フ リー ・トレー ド・ゾー ン*
船 津 秀 樹
1.はじめに
1980年代,規制緩和,減税,国営企業の民営化 による経済活性化が,重要 な経済政策の手段 として用 い られ るよ うにな った。アメ リカ合衆国における レーガ ン政権,イギ リスにおけるサ ッチャー政権, 日本の中曽根政権の下で試 み られてきた供給サイ ド重視の経済政策は,従来の有効需要管理に力点を置い た経済政策体系 とは異なり,政府の規制を緩和することに重点を置いていた。
資本市場の自由化は,国際金融市場の相互依存関係を増大 させ るとともに,直 接投資の増加を もた らした。この中で,構造的不況に見舞われた地域の再生策, あるいは,伝統的農業地域への企業誘致策 として, フリー ・トレー ド・ゾーン の形成が図 られてきた。
フリー ・トレー ド・ゾーンとは,海港,空港等の隣接地域 において,その国 の制限的貿易政策を局地的に緩和 して,外国貿易を促進するために,法律に基 づいて指定された地域のことである。 フリー ・トレー ド・ゾーンは,関税法上 の外国 とも呼ばれ,その国の領土の一部でありなが ら,貿易取引上 は外国 とみ なされ る。したが って,外国貨物に対 しては,通関手続 きを取 る以前の状態で, 加工 ・組み立て ・展示などの生産活動を行 うことができる。通常,税関が ゾー ン内に設置されてお り,ゾー ン内か ら国内市場へ貨物を運び出す際には,通関 手続 きを行い,関税 ・消費税を徴収す る。第2次大戦後,ガ ッ トの多国間貿易 交渉によって,世界各国の関税率は引き下げ られてきたものの, ヨーロッパ諸
〔129〕
130 商 学 討 究 第45巻 第 1号
国を中心 として消費税 ・付加価値税が租税収入の重要な部分を占めるようにな り,フリー ・トレー ド・ゾー ンの重要性 も増大 してきたと言える。
このようなゾー ンの国際経済政策上の重要性にもかかわ らず,国際経済学 ・ 貿易政策の分野において,その経済的効果に関 して,必ず しも十分な研究は, 少数の例外を除いて,行われて来なか った。この小論の 目的は,フリー ・トレー ド・ゾー ンに関す るこれまでの理論的研究を整理 した上で, 日本 におけるフ リー ・トレー ド・ゾーン形成の可能性を探 るとともに,今後の研究の方向性を 展望す ることにある。
まず,は じめに,国際貿易理論の分野で議論 されてきたへ クシヤー ・オ リー ン ・モデルの枠組みの中でのフ リー ・トレー ド・ゾー ンの経済厚生に対す る効 果に関す る定性的分析を紹介するとともに, この方向での理論モデルの拡張の 可能性についても言及す る。次に,アメ リカ合衆国におけるフ リー ・トレー ド
・ゾーンを紹介 した上で, 日本の関税法に規定 されている保税制度について説 明 し, 日本 におけるフリー ・トレー ド・ゾーン形成の展開について述べ る。さ
らに,新千歳空港周辺を中心に港湾都市を結ぶ北海道 フ リー ・トレー ド・ゾー ン構想について説明する。最後に,結論 と今後の研究に関する展望を述べる。
2.
フ リー ・トレー ド ・ゾー ンの理論伝統的な国際貿易理論 において標準的なモデル として使用 されて きたへ ク シャー ・オ リー ン ・モデルの枠組みにおいて,Hamada (1974)は, フ リー
・トレー ド・ゾー ンの開設が必ず しも経済厚生を高めないことを示 した。 これ は,比較劣位にある資本集約産業を関税 によって保護 している小国が,外国か らの資本流入を認めるとかえって経済厚生が低 くなることを示 した宇沢(1969), Minabe (1974),BrecherandDiaz‑Alejandro (1977)らの議論 と同様 の ものである。世界市場における財の相対価格を所与の ものとして行動する小 国は,ス トルパー ・サ ミュエルソン定理 によれば,資本集約産業に関税を課す ることによって資本の レン トを国際価格より高 くし,賃金を低 くす ることがで
フリー ・トレー ド・ゾーン 131 きる。 この結果,外国の資本保有者 にとっては, この国に資本を移動 し,生産 を行 うインセ ンティブが発生する。一定の地域をフリー ・トレー ド・ゾー ンに 指定 し,外国企業の立地を認めるな ら,直接投資の受入れを促進す ることがで きる。外国企業にとっては, 自国において生産を行 うよりも低い賃金で労働者 を雇用することがで きるので,より高い資本の レン トを得 ることができる。 も
し, このゾー ンで発生する雇用が, この国の賃金水準を上げるほど大 きくない とす ると,外国か らの投資に比例す る雇用が発生 し,関税で保護 されている国 内地域か ら労働者が移動す る。 したが って,国内地域では,全体 として労働者 の存在量が減少するために, リブチ ンスキー定理 によって,労働集約財の生産 が減少 し,資本集約財の生産が増大する。 したが って,比較優位のない産業に おいて生産要素が用い られ るため,財の国際価格で評価 した国民所得は減少す ることにな り,経済厚生 は低下す る。Hamadaの論文の第‑命題 において述 べ られているように,国内では高い レン トを得 ることがで きるので,国内資本 が フ リー ・トレー ド・ゾー ン内に移動 して生産を行 う誘因はない。 この結果
ゾー ン内で操業するのは外国企業のみとなる。
保護主義政策 と外国資本受入れ政策を組み合わせ ることによって,経済厚 坐,すなわち,消費者の利益 は損なわれるものの,産業構造を資本集約産業に 転換 し輸出を促進す ることが可能になる。 これは,一種の窮乏化成長の例であ り,今 日, 日本の輸 出主導型成長に対する諸外国の批判 とも合致す る側面があ る。外国か ら原材料を輸入 し,それに付加価値を施 して輸出する加工貿易を振 興す るには,このフ リー ・トレー ド・ゾー ンは,きわめて有効な政策 と言え る。
工業化を進めようとする発展途上国は, フ リー ・トレー ド・ゾー ンを形成する ことによって先進国か らの直接投資を受入れようとした し,先進国 も, 日本の 自動車関連産業および家電産業の誘致のために,特別な優遇措置を持っ免税 ゾー ンを設けた。
1980年代 に入 ると,国際貿易理論の分野で も, フ リー ・トレー ド・ゾー ン の現実における重要性が認識 され るにつれて,Hamadaの論文を拡張 しよう とす る試みが現れて きた。HamiltonandSvensson (1982)においては,
132 商 学 討 究 第45巻 第 1号
空港などの免税店のように,ゾーン内で消費を行える場合や輸出税が課せ られ ている場合の効果などが整理 されて分析 されている。また,ゾーン内への直接 投資 と国内地域への直接投資の効果を比較 してお り,Hamadaとは,若干の 異なる結果を導 出 している。Miyagiwa(1986)は, フ リー ・トレー ド・ゾー ン
に立地す る産業は,既存の二部門とは異なる第三の産業 と考えることにより, 外国投資の増加 によ って経済厚生 は高 まる場合 のあ ることを示 してい る。
Grinolis(1991)は,失業の存在す るモデルを用 いて,モデルの設定を現実 的に修正す ることによって,直接投資の増加は必ず しも経済厚生を減 じないこ
とを示 している。
今後の拡張の方向としては,フリー ・トレー ド・ゾー ンの持つインキュベー ター機能に注 目す ることが,まず第‑に考え られる。 これは,上述の論文の著 者達が指摘 しているように,直接投資の持つ技術移転による波及効果を明示的 に扱 うことと関係がある。従来のモデルでは,保護 されている国内企業 は,ゾー ン内に立地する誘因を持たないが,外国企業 と同 じゾー ンで操業することによ る外部効果があるな ら立地を考えるであろう。 下請けに入 る,あるいは,技術 指導を受 けるということがあれば,波及効果はより直接的 となる。また,長期 的視点か ら考えると,外国資本の工場で働いた労働者が十分な技術を学習 した 上で競争的国内企業を創設することも考え られる。明治以降の 日本の工業化が そ うであったように,初期時点では外国資本や外国技術者を導入 して も,やが ては,国内産業が形成され,輸入品やゾ‑ン内で生産 される製品を代替 してい くことも考え られる。フ リー ・トレ‑ ド・ゾー ンの持っ このような機能を分析 しようとす ると,モデルは,どうして も,動学的な学習効果を含むものにな ら なければいけない。
これまでのモデルが扱 ってきていない第二の点 としては,フ リー ・トレー ド
・ゾーンの公共財 としての性格があげ られ る。一般に,空港 ・港湾同様,フ リー
・トレー ド・ゾーンも公共施設 (publicutility)としての性格があ り,公団
・地方公共団体などによって運営 されている。 したが って,設営にあたって, 誰がその費用を負担するのか とい う議論が発生す る。社会資本 としての性質を
フリー ・トレー ド・ゾーン 133 強調す るな ら,租税負担による設置 も考え られるし,受益者負担の原則を貫 く な ら,利用企業か らの料金徴収が考え られる。 このような論点は, これまでの モデルではまった く扱われていない重要な点である。
さらに,拡張され るべき第三の方向としては,独 占の問題がある。フ リー ・ トレー ド・ゾーンを利用す る企業は, しば しば,世界的ブラン ド商品を持つ多 国籍企業である場合が多い。 フリー ・トレー ド・ゾー ンを利用す ることによっ て,差別価格を形成 しダンピングを行 う可能性がある。世界全体で利潤極大化 を図 る企業 にとって,一国の市場で利益をあげる必要 はない。マーケ ッ ト・
シェアの拡大のために,フリー ・トレー ド・ゾー ンを利用する可能性はある。
また,免税店で販売 されている,たばこ ・酒 ・化粧品のような商品は,独 占的 競争の理論によって最 も良 く説明される財であり,旅行者 という特定の需要者 に対 してゾー ン内で独 占的に供給 しているという見方 もで きる。 さらに, 日本 の自動車メーカーのように,世界各地で生産 された部品をゾーン内に搬入 して 組み立て,その国の需要状況に応 じて供給す る場合 もある。 このような場合, フリー ・トレー ド・ゾーンは,独占的企業の在庫調整施設 として利用されてい るのであり,完全競争モデルでは十分に分析できない面がある。
以上述べて きたように, フリー ・トレー ド・ゾー ンの理論 は,伝統的な国際 貿易の二部門分析の範噂およびその周辺で展開されてきたが,最近の ミクロ理 論の発展の成果を取 り入れなが ら, これか ら述べる現実的な諸問題を念頭にお
いて,新たな発展を試みる様 々な方向性が考え られ る。
3.フ リー ・トレー ド ・ゾー ンの経済効果
フ リー ・トレー ド・ゾー ンの経済効果 として特徴的なのは,保税機能 と呼ば れるものである。ゾーン内では,通常,通関時に徴収 された関税及び内国消費 税などの間接税の支払いを留保 した状態で,外国貨物の保管,展示,加工など の経済行為を行 うことができる。 加工用の原材料であれば,国内の生産状況に 応 じて,最終消費財であれば,国内の需要状況に応 じて通関 し出荷すればよい。
134 商 学 討 究 第45巻 第 1号
ゾーンを利用 しない場合 には国外か らの入荷の時点で支払 うべ き関税および消 費税の支払いを, ゾー ンの利用によって国内への出荷の時点 まで延ばす ことが 可能になる。また,ゾー ン内において加工を行 って,再度,国外へ貨物を搬出 す る場合には,関税および消費税を支払 う必要 はない。加工の過程では,国内 か ら調達 した部品 ・原材料を混ぜて使用することも可能で, この場合 にも内国 消費税は課せ られない。 このように,保税機能を有効利用す ることによってフ リー ・トレー ド・ゾー ンに立地 した企業は,中継貿易,加工貿易を有利に展開 す ることが可能になる。
一般的に,フ リー ・トレー ド・ゾー ンが海港や空港など国際交通の要衝に設 けられているのは,保税機能を付加す ることによってその地域の持っ中継貿易 基地 としての価値をより高める効果を持っか らにはかな らない。国内産業を保 護する目的で,工業製品に高関税を課 しているような発展途上国においては, フリー ・トレー ド・ゾー ンの保税機能 はより大 きな経済効果を もた らす ことに なる。高関税の存在によって妨げ られていた物流がフ リー ・トレー ド・ゾー ン を経由 して発生 し,外国企業による投資を促進する要因 ともなる。既に,工業 製品に関する関税水準が低 く下げ られている先進国において も,政府の歳入に 占める間接税の比重が増大 して くるにつれて, ゾーンの持っ保税機能の重要性 は増 して くると考え られる。内国消費税 は,輸出品には課 されないので,フ リ‑
・トレー ド・ゾーン内に立地 した企業 は,輸出品に関 して,国内か ら調達 した 資材,原材料の面で も戻 し税制度などによって特典を受 ける場合がある。中継 貿易を主 とする企業の場合には, フリ‑ ・トレー ド・ゾーン内に立地すること
によって消費税の影響を受けることな く営業を行 うことがで きる。
前節において述べたように, フリー ・トレ‑ ド・ゾーンには,保税機能に加 えて,公共利用施設 としての性格がある。空港 ・海港などの隣接地域 は,重要 な交通の拠点地域 として利用価値は高 く,公共性を有するもの と考え られる。
中小の流通業者にとって独 自に倉庫や工場,常設展示場を所有 し維持すること が困難である場合にも,フ リ‑ ・トレー ド・ゾーン内に一定の料金を支払 って 共同に利用することの可能なスペースが存在す るな ら,過大な設備投資を行 う
フリー ・トレー ド・ゾーン 135 ことな く,立地条件の優れた場所を確保す ることが可能になる。ゾーンの所有 と運営は公的機関によってなされ るのが一般的であ り, さらに,内部に税関が あって,輸出入手続 きの迅速化を図 るのが通例である。ゾーン内では,他の地 域 と比較 して外国貿易に関す るより良い公共サー ビスを受 けることがで きる。
さらに,貿易関連産業が集約的に立地す ることによって,個別企業は集積によ る外部経済のメ リッ トを享受できるものと考え られ る。 この観点 に立っ と,フ リー ・トレー ド・ゾーンは,道路や橋,港湾などと同様に重要な社会資本 とみ なす ことができる。
以上のように,フ リー ・トレ‑ ド・ゾー ンには,保税機能 と公共施設 として の機能がある。 これ らの機能 は,ゾーン内の貿易関連産業の集積を通 じて,也 域の雇用 と実質所得を拡大す る効果を持つ。 その国の関税率や消費税率が高い ほど,また,貿易に関す る管理が厳 しいほど,ゾーンの経済効果は大 きいもの と考え られる。但 し,フリー ・トレー ド・ゾー ン内で行い得 る経済活動につい ては厳密な制約が加え られる場合が多 く,域内での居住,消費などは認め られ ず,域外 とはフェンスなどで区別 され,人の出入 りについて もチェックされ る。
したが って,ゾーンの経済効果 は,ゾー ン内での経済活動の範囲をどこまで認 めるかによって大 きく異なって くることに留意す る必要がある。
4.アメ リカ合衆国の フ リー ・トレー ド ・ゾー ン
米国は1776年 に英国の植民地か ら独立 して成立 した国であ り,19世紀の間 はきわめて保護主義的な政策 によって工業化を図 っていた。米国において最初 にフ リー ・トレー ド・ゾー ンに関す る法案が提 出されたのは1894年の ことで あり,実際にフリー ・トレー ド・ゾーンを導入す る法案が可決 されたのは40年 後の1934年の ことである。Price(1984)によれば,当初, フ リー ・トレー ド
・ゾー ンは密輸を増大 させ,諸外国か らの輸入品が保護措置を越えて国内に 入 って くるとの理 由で反対 されたよ うで あ る。 フ リー ・トレー ド・ゾー ン (FreeTradeZone)ではな く, フォー リン ・トレー ド・ゾー ン (Foreign
136 商 学 討 究 第45巻 第 1号
TradeZone)という名称が採用されたの も,保護貿 易主義者達による批判を かわす狙いがあったようである。1930年代の米国は,Smoot‑Hawley関税 法 という法外な高関税を外国か らの輸入品に課する悪名高い法律の成立によっ て外 国貿易 は縮小 し,大不況 に陥 っていた時期 であ った。外国貿易地域法
(ForeignTradeZoneAct)の成立 は保護主義ではな く自由貿易によ って 経済を大不況か ら立ち直 らせようとす る実験的政策転換を意味 していた。1937
年2月 1日,最初のフ リー ・トレー ド・ゾー ンは,ニューヨ‑クのStaten島 に開設 された。
その後,第二次世界大戦を経て,米国が戦後の自由貿易体制を リー ドす る経 済大国 となったこともあり,フリー ・トレー ド・ゾーンは政策的にはほとんど 注 目され ることはなか った。 しか し,1970年代の二度のオイル シ ョックを契 機 として米国の貿易収支の赤字傾向は顕著 となり, フリー ・トレー ド・ゾーン
はにわかに脚光を浴 びることになった。1970年 には全米で 8カ所 しか機能 し ていなか ったフ リー ・トレー ド・ゾー ンが現在では350ヵ所を越えて増加 して いる。
この急速なフ リー ・トレー ド・ゾーンの増加の背景には,産業構造の変化 と 輸送手段の発達がある。 リ トルロック,カンザス ・シテ‑,オマ‑,ルイ ビル
といった内陸の都市が フ リー ・トレー ド・ゾー ンの採用を決めたのは,1930
年代に想定 されていたフ リー ・トレー ド・ゾーンが港湾中心の ものであったの と比較するときわめて対照的である。航空機による貨物輸送が一般化 し,さら に半導体に代表 され るような高付加価値製品の部品が国際分業の中で重要性を 増 して くるにつれて,空港周辺地域 にフ リー ・トレー ド・ゾー ンを設定す る ケースが多 くなってきた。北東部の伝統的な工業地帯が, しだいに比較優位を 失 って縮小 してい くにつれて,中西部,南部 といった農業地帯における工業化 の手段 としてフ リー ・トレー ド・ゾー ンは積極的に活用 されているよ うであ る。 日本の自動車産業をは じめとす る外国企業の誘致に当たって も,フリー ・
トレー ド・ゾーンは新たな資本導入の誘因 となっている。
米国のフ リー ・トレー ド・ゾーンは,ゾーンを設置 しようとす る都市の申請
フリー ・トレー ド・ゾーン 137 に基 づ いて合衆 国外 国貿易委 員会 (theUnited StatesForeign Trade ZonesBoard)が審査 し,その認可に基づいて設置 される。 ゾー ン内は,逮 邦政府 によれば関税徴収の面 においてはアメ リカ国外 とみなされ る。 前掲の Priceによれば,ゾー ンの設置に当たっては政治 も強 く関与す るよ うである。
米国では,フ リー ・トレー ド・ゾー ンは公共施設 (PublicUtility)と定義さ
>
れているので,共和党 よりも民主党の勢力の強い地域で採用 される率が高いと のことである。また,米国のフリー ・トレー ド・ゾーンには,サブ ・ゾー ンと いう考え方があり,特定の工場などをフリー ・トレー ド・ゾーンの一部 とみな す こともできる。 この制度に基づいて外国企業を誘致 した場合に,国内の競争 企業による反対によって政治問題化 し,進出 した企業が 自主的にサブ ・ゾーン
としてライセ ンスを放棄 したケースもあるようである。
以上,米国のフリー ・トレー ド・ゾ‑ンは,地域の国際化を図 る手段 として 活用 されてお り,その問題点 も含めて,今後 も参考にすべ き点が数多 くあるよ
うに思われる。
5.
日本の保税制度 と沖縄 自由貿易地域これまで述べてきたように,フ リー ・トレー ド・ゾーンの基本的性格は,保 税機能にある。 外国か ら搬入 される貨物を通関手続 きをとらずに,関税や内国 消費税を未納の状態で保管,加工,展示などの経済行為を行えるのが特徴であ る。 日本では,貿易促進を通 じて経済成長を達成す ることが国の重要政策 と なった こともあり,主 として輸出加工を目的 とす る保税制度 は関税法の中で, 詳細に規定 されている。
関税法では,保税制度 は,地域限定のある保税地域 と,地域限定のない保税 輸送に分 けて規定 されている。保税地域 は,その機能に応 じて,指定保税地域, 保税上屋,保税倉庫,保税工場,保税展示場の五種類 に分類 され,その設定に ついては大蔵大臣の指定または税関長の許可が必要 とされている。指定保税地 域 と保税上屋 は,消極的保税地域 と呼ばれ,海港や空港において外国貨物の迅
138 商 学 討 究 第45巻 第 1号
速な処理を行 うために短期間,輸入通関前,あるいは,輸出通関後の状態で貨 物を置いてお くことのできる場所の ことである。 これに対 して保税倉庫,保税 工場,保税展示場は積極的保税地域 と呼ばれ,貿易の振興 と文化交流の促進を 目的 として設 けられた地域である。保税倉庫では,長期間 (2年間)にわたっ て外国貨物を保管す ることができる。一方,保税工場では,外国貨物を使 って 関税未納のままで,加工,製造す ることができ,保税展示場では,国際博覧会 や見本市を開催する際に外国製品を これ も関税を納めることな く展示す ること ができる。 これ ら関税法上の積極的保税地域が特定地域に集中 して存在 してい る場合には,その地域 は実質的にはフリー ・トレー ド・ゾーンの機能を果た し ていると言える。また,最近,総合保税地域の制度が新たに設けられ,上記の 機能を複合的に有す る施設を一括 して保税地域 に指定す るものである。 これ は,輸入促進のための臨時措置法に基づ くもので,関西新空港周辺および新千 歳空港周辺の総合物流施設が フォー リン ・アクセス ・ゾー ンとして, この指定 を受 けてお り,製品輸入拡大のための新 しい試みが行われている。 さらに, 冒 本の保税制度 には,保税輸送の制度がある。 これは,外国貨物のままで国内を 輸送できる制度で,保税地域問の貨物輸送を行 うことが可能である。
このように日本の関税法において定め られた保税制度では,税関当局の許可 と監督の もとに外国貨物の保管,加工,展示,輸送が関税の徴収を留保された 状態で認めれている。しか も,外国貨物 は,企業 による自主管理が原則なので, ある意味においては諸外国のフリー ・トレー ド・ゾーンよりも自由度が高いと 言える。また,税関長の許可があれば,保税地域以外であって も保税制度を利 用で きる他所蔵置の制度のある点 も,地域限定の強い諸外国のフリー ・トレー ド・ゾーンの概念よりは弾力的である。 日本の保税制度 は,外国か ら原材料を 搬入 して付加価値をっけて外国‑搬出するという加工貿易を 日本全国で行 うた めにはきわめて効果的な制度 と言える。 しか しなが ら,今 日にように, 日本の 大幅な貿易収支の黒字が外国 との経済摩擦を引き起 こしている現状では,製品 輸入の促進を図 るための保税制度の活用が求め られる。また,日本の場合には, 直接投資の受入れが極端に少な く,外国企業が 日本の保税制度を十分理解 し,
フリー ・トレー ド・ゾーン 139 利用できるかどうかについては疑問が残 る。今後は,総合保税地域の指定を拡 大 し,工業 ・物流団地等に外国企業の誘致を積極的に図ることが必要 となって
こよう。
わが国において,最初に制度化 されたフリー ・トレー ド・ゾーンは,沖縄振 興開発特別措置法に規定 された沖縄 自由貿易地域である。沖縄における企業立 地の促進 と貿易の振興を図るために,沖縄県知事が申請 し,沖縄開発庁長官が 指定す る地域である。1987年12月9日に那覇地区が指定を受 け,1988年 7月 1日か ら供用を開始 した。施設の設置者 は,沖縄県で,管理運営 も沖縄県 自由 貿易地域管理事務所が行 っている。沖縄のフ リー ・トレー ド・ゾー ンは, 日本 の関税法に定め られた保税機能を‑ カ所に集合化 して,共同利用施設 として, 沖縄県が特別会計を設 けて施設の利用料金を民間企業か ら徴収 して管理運営す るものである。 ゾーン内で操業する企業 には保税機能の他に,法人税等の面で 優遇措置が与え られている。ゾーン‑の入居企業は公募制によって, 自由貿易 地域立地企業選定委員会‑の諮問を経て決定 され,沖縄開発庁長官の認定を受
けている。
ゾー ン内には税関の支所が入 ってお り,通関の迅速化が図 られている。ゾー ン内は,貿易管理令等すべての国内法令が適用 されてお り,輸入禁制品の持 ち 込みはできない。税関には,関税の徴収のほかに重要な役割 として密輸の監視 取締 りがある。麻薬,鉄砲等社会的に悪影響のあるものについては,港湾,空 港の周辺で厳格 な取締 りが行われ る。フ リー ・トレー ド・ゾー ン内において ら, この ことは同様で,古 くか らあるフリー ・トレー ド・ゾーンは密輸の温床 になるとの批判に答える意味で も,フリー ・トレー ド・ゾーン内に税関があっ て違法な行為がなされないようにするのが望ま しい。フリー ・トレー ド・ゾー ンは決 して違法な貿易の自由を意味せず,社会的にも透明度の高い運営が求め られる。 この点に関す る日本の税関行政の公平 さは,国際的にも定評のあると ころである。
140 商 学 討 究 第45巻 第 1号
6.北海道 にお ける フ リー 暮トレー ド ・ゾー ン構想
北海道 においては,1970年代 に,北方 圏構想や シベ リア ・ラ ン ドブ リッジ 構想 との関連 で,総合保税地域 の形成が構想 された。1977年,北海道発展計 画には 「現行の保税制度 による各種施設を有機的,総合的に配置 した自由港的 な機能を有す る総合保税地域の設定を促進す る」 との施策が盛 り込 まれた。石 狩湾新港開発 プロジェク トとの関連を意識 した この構想 は,1980年代初頭の 冷戟の激化による日ソ貿易の低迷によ り,ほとんど注 目されないままに推移 し た。1987年11月 に発表 された北海道新長期総合計画 において は,新千歳空港 周辺の開発手法 として,フリー ・トレー ド・ゾー ンの設置が謡われてお り,エ アカーゴ構想を推進す るための起爆剤 として認識 されていた。具体的な中身の 議論 は十分なされていなか った ものの,航空貨物需要の喚起のために,貿易関 連企業の誘致 とな らんで重要 な施策であるとの認識 は,行政担当者および北海 道民の間で深 まった。 日本全体 として も,大幅な貿易黒字の削減を求める諸外 国か らの批判 に答 え る政策 を打 ち出す必要性が1990年代 にな ると再 び強 く なって きた。輸入促進のための臨時措置法が施行 され,総合保税地域の一括指 定が可能 となるよう関税法が改正 され るなど,フ リー ・トレー ド・ゾーン形成 に向けての客観的状況が整備 されて きた。1994年3月,千歳空港の 旧ター ミ ナル ビルを利用 したフォー リン ・アクセス ・ゾー ン開設の認可が降 り,北海道 における本格的な自由貿易地域形成のための第一歩が踏み出された。
北海道 は, これまで,北海道開発法 に基づいて,他の都府県 と比べ ると有利 な環境の もとで国による社会資本整備が図 られて来た。 しか しなが ら,苫小牧 東部工業団地の例 に見 られるよ うに,政府によるナ ショナル ・プロジェク ト方 式の開発 には大 きな リスクが伴 う。 石油 ショックの以前に立て られたマスター プラ ンは,国際経済情勢の変化の中で,到底正 当化 されない ものにな って し まった。戦後, 旧植民地か らの引き揚げ者の受入れ と食糧供給の増大を念頭 に おいて立法化 された北海道開発法 も,大 きな曲が り角 に来た と言え る。 戦後の 人口問題を意識 し,国土の効率的な利用‑の貢献を理念 とす る考え方 は,21
フリー ・トレー ド・ゾーン 141 世紀初頭のわが国における人 口減少の可能性 という現実の前に,大 きな修正を 求め られている。北海道 は,わが国で生産すると割高 になる一次産品の供給基 地 としての役割を担わされて来た。どち らか とい うと保護貿易主義による輸入 代替的産業政策を行 って きた。今 日の国際分業の進展 により,農産物 といえど
も例外的な保護措置を削減 ・撤廃 しなければいけない状況にある。また,国民 経済の成熟化 は,成長や効率を重視 した生産者の視点か ら,生活の質やゆとり
を重視す る消費者の視点へ と,経済政策の基本的発想の転換を,我々に要請 し ている。北海道開発 も,近隣諸国 との連携を重視 した国際貢献型に転換 してい
く必要がある。 このためには,北海道通産局,北海道開発局,函館税関の連携 が重要であ り,北海道および空港 ・港湾を有す る基礎的 自治体 による地域振興 施策の整合的な展開が強 く望まれ る。米 ソの冷戦の終結 によ り,北海道の地理 的位置は,国際貿易の中できわめて重要 にな りつつある。 ロシア連邦 は,アジ ア とヨーロッパにまたが る広大なユーラシア国家連合である。 この国が市場経 済化す ることで,冷戦時代には, ほとんど価値のなか った 日本海側の貿易港の 重要性が飛躍的に高まっている。現実に,小樽では, ロシア船の入港が急増 し てお り, ロシア人観光客向けの免税店が営業す るに到 っている。 この好 ま しい 傾向は, フェリーの定期航路の開設によって,今後一層拡大す るであろうし, フ リー ・トレー ド・ゾー ン ・ビジネスは小樽 において一層盛ん にな るであろ う。 また,アジア ・太平洋地域 は今後急速な成長が見込 まれ る地域であり,国 際航空貨物需要 は,急速な伸びを示 している。今後,世界経済が景気回復軌道 に乗れば,国際空港周辺 に広大 な産業用地を有す る北海道 は,新 しい国際貿易 拠点 として発展す る可能性を秘めている。新千歳空港周辺のフ リー ・トレー ド
・ゾー ンを核 として,小樽 ・函館 ・根室 ・稚内といった港湾都市 にフ リー ・ト レー ド・ゾー ンを形成 し,旧産炭地域を中心、とす る内陸部の工業団地 とを行政
・経済情報 と保税輸送 システムによってネ ッ トワーク化す るな ら,北海道全体 として外国貿易が拡大す るとともに国際化が進展す るであろ う。
142 商 学 討 究 第45巻 第 1号
7.
おわ りにこの小論では, フ リー ・トレー ド・ゾー ンの概念 について,わか りやす く解 説す るとともに,理論的研究の紹介,アメ リカ合衆国の制度 の紹介,わが国に おける制度の紹介 と解説を行 った上で,一つの政策研究事例 として,北海道 に おけるゾー ンの形成の可能性 について述べた。冷戦構造の終結以後,世界経済 は新たな秩序を求めて模索の過程に入 っているよ うに思われる。現在 は,よ く 言われ るよ うに,1世紀に1度あるかどうかの大 きな歴史の転換点 に立 ってい
る。大 きな流れ としては,輸送手段 ・情報伝達手段の発達 によって地球 はます ます小 さくな り,資源の希少性が これまで以上に強 く認識 される,真の意味で の経済の時代へ と向か っている。世界全体の人口が増大す る中で,人口減少を 経験 しようとしているわが国 は, これまで,他の国が経験の した ことのない経 済状況 に対処 していかなければな らない。当然,経済政策の発想 にも転換が求 め られてお り, ここで述べた,フ リー ・トレー ド・ゾー ンの形成 も,従来型の 自由貿易か保護主義か とい う二者択一的政策思考か ら脱却す るひとっの試みで ある。我 々の用いている混合経済の システムにおいては,市場 と政府の役割に ついては注意深 く検討 しなければな らない。 フ リー ・トレー ド・ゾー ンは,言 葉か ら受ける直観的印象 とは対照的に,社会資本の性格を有す るものであ り, アダム ・ス ミスが 「諸国民の富」の中で認めていた自由貿易を促進す るために 政府が税金を使用 してで も整備すべ き公共施設 とも言える。 今後, フ リー ・ト
レー ド・ゾー ンに関す る理論 ・実証 ・政策 にわたる多様な研究が行われること を期待 したい。
脚注
*この論文は,1988年10月から1989年 9月にかけて北海道自治研修所で行われたジョ イントセ ミナ‑北海道21「北海道におけるプリ‑ ・トレード・ゾーンの形成に関する研 究」活動報告書のうち,筆者が担当した個所に,その後の展開と理論の紹介を加えて大 幅に加筆修正を加えたものである。多 くのことを学ばせてくださった民間,地方自治体, 関連省庁のみなさんにあらためて感謝 します。言うまでもなく,本論の内容は筆者個人 の責任で書かれたものであり,ありうべき誤 りはすべて筆者のみに帰すべきものであ
る。
フ リー ・トレー ド・ゾー ン 143
参 考 文 献
1 Beladi,H.andMarjit,S."ForelgnCapitalandprotectionism "Canadian JournalofEconomicsXXV N0.1,233‑238.
2 Brecher,R.A. and C.F.Diaz‑Alejandro (1977) "Tariffs,foreign capitalandimmiserizing growth"JournalofInternationalEconoTnics
7,317‑322.
3 Dixit,A.K.and V.Norman, (1980)Theory ofIntenationalTrade (CambridgeUniversity,Cambridge).
4 Grinolis,E.L.(1991) "Unemploymentand foreign capital:therela‑
tiveopportunitycostsofdomesiticlabourandwelfare"EcoT101nica58:
107‑121.
5 Hamada,K. (1974) "An economicanalysisoftheduty‑freezone"
JournalofInternationalEconoTnics4,225‑241.
6 Hamilton,C.andL.0.Svensson, (1982) "Onthewelfareeffectsofa duty‑freezone''JournalofInterTWtionalEconomics13,45‑64.
7 Minabe,N. (1974) ̀̀Capitalandtechnologymovementsandeconom‑
icwelfare"ATnericanEcoTWmicReview64,1088‑1100.
8 Miyagiwa,K.F. (1986) "A reconsiderationofthewelfareeconomics ofafreetradezone"JournalofInternationalEconoTnics21,337‑350.
9 Rodriguez,C.A. (1976) "A noteontheeconomicsoftheduty‑free zone"JournalofInternaionalEcoTWmics6,385‑388.
10 宇沢弘文 資本 自由化 と国民経済、エコノミス ト 1969年12月23日、106‑122. 11 北海道 自治研修所 「北海道 におけるフ リー ・トレー ド・ゾー ンの形成に関す る研
究」政策研究 シリーズ2、1990年 1月.