小児尿路結石症 金沢大学医学部小児科学教室（主任 佐川一郎教授）

金沢大学十全医学会雑誌 第62巻 第2号 459−464 （1959） 459

小児尿路結石症

金沢大学医学部小児科学教室（主任 佐川一郎教授）

     蓮  井  正  亮      川  村  昭

金沢大学医学部泌尿器科学教室（主任 黒田恭一教授）

     柳  瀬  功  一・

（昭和34年5月16日受付）

1．緒 言

 尿路結石症のうち小児期に発生するものは比較的少 ない．昭和21年より33年までの13年間，金沢大学医学 部小児科および泌尿器科学教室においては，計13例を 数えるのみである．小児科学教室における2例は，い ずれも泌尿器科学教室に転科し治療されたので，主と してこの2例について報告するとともに，統計的観察 を試みた．

皿．症 例

 症例1 患児3杉○隆○，6カ月，男子．

 家族歴：母系祖母が胆石症に罹患した以外結石症

はない．

 既往歴：特記すべきものはない．

 現病歴；何ら誘因と思われることなく，突然尿閉 が起り，昭和30年8月2日小児科に入院した．導尿を 行ない経過観察中のところ，8月1i日より丘3日にかけ て，粟粒大より半米粒大の黄色結石計4個が自然排出 されたので，9月1日一旦退院した．しかし昭和31年5

，月17日ふたたび尿閉が起り，同日泌尿器科に入院した．

 現症：胸部は打聴診上異常はなかった．腹部は肝 臓，脾臓および両側腎臓はいずれも触知しなかった．

膀胱濁音界は恥骨上約4cmで，外尿道ロより約4cm の部位に超米粒大の結石様抵抗を触知した．

 検査成績；尿：軽度に混濁し蛋白（十）であった．

沈渣は白血球10個／1強視野，赤血球2〜3個／1強視 野で，6方晶系のチスチン結晶が認められた（写真 1）．細菌は証明されなかった．腎臓膀胱部「レ」線 単純撮影：膀胱および尿道三部に，小豆大の結石様

陰影各1個が認められた（写真2）．経静脈性二世撮 影＝両側腎臓とも機能および腎孟像は正常であった．

血液＝赤血球数450万，血色素量80％ザーリー，12．8 9／d1，白血球数且6，000，白血球像は好中球26％，好酸 球6％，淋巴球68％であった．

 治療および経過： 5月17日尿道砕石術を行ない，

結石を粟粒大〜半米粒大の小片に砕いて摘出した．5 月24日ふたたび尿閉が起り，「レ」線単純撮影を行なっ たところ，尿道墨黒に小豆大の結石様陰影が認められ たので，ただちに尿道砕石術にて摘出した．その後

「レ」線単純撮影によって結石様陰影がないことを確 認し，6月18日退院した．以後経過を観察中である が，現在のところ再発の症状は出現していない．

 結石成分3小児科および泌尿器科学教室において 摘出された結石は，化学的検査によりいずれも純粋の チスチンであることが証明された．

 症例2 出際＝古○ち○り，12歳11カ月，女子．

 家族歴：結石症の人は存在しない．

 既往歴：特記すべきものはない，

 現病歴＝昭和31年右側腹部に疹痛あり，虫垂切除 術を行なったが，その後も高熱が持続していた．昭和

．33年にいたり食欲不振，顔面蒼白が著明になり，さら に最：近は尿混濁も加わったので，昭和33年9，月19日小 児科に入院し，右腎結石症の診断のもとに22日泌尿器 科に転科した．

 現俸：顔面蒼白で眼険結膜に貧血が認められた．

胸部は打聴診上異常はなかった．腹部は肝臓，脾臓お よび左側腎臓はいずれも触知しなかった．しかし右側 腎臓は触知可能で，表面凹凸不平等でやや硬く，軽度 の圧痛が存在した．また右側尿管走行部にも同様軽度  Studies on the Urolithiasis of Children． Seiryo Hasui， Syoji Kawa皿ura＆Koichi Yanas6 Department of Pediatrics（Director：Prof．1． Sagawa）and Department of Urology（Director：

Prof． K， Kuroda）， Medical School， Universlty of Kanazawa．

の圧痛が存在した．なお廻盲部には手術搬痕が認めら

れた．

 検査成績：尿：混濁し蛋白（十）であった．沈渣は 白血球50〜60個／1強視野，赤血球1〜2個／1強視 野，結晶は見当らなかったが，大腸菌が多数証明され た．腎臓「レ」線単純撮影・右側腎臓部に結石様陰影 3個が認められた（写真3）．経静脈性腎孟撮影；左側 腎臓は機能および宮山像ともに正常であったが，右側 腎臓では造影剤の排泄は殆んど認められなかった，膀 胱鏡検査：容量300ccで，膀胱粘膜および両側尿管 ロの形態は正常であった，右尿管ロの収縮は幾分不良 で，クリーム様膿汁の排泄が認められた．インジゴカ ルミン排泄試験は左側2分20秒であったが，右側は10 分を経過するも排泄されなかった。腎機能：P．S． P．

試験は1時間値65％，2時間値7％計72％，血中残 余窒素22mg／d1であった．血液・赤血球数200万，

血色素量60％ザーリー，0。96g／d1，白血球数9，000，

白血球像は好中：球55％，淋巴球42％，単球3％であっ た．血清蛋白はアルブミン3．9g／d1，グロブリン3．5 g／dl， A／G 1．1であった．

 治療および経過＝高度の貧血のために輸血を行な い，10月2日右結石性膿腎症の診断のもとに，熱熱別 除術を施行した．手術創は一次的に治癒し，主訴であ る発熱，貧血および尿混濁は消失し10，月16日退院し た．退院後2カ月で，体重は5kg増加し健康である．

 易U出標本：重量286g，大きさ12x6．5x7．5cmで 表面不平等であった．腎実質は殆んど消失し，うちに

膿汁充満し，腎孟および腎杯に計4個の結石が存在し た（写真4）．

 結石成分：化学的検：査により燐酸炭酸塩であった．

巫．総括および考按

 小児泌尿器疾患のなかでも尿路結石症の占める割合 は少なく，稲田1）はその2％，市川他2）は2〜6％

であるとしている．尿路結石症についての統計的観察 は，高橋3）および稲田他4》によりすでに詳細に報告 されている．著者らも金沢大学医学部小児科および泌 尿器科学教室における，昭和21年から33年までの13年 間の統計を試みる機会をえたので，いささか比較検討

してみたい．

 Winsbury・White 5）によれば，最近欧米において小 児期の尿路結石症は少なくなってきた．わが国におい ても同様で，高橋，黒田他6）はio歳未満が少なくて，

20二代が最も多いと報告している．稲田他も20歳代が 最も多いが小児期は少なくて，1〜10歳は全例の3．5

％（616例），11〜20歳は4．9％（858例）と述べてい る．著者らの統計も表1に示すごとく，やはり20歳代 が最も多く，ついで30代で，14歳以下は13例で全症例 の2．9％を占めるにすぎない．とくに0〜4歳は2例 で0．5％であった．

 男女別にみると，Winsbufy−Whiteは小児期におい ても肉入と同様男子が多いと述べ，稲田他の10歳以下 の統計では男子8．3：女子1である．著者らの統計 でも男子9例，女子4例とやはり男子が多く，女子の

＼

表 ¹

0 〜 4

5 〜 9

10〜14 15〜20 21〜30

31〜．40

41〜50 51〜60 61〜70 71以上

昭和

21   22  23  24  25  26  27  28  29  30  31  32  33

−小○

0 0 0 0 0 0 0 0  1 0 0 0

      δ

0 0  0  0  0  1  1 0  0  1  0  0  1

       8 3     ♀     δ

 3

 小○○〒

33

0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  1       ♀

−り〃9召qU19召0 01Qり2001

14nb謄り0000

−厚0﹂49酎9θ10

1 6

11 20 7 14 16 16 9  8 6  6

1 2

2  2 12 23 8 26 13 18 7 12 2  4 2  2

計 2

4

7

20 119 100 98 51 31  9

  計

151・181318283・341553724689｝441

小児尿路結石 ⁴⁶¹

表 ²

腎  臓 尿  管

町道腺  立膀尿前

回

昭和

21  22  23  24  25  26  27  28  29  30  31  32  33

1  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  1 2  1 0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0

0一二〇

〇〇〇

〇〇〇

〇〇〇

1一二〇

100 −且00

100

^{〇〇〇 〇〇〇 −﹂00}

4300011001102

計り召00ρ00召0

13

2倍以上であった．

 さらに患者の地理的分布をみると，石川県9例，富 山県4例で，特殊の地域に局在する傾向はみられなか

った．

 また結石の発生部位を比較すると，Winsbury−

White，高橋および市川他は，いずれも小児期には下 部尿路結石が多いのを特徴としている．著者らも表2 に示すごとく，上部尿路結石は5例，下部尿路結石は

8例と後者が優i位を占めていた．

 最後に．尿石の組成については，Winsbury−Whiteは 小児期では蔭酸カルシウム，尿酸アンモニウムが，鈴 木他7）は乳幼児では尿酸を主成分とするものが多いと 報告している．チスチン石については，Prien他8）「に よると尿路結石600例中3．8％に認められたにすぎな い．このようにチスチン石は比較的稀とされているに もかかわらず1912年Link g）は112例を， Kretschmer lo）はm例を1933年に報告している．

 一方わが国の小児科領域における5歳以下の乳幼児 の尿路結石は，昭和32年まで約30例で，しかもその組 成がチスチン石であった場合はさらに少なく，最近で は島他11）の2歳6カ月の男子における両側尿管チス チン石の報告がみられるにすぎない．著者らの経験し た症例1は，患者の血中チスチン測定および家族のチ スチン尿については，残念ながら検索しえなかった．

しかし6カ月の男子において，膀胱およ尿道球部にチ スチン石が証明されたのである．

IV．結 論

る，昭和21年より33年までの小児尿路結石症の統計的 観察を試み，かつその1例である6カ月の男子にみら れたチスチン石をも報告した．

欄筆に臨み終始御懇篤な御指導と御校閲を賜わった恩師佐川教 授，黒田教授に深甚の謝意を表します．また高川および小坂博士 に感謝致します。

本稿の要旨は昭和34年二月，こ日本小児科学会北陸地方町明80回 例会において発表した．

丈 献

1）稲田務：臨休皮膚泌尿器科，11（13），1305

（昭和32年），    2）市川篤二他： 日本泌尿 器科学会雑誌，46（7），506（昭和30年）．

3）高橋明＝同上，32（5），491（昭和17年）．

4）稲田務他3泌尿器科紀要，1（3），143（昭和 30年）．    5）Winsbury−White， H． P∴

Stone in tlle Urinary Tfact．2nd Editio11，316，

Butterworth＆Co． Ltd．（1954）．  6）黒田恭一 他： 日本泌尿器科学会雑誌，46（7），506（昭和 30年）．    7）鈴木靖他3臨淋内科小児科，

6（11），474（昭和26年）．    8）Prien， E．

正．etc． ：T止1e Joufnal of Urology，57（6），949

（1947）．    9）K：eyser， L． D． etc．： ditto，

62（6），807（1949）より引用．      1①）

Kretschmer， H． Ll．＝ditto，30（4），403（1933）．

11）島 新一他：小児科臨床，10（8），677（昭和

32年）．

金沢大学医学部小児科および泌尿器科学教室におけ

       Abstract

We have statistically observed the cases of urolithiasis of children at the departments of pediatrics and urology， Kanazawa University Medical School， from 1946 to 1958． We would， therefore， like to report the results and also to let you know about 2 cases which we have recently experienced．

  (1) We have

number.

  (2) 9 cases in

  (3) We cou!d

  (5) We have

found 13 cases under 14 years of age and they are 2.9% of the total

male and 4 cases in female,

not find the tendency that the patients are J.imited to thier specific area.

the upper part and 8 cases at the lower part of urinary tract.

experienced a cystine stone in bladder and urethral globus, in 6 months of

'

小児尿路結石

写真 1

写真 2

463

写真 3

写真 4

懇・︑ 難嫌灘

        騨

講

鎧1、

賄冗籔撚鞭