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(1)

私は従来健康で,めったに病院にかかることはなかった。しかし,まだまだ若いと

思っていた私ではあるが,最近,病院にかかる頻度が次第に増えてきているように思

う。そうすると,それとともに,近くの保険調剤薬局との関係も多くなってきている。

以下,わずかではあるが,私の経験を述べたい。

日曜診療を行っている病院から処方せんを受け取った。最近はそのような病院が次

第に増えて,便利である。その病院では,

“近くの調剤薬局はここと,ここですよ”

と親切に案内してくれたが,私はどうしても家の近くの薬局をかかりつけ薬局として

決めたかった。それで,敢えてそこには寄らず,家の近くの調剤薬局を目指した。し

かし,閉まっていた。熱が38度以上も出ており,早く薬物治療を開始したかったので,

近所の別の薬局を探しまわったが,全て閉まっていた。結局,寒い中,20分から30分

も歩き続けて,病院の前の薬局にまで戻ることになってしまった。

できるだけ,少ないかかりつけ薬局をつくりたいとおもっているにもかかわらず,

いろんな理由から,結局,私は現在まで,数箇所の調剤薬局を渡り歩く羽目になって

いる。最近では,処方された医薬品の写真と名前と,分かりやすい効能の説明文の打

ち出しをつけてくれる薬局が多くなっている。これは有り難い。記録にもなるし,く

すりの理解にも役に立つ。私の姉の家族も含め,医薬分業の評判の良さはこのような

行為に一つはよっていると思われる。

しかし,この時点になって,まだ,医薬品を薬袋に入れるだけで,説明文章もなく,

説明もせずに用法・用量のみ説明し渡される薬局も残念ながらある。もう,二度と行き

たくない気持ちになる。これでは,従来の長く待たされ,

“はい”

と渡されていた病院で

の薬局窓口と同じである。わざわざ調剤薬局で薬を受け取るメリットが感じられない。

それでも説明文書を渡してくれる薬局は増えている。しかし,患者である私の現在

の病状がどうであるのか,医師からはどのように言われているのかという,患者のナ

マの情報を聞きだすことなく,一方的に,文書にある効能を述べる薬剤師が殆どのよ

うに思われる。

調剤薬局ではないが,私の大学院臨床薬学専攻の研修生が病院で体験した例である

が,その病院でも入院患者に対する服薬指導として,同様の文書を患者に渡すことを

行っていた。しかし,ある患者が処方されている医薬品に非常に不安を持っているこ

とを研修生がたまたま見いだした。βブロッカー,ループ利尿剤,ACE阻害剤が処方

さいは振られた 大学と社会の共同作業

明治薬科大学薬剤学教室 教授  

がた

ひろ

やす

(2)

― 3 ― 都薬雑誌 Vol. 23 No. 3(2001)

されており,出来合いのソフトの打ち出しでは,すべて,降圧剤であることが繰り返

し,これでもかと打ち出されていた。しかも,患者は高血圧ではなく,心不全が主要

な疾患であった。患者はそのため不安を強く感じ,服用をやめたほうが良いのではな

いかと研修生に相談したのである。従来からよく行われている,

“処方解析”の危う

さを示した好例であると感じている。情報を患者に提供するためには,出来るだけ,

患者の実際に則した正しい情報提供に心がけるべきであり,心のこもらない形だけの

情報提供は危険である場合があることを肝に銘じてもらいたいと思っている。それだ

けに,私に殆ど何も聞かずに,医薬品と形だけの説明文章だけを渡してよいのだろう

かと,不安を覚えている。その点では,薬剤師は薬物治療をしっかり勉強していただ

きたいと思う。

最後に,医薬分業を支えるべき薬学教育を考えてみたい。薬学教育の6年制という

制度議論もあるが,内容として,薬学教育に医薬品の患者への適正な投与に関する科

学に関する教科がなかったことは事実である。しかも,我が国では,薬学も含め,医

療を担うどの学問をみても薬物治療にかんする教科がなかったことが,国民的不幸で

あることには間違いない。誰も薬物治療の本質的なところを担ってくれていないとい

う患者の不安や不満は大きいものがある。薬学教育の改革は当然,そのギャップを埋

め,薬物治療を担うべき職能集団として薬剤師を国民の前に登場させることを目指す

ことであろう。

しかし,残念ながら,当事者がまだまだその気になっていないのが現状の様に思え

て仕方がない。各薬科大学,薬学部で医療薬学,臨床薬学の教育のための大学院がつ

くられてきたが,その殆どは,3∼6ケ月程度の病院研修をカリキュラムに入れてい

るが,残り1年6ケ月は大学での基礎研究にあてている。本当に,これで,薬物治療

のすべてに本当に責任を担う薬剤師を育てられると考えたカリキュラムであろうか。

明治薬科大学大学院臨床薬学専攻では薬物治療に判断力を有し,適正な薬物治療に介

入できる薬剤師の養成を目指した教育を大学院の2年間をほぼフルに使って行なって

いるが,それでも,不十分さを感じている。

病院や薬局で薬剤師が,私こそが薬物治療に責任を担うのだという気概と責任感を

持って,自己改革を行なっているだろうか。一つの指示薬的な現象を示したいが,未

だに,多くの病院,薬局は臨床薬学の教育を受けた大学院学生の採用を行なっていな

い。かえって,学部卒を優先的に採用しているケースが多い。自らが体質を改善しな

ければ,また,6年制の教育を受けていなければ,国民の要請に応えることができな

いとするならば,なぜ,現在,その内容を学部学生に比べれば比較にならないほどの

内容を修得した大学院修了学生から採用されないのか。実に不可解な行動である。

確かに,従来に比べれば,改革は進んできているが,それは,仲間内での評価では

ないのか。未だに,本気になって,やれることはすべてやり遂げて,国民の評価にゆ

だねながら,薬剤師の生き残りをかけるとの意気込みと実績は残念ながらまだまだ国

民の所までは届いていないように感じざるを得ない。自分からはしたくないので,国

がエイヤーと薬剤師の教育を変えてくれれば,そのおこぼれを拾えるのではないかと

いった他力本願的改革論では,内容が伴わない薄ぺらい議論となり,簡単に足下を見

られてしまうことになろう。そこでは,大学人も現場の薬剤師もなく,共に真摯な姿

勢で国民の期待に応えるべく邁進することであろう。そうすれば,協同作業も容易に

なろう。

(3)

はじめに この数年来日本でも「医療過誤」の多発問題が 社会的に表面化してきて,一般国民の大きな関心 事となりつつある。これは日本でも今まで非公開 とされてきた自己の医療情報が部分的にではある が,徐々に医療関係者以外にもアクセスできるよ うになってきたことによると思われる。その上近 年インターネットの目覚しい普及により,誰でも が一般的な医療情報は勿論専門的な学術知識をも 国内のみならず海外の情報源からも手軽に入手で き,患者側も知的な武装体制を取れるようになっ たことが大きな原動力になっていると考えられる。 このような環境下で日本の患者も米国のように 自己の疾病と医療について可能な限りの学習をす る意欲と機会が増えてきて,より啓蒙された患者 及びその家族が少しずつ表面化してきたのだと思 われる。即ち従来型の「医療提供者に全てお任せ」 主義から「全ての可能な医療の選択肢を提供させ て,自己判断をする為の助言を求める」型の患者 へと進化しつつある兆候であろう。 米国では「医療過誤」による医療訴訟の多発が 医療提供者側に大きな経済的損失を招くことはよ く知られている。私の近辺の事例としては昨年, 以前所属していたエール大学の病院で起きた医療 過誤の結果,大学側に植物人間にされた少年の家 族に対し約75億円相当の賠償金の支払いを命じる 判決が下りた。しかし真に重篤な問題は経済的な 面ではなく,国民の中に増大しつつある深刻な 「医療不信」の風潮なのである。 米国の医療提供者側はこの「医療不信」の問題 を非常に深刻に受止めて,十数年前から様々な調 査研究を行ってきている。特に昨年末に発表され

たthe US National Academy of Sciencesのthe Institute of Medicine(IOM)による数年にわたる 包括的な医療の体質に関する調査研究報告は政治 的にも重要課題となり大きな話題になったことを 記憶されている方々も多いと思う。 本稿では米国で国民的関心事となっている医療 過誤と医療の体質と品質の現状分析とそれに対処 する改善・改革案を中心に概説し,そしてそれら から必然的に影響を受ける21世紀の薬剤師像をも 推測してみたい。 20世紀後半,特に80年代90年代に米国は日本で 現在行われている医療形態と類似の旧来型のシス テムから,所謂新しいマネージドケア・システム へと劇的な大変革を遂げてきた。現在凡そ90%の 米国人は何らかの形態のマネージドケア・システ ムに属していると言われている。 マネージドケア組織の主な代表例としてHMO ( Health Maintenance Organization) と PPO (Preferred Provider Organization)とがある。前 者は保険と医療の双方の提供者としての機能を同 時に持つ。HMOに属するメンバーは事前に規定 の保険料を支払い,その組織内の医療チームを利 用して必要な医療提供を受ける。このHMOにも 種々の形態があり,例えば特別保険料を支払うこ とにより,そのHMO組織外の医療チームの医療 を出来高払いで受けられるPOS(Point of Service) 形式などを付加する場合が多々ある。更にその他 の形式やサービスとの混合形態があり,非常に複 雑である。 後者のPPOは医療提供者側の組織であり医療保

1.米国の医療体制の現状分析

話題

米国の医療改革と

21世紀への対策

コネティカット大学教授

近藤

こんどう

雅敏

まさとし

(4)

― 5 ― 都薬雑誌 Vol. 23 No. 3(2001) 険加入者を有する団体機関と契約して,そのメン バーにPPOに属する医療チームによる医療を割引 された出来高払い{Fee-for-Service(FFS)}形式 で提供する。PPOのメンバーは割高の支払いをす れば組織外の医療チームを利用することも出来 る。最近はHMOへの加入者は減少気味の傾向で あるが,逆にPPOへの加入者は増加しつつある。 これは患者個人の病院や医療チーム選択の自由度 を非常に限定するHMOに米国民が次第に満足せ ず,より高額な医療費を払っても選択の自由度の 高いPPOを好むようになった結果であろう。 一方医療提供側の医師の92%はHMO,PPO或 いはIndependent Practice Association(IPA)等と, 少なくとも最低1つの契約を結んでいる1)。この IPA形態は主として米国西海岸地区で発達した個 人営業の医師の組織で,HMOから一括払いの支 払いを受ける契約をし,組織内の医師に対しては 一般的にFFS形式で支払いをする。 HMOは一般にプライマリー・ケアと予防医療 に重点を置き,他の形態のマネージドケア及び専 門医に容易にアクセスできる出来高払い形式等の 医療保険と比べて,より安い保険料で効果的な医 療を一般大衆に提供してきた。その上マネージド ケア組織は全体として1993∼1997年代の医療費高 騰の比率を抑制する大きな役割を果たしたとされ ている1) しかし最近,HMOは特に新聞や週刊誌などの マスコミに取り上げられることが多い。それは HMOに対し患者側の経験から個人の希望や必要 とする治療法,或いは治療薬を拒否されたと言う 不満の問題である。更にこれは患者だけではなく 医療提供側からも同様な不満が出ている。例えば Kaiser Family FoundationとHarvard School of Public Healthは601人の医師と365人の看護婦を対 象に調査をし,その結果を以下の諸点に纏めてい る2) ・2/3の医師は必要とする精神科治療法や専門医 への推薦が拒否され,患者に悪影響を与えたと している。 ・2/3の医師は患者の治療の選択で保険提供側と 電話で議論するが,42%は患者優位に,21%は 相互譲歩の結果になるとしている。 ・約半数の医師・看護婦は希望する治療法を選択 する為に,患者の症状を保険提供側に実際より 重く報告している。 ・10%の医師と12%の看護婦はマネージドケアが 医療の質を向上させたと考えている。 ・45%の医師と45%の看護婦はマネージドケアが 予防医療を向上させたと認めている。 これに対して米国医療保険組合の医学部長の Young博士は実際の治療法選択の拒否率は1− 2%であり,又この調査ではマネージドケアの制 約のない医療現場では現実に20−30%の割合で発 生する過剰医療や不適正治療についての言及が全 く無いと反論している2)

今年3月に出されたthe Center for Studying Health System Change(CSHSC)による調査は 35,000人の被保険者に対して病院の利用難易度, 救急室の利用回数,手術の利用回数などについて HMOタイプの保険とPPOタイプ及び完全なFFS タイプの保険とを比較した3)。この調査の結論は, 必要な医療へのアクセスの難易度は両タイプの保 険に大きな差はないとしている。また患者の満足 度はHMOに対しては58%,PPO及びFFSに対して は63%と,これも両者に大きな違いはなかった3) マネージドケアに関しての評価は現時点では混 乱期にあると言える。これは以下のような理由に よると思われる。その一つは患者側の問題である。 実 際 , 昨 年 の ワ シ ン ト ン 市 に あ る E m p l o y e e Benefit Research Instituteによる“The 1999 Health Confidence Survey”の結果は患者側の知 識不足を明確に示している。即ち54%のHMOの 被保険者は自分がマネージドケアに加入していな いと思っていた。同様に68%のPPOの被保険者も はっきりと保険の内容を理解していなかった4) その二つは医師側もマネージドケアの導入によ り,医師の過去における無統制な自由度の喪失と 過去の高収入の低下などによりマネージドケア・ システムには強い潜在的な不満を持っていること である。医師の平均収入の増加率は1986−1992年 間に7.2%,1993∼1996年間に1.7%の低下を見せ ている1) しかしながら,この20世紀後半に進展してきた医 療の大改革の風潮を現在ではもう逆行させること は誰にも不可能であり,この改革の評価は後日少 なくとも一世代交代後に正当になされるであろう。

(5)

現在の米国医療体制の中で見逃してならない要 素は経済的な理由で医療保険に加入できない人口 層である。この層は1990年には3,600万人であっ たが,1993年には4,000万人,そして1995年には 4,100万人と着実に増加してきて5),実際その増加 率は1988∼1998年の10年間に約20%になる6)。こ の事実は深刻な社会政治問題となりつつあり,今 年の大統領選挙の主要な政策課題として両候補に より論議されている。現大統領府は医療保険を持 たない層や貧困層の医療に対応する為に,2001年 から10年間に約12兆円の予算を提案している6)

巻頭に触れたように the Institute of Medicine ( IOM) は 1998年 9 月 発 行 の Journal of the American Medical Association(JAMA)7)への出 版に続き,1999年11月30日に米国の医療の体質と 品質に関する詳細な調査報告書を発表した8)。結 論的に言えば,米国の医療は大都市でも小村でも 何処でも同様に,医療の質に重大な欠陥があると 断定した。この報告によると「医療過誤」は,患 者自身が自由に病院や医療チームを選択できる完 全なFFS形式でも,制約のあるマネージドケア形 式でも同様な頻度で発生している。従って重要な 問題は「医療の質」の問題であって,「マネージ ドケア」の問題ではないと結論している7,8) この報告では全米の病院内での「医療過誤」に より毎年98,000人に及ぶ入院患者の死亡事故が起 きていると判断した。更に入院患者以外をも対象 と し た 全 体 の 医 療 過 誤 に よ る 死 亡 事 故 は 毎 年 150,000∼400,000人にもなるかも知れないと推測 した7,8)。この数字は米国人の種々の死亡原因の 中 で 第 3 位 に 相 当 す る 深 刻 な も の で あ る 。 L . Leape等による約10年前に発表された“Harvard Medical Practice Study”はニューヨーク州のデー タを基にして推定した医療過誤による全米の死亡 数を180,000人と推定している9)。従って10万∼20 万人/年レベルの「医療過誤」による全米の死亡 数は現実の実態からそんなに飛躍はしていないと 考えられる。 医療過誤による不必要な医療費支出に関する調 査は過去にも数多く発表されてきた9,10)。このよ うな無駄な医療費支出は様々に推定されている

2.医療過誤と医療不信

が,年間約3兆円は下らないと思われる。しかし 医療界にとっての真のコストは経済的な損失では なく,患者の医療に対する不信感の増大なのであ る。更に重要な事は,発生する医療過誤の3分の 2は未然に防げるタイプであると判定されている ことである7,8)。医療過誤事故の多発により,社 会のモラルと生産性は必然的に低下し,社会全体 の活力が失われて行くのは必至である。 この事態の重大性を政治も認識し,大統領のタ スク・フォース(President’s Interagency Task Force)も設置され,前述したIOMの調査報告の 分析研究を行い,そして「医療過誤」を防止する 為の手段と方法を答申することになった。民間の the Institute for Safe Medication Practices (ISMP),the American Hospital Association (AHA),the Institute for Healthcare Improvement (IHI),the National Coordinating Council on Medication Error Reporting and Prevention ( NCCMERP), the National Patient Safety Partnership(NPSP)とその他の民間機関が協力 して真剣に対策を練っている11)

薬 剤 過 誤 の 領 域 で は 上 述 の ISMPが the US Pharmacopeia(USP)Medication Error Reporting (MER)Programを実施して,報告者の秘密を保 持しつつ,特に薬剤過誤の報告を雑誌,ニュース レター,ホームページ等で医療関係者に提供し, 薬剤過誤の再発防止に努力をしている12)。今年5 月に開催された“the Wall Street Journal Health Care 2000 Summit”で,IOM所長のK. Shine博士 は重要な医療過誤が発生した場合は,医療関係者 に報告を義務づけ,更にそれらのデータの集大成 としてのガイドライン書を作ることを提案してい る。かくして米国の医療界は今失われつつある医 療に対する患者の信頼感を取戻そうと真剣な努力 を始めたのである。 米国の医学・医科学のレベル及び医療システム は他の先進国に比べても最前線にあると認められ ている。にもかかわらず現状のあまりに細分化さ れ,総合的に組織されていない医療体制ではもう 時代にそぐわず,真の患者の要望・希望を満たす ことは不可能である。一番重要な「患者の安全」

3.21世紀への医療改革対策

(6)

― 7 ― 都薬雑誌 Vol. 23 No. 3(2001) の問題は現在の医療体制では最優先の命題ではな く,むしろ軽視されてきたと言える。この誤った 傾向は特に20世紀後半に顕著で,特に医療に応用 可能な科学技術が発達すればする程,患者不在の 医療が拡大しているのは確かである。 前述のIOMの調査研究に従事したグループの 一部が,医療の安全性に逆行する種々の要素を理 解・研究し,それ等への解決対策法を探索する為 にHarvard大学のthe Kennedy School of Govern-mentと協力した13)。この研究成果の最大の特徴は 1950∼1990年の40年間に墜落事故率を80%も削減 できた商業航空業界を,医療業界の「ベンチマー ク」としたことである。1990年代から急増した航 空交通量を考慮すれば,航空業界の安全性記録は 常に改善に自助努力をしてきた賜物とはいえ医療 業界の現状と比較して驚異に値する。 この研究結果の主要な点を下に纏めてみる。 ・医師は良く訓練された医療チームの一員として 働くべきである。商業パイロットは決して単独 では飛行しない。ところが大部分(4分の3) の医師は単独又は極く小さい診療グループ内で 仕事をしている14)。このような環境では有能な 同僚から学んだり,彼等の経験や新しい情報を 共有することもできない。一般に医療界以外の 他の業界では,プロフェッショナルが良く訓練 された職業チーム内の一員として仕事をする努 力を常にしている。 ・医療提供者は知識と能力の査定を定期的に受け るべきである。例えばパイロットは如何なる飛 行状態及び緊急事態にも対処できるようにフラ イト・シュミレーターで特別訓練をし,その結 果の査定を受けねばならない。更に最新な技術 と法規と政策にも精通していなければならな い。個人診療が大多数を占める医師などは, 個々の受けた過去の教育と訓練に囚われ,又診 療している地域での慣習に左右される。パイロ ットとは異なり,免許の再審査の無い医療提供 者は必然的に職業上必要とする最新情報や科学 の進歩にもついていけなくなり,彼等の技能と 能力のレベルは地域と年齢により非常に大きな 巾が出てくる結果となる15)医療業界も徹底的な品質管理と品質改善の制度 を導入すべきである。航空業界は稀に発生する 墜落事故と擬似衝突事故の記録を綿密に分析 し,航空界全体の安全対策の指導資料として活 用する。これに反して医療業界では全くと言っ てよい程このような制度は存在していない。限 られた個々の大病院では,私的な安全性訓練の システムはある程度存在するが,患者全体の3 分の2に当たる院外患者に対する医療の品質管 理は殆ど行なわれていない。 ・医療業界は各個人が如何に優秀であっても患者 の安全性に関しては完璧な遂行を期待できない ことを認識すべきである。航空業界は個人の能 力と機械の性能の限界を正しく認識して,徹底 的な安全性保持の制度を導入し活用している。 しかし医療界はあたかも神の如く振る舞い「完 璧な遂行」を当然とするような風習があり,何 かの「医療過誤」が起きても,そのデータや経 験を他と共有して,将来の事故を未然に防止す るために利用する精神構造も共通の制度も持た ない。 ・「患者の安全」を医療業界は最重要課題とすべ きである。商業航空業界は「乗客の安全」が全 てに優先すると言う精神構造を創造してきた が,医療業界は医療へのアクセスと選択及び医 療費などのみを議論してきた。その結果「患者 の安全」の問題は今まで二の次にされてきた。 一方,患者側もまた医療の安全にあまり深い疑 問を挟んでこなかった。 さてこのように考察・検討してみると,医療業 界にとって安全に関して,既に証明済みの最高の お手本が目の前に存在していることが判る。上述 の諸点を基本線として「患者の安全性」の確保に ついて,大筋で以下の医療改革点を提案したい。 (1)医師は各種の専門領域を含む「グループ診 療体制」を基本として,個人診療は極力避 けるべきである。医療提供者はそれぞれ良 く訓練されたチーム体制の一員として,各 プロフェッショナルの知識,経験と技能を 共有し,新情報と新技術を修得し,医療の 質を相互監視し,より良い連続性のある医 療を患者に提供すべきである。 (2)「統合的医療提供体制」を確立する。医師を 含めて薬剤師,看護婦,医療技師など全て のプロフェッショナルが目的を共有し,患

(7)

者の安全性の確保を第一としながら治療結 果の改善を図るべきである。 (3)「医療の安全性」の向上を目指して航空業界 の安全性規準を医療業界は必ず導入し,国 民の医療不信の危惧を一掃すべきである。 因みに,前述のIHI所長のD. Berwick博士は仮 に根本的な医療改革が実施されれば,医療過誤を 最小限に留め,患者の安全性を確保することによ り,国家の総医療費を約30%(約35兆円)も削減 できると推算している13) これまで述べてきたような「患者の安全」を, 医療提供側の最重要の課題として医療改革を遂行 するには,当然現行の医療教育も改革されねばな らない。本稿では詳しく述べる余裕はないので, 極く簡単に触れるだけにしたい。 医療を統合的に良く訓練されたチーム体制で効 率的に行なう為には,各プロフェッショナルが可 能な限り共通の教育・訓練を受け,そして共通の 医療技術言語を修得することが最低限必要であ る。従って医療関連の高等教育を医療総合大学と して統合して,基礎的教科は全て同一の授業内容 で同一教官達により教授されるべきである。専攻 の異なる学生達は同一の授業を同時に受けること になる。更に臨床教科も出来るだけ共通の授業と して,医学・薬学・看護学専攻の学生達が同一の 土俵で訓練されるべきである。しかし医学・薬 学・看護学に特有で他の専攻に直接必要の無い専 門教科に限り,各々の専門教官により別々に教授 されることになる。このような教育体制により, 学生は卒業後医療チームの一員のプロフェッショ ナルとして上手に相互協力し,効率の良い医療を 患者に提供することができると期待される。 即ち21世紀の医療教育には“Cross-Teaching, Cross-Professional, and Team-Oriented Education” が基本理念になることが必須であると考える。そ の上医療関連の学生は20世紀の“Medical Care” ではなく,人間回復の“Health Care”を目指す べきなのである。 米国の薬剤師による広範囲に亘る医療活躍につ

5.21世紀への薬剤師の未来像

4.21世紀への医療教育の改革対策

いては前に本誌に書いた16)。20世紀後半に米国の 薬剤師がその役割と機能の変革を実行できたの は,当然米国の薬剤師教育の改革によることが大 であった。米国の薬学教育については既に本誌で 概説してある16)。現在では薬学部及び薬科大学は 既に旧来の所謂5年制の薬学士(BS Pharm)の 新入生を受け入れておらず,更に2005年頃迄には 薬学士の卒業生は存在しなくなる予定である。薬 学士に代わって6∼7年制の臨床教育を大幅に取 り入れた薬学博士(Pharm. D.)課程が既に導入 されていて,2002年頃には薬学士と薬学博士の卒 業生の数がほぼ同数になる筈である。 医薬分業も長い間定着しており,医療界におけ る薬剤師の職業的役割,及び薬剤師教育も日本よ り数段先を行っている米国ではあるが,職業とし ての薬剤師の将来については,かなり不安定要因 が存在していると考えられる。これは薬剤師が激 しい速度で変化して行く社会の趨勢に,どのよう に対処していけるかどうかに掛かっていると言え よう。一つの例として,L. T. WagnerとC. A. Kenreigh両博士が描いた2,3のシナリオをこ こに紹介したい18) ・患者の医療責任と決定権を持つ独立した薬剤師 このような薬剤師になるには,専門知識と新医 薬技術に精通し,情報技術(IT)をも充分に駆使 し,患者の医療管理に責任を持ち,また患者の医 療結果にも責任を果たす意思を持つことが必要で ある。即ち病院などの薬剤部は薬剤臨床部に発展 して,医師などによる患者の診断と治療方針が定 まると,患者は薬剤師に送られて,薬剤師が薬剤 の選択・投薬の決定と病態管理の責任を果たすこ とになる。この場合も薬剤師は調剤の責任は以前 同様に持つことになる。 ・決定権を持たない助言者としての薬剤師 このケースでは薬剤師はサービスを主体とし, 現時点の臨床薬剤師の環境に非常に近く,病院な どの医療部あるいは特定の臨床グループに属す。 薬剤師は主として薬剤の選択などの医師への助 言,服薬指導と薬剤管理など患者へのコンサルテ ーションの任務を負うことになる。病院などに薬 剤部は存在するが,ここには薬剤師はあまり居ら ず,殆どの調剤は自動化していて,薬剤助手が全 てを行なうようになる。

(8)

― 9 ― 都薬雑誌 Vol. 23 No. 3(2001) ・現状維持の薬剤師 薬剤師界は様々な機能に分断された薬剤師群の 集合体である。大多数は調剤専門の薬剤師の立場 に留まっている。少数は決定権を持たない伝統的 な臨床薬剤師の役割を果たしている。病院などの 薬剤部は購買部と合併され,主として薬剤の購入 機能のみを持つようになる。また調剤業務はある 程度自動化が進んでいる。 ・薬剤師の消滅 薬剤師は21世紀の医薬医療技術にも,情報技術 にも乗り遅れてしまい,その上伝統的な調剤機能 は完全に自動機械に取って代わられてしまう。そ の為通常の薬剤師は存在価値を失ってしまう。即 ち薬剤師の消滅である。病院などの薬剤部は他の 購買部に吸収されて,薬剤は他の製品と同様に購 入されることになる。 この最後のシナリオは非常に極端な場合である ので,考慮に値しないと思われるかも知れないが, 薬剤師全体として21世紀の急激な学問と科学技術 の進歩に追従できなければ,それに類似した状態 に陥る危険性が無きにしもあらずである。21世紀 の医療科学の中心となるゲノム関連の進歩は,特 に注目に値すると信ずる19) おわりに 本稿では米国の医療体制とその問題点及び改革 対策を中心に,私見もまじえて概説した。巻頭に も述べたが,「医療過誤」と「医療の品質管理」 の問題を,米国では医療界が政治の協力を得なが ら正面から直視してその対策に真剣に取り組んで いる。一方,我が国でも近年「医療過誤」が頻繁 に表面化してきたようだ。これは今までこれらの 「医療過誤」の大部分が水面下に隠されていた事 件が,ようやく社会の前面に押し出されてきたか らに他ならない。日本では「患者の安全性」の概念 も,「医療過誤」防止の対策も殆ど皆無に等しい 状態であると言っても過言ではないと思う。何と かしたいものである。 文 献 1)T. Bodenheimer, NEJM, 340, 584∼588 (1999) 2)J. Appleby, USA Today, July 28 (1999)

3)P. Ginsburg, The Center for Studying Health System Change Report (2000)

4)D. Salisbury, 1999 Health Confidence Survey by the Employee Benefit Research Institute (2000)

5)Ernst & Young Health Care Data Reference Card (1998)

6)K. Shine, the Institute of Medicine Report (2000)

7)R. W. Gravin, JAMA, 280, 1000∼1005 (1998) 8)L.T. Kohn, J.M. Corrigan & M.S. Donaldson,

To Err is Human : Building a Safer Health System, the Institute of Medicine, National Academy Press (1999)

9)L. L. Leape et al, NEJM, 324, 377 (1991) 10)D. C. Classen et al, JAMA, 277, 301∼306

(1997) ; D. W. Bates et al, JAMA, 277, 307∼ 311 (1997)

11)Medscape Wire, December 29 (1999)

12)D. G. Floriddia, American Pharmaceutical Association Annual Meeting, Wshington, DC (2000)

13)D. M. Lawrence, Medscape Money and Medicine (2000)

14)M. L. Millenson, Health Forum J, 41, 36∼39 (1998)

15)J. Wennberg, The Dartmouth Atlas of Health Care in the US (1999)

16)近藤雅敏, 都薬雑誌, 18(8), 4∼9 (1996) 17)近藤雅敏, 都薬雑誌, 18(7), 9∼14 (1996) 18)L. T. Wagner & C. A Kenreigh, Medscape

Pharmacists Editorial (2000)

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トルコは世界の中でも地震の多い国のひとつで あることは,ご承知のことと思います。トルコ国 の地震地帯の分布図(図1)をみると,国土の 92%が地震地帯上にあり,全人口の95%が地震の 危険にさらされて生活していることがわかりま す。 1999年8月17日トルコ時間で午前3時2分,ト ルコ北アナトリア断層地帯で深度7.4の地震が45 秒間続いて起こりました。震源地より約400キロ の範囲までその影響を及ぼした大地震で,地震後 も何百回もの余震に見舞われました。地震研究所 の報告によれば,震源地は北緯40.7度,東経29.91 度,深さ15.9キロメートルまで被害が及んだとい わてています。

1.地震の発生

地震の被害状況範囲(震源地からの距離) この度の地震では,特にイスタンブル,コジャ エリ,サカリヤ,ブルサ,ゾングルダク,ヤロヴ ァなどで大きな被害がみられました。トルコの工 業地帯や人口密集地に起こったこの地震では,た くさんの尊い命が奪われ,物的にも多大な損害を 被りました。 二度目(1999年9月7日トルコ時間15時30分) に起きた地震では,総理府危機管理センターの報 告によれば,死者15,225名,負傷者23,983名,倒 壊建造物60,000にものぼるとされています。さら に,三度目(1999年12月12日トルコ時間18時58分) イズミット 12km アダパザール 39km ヤロヴァ 58km ビレジック 61km イスタンプール 85km ブルサ 94km エスキシェヒル 113km ポル 142km ゾングルダク 180km テキルダー 210km

1999年8月17日のトルコ地震

における薬剤師の活動

トルコ共和国 薬剤師 ネジラー・ディンレル

エディルネ テキルダー チャナツカレ ヤロード クルツクラレリ 黒海 地中海 イスタンブール コジャエリ ブルサ バルクケセル エスキシエヒル ビレジック サカリヤ ボル マニサ イズミル アイドゥン アンタリア コンヤ アンドウ I II III IV V 0 120 km 色が濃いほど 分布が多い 図1 トルコ国の活断層地帯の分布

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― 11 ― 都薬雑誌 Vol. 23 No. 3(2001) に,ポルのDuzce-Kaynasli地方で,深度7.2の地震 が発生,死者845名をだしました。トルコではこ の三度の大地震で大変な痛手を受けました。トル コは地震に対してまったく無防備な状態でした。 大災害の後,あらゆる地域からあらゆる力を動 員して人々は救援のためかけつけました。トルコ の各地からばかりではありません。世界中のたく さんの国々から,特に,遠くて近い国,日本から もさまざまな援助がなされました。 地震発生当初から,医療奉仕活動がスムーズに 行われるように,また薬品などの支給が滞りなく 実施されるように,すべての組合員が動き出し, 支援体制が確立した後で,以下のようなことが行 われました。 ・地震発生地区で必要とされる薬品確保のための 報告をまとめ,その報告にしたがって薬剤師協同 組合は薬問屋や製薬会社と提携し緊急援助を要請 ・厚生省並びに県の保健局など公的機関に働きか

2.トルコ薬剤師組合(TEB)の地震災害

時における働き

け,飲食物,薬品など地震発生地域へ輸送開始 ・送られてきた薬品の仕分け,貯蔵,必要とされ る部署への分配 ・地震発生地における1300人のボランティア薬剤 師は交代で,以下のような活動を実施 a.山積みされた薬剤と医療品の緊急貯蔵体制, 棚,戸棚への整頓 b.各地域に整頓された倉庫と34か所の臨時薬局 設置(3,4,5の方法) c.国立病院の敷地内に臨時に設置された薬局で の活動 d.国立病院及び県立保健局との連携による薬品 と医療品の積み換え e.地震発生地区における被害を受けなかった薬 局の積極的支援参加の確保 f..以上の活動,及び薬品―薬剤師―専門家たち による援助などが,TEB出版事務局といくつ かのテレビ局による支援によって,出版関係 や薬剤師管理局などが宣伝し,地震発生地で のボランティア活動をしたい薬剤師たちを集 めて,増大する救援活動に答えるよう努力が テキルダー イスタンブール ヤロバ 黒海 マルマラ海 イズミット ブルサ ビレジック アダパザーリ サカリヤ ボル 色濃い程ゆれが強い 0 20 km 図2 震源地付近のゆれの強さ

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なされた トルコ薬剤師組合代表委員(TEB)は総理府危 機管理センター長へ,地震発生地へ薬品援助を行 ったり,送られた薬品の活用をしたり,不足する 商品を知らせるなどの活動が支障なくできるよう に,総理府危機管理センターへ下記の文書をもっ て協力を願い出ました。 トルコ薬剤師組合はマルマラ地方で起こった地 震の際に行われた援助の調査では送付された薬品 の仕分け(写真1),負傷者へ配布される際に起 こる諸問題を確認しました。そして,ただちにそ れらの問題を解決するため1999年8月18日以来, −サカリヤ国立病院の敷地内 −コジャエリ国立病院の敷地内 −ギョルチェックでドナンマ コムタンルウの向 い側 −ヤロヴァのサフラ病院側 これら4か所に設置された臨時薬局でボランティ 組合員は,次のようなことを行います。 a)地震発生地における薬品の必要性を正しく把握 する b)緊急に必要性のない薬品の送付による無駄なス トックの防止 c)b事業によって先行き薬品不足による問題が起 こらないようにする d)薬品の搬送が地震発生地域へ適材適所行われ, 十分活用されるようにする。 トルコ薬剤師組合(TEB)は総理府危機管理セ ンターの名前でこれらのことをさせていただきた くお願い申し上げます。 敬具 トルコ薬剤師組合会長 ア薬剤師と一緒に支援活動を始めました。こうし た努力にもかかわらず,地震発生地域での必要に 迫られている薬品が,一か所に集約されて,そこ から発せられなかったため,情報がばらばらで混 乱が起き,いろいろな困難に直面することになり ました。センターは一か所でなければなりませ ん。 トルコ薬剤師組合は地震発生地域で起こった薬 剤師たちの状況と,要望を厚生省へ報告しまし た。 〈要望〉 トルコの国中を悲しみに追い込んだこの地震災 害で, 1.14名の薬剤師が命をおとし,20名が負傷し, さらにたくさんの薬剤師の子供たち,夫,妻, 近親者が亡くなる。 2.地震発生地域の700軒の薬屋のうち200軒が瓦 礫の下になったり,被害を受ける。 3.そのために,薬剤師の薬品会社や問屋への借 金を延期してもらうため,トルコ薬剤師組合 による厚生省への申請が認められるように希 望する。 4.薬屋の,公的機関や施設からの取り分は即刻 弁済してもらいたい。 5.地震発生地における薬屋たちの,税金,保険 料のとりたてを延期し,これらの薬剤師たち へ国の銀行より低利,かつ長期の支払い期限 のローンを組む便宜をはかってほしい。 ・トルコ薬剤師組合第29回大集会では,「災害基 金」から,被った損害の程度に応じて薬剤師たち に援助をすることを決定 ・トルコ薬剤師組合は,「助け合い金庫」から被 災者の薬剤師たちに開業資金,引っ越し資金など のため長期返済のクレジットを支給する。 ・トルコ薬剤師組合「助け合い金庫」への借金は 支払い期限を延期する。 ・地震で命を失った薬剤師の家族たちに,トルコ 薬剤師組合は「助け合い金庫」から,死亡見舞金 を支払う。

3.地震によって被災者となった薬剤師た

ちへ組合員がやったこと

写真1 医薬品を仕分けするボランティアの薬剤師達

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― 13 ― 都薬雑誌 Vol. 23 No. 3(2001) 情報とともに,関係各機関へそれを通達する。 ・自然災害などで,薬品の供給が一か所のセンタ ーで処理され,厚生省と共同でプログラムを作成 する。 ・将来,「緊急保健対策」のプログラムを作成し, このプログラムの中に薬剤師たちの役割も考慮に 入れること。 ・「中等教育」で,緊急援助と薬品について子供 たちが学べるように授業にとりいれる。 地殻が自然の秩序の中で変化して行くとき,私 たち人間は起りうる地震にたいして,科学の力で なんらかの対策を講ずることが出来ます。例えば, 次のようなことです。 1.トルコが地震国であることを認識し,適正か つ永続性のある措置を講じる上で,「国の地 震政策」の基本路線を決める。 2.地震後の災害対策と地震前の防止対策 3.「モデル システム」を研究することによっ

5.今後の地震に対して考えて行かなけれ

ばならないこと

地震発生地で行われた支援の結果,ストックさ れている薬品などに関するトルコ薬剤師組合の提 案 ・ワクチン,血清,ヒトアルブミン(たんぱく質) のような,「血液に関する薬品」は地震地から引 き上げて冷暗所の倉庫に集め管理する。このこと は厚生省管轄の施設Refik Saydam Enstitusu(研 究所)で行われること。 ・血清などは中央倉庫に集め,必要に応じて必要 な場所へ送ること。 ・地震発生地域で,病院,倉庫,その他の場所で 備蓄された薬品や医薬品などが決められた倉庫に 集められ,分類,梱包,有効期限のコントロール などの作業が行われること,パソコンに入力する こと ・TEBトルコ薬剤師組合と厚生省間で行われた相 方の取り決め(議定書)による薬品の薬効別に分 別すること,且つふさわしい備蓄方法,備蓄体制 に関して行われるべきパソコンプログラムを組む 薬剤師を明らかにする。 ・TEBトルコ薬剤師組合による,移動式薬局(薬 屋)(写真2)とこの薬局に絶えず薬品や医療品 を補うテント倉庫(写真3,4)をつくること ・自然災害時における薬品の供給と薬剤師たちの 役割奉仕を実施するべく50名の薬剤師チームをつ くること ・このチームの活動拠点として,テントの確保 ・自然災害などで,支援を必要とする「緊急支援 リスト」の作成,薬品の送付,保存条件に関する

4.TEBトルコ薬剤師組合のこれからの計

画方針

写真2 Balikesir都市薬剤師会の移動薬局 写真3 Gölcükテント薬局 写真4 薬剤師会によるテント薬局

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て,耐震構造の住宅を建設する。 4.「災害強制保険」の適用 5.あらゆる種類の援助と保健サービス体制がい つも備えられ,敏速に着手できる状態である こと。 6.活断層地帯上で,あるいはその近辺で,大災 害の原因となるような「原子力発電所」を建 設する企画は極力さけること。 7.世界中の国々が手に手を取って,兄弟愛と友 情による助け合いの重要性を認識する。 おわりに 大きな災害に出会ったわたしたちに対して,親 身な,暖かい手をさしのべてくださった日本政府 と日本の国民の皆様へ,心より感謝をしておりま す。 また,トルコ語からの翻訳をしてくださった児 島満子さんに深く感謝申し上げます。 ネジラー・ディンレルさんは,1960年にイスタンブール大学薬学部を卒業後,アンカ ラ・アタチュルク・サナトリウム診療所,社会保障協会病院に勤務され,トルコ高等専門 病院に薬剤部長として勤務される一方,日本語を勉強されました。 1978年に6ヶ月間国際協力事業団「JICA研修生として来日し,国立国際医療センター で研修されています。 現在は,退職され薬剤師の立場を生かした各種活動をされています。 著者プロフィール

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― 17 ― 都薬雑誌 Vol. 23 No. 3(2001) ▲はじめに トルコ共和国はアジアとヨーロッパの接点であ る。国土の97%はアジアにあり,北に黒海,西に エーゲ海,南に地中海と三方を海に囲まれている が,その北西端でダーダネルス,ボスポラス両海 峡をはさんでヨーロッパとなる。そこはバルカン 半島の東端にあたり,ブルガリア,ギリシャと国 境を接している。その国土は面積77万9450km2 人口6194.5万人(1995)と大雑把にいって日本の 倍の国土に日本の半分の人間が住んでいるという ことになる。首都はアンカラであるが,最大の都 市はかつての首都イスタンブールで,人口約730 万人である。イスタンブールを中心とした西部地 域はもっとも経済的に成熟した地域である。 公用語はトルコ語で認字率は男性では90%を越 えるが,地方の女性の場合は必ずしも教育は十分 でなく,国民の17%程度いるクルド民族ではトル コ語が十分に使えない人たちもいる。これは我々 も経験した。宗教はイスラム教が主であるが,戒 律は穏やかであり,かつ政治と宗教は分離してい る。 国内総生産(GDP)は1310億USD(1994),一 人あたりで2627USD(1991)である。日本の G D P は 4 . 1 9 兆 U S D ( 1 9 9 3 ), 一 人 あ た り で 26983USDなので,一人あたりで日本のちょうど 1/10ぐらいである。なお年間100%といわれるイ ンフレに苦しんでおり,10,000トルコリラが現在 2.5円ぐらいであるが,ガイドブックでは98年11 月現在で10,000トルコリラが4円くらいであった ので,1年間でほぼ倍近い,このため外国人にと っては,お金の計算が一苦労である。 かつて周辺国にとって大きな脅威であった「オ スマン・トルコ帝国」の記憶が残っているためな のか,周辺諸国との友好はあまり好ましくなく, 徴兵制度があり,国家予算の四分の一は軍事費で あるという。今回の地震においてギリシャが災害 の救援に駆けつけたことは,これまでの両国の敵 対関係からみて画期的なことと大きな話題を呼ん だ。日本は遠方にあって直接的な利害関係がない ことに加え,トルコにとって北方の大きな脅威で あるロシアを日露戦争で勝利したこと,また戦後 の奇跡的というべき経済復興に対する高評価とあ いまって,非常に親しみを感じる人達が多い。 1999年8月17日,トルコ共和国において現地時 間 の 午 前 3 時 2 分 に , イ ス タ ン ブ ー ル 東 方 約 110kmのイズミット市を震源とする,マグニチュ ード7.4の地震が発生した。被災地は上記したよ うに経済的先進地域で多数の人口を抱えているた め,少なくとも1万5千人が死亡し,20万人以上が 家を失ったといわれる。(図1,2,3) トルコ政府は,緊急対策本部を設置するととも

【トルコ西部大震災と日本の人的援助】

トルコ国西部地震災害援助から考える

薬剤師の役割

日本医科大学附属病院 薬剤師 西澤

にしざわ

けん

図1 崩れ落ちたアパート

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に,被害の甚大さに鑑みトルコ外務省は我が国に 対し,国際緊急援助隊(救助チームおよび医療チ ーム,専門家チーム)の派遣,緊急援助物資の要 請を行った。(表1) この震災に対し,日本政府はその援助の一環と し て , 国 際 緊 急 救 助 隊 医 療 チ ー ム ( J a p a n Medical Team for Disaster Relief:JMTDR)を2 度にわたり派遣した。著者はその2次チームの一 員として,現地での医療活動に参加した。

まず海外での災害に対する日本の援助のシステ ムについて述べる。政府援助はすべて国際協力事 情団(Japan International Cooporation Agency: JICA)を通じて行われ,その形態は大きく分け て①資金②物資③人となるが,そのうち人的援助 を行う組織を国際緊急援助隊(Japan Disaster Relief:JDR)という。(表2)JDRは全国の消防 隊,警察署,海上保安庁の職員で構成される「救 助チーム」と,特定の目的(たとえばライフライ ンの整備とか防震建築)により各官庁などから選 出される「専門家チーム」,並びにあらかじめ援 助隊事務局に登録してあるボランティア組織であ る「医療チーム」の3つがある。この医療チーム をJMTDRというが,ボランティア組織であるこ とが他の2つのチームと大きく異なる点である。 被災現場で速やかに医療活動が遂行できるよ う,大型機材(テントなど),医療器材,医薬品, 生活用品の4つに分類される機材を日本から携行 していく。その内容はあらゆる状況下で医療活動 ができるようにしてあり,医療チームが1日100 名の外来患者を2週間にわたって診療できること を基本としている。災害の種類によっては,この 携行機材にオプションを加えることができる。 ほとんどの国々では,我が国のように粉末状の 薬を服用する習慣がないこと,液状のシロップ剤 は容量的にかさばることから,錠剤もしくは,カ プセル剤,注射剤を優先的に選定している。また

【携行医薬品の選定】

【医療チームの携行機材】

図2 日本チーム診療所近くのテント村 図3 テント村全景 表1 緊急援助決定の仕組み

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― 19 ― 都薬雑誌 Vol. 23 No. 3(2001) 医薬品は,WHOの推薦する必須医薬品を中心と し,途上国で日頃一般的に用いられているもので あるという概念に基づいて選定されている。 1999年8月22日(土)夜,緊急援助隊事務局よ り2次隊の派遣の可能性が高いとの連絡を受け た。1次隊からの診療情報の情報では,「小児を 中心とする発熱や肺炎患者の増加,衛生状態の悪 化に伴う腸管感染症による下痢・脱水(伝染病発 生と直結する可能性は低い),白癬菌感染症,お むつかぶれ,汗疹などの湿疹や様々な皮膚感染症, PTSD(Post-traumatic Stress Disorder:心的外傷 後ストレス障害)の範疇に入ると思われる不眠を はじめとする精神症状,外傷創面の再感染や既感 染の増加などが考えられる」とのことであった。 必要薬品としては,小児用輸液,皮膚感染症に対 する外用薬,抗不安薬・睡眠導入薬などの精神科 領域の薬剤,打撲患者用の湿布薬であり,2次隊 のチームリーダーである医師と連絡をとりなが ら,おもに小児用医薬品の不足,衛生材料を中心 に追加携行医薬品を決定した。8月27日午前6時 より新羽田空港ターミナルビル内にて結団式が行 われた。結団式後,2次隊は関西空港経由イスタ ンブールへ向け出発,27日夜にイスタンブールに 到着した。 空港で携行医療器材の確認後,機材と共に1次 医療チームが宿泊している宿舎に入り,1次隊,

【一次隊からの申し送り】

【2次隊派遣の経過及び事前準備】

2次隊合同ミーティングを開催した。1次隊が, 診療拠点をアダパザルに設営した経緯(ヤロヴァ では,赤十字がすでに野外病院を設営していたな ど),医療チーム診療所での疾病構造(上気道感 染症・PTSD・下痢・嘔吐・皮膚疾患が多いこ と。外傷は1割程度で,創部感染が多いこと)患 者統計の取り方,アダパザルにおける他の医療機 関の活動状況(社会保険病院は,病院が半壊して いるため病院の前庭で外来診療を行っている。ト ヨタSA病院では,感染症の患者を取り扱ってい る。イスラエル軍が,野外病院を展開しており, 手術可能であり,分娩も取り扱っている。エジプ ト軍も野外病院を展開しているが,患者は多くな い。他にカナダ軍が野外病院を開設している。) などのブリーフィングを受けた。翌日,宿舎から 車で2時間離れているアダパザルの現地診療所に 向かい,第一次隊から診療所内で詳細な引継を行 い,診療業務を開始した。 2次隊の診療の目的は,①疾病のサーベーラン ス,特に感染症モニターの役割,②地域医療機関 の復旧までの一般診療所としての役割とすること にした。1次隊が設営したアダパザルとの診療所 をそのまま継続することにした。1日の予定は, 原則として下記とした。 AM6:00∼7:00:朝食 AM7:00 :出発 AM9:00 :診療開始 PM3:00 :診療終了

【診療方針および診療計画】

表2 国際緊急援助体制

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PM7:00 :宿舎着後ミーティング 診療所から近くには,宿泊する施設は,地震の ためなく,以後毎日宿舎と診療所の往復に4時間 かかることとなった。診療開始3日間は,隊員全 員で診療活動を行い,その後ミーティングで休息 を含む宿舎内活動日を調整することとし,最終的 に全員が一日は,診療所には行かず宿舎内活動を 行った。 診察室は,現地で調達したシーツなどでスクリ ーンを作り,それぞれプライバシーが保てるよう 考慮した。とくに女性に対してシーツやバスタオ ルなどを使い,人前で肌をあらわに出さないよう に配慮し,また必ず傍らで付き添うように気を付 けた。イスラム圏であり,特に配慮したが,思っ たほど隠すようにしたりする人も少なく,日本と あまり変わらない感じがした。 受付番号を毎日1番からスタートすることで, その日の診療人数がすぐに分かるようにした。ま た,再診の場合もあるので番号札を次回に持参す る方法をとり,前回のカルテを容易に探せるよう に配慮した。これにより経過が誰でもわかり,投 薬や問診の重複をさけることができた。再診の患 者の殆どが創処置であった。(図4) 受診者の多くは内科的疾患が多く,症状では風 邪症状,頭痛,下痢,食欲不振,不眠などが多く 見られた。また皮膚疾患も多く,テント暮らしに よる生活環境の悪化やシャワーなどの設備不足で 皮膚の清潔が保てないためと思われた。他には縫 合創に二次感染を起こした患者や四肢の関節痛,

【診療】

腰痛を訴える患者が多かった。 受診者とのコミュニケーションは,トルコ語が 公用語で英語はほとんど通じなかったので,診察 中はほとんど通訳を介しての会話であった。通訳 のボランティアの方々は我々とともに非常に熱心 に活動していた。辞書を見たり,我々に聞いたり, 日本語で医薬用語を一生懸命覚えようとしてい た。被災者の方々に対しても,非常に熱心に,親 身になって話を聞いていた。言葉に苦労すること はほとんどなく,そのお陰とは言えないが「メル ハバ=こんにちは」「ゲチミシュオルスン=お大 事に」くらいのトルコ語しか覚えなかった。 薬品は使いやすいように,薬品名を記載した機 材ケースの引き出しをそのまま並べ,一目で分か るように配置した(図5)。隊員に薬剤服用方法, 散剤や水剤の調剤方法を指導した。また通訳の方 の協力で薬の服用方法をトルコ語で書いた服薬説 明書を準備した。薬剤を渡す際も,口頭で説明を した上で服薬説明書を一緒に渡すなどの工夫もで きた。これにより,誰でもがスムーズに,調剤, 服薬指導に関わることができるようになった。中 には失意状態にあるのか,口頭の説明ではなかな か理解できない患者がおり,その時には服薬説明 書は効果的な方法であったと思われた。(図6) 今回の医療活動において通訳の方々の存在は非 常に大きかった。現地のボランティア,在住日本 人の方々,在トルコ大使館の方々と毎日7∼8名

【ボランティア(通訳)との関わり】

【調剤・服薬指導】

図4 診療所前にならぶ患者の列 図5 テーブルの上に並べられた医薬品

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― 21 ― 都薬雑誌 Vol. 23 No. 3(2001) の協力を得ることができた。診療所の入り口では トリアージ,受付では問診聴取,薬局では薬の説 明,医師の診察にも付きっきりで協力していただ いた。また日常の会話のみならず,専門的な医学 用語も熟知されている方も多く,我々は言葉に不 自由を感じることなく活動できた。また精神的ダ メージが大きく不眠,不安,恐怖感を訴える患者 さんに対して,通訳の方々は訴えをよく聞き,優 しい対応をしていた。我々の倍以上話さなくては ならず,埃の舞う乾燥した被災地で,通訳の中に は喉を痛めた方もおり,休養を勧めても休みを取 らず,限界まで頑張っていた。活動の終わりに, 我々と一緒に医療活動をしてストレスはなかった か,不満はなかったか感想を尋ねてみた。彼らは, 「仲良く活動できて,ストレスを感じることはな かった。」と笑顔で答えてくれた。海外での医療 活動に言葉の問題はつきものである。しかし,今 回のように日本語とトルコ語の通訳がスムーズに なされ,それも十分な人数の協力があったことは, 活動の力強い味方となり,ボランティアの協力が あっての我々の医療活動であったと思う。 イスタンブール空港に到着後,日本から携行し てきた機材が行方不明になるトラブルがあった が,空港のボランティアの方々の協力でその日の 内に探すことがでた。また,暗闇の中,携行機材 をトラックに積み込む隊員全員の共同作業は,隊 員の親近感を高め,全員が最初に一丸となる作業 となった。

【エピソード】

○地元のボランティア 患者やその家族の方々は,ちょっとしたことも 手伝いをしてくれる。特に,家族の付き添いで診 療所を訪れた13才のムラット君は,おむつや石鹸 の配給や待合室での飲み水の提供など,家が倒壊 したにもかかわらず,早朝から診療所をたたむま で数日間手伝ってくれた。またイスタンブールに 住む女子高生は,親類の見舞いにアダパザルにや ってきて,診療所の日の丸を見て,授業で習う片 言の日本語でも役に立つかもしれないと思い,通 訳で役に立ちたいと申し出があった。(図7) ○日本医療への期待 診療所の看板にかかれている「First Aid」のト ルコ語を「すぐ,早く治る」と考えてくる患者も 多く,その背景には日本に対する大きな期待があ る。また,国立病院などの診察を受けてから,そ の診断と照らし合わせるように当診療所に来る患 者も何人かいた。我々の働きぶりを,日刊全国新 聞のザマーン紙は「日本人は,蜂のように(働く)」 と題し,大きく写真入りで報道された。(図8) ○余震 8月31日午前11時ごろ,マグニチュード5の余 震が発生した。診療所内で患者は,災害の恐怖を 感じ,泣き叫ぶ人,逃げ出そうとする人がいた。 我々は,患者の手を握りしめたりして,その恐怖 心を和らげようとした。これを通じ仲良くなった 患者もおり,忘れられない経験となった。 図6 薬局での通訳を介した薬の説明 図7 地元ボランティアのムラット君

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○テント村 被災者の多くは,余震を恐れ家に戻らずテント 生活をしている。テント村には,電気と水は供給 されている(街の水道は断水中)が,水は冷たく, 家に戻ってシャワーを浴びている,シャワーを浴 びることのできない被災者の赤ん坊のお尻かぶれ が多い。林の中のテント村のためか,虫さされの 人が多かった。 診療所に隣接しているテント村の住居者は400 人,離れているところに住んでいる人々もいる。 テントに住む必要もない人が配給をもらうために テント村に住んでいたり,テントにも入れない 人々もいるのが現状のようであった。 配給も各所にあり,とりあえず最低限の物資は 供給されているようであった。仮設トイレの汚物 は元々ある下水に流していた。 ○子供たちとのふれあい テント村の中にはイスタンブールのNGOが臨 時幼稚園を開園している。見学に訪れたとき園児 と対話する機会を得たが,「日本で地震がおきる のか」「地震の時はどうだったか」など地震に関 する質問があり,改めて子供たちに対する地震の 影響が強いことを感じた。 撤退の日,診療所と隣接するテント村でボラン ティアの保育活動をしている人(患者として診療 所を訪れた人)と子供たちが送別会を催してくれ た。皆で歌ったり踊ったりした。被災後の苦難の なかでも明るく暮らしている子供たちに逢えたこ とで,ほんとうにこの活動に意義があったと感じ ることができた。また,感謝と感動の気持ちで被 災地を後にすることができた。 医療チームへは,調整員としての参加であるが, 診療を続けていく上で,医療器材の管理は非常に 重要な役割であり,日本から現地に携行した医薬 品,医療資材は,数が限られており,種類によっ ては,不足し現地で調達する必要が生じる。医師, 看護婦は治療に追われ,医薬品・医療資材の知識 がある薬剤師が,それらを調達することにより, 災害緊急援助活動はスムーズに運びその存在意義 は大きいと考える。また,医薬品・医療資材の管 理,在庫量の把握,代用できる医薬品の情報伝達 はもちろん,消毒薬の使用法,医薬品の用法用量 等の情報提供も薬剤師の重要な役割と考える。今 回の災害では,小児用薬品,地震災害後の精神疾 患へ対応する薬品が不足したが,当然災害の種類 によって,病状も異なり医薬品,医療資材の使用 量は大きく異なる。 国際緊急医療チームの管理・運営は,国際協力 事業団事務局が行い,医療チームに参加する意志 のある医師,看護婦,薬剤師,医療調整員等を一 般から募集し,所定の手続きを経て国際緊急医療 チーム登録者として登録される。国際緊急医療チ ームへの薬剤師の登録者数は10名にしかすぎな い。国際緊急医療チームの中で薬剤師のすべき活 動は数多くあるので薬剤師の登録者数を増やし, より多くの薬剤師が国際緊急医療,災害医療に積 極的に参加し,薬剤師の職能を発揮していただき たいと考える。また,国際救急援助に,お金では なく日本人が現地に出向いて国際協力をする必要 性を,本当に理解するまで,一つ一つの派遣で訴 えていくことが必要であると考える。 最後に,地震災害で死亡された人々にたいして はご冥福をお祈り申し上げると同時に,トルコ国 皆様の復興を心よりお祈り申し上げます。

【国際緊急援助医療チームにおける薬剤師

の役割】

図8 「日本人は蜂のように働く」と 現地の新聞で紹介されている

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― 25 ― 都薬雑誌 Vol. 23 No. 3(2001) これから運動やスポーツを始めようとする人も 運動やスポーツを愛好している人も,『メディカ ルチェック』が必要であることは,周知のことで ある。 薬剤師が,メディカルチェックを行うことはな いが,どんなメディカルチェックが行われるかを 知り,運動やスポーツを始めようとする人や運動 やスポーツを愛好している人に指導してほしいも のである。 そこで,今回は日本臨床スポーツ医学会が, 1999年に堤言したメディカルチェックを中心に, メディカルチェックについて解説する。 メディカルチェックには内科的なメディカルチ ェック,婦人科的なメディカルチェック,整形外 科的なメディカルチェック,眼科的なメディカル チェック,耳鼻科的なメディカルチェックなどが あり,年齢,行っている種目,運動量,目的,性 などにより受けるメディカルチェックの内容と頻 度が異なる。 中でも『内科的なメディカルチェック』は年齢, 種目,運動量,目的,性などに関係なく,基本的 なメディカルチェックである。最少限度,突然死 の原因となる循環器系疾患の有無のメディカルチ ェックを受ける必要がある。 現在,運動やスポーツを愛好している人は,1 年に1∼2回の頻度でメディカルチェックが必要 である。

メディカルチェックの概要

はじめに

学童期の小児は,学校で以下のようなさまざま な健康診断(査)が,毎年行われている。 ①身体計測 ②視力・眼科的な病気の有無 ③脊柱・胸郭などの骨の異常の有無 ④聴力・耳鼻科的な病気の有無 ⑤虫歯など歯科的な病気の有無 ⑥結核の有無 ⑦心臓病の有無(含む心電図検査) ⑧腎臓病の有無 ⑨寄生虫感染の有無 ⑩その他 学校で行われる運動部活動や運動クラブ活動の メディカルチェックは,学校で行われる健康診断 (査)の結果を把握することが,最もよいメディ カルチェックである。毎年,学校で行われる健康 診断(査)の結果が,すべて正常ならまず心配す ることはない。 学校で行われた健康診断(査)で少しでも異常 が指摘されたら,なるべく早く小児科医や学校医 やスポーツ医を受診し,運動やスポーツを継続し てよいか確認し,必要があれば治療を受けて,完 治させることが必要である。 学童期になると,さまざまなスポーツクラブに 入会する小児がでてくる。これらの小児の学校運 動部活動以外のスポーツ参加用の診断書とメディ

学校以外の場所でスポーツ活動する

小児のメディカルチェック

小児のメディカルチェック

薬剤師のための臨床スポーツ医学(3)

――メディカルチェック――

東京女子医科大学附属第2病院 スポーツ健康医学部 教授 

あさ

とし

参照

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