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学位(社会学博士)論文の要約

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学位(社会学博士)論文の要約

<論文の題名>

鉄道交通ネットワークと地域社会の構造変動

―「東京」の巨大都市化に関する社会学的研究―

2021 年 3 月

日本大学文理学部社会学科教授 後 藤 範 章

(2)

鉄道交通ネットワークと地域社会の構造変動

―「東京」の巨大都市化に関する社会学的研究―

<目次>

はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 第Ⅰ部 理論・方法論編 ―研究の課題と方法―

第 1 章 地域社会学の根本問題 ―対象と分析視角をめぐって― ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 はしがき

1.問題の所在

2.「地域社会」の用語法 ―「全体社会」か「部分社会」か―

3.実態認識・範域・分析視角をめぐる相違点 4.地域社会学の果たすべき役割と課題 5.考察と課題

第 2 章 「東京」の地域社会学的研究 ―範域確定の試み― ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 はしがき

1.問題の所在

2.分析の視点 ―範域画定にあたっての基本問題―

3.分析の手続きと使用データ 4.分析と結果

5.知見と課題

第 3 章 「東京」の空間変動分析 ―データ集成と 1960~90 年の経年変化―・・・・・・・ 31 はしがき

1.「東京」の空間変動分析のために(1)

―1980 年を基準とした市町村の対応関係―

2.「東京」の空間変動分析のために(2)

―全市町村の 5 指標値と総合得点の推移―

3.「東京」の空間構造の変動過程 ―1960 年~1990 年の経年変化―

4.知見と考察(1)―マクロな動向をめぐって―

5.知見と考察(2)―ミクロな動向をめぐって―

(3)

第 4 章 「東京」における人口移動と流動 ―集中と分散のダイナミズム―・・・・・・・・ 61 はしがき

1.問題の所在

2.「東京」を捉える視点

3.「東京」の展開過程 ―Ⅴ期からⅥ期区分への組み替え―

4.「東京」における地域間人口移動と通勤・通学流動 5.1980 年代以降の「東京大改造」の展開と人口動向 6.結びにかえて

第 5 章 鉄道交通と巨大都市化の歴史的展開 ―交通インパクトの社会学的研究―・・ 77 はしがき

1.鉄道交通と巨大都市化の展開過程

2.交通インパクト・スタディーズの特色と社会学的アプローチの必要性

3.通勤新線開通の社会学的効果測定の方法と理論的枠組 ―修正 MHASR モデル―

4.結びにかえて

第 6 章 都市・地域社会調査の方法論 ―量と質とビジュアルの混合研究法―・・・・・・ 89 はしがき

1.都市社会調査論の遠景 ―「睡蓮」と「アルノルフィニ夫妻」のアレゴリー―

2.1970 年代以降の量対質をめぐる論争 ―対立から対話へ―

3.1990 年代における日本都市社会学会の議論 ―冷戦体制の収束宣言―

4.都市・地域社会調査のおけるマルチメソッドの水脈

―共同調査+総合調査の系譜―

5.量と質とビジュアルの架橋? ―事例としての交通インパクト研究―

6.混合研究法の要諦 ―自覚的で厳格な調査設計―

7.併用・折衷を脱するために ―データセットの整序とコンピュータ・アシスト―

8.混合研究法へ誘う「窓」 ―プロジェクトの完結へ向けての覚書―

9.結びにかえて

第Ⅱ部 実証編 ―調査データの分析と考察―

第 7 章 交通インパクトの社会学的効果に関する第 1 次~第 10 次調査

―長期継続調査の方法とデザイン並びにその妥当性をめぐって―・・・・・・・・ 101 はしがき

1.長期継続調査の基本設計 ―第 1 次~第 10 次調査―

2.戸田(第 1・2・4・6・9 次)調査の概要 3.八潮(第 1・3・7・10 次)調査の概要

4.ケース・インタビュー(第 5 次)調査の概要と 1997 年時点の中間総括 5.写真(第 8 次)調査

6.まとめと考察 ―調査の方法とデザインの妥当性をめぐって―

(4)

第 8 章 埼京線と埼玉県戸田市 ―社会構造の「転換」をもたらした 30 年―・・・・・・ 117 はしがき

1.戸田市の歩みと地域特性

2.Accessibility:中心都市への接近可能性 3.Mobility:地域間・職業間の移動性と流動性 4.Regionality:日常生活圏の広域性

5.Solidarity:地域コミュニティの連帯性 6.Habitability:地域の居住性

7.まとめと考察

第 9 章 つくばエクスプレスと埼玉県八潮市 ―「転換」前の限定的変動―・・・・・・・ 129 はしがき

1.八潮市の歩みと地域特性

2.Accessibility:中心都市への接近可能性 3.Mobility:地域間・職業間の移動性と流動性 4.Regionality:日常生活圏の広域性

5.Solidarity:地域コミュニティの連帯性 6.Habitability:地域の居住性

7.まとめと考察

第 10 章 写真と住宅地図によるミクロ分析 ―地域の物理的転換と社会的転換―・・ 143 はしがき

1.写真データによる景観の経年変化の跡付け 2.都市社会調査における写真調査の新展開

(1)2014 年の写真調査(第 8 次調査)の概要

(2)スーシャールのシカゴとアムスでの写真調査

(3)理論的サンプリングと写真によるドキュメント化

(4)第 8 次調査で採用した方法 3.ケース分析(1):戸田市の 3 事例

(1)分析の方法と事例の概要

(2)ケースⅠ:水田+住宅から住居専用地への転換事例

(3)ケースⅡ:工場+水田から住商工等混在地への転換事例

(4)ケースⅢ:工業系を主とする非居住地から住商混在地への転換事例 4.ケース分析(2):八潮市の 1 事例

(1)ケースⅣ:水田地帯から住医工農等混在地への転換事例 5.まとめと考察

(5)

第Ⅲ部 総括

第 11 章 「交通」と「東京」を「社会学する」ために・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 163 はしがき

1.戸田市と八潮市における交通インパクト研究をめぐって

―第Ⅱ部の結論と考察―

2.交通ネットワークと「東京」の巨大都市化に関する研究をめぐって

―第Ⅰ部と第Ⅱ部の関連性と考察―

3.「東京」の社会学的研究のために ―近年の「東京」現象・再考―

4.「交通」の社会学的研究のために ―独立変数としての「交通」・再考―

5.結語 ―残された課題と本論文の意義―

Appendix

1.調査票とコード表及び調査対象者への依頼状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 179 1.1.戸田(2015 年第 9 次)調査の調査票とコード表

1.2.ケース・インタビュー(第 5 次)調査の調査票

1.3.八潮(2016 年第 10 次)調査の調査票とコード表及び依頼状

2.もう一つの交通インパクト・スタディー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 215

付章 山間集落における局地的小宇宙性と村落結合

―山梨県旧棡原村大垣外と青森県西目屋村大秋の 50 年―

はしがき

序 研究のねらいと視点 1.調査地の概況

2.基点としての 1937・8 年 ―喜多野と関が捉えた 50 年前の大垣外と大秋―

3.家族・地域生活の変容とその要因 4.家々の土着・定着性と村落結合の連続性 5.まとめにかえて

文献一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 237 おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 247

(6)

1.はじめに

今日の日本は、移動の手段として私的交通手段、とりわけ自家用車に依存する度合いが非常に 高い「車社会」である。ところが、大都市圏(Metropolitan Region)では明らかに様相が異な っており、東京・大阪・横浜・名古屋・神戸・京都・福岡の 7 大都市圏では、通勤・通学の交通 手段として鉄道を利用する者が 1 位である。東京大都市圏が群を抜いており、東京都特別区部

(23 区)を通勤・通学地とする就業・通学者の総数 649 万 1 千人のうち、通勤・通学に鉄道を 利用する者は 485 万 2 千人を数え、鉄道利用者の割合は実に 74.8%(乗合バスを合わせた公共交 通利用率で見ると 86.7%)にもなる。自家用車は、わずか 17.3%にすぎない(2010 年『国勢調査 報告』)。東京大都市圏は、鉄道交通に過度に依存しており、人びとの日常生活も鉄道交通なくし ては成り立たない、と言っても過言ではない。

ところが、鉄道や駅の開業がどのようなインパクトを社会に与えるかについて、鉄道の歴史や 鉄道と社会との関連を扱った書物の多くは概括的な記述に留まり、エビデンスとなるデータに 基づいての実証的な解明はほとんどなされてこなかった。鉄道が走っていなかった地域に鉄道

(通勤新線)が敷設され駅が開設されると、具体的にどのような変化が、どのようなメカニズム で、またどのようなプロセスを経て引き起こされるのだろう。

本論文は、この問いに真正面からかつ実証的に答えようとするものである。鉄道がそれまで走 っておらず、従って市域に駅が 1 つもなかった東京大都市圏内の地域に、新線が開通し新駅が開 業することによって、地域の社会構造がどう変動していくのかを実証することを目指して、30 年 以上の長きにわたって取り組んできた筆者のライフワークの成果の集大成でもある。

主たる調査対象地は、1985 年に国鉄(現 JR 東日本)埼京線が開通し 3 駅が開業した埼玉県戸 田市と、2005 年に首都圏新都市鉄道つくばエクスプレス(常磐新線;TX)が開通し 1 駅が開業 した同県八潮市である。両市とも東京都に隣接しながら、市域に鉄道が走らず駅もなかったため、

東京の都心部へのアクセシビリティが周囲と比べて相対的に低い「陸の孤島」と言われていた地 域であった。それが、両市に「東京」の中心部に直結する通勤新線が開通し、交通インパクトが 発現することによって、「陸の孤島性」が減ずると共に「東京」に組み込まれていく。このプロ セスとメカニズムを実証的に解き明かすことに、本研究の主眼が置かれる。

本研究は、こうした調査対象地の個々の地域社会のみならず、両地域を包含する巨大都市「東 京」の構造変動の究明をも射程に収めている。「東京」の<成長>と<拡大>の過程を「巨大都 市化(Metropolitanization)」と位置づけ、東京都特別区部(23 区域)をはるかに越えた「東 京」の1都数県にわたる超広域化が押し進められるプロセスとメカニズムを解き明かすことも 目指される。この際に鍵を握るのが鉄道交通ネットワークであり、戸田市や八潮市での交通イン パクト研究を「東京」研究に接合していくことを可能とするのも、「鉄道交通ネットワーク」に 焦点を合わせるが故にである。

そして、交通インパクト研究においては、長期間に及ぶ事後追跡調査と地域比較調査を、量的 社会調査を主にしつつ質的社会調査とビジュアル調査で補いながら実施し、かつ量的データ分 析と質的データ分析とビジュアル・データ分析との「混合研究法(Mixed Research Method)」を 試みるという方法論が採用される。他方、「東京」研究においては、国勢調査等の既存統計デー タの分析とその結果を地図に落とし込んでビジュアルに提示するという方法論が採用される。

(7)

2.各部・各章の概要

本論文は、Ⅲ部・11 章と Appendix で構成される。

第Ⅰ部「理論・方法論編 ―研究の課題と方法―」は 6 章からなり、研究課題に関する理論的 検討を加え、採用する研究方法の明確化を図るパートである。いずれも、既発表論文を基に加筆 修正を施したものとなっている。

第 1 章「地域社会学の根本問題 ―対象と分析視角をめぐって―」は、1986 年に開始した交通 インパクト研究に先だって、「地域社会学」の研究対象と分析視角をめぐって考察した 1985 年の 論考を、最小限の加筆修正を施して充てる。地域社会学の根本問題を扱った理論的・方法論的考 察であるだけでなく、その後の交通インパクト研究に繋がる出発点でもある。

第 2 章「『東京』の地域社会学的研究 ―範域確定の試み―」(1988 年と 1989 年の論考が基に なっている)は、第 1 章で地域社会学の根幹に関わる重要な論点の 1 つと位置づけた地域社会の 範域設定の課題に、Nodal Region/Regional Society としての「東京」に当てはめて 1980 年国 勢調査のデータ分析によって取り組んだものである。この際に範域画定のキー・ポジションを占 めるのが鉄道交通による通勤・通学流動であり、これによって交通インパクト研究に道を大きく 開くことになる。

第 3 章「『東京』の空間変動分析 ―データ集成と 1960~1990 年の経年変化―」(1985 年まで の経年変化を扱った 1990 年の論考を基にしつつ、1990 年の分析を新たに加えた)では、1980 年 国勢調査データを用いて開発した“「東京」への組み込まれ度を表すスケール”を 1960・70・85・

90 年の国勢調査データ分析にも適用して、「東京」の空間構造の 1960 年~1990 年の変動過程を 明らかにする。

第 4 章「『東京』における人口移動と流動 ―集中と分散のダイナミズム―」(1991 年の論考を 基にしつつ、2009 年の論考の一部も使って、加筆修正を施した)では、明治初めから今日に至 るまでの東京府・都の人口推移を基にして 6 期に時期区分し、「東京」の歩みが決して一様では なく「転換」がいくつも果たされながら、「巨大都市化」のあり方には変化が認められないこと を明らかにする。また、このことが、「東京一極集中」を量と質の両面で加速させていることに も言及する。

第 5 章「鉄道交通と巨大都市化の歴史的展開 ―交通インパクトの社会学的研究―」(1988 年の論考を基にしつつ、1987 年・1995 年・1997 年の論考の一部も使って、加筆修正を施した)

では、第 2・3・4 章を踏まえて、「巨大都市化」が鉄道交通の歩みと関連性が高いことを明らか にする。鉄道交通ネットワークの形成と都市圏の形成とが相互連関しながらパラレルに進展し たのであり、この歴史的展開のプロセスを地図化してビジュアルに描き出す。さらに、それまで の検討を受けて、東京大都市圏における通勤新線沿線地域を事例とした「交通インパクトの社会 学的研究」の方法と理論的枠組(効果測定の仮説/指標/分析モデルとしての「修正 MHASR モデ ル」)を提示する。

第 6 章「都市・地域社会調査の方法論 ―量と質とビジュアルの混合研究法―」(2013 年の論 考を基にしつつ、1996 年の論考の一部も使って、加筆修正を施した)では、都市・地域社会調査 におけるマルチメソッド・アプローチの水脈を掘り起こしつつ、ビジュアル調査をも入れ込む必 要性を主張すると共に、量と質とビジュアルの混合研究法をめぐる方法論的な検討を加える。

第Ⅱ部「実証編 ―調査データの分析と考察―」は 4 章からなり、交通インパクトの社会学的

(8)

効果に関する第 1 次~第 10 次調査によるデータの実証的分析を通して、考察と全体の総括を加 えるパートである。第 7 章は各年の「社会調査実習」報告書と 1997 年の論考、第 8~10 章は 2020 年度中に出版予定の後藤編著の執筆担当章が基に(10 章は 2015 年の論考がその基に)なってい る。

第 7 章「交通インパクトの社会学的効果に関する第 1 次~第 10 次調査 ―長期継続調査の方 法とデザイン並びにその妥当性をめぐって―」では、継続調査の基本設計を整理し、調査の方法 とデザインの妥当性について検討する。

第 8 章「埼京線と埼玉県戸田市 ―社会構造の『転換』をもたらした 30 年―」では、戸田市の 歩みと地域特性を押さえた上で、より精緻なデータ分析を施し、埼京線開業後の戸田市の社会変 動について検証する。開業後に転入してきた「新来住層」が開業後 20 年を経て「土着層+旧住 民」をボリュームの上で凌駕するという新旧住民の住民構成上の「転換」が、戸田市の地域社会 構造の「転換」に形を与えた、と結論づけられる。

第 9 章「つくばエクスプレスと埼玉県八潮市 ―『転換』前の限定的変動―」では、戸田市の 歩みと地域特性を押さえた上で、より精緻なデータ分析を施し、八潮市の社会変動について検証 する。TX 開業後の八潮市は、戸田市の歩んできた道のりを後追いするように歩んでいるが、新 旧住民の住民構成上の「転換」はなされておらず、社会変動の度合いやスピードも穏やかなもの に留まっていることが明らかにされる。

第 10 章「写真と住宅地図によるミクロ分析 ―地域の物理的転換と社会的転換―」では、第 8 次のビジュアル(写真)調査によるデータ分析を基にして、住宅地図や都市計画図等も活用しな がら、戸田市と八潮市のマクロな変動にミクロな変動を重ね合わせて考察する。物理的な土地利 用上の「転換」と社会構造上の「転換」とが連動するプロセスとパターンとメカニズムを解明す る。

第Ⅲ部「総括」は、第Ⅰ部と第Ⅱ部を振り返って要約すると共に全体を総括するパートである。

第 11 章「『交通』と『東京』を『社会学する』ために」では、本調査研究の成果から得られた 知見と社会学的含意をとりまとめて、鉄道交通ネットワークと「東京」の構造変動に関する理論 的な考察と総括を試み、合わせて今後の研究課題をも明示する。

Appendix には、第 7 章関連の資料として、1.戸田・八潮調査の調査票とコード表及び調査依 頼状、2.「もう一つの交通インパクト・スタディー」として、山間部の村落の社会変動に交通イ ンパクトがいかなる影響を与えたのかを論じた「山間集落における局地的小宇宙性と村落結合

―山梨県旧棡原村大垣外と青森県西目屋村大秋の 50 年―」(後藤 1993)を収録する。

(9)

3.交通インパクト研究の総括

第Ⅱ部の第 7~10 章では、本研究の主たる調査対象地である埼玉県戸田市と同県八潮市の 30 年間の変動の実相を調査データの分析によって実証し、考察を加えた。

戸田市の場合は、東京都心部に直行する通勤新線である埼京線が 1985 年に開業したことによ って、①Accessibility(中心都市への接近可能性)を一気に高めて<脱“陸の孤島”化>が果 たされ、②Mobility(地域間と職業間の移動性と流動性)も高めていった。東京 23 区内で就業 する事務・販売・営業職や管理・専門・技術職で多くが占められる新来住層を増加させることに よって、<東京圏の新しいベッドタウン化>が進展していったのである。そして、これらに連動 して、③Regionality(日常生活の広域性)、④Solidarity(地域コミュニティの連帯性)、⑤ Habitability(地域の居住性)のあり方にも影響を及ぼした。

同時に、「土着層」「埼京線開業前に転入していた旧来住層」「埼京線開業後に転入してきた新 来住層」という 3 つの住民類型別の分析が、埼京線開業による交通(が地域社会の構造変動に影 響を与える)インパクトを明らかにする上で有効であることが確認された。この分析によって、

土着層と旧来住層の<内側からの変化>が軽微で限定的であったこと、土着層及び旧来住層と 様々な面で異質な新来住層が、埼京線開業後に戸田市に吸い寄せられ続け、開業後 20 年を経て 住民構成の上で「多数派」になったことによって、戸田市がそれまで保持していた「色あい」が 塗り替えられていったことが分かった。

戸田市は、埼京線開業前の「陸の孤島」性を大幅に減じさせ、「東京圏の新しいベッドタウン」

へと一大「転換」を遂げたのであり、この「転換」は新旧住民の住民構成上の「転換」とパラレ ルに引き起こされたものであった。「戸田市における変動のトリガー」と位置づけられた「新来 住層」が堆積し圧倒的なボリュームに膨れ上がっていくという<外側から持ち込まれた要因>

によって、交通インパクトが発現するようになっていった。戸田市に変動をもたらしたインパク トは言わば新来住層によって「運ばれてきた」のであった。

八潮市の場合は、東京都心部に直行する通勤新線である TX が、埼京線開業から 20 年後の 2005 年に開業したが、戸田市が歩んできた道のりを後追いするように(ほぼ同一の線上を)歩んでい ると捉えることができた。<脱“陸の孤島”化>と<東京圏の新しいベッドタウン化>の進展 が確認されたが、新旧住民の住民構成上のドラスティックな「転換」はまだなされておらず、社 会変動の度合いやスピードも穏やかなものにとどまっていることが確認された。

加えて、第 8 次のビジュアル(写真)調査によるデータ分析を基にして、住宅地図や都市計画 図等も活用しながら、戸田市と八潮市のマクロな変動にミクロな変動を重ね合わせて分析し考 察した。その結果、戸田市でも八潮市でも、物理的な土地利用上の「転換」と社会構造上の「転 換」とが連動するプロセスとパターンを明らかにすることができた。

第Ⅱ部で示した以上のような諸点は、「東京」の周辺部に組み込まれていなかった「陸の孤島」

性の高い地域が、東京都心部に直行する通勤新線と新駅の開業を契機として、「東京」の周辺部 に組み込まれていくメカニズムの解明を可能とする。そしてさらに、新線・新駅開業に伴う交通 インパクトが、Independent Community から Dependent Community への「転換」の契機となるこ とをも導き出してくれた。

ところで、筆者は第 5 章において、交通インパクト研究に社会学の視点と方法を導入する必要 性と共に、従来の研究に内在していた交通による効果と他の要因による効果とを峻別すること

(10)

が困難であるという方法論的な問題点を乗り越える必要性についても言及した。そして、この

「方法論上の隘路」(長谷川公一)から脱するためには、1)効果を的確に測定できる方法論を確 立すること、2)効果測定に相応しい調査対象地を厳格・厳密に選定することの 2 つを、不可欠 な要件と位置づけた。

第 1 の点に関しては、研究の理論/分析枠組として、「修正 MHASR モデル」を通勤新線開通の 社会学的効果測定の仮説/指標/分析モデルに位置づけた。そして、同一のフィールドで循環的 かつ長期間にわたって重ねていく循環的・継時的調査(=前後比較法)と、他の地域との比較を 重ねていく比較調査(=地域比較法)を採用した。このことによって、第 1 の課題を果たした。

第 2 の点に関しては、東京・神奈川・埼玉・千葉の 1 都 3 県 241 市町村の 1980 年国勢調査デ ータを使って開発した“「東京」への組み込まれ度を表すスケール”を用いて、1980 年段階の 実質都市「東京」の範域確定を試みた。その結果、東京都特別区部に隣・近接するエリアで、埼 玉県戸田市・八潮市・鳩ヶ谷市・三郷市の 4 市のみが「東京」に組み込まれてはおらず、いずれ も東京の中心部に直通する鉄道路線が通っていない点が共通していることが確認された(1)。そ の上で、1)市域に鉄道が走らず従って駅が 1 つもない(環状線である武蔵野線が通っている三 郷市以外の)戸田市・八潮市・鳩ヶ谷市の 3 市のうち、川口市のヒンターランド的性格が強い鳩 ヶ谷市を除き、地域特性や歩んできた道のりが似通っている戸田市と八潮市がより相応しいこ と、2)戸田市には 1985 年の埼京線開通によって「陸の孤島」性が大幅に減じたこと、3)八潮 市には 1985 年時点で 2000 年開業予定とされた常磐新線(TX)が通ることが方向づけられていた ことから、新線開業後の事後追跡調査(継続調査)の主対象地として戸田市を、その比較対象地 として八潮市を位置づけた。このことによって、第 2 の課題を果たした。

こうした厳格・厳密な対象地の選定と方法論、並びに第 7 章で妥当性を確認した調査設計に基 礎づけられ、長期間に及ぶ調査を積み重ねてきたからこそ、通勤新線開通の社会学的効果を測定 し、影響波及の連鎖を解き明かすことができた。また、2020 年段階で埼京線開業後 35 年が経過 する戸田市に比べると、TX 開業後 15 年が経過する八潮市は変動の度合いが緩やかであるもの の、戸田市が歩んできた道のりを後追いしていることも明らかにし得た。そして、本研究をスタ ートさせた際に立てた仮説、すなわち「中心都市との結びつきの度合いは、それへの地理的・空 間的距離よりも時間距離と関数関係にあり、『交通』条件の変容による中心都市へのアクセシビ リティの変化は、地域社会構造の変動に連動する。ことに大都市圏においては、フィジカルな鉄 道交通ネットワークの変容が、中心都市との結びつきのあり方を変えさせ、そのことによって、

人口の配置や土地利用のあり方といったサブ・ソーシャルな都市の空間構造ばかりか、社会関係 や集団のあり方、階層構成、地域住民の生活構造といったソーシャルな都市の社会構造までをも 変動させていく」に関しても、検証することができたと言って良いだろう。

以上を踏まえて次になすべきことは、このことを「東京」の巨大都市化のプロセスに埋め込ん で、交通ネットワークと「東京」の巨大都市化がいかなる関連性を有するのかを明示すること、

である。

(11)

4.「東京」の巨大都市化に関する研究の総括

第Ⅰ部の各章を振り返って、要点を再確認しておこう。

第 1 章では、「地域社会学」の研究対象と分析視角に関して、先行研究の批判的な検討を通し て考察した。地域社会学の根本問題を扱った理論的・方法論的考察であるだけでなく、その後の 交通インパクト研究に繋がる出発点ともなった。何よりも、本章において、諸現象・諸機能問の 相互連関の複合の広域化(=外延的拡大)と、内なる地域の単位化・部分化(=内包的分化)と いう二重の過程が同時進行することによって、「東京」の「巨大都市化」が進展するという本論 文を貫く基本図式が提示された。

第 2 章では、地域社会学の根幹に関わる重要な論点でありながら、十分な検討がなされてこな かった地域社会の範域設定の課題に真正面から取り組んだ。Regional Society としての「東京」

の範域を、1980 年国勢調査のデータ分析によって画定してみたのである。本章が描いたのは、

機関の集積地たる業務空間(職場)と、機関をうめ昼間機能化する人口の集積地たる居住空間(住 居)とを、交通ネットワークが連結して、全体として社会・経済的な機能的一体性の高い都市空 間(すなわち「東京」)が構成されるという「静態図」であった。この際に、一定の理論的な検 討に基づいて、鉄道交通による通勤・通学流動に関わるデータを最重要な指標として位置づけた ことが、交通インパクト研究に道を開くことにもなった。

第 3 章では、第 2 章で示した方法によって開発した“「東京」への組み込まれ度を表すスケー ル”を 1960・70・85・90 年の国勢調査データ分析にも適用して、「東京」の空間的構成の 1960 年~1990 年の変動過程を明らかにした。これによって、「東京」が全国的並びに全世界的に張り 巡らせた交通・通信ネットワークを基盤として、ヒトとモノとカネ(資本)と情報の「一極集中」

を強力に押し進めながら、<成長>し<拡大>し続けるという「動態図」(=「東京」の巨大都 市化)を描いた。

第 4 章では、明治初めから今日に至るまでの東京府・都の人口推移を基に、隣接 3 県の人口の 推移も参考にして 6 期に時期区分し、「東京」の歩みがマクロな社会変動の趨勢を反映して決し て一様ではなかったものの、「巨大都市化」の基本的なあり方には変化が認められないことを立 証した。また、このことが、「東京一極集中」を量と質の両面で加速させていることにも言及し た。本章によって、1990 年代中頃を転機として、居住人口のみならず移動・流動人口の動向に も軽視できない変化が起こり、それまでの「(遠郊=外へ向けての)郊外化(suburbanization)」

の動きを引き継ぎつつも、「(都心及びその近辺=内側での)近郊化(suburbanization)」が進展 する局面に立ち至ったこと(第 1 章で述べた「内包的分化と外延的拡大」の同時進行)が明らか となった。都心部における Suburbanization の進展もまた、「内包的分化(内なる地域の単位化・

部分化)」の一現象形態なのであった。

第 5 章では、明治期以降の鉄道交通ネットワークの歴史的展開が、「巨大都市化」の進展及び

「東京」の形成と密接不可分な関係性を有していることを跡付けた。そして、「交通の諸効果」

の究明を目指す交通工学や交通経済学、交通地理学などによる従来の「交通インパクト・スタデ ィーズ」を概説し、これに社会学の研究視点と方法を導入する必要性を指摘した。その上で、か つて中心部に直通する鉄道路線が走っていなかったことで「陸の孤島」性が相対的に高かった 1) 埼玉県戸田市に埼京線が 1985 年、2)同県八潮市に TX が 2005 年に開業し新駅が開設されたこと によって、それぞれの地域でどのような交通インパクトが発現し、社会構造の変動がもたらされ

(12)

たのかを究明することを研究課題に設定して、「交通インパクトの社会学的効果」を「実証」す るためのフレームワークについて検討を加えた。

第 6 章では、戦後の社会調査史を彩る代表的な都市・地域社会調査を振り返ってみると、共同 調査と総合調査の系譜が流れており、それには「視点と方法の重層化と分析の総合化」が要求さ れることから、モノメソッドではなく量と質にまたがるマルチメソッド・アプローチが元々一般 的であった。筆者は、これにビジュアル調査をも入れ込んで、量と質とビジュアルの「単なる併 用」や「安易な折衷」――シンプルでナイーブなマルチメソッド・アプローチ――を脱して、「混 合研究法」に高めていく必要があると主張した。

各章のポイントを再確認した上で、第 5 章で示した図 5-1 に改めて注目してみたい。明治時代 の初期、東京府は、江戸時代に幕府が江戸の範囲を定めた「朱引」を引き継ぎつつ、「複雑に入 組んだ行政区画の統一化を計った」(中元幸二 2002: 14)。朱引内を市街地、朱引外を郷村地と 定めて、朱引線を何度か引き直したのだが、1878(明治 11)年の「郡区町村編成法」によって、

東京府が市街地の 15 区(=旧東京市)と郷村地の 6 郡とに編成したことに繋がっていった。図 5-1 の①1880(明治 13)年の図で、都市地域(市街地)が旧東京市の範囲とほぼ重なっているの は、このことを表している。と同時に、1880 年段階では、旧東京市の外側は街道筋の町場など を除きほぼ農村地域(郷村地)で占められていたことを意味する。これが、特に②の 1900 年以 降、鉄道交通ネットワークの拡充に伴って都市地域が拡大していくことになる。山手線の主要タ ーミナル駅から放射状に伸びる鉄道路線に沿ってたこ足状に伸び(③1920 年)、それが面的に広 がり(④1940 年)、隣接県の主要駅周辺に飛地的に広がり(⑤1960 年)、路線沿線を線状に覆い 尽くし、それらが連担して都域を超えてさらに面的に拡大していった(⑥1980 年)。

以上を踏まえると、東京の中心部から連担する都市地域に含み込まれていった数多の市町村

(その多くが農村的な地域だった)が、鉄道交通ネットワークの拡充に伴う中心部へのアクセシ ビリティの高まりに応じて、第Ⅱ部で詳細に解き明かした戸田市や八潮市のようなプロセスを 辿ったであろうことが、一定程度以上の蓋然性を持って推量可能となる。このことは、「東京」

の巨大都市化のメカニズムを解明する上で重要な示唆を与えるだろう。何故なら、戸田市や八潮 市が<東京圏の新たなベッドタウン>に転換して新たに「東京」に組み込まれていったこと自体 が、「東京」の巨大都市化の一側面を構成するからである。戸田市が 1985 年以降に経験したこと は、旧東京市以外のかつての「郷村地」の多くが経験したことに重ね合わせて、理解し意味づけ ることを可能とするのである。

(13)

5.残された課題と本論文の意義

最後に、残された課題として、次の 3 点を指摘しておきたい。

第一に、長期間の継続調査による前後比較法を採りつつ地域間の比較(地域比較法)を行う主 対象とした埼京線沿線の戸田市と TX 沿線の八潮市であるが、前者については新線開業後 30 年 間以上に及ぶ観察ができているのに対して、後者については開業後 15 年間しか観察できていな い。最低でも 20 年間以上の事後追跡調査を行い、八潮市も戸田市と同様の物理的・社会的「転 換」を経験することになるのかどうかをしっかりと見定めることが、何よりも求められることに なる。この課題が達成されれば、東京大都市圏内における通勤新線の交通インパクトに基づく地 域社会構造変動のプロセスとパターンやメカニズムの究明がより確実なものとなり、理論化を 果たすことにも確実に繋がっていくはずである。

第二に、我が国の特に 1980 年代以降の都市社会学的な東京研究/東京論の文脈にのせた時に、

本研究がどのように位置づけられ、また関連づけられるのかについて、十分な検討ができていな い。各所で若干フォローしてはいるものの、本論文が既発表論文を主軸に据えて「構成」してい ることもあって、結果的に手薄になってしまった。この点についても、今後果たすべき課題であ ると明記しておきたい。

第三に、量と質とビジュアルの混合研究法をめぐって、である。第 6 章の最後で、「量と質と ビジュアルの『単なる併用』や『安易な折衷』―シンプルでナイーブなマルチメソッド・アプロ ーチ―を脱して、MMR への展開を図る」と宣言した。当否については、「本論文を通して検証さ れることになる」とも述べたが、どこまで/どのように実現できているのかが明瞭になっている とは言いがたい。本プロジェクトでは、1996 年の戸田(第 5 次)調査で詳細なケース・インタ ビュー調査(質的調査)を実施し、分析の一端については第 7 章で記述した。各回の調査票調査

(量的調査)で、調査対象者の「生の声」を自由記述式で取り続けているもいるが、これを用い た質的データ分析については行うことができなかった。他方で、2014 年度の第 8 次調査で本格 的なビジュアル(写真)調査を実施し、第 10 章でそのデータ分析を詳細に行って、物理的な土 地利用上の「転換」のプロセスとパターンが社会構造の「転換」のプロセスとパターンと重なり 合うことを立証した。

第 6 章で、「データセットの整序と各フェーズでのコンピュータ・アシストが鍵を握る」と述 べると共に、「同一の研究課題に関する量的・質的データ及びビジュアル・データを別々に収集 し、いくつものデータセットを分析した結果を『解釈の際に(異なる結果を比較させ対照させる ことにより)統合』(Creswell & Clark 2007=2010:71)することを目指す」と言明した(後 藤,2013b)。第 10 章で実際に試みたことは、この「トライアンギュレーションデザイン

(triangulation design)-収斂モデル(convergence model)」に依っており、この点に関して はある程度果たせたと受け止めている。しかしながら、量と質とビジュアルの調査手法上、デー タ上、分析上、分析結果ないし解釈上といったフェーズ毎の、「混合」ないし「架橋」の道筋ま でを明確に検証するところまでは至っていない。

これらの諸課題については、今後調査研究を進展させていく中で解決すべく、しっかりと刻み 付けておこう。こうした課題が残ってしまったが、これによって筆者が取り組んだ研究プロジェ クトの意義が薄れてしまうわけではない。2 点だけ書き留めておきたい。

第一に述べておきたいことは、工学や経済学、地理学等の諸分野で活発に進められてきた交通

(14)

インパクト研究を、社会学の視点・方法・理論をベースに、量と質とビジュアルにまたがる社会 調査と既存統計データ分析といった社会学の研究方法を駆使して、実証的な交通インパクト研 究を実施し、成果を博士論文にまとめあげたことの意義について、である。少しだけ誇張すれば、

本格的な社会学的交通インパクト研究の足跡が確かに刻み込まれた、と言っても良いのではな かろうか。

第二に述べておきたいことは、同一のテーマの下で継続的に繰り返される社会調査が 30 年も の長きにわたって積み重ねられてきたことの意義について、である。第 4 章で述べた通り、筆者 は埼京線が開業した翌年の 1986 年に、戸田市と八潮市を主たる調査対象地とする交通インパク ト研究を開始した。この段階で、交通インパクトの社会学的効果がハッキリと発現してかつそれ を実証するだけでも 30 年程度の長い年月を要するだろうから、一研究者としてライフワークに しなければならないという思い(覚悟)を抱いていた。30 年間の戸田・八潮調査の蓄積と成果 が、他の研究者によって継承されていくとすれば、社会学的交通インパクト研究の地平はより一 層拓かれていくはずである。そのことを期待したい。

(15)

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参照

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