金沢大学十全医学会雑誌 第114巻 第4号 55 (2005)
医学教育改革雑感
Myopiniononmedicaleducation
金沢医学系研究 科血管分子生理研究分野
多 久 和 陽
一昨年7月までの2年半,医学科学生生活 (硯学生支援)委員 長 を, また現在 まで教務 (現数育)委員 も務 め させ ていただい た. この間,学業 を怠 る 「怠学生」
,
「意欲減退学生」 の増加 にい ささか驚 く (私の学生時代 はこれ程 ではなかった)ととも に,深刻 な事態 であ る と感 じた.他大 学で も状況 は似 てい る と聞 く. この状 況が,近年 の留年学生 の増加 ,国家試験 不 合 格者 の増加 とい う現状 に如実 に表 れて いる と思 う.古 川医学 部長瀬教育 委周長,井 関学生支援 委員長 を始 め とす る諸先生 方 の御 努力 ,学生諸君 の頑張 りに よ り, この ような状 況 は改 革 あ るいは上向 きは じめている と思 うが ,国家試験 合格率 に 反映 される ところ まで は未 だ至 ってい ない と思 われる. 一層 の改善 に向 けて, どの ような理 念 に基づ いた適切 な方筆が考 え られ るの だろ うか. この観点 か ら,医学教 育改革 につ いて 若干の私見 を述べ させ ていただ く.過去数年 間,全国の医学部 ・医科大学 は卒前,卒後の医学教 育の改革の波の寅 っただ中にあった.何 をどの ように改革すべ きか を議論 する際 に,大い にお手本,参考に されたのは米 国の 医学教育制度であった と思 う. しか し, よ く知 られているよう に, 日米の間には,医学部 ・医科大学のあ り方 にそ もそ も大 き な違いがあるのである.その衆たるものは,米国では日本 と異 な り4年生大学 を既 に卒業 した者 のみが医科大学 に入学で きる (米国の医科大学 の位置付 けは "医科大学 院")ことであ り,医 科大学 入学前の4年生大学 における専攻 は多 くの学生の場合生 物学である とい う.す なわち,医科大学学生の多 くは日本で言 えば理学部生物学科出身者であ り,医科大学 入学時 に既 にあの 電話帳 の厚 さの教科番 "Cell" をマ ス ター しているので ある.
また,我が 国で は,国公立医科大学50校が横並 びで, 開業医 か ら大学で活躍で きる研究者の養成 まで と広 い出口に対応 した 教育 を行お うとしてい るのに対 し,米国ではハーバー ド大学医 学部の ような研究者/ フ ィジシャンサ イエ ンテ ィス ト養成 を目 指 している大学か ら,先年,学長 による講演 会が本学で もたれ たジ ョージア州マーサ大学の ように開業医養成 を使命 と してい る医科大学があるとい うように, どの ような卒業生 を送 りだす か とい う理念が大学間で多様 であ り,教育の内容 も各大学の理 念 に従 って異なるとい う. さらに,医学教育 に関わる教育 ス タ
ッフの人員数には 日米で,たいへ んな差が存在する.ハーバー ド大学 医学部で は,関連病 院 を含めて2800名にのぼるアシス タン トプロフェ ッサー以上の教員,5000名以上の常勤お よび非 常勤 の インス トラクターがいるのである.それに対 して,金大 医学科 お よび附属病院の助 手以上の定 則 ま約280名,医員130 名である.数年前の本学 医学部の大学 院化 (部局化)に際 して の詩論 では,金大医学科 の理念 として,大略 "医師 として」 FL であ り, さらに一流の医学研究者であって医学の進歩 を担 える
とい う人材 を育成する" とい うコンセ ンサスが得 られていた と
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思 う.現時点 で再度 この理 念 を問い,議論 を尽 くして理 念 ・目 標 を明確 に して, しか る後 に参考 となる国内 ・国外医 科 大 学 の 教 育制度 を研 究するべ きと思 う.そ して,チュー トリア ル授 業 や統合科 目な ど諸外 国の優 れた システム も参考 にす るが , これ を丸呑みす る ことな く,金大独 自の優 れた 人材 を育成 す る 有 効 な プログラム を立ち上げる必要がある と痛感 している .
「怠 学生J
,
「意欲 減退 学生」 の増 加 に話 しが罷 るが , こ れ は どの ような理 由に よる のだ ろ うか .学 生 との面談 の 樺 験 か らは,
「大学 入試 に際 して 医学 部進学 を選択 した動 機 が 薄 弱 , 従 って学 華 に熱心 に取 り組 め ない」,
「医学 部 の勉学 を 甘 く見 て いる, この程度で よい とタカ を く くってい る」,
「医 学 部 の 教 科内容 の経度 の増 加 , 受験偏 重教 育 に根 ざ した生 物 学 の 基 本 約数 寒 の不 足 な ど に基 づ く,専 門 課程 進学 早 々 に 味 わ う"消 化不 良"」 な どが 考 え られ る ように患 う. これ らの 問 題は
‑ 挙 に改革す る と同 時 に学 生全 体 の レベ ルア ップ を 図 る 方 節 の 一つ は,医学 部 入学 定 員 のか な りの部分 あるい は す べ て を 学 士入学 とす るこ とか も しれ ない.現 在 ,金大 医学 科 の 学 士 入 学定 員 は5名であ るが ,締 入学生 の 多数 の出身学 部 は 理 系 学 部で ある.被 等の勉 学 意欲 は概 して非常 に高 く, ハ ー ドな カ リキ ュ ラム をこな して い る .学士 入学 者 を対 象 と す れ ば , よ り高 度 な内容 の医 学教 育 の実 践 も可 能 となるで あ ろ う . 我 が 国の医学部 ・医科 大学 を学士 のみ を入学 有資格者 と す る い わ ゆる "医科 大 学院 " に変 える とい う案 が文科 省 に お い て 既 に検討 されて い るそ うで あ り, また我 が 国の医学致 育 改 革 の リー ダーが この可能性 につ いて言及 されている こ とな ど か ら, 近 い将 来 この新 しい タイ プの医 科大 学 が登場 す る可 能 性 も あ
りそ うだ.一 方 で, も し将 来 この制 度 が 開始 され る と , 革 後 研 修必 修 化 に伴 って 浮 上 して 来 た新 人医 師 の "大 学 離 れ ",
=母校定 着率 の低下" ヤ "研究 の担 い手 の減 少"等 の 事 態 が ‑ 層 混迷 の度 を増 す可 能性 や ,医 科大 学 院 入学 を志望 す る 学 生 が 多 く出そ うな理学 部 や 薬 学部 で は, これ らの学部 の 大 学 院
‑ の進 学志望 者 の減 少や6年生 薬学 部 で は中途退学 者 の 出 現 といっ た問題 が 浮上 して くるか も しれ ない .いず jlに せ よ , 本 学の学士編 入学制 度 の 見直 しに際 して は,以 上 の 視 点 も加 味 して議論す る必要 が あ る と思 う.
医学部 では,各教 員 は 日常多忙 を極 めている中で, こ れ まで 懸 命に教育改革のための活 動 に取 り組 んで こられ た. し か しな が ら,生 き残 りをか けて, ます ます真 剣 に的 を射 た改 革 を 成 し 遂 げる必 要が ある中で ,教 育,研究,診療 とい う 日々 の 重 い 業 務 を背負 う医学部教 員 のみ で,医学教 育改革 はこなせ る 仕 事 で あ ろうか.医学 の進歩 を担 える人材 を育成す る有効 な教 育 体 制 を確立す るこ とは日本 の将 来 に大 き くかか わる重要事 で あ る か らこそ,医学教育 に造詣 の深い専任 ス タッフ (必ず し も教 員 で あ る必 要 はないので はない か)を置 くな ど,取 り組 み 方 そ の も の にも考 えるべ き点 が あ る と思 う.