博士学位論文審査の要旨
【学位論文審査の要旨】
本学位申請論文は、病院看護師が行う調整の実践度を測定する《看護師の調整尺度-病 院看護師用-(Nursing Coordination Scale for Hospital Nurse,以下NCS-HN-)》を開発 し、その信頼性及び妥当性を検証することを目的とした研究である。
研究は大きく1)構成概念の検討と尺度原案の作成、2)《NCS-HN-》の開発、3)
《NCS-HN-》の信頼性及び妥当性の検討、4)《NCS-HN-》と基本属性及び専門職連携教 育(IPE)の関連性の検討の4段階のプロセスを辿った。1)の段階では「看護師の調整」
の概念分析、病院看護師への面接調査、多職種への面接調査をもとに《NCS-HN-》の基盤 となる構成概念を検討し、内容的妥当性の検討を経て《NCS-HN-》の原案を作成した。2)
の段階では、関東圏の病院に勤務する看護師を対象に、《NCS-HN-》の原案を用いて予備調 査を実施し、その結果を基に項目を洗練、及び調査方法の妥当性を検討した。3)の段階 では、2)の段階で作成された《NCS-HN-》32項目版を用いて、全国の病院に勤務する看 護師を対象に行った本調査が実施され、再テスト法も含め 609 名が分析対象となった。探 索的因子分析の結果、尺度構造は 4 因子構造が導かれ、〈合意形成〉〈患者・家族の権利擁 護〉〈チームのエンパワーメント〉〈チーム方針の統合〉の 4 つの下位尺度から成る
《NCS-HN-》26 項目版が最終的に作成された。項目分析、Cronbach’s α係数(全体:
0.94、下位尺度:0.80~0.89)、再テスト法の結果から信頼性が確認され、項目の妥当性、
構造的妥当性(確証的因子分析:GFI=0.880、AGFI=0.854、CFI=0.903、RMSEA=0.067、
パス係数は全て5%水準で有意)、基準関連妥当性の各検討から、妥当性が示された。また、
一連の過程を経て、最終的に病院看護師の調整の定義として、「患者及び家族の権利擁護を 基盤として、患者及び家族の意思と各専門職の方針を統合して合意形成を促し、チームの エンパワーメントを導くこと」を示した。なお4)の段階では、病院看護師の調整と基本 属性及び専門職連携教育(IPE)との関連性を検証する過程を通して《NCS-HN-》の信頼 性及び妥当性を再検討すること目的にカテゴリカル回帰分析が行われ、「看護基礎教育の環 境」、「職位」、「日勤看護補助者数」、「専門職連携教育(IPE)」との関連を示した。
「調整」は看護師が臨床の場において従来から行っている看護の専門性に根ざした実践 であり、コア・コンピテンシーの一つとも言える。しかし実際現場においては、調整は黒 子のような側面も同時に持ち合わせているため、看護師が積極的には語ろうとせず、結果 として現在まで看護師の調整を系統的かつ俯瞰的に捉えた研究は見られていない。本申請 論文の最大の意義は、こうした縁の下で支える看護師の調整を可視化し、下位概念に「権 利擁護」や「エンパワーメント」というダイナミックな看護実践を示した点にある。こう した調整の可視化が、例えば卒前教育においてはモデル・コア・カリキュラムの具体的な 教育の提示や、卒後教育においてはキャリア・ラダーへ組み込むことへ示唆を与えるもの と考える。さらに地域包括ケアシステムにおける病院看護師の調整役割の発揮を促し、本 システム発展の一助となることが期待される。一方、定量化という点においては、統計学 的手法による《NCS-HN-》の関連要因の検討や、看護の質保証として、看護師の調整のア
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ウトカムの可視化につながることも期待される。
審査会では、地域包括ケアシステムを前提に開発しているにも関わらず尺度を病院看護 師に限定した理由、患者及び家族を本研究においてチームに含めていない意図、さらに今 後求められる調整の構造を現状の実態調査を基盤に尺度化したことへの限界について問わ れた。また公聴会では、リッカートの選択肢の立て方や尺度名の妥当性、再テスト法の具 体的な手順等について確認がなされた。これらに対する申請者の回答や意見は、概ね妥当 であり、研究の限界を踏まえた今後の課題についても真摯に受け止め、更なる分析につい ても言及された。
以上のことから、本論文は博士(看護学)の学位論文に相当する水準にあり、学位申請 者は博士(看護学)の学位を授与するにふさわしい専門的知識と能力を備えていると判断 した。