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早稲田大学大学院 先進理工学研究科

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Academic year: 2022

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(1)

早稲田大学大学院 先進理工学研究科

博 士 論 文 概 要

論 文 題 目

Synthesis of Magnetite Nanoparticles via Redox Reactions Using a Tetrachloroferrate

(III) Anion as a Starting Material

テトラクロロ鉄 (III) 酸アニオンを 出発原料とした酸化還元反応による

マグネタイトナノ粒子の合成

申 請 者

Atsuo KAMURA

香村 惇夫

応用化学専攻 無機合成化学研究

2018 年 12 月

(2)

No. 1

遷移金属酸化物は、その高機能性から医療、電子、光学、エネルギー分野など多方面へ用いられて いる。さらに、遷移金属酸化物ナノ粒子は、バルク体とは異なる新たな特性を発現し、さらなる応用 が期待できることから注目を集めている。そのなかで、遷移金属酸化物ナノ粒子であるマグネタイト (Fe3O4)ナノ粒子は、強磁性および非毒性であり、しかも安価であることから幅広く研究が行われてお り、粒子径が微細なFe3O4ナノ粒子では超常磁性を示すことも知られている。超常磁性体 Fe3O4ナノ 粒子は、保磁力および残留磁化が極めて小さいため磁気的相互作用による凝集が抑制されるうえ、印 加磁場に対して高い即応性を有していることから、磁気応答や磁気分離を活用したドラッグデリバリ ーや重金属イオンの回収等への応用が研究されてきたが、それには狭い粒子径分布であることも必須 要件である。

このようなFe3O4ナノ粒子の水系の合成プロセスでは出発原料としてFeCl2、FeCl3のような無機鉄 化合物が用いられ、非水合成プロセスではFe(acac)3、 Fe(CO)5のような有機基を有する鉄化合物や鉄 の有機金属化合物が用いられている。前者では非極性有機溶媒中での溶解性は低く、後者では熱分解 での合成時に高沸点有機溶媒が必要とされる。そこで、FeCl3・6H2O塩酸溶液からメチルトリオクチ ルアンモニウムクロリド(C25H54N+Cl-)により抽出されるC25H54N+FeCl4-を新たな出発原料として着目 した。この出発原料は FeCl3から合成された酸素を含まない前駆体であり、非極性有機溶媒に対して 良好に溶解させることができる。本研究では本出発原料の有用性を示すため、ナノ粒子形成場を設計 する逆ミセル法、酸化剤を用いた非水合成およびリン系カップリング剤の表面修飾によりナノ粒子の 結晶成長を阻害した合成法の観点からFe3O4ナノ粒子の合成を検討した。また、Fe3O4はFe2+とFe3+

の両方を含む混合原子価の酸化物であることから、適切なアミンを用い、Fe3+の一部を還元すること で単一の出発原料からFe3O4の合成を行った。

本論文は、全5章から構成されている。

第 1 章では、Fe3O4ナノ粒子の特性およびその応用について述べるとともに、逆ミセル法を含めた 既存の水系での合成手法と非水系での合成手法についてそれぞれまとめた。また、非水合成手法と水 系での合成手法で用いられるFe原料についてまとめた。さらに、Fe3O4ナノ粒子合成における表面修 飾の有用性を述べるとともに、用いられる表面修飾剤の種類と特性を分類してまとめた。そして、こ れらに基づき、本論文の位置づけ、意義について述べた。

第2 章では、界面活性剤と水を用いた逆ミセル法によるFe3O4ナノ粒子の合成について述べた。界 面活性剤と還元剤として働くオクチルアミンを用いて水を有機相であるトルエン中に可溶化させ、水 相が反応場となるように設計し、150°C で 48 時間加熱処理することで、Fe3O4ナノ粒子を合成した。

まず、オクチルアミンおよび水の添加量を変化させ、Fe3O4ナノ粒子を得るための合成条件を探索した。

その結果、Feに対するオクチルアミンのモル比Mを10もしくは20とし、水とオクチルアミンのモ ル比R が0.1、1になるように調整した場合では、スピネル型の化合物の形成が粉末X線回折により 判明した。また、少量のオクチルアミンを添加した場合(M = 2、R = 1)や過剰な水を添加した場合(M = 10、R = 5)ではα−Fe2O3が形成することが明らかとなった。光電子分光法(XPS)により、Fe2+ : Fe3+ ≈ 1 : 2であることが明らかとなり、さらに、Ramanスペクトルでは、Fe3O4のA1gモードに帰属される バンド(668 cm-1)を観察した一方で、γ-Fe2O3由来のバンド(350、500、700cm-1)は観察されなかった。

これらの結果は、XRDパターンで観察されたスピネル型化合物がFe3O4であることを示した。本合成

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No. 2

において水の添加量を増加させた際、逆ミセルおよび得られた Fe3O4ナノ粒子の大きさが増加する傾 向を動的光散乱法(DLS)による分析および透過型電子顕微鏡(TEM)観察で観察したことから、逆ミセル の大きさが Fe3O4ナノ粒子の大きさに影響していることが示唆された。超伝導量子干渉型振動試料磁 力計 (VSM-SQUID)を用いた磁気特性評価では、54 emu g-1(M = 10、R = 0.1)および57 emu g-1(M = 20、R = 0.1)の飽和磁化を示した。さらに、保磁力および残留磁化が微小であること、Zero-field-cooled (ZFC)およびField-cooled (FC)磁化曲線の測定によりblocking温度以上で磁化の低下が観察されたこ とから、超常磁性を有することが示された。

第3章では、酸化剤としてピリジン-N-オキシドを用いたC25H54N+FeCl4-からのFe3O4ナノ粒子の非 水合成手法について述べた。酸化剤を用いた非水合成では、水系の合成手法と比較し、合成における パラメーターが少なく、酸化剤の量を制限することにより微細なFe3O4ナノ粒子の形成が期待できる。

そこで、C25H54N+FeCl4-を出発原料とし、エチレンジアミンを還元剤、酸素源としてピリジン-N-オキ シドを用いた非水合成法を検討した。まず、Feとエチレンジアミンのモル比を1 : 3とし、150°C、48 時間加熱処理することでFe3O4ナノ粒子を合成した。XRDパターンでは、スピネル型の化合物の形成 が示された。さらに、試料のXPSスペクトルから、Fe2+ : Fe3+ ≈ 1 : 2であることが明らかとなった。

Ramanスペクトルにおいては、Fe3O4に帰属されるブロードなバンド(667 cm-1)を観察した一方で、γ -Fe2O3に帰属されるバンドは観察されなかった。これらの測定結果は、生成物がスピネル型の Fe3O4

であることを示している。また、TEM観察において、粒子径は10 – 30 nmであった。つぎに、Fe3O4

ナノ粒子の形成メカニズムについて検討した。エチレンジアミン添加後の C25H54N+FeCl4-の溶液に対 して、1, 10-フェナントロリンを添加すると赤色を示し、この溶液のUVスペクトルでは、[Fe(phen)3]2+

に帰属される吸収帯を510 nmに観察した。このUVスペクトルの測定結果から、出発原料であるFe3+

のみを含む C25H54N+FeCl4-が還元剤であるエチレンジアミンと反応し、Fe2+が生成したことが判明し た。また、エチレンジアミン添加により形成された凝集体のIRスペクトルから、凝集体がエチレンジ アミンを含有していることが明らかとなった。Feとエチレンジアミンのモル比が1 : 6で合成した場 合では、モル比1 : 3のときに比べて収率が低下していることから、配位しているエチレンジアミンの 数が増加すると、形成される錯体に対してピリジン-N-オキシドの配位が妨げられ、Fe3O4ナノ粒子の 生成量が低下したと考えた。さらに加熱反応後の溶液のIRスペクトルでは、ピリジンが生成している ことが判明した。これらの結果から、エチレンジアミンのFe2+への配位とともに、ピリジン-N-オキシ ドの酸素を介した Fe2+-O-Fe2+ネットワークが形成された後、酸化還元反応により Fe3+-O-Fe3+ネット ワークが形成し、溶液中にピリジンが放出されたと推定した。これを基にこの形成したネットワーク と他のFe2+錯体の反応によりFe3+-O-Fe2+ネットワークが形成してFe3O4形成の前駆体となるメカニズ ムを提案した。つぎに、生成物の磁気特性評価を行ったところ、57 emu g-1の飽和磁化を示した。さ らに、保磁力と残留磁化が微少であることやZFC-FC磁化曲線においてblocking温度以上で磁化の低 下を観察したことから、超常磁性を有するFe3O4ナノ粒子が形成したことが明らかとなった。

第4章では、ナノ粒子の合成段階にドデシルホスホン酸(DDPA)を表面修飾剤として導入し、Fe3O4

ナノ粒子の合成と DDPAによる表面修飾を同時に行い、Fe3O4ナノ粒子の粒子径を微細化させるワン ポット合成法について述べた。第 3 章のエチレンジアミンを用いた非水合成手法では、凝集体の形成 を観察したことから、異なる還元剤を検討する必要があった。そこで、オクチルアミンを還元剤とす

(4)

No. 3

るとともに、DDPA を表面修飾剤として用いた合成プロセスを着想した。C25H54N+FeCl4-のトルエン 溶液に対してオクチルアミンを添加した後、DDPAとピリジン-N-オキシドを添加し、150°Cで72時 間加熱処理することで合成を行った。FeとDDPAのモル比を変化させて得られた生成物 (Fe / DDPA

= 64、 Fe / DDPA = 32)のXRDパターンより、スピネル型化合物の形成が明らかとなった。しかし、

DDPA の添加量の増加に伴いスピネル型化合物の結晶性が低下し、層状アルキルホスホン酸鉄由来と 考えられる回折線を観察した。スピネル型の化合物の形成が確認された生成物のXPSスペクトルでは、

Fe2+ : Fe3+ ≈ 1 : 2となった。これらの測定結果より、XRDパターンでのスピネル型の化合物がFe3O4

であることが示された。さらに熱重量分析(TG)では220°C以降にそれぞれ5.8 mass% (Fe / DDPA = 64)と6.6 mass%(Fe / DDPA = 32)の重量減少が認められるとともに、IRスペクトルよりDDPAのIR スペクトルにおいて観察されたP=O伸縮振動 (1220 cm-1)の消失、P-O伸縮振動 (1022 cm-1)のブロー ド化を観察したことから、Fe-O-P結合の形成を明らかにした。さらに、DDPAにより表面修飾された Fe3O4ナノ粒子をTEMにより観察したところ、その粒子径は4 - 9 nm (Fe / DDPA = 64)、 2 - 8 nm (Fe

/ DDPA = 32)と微細であることが明らかとなり、本合成手法で得られたFe3O4ナノ粒子はその表面が

修飾されたことで結晶成長が抑制され、微細化していることが示された。さらに、DDPA で表面修飾 されたFe3O4ナノ粒子が分散したトルエン溶液についてDLS 測定を行ったところ、メジアン径が 16 nm (Fe / DDPA = 64)と9 nm (Fe / DDPA = 32)の狭い粒子径分布をそれぞれ示した。DLSにより測定 された粒子径分布は、TEM によって観察されたナノ粒子の粒子径とおおよそ対応していることから、

ナノ粒子の凝集が抑制されていたことが明らかとなった。これらの粒子径に関する測定結果から、

DDPAによるFe3O4ナノ粒子の表面修飾の進行が推測された。さらに、第2章及び第3章の合成手法 では達成できなかった微小かつ狭い粒子径分布を示す Fe3O4ナノ粒子の合成を本合成手法により達成 したことが明らかとなった。表面修飾 Fe3O4ナノ粒子の磁気特性評価では、DDPA が無添加の系(67 emu g-1)と比較して48 emu g-1(Fe / DDPA = 64)、45 emu g-1 (Fe / DDPA = 32)の飽和磁化を示し、飽 和磁化の低下を観察した。この飽和磁化の低下の原因として、非磁性物質の含有や結晶性の低下が考 えられた。残留磁化や保磁力が微小であることやZFC-FC磁化曲線においてblocking温度以上で磁化 が低下したことから、超常磁性を有することが示された。

第 5 章では、研究成果を総括した。本論文では、C25H54N+FeCl4-を出発原料とし、水を用いてナノ 反応場を制御した合成手法で超常磁性 Fe3O4ナノ粒子の合成を達成し、さらにピリジン-N-オキシドを 酸化剤として用いた非水合成手法により微細なFe3O4ナノ粒子の合成を達成した。また、リン系カップ リング剤であるDDPAを合成段階で導入することで、結晶成長の抑制によるナノ粒子の更なる微細化 を達成し、微細かつ狭い粒子径分布を示す Fe3O4ナノ粒子を得た。これらの研究成果より、Fe3O4ナ ノ粒子の合成に対する C25H54N+FeCl4-の有用性を示した。このような金属塩化物を基とした抽出操作 を経て得られる出発原料を用いた遷移金属酸化物ナノ粒子の合成は報告例がなく、また、Fe3O4のよう な混合原子価の遷移金属酸化物ナノ粒子の合成に対してこの出発原料が応用できることを示した。

(5)

No.1

早稲田大学 博士(工学) 学位申請 研究業績書

氏 名 香村 惇夫 印

(2019年7月現在)

種 類 別 題名、 発表・発行掲載誌名、 発表・発行年月、 連名者(申請者含む)

〇総説

論文

〇論文

〇論文

講演

講演

講演

講演

講演

講演

マグネタイトナノ粒子の表面修飾による元素ブロック化とその応用、粉体および粉末冶 金、2017年、香村 惇夫, 井戸田 直和, 菅原 義之, Vol. 64, Page 116-120.

Preparation and optical property of gallium zinc oxynitride powder and nanocrystals with sawtooth-like appearance, Materials Research Bulletin, 2017年, Atsuo

Kamura, Yuji Masubuchi, Teruki Motohashi and Shinichi Kikkawa, Vol. 87, Page 130-134.

Nonaqueous synthesis of magnetite nanoparticles via oxidation of tetrachloroferrate anions by pyridine-N-oxide, Solid State Sciences, 2019, Atsuo Kamura, Naokazu Idota and Yoshiyuki Sugahara. Vol. 92, Page 81-88.

Preparation of Fe3O4 nanoparticles modified with n-dodecylphosphonic acid via a one-pot nonaqueous process using an oxidation reaction of tetrachloroferrate (III) anions by pyridine-N-oxide, Materials Research Bulletin, In press, Atsuo Kamura, Masahiko Ozaki, Naokazu Idota and Yoshiyuki Sugahara.

酸化剤を用いた非水合成プロセスによる酸化鉄ナノ粒子の合成と磁気特性評価、粉体粉 末冶金協会平成30年度春季大会、2-15A、2018年、○香村 惇夫, 井戸田 直和, 菅原 義 之.

ドデシルホスホン酸により表面修飾されたFe3O4ナノ粒子のワンポット合成、日本セラ ミックス協会関東支部研究発表会、1A16、2017年、○香村 惇夫, 尾崎 正彦,井戸田 直 和, 菅原 義之.

酸化剤を用いたマグネタイトナノ粒子の合成とリン系カップリング剤による表面修飾、

粉体粉末冶金協会平成29年度春季大会、3-40B、2017年、○香村 惇夫, 井戸田 直和, 菅 原 義之.

リン系カップリング剤により表面修飾された酸化鉄ナノ粒子のワンポット合成、日本セ ラミックス協会第55回セラミックス基礎科学討論会、2A06, 2017年、○尾崎 正彦, 香 村 惇夫, 井戸田 直和, 菅原 義之.

異なる酸化剤を用いた酸化鉄ナノ粒子の合成とその表面修飾、 日本セラミックス協会関 東支部研究発表会、1B14、2016年、○香村 惇夫, 井戸田 直和, 菅原 義之.

非水溶媒中での酸化剤を用いた酸化鉄ナノ粒子の合成と磁気特性 日本セラミックス協 会 2016年秋季シンポジウム、3M17、2016年、○香村 惇夫, 井戸田 直和, 菅原 義之.

(6)

No.2

早稲田大学 博士(工学) 学位申請 研究業績書

種 類 別 題名、 発表・発行掲載誌名、 発表・発行年月、 連名者(申請者含む)

講演

講演

講演

酸化剤を用いた酸化鉄ナノ粒子の合成と粒径制御の検討、 日本ゾル-ゲル学会第14回討 論会、48、2016年、○香村 惇夫, 井戸田 直和, 菅原 義之.

有機溶媒中での酸化剤を用いた酸化鉄ナノ粒子の合成, 日本学術振興会先進セラミック ス第124 委員会第150回会議記念講演会、25、 2016年、○香村 惇夫, 井戸田 直和, 菅 原 義之.

UHP およびピリジンN-オキシドを酸化剤とした酸化鉄ナノ粒子の合成、日本セラミッ クス協会2016年年会、2B08、2016年、○香村 惇夫, 井戸田 直和, 菅原 義之.

参照

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