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日本 管理 会計 学会 誌
管 理 会 計 学 2009 年 第 17巻 第2号
論 文
株 式 所有構 造 と利 益マ ネ ジ メ ン ト
山本 達司
〈論 文 要旨〉
本 論 文の 目的は, 「日本 企 業の株 式所有構 造の 特徴で あ る銀 行 支配 ,相互 持合が,経 営者の利益
マ ネジ メン ト行 動 に どの よ うに影響を 与 えるの か 」を理論的に説 明する こ と である.ゲーム理論
の手法を用い て,経営者と株主 を プレイ ヤーとする 2期問モ デル の分 析 を 行っ た.分 析 結 果は,次 の 2点に要約 され る.(1)日本企業は株式 所有構造に か か わ らず,
一般に利 益マ ネジ メ ン トを 行 う 傾 向がある.(2)株式所有構造に よっ て 目本 企業の利益マ ネジ メ ン ト傾向が異 な り,最 も 強い の が 株式相互 持合企 業,次に 金融機関の 支配 力が強い 企 業,最 も 弱い のが特 別 な 支 配 的 株主 を もた な
い 企業ある.
〈キーワー ド〉
株 式所有 構 造, 金 融機 関支 配, 相 互 持 合, 利 益マ ネ ジメ ン ト
StructUre of Shareholdings and Earnings Management
Tatsushi Yamalnoto
Abstract
The purpose of this paper is to theoretically explain the relationsh 韮ps between the characteristics of shareholdings in Japanese firms and earnings management . Using a method of game theory, we had
two −period model analysis in wh 韮ch the players are a manager and a shareholden The results are summarized as fbnows :
(1)Japanese fiTTns tend to manage earnings regardless ofthe characteristics of shareholdings .
(2)The tendency of eamings management depends ロpon the characteristics of shareho 玉dings. Firms
whose main shareholders ’
are mutual holding firms have the strongest tendency. The firms which are
governed by banks have the second strongest . Those which are govemed neither by mutual holding
firrns nor by banks have the weakest .
Key words
Structure of shareholdings , Bank shareholder , Mutual heldings , Earnings managetnent
2008年4月 1日 受付 2009年2月23 日 受理 名 古 屋大学 経 済 学 研 究 科
Submitted l April 2008 Accepted 23 February 2009
Graduate School of Economics, Nagoya University
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管理 会計 学 第ユ7巻 第 2号
1 . は じ めに
明 らか な 粉 飾 決 算 は 別 と し て も,通 常,企 業 に お い て 利 益 マ ネ ジ メ ン ト (earnings management ;以下, 「EM 」)が 行 わ れてい る数 多 くの 証 拠 が ある 1.経営 者 が EM を 行 う理 由は, 株 主と経 営 者 間の契 約 に おい て会 計 利 益 が 重 要 な 役 割 を 果 たし経 営 者は EM に よ り様々 なメ
リッ トの 享 受 を 期 待 でき るか らで あ る 2朋 示 的 なメ リッ ト としては経 営 者 地 位 の 確 保経 営 者 報酬 の 増 大黙 示的 なメ リッ ト と し て は企 業 内に おけるプラ イベ ー ト ・ベ ネフ ィ ッ ト (perks)
の獲 得 な どが ある だ ろ う.これ らは所 有 と 経 営の 分 離 によっ て発生す るエ ージェ ン シ ー ・コ ス
トを形成 し,そ の一部は 不 可 避で あ る と考え ら れ る 3.
しか し,エ ージ ェ ン シ ー ・コ ス トは,経 営 者が情報の非 対 称 性 を 利 用 して得る経 済 的 レ ン トで あ り,その発 生 を最小 限に と ど め るこ と が社会 的に 望 ま しい こ と は 明ら か で ある 4従 っ て,そ の
発 生 に大 き な 影響を 及 ぼ す EM が な ぜ 行 わ れるのか,その 原因を解明で き れ ば,株 主は経 営 者 と
の 間で よ り効率 的な契約 を実 現 す る こと がで きる と考え られる.そ こ で本論 文の 目的は ,EM が 行 わ れ る原 因の 1つ とし て,銀 行 支配 ,相互持 合とい っ た 日本 独 自の株 式所有構 造 を 考 え,そ れ ら が経 営 者の EM 行 動に どの よ うな影 響を与える か を明 らか に するこ とで ある.
EM は ,会 計手 続 の 選 択 適 用 に よ る 会 計 利 益 マ ネ ジ メ ン ト (accounting earnings
management ;以 下,「AEM 」) と,取 引 実 態その もの を 変 更 する実 態 利 益マ ネ ジ メン ト (real earnings management ;以 下,「REM 」) と に分 類 され る 5通 常,経 営者は 自らが希 望 する報告 利益 を 公表 す るた めに,まず GAAP 内の AEM を 行い ,それで十分で な け れ ばGAAP を逸脱 する
AEM ,さ らに REM を行 うと考え ら れる.し か し,AEM で あ れ REM で あ れ,結果的に経営者の希 望 す る報 告 利 益の 公表 を 目的と し て行 われ る た め,本 研究で は,AEM とREM を区別せず,その全 体を EM と と ら えて分 析 す ること にする.
日本 企 業の 経 営 者 持 株比率 と EM に 関 する 理論 的 研 究 に は,[[leshima and Shuto(2008)が あ る.[lbshima and Shuto(2008 )は,経営者の株式保有比 率が高ま る にっ れて EM が減 少 す るが,あ
る程度そ れが高 まる とか えっ て EM が増 加 し,さ ら に 高 ま る と 再 び EM が減少する傾 向が あ る
こ と を 理 論分析を通 し て主張し,そ の結果を実証 分析に よ り検 証 して い る.
また,日本 企 業の株 式 所 有 構 造 とEM に関 する先 行 研 究に は,次のものが ある,木村 (2004)は, 分析期間を 1984 年か ら 2000 年,分 析 対 象 を日本の各 証 券 取 引 所の上 場 企 業 と する実 証 分 析 を 行い ,金 融 機 関 に よ る株 式 保 有が経 営 者の 裁 量 的 会 計 行 動 (AEM ) を抑制する と主 張してい る. 首藤 (2006)は経 営者の減益 回 避 行 動に注 目して,分 析 期 間 を 1991 年か ら1999年,分 析 対 象 を 東 京,大 阪,名 古 屋 証券取引所の 上揚 企業とする実証 分析を行い ,金融機関に よ る株式保有は減 益 回 避の 利 益 調 整 (AEM )を抑 制 す る一
方,株 式 相互持 合 はそ れ を 増 加 させ ると主 張 し て いる. こ の よ う に経 営 者の株 式 保 有 とEM の 関係につ い て は理 論,実証 ともに研究が行われて い る.
し か し,金融機関,持合企業の 株 式 保 有 と EM の 関 係 にっ い て は,実 証 研 究は行 われ てい るが,筆 者の知る限 り理 論 的 研 究は 見 ら れ ない よ うに思わ れ る.そこ で本 論 文で は , 「日本 企 業の株 式所 有構造の特徴であ る銀 行支配,相互持 合が経 営 者の EM 行 動に どの よ うな 影響を与 えるの か」 につ い て 理 論モ デル を 通 し て分析するこ と に し た い .
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株 式 所 有 構造と利 益マ ネジ メ ント
2 . 理 論モ デル
2ユ プ レイ ヤー
モ デル に おける プ レイヤーは経営者と株主 で,ともに リス ク 中立 的で あ る と仮 定 する .株主 と
し て は一般 株 主
,金 融 機 関,相互持 合 企 業 を想 定 し,単 純化 の た め に,いずれ か の株 主 が 企 業のす
べ て の株 式 を所 有 す る とす る.そ して,どの株 主が株 式 を 所 有 し てい る か に応じ て ,
「一般 株 主 支 配 型 企 業」,「金 融 機 関 支 配 型 企 業」 , 「持 合 株 主 支 配 型 企 業」 と呼ぶ こ とにす る.モ デル は 2 期 間モ デル で あ り 6,経営者 と株主 は 2期 間の期 待 利 得の 合 計 を 最 大 化 す る よ うに行 動 す る とし,
単純化の た め に貨幣の 時 間価値は無視するこ と にする.
2.2 1期の イベ ン トと利得
イベ ン ト
図 1は 1 期のイベ ン ト・ツ リー (以 下,これ を 「基本モ デル 」 と呼ぶ )で あ る.まず企業 業績
に は Good 利 益 とBad 利 益のみ が存 在し,経 営 者はそ れぞ れの 起こ る確 率 が 112で ある と 予想 し てい る.Good 利 益が起こ っ た 時経 営 者は EM を行わず (行 動 「Honest」 を 選 択 し),Bad 利 益 が 起こっ た 時,経 営 者は EM を 行 うか ど うか (行 動 「EM 」 か行 動 「Honestj か)を選択する.,
そして EM を 選 択 し た時,その後に EM の成 功 (Not Guilty,以 下 「NG 」)また は不 成 功 (Guilty, 以 下 rG」)が起こる と す る.EM の成功 と は, 会 計 利 益マ ネジ メン トにっ い て は,監 査 人が企 業
の 報 告 利 益 を 適正 と判 断し, 実 態 利 益マ ネジ メン トに っ い て は,企 業の 最適行 動か らの 乖離が,
監査役 ,社外 取締役等に指摘 さ れなか っ た こ と を 意味 す る.そ して経 営 者 は,EM の 成 功 確率 が
q (0≦g≦i)で あ る と 予想 し て い る とする.
株 価は報 告 利 益に 反 応し,高い 報 告 利 益は株 価 上 昇を,低い 報 告 利 益は株 価下 落 を 招 く と仮 定
する.そ し て単純化のた め,EM を用い て高 利 益 を報告し た こ と が暴 露 され れば,経営者は 解 雇 さ れ,株 価は 回復不 可能 な 程 度に下 落 する と し,こ の時 点でゲームは終了 す る.ま た株 主は 1期末に, 株式を継続保有す る か売却 する か (行動 「Hold」 か行動 「Sell」 か〉を選 択 す る.
一般 株 主はナ イーブ で,「当 期に株 価 が 上 昇 し てい れ ば次期も株価が上昇 し,反対 に 下落 し て いれば次 期 も 下落す る」 と予想する と す る.そのた め,高 利 益が報 告 され た 時,EM が暴 露 さ れ た 場 合 を 除い て ,
一般 株 主は Hold を 選 択 する と仮 定 する.金融機 関株 主,持 合企業株 主は後 述す る
よ うに一般株主よ り株式の保有傾向が強い の で,金 融 機 関 株 主,持 合 企 業 株 主 につ い て も,高 利 益
が報 告され た時,EM が暴露さ れ た場 合 を除い て,Hold を 選 択 する と仮 定 する,
次に,Bad 利 益が報 告 さ れた場 合 にっ い て考 える.金融機 関株主,持合企 業株主 は,一般 株主 よ
り企 業にっ い て よ り 正確な情報を もっ て い ると考え られ,金 融 機 関 株 主 と 持 合 企 業 株 主の 情 報 量は同じと仮 定 する.こ こで金 融 機 関株主,持 合 企業株主 が Sellし ようとす る時,金融 機 関 株主,
持 合 企 業 株 主は,企 業にっ い て 同 じ悲観 的情報をもっ て お り,そ の情 報は,一般 株主 が もっ てい る 情 報よ りも正確で あ る.その た め,金融 機 関 株 主持 合 企 業 株 主が Sell し よ う と す る時,そ の 受 け
皿 とし て株 式 を購入するの は,
一般 株 主で あ る と仮 定 する.
また一般 株 主は楽 観的情報 (good news )を 正確 に評 価 す る能 力 を もた ない が,悲 観 的 情 報
(bad news )につ い て は,ある程 度,正確に評 価 する能 力 をもつ と仮 定す る.これ は,短期的 な 売買 によ り キャ ピ タル ・ゲイ ン を 得よ う とする一般株主が株 式を保有し続 ける こと に よる 機 会損失 に敏感で あ るとい う事 実 を 反 映して い る.し か し,金 融 機 関 株 主持 合 企業株 主は 一般株主よ り情 ・
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管 理 会 計 学 第 17巻 第2号
報 優位に あ るの で厂 般 株主 が SeU し よ うとする時,そ れ を 購入する こ とはない ,これ に 対 して,
潜 在 的 な一
般 株主 は,
一般に 「自分は,市 揚 が 適 切に評 価 し てい ない 企 業 を 探し出 すこ と が で き
る 」 と考 えて い るの で ,現在の一般株主が Sellする株 式 を 購入す るの は,こ の よ う な 潜 在 的 な一 般株主 で あ る と考え ら れ る.従っ て厂 般 株 主が Sellす る 時,他の潜在 的な一
般 株 主が購入 する と 仮 定 する.
図1 基本モ デル
【ma , b】(m >】)
[a,b](a>O, b>0}
[0,0】
[石・e・bl(n >L°〈es〈1)
[一 , e. bl (α ≧1,0くe.く1)
1利得の組は 【経 営 者 利 得,株 主 利 得 】であ る。
聾
プ レイ ヤーの利 得は
, [経 営 者 利 得,株 主 利 得 ] とし て 図 1に 示 さ れ て い る (図が煩 雑に な る
の を 避 ける た め,均衡に影 響を 与 え ない利得は省 略し てい る) 株 主 利 得は報 告 利 益の 増 加 関 数 と考 える。そし て経 営 者 利 得は次の よ う な 特 徴 を もつ とす る.
○ 真 実の利 益 が Good 利 益で ある場 合
真実の利 益が Good 利 益で ある揚 合,そ れが Bad 利 益で あ る場合よ り,経 営 者 利 得 は大 きい.
○真実の 利益が Bad 利益 で あ る場合
EM 成功,EM 失敗 Honest後の Sell,Ho皿est 後の Hold,そ れ ぞ れの ケース の 経営者利得につ い
て,次の よ うな 特徴が ある とする .
・EM 成 功のケース の経 営 者 利 得が最 も大 きい .
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