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炭酸化進行度に基づく

ALC パネルの健全度評価方法の検討

第 1 節 概説 109 第 2 節 炭酸化進行度によるメンテナンス判断

2.1 概要 110 2.2 炭酸化進行度に基づく各種性能の整理 110 2.3 炭酸化進行度に基づくメンテナンスの判断 112 第 3 節 炭酸化した ALC パネルの補強方法の検討

3.1 概要 114 3.2 試験体及び試験方法 114 3.3 試験結果及び考察 115 3.4 本節のまとめ 117 第 4 節 ALC パネルの炭酸化進行予測

4.1 概要 118 4.2 ALC パネルの炭酸化進行予測 118 第 5 節 本章のまとめ 122 [参考文献] 122

109

-第 8 章 炭酸化進行度に基づく ALC パネルの健全度評価の検討 第 1 節 概説

ALCパネルに求められる性能として,パネルの曲げ強度,耐火性,断熱性,そして 軽量性などがある。パネルの曲げ強さや耐火性能などは,実大寸法のパネルを用いて 試験体により確認することが一般的であるが,使用中の建物の ALC パネルを試験に 供することは,取り替えなどの大きな工事を伴うため,ALCパネルの健全度の確認方 法としては一般的でない。本章では,これまでの炭酸化進行度と性状変化の関係に基 づき,調査対象となるALCパネルの炭酸化進行度の測定値を基にした,ALCパネル の健全度評価方法を検討する。

第 2 節では,促進炭酸化したALCの各種性能評価の整理を行い,炭酸化進行度に 基づく健全度評価の識別を示すとともに,メンテナンスの必要可否判断の基準を示す。

第3節では,過度に炭酸化が進み,設計時に設定された必要な曲げ剛性が確保でき なくなった場合の補強方法例について示す。石井ら 1)3)は,建物に使用されてきた ALC 屋根パネルについて,メッシュ鉄筋とポリマーセメントモルタルによる補強や,

炭素繊維の貼り付けなどによる補強を行い,その効果を確認した。また,経年変化し たALCパネルの補強ではないが,一般的なALCパネルの曲げ剛性向上策の一つとし て,表面に薄鋼板を接着接合した鋼・ALCサンドイッチ床版に関する研究報告がある

4)。それには,基本的な構造特性が示される他,剛性や耐力を評価するための知見が 示されている。本研究では,これらを参考に,簡易な補強方法の一例として,帯状に 加工した薄鋼板をパネル表面に有機系接着剤で張り付ける方法を提案する。パネル曲 げ強さ試験を行い,促進炭酸化した ALC パネルに対する補強方法としての有効性を 確認する。

第4節では,ALCの促進炭酸化の進行状況などをもとに,ALC炭酸化の進行予測 に関する検討を行い,推定手法の提案を行う。ALCパネルの健全度診断の結果,診断 時にはメンテナンス不要と評価された場合でも,メンテナンスが必要となる時期,あ るいはそのまま継続使用した場合の使用可能期間など,将来の予測・推定が求められ ることも多い。ALCパネルの健全度判断手法の一つとして,検討する。

110 -第 2 節 炭酸化進行度(CPD)によるメンテナンス判断

2.1 概要

前章までの促進炭酸化した ALC パネルの炭酸化進行度と各種性能の関係をまとめ て,炭酸化進行度(CPD)によるメンテナンス判断の目安とする。

2.2 炭酸化進行度に基づく各種性能の整理 1) パネル曲げ強さ

表8.1に炭酸化進行度とALCパネルの曲げ性状変化の概要を,曲げひび割れモー メント(Mc)及び曲げ剛性について示す。

・ 曲げひび割れモーメント(Mc)

曲げひび割れモーメント(Mc)は,CPD30%程度までは初期値を維持し,その後 CPDが高くなるに従い線形的に低下する。CPD 50%程度まではMc安全率は1.0 を保持するが,その後,強度計算値を下回り,CPD70%前後でMcが荷重たわみ 曲線から確認できなくなる。

パネル表面に発生する曲げひび割れは,表面からの透水性が高くなるともに透 気性も高まり,炭酸化の進行速度が速まることが予想され,耐久性低下の心配が ある他,強度的には曲げ剛性が低下する。故に,ALCパネルの強度設計において,

設計荷重時における曲げひび割れの発生を抑制している5)6)。しかしパネルの曲 げ剛性低下が,必要性能を下回らない範囲であれば,強度上は継続使用ができる と判断することもできる。この場合は,前記の曲げひび割れの発生により想定さ れる不具合を解決するための,透気性が低く,防水性の高い仕上げ塗材を施すな どのメンテナンスが必要となる。

・ 曲げ剛性

ALCパネルの曲げ剛性は,CPD40%程までは促進炭酸化前の初期値が保持され,

それ以降は炭酸化が進行するに従い低下し,低下の割合は引張鉄筋比が小さいほ ど大きい。最も引張鉄筋比の小さなパネルでは,強度計算値に対する曲げ剛性の

表 8.1 炭酸化進行度と曲げ性状変化の概要

炭酸化進行度 CPD (%) 曲げ性状

0~ ~30~ ~40~ ~50~ ~70~ ~100

Mcが徐々に低下 Mc 初期値維持

Mc安全率1.0保持 Mc安全率

1.0を下回る

曲げひび割れ荷重(変曲 点)が,確認できなくなる

曲げ剛性 初期値維持 曲げ剛性が徐々に低下 曲げ剛性安全率1.0以上保持

曲げ剛性安全率1.0 下回る場合がある

111

-安全率はCPD70%程度で1.0となると予想されるため,CPD70%を曲げ剛性の変 化に基づくメンテナンス時期の一つの目安とすることができる。

しかし,引張り鉄筋比の高いパネルにおいては,CPD100%となっても,曲げ 剛性安全率が1.0を下回らない場合もある。そのため, CPDが70%よりも高い 場合には,対象となるパネルの配筋を調査し,CPDとパネルの引張鉄筋比による 曲げ剛性安全率の推定値を算出し,パネルに必要とされる曲げ剛性と比較し安全 性を確認すれば継続使用の判断を行うことができる。

2) パネルの断熱性能

ALC パネルは,炭酸化することにより CO2の吸着により徐々に密度が高くなる。

これに伴い,熱伝導率が高くなる傾向が若干認められる。しかし,ALCパネルの熱性 能値は,実体値に比べてJIS規格値 5)あるいは建物の断熱設計に使用する設計値6)に 余裕があるため,炭酸化により断熱性能に若干の変化を生じても,実用上の支障を生 じるほどではないと考えられる。

以上,炭酸化による ALC の断熱性能変化は極めて小さく,断熱性能の変化に基づ くメンテナンス判断のCPDの目安を設定する必要が無いと判断される。

3) 耐火性能

前項の断熱性能の確認と同様に,CPD90%までの試験体における耐火加熱時の高温 下における遮熱性に変化はなく,また,促進炭酸化により生じたパネル表面のひび割 れなどに起因する遮炎性に対する影響もない。また,加熱面側の補強筋の温度変化も,

ALCの炭酸化の進行度合いによる変化はなく,非損傷性に与える影響も限定的である と推定される。このようなことから,一般的に使用されている 100mm 厚さの ALC パネルについて,耐火性能の変化に基づくメンテナンス判断の CPD の目安値を設定 する必要が無いと判断される。

4) タイル張り仕上げに関する検討

ALCパネルは吸水性があり,屋外に面する部分については,防水性や耐久性を確保 するために,仕上げを施す必要がある。それら仕上げには,建築用仕上塗材やタイル 張り仕上げなどが一般に用いられているが,それらの剥落安全性はパネル表面の強度 に委ねられている。ALCパネルは炭酸化が進行すると強度が低下する傾向があるため,

本研究では,質量の大きなタイル張りについて検証を行ったが,張付け面の CPD が 89%程度で施工基準の 0.4N/mm2を下回っており,タイルが施された ALC パネルの CPD が 80%を超えた場合には,接着強さ試験などを行い,接着性状の確認を行うこ とが好ましいとしている。

なお,タイル張り仕上げについては ALC の炭酸化にかかわらず,関係法令などに より築後の定期検査が規定されており,本研究ではタイル張りの接着強さ変化に基づ くメンテナンスの目安とするCPDの目安値を設定しない。

112 -2.3 炭酸化進行度に基づくメンテナンスの判断

炭酸化による ALC パネルの性状変化の主なものは,パネルの曲げ強さである。そ こで,表8.1のCPDと曲げ性状変化の概要をもとに,炭酸化進行度によるALCパネ ルの健全度評価ならびに推奨メンテナンス方法を表8.2に示すとともに,炭酸化進行 度に基づく健全度評価のフローを図8.1に示す。

表 8.2 炭酸化進行度による ALC パネルの評価ならびにメンテナンス方法

炭酸化進行度 健全度評価 推奨メンテナンス

0~30%

曲げひび割れモーメント,曲げ剛性に変 化はなく,製造直後に近い性能を保持し ている。

メンテナンスは必要ないと評価される。

30~40%

曲げひび割れモーメントが低下するが,

曲げ剛性に変化はなく,通常使用に支障 のない性能が保持されている。

継続使用のためのメンテナンスは特に必要 としないが,炭酸化の進行が速いようであ れば,パネル表面からのCO2供給を遮断す るために,気密性のある仕上げ塗材の塗布 を行う。

40~50%

Mc安全率が1.0を下回る恐れがあり,曲 げひび割れモーメントおよび曲げ剛性の 低下傾向が継続する。

Mc安全率が1.0を下回らないことを必要 性能とする場合には,これ以上の炭酸化が 進行しないように,パネル表裏への気密性 のある仕上げ塗材の塗布を行う。

50~70%

曲げひび割れモーメントが徐々に小さく なり,確認しづらくなるとともに,低配 筋のパネルでは,曲げ剛性安全率が徐々 1.0に近づく。

これ以上の炭酸化が進行しないように,パ ネル表裏への気密性のある仕上げ塗材の塗 布を行う。

70%

曲げ剛性安全率が1.0を下回る可能性が ある。パネルの配筋(引張鉄筋比Pt)なら びに寸法などから,曲げ剛性安全率を仔 細に調査し,パネルが保有する曲げ強度 (剛性)と,必要強度との関係を確認する 必要がある。

これ以上の炭酸化が進行しないように,パ ネル表裏への気密性のある仕上げ塗材の塗 布を行う。

70%~100%

配筋・寸法などに基づく,パネルの曲げ 剛性安全率を仔細に調査する必要があ る。ALCパネルに必要な曲げ剛性との対 比により,継続使用の判断を行う必要が ある。

継続使用の判断に基づき,パネルの取り換 えあるいは補強工事などの措置を行う。