3. 1. 3
経 営 者の モ ラル ハザー
ドタ
ー
ゲッ ト企 業の経
営
者は,
必 ずしも株 主の た め に行 動す
る と は 限らない.
所有
と経営
が分離
した
現代
企業
に おい て は,経 営 者は 自己の利 得 を 最 大化
す るよ う に 行 動 す るで あ ろ う.
そし て経 営者
の利 得に は,経 営
者 報酬 の よ うな 金 銭 的 な利
得 も あ れ ば経
営 者 地位
の 確 保の よ う な 非 金 銭 的 利 得 も ある.
モ デル で は,
ター
ゲッ ト企 業の 経 営 者 は 金 銭 的 利 得 と 非 金 銭的
利 得の合
計 を 最 大 化 す る よ うに行 動 す る と仮 定 す る.
3 . 2
モデ
ル の構 造
◆ プレイ ヤ
ー
プ レイヤ
ー
はTOB
企業
と ター
ゲッ ト企業
の経営者
とし,ど ち らもリス ク中
立 的で あ る と仮 定 する。 TOB
に お い てTOB
企 業は,
ター
ゲッ ト企
業
の 全 株 式N
株の取 得 を め ざ す と する.
そ し て,
自然がTOB
の 成 功・
失 敗 を 決め る とす る.
◆ タ イ ム ラ イ ン
ゲ
ー
ムに おい て は,次の よ
う
なタ イ ムラ イ ン を 想 定 す る.
TOB
企業
はター ゲ
ッ ト企業
の経営者
にTOB 価格 T
∈{ T
.,TL } ( T
. >T
,)
を提示 し,TOB
の提 案 を 行 う.
タ
ー
ゲッ ト企業
の経 営者
は,
そ の提案
に対 して 同意す
る(Accept
),
同意 しない (Reject )
の いず
れか を 選 択 する.
同意 しなかっ た と き再交
渉
が 行 われ, TOB
企業
は ター
ゲッ ト企業
の経 営 者に継 続
雇 用を保証 する と ともに,
TOB
成 功 後の経 営 者 報 酬 額 を 提示する.
経 営 者は再 交 渉の内 容に応 じ る(
Yes
),
応 じない (No
)の い ず れか を 選 択 する.
経 営 者が
Accept
ま た はYes
を選 択 し た とき 友 好 的 丁OB
が実 行 さ れ,No
を 選 択 した と き 敵54
N工 工
一
Eleotronio LibraryThe Japanese Association of Management Accounting
NII-Electronic Library Service
The Japanese Assooiation of Management Aooounting
市場の非 効 率 性とTOB 戦 略
「 日本にお け る 理 論 と ケ
ー
スー
対的
TOB
が実 行 され る.
自然
がTOB
の成
功,
失 敗 を 決 め る.
TOB
が成 功 した 場 合,
経 営 者 はAccept
を 選 択 し ていれ ば 退 職 金 を得
て退 職 し, Yes
を 選 択 して い れ ば 継 続 雇用 され
, No
を 選 択 し てい れ ば退職金 が支
払わ れ ずに解 雇 さ れ る.
◆ タ
ー
ゲッ ト企
業
の 経 営 者 の利得
タ
ー
ゲ ッ ト企業の経 営 者の 利 得Y
は ,次の とお り とする.
・
αTi
(経 営 者がAccept
を 選 択して ,TOB
が成 功 した と き )・ B
,+Ri
(経 営 者が再 交 渉でYes
を 選 択し て,TOB
が成 功 した と き )・0
(経 営者
が再 交 渉でNo
を 選 択 して,TOB
が成 功 した と き )・ B
。+R
。(
TOB
が失 敗 し た と き )(α は 正の
定
数 ;i
=L
,H )
TOB 価
格T
∈{ TH
,TL }
は,ター
ゲ ッ ト企業経 営者
に対す
るTOB
企業
の 評価
と考
え ら れ るの で,
経営者
がAccept
し て 退職す
る ときは,
そ の 評 価に応 じ た退 職 金 aT ,(
」=
五,
H )
が支 払われ るとす る.
そして経
営 者が経 営 者 地 位 に感 じるベ ネフ ィ ッ トは,
金 銭 単 位に換 算 するこ とが可 能で ある と仮 定 する. Bo
は,TOB
の提 案 前に経 営 者 が 経 営 者 地位
に感 じ てい たベ ネフ ィ ッ トの金 銭 換算
額 とす る
. R
。は, TOB
の提 案 前 に お け る 経 営 者 報 酬 額 とす る.
そ し てTOB
が 失 敗 した と き,
そ れらは継 続 す る と する
Bt ( i
≡L
,H )
は経
営 者が再 交 渉 によっ て 獲 得 した 経 営 者 地位
に感 じ るベネフィ ッ トの金 銭 換 算 額 とし,
R
,( 1
= ム万)
は, 経 営
者が 再 交 渉に よっ て獲 得 し た経営 者
報酬 額 とする.
さて,高い
TOB
価 格TH
の 提 案 をReject
した場合 , 経営者
はTOB 成
功 後 の経 営者
地位
に も 大き なベ ネフィ ッ ト
B
. を 感 じ てい る と考 え られ,
そ の こ と がTOB
企 業に判 明 する。
そのた め再 交 渉に おい て提示 され る経 営 者 報 酬は低 く抑 えら れ る と考
え ら れ るE
こ の こ と を 表すた め に,
次の 関係
を仮 定す
る.
BH
+RH
< αTH …
一
方,
低いTOB
価 格TL
の提 案をReject
し,再 交 渉が提 案 され る と, TOB
企 業の買 収 願 望が強い こ とが経 営 者 に 判 明 す る
.
そのた め再
交 渉におい て高い経 営者 報
酬 を 提示 せ ざるを え ない.
この こ と を 表 す ため に
, 次
の 関 係 を仮
定す
る.
55
N工 工
一
Eleotronio LibraryThe Japanese Association of Management Accounting
NII-Electronic Library Service
The Japanese Assooiation of Management Aooounting
管理 会計 学 第 ユ7巻 第2号
B
,+R
,〉 αTL …
さ らに,経 営 者が経 営 者 地 位に感 じるベ
ネ
フ ィ ッ トの金 銭換算 額
につ い て, 次
の関 係を仮 定 す る.
B
, <BH
くBo
◆
TOB
企業の利 得 と資金制 約TOB
企業
の 利 得X
は, 次
の よ うに表 され る とす
る.
・ V
+7
’− T
,N 一
αTi ( 経営者
がAccept
を 選択 して,TOB
が成 功した と き )・0
(経 営 者がAcc6pt
を 選 択 して, TOB
が失敗
し た と き)
・ 7 − ℃
ノ〉− R
,(経 営 者が再 交 渉で
Yes
を選 択 して,TOB
が成 功
し た とき)
・ 0 ( 経 営者
が 再交渉
でYes
を 選択 し て, TOB
が 失 敗 した と き)
・ V
+V
’− T
,?〉− C
(経
営者
が再 交 渉でNo
を 選 択し て,TOB
が成
功し た と きン
・− C
(経
営 者 が再交渉
でNo
を選択 し て, TOB
が 失 敗 した と き )(
’= 五,H )
TOB
が失 敗 し た場合
,M
&A
は行わ れ てい ない の で,経
営 者 がNo
を 選 択 した と き を 除いて ,
TOB
企 業の 利 得 はゼ ロ と する.
経 営 者がNo
を 選 択 し た と き は激
対 的TOB
のコ ス トC
が発 生す
る と し, TOB
企業
の 利得
は一 C
となる. 一
方, TOB
が成
功 し た場 合, TOB
企業
は ター
ゲッ ト企 業の企 業 価 値
V
を入 手 し,経 営 者 が 再 交 渉でYes
を 選 択した 揚 合 (経 営 者が継 続 雇 用 さ れる場 合 ) を 除い て ,経 営 者 交 代 によう
企 業 価 値 の増 分 としてV
’を得 る とす る.
そして 買 収 代fU
T
,N
が支
払わ れ る と ともに, 経
営者
がAccept , Yes , Reject
を選 択 し た そ れ ぞ れ の 場合
に応
じ て, 経 営者
の退職金 α
7 } 経
営者
報酬R
,, 敵
対的 TOB
の コ ス トC
が支
払わ れ る とす
る( i
=L
,H ),
こ こに おい て,
敵 対 的 丁OB
の コ ス トC
に は訴訟費
用 等 が 含 まれ るため,C
は非 常に大 き な 値で ある と 仮 定 する
.
そ し て
TOB
企業
は, TOB 資
金浸 を所有
し て お り,
買 収代
金T
,N
な ら び に経営者
の 退職 金α℃ ,
経営
者報
酬R
,, tw
対 的TOB
の コ ス トC
は,
このTOB 資
金か ら羣
払 われ る とす
る(
∫=L , H ).
さ らに,
TOB
企業
の利得 X
に関
し て,次
の 関 係を仮
定 す る,
ET ( 端
c。。T)
>E
τ(
κ盈
CEPア)
>Er ( xS
,,)
>E7 α 昆
∫)
>Er α 鮎 )
>E
,( X 馬 ) …
(
E
ア( ・ )
:TOB
企業
の期待値を 表すオペ レー
タ)こ の 仮 定は,次の
2
つ の こ とを 意 味 する.
第一
に,経 営 者 行
em
Accept
,Yes
,No
に対 す るTOB
企 業の期 待 利
得
につ い て は, Accept
の 場合
が 最も高
く,
次はYes
の 場合
で, 最
も低い の がNo
の場合
56
N工 工
一
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市 場の非 効 率性 とTOB 戦 略
一
日 本にお け る 理 論 と ケー
スー
である
.
第二 に,Accept
,Yes
,No
それ ぞ れの 場 合に お いて,TOB
企業
が 低いTOB
価 格T
, を 提示 した と き,高い
TOB
価 格TH
を 提 示 した と き よ り期 待 利 得 が 高 く なる.
3 . 3 均 衡
TOB
企業
の問 題 は,自社
の資
金 制約
と経営者
の モ ラル ハザ ー
ドを前
提 と し て,TOB
企業
の期 待 利得
を最
大 化す
る契
約{ T
,R
κ ,R
,}
を 決 定 す る こ とで ある.
均衡
を求め る と,次の よ うに なる(証 明は
Appendix
を 参 照 ).
(
i
)A
≧T
.N
+ αTH
の とき( TOB
企業
の資
金 力が十 分で あ る とき ) 最適契
約は,T ’
・−T
. ・R ”
=〔
レ ρPF
珊〕 ( B
・ +・R
・) − B
・… E
=〔 1 一 咢 〕 ( B
・ +・R
・) − B
・で あ る
. 均 衡経路
で は,TOB
企業
が高
いTOB 価格 TH
を提示 し,経 営者
がそ れ をAccept
し,友 好 的TOB
が実 行 され る.
そ し てTOB 成功
の 場合 経 営者
は退職
金 αる
を 得て 退職す
る.
( iD
T
,N
+RL
≦A
<T
.N
+αTH
の とき (TOB
企業の 資金 力が十 分で はない とき)
最 適契
約は,凹 , 蝋 1 一 勢 〕 ( B
・ +R
・) − B … R ;
一〔 1 細 ( B
・ +・R
・) 一
・B
・で ある
,
均 衡 経 路で は,TOB
企 業 が 低いTOB
価 格T
,を 提示 し,
経 営 者 がそれ をReject
し,再 交 渉に お い て
TOB
企 業は経 営 者の 継 続 雇 用 を 保 証 す る とと もに経 営 者 報 酬RE
を提示 し,経 営 者は そ れ に 応 じ て,
友 好 的 丁OB
が実
行 さ れ る.
( iii) A
くT
,N
+RL
の とき (TOB
企業
にTOB
を行 う資 金 力が ない とき )TOB
企 業は,TOB
の提 案 を 行わ ない.
TOB
企 業 に とっ て は, 式 よ り 明 らか に( i)
の ケー
ス が 最 善の 契 約 で あ る.
し か し 日本 で は, TOB
後の企業
に ター
ゲッ ト企
業
の経 営者
が継 続 雇 用され るこ と が多
い 8.
つ ま り,
(ii
)の ケー
ス が 実 現 されてい る こ≧
が 多い.
その原 因は,次の よ うに考 え られ る.
日本 企 業の経 営 者に とっ て 経営者
地位
を確
保す
るこ との ベネ
フ ィ ッ トが非 常
に大 きい の で ,ター ゲ
ッ ト企業
の経 営者
に経営
者 地位
を 断 念 させ るた めに は,TOB
企 業は相 当 高い退 職 金 aTH を 提示 しな け れ ば な ら ない.
この57
N工 工
一
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管理会 計 学 第 17巻 第2号
と き
, TOB
コ ス ト( T
.N
+ αTH
)は非
常に大 き な 額 と なり,これがTOB
企 業の資 金 力 を超 える こ と が多
い た めで あ る.
4 . 日 本 の 事 例 北越 製 紙 に 対 す る 王 子 製 紙
のTOB −
9こ こで は
,
日本におい てTOB
が失 敗 し た事 例 を 示 し,前節
の モデ
ル を用い てその原 因を分 析 す る こ と に し たい.
4 . 1 友 好 的
丁OB
の提 案
日本の製 紙 業 界は,近 年の 需 要 低 迷に よ り収 益 性が低 下し,過 剰 な生産 設 備の
整
理・
統 合の 必 要に迫
ら れて い た. 業界 最
大手 の 王 子製
紙 もその 例 外で はな かっ た.
こ の現 状 を 打 破 すべ く,
王 子製
紙は2006
年3
月に北 越 製 紙に経 営 統 合 を 打 診 し,
さ ら に2006
年7
月3
日,北 越 製 紙 株 式の10
%を 取 得 す るこ と を中心 と
す
る経営
統合
の提案
を行
っ た. 経営
統 合の 主た る 目的は,北 越製
紙の新
潟工場の獲
得で あっ た. 新
潟工場 に は生 産 性 の高
い抄
紙機
が導
入 されて お り,王 子製
紙は経 営
統 合 を 実 現 した 後に,こ の抄
紙 機 を 有 効 利 用 する こと に よ り,自社
の過剰 設 備の リス ト ラ ク チ ャ リングを 予
定
して いた.
こ の よ うに 王子製
紙は最 初
は友
好的 M
&A
を 目指
し てい た.
4 . 2 提 案
の拒 否
北 越 製 紙は こ の提 案 を 拒 否 し,
7
月21
日 に持 合 企 業であ る三菱商
事へ の303
億 円の第三者 割当 増
資
を発 表 し た.
発 行価格
は607
円で あ っ た.
こ れ に よ り,
三菱商
事は24 . 44
%の議
決権
株 式を 取 得 す るこ とになる増 資 目 的 は 新 潟工 場へ の設 備 増 強 と 発 表 され た が 10,実 際には王子 製 紙 による 買 収の阻止 で あっ た と
考
え られ る.
し か し こ の 発 行 価 格
607
円は,7
月21
日の株 価 最 安 値632
円 を 大 き く下回っ て い る.
さ らに7
月23
日 に,
王子製
紙がTOB
価格 860
円とす
るTOB
の実
施を発表
し た後
も,
この第
三者割
当増
資の発 行価
格607
円 は変 更 され てい ない.
つ ま り, 第
三者 割 当増
資 は,
明 らか に北 越 製 紙の既 存
株 主の利 益 を 損 なっ てい る.
これは ター
ゲッ ト企 業の経 営 者 のモ ラルハ ザー
ドを 示 唆 してい る と 考 え られ る.
4 . 3 再 交渉
7
月24
臥 王子 製 紙 と 三菱商
事の トッ プ会 談が行われ,王子製
紙は 三菱商事
に対 して,
第三者 割 当増 資
の引受撤
回を求め た が,
三 菱商事
は拒
否 し た.
そ し て同日,
北越 製
紙は記者
会 見で,
王子製
紙の経 営 統 合 案 を 拒 否 し,三菱 商 事へ の第三者 割 当増
資 を 行 うこ と を 表 明した.
敵対 的
TOB
を避 け たい 王 子製
紙は, 7
月28
日 に北
越製
紙 と トッ プ会談
を 行い, 第
三者割
当増
資 を 中止す れ ばTOB
を 凍 結 する と提 案 した.
そ れに対し て,北 越 製 紙は王 子 製 紙 との提携
の可能 性は検討 す
るが ,第
三者 割 当増資
は 予定通 り行
うと回答
し た.
4 . 4 敵 対 的
丁OB
と投 資 家
心理
友 好 的 丁
OB
を 断 念 した王 子 製 紙 は,8
月2
日,北 越 製 紙 に 対 し てTOB
を 開 始した.
敵対
的 丁OB
の 開 始で ある
.
これ は,日本
の製紙 業界
の最
大手 が行っ た敵 対 的TOB
として 注 目を集
め た. TOB
実 施 期 間 は2006
年8
月2
目か ら9
月4
日まで で あ り, TOB
価 格 は1
株 あ た り800
円で あっ た.
58
N工 工