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論文 超高層鉄筋コンクリート造建築物の耐震性能残存率と被災度

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Academic year: 2022

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(1)

図-2 耐震性能評価の流れ 図-1 耐震性能と被災度の概念

※層間変形角の値は,標準的な建物の目安の値である 層せん断力

修復限界 1

修復限界 2 安全限界

使用限界

倒壊限界

無被害 軽微 小破 中破 大破 倒壊 1/200

レベル 1 の制限 1/100

レベル 2 の制限 1/65~1/50 層間変形角

梁曲げ降伏による全体降伏機構の超高層RC造建築物 1 骨組が保有する耐震性能の評価

①静的非線形解析による限界変形角等の算定

②基準地震動の設定

③地震応答解析による最大応答層間変形角等の算定

④限界状態の保有耐震性能指標値(HIS 値)の評価

⑤限界状態の耐震性能残存率(HR )の評価 2 特定の地震動に対する耐震性能の評価

⑥特定地震動の設定

⑦地震応答解析による最大応答層間変形角等の算定

⑧耐震性能残存率(HR )の評価

⑨特定地震動に対する被災度の評価

論文 超高層鉄筋コンクリート造建築物の耐震性能残存率と被災度

道下 龍太郎*1・仁科 智貴*2・毎田 悠承*3・和泉 信之*4

要旨:超高層RC造建築物の地震対策には,特定の地震動に対する被災度の評価が必要である。本研究では,

超高層 RC 造建築物の保有耐震性能評価により得られる限界層間変形角及び耐震性能残存率を用いた被災度 の評価方法を考察する。まず,超高層RC造骨組3棟を対象として,静的非線形解析及び地震応答解析を実 施して,各限界状態の保有耐震性能指標値及び耐震性能残存率を算定する。その際,耐震性能残存率と部材 の損傷度の関係を分析し,被災度の評価に用いる判定値を検討する。次に,特定の地震動に対する超高層RC 造骨組1棟の被災度の評価を行い,評価方法の妥当性について考察する。

キーワード:超高層RC造建築物,静的非線形解析,地震応答解析,保有耐震性能,耐震性能残存率

1. はじめに

2011年東北地方太平洋沖地震の発生により,既存超高 層鉄筋コンクリート(以下,RC)造建築物の地震対策が急 務とされている。そのためには,保有する耐震性能の評 価と共に,特定の地震動に対する被災度の評価が必要で あるが,超高層RC 造建築物を対象とする被災度の評価 に関する研究は進んでいない。

著者らは,梁曲げ降伏による全体降伏機構の超高層RC 造建築物の耐震性能評価について研究している。本研究 における耐震性能と被災度の概念図を図-1に示す。耐震 性能評価は,「1 骨組の保有耐震性能評価」と「2 特定の 地震動に対する耐震性能評価」の2ステップで実施する

(図-2)。既往の研究では,「1 骨組の保有耐震性能評価」

について報告した例えば1)。骨組の保有耐震性能は,静的 非線形解析及び地震応答解析により算定される保有耐震 性能指標値(HIS値) 及び耐震性能残存率(HR)の2つの指標 値を用いて評価する。HIS値は,骨組の限界状態に対応す る入力地震動の強さを表す指標値であり,応答変形が各 限界状態を表す限界変形に達する基準地震動の入力倍率 (HI値)として算定する。HIS値の研究では,HIS値の算定方 法や適用例を報告した例えば2)。また,HRは地震経験後に 残存する残存耐震性能を表す指標値であり,残存エネル ギー量の比率として算定する。HRの研究では,全層のエ ネルギー消費量に基づく算定方法を報告した1)

本研究では,「2 特定の地震動に対する耐震性能評価」

における被災度の評価方法を考察する。被災度は,「1 骨 組の保有耐震性能評価」により得られる限界層間変形角 及び耐震性能残存率を用いて評価する(図-2)。

まず,超高層RC造骨組3棟を対象として,静的非線 形解析及び地震応答解析を実施して,各限界状態のHIS

値及びHRを算定する。その際,HRの算定に用いる除荷 時変形比率(a)及び片寄り率(b)と層間変形角との関係に ついて検討する。さらに,HRと部材の損傷度の関係を分 析し,被災度の評価に用いる判定値を検討する。

次に,特定の地震動に対する超高層RC造骨組1棟の 被災度の評価を行い,層間変形角や梁の損傷度などから 評価方法の妥当性について考察する。

*1 千葉大学 大学院工学研究科建築・都市科学専攻 博士前期課程 (学生会員)

*2 千葉大学 工学部建築学科

*3 千葉大学 大学院工学研究科建築・都市科学専攻助教 博(工) (正会員)

*4 千葉大学 大学院工学研究科建築・都市科学専攻教授 博(工) (正会員)

コンクリート工学年次論文集,Vol.38,No.2,2016

(2)

1 2 3 4 5 修復限界1 0% 0% 0% 0%

修復限界2 20% 0% 0%

修復限界2’ 0% 0%

安全限界 0%

柱等価損傷度

限界状態

Sδi-

Sδi+ OSδi-

OSδi+

2.3 2.4 Q

2.0 2.1

2.2 梁塑性率(DF)

柱等価塑性率(CDF) 2.4 2.1

2.1 1.9

両端塑性率 表-1 使用限界の損傷度別部材比率

図-3 部材の塑性率と損傷度の定義 表-2 修復,安全限界の損傷度別部材比率

図-4 柱等価塑性率算定例

図-5 エネルギー吸収能力

図-7 除荷時変形比率

1 2 3 4 5

限界状態 使用限界 0% 0% 0% 0%

梁部材の損傷度

図-6 消費エネルギー

図-8 片寄り率

Sδi+Sδi-の時 𝑎 =𝑂𝑆𝛿𝑖+

𝛿𝑖+

𝑆

Sδi+Sδi-の時 𝑎 =𝑂𝑆𝛿𝑖

𝛿𝑖

𝑆

Sδi+Sδi-の時

𝑏 = 𝛿𝑖+

𝑚𝑎𝑥 +𝑚𝑎𝑥𝛿𝑖 2

𝛿𝑖+

𝑚𝑎𝑥

Sδi+Sδi-の時

𝑏 = 𝛿𝑖+

𝑚𝑎𝑥 +𝑚𝑎𝑥𝛿𝑖 2

𝛿𝑖

𝑚𝑎𝑥

2. 超高層 RC 造フレーム構造の指標値 2.1 保有耐震性能指標値の算定方法

保有耐震性能指標値(HIS値)は基準地震動の最大速度に 対する限界地震動の最大速度の比率として算定する。限 界地震動は地震応答解析による層間変形角(R)が,静的非 線形解析による骨組の限界状態に達する層間変形角(限 界変形角,RS)に達する時の入力地震動である。骨組の限 界変形角には,使用限界から安全限界までの5つを設定 する。HIS値の算定では,修復限界2は修復限界2’のHIS

値を用いることとして,使用限界・修復限界 1・修復限 界2・安全限界のHIS値を算定する。本研究では梁曲げ降 伏による全体降伏機構のフレーム構造を対象とするため,

各限界変形角の評価には,静的非線形解析による梁の曲 げ塑性率(DF)及び柱等価塑性率(CDF)を用いる。部材の 塑性率と損傷度の関係を図-3に示す3)。なお,梁のDF は両端のDFのうち大きい値,CDFは柱に取り付く梁の DFの平均値(図-4)である。使用限界はDFにより評価し

(表-1),修復限界及び安全限界はCDFから決定される柱

等価損傷度が等しい柱が負担するせん断力の比率により 評価する(表-2)。また,各限界地震動の判定には,使用 限界・修復限界2・安全限界では最大法,修復限界1で は平均法を用いる。詳しくは文献2)を参照されたい。

2.2 耐震性能残存率の算定方法

耐震性能残存率(HR)は層のエネルギー量に基づき評価 することとし,残存エネルギー量はエネルギー吸収能力

(Eu)から消費エネルギー量(E)を除いた値として算出す る。HR及びi層の耐震性能低減係数(ηi)の算定式を式(1),

式(2)に示す。

𝐻𝑅= (1 −∑ 𝐸𝑢∑ 𝐸𝑖

𝑖) × 100[%] (1)

𝜂𝑖= (1 −𝐸𝑢𝐸𝑖

𝑖) × 100[%] (2)

ここで,Euii層のエネルギー吸収能力,Eii層の 消費エネルギー量である。各エネルギー量は,静的非線 形解析及び地震応答解析の結果から算定する。各層の層 せん断力(Qi)と層間変形(δi)のQ-δ関係には,静的非線形 解析から得られるQ-δ曲線を用いる。Euiは静的非線形解 析による安全限界変形時の層間変形(Sδi)及び層せん断力

(SQi)と除荷時変形(OSδi)で定義される面積から算定する

(図-5)。Eiは地震応答解析による最大応答層間変形を,

先に述べたQ-δ曲線上にプロットして得られる最大層間 変形(maxδi)及び,層せん断力(Qi),除荷時変形(Oδi)で定義 される面積から算定する(図-6)。OSδi及び Oδiは,それぞ れSδi及びmaxδiに除荷時変形比率(a)を乗じて算定する。a は地震応答解析から得られる各層の最大応答層間変形及 び除荷時変形の最大値の比率から算定する(図-7)。

また,地震応答解析の際には片寄り変形が生じる場合 があり1)Ei算定時にはこの影響を考慮する必要がある。

そのため,算定したEiから片寄り変形(Δ)及びQiで定義 される面積から算定されるエネルギー量(ΔEi)を低減す ることとする。Δはmaxδiに変形の片寄りの程度を示す片 寄り率(b)を乗じて算定する。bは地震応答解析から得ら れる各層の最大応答層間変形から算定する(図-8)。

DF=1 DF=2 DF=3 DF=4 Mc

My

曲げモーメント[kN・m]

部材変形角 損傷度

1 2 3 4 5 SQi:安全限界変形時層せん断力

Sδi:安全限界変形

0Sδi:除荷時変形

Qi:地震時層せん断力

maxδi:地震時最大変形

0δi:除荷時変形

Q 𝑚𝑎𝑥𝛿𝑖++𝑚𝑎𝑥𝛿𝑖 2

maxδi-

maxδi+

Q

SQi

OSδi Sδi

Eu

i

静的解析によるQ-δ曲線

δ

静的解析によるQ-δ曲線 Q

Qi

Oδi maxδi

E

i Δ

E

i

δ

(3)

1 10 100 1000

0.01 0.1 1 10

PSV[cm/sec]

※1G25X:T1 =1.37[s]

2G30X:T1 =1.72[s]

3G30X:T1 =1.80[s]

3G30X における弾性 1 次固有周期:T1[s]

1 10 100 1000

0.010.1110

Velocity[cm/sec]

Period[sec]

BCJ-L2 OSAKA

1 10 100 1000

0.010.1110

Velocity[cm/sec]

Period[sec]

BCJ-L2 OSAKA

震性能残存率[%]

基準地震動入力倍率 安全限界 修復限界2 修復限界1 使用限界

波形名称 最大速度 最大加速度 継続時間

BCJ-L2 57[cm/s] 356[cm/s2] 120[s]

OSAKA 41[cm/s] 210[cm/s2] 328[s]

※1:使用コンクリートの中での設計基準強度Fcの最大値

※2:使用主筋の中での最大値

※3:基準階重量を柱芯面積(バルコニー含まず)で除した値

準地震動入力倍

最大層間変形角[rad.]

安全限界 修復限界2 修復限界1 使用限界

図-12 骨組モデルの略伏図

(a)1G25X (b)2G30X (c)3G30X

表-4 地震動の諸元 図-13 Takeda モデル k1

※中央防災会議資料 2012 に基づく大阪府の第 2 種地盤の基礎底波

設計年代 第1年代 第2年代 第3年代

モデル名・方向 1G25X 2G30X 3G30X 建築物高さ[m] 75.5 91.7 94.6

階数 25 30 30

基準階階高[m] 2.95 3 3.1

柱芯面積[m2] 787.5 900 936 柱支配面積[m2] 22.5 30.0 39.0

塔状比 2.40 3.06 2.63

Fc [N/mm2]※1 36 48 54 主筋強度[N/mm2]※2 390 490 490 平均重量[kN/m2]※3 14.3 14.9 14.3 T1[sec] 1.37 1.72 1.80 CB 0.130 0.105 0.090

k2

図-10 H

I

R

maxの最大値の対応 図-11 H

R

H

I

の対応 0

5 10 15 20 25 30

0 1/200 1/100 3/200 1/50 1/40

表-3 骨組モデルの諸元 図-9 限界変形角と変形ゾーンの例

M k3

My

MC

θC θy

※変形ゾーン A と B は 使用限界のRSで定義

Mc :ひび割れ荷重 My :降伏荷重

θc :ひび割れ変位

θy :降伏変位

k1,k2,k3:第 1,第 2,第 3 剛性 k3 /k1 =1/1000 除荷時剛性低下率:γ=0.5

Period[sec]

階数

R [rad.]

0 5 10 15 20 25 30

0 1/100 1/50 3/100

階数

R [rad]

使用限界 修復限界1 修復限界2 修復限界2' 安全限界 応答変形例

2.3 限界変形角と指標値

静的非線形解析から算定した各階の限界変形角の分 布と地震応答解析による応答変形の例を図-9に示す。超 高層RC造フレーム構造では,入力地震動の増大に伴い,

特定層の梁降伏が進展して層間変形角が増大する傾向が ある。HI値と最大層間変形角(Rmax)の最大値,HRHI値 の対応関係の概念を図-10,図-11 に示す。一般に,HI 値の増加に伴い,Rmaxの最大値は増大し,HRは減少する。

使用限界及び安全限界の HIS値は特定層の応答変形によ り決定されるが,中間の状態である修復限界の HR は各 層の応答変形が考慮されて決定される。各層の応答変形 は,図-9に示すA~Cの3つの変形ゾーンに区分する。

3. 解析計画

著者らは,既存超高層RC造建築物について3つの設 計年代(第1年代:1971~1989年,第2年代:1990~1999 年,第3年代:2000年~)に分類し,構造特性を表す骨 組モデルを作成している4)。本解析では,その中から,

各 設 計 年 代 に お け る 代 表 的 な 階 数 の モ デ ル で あ る

1G25X・2G30X・3G30Xを解析対象とする(表-3,図-12)。

解析モデルは立体フレームモデルとし,剛床仮定によ り各層の水平変位を等置とする。柱には曲げ・せん断・

軸変形を,梁には曲げ・せん断変形を考慮する。柱には 平面保持の仮定によるファイバーモデルを用いる。ファ イバーモデルにより,曲げひび割れ及び曲げ降伏による 剛性変化を考慮する。梁の曲げ変形には,曲げひび割れ 及び曲げ降伏による剛性変化をトリリニア曲線で評価し たスケルトンカーブにより弾塑性特性を考慮する。なお,

柱や梁のせん断変形は弾性とする。また,柱梁接合部は 仕口パネルによりせん断変形を考慮する。内部粘性減衰

は瞬間剛性比例型とし,1次の減衰定数を3%とする。

梁の曲げに対する復元力特性には,超高層RC造建築 物の設計で通常用いられる Takeda モデル(図-13)を使用 する。また,柱の曲げに対する復元力特性はファイバー モデルにより決定される履歴特性を用いる。

基準地震動には日本建築センター模擬地震動(BCJ-L2) を,特定の地震動には南海トラフを想定した大阪府の第 2種地盤の模擬地震動(OSAKA)を用いる(表-4,図-14)。

Y:5.0m×5

X:4.5m×7

Y:6.0m×5

X:5.0m×6

Y:6.5m×4

X:6.0m×6

A B C A B C

各限界状態のRS

B C

A

1 0

θ

図-14 検討用地震動の擬似速度応答スペクトル

※h=0.05

(4)

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

0 1/100 1/50 3/100

b

R [rad.]

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

0 1/100 1/50 3/100

a

R [rad.]

HISHR[%] HISHR[%] HISHR[%]

使用限界 0.59 97 0.67 96 0.56 97 修復限界1 0.77 94 0.82 94 0.75 93 修復限界2 1.29 65 1.14 81 1.22 81 安全限界 1.50 42 1.55 72 1.43 58

1G25X 2G30X 3G30X

0 20 40 60 80 100

0 0.6 1.2 1.8 ηi[%]

HI値 0

0.3 0.6 0.9 1.2 1.5 1.8

0 1/100 1/50 3/100

HI値

R [rad.]

0 20 40 60 80 100

0 0.6 1.2 1.8

HR[%]

HI値

図-16 H

I

の推移とH

R

及び

η

i

(b)

η

maxH

I

の関係 (a) H

R

H

I

の関係

HI 値 HI 値

R [rad.]

a b a b

基準地震動 算定値 算定値 特定層の値 -

特定地震動 算定値 算定値 0.5 -

消費エネルギー(Ei) エネルギー吸収能力(Eui) 入力地震動

図-18

b

と最大層間変形角 0

0.3 0.6 0.9 1.2 1.5 1.8

0 1/100 1/50 3/100

HI値

R[rad.]

変形ゾーンA 変形ゾーンB 変形ゾーンC 使用限界 安全限界

表-6 エネルギー量算定に用いる

a

b

R [rad.]

図-17

a

と最大層間変形角 図-15 H

I

R

maxの関係(3G30X)

※使用限界及び安全限界は指標値決定時のHIS値とRmaxの最大値

R [rad.]

表-5 各限界状態と指標値

※安全限界のHIS値決定層における安全限界変形時の値を全層に適用

4. 骨組モデルの保有耐震性能評価 4.1 保有耐震性能指標値の評価

本節では,解析モデル3棟を対象として,HI値を0.1 から1.8まで0.1刻みで連続的に増大させた地震応答解析 を行い,各限界状態に対応する保有耐震性能指標値(HIS

値)を算定する。図-10の具体的な例として,3G30Xにお けるHI値と最大層間変形角(Rmax)の関係を図-15に示す。

また,表-5に算定した指標値を示す。なお,図中のプロ ットは各HI値における全層のRmaxを変形ゾーン(図-9)に よって区分したものである。

HI値の増大に伴いRmaxは増大していき,HI値が安全限 界におけるHIS値(1.43)を上回ると各階のRmaxの分布が大 きな範囲に広がる傾向が見られる。HIS値は特定層の応答 変形によって決まるため,各階のRmaxの分布状況の違い を表すことは難しい。

4.2 耐震性能残存率の評価

図-11 の具体的な例として前節と同様にして算定した,

解析モデル3棟の耐震性能残存率(HR)及びHI値の関係を 図-16(a)に示す。また,各HI値における最小の耐震性能 低減係数(ηmax)及び HI 値の関係を図-16(b)に示す。各限 界状態におけるHIS値とHRを表-5に示す。いずれのモデ ルでもHI値が修復限界2のHIS値に近くなるとHRが大き く低下しているが,2G30Xでは低下が緩やかであり,ηmax

の低下が著しい。これは,HI値の増大に伴い,1G25X及

び 3G30X では比較的多くの層で変形が進むのに対し,

2G30Xでは特定層の変形が進むためである。

5. 除荷時変形比率及び片寄り率の検討 5.1 除荷時変形比率の検討

特定の地震動入力時に応答変形が安全限界変形に達 しない場合にはエネルギー吸収能力(Eui)算定に用いる除 荷時変形比率(a)を直接算定することはできない。そこで,

安全限界変形時のaを設定するため,aと最大層間変形

角(Rmax)の関係について検討する。前章のHR算定時のa

Rmaxの関係を図-17に示す。aはRmaxの増大に伴い増 加し,最大値は概ね0.6程度である。また,3棟の安全限 界変形(概ね1/60~1/50[rad.])ではaは概ね0.5程度で ある。したがって,本研究では特定の地震動入力時のEui

は,aには0.5を用いて算定するものとする(表-6)。

5.2 片寄り率の検討

除荷時変形比率(a)と同様に,片寄り率(b)とRmaxの関係

(図-18)について検討する。bは,Rmaxの増大に伴い増加

する傾向にあるが,ばらつきが大きい。また,その最大 値は概ね0.2程度である。bは地震動入力時の消費エネル

ギー(Ei)算定に用いるため,応答変形に対応して算定する

ことができる。したがって,本研究ではbには応答変形 に対応した値を用いてEiを算定するものとする(表-6)。

200 4060 10080

0 0.61.21.8

HR[%]

HI値

1G使用 1G修復1 1G修復2 1G安全

2G使用 2G修復1 2G修復2 2G安全

3G使用 3G修復1 3G修復2 3G安全

200 4060 10080

0 0.61.21.8

HR[%]

HI値

1G25X 2G30X 3G30X

3G使用 3G修復Ⅰ 3G修復Ⅱ'

3g安全 2G使用 2G修復Ⅰ

2G修復Ⅱ' 2G安全 1G使用

1G修復Ⅰ 1G修復Ⅱ' 1G安全

0

0

A(1G25X) B(1G25X) 変形ゾーン

A(2G30X) B(2G30X) C(2G30X) A(3G30X) B(3G30X)

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

0

a

R [rad.]

green orange

red green

orange red green orange red

C(3G30X)

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

0

a

R [rad.]

green orange

red green

orange red green orange red

C(1G25X) 0

A(1G25X) B(1G25X) 変形ゾーン

A(2G30X) B(2G30X) C(2G30X) A(3G30X) B(3G30X)

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

0

a

R [rad.]

green orange

red green

orange red green orange red

C(3G30X)

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

0

a

R [rad.]

green orange

red green

orange red green orange red

C(1G25X)

(5)

0% 20% 40% 60% 80% 100%

柱損傷度別比率[%]

R HR

無被害 損傷度2の部材がない R使用RS - 軽微 損傷度2の部材がある 使用RSR HRR1HR 小破 損傷度3の部材がある - HRR2HRHRR1

中破 損傷度4の部材がある R安全RS HRHRR2 大破 損傷度5の部材がある 安全RSR -

損傷レベル 判定 被災度

表-7 被災度の区分と判定指標

0% 20% 40% 60% 80% 100%

割合[%]

1G25X 2G30X 3G30X

HRR1[%] 90 91 88 90

HRR2[%] 64 77 74 75

モデル 判定値

0% 20% 40% 60% 80% 100%

損傷度別比率[%]

(b)2G30X

図-19 H

R

と梁の損傷度別比率 (a)1G25X

(c)3G30X 0% 50% 100%

割合[%]

損傷度1 損傷度2 損傷度3 損傷度4 損傷度5

表-8 被災度の判定値

※各損傷度ごとの比率は PH を除く,一階柱より上の全ての 梁について終局曲げ耐力によって重みづけして算定した値

※損傷度 3 の比率が 0.3[%]

※損傷度 3 の比率が 0.1[%]

6. 被災度の評価方法 6.1 被災度と評価の考え方

本章では耐震性能残存率(HR)と建築物の損傷状況の関 係から被災度の評価方法を提示する。本研究における被 災度の区分は無被害,軽微,小破,中破,大破とする。

各被災度における損傷レベルは,無被害では全ての部 材の主筋が降伏前(損傷度1)で,損傷度2の部材がない状 態,軽微では損傷度2の部材がある状態,小破では損傷 度3の部材がある状態,中破では損傷度4の部材がある 状態,大破では損傷度5の部材がある状態とする。

被災度の無被害は骨組の使用限界状態における定義 と同じであるため(表-1),無被害の判定はHRではなく使 用限界状態における限界変形角(使用RS)を用いて行う。ま た,前述したように超高層RC造フレーム構造では入力 地震動の増大に伴い,特定層の変形が増大する傾向があ る。その場合,他の層の変形が特定層に比べて小さいた め,HRがあまり減少しないことも考えられる。そのため,

大破の判定についても HR ではなく安全限界状態におけ る限界変形角(安全RS)を用いて行う。軽微,小破,中破の 判定は算定したHRとHRR1及びHRR2の比較によって行う。

各被災度と想定する損傷レベル及びその判定方法を表-7 に示す。なお,HRR1はこの値を下回ると損傷度3の部材 があると考えられる値,HRR2はこの値を下回ると損傷度 4の部材があると考えられる値である。

6.2 梁の損傷度と耐震性能残存率

4 章で算定した耐震性能残存率(HR)及び梁の損傷状況 の関係を図-19 に示す。なお,梁の損傷状況は静的非線 形解析の結果から判定される梁の損傷度で評価する。各 梁の損傷度は静的非線形解析から得られる層間変形角が,

HR 算定の際の地震応答解析から得られる層間変形角(R) と等しい時の値を用いる。また,梁の損傷度別比率の算 定では,全梁の終局曲げ耐力の総和に対する対象梁の終 局曲げ耐力の比率によって重みづけすることにより,終 局曲げ耐力の大きい梁の損傷度の割合を反映する。

骨組モデルによりHRは異なるが,HRが95[%]を下回 ると梁の損傷度が2に達し,90[%]を下回ると損傷度3,

75[%]を下回ると損傷度4に概ね達する傾向がある。そ

れ以降は層の応答変形の分布が骨組モデルにより異なる ため,損傷度とHRの対応を設定することが難しい。

6.3 被災度の判定値

図-19 に示す耐震性能残存率(HR)及び部材の損傷状況 の関係から,被災度の判定に用いるHRR1及びHRR2の値を 検討する。表-8に各モデルにおけるHRR1及びHRR2の値 を示す。本解析では,いずれの骨組モデルでもHRR1が90

[%]前後であることから,HRR1は90[%]とする。同 様に,いずれのモデルでもHRR2が75[%]前後であるこ

とから,HRR2は75[%]とする(表-8)。

97

83 100

99

96 91

75 74 66

HR[%] HRR1

HRR2

比率[%]

98

79 100

99

95 90

64 42 39

HR[%] HRR1

HRR2

比率[%]

98

86 100

99

94 91

74 47 27

HR[%]

HRR1 HRR2

比率[%]

(6)

1.0 1.5 2.0

HR[%] 95 79 61

ηmax[%] 91 63 6

Rmaxの最大値[rad.] 1/168 1/87 1/50

階数 23 23 23

被災度 軽微 小破 大破

入力倍率 0

5 10 15 20 25 30

0 1/200 1/100 3/200 1/50 1/40

階数

R[rad.]

図-20 最大層間変形角と限界変形角 表-9 被災度判定結果

表-10 入力倍率と梁の損傷度別比率

※Rmaxが最大となる階数

1 2 3 4 5

1.0 92 8 0 0 0

1.5 17 58 25 0 0

2.0 12 24 38 21 5

入力倍率 損傷度

0 5 10 15 20 25 30

0 1/200 1/100 3/200 1/50 1/40

階数

層間変形角[rad.]

使用限界 安全限界 1.0倍入力 1.5倍入力 2.0倍入力 7. 特定の地震動に対する被災度判定の適用

本章では,3G30Xモデル1棟を対象に,特定の地震動

として,OSAKA波を1.0倍,1.5倍,2.0倍した場合につ

いて,被災度の判定例を示す。

図-20 に各入力倍率における最大層間変形角(Rmax)と 使用限界及び安全限界状態における限界変形角(使用RS

RS)の関係を示す。また,表-9に各入力倍率における耐

震性能残存率(HR)等の値と被災度の判定結果を示す。

入力倍率が1.0倍ではRmax使用RSを上回っており,か つHRHRR1より上である事から軽微と判定される。入 力倍率が1.5倍ではHRが79[%]であり,HRR1(90[%])以

下かつ HRR2(75[%])より上である事から小破と判定され

る。入力倍率が2.0倍ではRmax安全RSを上回っている事 から大破と判定される。また,判定結果と梁の損傷状況 との対応を見ると(表-10),入力倍率が1.0倍では判定が 軽微であり梁の損傷度が2,入力倍率が1.5倍では判定が 小破で梁の損傷度が3,入力倍率が2.0倍では判定が大破 で梁の損傷度が5に達しており,想定した損傷レベル(表 -7)と概ね対応している事が分かる。なお,入力倍率2.0 に対する大破の判定は 22~24 階の変形の増大に伴う梁 の損傷レベルに着目した結果である。

8. まとめ

本研究では,超高層RC造骨組3棟を対象として,静 的非線形解析及び地震応答解析を実施し,各限界状態の 指標値を算定するとともに,耐震性能残存率と部材の損 傷度の関係を分析し,被災度の評価方法を検討した。次 に,特定の地震動に対する被災度の評価を行い,評価方 法の妥当性について考察した。本研究の範囲内であるが,

以下の知見を得た。

1) 耐震性能残存率はHI値の増大に伴い低下し,HI

が修復限界2のHIS値を超えると大きく低下する傾 向がある。

2) 除荷時変形比率は最大で0.6程度であり,安全限界

に達した層では概ね0.5の値であるため,エネルギ ー吸収能力の算定では0.5を用いてよい。

3) 片寄り率は最大で0.2程度であるが,ばらつきが大

きいため,消費エネルギーの算定では応答値を用 いて算定することがよい。

4) 被災度の評価方法として,使用限界及び安全限界状 態の限界変形角並びに耐震性能残存率による方法 を提示し,被災度区分の判定値を示した。

5) 上記の評価方法による特定の地震動に対する被災度 の判定結果は,梁の損傷状況に概ね対応した。

今後,多くの骨組モデル及び異なる特定の地震動を用 いて耐震性能残存率を算定するとともに,被災度の評価 を行い,被災度の判定値について考察していきたい。

謝辞

本研究は科研費「多数回繰返し変形を受ける既存超高 層鉄筋コンクリート造住宅の耐震安全性評価及び対策 (課題番号:25420569)」の助成を受けたものである。こ こに記して深甚なる謝意を示します。

参考文献

1) 川野千咲,和泉信之ほか:多数回繰返し変形を受け る既存超高層RC造建築物の安全限界指標値と残存 耐震性能の評価,コンクリート工学年次論文集,

vol.37,No.2,pp.739-744,2015.7

2) 石塚圭介,和泉信之ほか:既存超高層鉄筋コンクリ ート造建築物の保有耐震性能評価と指標値に関す る考察,コンクリート工学年次論文集,vol.35,No.2,

pp.907-912,2013.7

3) 秋田知芳,和泉信之ほか:既存超高層鉄筋コンクリ ート造建物の保有耐震性能指標と制振補強効果,構 造工学論文集,vol.60B,pp.1-12,2014.3

4) 秋田知芳,和泉信之ほか:既存超高層鉄筋コンクリ ート造建築物の構造特性と骨組モデル,コンクリー ト工学年次論文集,vol.33,No.2,pp.925-930,2011.7 1

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