法を議論し,新たに, ステップアップ式多重比較法を構築し,検出力を定式化した.ここでは,これら 4 手法に 対して,指定した有意水準を満たす棄却限界値と検出力についての数値例を与え,比較す る.ここで,各手法の略記号を定義する.SS はシングルステップ法,CT は閉検定手順に 基づくステップダウン法,SD は逐次棄却型ステップダウン法,SU はステップアップ法を 表すことにする. K = 3, 4, 5 とする.4 手法の比較が主な目的であるため,ここでは各母集団に対して 平衡な標本数 n = 15, 30 を設定する.また,有意水準は常に α = 0.05 とする.表 1 は K = 3, 4, 5 の場合の SS の棄却限界値を与えている. 表 1 SS の棄却限界値. K 3 4 5 n = 15 2.018 2.179 2.286 n = 30 1.988 2.152 2.261 表 2, 3, 4 は K = 3, 4, 5 の場合の CT の各仮説の棄却限界値を与えている.ここで, I = {i, i + 1, . . . , j} であるとき,第 3 節で定義した HI を Hi,j と表す.表 4 において, H1,3∩ H4,5, H1,2∩ H3,5 の検定では,n = 15 のとき仮説 H1,3, H3,5 に対して限界値 2.211 を用い,H4,5, H1,2 に対して限界値 2.087 を用いる.n = 30 の場合も同様である.また, 表 5 は SD の K = 3, 4, 5 に対する各段階の棄却限界値を与え,表 6 は SU の K = 3, 4, 5 に対する各段階の棄却限界値を与えている. 表 2 CT の各仮説の棄却限界値 (K = 3). n = 15 n = 30 H1,3 2.018 1.988 H1,2, H2,3 1.682 1.663 表 3 CT の各仮説の棄却限界値 (K = 4). n = 15 n = 30 H1,4 2.179 2.152 H1,3, H2,4 2.004 1.981 H1,2∩ H3,4 1.998 1.976 H1,2, H2,3, H3,4 1.673 1.659

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表 4 CT の各仮説の棄却限界値 (K = 5). n = 15 n = 30 H1,5 2.286 2.261 H1,4, H2,5 2.168 2.146 H1,3∩ H4,5, H1,2∩ H3,5 2.211 , 2.087 2.188, 2.066 H1,3, H2,4, H3,5 1.995 1.977 H1,2∩ H3,4, H1,2∩ H4,5, H2,3∩ H4,5 1.989 1.971 H1,2, H2,3, H3,4, H4,5 1.667 1.656 表 5 SD の各段階の棄却限界値. K 3 4 5 n = 15 n = 30 n = 15 n = 30 n = 15 n = 30 c1 1.682 1.663 1.673 1.659 1.667 1.656 c2 2.018 1.988 2.004 1.981 1.995 1.977 c3 — — 2.179 2.152 2.168 2.146 c4 — — — — 2.286 2.261 表 6 SU の各段階の棄却限界値. K 3 4 5 n = 15 n = 30 n = 15 n = 30 n = 15 n = 30 c1 1.682 1.663 1.673 1.659 1.667 1.656 c2 2.019 1.988 2.004 1.981 1.995 1.977 c3 — — 2.180 2.152 2.169 2.147 c4 — — — — 2.287 2.262 得られた棄却限界値に基づき,4 手法の検出力の数値例を与え,比較する.K = 3 の場合は母 平均列の配置を (µ1, µ2, µ3) = (0, η, 2η),(0, η, η) の 2 通り,K = 4 の場合は (µ1, µ2, µ3, µ4) = (0, η, 2η, 3η),(0, η, 2η, 2η),(0, η, η, η) の 3 通り,K = 5 の場合は (µ1, µ2, µ3, µ4, µ5) = (0, η, 2η, 3η, 4η),(0, η, 2η, 3η, 3η),(0, η, 2η, 2η, 2η),(0, η, η, η, η) の 4 通りを設定する.すな わち,列間の差の個数が最大であるものから,最小の 1 個であるものまで設定する.ただ し,η = 0.5, 1.0 とする.また,σ = 1 とする.SS,SD,SU の検出力は,それぞれ式 (2.7), (4.5),(5.3) を用いて計算する.一方,CT の検出力は定式化されないため,モンテカルロ・ シミュレーションにより求める.この場合の繰り返し数は 1,000,000 とする.列間の差の 個数が 1 個の場合,4 手法の検出力はほぼ同じ値である.それ以外の場合,4 手法の検出 力がいずれも 0 に近い場合を除くと,CT,SD,SU の 3 手法は SS よりも検出力が高い. CT,SD,SU の 3 手法に対する母平均列の配置の変化に伴う検出力の変化の様相は同様で あり,各配置に対して顕著な検出力の差はない.しかし,差の個数が最大の場合は SU の

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検出力が最も高い.SS の検出力は母平均列間の差の個数が少なくなるに従い,高くなる. すなわち,例えば,K = 5 であれば,母平均列の配置が (0, η, 2η, 3η, 4η) から (0, η, η, η, η) へ変化し,差の個数が少なくなるに従い,検出力が高くなる.η = 0.5 の場合,CT,SD, SU の 3 手法共に SS と同様に検出力は母平均列間の差の個数が少なくなるに従い,高く なるが,η = 1.0 の場合は CT,SD,SU の 3 手法と SS とは検出力の変化の様相が異な る.例えば,K = 5 であれば,CT,SD,SU の 3 手法は SS とは異なり,(0, η, 2η, 3η, 4η) の場合と比べて (0, η, 2η, 3η, 3η) の場合の検出力の方が低い. 表 7 検出力 K = 3, n = 15. 1, µ2, µ3) SS CT SD SU η = 0.5 (0, η, 2η) 0.028 0.068 0.068 0.081 (0, η, η) 0.267 0.268 0.268 0.269 η = 1.0 (0, η, 2η) 0.546 0.704 0.706 0.711 (0, η, η) 0.763 0.766 0.766 0.770 表 8 検出力 K = 3, n = 30. 1, µ2, µ3) SS CT SD SU η = 0.5 (0, η, 2η) 0.155 0.281 0.281 0.299 (0, η, η) 0.482 0.483 0.484 0.487 η = 1.0 (0, η, 2η) 0.938 0.972 0.972 0.972 (0, η, η) 0.969 0.971 0.971 0.973 表 9 検出力 K = 4, n = 15. 1, µ2, µ3, µ4) SS CT SD SU η = 0.5 (0, η, 2η, 3η) 0.001 0.006 0.006 0.011 (0, η, 2η, 2η) 0.015 0.026 0.026 0.028 (0, η, η, η) 0.217 0.217 0.218 0.218 η = 1.0 (0, η, 2η, 3η) 0.290 0.579 0.578 0.596 (0, η, 2η, 2η) 0.458 0.555 0.553 0.561 (0, η, η, η) 0.712 0.713 0.714 0.714 表 10 検出力 K = 4, n = 30. 1, µ2, µ3, µ4) SS CT SD SU η = 0.5 (0, η, 2η, 3η) 0.017 0.102 0.102 0.133 (0, η, 2η, 2η) 0.100 0.152 0.151 0.158 (0, η, η, η) 0.417 0.420 0.418 0.420 η = 1.0 (0, η, 2η, 3η) 0.871 0.959 0.959 0.959 (0, η, 2η, 2η) 0.913 0.942 0.942 0.944 (0, η, η, η) 0.956 0.958 0.957 0.958

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表 11 検出力 K = 5, n = 15. 1, µ2, µ3, µ4, µ5) SS CT SD SU η = 0.5 (0, η, 2η, 3η, 4η) 0.000 0.000 0.000 0.001 (0, η, 2η, 3η, 3η) 0.000 0.001 0.001 0.001 (0, η, 2η, 2η, 2η) 0.009 0.016 0.014 0.014 (0, η, η, η, η) 0.186 0.187 0.188 0.187 η = 1.0 (0, η, 2η, 3η, 4η) 0.133 0.468 0.467 0.501 (0, η, 2η, 3η, 3η) 0.229 0.396 0.393 0.408 (0, η, 2η, 2η, 2η) 0.399 0.485 0.463 0.466 (0, η, η, η, η) 0.675 0.677 0.676 0.675 表 12 検出力 K = 5, n = 30. 1, µ2, µ3, µ4, µ5) SS CT SD SU η = 0.5 (0, η, 2η, 3η, 4η) 0.001 0.028 0.028 0.057 (0, η, 2η, 3η, 3η) 0.009 0.034 0.033 0.040 (0, η, 2η, 2η, 2η) 0.072 0.110 0.100 0.103 (0, η, η, η, η) 0.375 0.376 0.376 0.377 η = 1.0 (0, η, 2η, 3η, 4η) 0.791 0.945 0.945 0.946 (0, η, 2η, 3η, 3η) 0.839 0.915 0.915 0.916 (0, η, 2η, 2η, 2η) 0.891 0.923 0.915 0.916 (0, η, η, η, η) 0.945 0.947 0.946 0.947 7. 結び

本稿では順序制約下の正規母平均列間の差に関する多重比較に対して,Lee and Spurrier (1995) のシングルステップ法と,白石 (2014) が提案した閉検定手順に基づくステップダ ウン法,道家他 (2006) が提案した逐次棄却型ステップダウン法,新たに提案するステップ アップ法を議論した上で,数値例により比較した.4 手法の検出力がほぼ同じ値になる場 合もあったが,シングルステップ法に比べて,3 種のステップワイズ法は検出力が高い.ま た,3 種のステップワイズ法は母平均列の値の各配置に対して検出力の値の差は顕著では なかった.以上よりシングルステップ法に比べて,ステップワイズ法は有効な手法であり, 3 種のステップワイズ法間の手法の優劣は顕著でないことが結論付けられる.ただし,シ ングルステップ法に比べて,ステップワイズ法の指定した有意水準を満たす各段階の棄却 限界値を決定することは複雑さを伴う.本稿ではステップワイズ法の指定した有意水準を 満たす棄却限界値と検出力の数値例は母集団の個数が最大 5 の場合までしか与えていない が,Liu et al. (2000) は Lee and Spurrier (1995) のシングルステップ法に対して高次の場 合の有意確率を計算するための漸化式を導出し,母集団の個数が多い場合(10 個まで)の 指定した有意水準を満たす棄却限界値の数値例を与えている.ステップワイズ法に対して

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も母集団の個数が多い場合の各段階の棄却限界値と検出力の数値例を与えることは今後の 課題である.

本稿では,Lee and Spurrier (1995) のシングルステップ法を基本に用いたが,順序制約 下の正規母平均列間の差に関する多重比較法では他に Hayter (1990) が提案したシングル ステップ法があり,白石 (2014) は,このシングルステップ法に対しても,閉検定手順に基 づくステップダウン式多重比較法へ発展させている.同様に,逐次棄却型ステップダウン 法,ステップアップ法へ発展させることも今後の課題である. 謝辞 稿を終わるに当たり本研究に関して貴重なご意見をいただきました査読者および編集委員 の先生方に深く感謝の意を表します. 付録 ここでは,第 3 節,第 4 節,第 5 節で議論した 3 種類のステップワイズ法について K = 3, 4 の場合に補足の例を与える. 付録 1.閉検定手順に基づくステップダウン式多重比較法について 第 3 節で議論した閉検定手順に基づくステップダウン式多重比較法の検出力はモンテカ ルロ・シミュレーションにより計算される.指定した対立仮説の下で棄却される仮説を列 挙する. K = 3 とすると,F ={H1,3, H1,2, H2,3}.以下の 2 通りの場合の検出力を考える. Case 1. µ2− µ1= η1> 0, µ3− µ2 = η2> 0 この場合の検出力は族のすべての仮説が棄却される確率である. Case 2. µ2− µ1= η1> 0, µ3− µ2 = 0 この場合の検出力は H1,3, H1,2 が棄却される確率である. K = 4 とすると,F ={H1,4, H1,3, H2,4, H1,2∩ H3,4, H1,2, H2,3, H3,4}.以下の 3 通りの 場合の検出力を考える. Case 1. µ2− µ1= η1> 0, µ3− µ2 = η2> 0, µ4− µ3= η3> 0 この場合の検出力は族のすべての仮説が棄却される確率である. Case 2. µ2− µ1= η1> 0, µ3− µ2 = η2> 0, µ4− µ3= 0 この場合の検出力は H1,4, H1,3, H2,4, H1,2∩ H3,4, H1,2, H2,3

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が棄却される確率である. Case 3. µ2− µ1= η1> 0, µ3− µ2 = 0, µ4− µ3= 0 この場合の検出力は H1,4, H1,3, H1,2∩ H3,4, H1,2 が棄却される確率である. 付録 2.逐次棄却型ステップダウン式多重比較法について 次にステップダウン法の検出力について,まず,K = 3 として以下の 2 通りの場合の検 出力の定式化を与える. Case 1. µ2− µ1= η1> 0, µ3− µ2 = η2> 0 P ((t1,2, t2,3) >∗(c1, c2)) = P (t1,2> c2, t2,3> c1) + P (c2> t1,2> c1, t2,3> c2) = ∫ 0 g(s0) {∫ c2s0 ∫ c1s0 f1(t1, t2; δ1, Λ)dt1dt2 } ds0 + ∫ 0 g(s0) {∫ c2s0 c1s0 ∫ c2s0 f1(t1, t2; δ1, Λ)dt1dt2 } ds0. ここで, δ1=   η1 √ 1 n2+ 1 n1σ ,η2 1 n3 + 1 n2σ   0 . Case 2. µ2− µ1= η1> 0, µ3− µ2 = 0 P (t1,2> c2, t2,3≤ c1) + P ((t1,2, t2,3) >∗(c1, c2)) = P (t1,2> c2, t2,3≤ c1) + P (t1,2> c2, t2,3> c1) + P (c2 > t1,2> c1, t2,3> c2) = P (t1,2> c2) + P (c2> t1,2> c1, t2,3> c2) = ∫ c2 g(t; λ2, φ)dt + 0 g(s0) {∫ c2s0 c1s0 ∫ c2s0 f1(t1, t2; δ2, Λ, φ)dt1dt2 } ds0. ここで, δ2=   η1 1 n2 + 1 n1σ , 0   0 . また,g(t; λ2, φ) は自由度 φ,非心度 λ2= η1/1/n2+ 1/n1σ の非心 t 分布の確率密度関 数である. 次に,K = 4 として以下の 3 通りの場合の検出力の定式化を与える.最終的に複数個の 確率の和として表されたとき,各確率は K = 3 の場合と同様な多重積分として表される

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が,その表示は省略する. Case 1. µ2− µ1= η1> 0, µ3− µ2 = η2> 0, µ4− µ3= η3> 0 P ((t1,2, t2,3, t3,4) >∗(c1, c2, c3)) = P (t1,2> c3, (t2,3, t3,4) >∗(c1, c2)) + P (c3> t1,2> c2, (t2,3, t3,4) >∗(c1, c3)) +P (c2> t1,2> c1, (t2,3, t3,4) >∗(c2, c3)) = P (t1,2> c3, t2,3> c2, t3,4> c1) + P (t1,2> c3, c2> t2,3> c1, t3,4> c2) +P (c3> t1,2> c2, t2,3> c3, t3,4> c1) + P (c3> t1,2> c2, c3> t2,3> c1, t3,4> c3) +P (c2> t1,2> c1, t2,3> c3, t3,4> c2) + P (c2> t1,2> c1, c3> t2,3> c2, t3,4> c3). Case 2. µ2− µ1= η1> 0, µ3− µ2 = η2> 0, µ4− µ3= 0 P ((t1,2, t2,3) >∗(c2, c3), t3,4≤ c1) + P ((t1,2, t2,3, t3,4) >∗(c1, c2, c3)) = P (t1,2> c3, t2,3> c2, t3,4≤ c1) + P (c3> t1,2> c2, t2,3> c3, t3,4≤ c1) +P (t1,2> c3, t2,3> c2, t3,4> c1) + P (t1,2> c3, c2> t2,3> c1, t3,4> c2) +P (c3> t1,2> c2, t2,3> c3, t3,4> c1) + P (c3> t1,2> c2, c3> t2,3> c1, t3,4> c3) +P (c2> t1,2> c1, t2,3> c3, t3,4> c2) + P (c2> t1,2> c1, c3> t2,3> c2, t3,4> c3). Case 3. µ2− µ1= η1> 0, µ3− µ2 = 0, µ4− µ3= 0 P (t1,2> c3, t2,3≤ c2, t3,4≤ c2) + P ((t1,2, t2,3) >∗(c2, c3), t3,4≤ c1) +P ((t1,2, t3,4) >∗(c2, c3), t2,3≤ c1) + P ((t1,2, t2,3, t3,4) >∗(c1, c2, c3)) = P (t1,2> c3, t2,3≤ c2, t3,4≤ c2) +P (t1,2> c3, t2,3> c2, t3,4≤ c1) + P (c3> t1,2> c2, t2,3> c3, t3,4≤ c1) +P (t1,2> c3, t3,4> c2, t2,3≤ c1) + P (c3> t1,2> c2, t3,4> c3, t2,3≤ c1) +P (t1,2> c3, t2,3> c2, t3,4> c1) + P (t1,2> c3, c2> t2,3> c1, t3,4> c2) +P (c3> t1,2> c2, t2,3> c3, t3,4> c1) + P (c3> t1,2> c2, c3> t2,3> c1, t3,4> c3) +P (c2> t1,2> c1, t2,3> c3, t3,4> c2) + P (c2> t1,2> c1, c3> t2,3> c2, t3,4> c3).

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付録 3.ステップアップ式多重比較法について ステップアップ法の検出力について,まず,K = 3 として以下の 2 通りの場合の検出力 の定式化を与える. Case 1. µ2− µ1= η1> 0, µ3− µ2 = η2> 0 P (t1,2> c1, t2,3> c1) = ∫ 0 g(s0) {∫ c1 ∫ c1 f1(t1, t2; δ1, Λ)dt1dt2 } ds0. ここで, δ1=   η1 1 n2+ 1 n1σ ,η2 1 n3 + 1 n2σ   0 . Case 2. µ2− µ1= η1> 0, µ3− µ2 = 0 P (t2,3≤ c1, t1,2> c2) + P (t1,2> c1, t2,3> c1) = ∫ 0 g(s0) {∫ c2 ∫ c1 −∞ f1(t1, t2; δ2, Λ)dt1dt2 } ds0 + ∫ 0 g(s0) {∫ c1 ∫ c1 f1(t1, t2; δ2, Λ)dt1dt2 } ds0. ここで, δ2=   η1 √ 1 n2 + 1 n1σ , 0   0 . 次に,K = 4 として以下の 3 通りの場合の検出力の定式化を与える.最終的に複数個の確 率の和として表されたとき,各確率は K = 3 の場合と同様な多重積分として表されるが, その表示は省略する. Case 1. µ2− µ1= η1> 0, µ3− µ2 = η2> 0, µ4− µ3= η3> 0 P (t1,2> c1, t2,3> c1, t3,4> c1). Case 2. µ2− µ1= η1> 0, µ3− µ2 = η2> 0, µ4− µ3= 0 P (t3,4≤ c1, t1,2> c2, t2,3> c2) + P (t1,2> c1, t2,3> c1, t3,4> c1). Case 3. µ2− µ1= η1> 0, µ3− µ2 = 0, µ4− µ3= 0 P ((t2,3, t3,4)≤∗(c1, c2), t1,2> c3) + P (t2,3≤ c1, t3,4> c2, t1,2> c2) +P (t3,4≤ c1, t2,3> c2, t1,2> c2) + P (t2,3> c1, t3,4> c1, t1,2> c1) = P (t2,3≤ c1, t3,4≤ c2, t1,2> c3) + P (c1≤ t2,3≤ c2, t3,4≤ c1, t1,2> c3) +P (t2,3≤ c1, t3,4> c2, t1,2> c2) + P (t3,4≤ c1, t2,3> c2, t1,2> c2) +P (t2,3> c1, t3,4> c1, t1,2> c1).

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参 考 文 献

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表 4 CT の各仮説の棄却限界値 (K = 5). n = 15 n = 30 H 1,5 2.286 2.261 H 1,4 , H 2,5 2.168 2.146 H 1,3 ∩ H 4,5 , H 1,2 ∩ H 3,5 2.211 , 2.087 2.188, 2.066 H 1,3 , H 2,4 , H 3,5 1.995 1.977 H 1,2 ∩ H 3,4 , H 1,2 ∩ H 4,5 , H 2,3 ∩ H 4,5 1.989 1.971 H 1,2 , H 2,3 , H 3,4
表 11 検出力 K = 5, n = 15. (µ 1 , µ 2 , µ 3 , µ 4 , µ 5 ) SS CT SD SU η = 0.5 (0, η, 2η, 3η, 4η) 0.000 0.000 0.000 0.001 (0, η, 2η, 3η, 3η) 0.000 0.001 0.001 0.001 (0, η, 2η, 2η, 2η) 0.009 0.016 0.014 0.014 (0, η, η, η, η) 0.186 0.187 0.188 0.187 η = 1.0 (0,

参照

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