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イ ン ドの 日本語教育事情

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(1)

長崎 大学留学 生 セ ンター紀要

1 0

2002

7 3

イ ン ドの 日本語教育事情

永井 智香子

は じめ に

筆者 は

2001

8

15

目よ り

8

24

日まで、北イ ン ドのデ リーお よび 西イ ン ドのプネを訪れ、 日本語教育事情 を中心 に調査 を行 った。

北イ ン ドのデ リー には 日本語専攻 の修士、博士課程 を持 つデ リー大学、 ネル

‑大学があ り、 日本語 の高等教育 の中心 である。 また、イ ン ド最大 の 日本語教 育機 関 もある。西イ ン ドのプネはイ ン ドにお いて最 も 日本語学習者が多 く、 日 本語能 力試験 の受験者 が多 い。 イ ン ドでは どの 日本語教育機関 にお いて も、 日 本で発行 されて いる 日本語 教育 関係 の本や教材、辞書が手 に入 りに くい とい う 問題 を抱 えて いるが、そのよ うな状況 の中、 プネ にはイ ン ドで唯一 の 日本語教 育関係 の私設図書館がある。 さ らに、 プネでは

IT

産業の発展 によ り、近年、

IT

エ ンジニアに 日本語 を教える機関や企業が増加 している。

ま た 、 イ ン ドに は 元 文 部 省 の 留 学 生 の 会 で あ る

MOSAI ( Monbusyo Schol ar s As s oci at i on I ndi a)

や各地の 日本語教師会があ り、 日本語能力試験の 実施、弁論大会の実施、機関紙 の発行な ど活発な活動 を続 けている。

イ ン ドでは、

IT

産業が盛ん にな るにつれ、 日本語 の翻訳、通訳がで きる人 材が不足す るよ うにな り、必要 とされ る 日本語が教養 として勉強す る 日本語か

ら仕事 に直結す る 日本語へ と変わ って きて いるよ うに見受 け られた。そ の結果、

日本語ができる者は企業へ と流れ、教師不足が どこで も大きい問題 となっている。

以下 にデ リー とプネの 日本語教育機関、元文部省の留学生の会、教師会 を訪れ、

関係者 に実施 したイ ンタビューの結果 を報告す る0

1.デ リーの 日本語教育事情

デ リーではデ リー大学、ネル‑大学、 日本大使館広報文化セ ンター 日本語講座、

を訪問 した。 また、

・J APROC( J apanese Language Pr omot i on Cent er )

MOSAI( Monbusyo Schol ar s As s oci at i on I ndi a)

、イ ン ド日本語教師会

J AOTAI ( J apanes eLanguageTeacher sAs s oci at i onofI ndi a)

、デ リーパブ

リックスクール の関係者 に話 を伺 ったO

(2)

7 4

イ ン ドの 日本語教 育 事情

1‑ 1

デ リー大学

デ リー大学 で 日本語 ・日本研究 の専攻課程 があるのは大学院だけである。そ の他 にいわゆる 「パー トタイム クラス」がある。パー トタイム クラス とい うの は大学 の学生や一般 に向 けて開講 され るクラスで、デ リー大学 の 日本語 の場合、

普通 コース と集 中コースがある。普通 コースは月曜か ら金曜 まで毎 日

1. 5

時間、

集中コースは月曜か ら金曜 まで毎 日

3. 5

時間、

3

年間 日本語 を勉強す る。

イ ン ドの大学は通常

8

1

日よ り授業が始 まる。

2001

年度 の場合、集 中 コース と普通 コースには 289人申し込みがあったという。試験の結果 60人 ( 中コース

15

人、普通 コース

45

人)が入学 を許可 され たO普通 コースは

3

目終 了時 に、集 中コースは

2

年 目終 了時 に、 日本語能 力試験

2

級 にパスす る こ とを目標 として いる。 また、集 中コースでは

2

年 目の後 半 には新 聞の社説 を読 み始 め、

3

年 目には

400

字詰 めの原稿用紙

15

枚程度 の論文 を書 くことも義 務付 け られて いる。

学部時代 に 日本語 のパー トタイム クラス を終 えれば、修士課程 を受験 できる。

修士課程 には 7、 8人の学生 しかいない。

教科書は初級 レベルではデ リー大学作成の

『 Te a c hi ng J a pa ne s e 』

を、 中級 レベルでは

『 I CJ

』、 『日本語表現文型』 を使用 している。

最大の問題点 は教師不足である。卒業 して も教師 にな りたい とい う学生は非 常 に少ない。 また、イ ン ド政府の方針 として国立大学の場合、教師 も学生 も 22.

5

パーセ ン トは一番低 いカース トの ものでなければな らない という人数枠 の制 限が ある。 さ らに国立大 の教師 にな るための試験 にも合格 しなければ な らな い。

当分 の間は 日本語教官 のポス トがあって も新 しく雇 うことは難 しい とい う現実 がある。

近 い将来、パー トタイム クラスの普通 コース を廃止 し、集 中コースのみ とし、

集 中コースの学生を増や してよ り密度の濃いコースにしたいという。

1‑2

ネルー大学

ネル‑大学 は

1999

年 にヴィシュバ ・パルテ ィ大学で学士 レベルの 日本語専攻 課程 がで きるまで、長 い間イ ン ドで唯一学士 レベル の 日本語専攻課程 を持つ大 学であった。 開講は

1979

年である。学部は

3

年で、学部 を終 了す る と自動的 に

2年間の修士課程 に進む ことができる。 いわば 5年間の一貫教育である。

日本語課程 は平均 して毎年

500

名受験 して

25

名がパスす る とい う人気課程 で

(3)

長崎大学留学生 セ ンター紀要

1 0

2 0 0 2

7 5

ある。

25

名が入学 し、修士課程 に進むのはだいた い

15

名 くらいであ り、 さ らに博士課程 に進むのは多 くて

2

名程度 との ことである。 国立大学ではあるが、

ネル‑大学独 自の、イ ン ド全土30拠点で行 う入試があ り、学生は全土か ら集 まって くる。授業料 も寮 費 も

1

ケ月

20

ルピー (日本 円で約

50

円)、 とい う 安 さである。

授業は、 月曜か ら金曜 まで毎 日

4

時間 (

9

時か ら

1

時 まで) 日本語 を勉強 し、

午後は選択科 目を勉強す る。大学院では 日本語関係の科 目のみ を履修する。

教科書は

1

年生は国際学友会 の 『日本語 Ⅰ』、

2

年生は 『文化 中級 Ⅰ』、

3

年生は 『文化 中級

I I』

な どを使 う0

3

年生で

2, 30

パーセ ン トの者が 日本語 能 力試験

2

級 にパスす る という。修士課程の 1年では 日本の歴史 と文学史 を英 語で学び、文学 の講座では 日本語 の短編小説 を読む。 その他 日本事情や作文 の クラス、

… J apanes el anguageus age"

というビジネス レターの書き方な どを学 ぶ クラスや通訳養成講座 といった実践的な 日本語 を学ぶ クラス もある。修士論 文はテーマは自由で 日本語でA 4の用紙 に

40

枚 くらい書 くことが求め られる。

問題点 はまず教師不足である。

3

年の学部 を卒業後、 日本語 を生か して企業 就職す ると給料が大学 の助教授 の

2

倍 にな る とい う現実がある。 同 じ事情 によ り修士 を出て も日本語 の教師 になる人は少ない。教師 を育てた い と思 って も対 象 にな る学生が いな いとい う。 もう一つの問題は 日本語 の教材や辞書が手 に入 りに くい ことで、辞書は図書館で見た り、 日本へ行 く人に買って きて もらった りす るとの ことである。

1‑ 2‑ 1

ネルー大学での授業見学

ネル‑大学では

1

年生の 日本語初級 のクラス、

3

年生の 日本文学史のクラス、

マスター

1

年のクラスを見学する機会 に恵 まれた。

1

年生のクラスはち ょうど

2

週間前 に始 まったばか りのクラスであった

。25

人の学生全員が簡単に自己紹介をして くれたあと、 「きょうは何曜 日ですか」

ょうは何 月何 日ですか

「これは何ですか」 な どのイ ン ド人教師か らの質問に 次か ら次へ と正確 に答 えて いた。わず か

2

週間での上達振 りに驚 き、教師 に聞

いてみると次のような答えが返 ってきた。

最初 の

2

ケ月 くらいはす ご く早 く上達 します。そ して、そのあ と少 しペー スダ ウンします。そ して、 また

2

年生の真 申あた りか ら上達す る速度が上が っ て いきます。最初、上達が早 いのは ヒンデ ィー語 と日本語 の文法が似て いるか

(4)

7 6

イ ン ドの 日本語教 育 事情

らです。説明は英語で行 うことが多 いのですが、助詞 の導入な どは最初は ヒン デ ィー語で考 えさせ る ことがあ ります。 しか し、動詞 の導入では戸惑 う学生が 多 いですよ。イ ン ドは多言語国家で、それぞれの母語の影響 も受けます」

3

年生の 日本文学史 の クラス には

17

名の学生が いた。講義は英語で行われ て いた。英語 に混 じり、 "奈良時代" =平安時代" "古今和歌集" な ど、時代 の名前や文学作 品の名前が聞 こえてきた。学 生たちは非常 に熱心 に教師 の言葉 を聞き漏 らす まいと授業 に集 中して いた。

マスター

1

年のクラス には

6

人 (本来

10

名のクラス) の学生が いた。 内

2

名は 日本へ留学 した経験 がある。 1人は文部省 の 日本語 ・日本文化研修留学 生

として京大 に

1

年間滞在 し、 もう一人は桜美林大学 に数 ヶ月いた という。

そ の 日の教材は

2000

6

30

日の朝 日新 聞の夕刊で、 日本 の失業率 に つ いて書かれ た記事であった。 どの学生 もノー トに予習 を して きて いた。授業 のや りかたは順番 に記事 を読 んで訳す とい う文法訳読法であった。授業後学 生 にイ ンタ ビュー を試みた。 日本 に滞在経験 のある学生は さすが に流暢な 日本語 を操 る。卒業後 の進路 について聞 いてみ ると、 日本 との合弁会社 に就職 した い という者が

3

人、 日本の古典の研究者 にな りたいという者、 日本で心理学の専門 家 にな りたい という者、 日本語の教師 にな りたいという者が各

1

人ずついた。

1‑3

在イ ン ド日本国大使館 日本語講座

この 日本語講座は在イ ン ド日本大使館 ・日本広報文化セ ンターの中にあ り、

40

年以上の歴史 をもつイ ン ド最大 の 日本語学校である。学生数 は

2001

6

月時点で

567

名で、会社員が

46

パーセ ン ト、学生が

35

パーセ ン トとな っている。大学で 日本語 のクラス をとって いる人や会社で通訳や翻訳 の仕事 を している人 も来 る。 クラスは初級 Ⅰ、 Ⅱ、 中級、上級 Ⅰ、 Ⅱ、会話 と多岐 にわ た って いる。 各 クラス とも

90

分 クラスが週 に

2

回ある。各 クラスが

1

年で終 了す るので上級 Ⅱまでい くのに

5

年かか る。 中級終 了時で 日本語能 力試験

2

級、

上級 Ⅱ終了時 には

1

級 に合格することを目標 に しているという。教師は

11

名で、

専任は国際交流基金か ら派遣 されて いる 日本語教育専門家だけであ とは非常勤 である。

テキス トは いずれ も国際交流基金発行 の もので、初級 が 『日本語初歩』、 中 級が 『日本語 中級 Ⅰ』、上級が 『日本語 中級

Ⅱ』である。

問題点は ここも教師不足である。 「イ ン ド人の指導者が育たない」、 「優秀

(5)

長崎大学留学生センター紀要

1 0

2 0 0 2

77

な受講 生を教師 に しよ うとす ると日系合弁企業 に行 って しまう

とい う。 もう 一つの問題はイ ン ドでは 日本で発行 されて いる辞書や教科書が手 に入 りに くい

ことである。

1‑4 J AP R OC( J a p a n e s eL a n gu a geP r o mo t i o nCe n t e r )

J APROC

AOTS

の同窓会が母体 となっている学校でイ ン ド最大の民間の 日本語学校である。 この学校 の特徴 は一般 向けの 日本語 コース と企業 内研修 の

2

本立てになって いるということである。現在教師は

13

名で内イ ン ド人は

3

名、

専任 は

1

名のみである。教授法 は 日本 の

AOTS

で行われて いる、で きるだけ 媒介言語 を使わず に絵 カー ド、 ビデオ、 カセ ッ トな どを使 い効果的 に口頭練習 を行 う方法が とられている。そ こで、教師 には この教授法 の研修が義務付 け ら れている。 しか し、 この教授法はイ ン ド人の教師 には難 しい という問題 もある。

一般 コースは 『新 日本語 の基礎 1』 を使 うクラス、および、 『新 日本語 の基

2』

を使 うク ラス、 中級 日本語 1、 中級 日本語

2

、上級 日本語 の

5

つのコー スがある.テキス トは

AOTS

が出 しているものを使用す る。企業内研修 も 『 日本語 の基礎』 をメイ ンのテキス トとして使 うが、専門用語、 日本文化、 ビジ ネスマナー、交渉 の仕方な どの場面練習な どを企業か らの要望 に応 じて組み込 んでい く。

問題点は企業 内研修 のコン トロール の難 しさで ある とい う。一般 コース に来 る人は 自分で高 い授業料 を払 って くるので真面 目に勉強す るが、企業 内研修 に は学習意欲 の高 くない者 も来 る。 また、 当然の ことであるが、企業 によ り日本 語研修 に取 り組 む姿勢 も違 い、 コース をコン トロールす るのが難 しい。そ こで、

企業内研修ができるベテ ラン教師が少ないことが問題 となっている。

1‑5

元文部省の留学生の会

MOSAl( Mo r bu s y oS c h o l a r sAs s o c i a t i o nl n da )

イ ン ドは国が広 いので、元文部省の留学生の会は北のデ リー、南のチ ェンナィ、

東 のカル カ ッタ、 西のプネの 4つ に分かれて活動 を行 って いる。帰国留学生の

80

か ら

90

パーセ ン トの者がメンバーになる。

主な活動は、弁論大会 の開催 と日本語能 力試験 の実施、そ して、 日本留学 の 広報活動である。弁論大会 は まず上記 の

4

つの地域で開催 し、それぞれ の地域 での一位か ら三位 を集 めた全国大会 をデ リーで

1

年 に一回行 う。大会後 のパー テ ィー も

MOSA I

で主催す る。 日本語能 力試験 も上記の

4

箇所で

MOSAI

(6)

7 8

インドの日本語教育事情 が中心 となって実施 され る。

日本留学 の広報活動は

JC IC

(日本大使館広報文化セ ンター) の一室で

1

2

時間程度 メンバーが詰 めて、相談 に来た者 に対 して 日本へ留学す るための 奨学金制度な どの説明 を行 っている。や は り、奨学金の金額 についての質問が 一番多いとの ことである。

そ の他 の活動 として レクチ ャーや ワー クシ ョップを開いた り、

2

ケ月に一回 機関誌 を発行 した りして いる。

l‑6

インド日本語教師会

J AL T Al ( J a p a n e s eL a n g u a g eT e a c h e r sAs s o c i a t i o no fl n d a )

この教師会は、学習者の増加 とともに多様化す るイ ン ドの 日本語教育 に対応す べ く現場 の教師が集 ま り、

1996

年 に結成 され、現在会員は

95

名である。

主な活動は以下の通 りである。

・研究会、 シンポジウム、セ ミナー等の開催

それぞれが持つ 日本語教育 の問題、経験、イ ン ド人 に対す る教 え方な どを 話 しあう。

・紀要 『イ ン ド日本語教育』、ニ ュース レターの発行

2001

8

月現在で紀要は第

3

号 まで 出された。 内容 は会員 の所属 して いる機 関で の 日本語教育の実践報告、 シンポ ジウムの報告、研究投稿な どで ある。研究投稿では 「ヒンデ ィー語 を通 じての 日本語教育」 「日本語 とマ ラ ヤ ラム語」 ベ ンガル語 の助 けをか りての 日本語教授」 「日本語 とタ ミル語 の対照研究

サ ンス ク リッ トを通 じての 日本語考察

な ど多言語国家イ ン

ドな らではのものが多 いのが興味深 い。

ニ ュース レターは

2001

8

月現在で

17

号 まで出された

・催 し物の開催

全イ ン ド作文 コンテス トと漢字 コンテス トを年 に一 回実施 して いる。漢字 コ ンテス トというのは桝 目のある用紙 を与 えて、手本 を見なが ら書 くことが 中心 になるが、美 しくバ ランスをとって書 くのが難 しいとの こと。

・日本語教育 に関する調査 周期的にや っている。

このよ うに活発な活動が行われて いる。 問題点 は参加者がデ リー在住 の者 に 限 られ る とい うことである。そ こで、

2001

11

月に国際交流基金の援助 を

(7)

長崎大学留学生 セ ン ター紀 要 10号 2002

7 夕

得て、初 めてイ ン ド全土 の会員 が集 まる会合が持 たれ る予定 との ことで あった。

もう一つ の問題 は会 員の 日本語 の レベルが違 う ことで、 日本語 が十分 に話せ な い会員 もいるので、会合での討議がで きな い ことである。

これか らの予定 と しては さまざ まな計画 が立て られ て いる。 た とえば、教 師 研修 会 の開催、 教師養成 コース の開講、 日本語講座 の運営 な どで ある. さ らに、

高校 で も 日本語 を教 えよ うと最近 中等教育 レベル の教科書 を作 り始めて いる。

1‑7

中等教育での 日本語教育 ・デ リーパブ リックスクール

デ リーパ ブ リックス クール はイ ン ドでは非常 に数が少な い 日本語教育が行 わ れて いる中等教育機関である。 中高一貫教育の学校で、 日本語は選択科 目で ある。

日本 か ら来 て いる教師

1

人が 中学校 か ら高校

2

年 まで

15

コマ担 当 して いる。

‑ コマが

35

分か ら

40

分で、教科書はジャパ ンタイムスか ら出ている 『元気』

とい うテキス トを使用 して いる。 生徒 たちは 日本語 を学ぶ とい う強固な 目的意 識がな いので、 じっ として いず、なかなかひ らがなを覚えな いという0

イ ン ドにお ける中等教育 レベルでの 日本語教育 は過去 にい くつか実績があるが、

なかなか続 かな いよ うだ。 国際交流基金な ど公 的機 関か らの派遣 がな く、個 人 レベルで来 る ことにな る。 そ うな る とビザ の問題、給 料 の問題 な どた いへんで ある。大学受験 の科 目にな って いな い ことも 日本語 が 中等 教育 に根付 かな い一 つの理 由である とい う。

2.

プネ における 日本語教育事情

ム ンバイか ら東南 へ3 0 0キ ロの西イ ン ドに位置す るプネは人 口約 3 0 0 のイ ン ド

8

番 目の大都市 で ある。 プネは教育 の町 と呼ばれ、多 くの大学が ある。

近年 は

IT

産業 が盛 ん にな り、

IT

関係 の 日本 の合弁会社 が約

10

社 ある。 そ こでは 日本語ができる人材が求 め られている。

プネで はプネ大学 とプ ネ唯一 の民間の 日本語学校 で ある

Pune Cent r e of J apanes eSt udi es

、PuneCent erofJ apanes eSt udi es

の附属私設 図書館 を

訪問 した。 また、 プネ 日本語教師連盟

J ALTAP( J apanes e Language Tea‑

cher s′As s oci at i on ofPune)

の会合 に出席 し、 プネ印 日協会、

IT

関係の合弁 会社 の 日本語関係者 にも話 を伺 うことがで きた。

(8)

80

イ ン ドの 日本語教 育事情

2‑ 1

プネ大学

プネ大学 は大学院大学で、外国語学部 には フランス語、 ドイ ツ語、 ロシア語 にマスター コースがあるが、 日本語 のコースはない。 日本語課程 はいわ ゆるパ ー トタイムクラスで

1

週間に

3

2

時間ずつ開かれている。教師は

14

名である。

レベル とテキス トと人数は次の通 りである。

1

年 目 (初級) 『日本語初歩』

1

課か ら

16

500

2

年 目 (初級) 『日本語初歩』

17

課か ら最後 まで

150

3

年 目 (中級) いろいろな中級テキス ト 70名

問題点 は途 中でやめる人が多 い ことである。最近、会社員 の受講 生が多 く、

出張な どで続 け られな い人が多 い。

1

クラスの人数が多 く、なかなか話す機会 が少ないことも問題である。それか ら、やは り教師不足 と教材、辞書不足がある。

現在 日本語 のマスター コースができることが望 まれている。

2‑2

プネ印 日協会 (印 日国際交流基金)

プネ印 日協会は

1971

年 に海外 青年協 力隊が入 ってスター トした。 プネ大 学 と同 じよ うに週 に

3

回、

1

2

時間のクラスが開かれている。そ のほか にプ ネの 日本語弁論大会 も開催 している。

2‑3 P u n eCe n t r eo fJ a p a n e s eSt u d i e s

1990

年 に設立 され た。最初は普通 の 日本語学校だ ったが、

3

4

年前 よ り企業内 日本語研修 のみ を請 け負 って実施す るよ うにな った。 コースは企業 の 要望 に応 じて さまざまで ある。最長 の ものは

500

時間のコースで、 月曜か ら 土曜 までの勉強が3ケ月間続 く。最短の ものは 50時間で、あいさつ に少 し付 け 加わる程度である。

テキス トは 『日本語初歩』 を使用 して いるが、 これ にた くさん

IT

用語が付 け加わ る。

2

ケ月 目に入 ると実際 に会社で使 われている書類 の翻訳 を始 める と いう。

日本 との合弁会社か ら派遣 され、学校 のす ぐ近 くのホテル に泊 ま りこんで 月 曜か ら土曜 まで

1

日に

6

時間 日本語 の勉強 を している若者

5

人に会 う機会が あ った。 「この研修が終わった ら日本に

1

年間派遣されることになっています

」 「 自

分 たちの会社でのプ ロジェク トは 日本語 の書類 を読みなが らします」 と真剣な

(9)

長崎大学留学生 セ ンター紀要

1 0

20 02

表情で話 して くれた。

81

2‑3‑ l Pu n e N b p o nLbr a r y

PuneNi pponLi br a r y

PuneCe nt r eofJ a pane s eSt udi e s

の 日本人のオー ナーが階段の下の畳 3畳はどのスペースに 92年 に開設 したイ ン ド唯一の 日本 語教育関係の私設図書館である。開設以来本の盗難 に悩 まされつづけてきた。

あま りにも盗難がひ どく、

1

度閉館 となった。 「自分たちは何 もしていないの に‑・」 という声に再び開けた という。

現在は開館時間は月曜 と水曜が 6時か ら8時、火曜 と土曜が 5時半か ら7時 半 までで、狭 いのでひ とりずつ入 ることになっている。貸 し出 しは 1

3

冊 ま でで、開館 日には入 り口の ドアの前の階段 に列ができる。人気があるのは 『日 本語 ジャーナル』や 日本語能力試験対策本 とのことである.

実際に入 ってみた。狭 いが壁

4

面 にびっしりと本棚がおかれ、本がつまって いる。窓はな く、裸電球がふたつ本 を照 らしている。本の分類は種類別 に千代 紙が貼 られている。辞書、 日本語の教科書、小説、趣味の本、歌のカセ ッ ト、

ビデオな どな どが所狭 しと並んでいる。 日本語の教科書や辞書が手 に入 りにく いということをイ ン ドの どこの機関で も聞いた。小さいが、 日本語学習者 にと っては本 当にあ りがたい場所であることが実際に見て実感できた。本の補充は オーナーが 1時帰国 した ときに船便で送るという。

図書館だ と 1冊の本 を何人で も読めるのがいいですね.将来はコンピュー タで本を管理 して、きちんとした司書を置いて、図書館 をもっと大きくしたい

とオーナーは話 していた0

2I4 プネ日本語教師連盟 J AL TAP ( J a p a r l e S eL a n g u a g eTe a c h e r s ' As s o c i a t b no fP

Lm!)

J ALTAP

は、プネには 日本語能力試験 を実施する組織がないので組織 を作 っ てほ しいという国際交流基金の依頼 によ り、 1993年 に 日本語教師約 40名 で設立 された。 日本語教師であればだれで も入れる。会員よ り会費を集め、場 所 を借 り、事務員 をや とって運営 している。主な活動は 日本語能力試験の実施、

4

級対策講座の開講、国際交流基金よ り販売権 をもらっての 『日本語初歩』 の 販売な どである。

(10)

8 2

インドの日本語教育事情

3.

まとめ 一日本語教育機関がかかえる問題 と今後 一

今 回の調査で訪れた ところに例外 な くある問題 は深刻 な教師不足 と教科書、

教材、辞書不足であった。

教師不足は特 に大学で深刻な問題 となって いる。現在、イ ン ドでは、

IT

業 を中心 に 日本語がで きる人材が不足 している。前述 のよ うに、大学で 日本語 を専攻 した ものが就職 した ときの初任給が大学 の助教授の

2

倍である という現実 がある。 これでは企業 に流れ るのは 当然である。大学で の授業見学で見た 日本 語専攻 の若 い学生達 の純粋 な 目とひたむきさは今 も脳裏か ら離れな い。伝統 あ る大学での 日本語教育の発展 のため にも、大学 の 日本語 の教師 とな る者があ ら われ るよ う待遇改善され ることを願わず にはい られない。

西イ ン ドのプネでは若 い

2

人の 日本人女性の 日本語教師 と話す機会があった。

一人は

IT

関係 の翻訳 をす る会社、 もう一人は 日本人相手 にソフ トウェアー を 開発す る会社 で働 いて いる とい う。二人 とも来て間 もな いが現地 に溶 け込んで いるよ うに見 うけ られた。話 をき くと、 「大学で ヒンデ ィー語 を専攻 していて、

この春卒業 して、イ ンターネ ッ トで この会社 の求人広告 を見つけてイ ン ドに来 ま した。私が勤める会社 は社員 の 日本語教育 に力を入れて いて、イ ン ド人社員 は皆

IT

の専 門家なんです。社員全員が 日本語 を始 めたばか りです。 」

「IT

関連 でイ ン ドは 日本語 の先生が不足 して いる ときき、来 ました。 ネ ッ トで調べ

20

社 くらいにメール を送 った ところ

、5

社か ら返事が来て、その うちの一つの 会社 で働 くことにしま した。」 との ことであった。深刻 な 日本語教師不足 にあ るイ ン ドにお いて、今後、

IT

産業 の発展が続 く限 り、

IT

関連 の会社 の 日本 語教育 にお いては、 この二人の 日本人のよ うな 日本語教師が増加 して い くので

はないか と思われた。

教科書、教材、辞書不足 も深刻で あるが、それ を補 って いるのは 日本語 を学 ぶ ことに対す る …熱意" であると日本語 を専攻する学生たちと話 して実感できた。

辞書な どの入手は 日本へ留学す る者 に依頼す る ということはすで に述べた とお りであるが、学生たちは 日本か ら来ている数少ない 日本人留学生を …生き字引'' として毎 日さまざまな ことを教えて もらうのだ という。

おわ Uに

今 回のイ ン ド訪 問で話 を伺 った 日本語教育関係 の方 々は全員忙 しい中、非常 に熱心 に、丁寧 に応対 して くだ さった。お会 い した方 々全員か ら日本語教育 に

(11)

長崎大学留 学生 セ ンター紀要

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対す る熱意が十分す ぎるほ ど伝わ って きた。筆者 が特 に印象 に残 って いるのは プネの私設 図書館 である。 一人の 日本 人女性 が全 くのボ ランテ ィアで

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年間地 道 に続 けて きた小 さい図書館で ある。窓 のな い階段下 の驚 くほ どの小 さいスペ ース にぎっ し りと詰 まった 日本語 関係 の本が印象的である。 前述 のよ うに、小 さいので ドアの前 に並 んだ入館希望者 を一 人づつ順番 に入れて い く。 教材不足 に悩 むイ ン ドにお いて、 この小 さい図書館 は今 まで にいった い どの くらいの 日 本語学 習者 の支 え とな って きたので あ ろ うか。 この図書館 の存続 と発展 を願 っ てや まない。

最後 に今 回のイ ン ド訪 問 に際 して国際交流基金ニ ューデ リー事務所 の 日本語 教育 ア ドバイザ ー の今井新悟氏 に大変 お世話 にな った。短 い期 間 に効 率 よ く多 くの現 地 の 日本語 教育機 関 を訪 問 し、 関係者 にイ ンタ ビューがで きた のは今井 氏 の多大な協 力が あったか らである。 ここに深 く感謝の意 を表 したい0

参考文献

(1) プ レム モ トワニ (1995) 「イ ン ドにおける 日本語教育 一問題点 と将来 の 展望‑」 世界の 日本語教育』第

2

国際交流基金 日本語国際セ ンター (2) ラクシュミ、V.ラ‑マ (1997) 「デ リー大学 にお ける 日本語教育 の現状

と課題

イ ン ド日本語教育』創刊号 イ ン ド日本語教師会

(3) 名須川典子 (

1998)

海外技術者研修協会

( AOTS)

ニ ューデ リー事務 所 における 日本語教育

1

回イ ン ド日本研究 ・日本語教育 シンポ ジウム 報告書』イ ン ド日本語教師会

(4) 名須川典子 (

1998)

企業 内研修 の一環 としての 日本語教育一海外技術者 研修協会

( AOTS)

ニ ューデ リー事務所で の実践」

(5) 今井新悟

( 2000)

多言語国家イ ン ドの言語教育事情」 留学交流』 ぎ ょ うせ い

( 6)

今井新悟

( 200

1) イ ン ドのシ リコンバ レー と日本語 一伸び る 日本語学習 者数」 月刊 日本語

』 1

月号 アル ク

(留学 生セ ンター助教授)

参照

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