2016 年度博士論文
炭酸化進行度に基づく
ALC パネルの健全度評価に関する研究
水 谷 吉 克
2017 年 3 月
首都大学東京
目 次
第 1 章 序 論
第 1 節 研究の背景と目的 ・・・・・・・・ 1
第 2 節 既往の研究 ・・・・・・・・ 4
第 3 節 本論文の構成 ・・・・・・・・ 7
[参考文献] 第 2 章 飽和炭酸化状態に基づいた ALC の炭酸化進行度合いの指標 第 1 節 概説 ・・・・・・・・ 12
第 2 節 飽和炭酸化状態を 100%とした炭酸化の進行度合いの指標の提案 ・・ 14 第 3 節 ALC パネルの炭酸化進行度の測定方法の提案 ・・・・・・・・ 23
第 4 節 炭酸化進行度による建物に使用された ALC の調査例 ・・・・・・・・ 26 第 5 節 本章のまとめ ・・・・・・・・ 32
[参考文献] 第 3 章 ALC の強度性状に及ぼす促進炭酸化の影響 第 1 節 概説 ・・・・・・・・ 33
第 2 節 ALC の炭酸化収縮率 ・・・・・・・・ 35
第 3 節 促進炭酸化した ALC の強度等の性状 ・・・・・・・・ 37
第 4 節 本章のまとめ ・・・・・・・・ 51
[参考文献] 第 4 章 促進炭酸化した ALC における熱特性の評価 第 1 節 概説 ・・・・・・・・ 52
第 2 節 促進炭酸化した ALC の断熱性能の評価 ・・・・・・・・ 53
第 3 節 促進炭酸化した ALC パネルの耐火性能の評価 ・・・・・・・・ 55
第 4 節 本章のまとめ ・・・・・・・・ 64
[参考文献] 第 5 章 炭酸化が進行した ALC における各種仕上塗材の炭酸化抑制効果 第 1 節 概説 ・・・・・・・・ 65
第 2 節 実験概要 ・・・・・・・・ 67
第 3 節 実験結果および考察 ・・・・・・・・ 69
第 4 節 本章のまとめ ・・・・・・・・ 74
[参考文献]
第 6 章 ALC の促進炭酸化がタイルの接着強度に及ぼす影響
第 1 節 概説 ・・・・・・・・ 75
第 2 節 試験体 ・・・・・・・・ 76
第 3 節 試験方法 ・・・・・・・・ 78
第 4 節 試験結果及び考察 ・・・・・・・・ 80
第 5 節 本章のまとめ ・・・・・・・・ 84
[参考文献] 第 7 章 ALC パネルの曲げ性状に及ぼす促進炭酸化の影響 第 1 節 概説 ・・・・・・・・ 85
第 2 節 試験体概要 ・・・・・・・・ 86
第 3 節 促進炭酸化 ・・・・・・・・ 90
第 4 節 試験方法 ・・・・・・・・ 92
第 5 節 試験結果および考察 ・・・・・・・・ 94
第 6 節 本章のまとめ ・・・・・・・・ 107
[参考文献] 第 8 章 炭酸化進行度に基づく ALC パネルの健全度診断法の検討 第 1 節 概説 ・・・・・・・・ 109
第 2 節 炭酸化進行度(CPD)によるメンテナンス判断 ・・・・・・・・ 110
第 3 節 炭酸化した ALC パネルの補強方法の検討 ・・・・・・・・ 114
第 4 節 ALC パネルの炭酸化の進行予測 ・・・・・・・・ 118
第 5 節 本章のまとめ ・・・・・・・・122
[参考文献] 第 9 章 結論 ・・・・・・・・ 123
論文要旨 ・・・・・・・・ 130
研究業績一覧 ・・・・・・・・ 132
第 1 章 序 論
第 1 節 研究の背景と目的 1
第 2 節 既往の研究 2.1 コンクリートと ALC の炭酸化 4
2.2 ALC パネルの炭酸化による経年変化調査 5
2.3 ALC の炭酸化による性状変化 6
2.4 まとめ 6
第 3 節 本論文の構成 7
[参考文献] 10
- 1 - 0
500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000 4,500
1966 1969 1972 1975 1978 1981 1984 1987 1990 1993 1996 1999 2002 2005 2008 2011 2014
年
出荷数量(千m3)
図 1.1 ALC パネルの生産量推移(経済産業省 窯業・建材統計より) 第 1 章 序論
第 1 節 研究の背景と目的
ALC
パネル
(Autoclaved Lightweight aerated Concrete panels)は,昭和
30年代後 半に北欧より日本に技術導入され,昭和
40年代に生産が本格化した。その後
ALCパ ネルは法的条件の具備や,規格・基準類の整備が進むと共に,昭和の高度成長期の建 築生産性向上を目指した建築部材のプレファブリケーション化とも合致し,拡大生産 の一途を辿った。
ALCパネルの生産量は,経済産業省窯業・建材統計によると,バブ ル期の
436万
m3/年をピークに,
2015年度では
165万
m3/年まで減少したが,統計が 開始された昭和
41年
(1966年
)より現在までの累計生産量が
1億
m3超となっている
(図
1.1参照
)。また,これら
ALCパネルは,
20~
30年ほど前に製造出荷されたものを中 心に,現在も建物としてストックされていると推定される。
天然資源を多量に消費する建築物の新築に対し,環境共生の観点からも建築物の長 寿命化を図ることが求められており,そのための建築物の維持・管理に関する技術・
知見に注目が集められている。鉄骨造を中心に多用されてきた
ALCパネルに関して も,経年による性能変化の評価方法ならびに,評価に見合ったメンテナンス方法の確 立が求められている。
ALC
は,珪酸質原料,石灰質原料などの粉末原料に水と発泡剤
(アルミ粉末
)を混和
し,発泡硬化後にオートクレーブ養生により珪酸カルシウム水和物であるトバモライ
ト
(tobermorite)が生成され,未反応珪酸質原料がトバモライトにより結合される構造
- 2 -
の建築材料で,結合材であるトバモライトの性質が
ALCの性質に大きく影響するこ とが報告されている
1)。
ALC
パネルは,
ALCを母材として内部に補強鉄筋を配して板状に成型したもので ある。
ALCパネルの製造工程の例を図
1.2に示す。
ALC
パネルの経年変化の要因には,温冷・乾湿繰り返し,凍結融解,塩害,有害ガ スによる化学反応などが挙げられる。
ALCの経年による性状変化はトバモライトの結 晶構造の変化が主な要因とされ,特に空気中の炭酸ガス
(CO2)による化学反応
(以下,
炭酸化という
)に関する調査・報告が古くから行われてきた
2),3)。
ALC
の炭酸化は,トバモライト中のカルシウム
(Ca)が徐々に
CO2と結合し,炭酸 カルシウム
(CaCO3)となり,それに伴いシリカゲル
(SiO2・
nH2O)と水
(H2O)が生成され る。炭酸化が進むに従い,結晶構造が変化したトバモライトの割合が徐々に大きくな る。トバモライトの炭酸化反応式
(1.1)を下記に示す。
トバモライトの炭酸化の変化割合に比例して
ALCの強度が低下するため,経年後 の
ALC中の
CaCO3の含有割合を経年変化の指標として,経年変化した
ALCパネル の強度性状との関係に関する調査も行われている
4)。
しかし,これらフィールドにおける経年変化の要因は,前述のように炭酸化ばかり ではなく,他の要因も複合的に作用している事が考えられるため,炭酸化と経年変化
※
ALC協会ホームページより引用
図 1.2 ALC パネルの製造工程の例
5CaO・6SiO2・5H2O + 5CO2
→
5CaCO3 + 6SiO2・nH2O+ (5-n)H2O(1.1)
- 3 -
の関係を検討する場合には,それら炭酸化以外の要因の影響を除外する必要がある。
しかし既往の調査研究では小片試料の促進炭酸化による研究が多く,建築部材として 用いられる実大寸法を意識したパネルの促進炭酸化による研究報告は限定されている。
そこで本研究では,
ALCパネルの経年変化について,性状変化の要因を炭酸化に限 定するための促進炭酸化を行い,炭酸化が
ALCならびに
ALCパネルの性状に及ぼす 影響について確認した。
本研究は,
ALCの炭酸化の進行度合いを指標とした場合の,
ALCパネルの経年変 化の状況を確認するとともに,性状変化の状況に応じたメンテナンス計画に供する技 術的情報を得ることを目的としている。
ALC
はコンクリートと異なり多孔質であり透気性が高く,どこまで炭酸化したか
(中性化深さ
)ではなく,前記のように,どれだけ炭酸化したか
(炭酸化の反応進行度合 い
)を指標としている。
ALCの表面積でなく体積全体で炭酸化反応が進行するため,
ALC
の炭酸化による
CO2吸収量はコンクリートに比べて著しく大きいと考えられる。
本研究は,メンテナンスの指標として炭酸化による
ALCの性状変化を把握するこ とを主な目的としているが,
JIS A 5416:2016軽量気泡コンクリートパネルなどに規定 される
ALCパネルの必要性能を満足し,使用上の支障のない炭酸化の進行度合いの 範囲を明確にすることにより,建物の部位として使用している
ALCの副次的目的と して,空気中の
CO2を吸収・固定化することを掲げるための,
ALCパネルの積極的 炭酸化の管理指標とすることも視野に入れている。
本研究で対象とする
ALCパネルは,
JIS A 5416:2016軽量気泡コンクリートパネル
(ALCパネル
)に規定されるもので,最も生産量の多い
100mm厚の
ALCパネルを中 心に試験に供した。JIS A 5416
:2016に規定される
ALCの品質を表
1.1に示す。
表 1.1 ALC の品質 項 目 規 格 値 密度
(kg/m3) 450を超え
550未満 圧縮強度
(N/mm2) 3.0以上
乾燥収縮率
(%) 0.05以下 熱抵抗値
(m2K/W)
5.3d
以上
d:[
パネル厚さ
(mm)/1000(mm)]- 4 - 第 2 節 既往の研究
2.1 コンクリートと ALC の炭酸化
ALC
の経年変化の主要因に,空気中の炭酸ガス
(CO2)による炭酸化があり,これは
ALC中の主要鉱物であるトバモライト中の
Caが反応して,炭酸カルシウム
(CaCO3)を生成する反応である
3)。コンクリートも同様に空気中の
CO2により,水酸化カルシ ウム(
Ca(OH)2)が
CO2と反応して
CaCO3を生成し,コンクリート表面から徐々に アルカリ性を失い中性に変化していくため,この現象は中性化と称されている
5)。 コンクリートが初期においては高アルカリ性を有しているのに対し,
ALCは製造直 後においても弱アルカリ性で中性に近いことなどから,
ALCの
CO2との反応は中性 化ではなく,炭酸化と一般的に称されている
3)。
コンクリートは,内部の補強鉄筋をアルカリ雰囲気に保持する防錆機能も期待され ており,中性化が長期にわたり表面から徐々に進行するため,鉄筋の被り厚さ寸法が コンクリート部材強度の耐久性を左右している。コンクリート部材ではコンクリート 表面からの中性化深さ寸法を指標としている
6)。
コンクリートは炭酸化すると
CaCO3の生成に伴いアルカリ性を失い中性に変化す るが,圧縮強度が上がることが知られており
7),建築部材強度の低下原因とはならな いとされている。中性化によるアルカリ性の喪失は鉄筋の発生を促すため,近年では 鉄筋コンクリート建造物の耐久性向上を図るため,表面に施す建築用仕上げ塗材など の仕上げ材によるコンクリートの中性化抑制効果に関する研究も,数多く行われてい る
8)。
コンクリートは
ALCに比べ密実な建築素材で透気性が低いため,中性化は表面か ら徐々に進行するが,
ALCは多孔質で吸放湿性に富んでいるため,
ALCは炭酸化反 応がしやすいと考えられている
9)。
ALC中のトバモライトの生成は,高温高圧での飽 和水蒸気下で促進的に行われており,生成過程を考えても透気性が高いことが製造の 必須条件となっている。また,製造時のオートクレーブ養生による飽和水蒸気は,
ALCの製造時に無数の気泡に留まり,製造直後の
ALCの含水率は
40wt%と極めて高い状 態にある。しかし,このような含水状態も,
ALCの高い吸放湿性もあり,一般的な使 用状況下では,短期間で,ほぼ平衡状態となることが報告されている
10)。
ALC
の湿度環境と平衡含水率との関係は,例えば
90RH.%で
4.0~
6.0wt%程度とさ れており
11),
ALCはコンクリートに比べ,このように短期間で湿度環境に応じた平行 含水率に到達することからも,極めて高い呼吸性を有すると考えられている。
ALC
パネルでは,
ALC自身がアルカリ雰囲気を保持できないことや,このような 呼吸性があることから,内部の補強鉄筋は
ALC母材で防錆するのではなく,事前に 防錆処理を施したものを
ALC型枠の中に配置することが一般的であり,
JIS A5416:2016
では補強材の防錆性能試験など,これらに関する事項が規定されている。
このように,
ALCは名称こそコンクリートと称しているが普通コンクリートとは全
く異なる組成・性質を持ち,また,同じ空気中の
CO2により同様の
CaCO3を生成す
- 5 -
る炭酸化反応を生じるが,その形態は全く異なるものである。特に
ALCの透気性に 基づくパネル断面全体に及ぶ炭酸化が予想されることから,コンクリートと異なり,
ALC
の炭酸化による変質がパネルの曲げ強さに及ぼす影響を確認する必要がある。こ れらコンクリートの中性化に関する既往の研究成果を,
ALCの特性と対比することに より,本研究を推進するうえで大変多くの示唆を得ることができた。
2.2 ALC パネルの炭酸化による経年変化調査
ALC
パネルの経年変化に関する調査・研究は古くから行われている。伊東らは,
ALC
が日本で本格生産され始めた
1970年前後に建設された鉄骨造平屋建物に使用さ れた
15年以上経過した
ALCパネルについて,トバモライトの残存量や二酸化炭素の 含有量に注目した調査を行い,
X線回折によるトバモライトを示すピークと強度の関 係を示すとともに,仕上げ材の劣化による雨水の含侵による変質の可能性を示唆した
2)
。その後,九矢らは継続した調査を行い,
20年以上経過した
ALCパネルについて,
同様にトバモライトの残存量や二酸化炭素の含有量に注目した調査に加え,建物から
ALCパネルを採取し曲げ強さ試験を行い,トバモライトの変質による炭酸カルシウム の生成量と
ALCパネルの曲げ強さの関係を示した
12),13)。これらの研究では,炭酸化 による
ALC中のトバモライトの変質が
ALCの性状に影響し,炭酸化により生成され る
CaCO3に注目した調査報告が行われたが,炭酸化の進行度合いを指標とした
ALCの強度変化推定までには至っていない。
長尾らは
14),
38年経過した
ALCの物性評価を密度,圧縮強度などを測定するとと もに衝撃試験を実施し,当該
ALCの性質が
JISなどの品質規格を満足するものであ ることを示したが,建築部材としての健全度指標ならびに初期値からの物性変化の割 合を示すには至っていない。
また松下らは
4),様々な使用履歴を有する建物の
ALCパネルの強度性状と炭酸化の 進行度合いの関係について報告し,
ALC中の全
Ca量に対する
CaCO3量中の
Ca量の 割合を炭酸化度として指標を提案するとともに,提案する炭酸化度では
60%が
ALCの飽和炭酸化状態であることを示した。また,フィールドより採取した
ALCパネル について,炭酸化度と強度の関係を示し,加えて外壁に使用された場合の仕上塗材の 透気性能が炭酸化の進行速度に影響することを示した。
長田らは
15),駅舎に使用された
ALCパネルの経変変化について,
ALCの劣化診断 方法として前記松下らが用いた炭酸化度による測定を用い,パネルの張替基準につい て,経年変化した
ALCパネルに対するビスの引き抜き強さ試験と炭酸化度測定値と の関係から,ビスの引き抜き強さによる
ALCパネルのメンテナンス基準を提案した。
しかし,炭酸化度測定結果に示される
8件のサンプルのうち,炭酸化度が
60%を超え
るものが
5件,最大値で
74.9%もの高い値を示し,松下らが
ALCの示した
”炭酸化は
60%が飽和炭酸化状態である
”4),16)ことと矛盾した結果となり,製造履歴が異なる
ALC毎に飽和炭酸化状態が異なることを示唆した。
- 6 - 2.3 ALC の炭酸化による性状変化
落合
3)は,ALC の炭酸化による性状変化の一つである長さ変化について,それが炭 酸化により生成される炭酸カルシウムの凝集・結晶成長に起因することを示唆し,生 成された炭酸カルシウムの物理的変化の検討が,
ALCの炭酸化過程における性状変化 の検討に必要であるとした。
松下ら
16)は
ALCの炭酸化による長さ変化について,促進炭酸化における
CO2濃度 は炭酸化の速度に違いが生じるものの,長さ変化率に違いがないことを示した。また、
トバモライト結晶は
SiO4四面体の単鎖が
Ca-Oのシートを挟んだ基本単位層からなる が,炭酸化初期においては,この基本単位層と基本単位層との間に位置する
Caが選 択的に炭酸化し,それは
ALCの長さ変化には大きく影響しないことを明らかにする とともに,炭酸化収縮が大きくなる時期と基本単位層中の
Ca-Oシートの
Caの炭酸 化が始まる時期から,結晶変化と
ALCの長さ変化の関係を推定した。
日村らは
17),
ALCの製造に必要な珪酸質原料に産業副産物であるスラグやフライ アッシュを用いた場合の性状について,珪石などの天然原料との置換割合により,強 度低下のみならず乾燥収縮率の増大や,炭酸化速度が速くなることを示している。井 須ら
1)は,原材料の調配合や養生条件により
ALC中のトバモライト結晶の生成状況が 異なり,
ALCの物性が変化することを示している。
松下らは
18),
3.0vol.%の高濃度下での促進炭酸化と大気中における
ALCの炭酸化 とでは,炭酸化によるトバモライトの結晶構造の変化に違いがあること,各々の
ALCの乾燥収縮率おいて,促進炭酸化した
ALCの方が大きくなる傾向があることを示し ている。
2.4 まとめ
以上のように,
ALCの炭酸化に関する調査研究は,
ALC中のトバモライト結晶構
造の変化について行われたものが多く,種々の知見が得られている。経年変化による
ALCパネルの性能変化に関する調査は,建物から採取した
ALCによるものが主であ
り,炭酸化と強度の関係も調査されているが,炭酸化以外の強度変化の要因も考えら
れる。本研究では,要因を炭酸化に限定するために促進炭酸化を行い,炭酸化の進行
度合いと
ALCパネルの各種性状変化を確認する。
- 7 - 第 3 節 本論文の構成
本論文の構成は以下のとおりであり,それらに基づく本研究フローを図
1.3に示す。
(1)
序論
(2)
飽和炭酸化状態に基づいた
ALCの炭酸化進行度の測定方法の提案
(3)促進炭酸化が
ALCの強度に及ぼす影響
(4)
促進炭酸化した
ALCの熱特性
(5)
炭酸化が進行した
ALCにおける各種仕上塗材の炭酸化抑制効果
(6) ALC
の促進炭酸化がタイルの接着強さに及ぼす影響
(7)
促進炭酸化が
ALCパネルの曲げ性状に及ぼす影響
(8)
炭酸化進行度に基づく
ALCパネルの健全度評価法方法の検討
(9)結論
第
1章「序論」は,研究の目的と背景を示し,更に,
ALCパネルの炭酸化に関する 既往の研究について示すとともに本研究の範囲について示す。
第
2章「飽和炭酸化状態に基づいた
ALCの炭酸化進行度の測定方法の提案」では,
異なる製造履歴を有する
ALCの炭酸化反応の進行度合いを相対的に比較できる指標 並びに,その測定方法について示す。また,その測定方法による建物に使用された
ALCの炭酸化進行度の測定例を示す。
第
3章「促進炭酸化が
ALCの強度に及ぼす影響」では,促進炭酸化が
ALCの圧縮 強度,曲げ強度およびヤング係数に及ぼす影響について示すとともに,本研究にて行 った促進炭酸化とフィールドにおける炭酸化の違いが
ALCの強度物性に与える影響 についても示す。
第
4章「促進炭酸化した
ALCの熱特性」では,促進炭酸化が
ALCの断熱性能
(熱 伝導率
)に与える影響について示すとともに,建築基準法に規定される
ALCの耐火性 能に与える促進炭酸化の影響について示す。
第
5章「炭酸化が進行した
ALCにおける各種仕上塗材の炭酸化抑制効果」では,
ALC
パネルのメンテナンスを想定し,既に一定量の炭酸化が進行した
ALCに対する 各種仕上げ材の炭酸化の抑制効果について示す。
第
6章「
ALCの促進炭酸化がタイルの接着強さに及ぼす影響」では,タイル張り仕 上げが施された
ALCについて,促進炭酸化による
ALCの強度性状の変化が,タイル の剥落安全性に及ぼす影響について示す。
第
7章「促進炭酸化が
ALCパネルの曲げ性状に及ぼす影響」では,促進炭酸化し
た
ALCパネルの曲げ試験を行い,促進炭酸化が
ALCパネルの曲げひび割れ荷重なら
びに曲げ剛性に及ぼす影響について,炭酸化の進行度合いならびにパネルの配筋状況
との関係を示す。また,曲げひび割れ荷重の変化に影響を与えると考えられる
ALCの炭酸化収縮によるパネル内部の歪み度の変化との関係も,実験的検証を加えて合わ
せて示す。
- 8 -
第
8章「炭酸化進行度に基づく
ALCパネルの健全度評価法の検討」では,以上の 研究成果に基づき,炭酸化の進行度合いを指標とした
ALCパネルの評価法を提案す るとともに,メンテナンス方法について提案を行う。
第
9章「結論」では,本論文における研究成果を総括し,本研究の結論とする。
- 9 -
第8章 炭酸化進行度に基づくALCパネルの健全度評価方法の検討
第9章 結論
第4章 促進炭酸化したALCの熱特性
断熱性能 耐火性能
熱伝導率 遮熱性 遮炎性 非損傷性推定
第6章 ALCの炭酸化がタイルの接着強度に及ぼす影響
炭酸化進行度(CPD)の提案
第1章 序論
第2章 飽和炭酸化状態に基づくALCの炭酸化進行度合いの指標
飽和炭酸化状態に基づくALCの
炭酸化進行度合いの提案 建物に使用されたALCの炭酸化進行状況調査 フィールドと促進炭酸化との炭酸化状況の違い
炭酸化によるALCに張り付けられたタイルの剥落安全性の確認
第7章 ALCパネルの曲げ性状に及ぼす促進炭酸化の影響 第5章 炭酸化が進行したALCの各種仕上げ材の炭酸化抑制効果
メンテナンスにおける塗材の選定
曲げひび割れモーメント 曲げ剛性 内部応力変化
CPDによる曲げ性状の推定
第3章 ALCの強度性状に及ぼす促進炭酸化の影響トバモライトの炭酸化による結晶構造の変化と長さ変化率との関係から推定される トバモライト構造変化と強度変化
圧縮強度 曲げ強度 ヤング係数
CPDと圧縮強度残存率 CPDと曲げ強度残存率 CPDとヤング係数残存率 CPDによる強度推定
図 1.3 本研究のフロー
- 10 - [
参考文献
]1)
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10)
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2002.1112)
九矢一男,迫 英介,重富正吉:
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,日本建築学会大会学術講演梗概集,
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九矢一男,重富正吉:
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,日本建築 学会大会学術講演梗概集,
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1991.914)
長尾崇史,久保田秀之:
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,日本建 築学会大会学術講演梗概集,
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2006.915)
長田大輝,加瀬史朗,小野瀬倫男:
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2005.6- 11 -
17)
日村みのり,小山明男,水谷吉克:産業副産物を用いた
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18) Fumiaki Matsushita,Yoshimichi Aono
,
Sumio Shibata:Microstruccture Chang of Autoclaved Aerated Concrete during Carbonation under Working and Accelerated Conditions,Journal of Advanced Concrete Technology,
Vol.2,
pp.121-129,
2004第 2 章 飽和炭酸化状態に基づいた
ALC 炭酸化進行度合いの指標
第 1 節 概説 12 第 2 節 飽和炭酸化状態を 100%とした
炭酸化の進行度合いの指標の提案
2.1 概要 14 2.2 炭酸化反応に注目した ALC 中の Ca 15 2.3 ALC 試料の飽和炭酸化処理条件の確認 18 2.4 製造履歴の異なる ALC の
飽和炭酸化状態における炭酸化度 20 第 3 節 ALC パネルの炭酸化進行度の測定方法の提案
3.1 概要 23
3.2 測定方法 23
3.3 使用治具等 25
第 4 節 炭酸化進行度による建物に使用された ALC の調査例 4.1 概要 26 4.2 本研究における調査結果 26 4.3 断熱性能検証における調査結果 27 4.4 屋根版に使用された ALC の炭酸化進行度 29 4.5 建物管理者からの依頼による製造・使用履歴
の異なる多岐にわたる ALC の調査 30
第 5 章 本章のまとめ 32
[参考文献] 32
- 12 -
第 2 章 飽和炭酸化上位に基づいた ALC の炭酸化進行度合いの指標 第 1 節 概説
ALC
は,けい酸質原料
(けい石等
),石灰質原料
(生石灰・セメント等
)の粉末原料に 水とアルミニウム粉末などの発泡剤を混和し,発泡硬化後にオートクレーブ養生を行 い,けい酸カルシウム水和物であるトバモライトを生成し,製造される。
ALCは未反 応けい酸質原料をトバモライトが結合する構造の建築材料であり,結合材となるトバ モライトの性質が
ALCの性質に大きく影響するとされている
1)。トバモライトは,空 気中の炭酸ガス
(CO2)と反応
(以下,炭酸化
)することで,トバモライト中のカルシウム
(Ca)が炭酸カルシウム
(CaCO3)となり,シリカゲル
(SiO2)と水
(H2O)が生成される
(化学 反応式
(1.1)参照
)。製造直後の
ALCパネルのトバモライト結晶と,経年により高度に 炭酸化した
ALCのトバモライト結晶の走査型電子顕微鏡
(SEM)写真を,写真
2.1に示 す。炭酸化反応により生成された
CaCO3が、トバモライト結晶の上に析出している 様子が確認される。
この炭酸化反応が,ある一定量を超えると
ALCの強度は低下傾向を示すとされて いる
2)。
JIS規格に規定される
ALCパネルの密度,強度の区分は
1種類で,
450kg/m3を超え
550kg/m3未満,
3.0N/mm2以上の規定値に対し,
500kg/m3,
5.0N/mm2程度 のものが日本国内では製造されてきた。したがって,炭酸化反応の進行度と強度の関 係を把握することで,
ALCの炭酸化反応の進行度合の測定による
ALCパネルの強度 変化の推定が可能となり,それがメンテナンス要否の指標となると考えられる。
ALC
炭酸化の進行度合いの測定法としては,松下ら
2)や横山ら
3)の指標が報告され
写真 2.1 トバモライト結晶の SEM 写真(製造直後のトバモライト結晶) (経年により高度に
炭酸化したトバモライト結晶)
- 13 -
ている。松下らの指標は,採取した
ALC中に存在する
Caがすべて
CaCO3に変化し た状態を炭酸化度
100%としている。横山らの指標は,採取したALCの飽和炭酸化状 態を炭酸化度
100%としている。それらは,全Ca量に対する
CaCO3中の
Ca量の割 合を指標とするのか,あるいは,炭酸化反応の対象となる
Ca量に対する
CaCO3中の
Ca量の割合を指標とするのか,という点で異なる。
国内で生産されてきた
ALCの品質規格は
1区分で,同じ強度区分の
ALCでも,製 造方法,使用原料などに違いがあるため,トバモライトの生成割合および質は,製造 された年代の違いも含め様々である。目標とする品質を達成するために設定したトバ モライトの必要量に対する変質割合を,
ALCの性状変化の指標とするのであれば,
ALC
毎に設定されたトバモライトの必要量を推定する必要がある。
松下らは,飽和炭酸化反応状態における
ALC中の総
Ca量に対する
CaCO3に反応 した
Ca量の割合は,およそ
60%であるとしている。しかし,同様の測定方法を用い たと推定される長田ら
4)の研究報告では,
60%を超えて炭酸化が進行した
ALCの測定 結果が報告されている。
JISに規定される品質が確保された同じ強度区分の
ALCでも,
生産時期,工場あるいは用いる原材料,製造方法などの製造に関する履歴の違いによ り
(以下,製造履歴の違いという
),飽和炭酸化状態における
CaCO3の生成割合が異な ることを示唆している。
松下らの指標も,横山らの指標も,共に飽和炭酸化状態までの進行度合いを測って いることに違いはない。従って,もし全ての
ALCの飽和炭酸化状態が松下らの示す
60%程で飽和炭酸化状態となるのであれば,双方の指標に差異がないこととなる。し かし,長田らの報告のように,飽和炭酸化状態に違いがあるのであれば,飽和炭酸化 状態を確認する必要がある。
ALC
中の
Caの化学反応の割合を示す観点では,松下らの指標が妥当と考えるが,
必要なトバモライト量に対する反応割合と強度変化の相関関係を検討する観点では,
飽和反応時の炭酸化度を
100%とした考えを基にした手法が妥当であると考えられる。
しかし,横山らの報告には,測定のための試料の作製や,炭酸化の進行度合いの測定 方法の詳細が示されていない。
本研究では,横山らが用いた飽和炭酸化状態を
100%とし,飽和炭酸化状態までの 到達割合を指標として用いている。
本章では,この指標の測定方法について検討するとともに,測定例を示す。なお,
ALC
中の全
Ca量を対象とした既往の研究の指標である炭酸化度と区別するために,
本研究で用いた指標を炭酸化進行度
(CPD:
Carbonation Progression Degree)と呼称
する。
- 14 -
第 2 節 飽和炭酸化状態を 100%とした炭酸化の進行度合いの指標の提案
2.1 概要
ALC
中のすべての
Ca量が炭酸化した時を炭酸化度
100%とした既往の研究
2)では,
ALC
の飽和炭酸化状態の炭酸化度は
60%程であり,
ALC中の全
Ca量の
40%程が
CaCO3に反応しないとしている。一般的な
ALCの配合では,けい酸質原料より配合 比率の低い石灰質原料は,ほぼ全量が
CaCO3に反応可能なトバモライトを主とした けい酸カルシウム水和物に反応する。しかし,
CaCO3に反応しづらい
Ca化合物もあ る。例えば,原材料に用いられる二水石こう
(CaSO4・
2H2O)がある。石こうはトバモ ライトの生成後,主に無水石こう
(CaSO4)として残存し,
CO2と反応しづらいために
CaCO3の生成に寄与しない。しかし,
ALC中の全
Ca量の内,石こうの
Ca量が
40%にもなる割合の配合は一般的でない。したがって,けい酸カルシウム水和物中の全て の
Caが
CaCO3に生成されるのではなく,けい酸カルシウム水和物として残存する
「
CaCO3に変化しない
Ca」があると考えられる。けい酸カルシウム水和物の炭酸化 反応において,反応により生じる
SiO2が炭酸化反応を阻害し,その程度は,けい酸カ ルシウム水和物の原料の比率
(石灰質原料とけい酸質原料との割合など
)などの生産履 歴の違いにより異なるとの知見も報告されている
5)。
また,炭酸化により生成される
CaCO3の結晶により,トバモライトへの
CO2の供 給が妨げられ,炭酸化が阻害されるとの見解もある。この場合,生成される
CaCO3結晶の成長度合いにより炭酸化の阻害程度が異なると考えられることより,製造履歴 の違いにより,飽和炭酸化時における炭酸化度が異なると考えられる。
これらのことより,本節では
ALCの炭酸化反応の進行度合の指標の検討を行うた
めには,炭酸化反応の対象となる全
Ca量と
ALC中の
CaCO3の反応量との関係に注
目すべきと考え,炭酸化反応に注目して
ALC中の
Caの区分けならびに,それらを基
に炭酸化の進行度合いの指標の検討を行った。
- 15 -
表 2.1 炭酸化反応に注目した Ca 分類
記号 Ca の分類
Ca1
飽和炭酸化反応時に
CaCO3にならない
Ca Ca2けい酸カルシウム
水和物中の
Ca CaCO3に成り得る
CaCa3
けい酸カルシウム水和物が反応した
Ca Ca4CaCO3
中の
Ca原材料中に含まれている
CaCO3中の
Ca Ca5 CaSO4など炭酸化反応がしづらい成分中の
Ca注 けい酸カルシウム水和物中の
Caには主鉱物であるトバモライトな らびにその前駆体となる非晶質のけい酸カルシウム水和物を含む。
製造直後
Ca1 Ca2 Ca4 Ca5炭酸化途中
Ca1 Ca2’
Ca3’
Ca4 Ca5飽和炭酸化
Ca1 Ca3” Ca4 Ca5図 2.1 炭酸化による ALC 中の Ca の量的推移 2.2 炭酸化反応に注目した ALC 中の Ca
1) ALC 中の Ca の分類
ALC
の成分に含まれる
Caを,炭酸化反応に注目して表
2.1に分類する。まず
Caを,原材料がオートクレーブ養生により生成されたケイ酸カルシウム水和物中の
Caと,
CaCO3中の
Ca,そして化学的に炭酸化反応がしづらい
CaSO4などの成分中の
Caの
3種類に分類する。トバモライトを主としたけい酸カルシウム水和物中の
Caは,
前節に記した飽和炭酸化反応時に
CaCO3にならない
Ca1と
CaCO3になりえる
Ca2に 分類される。また,
ALCの成分に含まれる
CaCO3中の
Caは,けい酸カルシウム水 和物中の
Caが反応した
Ca3と原材料に元来含まれていた
Ca4に分類され,化学的に 炭酸化反応がしづらい成分中の
Ca5の
5種類に分類できる。
表
2.1の分類に基づいた
Caの炭酸化の進行による変化推移を図
2.1に示す。炭酸 化が進行すると,
Ca2の一部が
CaCO3に反応するため
Ca2は
Ca2’と
Ca3’に分けられ る。その後炭酸化が進み,飽和炭酸化状態になると全ての
Ca2は
CaCO3となり,
Ca3”となる。
製造直後の炭酸化反応前の,
Ca1と
Ca2は原材料の配合割合や使用される原材料の
種類,製法などの生産履歴の違う
ALC毎に生成量が異なり,同じけい酸カルシウム
水和物であっても
Ca1と
Ca2の割合が異なる。
Ca4はもともと原料中のセメント中や
- 16 -
生石灰中に含まれる
CaCO3であり,原材料の種類や品質,あるいはそれらの配合割 合などにより異なり、また
CaSO4などの
Ca4も,配合割合などにより異なる。
トバモライトの質と量は,ALC の性質に大きく影響するもので,JIS A 5416 に規 定される品質水準を満たすために一定以上の割合が確保されるように材料設計が行わ れており,
ALC毎に
Ca1と
Ca2の量が著しく異なることはないと推定されるが,
ALCの炭酸化反応の進行度合いの指標を検討するうえでは,異なることを前提とすべきと 考える。
2) 炭酸化の進行度合い式
表
2.1の分類に基づき,
ALCの炭酸化過程中の進行度合いの指標について,
ALC中の全
Ca量に対する
CaCO3中の
Ca量の割合
(既往の研究
2)に倣い炭酸化度という
)は下記の式
(2.1)で表すことができる。
式
(2.1)では,炭酸化により生成された
CaCO3の量
(Ca3’)が同じであっても,トバモ ライトの性質の違いによる
Ca1の割合や,原材料の違いなどによる
Ca4,
Ca5の割合 により炭酸化度が異なる。逆に,炭酸化度が同じであっても,炭酸化により生成され た
CaCO3の量
(Ca3’)が異なる場合もある。製造履歴の異なる幾他の
ALCについて,
炭酸化反応の進行度合いを相対的に比較するためには,炭酸化度はわかりづらいと判 断される。
また飽和炭酸化反応時を
100%とし,飽和炭酸化時のCaCO3中の
Ca量に対する採 取時試料の
CaCO3中の
Ca量の割合
(以下,本研究において炭酸化進行度あるいは
CPD(Carbonation progression degree)という
)は下記の式で表すことができる。
製造後に生成された
CaCO3の割合を炭酸化の進行度合いとすると,
CaCO3に炭酸 反応し得る全
Ca量
(Ca3”
)に対する炭酸化反応により生成された
CaCO3中の
Ca量
(Ca3’)の割合とすべきで,それは下記の式で表すことができる。
しかし式
(2.3)においては,
ALC中の
CaCO3について,原材料に元来含まれるもの
(Ca4)と,けい酸カルシウム水和物に由来するもの
(Ca3)を区別して測定する必要があ るが,それは大変困難である。したがって,原材料中に含まれる
CaCO3が誤差とし て含まれるが,容易に測定可能な式
(2.2)による値を,本研究では炭酸化進行度とする。
炭酸化度
= ( Ca3 ’+ Ca4) / ( Ca1 + Ca2+ Ca4+ Ca5)(2.1)
炭酸化進行度
=(Ca3’+ Ca4 )/ (Ca2’+ Ca3 ’+ Ca4 )(2.2)
炭酸化反応の進行度
= Ca3’/ Ca3”(2.3)
- 17 - 3) 原材料中の CaCO3が測定値に与える影響の検討
炭酸化反応前の
Ca3’は
0であり,前記式(2.2)に
Ca3’=0を代入すると,
炭酸化反応前
CPD = Ca4 / (Ca2’+ Ca4 )となり,原料由来のCa4が残るため,本 来
0%となるべき
CPDは
0%とはならず,誤差を生じる。
これに対し,飽和炭酸化反応時における
CPDは,
Ca2’が
0となる。
故に,
Ca3 ’= Ca3 ”= Ca2 ’+ Ca3 ’となり,式
(2.2)に基づく炭酸化進行度は,
飽和炭酸化反応時
CPD = ( Ca3 ”+ Ca4 ) / (Ca2’+ Ca3 ’+ Ca4 ) = ( Ca3 ”+ Ca4 ) / ( Ca3 ”+ Ca4 )= 100%
本来
100%であるべき通りの
100%と算出される。
すなわち,式
(2.2)による炭酸化進行度の誤差は,
CPDが低いほど大きくなり,飽和 状態に近くなるほど誤差が小さくなる傾向がある。
例えば,比較的セメント量の多い配合の一例として,石灰質原料を原料全体の
41wt%とし,その内セメントを全原料の
33wt%とした場合,セメント中の
CaCO3を
JIS R 5210:2009ポルトランドセメントに規定される少量混合成分の全てが
CaCO3で,
その割合が最大量である
5wt%とすると,
ALC中の
CaCO3の量は,全質量の
1.7wt%と計算される。本計算は,セメント中の
CaO量は
64wt%,石灰中の
CaO量は
94wt%,
原料中の
CaOは全てトバモライトを主とするけい酸カルシウム水和物に反応するこ
とを前提としている。石灰質原料量から生成されるけい酸カルシウム水和物量をモル
比計算すると,セメント中の
CaCO3の
Ca量の割合は
3.2%と算出される。本研究で提案される炭酸化進行度の測定方法においては,原料中に含まれる
CaCO3による測
定誤差を含むが,炭酸化が進行するに従い,この誤差は小さくなる傾向にある。
- 18 -
表 2.2 各試料の促進炭酸化時間と測定項目
試料記号
a1 a2 a3 a4 a5 a6 a7促進炭酸化 時間
(h)0,1,3,5,7,9,
12,18,24,48 0,24,48,72
測定項目
CO2量測定,
X
線回折
CO2量測定
2.3 ALC 試料の飽和炭酸化処理条件の確認 1) 概要
前項
2.2の式(2.2)による炭酸化進行度(CPD)を求める場合には,採取した試料の一 部を飽和炭酸化状態
(以下,飽和炭酸化試料という
)とする必要がある。本節では,採 取した
ALC試料を飽和炭酸化試料とするための炭酸化条件の確認を行った。なお,
炭酸化進行度の測定には用いないが,本章では,促進炭酸化での炭酸化反応の進捗に よるトバモライトの結晶性の変化を定性的に確認するため,
X線回折を行った。本研 究における飽和炭酸化状態とは,促進炭酸化環境における
CaCO3の生成量が増加し なくなった状態を言う。
2) 試料および測定項目
製造履歴の異なる
a1~
a7の
7種類の
ALCパネルから採取した
ALC片を,メノウ乳 鉢にて微粉砕し,ふるいにより
90μm 以下となるように調整した。その
ALC粉末
0.5gに対し蒸留水
0.8gの割合で加えて練り混ぜたものを試料とし,飽和炭酸化処理に供し た。表
2.2に,試料の記号と促進炭酸化時間ならびに測定項目を示す。
促進炭酸化は,
CO2濃度
100%,圧力
0.15MPaの圧力タンク容器にて,表
2.2に示 す時間の炭酸化を行った。炭酸化時間ごとに,各試料の
CO2量を測定するとともに,
試料
a1については
X線回折によりトバモライトの結晶性を確認した。
3) 熱重量分析および X 線回折
各試料中の
CO2量は
TG-DTAを用い,試料
15mgを大気中にて
20℃
/minの昇温速 度で室温から
950℃まで加熱し,
600~
900℃における試料の減量を
CO2量とし,
950℃ における強熱減量
(ig.loss)による補正を行った。
X
線回折は
CuKα線にて,加速管電圧
/電流を
40kV/30mmAとし,スキャン速度が
2°/minで回折角
0.02°毎に測定した。
4) 測定結果
図
2.2に,試料
a1の炭酸化時間が
0時間~
48時間までの
X線回折図を示す。炭酸 化
5時間までは,回折角度
7.8°などに示されるトバモライトのピークが確認できるが,
炭酸化
9時間以上では,トバモライトを示すピークが確認できなくなり,回折角度
29.4°の
CaCO3(カルサイト
)を示すピークが顕著になった。
- 19 -
図
2.3に,試料
a1の促進炭酸化を
48時間施した試料中の
CO2測定量に対する,炭 酸化時間毎の各試料の
CO2測定量の割合を示す。CO
2量は炭酸化時間
5時間までは 徐々に増加する傾向を示すが,
18時間以降は増加の傾向は示さず,ほぼ変化の無い状 態の炭酸化反応の進行しない飽和反応状態にあると考えられる。
図
2.4に,試料
a2~
a7の
72時間の促進炭酸化を施した試料の
CO2測定量に対する,
各炭酸化時間における
CO2測定量の割合を示す。炭酸化前の割合は,
4.4%~
7.8%で,
炭酸化時間が
24時間を超えた場合の値は,
97.5%~
100.0%となり,
24時間以上では
CO2測定量に変化がないことが確認された。
ALCの製造履歴にかかわらず,本条件下 における促進炭酸化を行うと,
24時間で炭酸化反応をほぼ飽和状態とすることができ ると判断する。
図 2.2 促進炭酸化時間毎の試料の X 線回折図(試料 a1)
0 20 40 60 80 100
0 6 12 18 24 30 36 42 48 促進炭酸化時間(h) :試料a1
CO2測定量割合(%)
図 2.3 促進炭酸化時間と CO2測定量割合 図 2.4 各種試料の炭酸化時間毎の CO2測定量割合
0 20 40 60 80 100
0 24 48 72
促進炭酸化時間(h) CO2測定量割合(%)
a2 a3 a4 a5 a6 a7
5 10 15 20 25 30 35
2θ
強度 ( c p s )
促進炭酸化時間
24h 48h
12h 18h
9h 7h 5h 3h
0h 1h Q C
Q
C
To
To
Q To : Tobermorite
C : Calcite(CaCO3) Q : Quartz(珪石)
- 20 -
2.4 製造履歴の異なる ALC の飽和炭酸化反応時の炭酸化度の確認 1) 概要
松下らの研究
2)では,
ALCの飽和炭酸化反応時における式(2.1)に基づく炭酸化度は およそ
60%であるとしている。生産履歴の異なるすべての
ALCが
60%で飽和状態と なるのであれば,種々の
ALCの炭酸化の進行度合いを相対比較することができる。
また,その炭酸化度を以って,大凡の強度変化の指標とすることができる。
しかし,同様の方法で測定されたと推定される長田らの研究報告
4)では,
60%を超 えて炭酸化が進行した数多くの
ALCの測定結果が報告されている。そうであれば,
異なる幾種の
ALC試料の炭酸化度が
60%であっても,いずれかの一つは飽和状態で あり,他の試料は未だ炭酸化進行の途上にあることになる。すなわち,
ALCの強度物 性に著しく影響するトバモライトの変質状態を示す指標とするならば,その指標は相 対比較ができるものでなくてはならない。同じ指標値でも炭酸化による性状変化の途 上のものと飽和反応状態にあるものが混在することは,
ALCの性状の変化を示す指標 としては適さないと考える。
本項では長田らの研究報告を参考に,製造履歴の異なる
ALCについて,飽和反応 時における式
(2.1)により算出される炭酸化度の相違を確認する。製造工場,時期など の製造履歴が異なると推定される
6種
(b1~
b6)の
ALC試料を,前項に基づき,炭酸化 反応が飽和状態となる
24時間の促進炭酸化を施した場合の,
X線回折によるトバモ ライト結晶の定性確認を行うとともに,式
(2.1)に基づく炭酸化度の測定を行った。な お,本試験に用いた試料
(b1~
b6)と前項に用いた試料
(a1~
a7)は,異なる
ALCパネル から採取した試料である。
2) 試料
製造履歴の異なる
ALCパネルから採取した各
ALCサンプルをメノウ乳鉢にて微粉 砕し,ふるいにより
90μm 以下となるように調整したのち,
ALC微粉末
0.5gに対し 蒸留水
0.8gの割合で加えて練混ぜたものを試料とし,促進炭酸化を
24時間行った。
3) 炭酸化度の測定方法
炭酸化度の測定方法は,以下の手順により行った。
a. ALC 中の全 Ca 量
ICP
発光分光分析装置より試料中の全
Ca量を測定した。測定は,塩酸と硝酸 で加熱分解した試料
100mgを用いて,プラズマ条件として高周波出力
1.3kW, プラズマガス流量
16ℓ
/min,補充ガス流量
0.4ℓ
/min,キャリアガス流量
0.2ℓ
/minにて測定した。
b. 飽和炭酸化反応時の CaCO3中の Ca 量
飽和炭酸化反応時の
CaCO3中の
Ca量は
TG-DTAを用い,飽和炭酸化試料中
の
CO2量を測定し,モル比により
Ca量を算出した。
CO2は,
600~
900℃におけ
る試料の減量とし,
950℃における強熱減量
(ig.loss)による補正を行った。
- 21 -
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000
5 10 15 20 25 30 35
2θ
強度(cps)
c. 試料の炭酸化度
炭酸化度は式(2.1)に準じ,測定結果より下式により算出した。
4) 試験結果および考察
・X 線回折によるトバモライトの確認
促進炭酸化後の各試料の
X線回折図を,炭酸化前の試料
b1試料の
X線回折図とと もに図
2.5に示す。採取されたすべての試料において見られた回折角度
7.8°
, 16.2°
, 29.0°
, 30.0°
, 31.7°に示されるトバモライトのピークが炭酸化により見られなくな り,
29.4°の
CaCO3 (カルサイト
)のピークが顕著となった。全ての試料が飽和炭酸化 反応状態となったと判断される。
・ 炭酸化度
測定した各試料の炭酸化度を図
2.6に示す。本試験に用いた全ての試料は,飽和状 態となっても炭酸化度が
100%になることはなく,最小値で
73.0% (試料
b2),最大値 で
83.6%(試料
b6)と試料毎に異なることが確認された。
また,このことは,トバモライトが炭酸化により確認されなくなっても,すべての
Caが
CaCO3に反応していないことを示しており,表
2.1および図
2.1に示される
Ca1の存在を証明しているとともに,生産履歴の違いにより
Ca1の生成量が異なることを 示唆している。
Ca1はトバモライトの崩壊による非晶質のけい酸カルシウム水和物の 状態であり,それは生成した
CaCO3の結晶が成長し,
CO2の供給が妨げられ炭酸化 の進行が阻害されたものと考えられる。
炭酸化度
(%) = CaCO3中の
Ca量
/ ALC中の全
Ca量
(2.4)
To : Tobermorite C : Calcite(CaCO3) Q : Quartz(珪石)
図 2.5 各試料毎の飽和炭酸化反応時の X 線回折
Q C
試料 b1 試料 b2 試料 b3 試料 b4 試料 b5 試料 b6 促進炭酸化前 To
Q
To
- 22 -
反応の進行度合いを示す指標であれば,各試料は全て飽和炭酸化反応状態であり,
同じ評価値であるべきで,単なる炭酸化度では炭酸化反応の相対的な進行度合いを示 していない。ALC の品質は,JIS A 5416 による規定では,密度
450~550kg/m3かつ
圧縮強度
3.0N/mm2以上と,
1種類だけである。年代,技術,原料など異なる生産履
歴を有する様々な
ALCであっても,反応の進行程度の相対比較が可能な指標であれ ば,炭酸化進行の程度と
ALCの強度変化との関係が理解しやすくなる。
式
(2.1)による炭酸化度で反応の進行度を示す場合には,最大値となる飽和反応時の
炭酸化度と共に採取時の値を示し,その割合を以って炭酸化反応の進捗度合いの共通 の指標とすることができる。例えば,試料
b2であれば炭酸化度
36.5%が飽和炭酸化反 応までの
50%の進行度合いであり,試料
b6であれば炭酸化度
41.8%が飽和炭酸化反 応までの
50%の進行度合いとなる。炭酸化度の値では,炭酸化反応の進行度合いを相 対比較できないが,炭酸化進行度であれば可能となる。それは,式
(2.2)に示される炭 酸化進行度となる。
図 2.6 各試料の飽和炭酸化反応時の炭酸化度
66 68 70 72 74 76 78 80 82 84 86
b1 b2 b3 b4 b5 b6
試料種類
飽和炭酸化反応時の炭酸化度(%)