別紙1
論 文 審 査 の 要 旨
報告番号 甲 第 2704 号 氏 名 村上 浩史
論文審査担当者
主査 歯科補綴学 馬場 一美 教授 副査 口腔生理学 井上 富雄 教授
副査 高齢者歯科学 佐藤 裕二 教授
(論文審査の要旨)
学位論文「Relationship between swallowing function and the skeletal muscle mass of elderly persons requiring long-term care」について,上記の主査 1 名,副査 2 名が個別に 審査を行った.
【目的】近年サルコペニア等が原因の嚥下機能障害が 注目されているが,その関連報告は少な い.そこで本調査では,要介護高齢者における嚥下機能障害の既知の背景因子以外に,サルコ ペニアの主要因である骨格筋量に注目し,嚥下機能障害との関連性を明らかにすることを目的 として調査,検討を行った.
【対象】秋田県横手市大森町に在住し,要介護認定を受けている性別 ,年齢,既往歴,日常生 活動作指標が判明しているもので,骨格筋量測定,口腔機能検査,改訂水飲みテストがすべて 実施出来た 255 名を分析対象とした.
【方法】改定水飲みテストの結果をもとに対象者を嚥下機能の良・不良の 2 群に分類し,連続 変数では Mann-Whitney U-test を,カテゴリー変数においてはカイ 2 乗検定を実施した.単変 量解析において有意差が認められた項目を説明変数とし,嚥下機能の良・不良を目的変数とし た多重ロジスティック回帰分析を行い,嚥下機能の良・不良に関連する因子の検討を行った .
【結果】嚥下機能の良・不良と各調査項目の単変量解析では ,Barthel Index,SMI,脳血管疾 患有り,認知症あり,臼歯部咬合なし,舌運動,リンシング,SMI 下位 25 パーセンタイル値 以下で有意差が認められる結果であった.嚥下機能の良・不良と関連する項目との関係につい てロジスティック回帰分析を行った.単変量解析の結果,P 値が 0.25 未満であった項目を説 明変数とし,嚥下機能の良否を目的変数とする多重ロジスティック回帰分析を行った .性別 , 年齢で調整したオッズ比を求めた結果,「舌運動」,「リンシング」,「SMI」が有意に嚥下機能と 関連していた.
【結論】嚥下機能の低下と舌運動の不良,リンシングの不良は深く関係していることが示唆さ れ,先行論文と同様の結果となった.また,本研究の結果から,新たに要介護高齢者の嚥下障 害の背景因子として,骨格筋量の低下の存在が示唆された.
(主査が記載)
本論 文の審査に あたり多く の質問があ り,その一 部と回答を 以下に示す . 井上 富雄委員の 質問とそれ に対する回 答
1.先行研究と の違いは何か .
本研究では,要介護高齢者における嚥下障害の背景因子の検討をサルコペニアの主要因であ る SMIに注目し,嚥下機能障害との関連性を明らかにすることを目的に調査を実施した結果,
SMI の低下と嚥下機能低下の間に,嚥下機能低下の既知の背景因子である年齢,口腔機能,
既往歴よりも強い関連が認められた点が,本研究の特筆すべき知見であると考える.
2.骨格筋量と 嚥下スコアに 相関関係は 認められる か .
性別ごとに spearman の相関係数を求めた結果 ,女性において有意な相関が認められた.
また,散布図を作成したところ男女とも MWSTスコアが低下するにつれ,SMIが低下する傾 向にあった.
3.本研究にお いて嚥下障害 とサルコペ ニアの関係 に性差は認 められなか ったか .
嚥下機能低下に関しては カイ二乗検定にて男女差は認められていない .さらに性別を調整し た多重ロジスティック回帰分析の結果,性別に有意差が認められないことから,本研究におい てはサルコペニアと嚥下機能低下の関係に性別が及ぼす影響は低いと考えられる.
佐藤 裕二委員か らの質問と それに対す る回答
1.SMI のカットオ フ値を下 位25 パーセント タイル 値に設定し た理由は何 か .
サルコペニアの診断基準に用いられる SMIのカットオフ値に関しても様々な文献が見られ るが,未だ確定したものは見られない。そのため 今回は新たにある地域の要介護高齢者に限定 した SMIのカットオフ値として 25パーセントタイル値に設定した.
2.今後の展望 について
本研究で得られた知見は高齢者だけでなく,高齢者医療,福祉に携わる多くの人々に有益で 利用しやすい情報と思われ,広く周知され,嚥下機能低下の予防に貢献することを期待したい.
また,本研究は横断研究のため,今回サルコペニアの主要因である SMIの低下と嚥下機能障 害が関連していることは示唆されたが,その因果関係までは解明することは出来ていない.今 後本研究対象の経過を追って検証する必要があると考える.
馬場 一美委員か らの質問と それに対す る回答 1.舌機能とリ ンシングに相 関は認めら れるのか。
今回の統計学的検討においては、舌機能とリンシングの相関係数は 0.544(p<0.001)であ り 、 有 意 な 相 関 を 認 め た 。 一 方 で 、 多 重 ロ ジ ス テ ィ ッ ク 回 帰 分 析 を 行 う に あ た り 、 相 関 係 数 0.80未満であったため、解析上交絡性はないと判断し独立変数としてそれぞれ採用した。
これらの試問に対する回答は,適切かつ明解であった.また,馬場一美委員は主査の立場か ら,両副査の質問に対する回答の妥当性を確認した.以上の審査結果から,本論文を博士(歯 学)の学位授与に値するものと判定した.
(主査が記載)