各種仕上塗材の炭酸化抑制効果
第 1 節 概説 65 第 2 節 実験概要
2.1 試験体概要 67
2.2 塗材 67
2.3 促進炭酸化 67 2.4 試料の採取および促進炭酸化 68 第 3 節 試験結果および考察
3.1 未塗装 ALC の炭酸化進行状況 69 3.2 各種仕上材塗材による炭酸化抑制効果の確認 70 3.3 試験体断面の炭酸化進行度変化 73 第 4 節 本章のまとめ 74 [参考文献] 74
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第 5 章 炭酸化が進行した ALC における各種仕上塗材の炭酸化抑制効果
第 1 節 概説
鉄骨造建物を主な用途とするALCパネルも,コンクリートと同様に炭酸ガス(CO2) との反応により性状が変化する。この現象を,コンクリートでは中性化と呼ばれてい るが,ALCでは一般に炭酸化と称されている1)。そしてコンクリートに関しては,中 性化による内部鉄筋の腐食を避けるため,中性化抑制のための研究が数多く行われて きた例えば 2)。また,コンクリートにおける建築用仕上塗材の中性化抑制効果に関する 研究も数多く進められている。長谷川らは,数多くの研究事例を基に計算による試算 を行い,JISの呼び名から透湿量の範囲を想定することの可能性を,表 5.1 に示す透 湿量の測定結果を以って検証した 3)。また唐沢らは,建築用仕上塗材の透気係数とコ ンクリートの中性化抑制効果の関係について,下地調整塗材を含めて各々の中性化促 進試験あるいは透気試験を行い,透気係数が低い建築用仕上塗材の中性化抑制効果が 高いこと,下地調整塗材においては中性化抑制効果が低いことなどを示している 4)。 これらのことから,コンクリートにおける中性化抑制効果は,建築用仕上塗材の透湿 量すなわち透気係数が低いほど中性化抑制効果が高くなることが判明している。
コンクリートの中性化は部材表面から始まり,徐々に内部に向かって進行する。そ のため,コンクリート表面からの中性化深さを進行度合いとしている。しかし,第 2 章の調査により,ALCは多孔質で透気性が高いため,反応がパネル表面から徐々に進 行するのではなく,程度に差異があるが,パネル断面全体で進行することが明らかに されている。そのため,一定以上に炭酸化が進行すると,トバモライトの結晶構造変 化に起因するALCの強度低下を生じることが第3章の研究により確認されている。
一般に,ALCパネルの屋外に面する部分には防水性の高い塗材などの仕上げが施さ れており,それらは透気性も低くCO2の遮断性も高いとされている。しかし製造直後 の ALC パネルには,オートクレーブ養生時に使用した蒸気に由来する多量の水分を 保有しており,放湿を目的に,片面は透気性を確保した仕上げとする必要がある 5)。 この透気性が確保された面がCO2の供給面となり,ALCパネルの炭酸化が進行する。
使用環境や製造履歴により ALC パネルの炭酸化の進行速度は異なるため,建物に 使用されているALCの炭酸化の進行度合いは,建物ごとに確認する必要がある。
フィールド調査結果による経年後のALCの炭酸化の進行度合いや、ALCパネルの 製造直後の初期強度が設計強度を大きく上回っている現状など,前章までの研究結果 を考慮すると,特に使用環境が厳しくなければ,一般的な供用期間内の ALC の炭酸 化による強度低下は、使用上の支障を生じる程ではないと推定される。
しかし近年,建築物の長寿命化の必要性が高まり,ALCパネルについても,より長 期間にわたる使用が求められ,メンテナンスの重要性が謳われている。炭酸化が進み つつある ALC に対して,それ以上の炭酸化反応を抑制するための措置が必要で,そ の方策の1つに,仕上塗材の塗布がある。これは,ALCの炭酸化抑制とともに,特に 経年変化したALCに関しては,防水性,美観性の観点からも有効である。
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仕上塗材の炭酸化抑制効果は塗膜のCO2の遮断性によるもので,コンクリートの中 性化抑制効果に関する研究成果が,ALC の場合にも適用可能と推察される。しかし,
これら中性化抑制効果をALCに直接的に関連付ける研究報告は少ない。阿知波らは,
ALCの長さ変化を炭酸化指標として,炭酸化が進行していないALCに施される建築 用仕上塗材の中性化試験での効果を明確にした6)。しかし炭酸化が進行したALCに対 する仕上塗材の,それ以上の進行を抑制する効果の確認においては,諸条件毎の炭酸 化の進行と収縮量との関係や,促進炭酸化反応後の ALC の長さ変化などが明確でな いため,ALCの炭酸化反応の進行度合いを数値化して評価すべきと考えられる。
本章では,100mm 厚の ALC について促進炭酸化を行い,ALC 断面内の進行状況 の経時変化を確認するとともに,経年変化したALCの保守保全を行う場合を想定し,
一定量の炭酸化が進んだ ALC に各種仕上塗材を施した後に,再度,促進炭酸化を行 い,炭酸化したALCの各種仕上塗材による炭酸化抑制効果の確認を行った。
表 5.1 仕上塗材の種類の透湿量の例
種類 透湿量
g/m2・24h 薄塗材E 107 厚塗材E 145
複層塗材RE-U 61
複層塗材RE-水系 64
下地のみ 228
※参考文献3)表3より引用
- 67 - 第 2 節 実験概要
2.1 試験体概要
第3章の研究では,ALCの炭酸化進行度(CPD)が50%を超えると,圧縮強度が初期 強度を下回り,その後,CPDの増加に伴い圧縮強度が徐々に低下する傾向が確認され ている。そこで,ALC の炭酸化進行度 50%をメンテナンスの一段階と仮定し,予め CO2濃度3.0vol.%環境下で,CPD50%を目標に促進炭酸化させた試験体両面に各種塗 材を塗布し,再び同条件で促進炭酸化を行い,塗布後の炭酸化時間と炭酸化進行度と の関係を確認した。
試験体は,汎用的な厚さ寸法である100mm厚のALCブロック(100×400×500mm) とし,小口4周をシリコン系シーリング材にて密閉したものを促進炭酸化に供した。
試験体となるALCは, JIS A 5416:2016 ALCパネルに規定されるALCパネルの,
同一工場,同一製造日の同一型枠から採取した。
2.2 塗材
ALC パネルを外壁に用いる場合には,一般に屋外面には建築用仕上塗材が施され,
一定の気密性が確保されるが,屋内側は内装ボードが施工され,表面が大気と接し呼 吸性を有する。工場,倉庫などでは内装がなく,ALC素面の場合も多い。第2章のフ ィールド調査結果などから,経年変化した ALC は,一般にほぼ平衡含水状態にある と考えられ,メンテナンス時に ALC の炭酸化抑制が必要な場合は,放湿に対する特 別な配慮が不要となり,パネル全体を気密性のある仕上げ材で密閉する手法が可能と なる。この場合,室内側に施す塗材は必ずしも防水性,耐候性を必要としない。
本研究では,施工性,経済性などを考慮し,各種仕上塗材をはじめ,下地塗調整材,
建築用仕上塗材の基材,または吸水防止剤など幅広い塗材から選定した。本研究で用 いた試験体に施す塗材を表5.2に示す。No.10以外の試験体は,塗装に先立ちカチオ ン形アクリルエマルション系プライマーを塗布し(塗布量 0.15kg/m2),各種仕上塗材 を施した後,室内で7日間養生後,促進炭酸化を再開した。
2.3 促進炭酸化
促進炭酸化は,反応を促進するために相対湿度 90%とし,大気圧下で CO2 濃度 3.0vol.%の密閉容器(0.8m3)にて行った。試験体の炭酸化の進捗確認のための試料の取 出しに際し,1時間ほど容器のCO2濃度ならびに湿度は大気レベルに低下した。試験 体の炭酸化進行度は,塗装前の促進炭酸化においては,試験体 No.1 より採取した試 料の炭酸化進行度を以って,全ての試験体の炭酸化進行度とした。試料採取後の欠損 部表面には,シリコン系シーリング材を充填し欠損部からの CO2の吸収を防いだ後,
試験体の促進炭酸化を継続した。
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図 5.1 試料の採取
シリコン系シーリング材
10mm×10=100mm
仕上塗材 表層部試料
表層部試料 中心部試料
2.4 試料の採取および炭酸化進行度の測定
試料は,試験体よりコルクボーラーにて貫通するように採取し,表層部(深さ10mm まで)および中心部(深さ40mm~50mm)を取り出し,試料とした(図5.1参照)。なお,
試験体No.1においては,表層より10mm毎に切断し,断面の炭酸化進行度の分布を 測定した。
炭酸化進行度は第2章の手順に準じ測定した。
表 5.2 試験体種類
記号 塗材種類 備 考
No.1 無 塗 装 表面塗装なし
No.2 セメント系下地調整塗材C-1
( JIS A 6916 ) 塗布量 0.89 kg/ ㎡
No.3
合成樹脂エマルション系 下地調整塗材E
( JIS A 6916 )
塗布量 0.80kg/ ㎡
No.4 外装厚塗材E ( JIS A 6909 ) 塗布量0.96kg/ ㎡ (標準量未満) No.5 複層塗材E ( JIS A 6909 ) 塗布量 1.26kg/ ㎡(上塗材+主材) No.6 防水形外装薄塗材E ( JIS A 6909 ) 塗布量 0.71kg/ ㎡ No.7 透湿性複層塗材E ( JIS A 6909 ) 塗布量 1.10kg/㎡(上塗材+主材)
No.8 1成分型高強度ウレタン樹脂
(コンクリート片剥落防止工法用) 塗布量 2.20kg/ ㎡
No.9 可とう形改修塗材E ( JIS A 6909 ) 塗布量 0.71kg/ ㎡ No.10 浸透性吸水防止剤 ( シラン系 ) 塗布量 0.50kg/ ㎡
※ 塗布前後の質量差を塗布面積で除した値を塗布量とした。
- 69 - 第 3 節 試験結果および考察
3.1 未塗装 ALC の炭酸化進行状況
本実験では,試験体の表面からの深さ0~10mmを表層部,40~50mmを中心部と 称する。試験体No.1(未塗装)の表層部と中心部の促進炭酸化時間と炭酸化進行度の関 係を図5.2 に示す。表層部の炭酸化は,炭酸化初期に急速に進み,炭酸化進行度が高 くなるにつれて徐々に緩やかになり,炭酸化進行度が90%を越えると反応速度が大き く低下する。中心部の炭酸化は,表層部と比較して炭酸化速度が緩やかであるが,時 間の経過とともに進行する。コンクリートの中性化は,表層より順次中心部に向かっ て進行するが,ALCの表層部と中心部の炭酸化が同時進行する。また本促進炭酸化に おける促進炭酸化時間と炭酸化進行度(CPD)の関係は,極めて高い相関がある二次の 回帰式で表すことができる。
試験体断面の採取位置毎の炭酸化進行度の経時変化を,図 5.3に示す。促進炭酸化 前の試験体の炭酸化進行度は8.5~5.2%であり,中心部の炭酸化進行度がやや低いが,
ほぼ均等と判断できる。本試験ではCO2濃度3.0vol.%にて促進炭酸化を行ったが,表 層部の炭酸化は炭酸化開始直後から,中心部は3日後から進行し,進行に時間差が確 認された。
近年の大気中の CO2濃度は,気象庁の発表によれば400ppm (0.04vol.%)前後とさ れる。本試験のCO2濃度は3.0vol.%であり,実環境に対し75 倍ほどの高濃度での促 進炭酸化である。第3 章においてCO2濃度が 1.0vol.%および 0.3vol.%における促進 炭酸化を行ったが,本章における促進炭酸化の結果も併せて,CO2濃度が高いほど炭 酸化が早くなることが確認される。本試験での表層部と中心部の炭酸化進行度の差異 は,ALCが高い透気性を有しているものの,炭酸化初期において表層部の炭酸化反応 に多くのCO2が吸収され,中心部へのCO2の透過量が低下したためと考えられる。
図 5.2 促進炭酸化時間と炭酸化進行
y = -0.021x2 + 2.84x + 3.39 R2 = 0.996
y = -0.059x2 + 4.43x + 14.50 R2 = 0.992 0
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
0 20 40 60
促進炭酸化時間(日)
炭酸化進行度 CPD (%)
表層部 中心部