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地域経済統合の進展 とフ リー トレー ドゾー ン

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(1)

船 津 秀 樹

1.はじめに

東西冷戟構造の最終局面 にあ った

1 9 80

年 なかば,アメ リカ合衆国 は,第二 次大戦後初めて債務国に転落 した。以来,世界経済 は,合衆国 ・欧州 ・日本の

3

極協調体制によって運営 されて きている。東西冷戦体制下では,西側の結束 を誇示す る意味で, きわめて強固に見えた先進国首脳会議や蔵相 ・中央銀行総 裁の定期的会合 において も,

1 991

年 に ソビェ ト連邦が崩壊 して以後,利害の 対立が 目立 ってきている。特に,冷戦構造の中では, きわめて強固であった日 米経済関係 に も,一向に解決 しない貿易不均衡問題をめ ぐって, きしみが見 ら れる。 こうした中で,市場規模の拡大による経済性の獲得を目指 した経済統合 の動 きが各地域で活発化 してきている。 これは, ドイツ, フランス,イギ リス を中心 とする欧州共同体そ して欧州連合の設立 とい う大 きな将来 ビジョンが契 機 とな り, カ ナ ダ,合乗 国, メキ シコに よ る北 米 自由貿 易 協 定 の締 結,

ASEAN

諸国を中心 とする東アジア自由貿易圏構想などの動 きを触発 してきて いる。 これ らは,地域経済のブロック化を志向 しているというよ りは,東西冷 戦後の新 しい世界経済秩序の構築 にあたって,少 しで も有利な状況を,近隣諸 国 との友好関係の樹立および不必要な規制の撤廃 によって確立 しようとす る動 きに他な らない。世界経済全体が市場経済化す る中で,東西冷戦構造の中では, 人為的に制約 されてきた ビジネス機会が新たに発生 してきていると考えること ができる。

〔 1 45 〕

(2)

このよ うな状況の中で,冷戦構造下では,地理的条件か ら不利であった港湾 都市や空港隣接地域 にも,新たな発展の可能性が生まれようとしている。 日本 においては, 日本海側の貿易港湾がその最 も象徴的な例 といえよう さて,外 国貿易を行 うために税関や出入国管理事務所が設置されている港湾およびその 周辺地域を経済的に活性化 させ る政策手法 として,フ リー トレー ドゾー ンがあ る。 これは 「関税法上の外国」 と呼ばれ る地域で,外国貨物を通関以前の状態 で加工 ・組み立て ・保管 ・展示す ることができる 関税率の高い国では,中継 貿易を促進するために,フリー ・トレー ド・ゾー ンの有効性 は高い。 日本にお いては,戟後,加工貿易による工業製品の輸出促進が重要政策 となったことも あり,関税法の中で保税制度 として詳細 に規定 されている ガ ッ トの自由貿易 体制の中で,関税の一律引下げが実現 してきたわけであるが,先進各国におい て,財政収入の安定化を図 るために付加価値税 ・内国消費税の導入が進んでお り,免税地域であるフリー ・トレー ド・ゾ‑ ンの重要性 は増大 しているといえ る。また,経済成長率の高い東アジア諸国において も,いまだに保護関税率は 高 く,世界全体で,財 ・サー ビス ・資本の移動が 自由になるにつれて,経済活 動の障害 となって きている。

この小論では,北米 ・欧州 ・東アジアにおける地域経済統合の進展の現状 と 展望を述べ るとともに,貿易 ・投資の促進のための社会資本 としての港湾の役 割およびフ リー トレー ドゾー ン概念による港湾都市の振興策 について論 じてい

2.

東西冷戦後 の世界経済秩序

(1) 世界貿易機構

( wワo)

の設立

ガ ッ ト ・ウル グアイ ラウ ン ド交渉 が妥 結 し,

1 995

1

月世 界 貿易機 構

( WTO)

が正式 に発足 した。第二次大戦後の, 自由貿易体制の秩序を支えて きたガ ッ トは,東西冷戦の終結 という歴史的変化の中で,真に自由な世界市場 形成のために,世界貿易機構 として新 たな出発点 に立 った

。1 9 30

年代の世界

(3)

経済が保護主義の台頭によってブロック化 し, 自国本位の窓意的な貿易政策の 発動があった ことの反省か ら,ガ ッ トは生まれた。協定加盟国が,互恵無差別 の原則の下に,貿易 自由化の利益を享受で きるようにす るために,締約国は, すべて最恵国待遇を受 けることが定め られた。 これにより,資源の乏 しい小国 であって も, 自由貿易体制の中で,比較優位 に基づ く産業構造の柔軟な転換に よって経済成長を遂げる道が拓かれた。当初の理想に反 して,ガ ッ トは,東西 冷戦の勃発によって, ソビエ ト連邦を中心 とす る社会主義国が参加 しない不完 全な形で出発 した。 このために,世界全体 としての自由貿易体制を構築す るこ

とはできなか った ものの,北米 ・西 ヨーロッパ ・東アジアを中心に広範囲な形 で国境を越えた自由市場が構築 された。ケネディ‑ラウン ド・東京 ラウン ド交 渉を通 じて,域内において関税率の引き下げが図 られ,国際貿易の進展 に貢献

して きた。

1 980

年代後半 に,東 ヨーロッパ諸国の民主化 と市場経済化が始 ま り,1

990

年 には東西 ドイツの統一が実現 した。 さ らに,1

9 91

年 にソビエ ト連邦が解体

し, ロシアも市場経済化の道を歩み出す ことになる。 ここに,世界の歴史上初 めて,地球規模での 自由貿易体制構築の機会が訪れたわけである。出発 したば か りの世界貿易機構 には,貿易紛争処理機能の強化など,様 々な課題があるも のの,新 しい国際経済秩序の形成に向けて大 きな役割が期待 されている。

(2)地域経済統合の進展

ガ ッ トの基本理念 は,多数国による同時的関税および貿易障壁の削減による 貿易拡大利益の互恵無差別的享受にあった。 この体制の中で,地理的に近接な 関係 にある諸国が,他のガ ッ ト加盟国に先行す る形で,経済の部分統合を行 う

ことが認 め られて きた。 この経済の部分統合 は,域 内における貿易創 出効果

( TradeCreat i onEf f ect )が,域外 との貿易転換効果 ( TradeDi vers i on

Ef f ec t )を上回 る場合 に正当化 されてきた。すなわち,理想的な自由貿易状態

か ら考えてみ ると,地球上の特定地域のみが,先行的に経済統合を行 うことは, 世界市場 に歪み

( Di s t ort i on)を もた らす ことにな る。貿易 は,関税や非関

(4)

税障壁の撤廃 された地域 において,活発 とな り,高関税の課 されている地域 と の貿易 は阻害 されて しまう地域経済の部分統合を行 う誘因 としては,規模の 経済性の追求があげ られ るが,域内での自給 自足体制を 目指す ような統合であ れば,世界経済のブロック化を もた らし,世界全体の経済厚生の低下を招 く可 能性 もある。 したが って,世界全体の 自由貿易の進展 と整合的な地域経済の部 分統合 で あ るためには,域外地域 との貿易 を阻害 しな い開放 的 な

( GATT c ons i st ent )統合 であ る必要があ る

また,今 日のよ うに,輸送手段 と情報 伝達手段の発達 した現代経済 においては,資本の移動が 自由にな り,地域経済 統合 は,企業の新規立地 に大 きな影響を与え るよ うになって きている。伝統的 に議論 されて きた貿易転換効果ばか りでな く,投資転換効果 も考え る必要があ る。地域経済の部分統合 は,差別的な関税地域を創造す ることに他 な らず,資 本のフローにも影響を与え る。

これまで,国際的に認め られてきた甥域経済統合の形態 としては, 自由貿易 地域,関税同盟,共通市場,経済同盟の四つがあげ られ るl)0

自由貿易地域

( FreeTradeArea)

とは ,地域経済統合 の最 も緩やかな形 態であ り,協定を締結 した域内においては,関税やその他の貿易障壁を取 り除 き,財 ・サー ビスの移動を自由化す るものである 域外の第三国に対す る貿易 政策上の拘束がないとい う意味で,地域経済統合の最 も緩やかな形態である。

北米 自由貿易協定 は,カナダ ・アメ リカ合衆国 ・メキ シコの三国間で, 自由貿 易地域を形成す るものであ り,それぞれの国は,例えば, 日本 に対す る貿易政 策を他のメ ンバ ー国 と協議す ることな く,独 自に決定す ることがで きる。

関税同盟

( Cust umsUni on)

は, 自由貿易地域の機能 に加えて,加盟国間 で,他の地域 に対 して共通の貿易政策を取 るとい う意味で,よ り拘束力の強い もの となる 北米 自由貿易地域が,関税同盟 まで進めば,合衆国は, 日本や第 三国に対 して一方的な貿易政策を決定す ることができな くな り,カナダやメキ

シコ政府 と協議 した上で関税政策等を決定す ることになる。

1

)標 準 的な経済統合 の形 態 に関す る定義 につ いて は

,Et hi e r ( 1 988 )1 2

章および

Robs on ( 1 987 )

参照のこと。

(5)

共通市場

( CommonMar ket )

は,関税同盟の機能 に,域 内における生産 要素の 自由な移動を加えた もので,単 に,財 ・サー ビスの移動ばか りでな く, 労働や資本の移動 も自由になる。 この段階まで,経済統合が進む と,経済取引 の上で は,実質的には域内において国境線がな くなる

経済同盟

( Ec onomi cUni on)

で は,共通市場の機能 に加えて加盟国は, 経済政策を協調す るよ うになる。また,通貨同盟を結成 し,域 内における共通 通貨を発行 し,金融政策を一元的に行 うよ うになる。 この段階まで統合が進む と,各国の経済主権 は大幅に制限 され,経済的には連邦国家の形成に近 い状態 となる

欧州連合 は,共通市場か ら経済同盟‑の移行の過程 にあると言え る。 この段 階になると,各国の経済状況の違 いによって,経済主権の制限に反対す る政治 勢力が各国で顕在化す るよ うになる。

(3) 欧州連合の行方

1 9 5 2

年 に,欧州石炭鉄鋼共 同体

( ECSC)

として出発 した欧州連合

( EU)

,1 957

年 にローマで調 印された条約 に基づ き, フラ ンス, イタ リア,西 ド イツ,オランダ,ベルギー,ルクセ ンブルグの六 カ国か らなるヨーロッパ経済 共 同体

( EEC)

と して本格 的な地域経済統合 の歩みを始 めることにな る。そ の条約の第

3

条で,域 内での関税および貿易制限の撤廃,第三国に対す る共通 貿易政策の設定,そ して,域内でのサー ビスおよび資本の 自由化が謡われてい るところか ら,関税同盟 と共通市場の中間形態を目指 して発足 した もの と考え られ る。第二次世界大戦の反省およびアメ リカ合衆国 とソ ビエ ト連邦 による東 西冷戦の発生 とい う世界政治の状況が西 ヨーロッパでの地域経済統合を進める 背景 としてあ った。

その後

, 1 967

年 には,共同体 の意思決定機関 と執行機関を統一 し,ヨー ロッパ 共同体

( EC)

として再 出発 し

,1 9 68

年 には西 ヨー ロッパ における関税 同盟を 完成 させ,加盟国の拡大 と経済同盟への移行を志 向す るよ うにな る。イギ リス,

アイル ラン ド,デ ンマーク等の加盟が実現 して

1 2

ヵ国による地域経済統合体 と

(6)

して,世界の政治経済のおける地位 も急速に上昇す るようになる 世界全体 と して,資本市場が 自由化 され始 めた

1 9 8 0

年代 には,域 内での国境を超えた資 本取引 も活発化 し,共通市場 としての性格を強めるようになる。しか しなが ら,

1 9 7 0

年代の

2

度のオイル ショック以降,

EC

加盟国では,若年労働者の失業問 題を抱えてお り,完全な共通市場 となるためには,労働市場の自由化問題があ

り,社会政策の調整問題 と関連 して,大 きな政治的課題 となっている。

1 9 8 0

年代後半か ら始 まった,東 ヨーロッパ諸国の民主化および市場経済化, 東西 ドイツの統一, ソビエ ト連邦の解体 による東西冷戦の終結 とい う一連の流 れは,

EC

を単なる経済共同体ではな く,政治的統合体‑ と進化 させようとい

う動 きを加速 している

。1 9 9 2

年 のマース トリッヒ条約では, ローマ条約を改 正 し, ヨーロッパ連合 (EU)として,その市民権 にも言及 し,政治統合‑の 道筋を規定 しよ うとしている

。1 9 9 5

1

月か らは,スウェーデ ン, フィンラ ン ド,オース トリアの加盟により

,1 5

ヶ国による拡大 EUが誕生 した。人 口

3

7

千万人,域内総生産約

7

兆 ドルの世界最大の地域経済圏 となる。

共通市場が実現 し,域内の経済的相互依存関係が高まると必然的に,経済政 策を一元的に行 う必要性が生 じて くる。また,各国が別々の通貨を持つ必然性 はな く,交換の媒介手段 とい う貨幣本来の役割か ら考えると,域内での共通通 貨の発行,欧州中央銀行による一元的通貨管理が要請 され ることになる。 しか しなが ら, これ らの問題を各国の議会で議論す る段階になると,経済主権の制 約あるいは放棄 という問題が発生 してきて,政治的には困難な状況を招 くこと

となる。 このように,様々な問題 は抱えているものの, ヨーロッパにおける地 域経済統合の進展 は,世界の他の地域 にも大 きな影響を与えてお り,新 しい世 界経済秩序 の形成 にあた って,今後 とも重要 な役割 を果 た してい くで あろ

う 2)

2

)アメ リカ合衆 国政府 の この問題 に関す る見方 につ いては,参考文献

( 8)

を参照の こと。

(7)

(4) 北米 自由貿易協定

( Nor t hAme r i c aFr e eTr adeAgr e e me nt ,NAFTA)

カナダ,アメ リカ合衆国, メキ シコの三国の間で合意 され

,1 9 9 4

1

1

日か ら発効 した自由貿易地域協定 は,域内での貿易障壁の除去および域内での 公正競争 と投資の促進を謡 っている。

NAFTA

に先立 って,カナダと合衆国 の間で,すでに, 自由貿易協定が締結 されてお り,

NAFTA

は, これに,カ ナダ ・メキ シコおよび合衆国 ・メキシコの問の二国間合意を包括す る形式 に なっている。 この協定 は,ガ ッ ト・ウルグアイ ・ラウン ド交渉の最終局面で交 渉が開始 され, ヨーロッパにおける経済統合の進展 という状況の中で,北米三 国が域内の貿易 自由化に合意 したという点で,ガ ッ ト交渉を妥結へ と導 く一つ の重要な要因 となった。特 に,合衆国 とメキシコとい う国民所得に格差のある 国同士が 自由貿易地域を形成するという点で意義深いものであった。

1 99 4

1 2

月には,チ リが

NAFTA

に加入す る旨合意 してお り,マイア ミで 開催 された米州サ ミッ トにおいては,北米 ・南米を合わせたアメ リカ(西半球)

自由貿易地域の形成について,貿易障壁削減のタイム ・スケ ジェ‑ルを含めて 協議 された。

( 5 )

東アジアにおける経済統合

アセア ン自由貿易地域

( ASEAN Fre eTradeAr ea,AFTA)

は,東南 ア ジア諸国連合

( TheAss oc i at i onofSout heas tAs i anNat i ons )

によっ

1 9 9 2

1

月に合意 された 自由貿易地域であ り,

1 9 93

1

月 よ り域 内関税 の 引き下げを開始 してお り,経済統合へ向けて本格的な動 きが始 まっている。ア セア ンは

,1 967

年 にバ ンコックで設立 されたイ ン ドネ シア,マ レーシア,フィ リ

ピン,タイ, シンガポールか らなる国家連合であ り, この地域 における貿易 ・ 投資の拡大,経済成長の促進 と地域の平和 と安全保障の維持を主要な目的 とし ている

。1 98 4

年 には, ブルネイが参加 し,ベ トナム, カ ンボ ジア, ラオス,

ビルマの参加が予定 されてきている。

アセア ンは,ベ トナム戦争の激化,中国における文化大革命 といった時代背 景の下に形成 された連合体であり,市場経済を通 じて,経済発展を図 ることが

(8)

基本理念 とな ってい る。東西の冷戦が終結 した

1 9 9 0

年代 にな って,高 い経済 成長を実現 しっっ,アメ リカ合衆国 とベ トナムの国交が正常化 し,ベ トナムの 加盟 も決定 した ことは, この地域の将来 に向けての経済発展のダイナ ミズムの 方 向性を示す もの として注 目され る。

正式な経済統合を 目指す組織ではない ものの,東アジアにおける貿易 と投資 を促進 す る協議 体 と して ア ジア太平 洋経済協 力会議

( As i a‑Pac i f i cEc o‑

nomi cCoope rat i on

,

APEC)

が あ る

APEC

は,

1 9 8 9

年,オ ース トラ リ アのキ ャンベ ラで開催 された閣僚級 の会議で設立が決 ま り,アセア ン,合乗国, 韓国, 日本,カナダ,オース トラ リア,ニ ュージーラン ドによる協議体 として 発足 した。 その後,

1 991

1

1月 にソウルで開催 された第三回会合で, 中国, 台湾,香港が加 わ った

。1 99 2

9

月か らは, シンガポールに事務局が設置 さ れ,加盟希望を表明す る国 も増加 しつつある。現在 までの ところ,正式な 自由 貿易地域協定を締結す るような具体的な協議 は行われていない ものの,開かれ た地域主義を掲 げて,拘束力の弱い,多国間の貿易投資促進のための協議体 と しての機能 を果 た し始 めてい る

。1 9 95

1

1月 には, 日本 の大阪 において会合 が開催 され,今後,

APEC

が,よ り具体 的な地域経済統合体 と して発展 して い くのか どうか,その将来の方向性を占う会議 として注 目された。

この他 に東ア ジアにおける経済統合をめ ぐる動 きとしては,マ レーシアのマ

‑テ ィール首相 の提唱による

EAEC ( Eas tAs i anEc onomi cCauc us )

構想がある これは,当初,ガ ッ トのウルグアイラウン ド交渉が一時暗礁 に乗 り上 げていた

1 990

年末の時期 に,欧州や合衆国 に対す るア ジア諸国の交渉力 の強化策 と して, アセア ン, 中国, 日本,韓 国 によ る

EAEG ( Eas tAs i a Ec onomi cGr oupi ng)

と して提唱 された もので,合衆 国が外れていた こと か ら,轡喝 的転 地域経済統合だ との批判を受 けている。

( 6 )

地域経済統合 に対す る日本の立場

1 995

1

1

日,第二次世界大戦後 の 自由貿易体制 の確立 に大 きな役割 を 果た して きたガ ッ ト(関税貿易の一般協定)に代わ って,世界貿易機関(wワo)

(9)

発足 した。WTOでは,鉱工業品 ・農産物 に加えて,金融や運輸 などのサ ービ ス貿易や知的所有権を も対象 とし,国際貿易秩序の維持 に務めることになる。

日本のように,基本的な天然資源の乏 しい国にとって,多国間による自由な通 商体制の維持 は, きわめて重要 な経済政策上 の課題 とな る。 日本 は,WTO加 盟国の中では,他国 との間でいかなる地域経済統合協定を も結んでいない数少 ない国の一つである。そ もそ も,多国間の 自由貿易体制の中で,地域経済統合 が正当化 され るのは,人為的に設 け られた国境が,経済活動の阻害要因にな っ ている場合 に,共通の関税地域 を拡大す ることで, 自由な貿易を拡大で きるこ とが明白な場合であ った。 この意味で は,欧州のよ うに,比較的狭 い地域 に陸 上の国境線を多数有す ることが経済活動上の障壁 にな っていることは,明白で あった。また,カナダとアメ リカ合衆国,そ して,メキシコのように長い陸上 の国境線を有す る国同士が,財 ・サー ビスの移動 に関 して共通のルールを設け ようとす るのは, ごく自然な ことであろうこれに対 して, 日本 には,陸上の 国境線 は存在 していない。海 によって 自然に国境線が形成 されている島国であ るために,国民の間で地域経済統合 に対す る関心が乏 しいのは当然の ことと言 えるか も知れない。

また,戦後の東西冷戦構造の中で,中国, ロシア との貿易 は, ココム

( CO‑

COM,対共産圏輸 出統制委員会)によ って規制 されていた。 日本 の地理的位

置は,アセア ンと北米市場あるいは欧州市場を結ぶ中継貿易拠点 とも言 うべ き

ものだ った。原材料を輸入 して加工 し, さ らに,それを輸出す るとい う加工貿 易を行 うには,絶好の位置にあ った。特定の国 との問に拘束力の強い自由貿易 協定を結ぶよ りも,ガ ッ トの多国間の 自由貿易の枠組みの中で, どの国, どの 地域 とも互恵無差別の原則で貿易を行 うことの方が,国民経済の発展のために は有利 だ った と言 え るだろ う。 この 目本の基本的立場 は,今後 の

WTO

の中 で も変わ らない もの と考え られ るが,東西冷戦構造の崩壊以降, 日本の貿易パ ター ンには,変化の兆 しが観察 され る。 これは,東ア ジアの各国の経済成長が 世界の他の地域 と比べて高いために,冷戦時代 には,高い比率を保 っていた 日 米貿易のシェアが徐 々に下が っていることに現れている。今後,中国の市場経

(10)

済化が一層進むにつれて, この傾向は加速 してい くことが考え られ る。世界全 体が市場経済化す る過程で,本来あった地理的距離の近 さが国際分業を進展 さ せる上で重要な要素 となって くる。欧州,北米,東アジアにおける地域統合が 閉鎖的なブロック化の方向へ向かわないためには,WTOの場 における日本の 積極的な貢献が求め られるところである3) 。

3.

フ リー トレー ドゾーンによる港湾都市の振興

(1) フリー トレー ドゾーン

( FTZ)

FTZ

は,特定の関税地域 において,外国貿易を促進す るために,港湾 ・空 港の周辺を関税法上の外国として区分 し,税関手続 きを行 う以前の状態で,外 国貨物の加工 ・組み立て ・保管 ・展示を行える地域 として土地 ・施設を指定 し た場所の ことを言 う 発展途上国では,輸出加工区などとも呼ばれる。 日本の 場合には,関税法の中で,保税地域 として詳細 に規定 されてお り,戦後の加工 貿易の促進に貢献 してきた。また,空港や海港の内部には,免税店 として,潤 費者が関税を免除 された価格で,様々な財を購入できる場所 もある これは, 出国手続 きを終えた人 々は,すでに外国へ出た ものと見なされるところか ら, 設け られている仕組みである。

ガ ッ トにおける関税率の引き下げが実現 してきたにもかかわ らず,世界各地 で,

FTZ

が増加 しているのは,付加価値税および地方間接税の一般化が,そ の原因 としてあげ られる。内国消費税は,輸出品にはかか らず,輸入品につい ては,通関の時点で徴収 される。様々な国や地域か ら部品類を調達 して生産宿 動を行 う自動車産業や家電産業の場合 には,

FTZ

の利用 によって,かな りの 節税効果が発生す る。

また,地域経済の国際化のために,直接投資の受入れ促進を図 る地域振興の 手段 として も,

FTZ

は重要 になっている。資本の移動が 自由化 された今 日の

3

)参考文献

( ll )

は,地域経済統合 に対す る日本政府の考え方を示 していて興味深い。

(11)

世界経済 においては,企業内貿易が一般化 してお り,有力な世界企業をいかに 地域 に誘致す るかが,地域経済の成長力を決定す る要因 とな っている。国際空 港や国際港湾の周辺が,

FTZ

と して開発 され るのは,地域 と しての付加価値 を高めて,世界企業の誘致を成功 させよ うとす る地域の側か らの試みに他な ら ない。

(2) 港湾の伝統的役割

フ リー トレー ドゾー ンの原型 は,北海 ・バル ト海沿岸の‑ ンザ同盟の諸都市 にあると言われ る。 リューベ ック,‑ ンブル グ, ブ レーメ ンと言 った港湾都市 は,封建領主の支配 に対 して,都市の 自治権 と都市間の交易権を主張 して,都 市間同盟を結んだ。貿易の利益 は,主 として都市住民 に還元 されたのであ り, 中央集権的支配を強めて貿易を制限 しようとす る封建領主 に対 して,通商の 自 由と徴税権の 自由を求めて抵抗 したのであった。 日本では

,1 6

世紀,戦国時代 の堺が, このよ うな通商都市の様相を呈 していたのであ り,統一国家を形成 し ようとしていた封建領主 との問には絶えず緊張関係があった。江戸時代,徳川 幕府 は,欧州 との貿易をオラ ンダ東イ ン ド会社の独 占とし,長崎の出島のみを 外国貿易港 とした。 この鎖国体制 は

,1 9

世紀の半ばまで続 くことになるが,長 崎の出島は,

FTZ

としての港湾の役割を象徴 していると言え る。港湾 は,外 国 との貿易を行 うための窓のような役割を果 た していたのであ り, これを管理 す ることで,外国の情報や貿易の利益 を国家が独 占す ることがで きた。徳川幕 府 は,諸大名 に大型船の建造を禁 じて, 自由に外国 と貿易を出来ないよ うに規 制 していた。島国を統治す るにあたって,港湾の管理が重要 にな ったのは必然 的なことであった。

航空機が出現す るまで,東アジア (かっては,東イ ン ドと呼ばれていた) と 欧州を経済的に結ぶ ものは,船であった。そ して,船が人や貨物を運んで着 く ところが港であ った4)

01 9

世紀 にアメ リカ合衆国のペ リー艦隊が来航 して,

4)

アダム ・スミスの時代には,たしかに東インドと呼ばれていた。

(12)

日本 との交易を求めたのは,合衆国のフロンティアが西海岸 まで到達 し,まさ に太平洋 の新時代が始 まろ うとしていた時期であ った。函館,神戸,横浜 と次 々 に新 しい港湾が開港 され,外国 との貿易, 日本の近代化が始 まった。開港港湾 の数を制限すれば, これは,外国 との貿易量を制限す ることになる。太平洋 に おける日本の地理的重要性が認識 され,中継貿易拠点 としての港湾開発 と日本 経済の近代化 は,ほぼ並行的に進んだ。開港港湾の数を 日本の近代化および国 際化の指標 として とらえれば,明治以降の 日本経済 は,太平洋 におけるフ リー トレー ドゾー ン化が急速 に進んだ時代 として認識す ることも可能なのである。

日本の近代港湾の建設 にあたって も,欧州の港湾がモデル となっている場合 が多 い。外国人技術者 による設計および欧州留学を経験 した 日本人技術者 に よ って建設 された港湾が今 日にいたるまで 日本各地で使用 されてい る。港湾 は,国際市場の中で国民経済を近代化 しよ うとす る時,諸外国 との物的および 人的交流の窓 口の役割を果た して きた。

経済的観点か ら考え ると,港湾の伝統的役割 は,物流拠点の形成にあ った。

外国貨物が港湾に到着 して,通関手続 きを終え るまでの間,一時的に外国貨物 を保管 してお く場所が必要であった し,輸出貨物 について も,通関後,貨物船 に積み込むまでの問,貨物を置いてお く埠頭が必要である さらに,輸入貨物 を保税の状態で,長期 にわた って保管で きる倉庫や加工で きる工場が港湾地域 に整備 されていることが,国際物流の拠点 としては重要であ った。加工貿易の 促進によって,経済発展 を図 って きた 日本やその他の東アジア諸国の場合,坐 産機能を重視 した港湾設計 にな って きたのは,当然の ことであった。伝統的な フ リー トレー ドゾー ンは,港湾隣接地域の工業団地あるいは流通団地である場 合が多い。

( 3 )

交流人 口の拡大 と港湾

港湾都市 は,サ ンフランシスコ,ス トックホルム,香港などのよ うに,単 に 物流拠点であるばか りでな く,風光明娠な観光都市である場合が多い。工業化 を終え,成熟化 した経済社会 に向かいっつある国では,余暇時間の拡大 に伴 っ

(13)

て,観光が重要な産業にな りつつある。消費者が,所得を得ている場所か ら離 れて,他の都市を旅行 し,そこで,様 々なサー ビスに支 出をす る。定住人 口に 加えて, このよ うな交流人 口の拡大が,新たな ビジネスチ ャンスと雇用機会を 生み出 しっつある。

景観 に恵 まれた港湾の場合 には,物流施設だけでな く,コンベ ンシ ョン機能, 展示場,観光施設,レジャー施設を整備す ることによって,人 々がゆ とりを持 っ て交流す る空間を水辺 に創造す ることがで きる。国際フェリー航路の開設 され ている港湾の場合 には,まさに,他の国々との交流の玄関口の役割を果たす こ

とになる。 このよ うな都市では,保税施設 も, 日本の関税法上の保税展示場の よ うに,国際博覧会を開催す るために整備 されている。貿易 フェアを定期開催 で きるよ うな施設が整備 されていれば,交流人 口の一層の拡大を図 ることが可 能 となる。国際フェリーター ミナルの免税店やフェリー内部での免税販売 は, 観光サー ビスの付加価値を高めるもの となる。

各世帯 における自動車の保有台数の増えた先進国では, フェリーによる旅行 需要 は増加傾 向にあ る。東 ア ジア諸国で も,高速道路網の整備が進んで くると,

フェリー航路を持っ港湾都市 は,交流人 口の拡大 において,他の都市 よ りも有 利な条件を手 にす ることにな る。特 に,中国におけるモータ リゼーシ ョンが進 んだ場合 には, 日本海沿岸の港湾都市 は,国際フェリーの基点 として発展す る 可能性がある 伝統的な物流中心のフ リー トレー ドゾー ンでは,フェンスなど で港湾を隔離 して,人 々の出入 りを制限 して きたが,交流人 口の拡大を念豆削こ おいた新 しい時代の港湾では,人 々が 自由に活動 しやすい港湾空間を創造 して い くことが重要 になるだろ う

(4) フ リー トレー ドゾー ンの貿易促進効果

港湾の周辺地域を関税法上 の外国 とす ることで,その地域を経由 した貿易機 会が創 出され ることは明 らかであろ う。税関,出入国管理事務所,検疫所 など, 外国貿易に必要 な行政機関が立地 していることで,港湾周辺地域の利便性 は, さ らに高まる。関税や内国消費税率が高い場合 には,輸入加工 あるいは販売を

(14)

行 う企業にとって,入荷の時点ではな く,出荷の時点で通関手続 きを行えば良 いとい うフ リー トレー ドゾー ンの節税メ リッ トは大 きい。多 くの種類の部品類 を扱 う製造業の場合には, フリー トレー ドゾー ンに立地す ることによって,部 品購入時の消費税の支払いを製品完成時まで,繰 り延べ ることができるし,外 国に再輸出する場合 には,まった く内国消費税を支払わな くて良い。

地理的に中継貿易に適 していた地域が,政治的その他の理由で外国との貿易 を行えない状態になった場合, フリー トレー ドゾー ンの開設による貿易促進効 果は大 きい。

( 5 )

フ リー トレー ドゾー ンの投資促進効果

フ リー トレー ドゾー ンの開設 は,企業誘致にあたって,追加的な魅力をその 地域 に与え ることになる 生産拠点を世界各地 に展開 している多国籍企業 に とっては,フ リー トレー ドゾー ンの利用価値 は高い。税制の面ばか りで はな く, 雇用の面で も規制緩和 されているな ら (例えば,外国人労働者の雇用や最低賃 金などに関 して),投資は促進 され る。発展途上国の場合 には,国際港湾や国 際空港の周辺に工業団地を造成す ることによって,先進国か らの直接投資受入 れの拡大を図っている。

(6) 社会資本 としてのフ リー トレー ドゾーン

港湾や空港 は,貿易関連のイ ンフラス トラクチャーとい うことで社会資本の 性格を有 している。 フリー トレー ドゾー ンに関 して も,港湾周辺の外国貿易促 進施設 とい うことで,公的資金を用いて整備 される場合が多い。 これは,港湾 や空港周辺地域 は,特定の民間企業が独 占的に利用すべき場所ではな く,広 く 公的に開放 された空間であるべ きとの考え方 に基づ くものである。貿易 は,外 国の生産者 と自国の消費者,あるいは, 自国の生産者 と外国の消費者 との間に 発生す るものである以上,その取引を円滑に進めるための施設を公的に整備す ることは, 自由貿易体制を維持発展 してい くためには重要なことである。発展 途上国の場合 には,経済成長や輸出促進が経済政策の目標 となるので, フリー

(15)

トレー ドゾー ンの性格 も輸出促進型で生産者のニーズに答えるものになる れに対 して,国民所得が一定の水準に達 した先進国の場合 には,生活者 ・消費 者の多様な要求に答え る輸入促進型あるいは交流促進型のフリー トレー ドゾー ンになる。いずれの場合で も, フリー トレー ドゾーンによる港湾隣接地域の開 発 は,その言葉か ら受 ける印象 とは対照的に,公益性の強い ものとな り,地域 経済政策の一環 としてなされるのが一般的である。

4.

地域経済統合 の進展 とフ リー トレー ドゾー ン

(1) 北米 自由貿易地域 とマキラ ドーラ

自由貿易地域協定が締結 された場合,協定を結んだ国は,共通の関税地域 に 属す ることになる。 この場合に,協定を結ぶ以前 には存在 していた国境隣接地 域のフ リー トレー ドゾーンは,どのような扱いを受 けるのであろうか。北米 自 由貿易協定締結後のアメ リカ合衆国 とメキ シコの国境地域 に展開されたマキラ

ドーラを例 に して,考えてみよう5)。

北米 自由貿易協定の締結 によって,メキシコのマキラ ドーラ産業の性質 は基 本的に変わろ うとしている。マキラ ドーラは

,1 9 6 5

年 にメキ シコの国境産業 化計画によ って,わずか1

2

の工場か ら出発 した。1

993

年末 には,大部分が外 資系で21

00

を越え る企業が立地 してお り

,50

万人を越え る雇用を創 出 してい る。主 として電気機器,輸送機器,アパ レル,繊維関係の企業が多 く立地 して いる。

マキラ ドーラ計画の当初の目的は,メキシコの合衆国 との国境地域 に外国企 業を誘致 し,メキシコ産業‑の技術移転を促進す ることにあった。メキ シコ政 府 は,最終製品が国内市場ではな く外国市場で販売 される限 り (すなわち,輸 出される限 り), この地域への原材料や部品の輸入を原産地 に関係な く免税で 行 うことを認めた。 日系企業等が多 く立地 し,メキシコの安い労働力 とフ リー

5

) この節の記述 は,参考文献

( 9)

の レポー トに全面的に依拠 している。

(16)

トレー ドゾー ンの機能を有効 に利用 して,輸 出を促進 した

NAFTA

の締結 は,マキラ ドーラの性格を二つの点で変え ると予想 されて いる。第一には,その輸 出促進的性格である。当初,マキラ ドーラで生産 され た製品を メキ シコ市場 に輸入す ることは禁止 されていた。 メキ シコ政府 は,

1 977

年 と1

989

年 に, この規制 を緩和 して

5 0 %

まで国内市場 で販売す ることを 認 めた。

NAFTA

の締結後 は,

2 0 0 0

年 まで,

5

%づっ この比率 を高めてい く

ことが定め られてお り

,2 1

世紀 には, この規制 は完全 に撤廃 され る。

第二 に,マキラ ドーラへの原材料の免税措置が撤廃 され る。

NAFTA

の締

結 によって,合衆国やカナダの製品はすべて免税 となるが,第三国か ら輸入 さ れマキラ ドーラで加工 された製品を合衆国で販売 しよ うとす ると課税対象 とな る。 この措置によって影響を受 けるのは,ア ジア系の電気機器 メーカーと考え られている。 これまでのよ うに,免税措置を利用 して,合乗国‑販売す ること ができな くなる。 これに対 して, メキ シコの生産者 は,同 じ関税地域 になるた め,免税で販売す ることがで き,価格競争力の面で優位 に立っ ことがで きる。

さ らに,考え られ る効果 としては,課税を逃れ るために,メキ シコへ工場を 移転す る企業が増加す るだろ うとい うことである これは,すでに説明 した地 域経済統合 による投資転換効果である。拡大 された市場で直接生産 して販売 し

た方が企業にとって も収益 は高 くなる。

このよ うに,

NAFTA

の締結 によって,マキラ ドーラの輸 出促進機能 は低 下す るが,投資拡大機能が逆に拡大す ることが予想 され る。メキ シコの所得水 準が拡大 して くれば,マキラ ドーラの本来持 っていた合衆国市場 とメキ シコ市 場 の中間点 とい う地理 的条件が生か され, さ らに企業立地が進む可能性があ 生産性の向上 しだいで は,ア ジアへの輸 出拡大 ということも考え られ る。

このよ うに, 自由貿易地域協定 によって,フ リー トレー ドゾー ンは,無力化 し て しま うわけで はな く,逆 に,規制緩和 による市場拡大 によって,第三国 との 貿易は拡大す る可能性 もある。

(17)

( 2 )

東アジアにおける経済統合 とフ リー トレー ドゾー ン

日本の地域経済統合 に対す る公式の立場 は,開かれた地域主義であ り,地域 経済統合の閉鎖的なブロック経済化 には反対 している。 WTOにおける多国間 主義を尊重す る姿勢を とっている。東アジアにおける最 も成功 している地域経 済統合 は,アセア ンによる自由貿易地域協定である 日本 は, これを支援す る 立場を とっている。アセア ンの中には,マ レーシアのように, 日本,韓国,中 国を含む東アジア自由貿易地域の形成を志向す る国 もあるが,第二次大戦後, 合衆国が この地域で果た して きた役割を考え ると,合衆国を排除 した形での地 域経済統合には政治的危険が伴 う 日本 に しろアセア ン諸国に しろ,島国や半 島国家が多 く

, EU や NAFTA

のよ うな陸続 きの国家が市場統合す るの とは, 異なった側面を持 っている。東ア ジアの国々は, 日本の経済的繁栄か ら学び, 外国貿易促進型の経済政策を とってきている。 フ リー トレ‑ ドゾー ンによる港 湾隣接地域の工業団地化 も進んでお り,閉鎖的な経済 ブロックに転化す る危険 性 は小 さい。 シンガポールのよ うなフ リー トレー ドゾー ン国家が中核 に位置 し てお り,欧州市場,北米市場 とは,異な った形の東ア ジア共通市場が形成 され

る可能性がある

欧州 とは,スエズ運河,イ ン ド洋経 由で,結ばれている し,北米市場 とは, 太平洋を通 じた海上 ルー トで結ばれて いる。共通関税地域 を創 出 した として も,欧州,北米 との貿易関係 においては,フ リー トレー ドゾー ンの機能 は減少 せず,む しろ,投資促進効果によって,欧米企業の直接投資を拡大す る可能性 が高い。経済統合 によって,域内における財 ・サー ビスの移動が促進 されるこ

とか ら,域内の立地条件の良 い場所に生産 ・物流拠点を構築す ることで,国際 競争力を強化 しよ うという誘因が働 く この際に重要 なのは,港湾 ・空港など の貿易イ ンフラが整備 されていることであ り,世界全体で競争 しよ うとす る限

り,保税制度の重要性 は高い。

日本の地理的条件を考え ると,アセア ンとの 自由貿易地域 に単独で加盟す る ことは賢明で はないだろ う。北米市場,欧州市場 との貿易量の多 さを考 え ると, 世界市場が同時的に共通市場化 され る方が, 日本 にとっては経済的利益が大 き

(18)

いと考え られる。 したが って,WTOの多国間主義の立場 に基づいて,欧州, 北米,アセアンが閉鎖的な経済 ブロックに変化 しないように,国際世論を リー ドしてい くことが 日本の重要な役割 となる。ただ,経済的には, 日本 は,資本 の供給国 とな り,企業 も生産拠点を他地域 に移 してい くことか ら, 日本国内の 産業空洞化が懸念 される状況 となる。 これを克服す るために, 日本国内の港湾 隣接地域のフリー トレー ドゾーン化を進めることが, これまで以上 に重要 にな 依然 として,他のアジア諸国 との間に賃金格差のある状況の下では,労働 集約的な産業については,国外 に出ていかざるを得ない。重要なことは,アジ アの生産拠点 と直接結ばれている国際物流拠点が, 日本の各地域 に必要だ との 認識であ り,港湾が輸入促進型の形態に変わ ってい くことが必要 になる。

(3) 東西冷戦の終結 とフリー トレー ドゾー ン

ベ トナムとアメ リカ合衆国 との国交正常化およびアセア ン‑の加盟 は,東ア ジア地域で も,東西冷戦後の経済秩序が形成 されっつあることを示す ものとし て歓迎 されるべ き動 きである 自由貿易が円滑に機能す るためには,国内にお いて価格メカニズムが機能 していること,企業の産業‑の参入退出が保証 され ていることが前提条件 となる。社会主義国においては,政府の統制 による計画 経済が実施 されてきたために,長 く国際的な通商 システムに参加す る基本的な 要件を欠いてきた。東欧諸国の民主化 ・ソビエ ト連邦の崩壊 によって,ロシア

・東欧の市場経済化のプロセスが始 まった。 このような市場経済移行国家の経 済改革には,多額の財政負担 と国内改革の痛みが伴 うものであるが, ここで も

フ リー トレー ドゾー ンは重要な役割を果たす もの と考え られる。

国内産業競争力のない状態で,急激な市場経済化を進めると,移行過程特有 のイ ンフレーションの進行 によって,大幅な内需抑制政策を余儀な くされる。

国内産業が十分な国際競争力を持たない段階での自由化 は,経常収支を悪化 さ せ,債務問題を発生 させ る。国際市場において比較優位を発揮できる産業分野 が特定化 され,基盤整備が十分行われ るまでは,関税 による保護措置が必要 に なる。 しか しなが ら,同時に,外国資本の受入れ,技術移転,海外か らの原材

(19)

料および部品類の受入れ拠点を整備す ることも必要になる。 このために,港湾

・空港隣接地域のフ リー トレー ドゾーン化は,重要な政策 となる。

ロシアは,元来, ヨーロッパ とアジアにまたがるユーラシア国家であ り, こ の国が市場経済化す ることで,欧州 と東アジアが陸路で結ばれることになる

バル ト海のサ ンク トペテルブルグと日本海のウラジオス トックは,今後,欧州

と東アジアにおけるロシアの海の玄関口として発展 してい く可能性があ り,フ リー トレー ドゾー ンによる整備にはきわめて適 した地域 といえる ロシアが, 将来のアジア太平洋経済協力会議への正式参加を表明 していることは, 垂わめ て重要であ り,世界規模での自由貿易体制の確立のためには欠 くことの出来な い環の一つである。残念なことに,第二次大戦後に発生 した北方領土問題が未 解決のために, 日本 とロシアの問に平和条約が締結 されてお らず,広範囲の経 済協力が行われていない。 このことによる経済発展の疎外 コス トは一部の人々 が考えているより大 きい。

また,改革開放路線の下で,高い経済成長を持続 しっつある中国の動向 も, 東 アジア地域 における経済統合の行方 について影響を及ぼす 中国の場合 に は,海外 との取引の活発化によって発展 してきた沿岸部の経済成長をどのよう に して内陸部‑ と拡大 してい くか という段階に入 ってきてお り,その人 口規模 の大 きさか ら動向が注 目されている。返還後の香港が,どのような経済機能を 維持す るか も注 目され るところである。香港は,統制色の強い地域 にあって, まさに,フ リーポー トとして発展 してきたのであり,その経済的 自治権の行方 が焦点 となる。同様に, 自立志向を強める台湾の動向 も注 目され る。一つの中 国政策が堅持で きるのか,異な る関税地域 として存続 してい くのか,中国の

WTO加盟問題 とも関連 して,

東ア ジア地域 における重要 な問題である。中国, 台湾,香港が参加 しているAPECは, これ らの問題を内包す る形で,将来の

この地域の貿易および投資拡大を議論す る場 としては最適であろう。

最後 に,東西冷戦後の東アジアにおける経済秩序を考える上で重要な課題 と して,朝鮮半島の問題がある。北朝鮮の国際市場への参加,あるいは, 自国の 市場経済化に対す る姿勢は依然 として不透明である。豆満江開発計画のように

(20)

フ リー トレー ドゾー ン概念 による国際化への支援体制 もあるものの,北朝鮮国 内の政治体制の不透明さが外国投資の拡大を妨げている。

一般論 として述べ ると,市場経済移行国においては,国内産業の保護育成 と 外国資本の導入を両立 させ ることがで きるとい う意味で, フ リー トレー ドゾー

ンによる港湾 ・空港隣接地域の振興 は重要である。

( 4 )

東アジアにおける経済統合 と日米経済関係

アセア ンに対す るアメ リカ合衆国の姿勢 は,常 に協力的であ り,良好な もの であ った。アセア ン側 には,時 として,アメ リカ合衆国が, 日本や中国 との関 係を重視す るあま り,アセア ンに対す る政策上の優先順位が低 いとい う不満が あ った ものの,経済統合を進展 させ ることで,先進国の投資を 自らの地域 に競 争的に拡大 しようとす る姿勢を継続 している。アメ リカ合衆国にとっては,ベ トナム戦争の終結以降, この地域 に対す る国内的な関心 はあま り高 くなか った ものの, ク リン トン政権発足以来,アジア重視の政策を展開 し,ベ トナムとの 国交正常化を実現 している。 この地域の安全保障に関 して,合衆国 は依然 とし て大 きな役割を果た してお り,アセア ンの側 にも,合衆国の積極的な この地域 への関与を望む姿勢 は強い。今後 とも,アセア ンは,加盟国の拡大を通 じて, 東アジアにおける経済統合の中核であ りつづ けよ うとす るであろう この地域 における日本企業 と北米企業の競争 は,将来の産業競争力の進展の方 向性 につ いて,客観的な展望を与えて くれるであろ う

日米企業の双方の市場への浸逮 度 は,お互 いの競争力を比較す る上では歪んだ指標 となるが,第三国市場で, どの程度競争で きるかは,競争力を比較可能 にす るデータを我 々に提供 して く れるであろ う。

1 9 8 0

年代 に,合衆 国 と東 ア ジア との貿易 は急速 に拡大 している。特 に,輸 入では,全体の20%以上を占めるよ うにな ってお り,カナダ, 日本を抜 いて最 大の貿易パ ー トナーとな りっっある。合衆国の輸 出に関 して も,他の地域 に対 す る伸 び率 を上回 る率で増加 してお り,貿易 は双方向で拡大 している。これ は, 東 アジアと日本 との貿易関係で も同様であ り,輸 出入 ともに増加 している。 こ

(21)

れは, この地域の高い経済成長率を反映 した ものであ り,今後 とも, この傾向 は持続す るもの と予想 されている。 日本をライバル視する合衆国の政策担当者 の中には, 日本が リーダ ッシップを取 る形で, この地域 に閉鎖的な地域経済圏 を構築 しようとしているのではとの疑念を持っ向 きもあるが,現実の数字 は, そのような ことはな く,開放的な形で経済成長の利益 は,他の地域 にも及んで いることを示 している。東 ア ジアにおける域 内貿易拡大は,欧州,北米 との地 域間貿易を促進す る効果を持 ってお り,陸続 きの欧州や北米の地域経済統合 と

は異 なる貿易拡大のダイナ ミズムを有 している。 この地域 の発展 は, 日米経済 関係を 日米の市場だけで考え る戟後の思考法か ら脱却す る契機を与えて くれる で あろ う 日米双方 とも, 日米経済関係 を二国間問題 と して捉 え る傾 向が強 か ったのであるが,多国間の枠組みの中で考えてい くことも重要 にな りつつあ る。 日米がそれぞれの役割を分担す る形で,東西冷戦後の世界貿易 システムの 構築 にあた ってい くことが重要 にな りつつある

1 9 8 0

年代 に入 って,合衆国の各地で も, フ リー トレー ドゾー ンによ る地域 振興が活発にな って きた。 自動車 ・自動車部品 ・家電製品を製造す る日本企業 が現地生産 を始 め るにあたって利用 して きたのであ り,全米で

1 8 0

カ所程度 に 拡大 して きている。最近では,アメ リカの国内産業の利用 も増加 してお り,北 米企業の国際化および輸出努力 も進んで来ている。 この傾 向は,今後 も継続す るであろうし,合衆国 として は,環太平洋地域 との貿易関係 は,北大西洋の貿 易関係 と並んで重要 な もの となろ う。拡大 された地域 間貿易の拡大 によって, 合衆国で は,太平洋岸の貿易港の取扱 い貨物量が増大 しつつあ り,対外経済取

引の垂心 は,確実に,西にシフ トしっっある。

一方, 日本では,冷戦構造の崩壊 に伴 い, 日本海側の貿易港湾の相対的優位 性が増大 している。今後 とも,北米市場 と中国,東南 アジア市場 との中継点 と い う地理的条件を考えた時に, フ リー トレー ドゾー ンによる港湾振興 は,重要 な課題 とな って こよ う 日米貿易関係 も,二国の市場で完結 して しまう分業で はな く,東アジア市場 あるいは南米市場 との関わ りの中で進展 してい く分業体 制の構築が求め られていると言えよ う。

(22)

( 5 )

為替 レー トとフリー トレー ドゾー ン

経済統合が進展 して,地域経済の一体化が進む と,共通通貨を発行す ること が,課題 となって くる。 これは,狭い地域の中で,多数の通貨が用い られてい ることによる経済取引上の不都合 さか ら起 こって くる議論で ある。貨幣の役割 が,自由貿易を通 じた分業の促進 にあることを理解すれば,現在のような変動 相場制 は,必ず しも理想的な制度ではないことがす ぐ理解できるだろう 為替 レー トの極端な変動 は,経済の将来に対す る不確実性を増加 させて,貿易や投 資の拡大 にとって好 ま しいことではない。

欧州連合 は,域 内における共通通貨の発行を 目指 して,通貨同盟 の構築 を 図 っているが,各国の金融政策の独 自性を拘束 し,経済主権を制限す る議論な だけに,政治的には困難な問題を伴 う

戦後 の通貨体制 は, ドルを基軸通貨 とす る固定相場制 として発足 した もの の,

1 971

年 に,合衆国が一方 的に金 と ドルの交換停止 を発表 して以来,各国 が協調的に為替 レー トの水準を管理す る管理 フロー ト制が継続 している。 この 体制の下では,短期的な為替 リスクは先物市場でヘ ッジできるものの,長期的 な投資に関わる為替 リスクについては,絶えず影響を受 けることになる。 日本 のよ うに,通貨の価値が急速 に高 くなった地域では,輸出の採算が合わな くな り,生産の拠点を海外 に移す動 きにつなが る。すなわち,変動相場制の下では, 長期的な為替 レー トの予測の下 に,世界市場 における生産拠点が決定 され る。

フリー トレー ドゾーンを利用す る企業の場合には,様 々な部品類を用いる加 工組み立て型の製造業が多 いので,為替 レー トの変化 には敏感 になる。為替 レー トの低下 した地域か ら部品類を購入すれば,収益を向上 させ ることが可能 になる フリー トレー ドゾー ンの設置にあたっては,外国通貨の使用制限の緩 和 も一つの課題 となる。入国手続 きを終えて,航空機の出発を待っ問に,円と ドルの両方を使用で きる免税店があるように,理論的には,複数通貨の使用が 可能なフ リー トレー ドゾー ンの設置 も考え られる。

いずれに して も,地域経済統合の最 も進んだ究極の形では,世界全体で使用 可能な通貨が発行 されているはずであ り,為替 レー トの変動を気にす る必要が

(23)

な くなる。その際には, もちろん,関税 も撤廃 されているので,フ リー トレー ドゾー ンは,単なる港湾 ・空港施設の一部 となる。残念なが ら,近い将来にこ のようなことが実現す る可能性 はな く,為替 レー トもフ リー トレー ドゾー ンも

しば らく存在 し続けることになるだろう

(6)消費税 とフリー トレー ドゾーン

経済統合が進展 し,域内の関税が大幅にき下げ られたとして も,フリー ト レー ドゾー ンの有用性が減 じない理 由として,各国における付加価値税の導入 があげ られる。各国 とも,直接税中心の税制か ら,多段階で一般的な消費の発 生段階に課税 され る間接税の比重が高まっている。地方分権 の進んだ地域で は,各 自治体 レベルでの間接税を課 している。外国貿易については,輸出品に は, このような課税はなされず,輸入品については,通関の段階で課税 され る のが一般的である。つまり, このような間接税が存在す る限 り,フ リー トレー ドゾー ンの保税機能は健在だ と言える。現在の先進各国の傾向 として,一般付 加価値税の税率 は,かな り高率になってきてお り, フリー トレー ドゾーンの重 要性 は以前 よりも増 しているといえるだろう 内国消費税 は,消費 に対 してな される税であ り,港湾 ・空港隣接地域をフリー トレー ドゾー ン化す ることで密 輸がない限 り税収が減 じることはない。投資の拡大によって雇用が増加 して所 得増 による消費拡大があれば,税収 はかえ って増加す るであろう

5.

おわ りに

この小論では,地域経済統合の進展 とフ リー トレー ドゾー ンの振興 につい て,東西冷戦構造の終結 した

1 99 0

年代 の世界経済 の状況 を踏 まえて議論 して きた。西 ヨーロッパにおける地域経済の統合は,世界的な自由貿易体制の構築 と並行す る形で,北米 における自由貿易協定の締結および東アジアにおける地 域経済統合の進展を促 して きた

。1 9 95

1

月 には,世界貿易機関

( Wワo)

発足 し,世界規模での多国間自由貿易体制が一層強化 されることになった。地

参照

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国(言外には,とりわけ日本を指していることはいうまでもないが)が,米国

 基準第 26 号の第 3 の方法を採用していた場合には、改正後 IAS19 でも引き続き同じ方