ヒストン H3 バリアントによる
ヌクレオソーム形成機構に関する研究
Studies on Mechanisms of Nucleosome Formation with Histone H3 Variants
2009 年 2 月
早稲田大学大学院 理工学研究科
電気・情報生命専攻 構造生物学研究
立和名 博昭
略語表
z SDS Sodium Dodecyl Sulfate
z PAGE polyacrylamid gel electrophoresis
z Ni-NTA Nickel-nitrilotriacetic acid z MNase Micrococcal nuclease
z bp base pair(s)
z PCR polymerase chain reaction
z RT-PCR real time-polymerase chain reaction z Tris 2-amino-2-hydoroxymethl-1,3-propanediol
z BSA Bovine serum albumin
z EDTA Ethlene diamine tetraacetic acid
z CBB Coomassie brilliant blue z EtBr Ethidium Bromide z DTT Dithiothreitol
目次
第一章 序論
1.1 真核生物のゲノム DNA 1.2 ゲノム DNA の高次構造 1.3 ヒストンバリアント 1.4 ヒストンシャペロン 1.5 本研究について
第二章 ヒストンの生化学的解析
2.1 序
2.2 材料および方法
2.2.1 ヒストン H2A、H2B、H3および H4の精製 2.2.2 H2A/H2B、H3/H4複合体の調製
2.2.3 ヌクレオソーム形成に用いる DNAの調製
2.2.4 塩透析法によるヌクレオソームの再構成
2.2.5 MNaseを用いたヌクレオソーム形成の確認
2.2.6 制限酵素を用いたヌクレオソームコアのマッピング
2.3 結果と考察
2.3.1 ヒストンタンパク質の発現精製および複合体の形成
2.3.2 塩透析法によるヌクレオソームの再構成および MNase処理による解析
2.3.3 ヌクレオソームコアのポジションのマッピング
第三章 ヒト H3 バリアントの生化学的解析
3.1 序
3.2 材料および方法
3.2.1 ヒト H3バリアントおよび点変異体の発現系の構築および精製
3.2.2 ヒストンシャペロン NAP1 および NAP2 の精製
3.2.3 ヒストンシャペロンを用いたヌクレオソームの再構成
3.2.4 Ni-NTA アガロースビーズを用いたヒストン-ヒストンシャペロン複合体
のプルダウンアッセイ
3.2.5 ヒストン-ヒストンシャペロン複合体のゲルシフトアッセイ
3.3 結果と考察
3.3.1 ヒト H3バリアントの発現精製
3.3.2 ヒ ス トン シャ ペ ロン によ る ヌク レオ ソ ーム の再 構 成お よび MNase 処 理 による解析
3.3.3 ヒト H3バリアントとシャペロンの相互作用解析
3.3.4 ヒト H3点変異体の解析
第四章 ヒト H3 バリアント H3t を含むヌクレオソーム の結晶構造解析
4.1 序
4.2 材料および方法
4.2.1 ヒストンの大量精製
4.2.2 ヒストン複合体の調製
4.2.3 結晶化に用いる DNA の大量調製
4.2.4 ヌクレオソームの調製および精製
4.2.5 ヌクレオソームの結晶化
4.2.6 X線回折データの収集
4.2.7 構造決定
4.3 結果と考察
4.3.1 ヌクレオソームの精製
4.3.2 H3tを含むヌクレオソームの構造
第五章 総合討論
第一章 序論
1.1 真核生物のゲノム DNA
ゲノム DNA は生物の遺伝情報が書き込まれている重要な物質である。真核生 物のゲノム DNA は、細胞の核内に収納されている。ヒトの場合、ゲノム DNA は 30 億塩基対であり、二倍体であることを考慮に入れると、その全長は2 m と なる。驚くべきことに、全長が 2 m にもなるヒトのゲノム DNA に対し、ゲノム DNA が収納されている核の直径は 5 - 15 μm である。この事実は、真核生物の ゲノム DNA は、核内に収納されるために、高次に折りたたまれる必要があるこ とを示している。このゲノム DNA の高次の折りたたみは、ゲノム DNAに相互 作用しているタンパク質群によって行われている。
1.2 ヌクレオソーム構造
ゲノム DNA と相互作用している主要なタンパク質は、ヒストンである。ヒス トンには、H2A、H2B、H3、および H4の 4 種類のコアヒストンとリンカーヒス トン H1がある。さらに、相同性の高いノンアレリックなヒストンバリアントも
存在する (1.4 参照)。コアヒストンは、塩基性の分子量 11-16 kDaのタンパク質
で 、 中 心 領 域 付 近 に 、 ヒ ス ト ン フ ォ ー ル ド と 呼 ば れ る 、 長 いα-ヘ リ ッ ク ス の 両
端に短いαヘリックスを含む共通の構造を持っている(図 1A)。このヒストンフ
ォールドドメインを介して、ヒストンはH2A/H2B 二量体とH3/H4二量体を形成 している(図 1B、1C)。さらに、H3/H4 二量体は、二量体間で相互作用し四量 体 を 形 成 し て い る と 考 え ら れ て い る ( 図 1D)。 次 に 、H3/H4 四 量 体 に 二 つ の H2A/H2B 二 量 体 が 結合 し 、 ヒ スト ン 八 量 体を 形 成 す る( 図 1E)。 そ し て 、146 塩基対の DNAが、ヒストン八量体に 1.65回転巻きつき、ヌクレオソームと呼ば
れる構造を 形成してい る(図 1F)(1、2)。 また、アミ ノ末端およ びカルボキシ ル 末 端 の 領 域 で は 、 ヒ ス ト ン は 構 造 を 形 成 し な い テ ー ル と 呼 ば れ る 領 域 を 保 持 し、これらテール領域はヌクレオソームを形成する際、DNA の外側に露出して いる。真核生物のゲノム DNAの中で、ヌクレオソームを基本単位とし、ヌクレ オソームが数珠上に連なった高次構造体をクロマチンと呼ぶ。
図 1 ヒ ス ト ン お よ び ヌク レ オ ソ ーム の 構 造
(A) ヒ ス ト ン H2A、H2B、H3、H4 の 二 次 配 列 。 円 柱 はα-ヘ リ ッ ク ス を 表 す 。H2A お よ び H2B の C末 端 領 域 のα-ヘ リ ッ ク ス お よ びH3 のN末 端 領 域 のα-ヘ リ ッ ク ス は ヒ ス ト ン テ ー ル に 含 ま な い 。 (B) H2A/H2B 二 量 体 の 立 体 構 造 。H2A : 赤 、H2B : 青
(C) H3/H4 二 量 体 の 立 体 構 造 。H3 : 黄 、H4 : 緑 (D) H3/H4 四 量 体 の 立 体 構 造 。
(E) H2A/H2B/H3/H4 八 量 体 の 立 体 構 造 。 (F) ヌ ク レ オ ソ ー ム の 立 体 構 造 。
1.3 クロマチン構造
1930年代の光学顕微鏡の観察より、クロマチンは大きく二種類に分類された。
間 期 の ク ロ マ チ ン の 中 で は 、 特 に 色 素 に 強 く 染 ま る 領 域 を ヘ テ ロ ク ロ マ チ ン と 呼び、その他の領域をユークロマチンと呼ぶ (3)。また、ゲノム DNA 上で特徴 的な領域としてテロメアとセントロメアがある。直鎖状のゲノムDNA の両端の 領域がテロメアと呼ばれる領域で、分裂期にゲノムDNA が凝縮して染色体とな るときに、くびれている領域がセントロメアである (図 2)。テロメアは、細胞の 老 化 お よ び 癌 化 と 密 接 に 係 わ り 、 セ ン ト ロ メ ア は 分 裂 期 に 紡 錘 糸 が 姉 妹 染 色 分 体 に 結 合 す る キ ネ ト コ ア の 形 成 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 。 ヘ テ ロ ク ロ マ チ ン は 、 テ ロ メ ア や セ ン ト ロ メ ア に も 存 在 し 、 密 に 詰 ま っ た ク ロ マ チ ン 構 造 を と る と 考 え ら れ て い る 転 写 が 不 活 性 な 領 域 で あ る 。 一 方 、 ユ ー ク ロ マ チ ン は 、 ヘ テ ロ ク ロ マ チ ン と 比 べ 緩 ん だ ク ロ マ チ ン 構 造 を と る と 考 え ら れ て い る 転 写 が 活 性 な 領 域 で あ る 。 こ の ヘ テ ロ ク ロ マ チ ン と ユ ー ク ロ マ チ ン が 、 密 に 詰 ま っ た ク ロマチン構造や、緩んだクロマチン構造をしていることは、実験的に DNaseΙ や
MNase といったヌクレアーゼに対する感受性の違いから議論されている(4、5)。
ユ ー ク ロ マ チ ン 領 域 に お い て 転 写 が 行 わ れ て い る 遺 伝 子 を 、 実 験 的 に ヘ テ ロ ク ロ マ チ ン 領 域 に 挿 入 す る と 、 そ の 遺 伝 子 の 転 写 活 性 が 低 下 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 こ れ は 、 遺 伝 子 発 現 に お い て 、 ポ ジ シ ョ ン エ フ ェ ク ト と 呼 ば れ る 現 象 の 一 例 で 、 こ の こ と は 遺 伝 子 発 現 が 、 そ の 遺 伝 子 と ヘ テ ロ ク ロ マ チ ン 領 域 と の 距 離に強く影響されていることを示している (3)。ポジションエフェクトは、最初 に シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ で 見 つ か り 、 酵 母 、 植 物 、 ヒ ト な ど で も 見 つ か っ て い る 。 こ の こ と か ら 、 ク ロ マ チ ン 構 造 の 状 態 と 、 遺 伝 子 発 現 が 密 接 に 係 わ っ て い る こ と が 分 か る 。 で は 、 何 が ク ロ マ チ ン 構 造 の 状 態 を 決 め て い る の で あ ろ う か 。 ク ロ マ チ ン 構 造 の 状 態 を 決 め て い る と 考 え ら れ る 一 つ の 候 補 と し て 、 ヒ ス ト ン の
翻訳後修飾がある。これまでに、ヘテロクロマチン、ユークロマチンにおいて、
ヒ ス ト ン の 翻 訳 後 修 飾 の 状 態 が 異 な る こ と が 分 か っ て い る 。 分 裂 酵 母 の ヘ テ ロ クロマチンの領域では、ヒストンH3 の 9 番目のリジンのメチル化が観察されて いる。ユークロマチン領域では、ヒストン H3の 4 番目のリジンのメチル化が観 察される(6、7)。ヒストンの翻訳後修飾は、アセチル化・メチル化・リン酸化 な ど 多 種 類 あ り 、 同 一 ヌ ク レ オ ソ ー ム 中 の ヒ ス ト ン に 同 時 に 複 数 の 修 飾 が さ れ うるので、ヒストンの翻訳後修飾とクロマチンの状態を 1 対 1 で対応させるこ と は 難 し い 。 し か し 、 多 く の 実 験 的 証 拠 か ら 考 え て 、 ヒ ス ト ン の 翻 訳 後 修 飾 が クロマチン構造の状態に関係していることは間違いない。
図 2 テ ロ メ ア お よ び セン ト ロ メ ア
M 期 の 凝 縮 し た 染 色 体 上 で の テ ロ メ ア お よ び セ ン ト ロ メ ア の 位 置 。セ ン ト ロ メ ア を 足 場 と し て 、 キ ネ ト コ ア が で き 、 キ ネ ト コ ア に 両 極 か ら 伸 び た 紡 錘 糸 が 結 合 し 、 姉 妹 染 色 分 体 は 二 つ の 娘 細 胞 に 均 等 分 配 さ れ る 。
1.4 ヒストンバリアント
クロマチンの状態を規定していると考えられる因子として、ヒストンの 翻 訳 後 修 飾 以 外 に 、 ヒ ス ト ン バ リ ア ン ト の 使 い 分 け が あ る 。 ヒ ス ト ン に は 、 相 同 性 の高いノンアレリックなバリアントが存在することが知られている。
哺乳類において、ヒストンは H2A で 8 種類、H2B で 3 種類、H3 で 5 種類、
H4で 1 種類が報告されている(Table 1)。これらのヒストンバリアントは、DNA 複製依存的に発現するバリアント、DNA 複製非依存的に発現するバリアント、
組織特異的に発現するバリアント、または、局在するゲノムDNA 中の領域が決 まっているバリアントに分類することができる(Table 1)。
H2A ファミリーは、もっとも多様性のあるヒストンである。H2A バリアント は、8 種類が同定されており、MacroH2A1.1 と MacroH2A1.2 はスプライシング バリアントである。
H2A.X は、DNA 損傷部位のマーカーとして、その機能が知られているバリア
ントである (8)。哺乳類の H2A.X は、H2A とアミノ酸配列が非常に似ているが、
H2A にはない SQ モチーフをカルボキシル末端に持っている。この SQ モチー フ中のセリン残基(哺乳類では139 番目、S139)が、DNA 損傷依存的にリン酸 化 の 修 飾 を 受 け る こ と が 分 か っ て い る 。 細 胞 に ガ ン マ 線 を 照 射 し た 際 に 、 こ の リン酸化型H2A.X が同定されたことから、S139がリン化されているH2A.X は、
γ-H2A.X と呼ばれている。細胞生物学的解析により、γ-H2A.X は、DNA の損傷 部位に集積していることが明らかとなっている。また、H2A.X の S139 をリン 酸化する主たるキナーゼとして、ATM(ataxia-telangiectasia mutated)が同定され
ている(9)。現在、γ-H2A.X は、リン酸化タンパク質に結合する BRCT ドメイ
ンを持つタンパク質を、DNA 損傷部位にリクルートする役割があると考えられ ている(10-12)。
H2A.Z は 、さまざまな種で保存されているにも係わらず、その機能が生物種 に よ っ て 異 な る と 考 え ら れ て い る バ リ ア ン ト で あ る 。 繊 毛 虫 テ ト ラ ヒ メ ナ (Tetrahymena thermophila) において、H2A.Z は、転写が活発な大核中に見つかっ ており、転写が不活発な小核中には、見つかっていない(13)。しかし、接合の 早期において、小核で転写が行われるときには、H2A.Z は小核中に存在するこ とが知られている(14)。このことから、繊毛虫テトラヒメナにおいて、H2A.Z は 転 写 活 性 化 に 関 与 し て い る こ と が 考 え ら れ て い る 。 一 方 、 繊 毛 虫 テ ト ラ ヒ メ ナ と は対 照的に 、出 芽酵母 にお いて、H2A.Z の オー ソログ であ る Htz1 は 、 転 写 抑制に関与していると考えられており(15、16)、テロメア DNA や接合型座位 (mating-type locus, Mat locus)などのヘテロクロマチン近傍に局在している(17)。
この領域には、転写活性化領域も存在しており、Htz1 は、ヘテロクロマチンと ユ ー ク ロ マ チ ン の 境 界 領 域 の 確 立 お よ び 維 持 す る 機 能 を 持 っ て い る と 想 定 さ れ る。しかし、ショウジョウバエの H2A.Z は、ゲノム全体に局在しており(18、 19)、哺乳類では、H2A.Z は、転写抑制に関与していると考えられ、ヘテロクロ マチンの構成因子である HP1α と共局在している(20、21)。これらの報告から、
H2A.Z の機能は、生物種によって異なると考えられる。
macroH2A は、脊椎動物特異的なバリアントである。カルボキシル末端に、他
のヒストンには存在しない領域(マクロドメイン)を持っている。macroH2A は、
哺乳類のメスで見られる、二つある X 染色体上の遺伝子の発現量を調節するた めに、機能を果たしている。哺乳類のメスでは、発生の初期段階で片方の X 染 色体が、転写不活性となる (不活性型 X染色体)。この不活性型 X染色体中にお
いて、macroH2A はクロマチンに取り込まれている(22、23)。
H2A.Bbd は、H2A と 48%の相同性を有し、macroH2A とは対照的に、不活性
型 X染色体から特異的に排除されているバリアントである (24)。また、H2A.Bbd
は、Fluorescence Recovery After Photobleaching (FRAP) を用いた実験により、細 胞核中での運動速度が H2A と比べて速く、H2A.Bbd を含むヌクレオソームは、
H2A を含むヌクレオソームより安定性が低いことが分かっている(25)。また 、 H2A を含むヌクレオソームは、MNase から保護される DNA の長さが 146 塩基 対であるが、H2A.Bbd を含むヌクレオソームは 118塩基対である(26)。これら のことから、H2A.Bbd を含むヌクレオソームは、より緩やかな構造になってい ることが考えられる。
TH2A は、ラット(Rattus norvegicus) で同定されている精巣特異的な H2A バ リ ア ン ト で あ る 。TH2A は 、 パ キ テ ン 期 の 精 母 細 胞 に お い て 、 ク ロ マ チ ン に 取 り 込 ま れ てい る こ と が明 ら か と なっ て い る (27、28)。し か し 、TH2A の 機 能 や 役割に関する知見は、いまだ報告されていない。
H2B は、3つのバリアントの存在が報告されている。しかし、H2B バリアン トの機能解析は、H2A のバリアントほどは進んでおらず、未知のことが多い。
2000 年に、human-sperm-specific H2B(spH2B)が、ヒト精子のテロメア付近に 結合してい るタンパク 質複合体中 から見つか っている。spH2B は 、テロメア領 域に存在する TTAGGG の DNA 配列に対する結合特異性を有している(29)。さ らに、精巣で発現し、精子に存在する hTSH2B も同定されている(30、31)。ま た、精巣で特異的に発現している H2BFWT も見つかっている(32、33)。しか し、これらのヒストン H2B バリアントの機能についての知見は、未だ報告され ていない。
H3 は、哺乳類において 5種類が報告されている。もっとも特徴的な H3 バリ アントは、セントロメアのクロマチンに特異的に存在する centromeric protein A
(CENP-A)である。CENP-A は、今までに解析されている全ての生物種で保存
されおり(34)、ヒストンフォールドドメインにおいて、H3 と 62%の相同性を
有 す る が 、 ア ミ ノ 末 端 領 域 に お い て は 、 相 同 性 を 持 た な い 。 ま た 、CENP-A が 局 在 す る こ と に よ り 、 そ の 染 色 体 領 域 が セ ン ト ロ メ ア と し て 機 能 す る と 考 え ら
れている (35-37)。CENP-A のノックアウトマウスは、受胎後 6.5 日までしか生
き ら れ ず 、 微 小 核 や 大 核 、 ク ロ マ チ ン の 断 裂 、 染 色 体 の 過 凝 縮 な ど の 異 常 が 観 察されている(38)。
CENP-A を除く 4 種類の H3 バリアントは、複製依存的に発現する H3.1 およ
び H3.2 、複製非依存的に発現するH3.3 、精巣での高発現が確認されているH3t
である。これらの H3 バリアントは、最大で 5 アミノ酸、最小で 1アミノ酸しか 異ならない。これまでの研究により、H3.3 は転写が活発なユークロマチン領域 に取り込まれ、転写の活性化と関係する翻訳後修飾 (36 番目のリジンの高アセ チル化および 79 番目のリジンのジメチル化) を受けていることが分かっている
(39-45)。また、H3.1 は、転写活性化に関係する翻訳後修飾(14番目のリジン
のアセチル化)および転写不活性化に関係する翻訳後修飾(9 番目のリジンのジ メチル化)のどちらも受けることが分かっている(40)。一方、H3.1 と 1 アミ ノ酸しか異ならない H3.2 は、H3.1 とは異なる転写不活性化に関係する翻訳後 修飾(27 番目のリジンのジメチル化およびトリメチル化)を受けていることが 分かっている(40)。さらに、ヒト培養細胞から、クロマチンに取り込まれる前
の H3.1 複合体と H3.3 複合体を精製すると、その構成因子の一部が異なること
が明らかとなっている(46)。
H3t は 、精 巣特異的に 高発現す る H3 バ リアントと して同定さ れた (47-49)。 プロテオーム解析により、H3t は HeLa 細胞の核内からも見つかっており、この ことは、体細胞においても H3t が何らかの機能を持っている可能性と、細胞の 癌化に伴うクロマチン構造の変化に由来する可能性が考えられている (50、51)。
さらに、RT-PCR の解析により、脳と胚においても、H3t の遺伝子が転写されて
いることが明らかとなっている (52)。
表 1. ヒ ト で 同 定 さ れて い る ヒ スト ン お よ びヒ ス ト ン バリ ア ン ト
1.5 ヒストンシャペロン
ヒストンは、塩基性が非常に強いために、生理的条件下において、DNA と 直 接混ぜると、不溶性の凝集体を形成しやすい。生体内では、酸性タンパク質が、
ヒストンに結合し、DNA との不適切な相互作用を防いでいると考えられている。
ヒ ス ト ン に 結 合 す る 酸 性 タ ン パ ク 質 の 中 に 、 ヒ ス ト ン シ ャ ペ ロ ン と 呼 ば れ る 酸 性 タ ン パ ク 質 群 が あ る 。 ヒ ス ト ン シ ャ ペ ロ ン と は 、 ヒ ス ト ン の 貯 蔵 お よ び 輸 送 に 関 与 し て い る だ け で な く 、 ヌ ク レ オ ソ ー ム 形 成 に も 関 与 し て い る 酸 性 タ ン パ ク 質 の こ と で あ る 。 実 際 に 、 ヒ ス ト ン シ ャ ペ ロ ン は 、 試 験 管 内 で ヒ ス ト ン の ヌ クレオソーム形成を触媒することが知られている。また、1.4 において述べたよ うに、ヒトの培養細胞内において、ヒストンバリアントの複合体を解析すると、
H3.1 を含む複合体と H3.3 を含む複合体の構成因子が完全に一致しないことが
分 か っ て い る 。 こ の 一 致 し な い 因 子 が 、 ヒ ス ト ン バ リ ア ン ト 特 異 的 な ヒ ス ト ン シ ャ ペ ロ ン で あ る 。 ヌ ク レ オ ソ ー ム 形 成 を 促 進 す る 活 性 を 持 つ こ と 、 お よ び バ リ ア ン ト に 特 異 性 が あ る と 考 え ら れ る こ と よ り 、 ヒ ス ト ン シ ャ ペ ン は 、 転 写 ・ 複 製 ・ 組 換 え 等 に 伴 う ク ロ マ チ ン 構 造 の 変 換 に 関 与 し て い る 重 要 な 因 子 だ と 考 えられる。
1.6 本研究について
先 に 述 べ た よ う に 、 ク ロ マ チ ン の 状 態 は 、 転 写 ・ 複 製 ・ 組 換 え ・ 分 配 等 の ゲ ノム DNA のダイナミクスと密接に係わっている。クロマチンの主要構成因子は、
ヌ ク レ オ ソ ー ム で あ る 。 し た が っ て 、 ヌ ク レ オ ソ ー ム 中 の ヒ ス ト ン が 翻 訳 後 修 飾 を 受 け る こ と や 、 ヒ ス ト ン バ リ ア ン ト が ヌ ク レ オ ソ ー ム 中 に 取 り 込 ま れ る こ とにより、クロマチン構造の多様性が生み出されると考えられる。CENP-Aを除 く H3.1、H3.2、H3.3および H3tのヒストン H3 バリアントは、相同性が 95%以
上あり、最小で 1 アミノ酸、最大で 5 アミノ酸の違いしかない。しかし、先に 述べたように、ヒト H3バリアントは、転写が活発・不活発な領域で使い分けら れ て い る こ と や 、 組 織 に よ り 発 現 量 が 著 し く 異 な る 、 と い う 特 徴 が あ る 。 な ぜ 数アミノ酸しか異ならない H3バリアントが、このように細胞内で異なった挙動 を示すのかは、現在のところ、明らかとなっていない。さらに、H3バリアント が ヌ ク レ オ ソ ー ム 中 に 取 り 込 ま れ る こ と で 、 ク ロ マ チ ン 構 造 に 与 え る 影 響 に つ い て も 明 ら か と な っ て い な い 。 そ こ で 、 本 研 究 で は 、 ク ロ マ チ ン 構 造 の 機 能 発 現に重要であるヒストン H3 バリアントの解析を、生化学的手法および構造生物 学的手法を用いて行った。
ヒ ス ト ン バ リ ア ン ト の 解 析 が 遅 れ た 原 因 と し て 、 従 来 の 培 養 細 胞 か ら ヒ ス ト ン を 単 離 す る 方 法 で は 、 ヒ ス ト ン バ リ ア ン ト を 個 別 に 精 製 す る こ と が 不 可 能 で あ っ た こ と が 挙 げ ら れ る 。 本 研 究 で は 、 ヒ ス ト ン バ リ ア ン ト を 個 別 に 精 製 す る た め に 、 大 腸 菌 を 用 い た リ コ ン ビ ナ ン ト タ ン パ ク 質 と し て 、 ヒ ス ト ン バ リ ア ン ト を 個 別 に 精 製 す る 系 を 確 立 し た 。 第 二 章 で は 、 そ の 精 製 系 を 示 す と と も に 、 試 験 管 内 で 塩 透 析 法 に よ り ヌ ク レ オ ソ ー ム の 再 構 成 を 行 っ た 結 果 を 示 す 。 第 三 章 で は 、 精 製 し た ヒ ス ト ン バ リ ア ン ト の 生 化 学 的 解 析 を 行 い 、 ヒ ス ト ン バ リ ア ン ト と ヒ ス ト ン シ ャ ペ ロ ン の 特 異 性 を 見 出 し た の で 、 こ の 発 見 に つ い て 、 議 論 す る 。 第 四 章 で は 、 X 線 回 折 法 に よ り 、 ヒ ス ト ン バ リ ア ン ト を 含 む ヌ ク レ オ ソ ー ム の 結 晶 構 造 解 析 を 行 い 、 そ の 立 体 構 造 を 決 定 し 、 そ の 構 造 的 特 徴 に つ い て 議 論 す る 。 最 後 に 第 五 章 で は 、 第 二 章 、 第 三 章 お よ び 第 四 章 で 述 べ た 知 見 か ら 総合的な考察を進めるとともに、今後の研究の発展について記述する。
第二章 ヒストンの生化学的解析
2.1 序
これまでは培養細胞からヒストンを単離精製する方法により、精製ヒストンが 得 ら れ て い た 。 し か し 、 こ の 方 法 で は ヒ ス ト ン バ リ ア ン ト を 個 別 に 精 製 す る こ と は 不 可 能 で あ っ た 。 本 研 究 で は 、 リ コ ン ビ ナ ン ト タ ン パ ク 質 と し て 、 ヒ ス ト ン を 精 製 す る 系 を 確 立 す る こ と に よ り 、 ヒ ス ト ン バ リ ア ン ト を 個 別 に 精 製 す る こ と に 成 功 し た 。 本 章 で は 、 リ コ ン ビ ナ ン ト タ ン パ ク 質 と し て 、 ヒ ス ト ン を 精 製 す る 方 法 の 詳 細 に つ い て 記 述 す る 。 ま た 、 精 製 し た ヒ ス ト ン を 用 い て 、 試 験 管内でヌクレオソームの再構成を行った結果について述べる。
2.2 材料および方法
2.2.1ヒストン H2A、H2B、H3.1および H4の精製
ヒストン H2A、H2B、H3.1 および H4 をコードする DNA 断片を pET15b ベ クターの Nde I およびBamH Iサイトに組み込み、N末端に His6-tag(ヘキサヒ スチジンタグ)を融合したヒストン遺伝子を作製した。この発現系は、Nco I お
よび BamH I サイトで切り出すと、ヘキサヒスチジンタグ融合ヒストン遺伝子断
片が得られる。作製したヘキサヒスチジンタグ融合ヒストン H2A、H2B、 お よ び H3.1 遺伝子を pHCE ベクターの Nco I および BamH I サイトに組み込んだ。
H2A、H2B、およびH3.1 遺伝子を組み込んだ pHCE を BL21(DE3) に、H4 遺伝 子を組み込んだ pET15b を JM109(DE3) に、それぞれ導入した。形質転換した大 腸菌を、アンピシリン (100 μg/ml) を含む LB プレート上で培養した。37℃で一 晩培養した後、プレート上の菌をアンピシリン (50 μg/ml) を含む 2.5 Lの LB 液 体 培 地 に 植 菌 し 培 養 し た 。37℃ で 一 晩 培 養 し た 後 、 遠 心 分 離 に よ り 菌 体 を 回 収
した。回収した菌体を、50 ml の buffer A (50 mM Tris-HCl buffer (pH 8.0)、500 mM NaCl、1 mM PMSF、5% glycerol) で懸濁した後、3 分間の超音波破砕を 3回行っ て 溶 菌 し た 。 ヒ ス ト ン は 不 溶 性 画 分 に 回 収 さ れ る の で 、 溶 菌 し た サ ン プ ル を 、 遠心分離により上清と沈殿に分け、沈殿を回収した。回収した沈殿を、再度 50 ml の buffer A (50 mM Tris-HCl buffer (pH 8.0)、500 mM NaCl、1 mM PMSF、5%
glycerol) で懸濁した後、3分間の超音波破砕を 3 回行い、遠心分離により上清と
沈殿に分け、沈殿を回収した。回収した沈殿を 50 ml の buffer B (50 mM Tris-HCl buffer (pH 8.0)、500 mM NaCl、1 mM PMSF、5% glycerol、6 M urea) で一晩かけ て 再 懸 濁 し 、 変 性 条 件 下 で ヒ ス ト ン を 可 溶 化 さ せ た 。 可 溶 化 後 、 遠 心 分 離 に よ り不溶性画分を除去し、上清にヒストンを回収した。ヒストンを含む上清と 4 ml のnickel-nitrilotriacetic acid (Ni-NTA) アガロースビーズ (50% スラリー、Qiagen) を 混 合 し 、4℃ で 一 時 間 緩 や か に 回 転 さ せ た 。 そ の 後 、 ビ ー ズ を エ コ ノ カ ラ ム (Bio-Rad) に移し、100 ml の buffer C (50 mM Tris-HCl buffer (pH 8.0)、500 mM NaCl、5% glycerol、6 M urea、5 mM imidazole) で洗った。洗浄後、ヘキサヒス チジンタグ融合ヒストンを 100 ml の 5-300 mM imidazole の直線的濃度勾配 を 用 い て 溶 出 し た 。 各 画 分 を 回 収 し 、 ヘ キ サ ヒ ス チ ジ ン タ グ 融 合 ヒ ス ト ン を SDS-16% polyacrylamide gel electrophoresis (PAGE) により解析した。得られたヒ ス ト ン の 濃 度 を 、bovine serum albumin (BSA) を 標 準 タ ン パ ク 質 と し て 、 Coomassie Brilliant Blue (CBB) により染色した SDS-PAGE ゲルより定量した。
2.2.2 H2A/H2B、H3.1/H4複合体の調製
精製したヘキサヒスチジンタグ融合 H2A およびH2B を用いて、H2A/H2B 複合 体の再構成を行った。6 M urea 存在下で H2A と H2B を1対1のモル比で混ぜ、
混合物を 1 L の 2 M NaCl を含む buffer D (20 mM Tris-HCl (pH 8.0)、5 mM DTT、1
mM EDTA、1 mM PMSF、5% glycerol) に対して16 時間透析し、透析外液の塩濃 度を1 M NaCl、0.5 M NaClとそれぞれ 4時間ずつ段階的に下げ、最後に0.1 M NaCl の外液で 16時間透析を行った。この透析の過程において、変性状態の H2A およ
び H2B は、H2A/H2B 複合体に巻き戻される。また、不純物や巻き戻しが正しく
行われなかったヒストンは沈殿するため、遠心分離により取り除くことが出来る。
遠心分離により、上清にH2A/H2B 複合体を回収した。回収した後、ヒストン 1 mg
に対して 1 unit のスロンビンプロテアーゼを加え、室温で 3 時間反応させ、ヘキ
サヒスチジンタグを切断した。ヘキサヒスチジンタグの切除を SDS-16% PAGE に より確認後、H2A/H2B 複合体を Superdex 200 (GE Healthcare) ゲル濾過クロマト グラフィーにより精製し、スロンビンプロテアーゼや切除したヘキサヒスチジン タグを除いた。
H3.1/H4 複合体の再構成については、H3.1 と H4 を1対1のモル比で混合し、
buffer E (50 mM Tris-HCl buffer (pH 8.0)、10 mM DTT、2 mM EDTA、7 M guanidinhydrochloride) に対して 16 時間透析した後、H2A/H2B 複合体と同様の方 法により行った。
2.2.3 ヌクレオソーム形成に用いる DNA の調製
ヌクレオソームの再構成に用いた 195 bp の Lytechinus variegatus 由来 5S リボ ソ ー ム RNA 遺 伝 子 断 片 (5S rDNA) は 、 以 下 の 配 列 の プ ラ イ マ ー を 用 い て 、 Polymerase chain reaction (PCR)法により増幅した。
5S rDNA-FW 5’-CAACGAATAACTTCCAGGGATTTATAAGCCG-3’
5S rDNA-REV 5’-AATTCGGTATTCCCAGGCGGTCTCC-3’
反応後、反応産物をフェノール・クロロホルムで抽出し、Superdex 75 ゲル濾過 クロマトグラフィーで目的の DNA 断片とプライマーおよび未反応のヌクレオチ ドを分離した。
2.2.4 塩透析法によるヌクレオソームの再構成
精製した H2A/H2B 複合体 (7.5 μg) と H3.1/H4 複合体 (7.5 μg) を、195 bp 5S rDNA (10 μg) と 2 M NaCl 存在下で混合した。混合したサンプルを、300 ml の塩 透析 buffer (20 mM Tris-HCl (pH 8.0)、2 mM EDTA、20 mM 2-mercaptoethanol、2 M NaCl) に対して3 時間透析した。0.1 M NaCl を含む塩透析 buffer を透析外液に 0.8 ml/min の速度で添加し、透析外液中の NaCl 濃度を 2 M から 0.6 Mに徐々に 下げた。その後、サンプルを 0.1 M NaCl を含む塩透析 buffer に対して 16時間 透析した。再構成したヌクレオソームを、0.2×TBE (18 mM Tris base、18 mM boric acid、0.4 mM EDTA) 中で 6% PAGE により分離し、エチジウムブロマイド (EtBr) 染色により確認した。
2.2.5 MNaseを用いたヌクレオソーム形成の確認
100 ng の DNA を含む再構成ヌクレオソーム 15 μl に、MNase を 0.1 U/μl、0.05 U/μl、0.025 U/μl、0 U/μl の濃度になるように加え、室温で 5分間反応させた。そ の後、proteinase K buffer (20 mM Tris-HCl (pH8.0)、20 mM EDTA、0.25% SDS、0.5 mg/ml proteinase K) を 60 μl 加え、MNase の反応を停止し、室温で 15分間反応 させ除タンパクした。サンプルをフェノール・クロロホルム抽出し、エタノール 沈澱法により DNAを回収した。得られた DNA を 0.5×TBE 中で 10% PAGE によ り分離し、EtBr 染色により確認した。
2.2.6 制限酵素を用いたヌクレオソームコアのマッピング
100 ng のDNAを含む再構成ヌクレオソーム 5 μl に制限酵素を0.5 U/μl の濃 度になるように加え、37℃で1時間反応させた。反応後、サンプルを0.5×TBE 中
で 6% PAGE により分離し、EtBr 染色により確認した。
2.3 結果と考察
2.3.1 ヒストンの発現精製および複合体の形成
大 腸 菌 を 用 い て リ コ ン ビ ナ ン ト タ ン パ ク 質 と し て ヒ ト 由 来 の ヒ ス ト ン を 発 現 させ、変性条件下で精製を行った (図 3A、3B レーン 2、3)。ヒストンを精製 した後、H2A と H2B または H3.1 と H4 を等量混合し、H2A/H2B 複合体もし くは H3.1/H4 複合体を再構成した(図 3A、3B レーン 4)。H2A/H2B 複合体も
しくは H3.1/H4 複合体を再構成した後、スロンビンプロテアーゼを加え、ヘキ
サヒスチジンタグを切除し、Superdex 200 ゲル濾過クロマトグラフィーを行っ た(図 3A、3B レーン 5)。
これらのヒストンの精製法を確立することにより、ヒストンバリアントを個 別に精製することができると考えられた。また、大腸菌を用いて、発現・精製 したことにより、真核生物の細胞から精製したヒストンでは成しえない翻訳後 修飾を受けていない均一のヒストンを得ることができた。
図 3 リ コ ン ビ ナ ン ト ヒス ト ン の 精製 お よ び ヒス ト ン 複 合体 の 精 製
(A) リ コ ン ビ ナ ン ト H2A お よ び H2B の 電 気 泳 動 図 。 精 製 し た リ コ ン ビ ナ ン ト H2A、H2B を SDS-16% PAGE に よ り 分 離 し 、CBB 染 色 し 、 バ ン ド を 検 出 し た 。 レ ー ン 1: 分 子 量 マ ー カ ー 、レ ー ン2:ヘ キ サ ヒ ス チ ジ ン タ グ 融 合H2A、レ ー ン3:ヘ キ サ ヒ ス チ ジ ン タ グ 融 合H2B、
レ ー ン4: ヘ キ サ ヒ ス チ ジ ン タ グ 融 合H2A/H2B 複 合 体 、 レ ー ン5 :H2A/H2B 複 合 体 (B) リ コ ン ビ ナ ン トH3 お よ びH4の 電 気 泳 動 図 。精 製 し た リ コ ン ビ ナ ン トH3.1、H4をSDS-16%
PAGE に よ り 分 離 し 、CBB染 色 し 、バ ン ド を 検 出 し た 。レ ー ン1:分 子 量 マ ー カ ー 、レ ー ン 2: ヘ キ サ ヒ ス チ ジ ン タ グ 融 合 H3.1、 レ ー ン 3: ヘ キ サ ヒ ス チ ジ ン タ グ 融 合 H4、 レ ー ン 4:
ヘ キ サ ヒ ス チ ジ ン タ グ 融 合H3.1/H4 複 合 体 、 レ ー ン5 :H3.1/H4 複 合 体
2.3.2 塩透析法によるヌクレオソームの再構成および MNase処理による解析 精製した H2A/H2B 複合体と H3.1/H4 複合体および 195 bp 5S rDNA を用い て 、 塩 透 析 法 に よ り ヌ ク レ オ ソ ー ム を 再 構 成 し た 。 再 構 成 し た サ ン プ ル を
0.2×TBE 中で 6% PAGE により分離した。その結果、ヒストンを加えていない
サンプルでは検出されないバンドが、ヒストンを加えたサンプルでは検出され た (図 4A)。再構成したサンプルが、ヌクレオソームであることを、MNase を 用いた DNA 切断実験で確認した。MNase は、タンパク質が結合していないフ リーの DNA を優先的に切断するエンドヌクレアーゼなので、ヌクレオソーム
に MNaseを加えた場合、ヒストンと DNAとの相互作用により 147 bp の DNA
断片が MNaseの DNA 切断から保護される。図 4B に示す通り、再構成したサ
ンプルに MNaseを加え、反応させた結果、フリーの DNAを用いた実験では検
出されない 147 bp 付近のバンドが検出されたことから、塩透析法によりヌク レオソームが再構成されたことが分かった。
この結果より、リコンビナントタンパク質として精製したヒストンは、細胞 から精製したヒストンと変わりなく、試験管内においてヌクレオソームを形成 することが明らかとなった。また、リコンビナントタンパク質として精製した ヒストンは化学修飾されていないことから、ヌクレオソーム形成においてヒス トンの化学修飾は重要ではないことが分かった。
図 4 再 構 成 ヌ ク レ オ ソー ム
(A) 再 構 成 ヌ ク レ オ ソ ー ム の 電 気 泳 動 図 。 塩 透 析 法 に よ り 再 構 成 し た ヌ ク レ オ ソ ー ム を 、 0.2×TBE 中 で 6% PAGE に よ り 分 離 し 、 エ チ ジ ウ ム ブ ロ マ イ ド 染 色 に よ り 、 バ ン ド を 検 出 し た 。 レ ー ン 1: フ リ ー の DNA、 レ ー ン 2: 再 構 成 し た ヌ ク レ オ ソ ー ム
(B) 再 構 成 ヌ ク レ オ ソ ー ム の MNase 処 理 。 塩 透 析 法 に よ り 再 構 成 し た ヌ ク レ オ ソ ー ム を 、 MNaseで 処 理 し た 後 、 フ ェ ノ ー ル ・ ク ロ ロ ホ ル ム に よ り DNAを 抽 出 し 、DNA を エ タ ノ ー ル で 沈 殿 さ せ た 。DNA を 溶 か し 、0.5×TBE 中 で10% PAGE に よ り 分 離 し 、 エ チ ジ ウ ム ブ ロ マ イ ド 染 色 に よ り 、バ ン ド を 検 出 し た 。レ ー ン1: 分 子 量 マ ー カ ー 、レ ー ン2-5: フ リ ー のDNAに MNaseを 加 え た サ ン プ ル 、 レ ー ン 6-9: 再 構 成 し た ヌ ク レ オ ソ ー ム に MNaseを 加 え た サ ン プ ル 、マ イ ク ロ コ ッ カ ル の 濃 度 は 、0.1 U/μl (レ ー ン 2、6)、 0.05 U/μl (レ ー ン 3、 7)、 0.025 U/μl (レ ー ン4、8)、 0 U/μl (レ ー ン 5、9)で あ る 。
2.3.3 ヌクレオソームコアのポジションのマッピング
再構成したヌクレオソームには、6% PAGE で分離した際に2本のバンドが検
出された (図4A レーン2)。ヌクレオソームが DNAのどの位置に形成されるか
により、泳動距離が変化することが知られている。今回、検出されている2本の バンドも、ヌクレオソームの形成位置に由来すると考えられるので、DNA 上 の ど の 位 置 に ヌ ク レ オ ソ ー ム が 形 成 さ れ て い る の か を 制 限 酵 素 を 用 い て 確 認 し た 。 図5A に示している通り、用いたDNA にはいくつかの制限酵素の認識配列があ
る。Alu I とMsp I の認識配列は、DNA 上のどの位置にヌクレオソームが形成し
ていても必ずヌクレオソーム上にある。Aat II の認識配列は、DNA の右端にヌ クレオソームが形成した場合にのみ、ヌクレオソーム上に取り込まれない(図5A
青楕円)。逆に、Ban IIの認識配列は、DNA の左端にヌクレオソームがポジショ
ンした場合にのみ、ヌクレオソーム上に取り込まれない(図5A 黒楕円)。一方、
Sca I の認識配列は、左端から10 bp 程度内側にヌクレオソームがポジションし
ていても、ヌクレオソーム上に位置しない (図5A 赤楕円)。
ヌクレオソームに、Alu I およびMsp I を加え反応させたとき、ヌクレオソー ムの泳動距離は、制限酵素を加えていないヌクレオソームと変わらない (図5B
レーン2、4、5)。このことから、認識配列がヌクレオソーム上にある場合、その
制限酵素はDNA を切断できないことが分かった。ヌクレオソームにAat II を加 えた場合、若干の泳動距離が長くなるヌクレオソームが存在する(図5B レーン 3)。これは、DNA の右端に位置しているヌクレオソームに対応する。また、Ban II を加えた場合、2本のバンドのうち、下のバンドが減少し、泳動距離が長くな ったバンドが検出される(図5B レーン6)。これは、DNA の左端に位置したヌク レオソームに対応する。Aat II とBan II の結果から、下のバンドは、両サイドに エンドポジションしたヌクレオソームに対応していることが分かる。これは、
Aat II とBan IIを同時にヌクレオソームに加えた場合に、下のバンドの泳動距離 が長くなっていることと一致する(図5B レーン8)。下のバンドがDNA の端に位 置したヌクレオソームであることから、上のバンドはDNA の端ではない、つま り、DNA の真ん中に形成されたヌクレオソームであることが分かる。このこと
は、Sca I をヌクレオソームに加えた場合、上のバンドと下のバンド両方が切断
されたことからも分かる (図5B レーン7)。
これまでの研究では、ヌクレオソームのDNA 上のポジションは、ヌクレオソ
ームをMNase で処理し、できた147 bp のDNA 断片の配列を確認することで決
められてきた。本研究で行った制限酵素を用いたヌクレオソームのDNA 上のポ ジション決定は、再現性のある簡便な方法であり、従来の方法と比べ時間が短 縮できる利点がある。先に述べたとおりヌクレオソームのポジショニングは、
クロマチンの機能に重要であることから、本方法は、今後のクロマチン研究に おいて重要な方法となることが期待される。
図5 再 構 成 ヌ ク レ オ ソー ム の ポ ジシ ョ ニ ン グ
(A) 5S rDNA 上 に 存 在 す る 制 限 酵 素 の 認 識 配 列 。 楕 円 は ヌ ク レ オ ソ ー ム の 位 置 を 示 す 。
(B) 制 限 酵 素 に よ る ヌ ク レ オ ソ ー ムDNA の 切 断 。加 え た 制 限 酵 素 は 、レ ー ン3:Aat II、レ ー ン4:
Alu I、レ ー ン5:Msp I、レ ー ン6:Ban II、レ ー ン7:Sca I、レ ー ン8:Aat IIお よ び Ban II で あ る 。 レ ー ン1 は 、DNA の み 、 レ ー ン2 は 、 酵 素 を 加 え て い な い ヌ ク レ オ ソ ー ム で あ る 。
第三章 ヒト H3 バリアントの生化学的解析
3.1 序
ヒト H3 には、H3.1、H3.2、H3.3、H3t、CENP-A が存在することが知られて いる。本研究では、これらすべての H3 バリアントに関して、リコンビナントタ ンパク質として発現・精製する系を確立した。本章では、精製した H3 バリアン トとヒストンシャペロンである NAP1 および NAP2 を用いて行った生化学的解 析について述べる。
3.2 材料および方法
3.2.1 ヒト H3 バリアントおよび点変異体の発現系の構築、精製および H4 との
複合体の形成
CENP-A を除く H3.2、H3.3、および H3t は、H3.1 の発現系を鋳型として、PCR によりコドンを書き換え、発現系を構築した。CENP-A の発現系に関しては、田 中博士らの構築した発現系を用いた。H3.2、H3.3、および H3t の発現・精製は、
第二章で示した方法で行った。CENP-A に関しては、CENP-A の遺伝子を組み込
んだ pHCE を大腸菌 DH5α 株に導入したのち、それ以降の過程については、H3.1
と同様の方法で精製した。精製した H3 バリアントと H4 との複合体形成につい
ても、H3.1/H4 複合体の形成と同様の方法で行った。
3.2.2 ヒストンシャペロン NAP1 および NAP2 の精製
ヒト由来のNAP1 およびNAP2 の遺伝子断片をpET15b ベクターのNde I およ
びBamH Iサイトに組み込み、N末端にヘキサヒスチジンタグを融合したNAP1 お
よび NAP2 遺伝子を作製した。また、用いた pET15b は、スロンビンプロテアー
ゼ の 認 識 配 列 か ら プ レ シ ジ ョ ン プ ロ テ ア ー ゼ の 認 識 配 列 に 置 換 し て あ る 。NAP1 遺伝子を組み込んだ pET15b および NAP2 遺伝子を組み込んだ pET15bを大腸菌
Rosetta-gami B(DE3) 株に、それぞれ導入した。形質転換した大腸菌を、アンピシ
リン (100 μg/ml) を含むLB プレート上で培養した。37℃で一晩培養した後、プ
レート上の大腸菌を、アンピシリン (100 μg/ml) を含む5 Lの LB 液体培地に植 菌し培養した。37℃で培養した後、OD600 の値が、0.4 となったところで、1 mM isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside (IPTG) を添加し、18℃で 12 時間振盪した。
培養した菌体を、遠心分離により回収した。回収した菌体を、50 ml の buffer A (50 mM Tris-HCl (pH 7.5)、1 mM PMSF、10% glycerol、500 mM NaCl) で懸濁した後、
3 分間の超音波破砕を 2 回行って溶菌した。溶菌したサンプルを、遠心分離によ り上清と沈殿に分け、上清を回収した。回収した上清に、4 ml の Ni-NTA アガロ ー ス ビ ー ズ (50% ス ラ リ ー) を 混 合 し 、4℃ で 一 時 間 緩 や か に 回 転 さ せ た 。 そ の 後、ビーズをエコノカラムに移し、100 ml の buffer B (50 mM Tris-HCl (pH7.5)、1 mM PMSF、150 mM NaCl、20 mM imidazole) で洗った。洗浄後、ヘキサヒスチジ ンタグ融合 NAP1 および NAP2 を 100 ml の 20-300 mM imidazole の直線的濃 度勾配を用いて溶出した。各画分を回収し、サンプルをSDS-12% PAGE により解 析 し た 。 得 ら れ た NAP1 お よ び NAP2 に プ レ シ ジ ョ ン プ ロ テ ア ー ゼ を 加 え(3
unit/mg)、4℃で一晩反応させ、ヘキサヒスチジンタグを切断した。
得られた NAP1 は、Heparin Sepharose (GE Healthcare Biosciences) を用いて精製 す る た め に 、 buffer C (50 mM Tris-HCl (pH7.5)、 1 mM PMSF 、 2 mM
2-mercaptoethanol) に対して透析し、塩濃度を下げた。透析後、サンプルを膨潤し
た 0.7 g のレジンと混ぜ、一時間緩やかに回転させた。その後、ビーズをエコノ
カラムに詰め、100 ml の buffer C でレジンを洗浄し、その後、100 ml の 0-200
mM KCl の直線的濃度勾配を用いてレジンに吸着したタンパク質を溶出した。溶
出したサンプルを Mono Q カラムを用いて、150-600 mM KCl の直線的濃度勾配 で溶出し、buffer D (50 mM Tris-HCl (pH7.5),1 mM PMSF、2 mM 2-mercaptoethanol、
150 mM KCl) を用いて、Superdex 200 ゲル濾過クロマトグラフィーで最終精製を
行った。NAP2 は、Heparin Sepharose による精製を除き、その他の過程は NAP1 と 同様に行った。精製した NAP1 および NAP2 は、buffer E (20 mM Tris-HCl (pH 7.5)、
150 mM NaCl、1 mM DTT、0.5 mM EDTA、0.1 mM PMSF、10% glycerol) に対し て透析し、BSA を標準タンパク質としてブラッドフォード法 (53) により濃度を 決定した。
3.2.3 ヒストンシャペロンを用いたヌクレオソームの再構成
8 ng/μl の H2A/H2B 複合体と 8 ng/μl の H3 variants/H4 複合体を、45 ng/μl、
182 ng/μl の NAP1または 43 ng/μl、171 ng/μl の NAP2 と 23℃で 10分間反応さ せた。ヌクレオソーム形成の反応は、8 ng/μl の 5S rDNA を 10 μl の 20 mM Tris-HCl (pH 8.0)、80 mM NaCl、1 mM DTT を含むサンプルに加え、23℃で 1時 間行った。反応後、非特異的に DNA に結合したヒストンを除去するために、サ ンプルを 42℃で 1時間静置した。その後、サンプルを 0.2×TBE中で 6% PAGE に より分離した。また、反応生成物をMNase処理する場合は、1.2 ユニットのMNase を 15 μl の反応液中 (20 mM Tris-HCl (pH 8.0)、70 mM NaCl、2.5 mM CaCl2、1 mM DTT) で 23℃5分間反応させた。反応後、60 μl の proteinase K buffer (20 mM Tris-HCl (pH 8.0)、20 mM EDTA、0.5% SDS、0.5 mg/ml proteinase K) を加え、反 応を停止した。23℃15 分間静置した後、DNA をフェノール・クロロホルムで抽 出し、エタノールで沈殿させ、0.2×TBE 中で 10% PAGE により分離した。
3.2.4 Ni-NTA ア ガロースビーズを用いたヒストン-ヒストンシャペロン複合 体 のプルダウンアッセイ
精製したヘキサヒスチジンタグ融合 NAP1または NAP2 (9 μg) を H3.1/H4 も しくは H3t/H4 (2.5 μg) と混合し、Ni-NTA アガロースビーズ 3 μl (50% スラリ ー)を含む 500 μl の 反応液中(20 mM Tris-HCl (pH 8.0)、100 mM NaCl、30 mM imidazole、10 μg/ml BSA) で 4℃、1 時間反応させた。反応後、ビーズを 500 μl の 洗浄液 (20 mM Tris-HCl (pH 8.0)、200 mM NaCl、50 mM imidazole、0.2% Tween 20) で 3 回洗浄した。ビーズに結合したタンパク質をSDS-15% PAGE で分離し、CBB 染色で検出した。同様の実験を、ヘキサヒスチジンタグ融合 H3.1/H4 または H3t/H4 (6 μg) と NAP1 もしくは NAP2 (4.6 μg) を用いて行った。
3.2.5 ヒストンシャペロンとヒストンのゲルシフトアッセイ
NAP1 (2.3 μg) と H3.1/H4 ま た は H3t/H4 (0.15-1.5 μg) を 、9 μl の 20 mM Tris-HCl (pH 8.0)、100 mM NaCl、1 mM DTT 中で 23℃1 時間反応させた。反応産 物を、0.5×TBE 中で 5% PAGE により分離し CBB 染色で検出した。
3.2.6 DNA 競合実験
NAP1 (2.3 μg) を H3.1/H4 (0.75 μg) またはH3t/H4 (1.2 μg) と混合し、23℃で 10 分間反応させた。反応後、スーパーコイル状のプラスミド DNA (pGSAT4、40、80、
120、160 ng) を加え、23℃で 1 時間反応させた。反応産物を、0.5×TBE 中で 5%
PAGE により分離し CBB 染色で検出した。
3.3 結果と考察
3.3.1 ヒト H3バリアントの発現精製およびヌクレオソーム再構成
大腸菌を用いてリコンビナントタンパク質としてヒト由来のヒストン H3 バ リ ア ント を発 現 させ 、変 性 条件 下で 精 製を 行っ た 。H3 バ リ アン トを 精 製し た 後、H3 バリアントと H4 を等量混ぜ、H3/H4 複合体を再構成し、スロンビン プロテアーゼを加え、ヘキサヒスチジンタグを切除し、Superdex 200 ゲル濾過 クロマトグラフィーを行った (図 6A)。精製したH3 variant/H4 の複合体および
H2A/H2B 複合体を用いて、195 bp の 5S rDNA 上にヌクレオソームを塩透析法
により再構成した (図 6B)。これらの結果より、いずれの H3 バリアントも H4 との複合体を形成し、ヌクレオソームを形成することが出来ることが分かった。
図6 ヒ ス ト ンH3 バ リ ア ン ト の 精製 お よ び ヌク レ オ ソ ーム 再 構 成
(A) 精 製 し た ヒ ト 由 来 の リ コ ン ビ ナ ン ト H3 バ リ ア ン ト と H4複 合 体 をSDS-16% PAGE に よ り 分 離 し 、CBB染 色 し 、バ ン ド を 検 出 し た 。レ ー ン1:分 子 量 マ ー カ ー 、レ ー ン 2:H3.1/H4 複 合 体 、 レ ー ン 3:H3.2/H4 複 合 体 、 レ ー ン 4:H3.3/H4 複 合 体 、 レ ー ン 5:H3t/H4 複 合 体 、 レ ー ン 6:CENP-A/H4 複 合 体
(B) 塩 透 析 法 に よ り 再 構 成 し た ヌ ク レ オ ソ ー ム を 、0.2×TBE 中 で 6% PAGE に よ り 分 離 し 、 エ チ ジ ウ ム ブ ロ マ イ ド 染 色 に よ り 、バ ン ド を 検 出 し た 。レ ー ン1:フ リ ー のDNA、レ ー ン2: 再 構 成 し た H2A/H2B/H3.1/H4 ヌ ク レ オ ソ ー ム 、レ ー ン3:再 構 成 し た H2A/H2B/H3.2/H4 ヌ ク レ オ ソ ー ム 、 レ ー ン 4: 再 構 成 し た H2A/H2B/H3.3/H4 ヌ ク レ オ ソ ー ム 、 レ ー ン 5: 再 構 成 し た H2A/H2B/H3t/H4 ヌ ク レ オ ソ ー ム 、レ ー ン6:再 構 成 し た H2A/H2B/CENP-A/H4 ヌ ク レ オ ソ ー ム
3.3.2 ヒストンシャペロンによるヌクレオソームの再構成および MNase処理に よる解析
次にヒストンシャペロンを用いて、H3 バリアントを含むヌクレオソーム形成 について調べた (図 7A)。ヒストンシャペロンとして、ヒト由来の NAP1 および
NAP2 をリコンビナントタンパク質として発現・精製した (図 7B)。この実験で
は、シャペロンと H2A/H2B およびH3 variant/H4 を反応させ、その後に 195 bp の 5S rDNA を反応液に加えた (図 7A)。NAP2 を用いた場合、すべての H3 バ リ ア ン ト の ヌ ク レ オ ソ ー ム 形 成 が 確 認 で き た の に 対 し (図 7C レ ー ン 7-11)、 NAP1 を 用 い た 場 合 は 、H3t を 含 む ヌ ク レ オ ソ ー ム の み 形 成 効 率 が 著 し く 低 下 していることが分かった (図 7C レーン 2-6)。さらに、NAP1 または NAP2 を用
いて H3.1 または H3t を含むヌクレオソームの再構成を行い (図 7D)、そのサン
プルを MNaseで処理した (図 7E)。その結果、NAP1 と H3t/H4 を用いた場合で のみ、ヌクレオソームを形成している際に検出される 147 塩基対の DNA 断 片 が検出されなかった (図 7E レーン 4)。
これまでに NAP1 のヌクレオソーム形成能にヒストンバリアント特異性があ る こ と は 報 告 さ れ て い な く 、 本 研 究 が 、NAP1 の ヌ ク レ オ ソ ー ム 形 成 に お け る ヒストンバリアント特異性についての初めての知見である。NAP1 が H3t を含 むヌクレオソームを形成しないのに対して、NAP2 は H3t を含むヌクレオソー ム を 形 成 す る こ と が で き る 。H3t は 精 巣 に お い て 特 異 的 に 発 現 量 が 上 昇 し て お り 、 精 原 細 胞 か ら 精 子 を 形 成 す る 過 程 に お け る 細 胞 分 化 に 伴 う ク ロ マ チ ン の 再 編 成 に 関 与 し て い る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。 ま た 、 ヒ ト に お い て 、NAP2 の 発 現 量は体細胞に比べ精巣で3倍多いことが分かっている (54)。これらのことから、
精子形成におけるクロマチンの再編成に H3t と NAP2 の組み合わせで働いてい る可能性が示唆される。
図7 ヒ ス ト ン シ ャ ペ ロン に よ る ヌク レ オ ソ ーム 形 成
(A) NAP1 お よ び NAP2 を 用 い た ヌ ク レ オ ソ ー ム 形 成 実 験 の ス キ ー ム (B) リ コ ン ビ ナ ン ト NAP1 お よ び NAP2 の 電 気 泳 動 図 。
レ ー ン1: 分 子 量 マ ー カ ー 、 レ ー ン2:NAP1、 レ ー ン 3:NAP2
(C) ヒ ス ト ン シ ャ ペ ロ ン に よ る ヌ ク レ オ ソ ー ム 形 成 。195 bp の5S rDNA をNAP1 (レ ー ン 2-6) お よ びNAP2 (レ ー ン7-11) 存 在 下 で ヒ ス ト ン と 反 応 さ せ た 。用 い た ヒ ス ト ン はH2A/H2B (レ ー ン 2-11)、H3.1/H4 (レ ー ン2、7)、H3.2/H4 (レ ー ン 3、8)、H3.3/H4 (レ ー ン4、9)、H3t/H4 (レ ー ン5、10)、CENP-A/H4 (レ ー ン 6、11) で あ る 。 レ ー ン 1は 、DNA の み で あ る 。
図7 ヒ ス ト ン シ ャ ペ ロン に よ る ヌク レ オ ソ ーム 形 成
(D) ヒ ス ト ン シ ャ ペ ロ ン に よ る H3t を 含 む ヌ ク レ オ ソ ー ム の 形 成 。195 bp の5S rDNA をNAP1 (レ ー ン 2、3、7、8) お よ び NAP2 (レ ー ン 4、5、9、10) 存 在 下 で ヒ ス ト ン と 反 応 さ せ た 。 用 い た ヒ ス ト ン は H2A/H2B (レ ー ン 1-10)、H3.1/H4 (レ ー ン1-5)、H3t/H4 (レ ー ン 6-10) で あ る 。 レ ー ン 1お よ び 6は 、 ヒ ス ト ン シ ャ ペ ロ ン 非 存 在 下 の 実 験 で あ る 。
(E) ヒ ス ト ン シ ャ ペ ロ ン に よ り 形 成 さ れ た ヌ ク レ オ ソ ー ム の MNase 処 理 。(D) の 実 験 で 出 来 た ヌ ク レ オ ソ ー ム を 、MNaseで 処 理 し た 後 、フ ェ ノ ー ル・ク ロ ロ ホ ル ム に よ りDNAを 抽 出 し 、 DNA を エ タ ノ ー ル で 沈 殿 さ せ た 。DNA を 溶 か し 、0.2×TBE 中 で 10% PAGE に よ り 分 離 し 、 エ チ ジ ウ ム ブ ロ マ イ ド 染 色 に よ り 、 バ ン ド を 検 出 し た 。 レ ー ン 1: 分 子 量 マ ー カ ー 、 レ ー ン 2:195 bp の 5S rDNA、 レ ー ン 3:NAP1 に よ り 形 成 さ れ た H3.1 を 含 む ヌ ク レ オ ソ ー ム に MNase を 加 え た サ ン プ ル 、 レ ー ン 4:NAP2 に よ り 形 成 さ れ た H3.1 を 含 む ヌ ク レ オ ソ ー ム にMNaseを 加 え た サ ン プ ル 、レ ー ン5:NAP1 に よ り 形 成 さ れ た H3t を 含 む ヌ ク レ オ ソ ー ム にMNaseを 加 え た サ ン プ ル 、レ ー ン6:NAP2 に よ り 形 成 さ れ た H3t を 含 む ヌ ク レ オ ソ ー ム にMNaseを 加 え た サ ン プ ル 、MNaseの 濃 度 は 、0.08 U/μl (レ ー ン 3-6) で あ る 。
3.3.3 ヒト H3 バリアントとヒストンシャペロンの相互作用解析
NAP1 は H3t を 含 む ヌ ク レ オ ソ ー ム の 形 成 能 が 著 し く 低 下 し て い た た め 、
NAP1 とH3t/H4 との相互作用をNi-NTA アガロースビーズを用いたプルダウン
ア ッ セ イ に よ り 解 析 し た 。 こ の 実 験 で は 、 ヘ キ サ ヒ ス チ ジ ン タ グ 融 合 ヒ ス ト ン も し く は ヒ ス ト ン シ ャ ペ ロ ン を 準 備 し 、 タ グ を 融 合 し て い な い ヒ ス ト ン シ ャ ペ ロンもしくはヒストンを Ni-NTA アガロースビーズ存在下で混合し、Ni-NTA ア ガロースビーズに結合したタンパク質をSDS-PAGE で分離し検出した (図8A)。
ヘキサヒスチジンタグ融合 NAP1 または NAP2 と H3.1/H4 または H3t/H4 のプ ルダウンを行った結果、NAP1 およびNAP2 は H3.1/H4 および H3t/H4 の両方に 直接結合することが分かった (図 8B)。また、同様の実験をヘキサヒスチジンタ グ融合 H3t/H4 または H3.1/H4 と NAP1 および NAP2 を用いて行った結果、
NAP1 および NAP2 と H3.1/H4 および H3t/H4 との 結合が確認できた (図 8C)。 次に、NAP1 の H3.1/H4 と H3t/H4 への結合親和性を比較するために、ゲルシ フトアッセイを行った。この実験において、H3.1/H4 および H3t/H4 は正に帯電 し てい るため 、本 実験条 件に おいて は電 気泳動 され ない (55)。 した がっ て、検 出されるバンドはフリーの NAP1、NAP1-H3.1/H4 複合体、NAP1-H3t/H4 複合体 の 3 種類である。図 9A および 9B で示す様に、ヒストンの増加に伴い、フリー の NAP1 のバンドが減少し、NAP1 と H3.1/H4 または H3t/H4 の複合体のバン ドが増加した。このことから、NAP1 は H3.1/H4 および H3t/H4 と複合体を形成 することが分かった。形成した複合体の量を定量した結果、NAP1 は、H3t/H4 と
比べて、H3.1/H4 への結合親和性が高いことが分かった (図 9C)。
ヌクレオソームを形成する際に、ヒストンに結合している NAP1 は、ヒスト ンを DNA に受け渡す。次に、NAP1 の、H3.1/H4 または H3t/H4 を DNA に受 け渡す能力を調べた。最初に NAP1-H3.1/H4 もしくは NAP1-H3t/H4 複合体を形
成させ、スーパーコイル状のプラスミド DNA を添加した。NAP1 がヒストンを DNA に受け渡した場合、フリーの NAP1 の増加が確認される。また、用いたプ ラスミド DNA は、分子量が大きいためゲルの中には入らないので、電気泳動さ れない。図 10A で示す通り、NAP1-H3t/H4 は NAP1-H3.1/H4 に比べ、DNA 存 在下で検出されるフリーの NAP1 が少ない。このことから、NAP1 は H3t/H4 よ
り H3.1/H4 を効率的に DNA に受け渡すことができることが分かった。
これらの結果より、NAP1 は H3t/H4 に結合することはできるが、その親和性 は H3.1/H4 より低く、また、NAP1 は結合した H3t/H4 を DNA に受け渡す活性
が H3.1/H4 を受け渡す活性より低いことが分かった。これらのことが、NAP1 の
H3t を含むヌクレオソームの形成能が低いことの原因であると考えられた。
図8 Ni-NTA ア ガ ロ ー スビ ー ズ を 用い た プ ル ダウ ン ア ッ セイ (A) プ ル ダ ウ ン ア ッ セ イ の ス キ ー ム
(B) ヘ キ サ ヒ ス チ ジ ン タ グ 融 合NAP1 お よ び NAP2 を 用 い た プ ル ダ ウ ン ア ッ セ イ 。H3.1/H4 (レ ー ン 3-5) ま た は H3t/H4 (レ ー ン7-9) を ヘ キ サ ヒ ス チ ジ ン タ グ 融 合 NAP1 (レ ー ン4、8) ま た はNAP2 (レ ー ン 5、9) と 混 合 し た 。Ni-NTA ア ガ ロ ー ス ビ ー ズ に 結 合 し た タ ン パ ク 質 を15%
SDS-PAGE で 分 離 し 、CBB 染 色 に よ り バ ン ド を 検 出 し た 。レ ー ン2 お よ び 6 は 、実 験 に 用 い た 25% のH3.1/H4 お よ びH3t/H4 で あ る 。
(C) ヘ キ サ ヒ ス チ ジ ン タ グ 融 合H3.1/H4 お よ びH3t/H4 を 用 い た プ ル ダ ウ ン ア ッ セ イ 。NAP1 (レ ー ン 3-5) ま た は NAP2 (レ ー ン7-9) を ヘ キ サ ヒ ス チ ジ ン タ グ 融 合 H3.1/H4 (レ ー ン 4、8) ま た は H3t/H4 (レ ー ン 5、9) と 混 合 し た 。Ni-NTA ア ガ ロ ー ス ビ ー ズ に 結 合 し た タ ン パ ク 質 を 15% SDS-PAGE で 分 離 し 、CBB 染 色 に よ り バ ン ド を 検 出 し た 。レ ー ン2 お よ び6 は 、実 験 に 用 い た 25% のNAP1 お よ び NAP2 で あ る 。