博 士 ( 医 学 ) 今 川 正 吾
学位論文題名
Hepatocyte Growth Factor Regulates E Box ―Dependent PlasmlnogenACtiVatorInhibitor TypelGeneEXpreSS10nlnHepG2LiVerCe11S
(HepG2 細胞における肝細胞増殖因子によるEBox 依存症プラスミノゲン アクチベータインヒビター1 遺伝子発現調節機構に関する研究)
学位論文内容の要旨
背 景
プラスミノゲンアクチベータインヒビター1(plasminogen activator inhibitor type1,PAI‑1)は 線 溶系 の 重 要な 生 理的 阻害因 子であり ,循環血 液中
PA
ト1
濃 度の増加 は心血管疾 患の危険 因子と捉えられている.凝固・線溶系の異常は,インスリン抵抗性患者における心血管疾患罹 患率および死亡率の増加と関連する,肝 細 胞 増殖 因 子
(hepatocyte growth factor
,HGF)
は 血管新生 作用を有 する内皮 増殖因 子である.血清HGF濃度は多くの心血管疾患の重症度と相関し,また,インスリン抵抗性患者 に おい て 血 清HGF
濃 度が 上昇する ことが知 られてい る.培養 肝細胞に おいてHGFはPA
卜1
発 現を促 進するこ とから,HGF
は線溶系 に作用し ,心血管疾患の病態形成に関与する可能性が 示唆される.インスリン抵抗性患者において
PA
ト1レベルが上昇するが,その調節機構は完全には解明さ れていない,インスリン抵抗性患者によくみられる脂肪肝の程度と血清PAI一1レベルは相関する こ と か ら , 肝 臓 は 循 環 血 液 中PA
卜1
レ ベ ル を 規 定 す る 重 要 な 臓 器 と 考 え ら れ る ,本研究 の目的は ,肝細胞 における ,
HGF
によるPA
卜1
発現に 関わる分子 生物学的 機構を解 明 し , 動 脈 硬 化 性 血 栓 症 に 対 す る 新 た な 治 療 法 の 開 発 に 寄 与 す る こ と で あ る .方 法と 結 果
ヒト 肝 細胞 由 来 細胞 株
HepG2
をHGF
で 刺 激 した と ころ , 細 胞培 養 液中 のPAI‑1
濃度 は用 量 依存 性 に 増加 し た(0.5ng/ml
で2.3
士1.3
倍,5ng/ml
で3.5*1.3
倍 ,50ng/ml
で7.9
土2.7
倍,100ng/ml
でll.l士5.6
倍,ウエスタンブロット法,n=3).また,HGF刺激によりHepG2細胞PA
卜1mRNA
発 現は有意に 増加した(0.5ng/ml
で1.7
士0.4
倍,50ng/mlで3
.3
士0
.9
倍,ノーザ ンブロット法,n ̄3),さらに,マウスにHGF(100いg/kg)を静脈内投与したところ,肝臓におけるPAI
一1mRNA発現は有意に増加した(1
.4倍,リアルタイムPCR法).HGF
によ るPAI
ー1mRNA
の増 加 は,mitogen
ーactivatedproteinkinase
(MAPK
)kinase
特異― 26 ‑
的阻害薬U0126およびreceptor tyrosine kinase阻害薬genisteinにより抑制された.一方,
protein kinaseC
経 路 阻 害 薬GF109203X
お よ びphosphatidylinositol3
−kinas
阻 害 薬LY294002
では抑制されなかった.ルシフェラーゼァッセイでは,HGFによるPAI‑1遺伝子プロモーター(ー829〜+36bp領域)活性 の上昇が認められた(
2.0
土0.3倍,n−―5
),短縮プロモーターによる検討で,HGF応答領域は−
171
〜―120bp
に存 在す ると 考え られ た.PA
卜1プロ モー ター‑158
〜―153bp
にEBox配 列(5 −CACATG−3 )が存在する.このEBoxに点変異を導入すると,HGFによるPAI‑1プロモー ター活性の増加は有意に抑制された.このことから,このE BoxがHGF応答配列であると考えら れた.
Electrophoretic mobility shift assay
による検討の結果,このEBox配列には転写因子upstream stimulatory factor
(USF)―1およびUSFー2の二量体が結合し得ることが明らかになっ た.USF
はDNAと 結合 する際 にり ン酸 化を必要とすることから,HGF
によるUSFのりン酸化を検 討 した .HGFで 刺激し たHepG2細胞 の核 抽出 液をUSF―1
特異 的抗 体で 免疫 沈降 し, 抗リ ン 酸 化 セ リ ン抗 体 を 用 い て り ン 酸 化USF
―1を 検出 した とこ ろ,HGF
はMAPK
およ びtyrosine kinase
経路を介してUSFー1をりン酸化することが明らかになった.HepG2
細 胞にUSF
ー1発 現ベ クタ ーを遺伝子導入すると,PAI‑1
遺伝子プロモーター活性は 増加した,HGFによるPAI―1遺伝子プロモーター活性の増加は,転写因子sterol regulatory element binding protein
(SREBP)―laおよぴーlc発現ベクターをそれぞれ遺伝子導入すると抑 制されたがISREBP―2発現ベクターの遺伝子導入では抑制されなかった.さらに,USF−1によるPA
卜1プロモーター活性増加はSREBP―laの共発現により抑制された,このことから,SREBPーla はPAI‑1発現においてUSFー1と相互作用することが明らかになった.考 察
HGF
およぴその特異的受容体であるc―Metがヒト血小板にも見出されることなど,HGFと血栓 性疾患の関係を示唆する報告は数多い.このことから,HGFによるPAI‑1
発現を制御することは 心 血管疾患の治療および予防に寄与すると考えられる.本研究において我々は,HGF
によるPAl‑1
発現調節機構の一部を解明した.HGF
はcーMetに結合し,その細胞内tyrosine kinaseドメインを活性化して多くの細胞内情 報 伝達 物質 を動 員す る.HGF
の 多面的作用はMAPK
およびPI‑3 kinase経路を介してもたらさ れることが知られている.本研究の結果から,HGFによるPA卜1遺伝子発現は,MAPK経路を介 したUSFのりン酸化を経ることが明らかになった.USF
は 遺 伝 子 転 写 調 節 領 域上 のEBox
配列 (5 ‑CANNTG−3 )を 認識 する .HGF
によ るPA
卜1遺伝子プロモーター活性の増加は,転写因子SREBP―laおよび−lcベクターを遺伝子導 入することにより抑制され,さらに,USFー1発現ベクター遺伝子導入によるPA卜1遺伝子プロモから,HGFによるPAト1発現調節機構の解明は,代謝異常と動脈硬化性血栓症を新たに関連 づけるものと捉えることができる.
本研究の成果 は,インスリン抵抗性といった動脈硬化性血栓症の高危険群患者に対する新 たな治療法の開発に寄与することが期待される.
― 28ー
学位論文審査の要旨
学位論文題名
Hepatocyte Growth Factor Regulates E Box ―Dependent PlasmlnogenACtiVatorInhibitor TypelGeneEXpreSS10nlnHepG2LiVerCenS
(HepG2 細胞における肝細胞増殖因子によるEBox 依存症プラスミノゲン アクチベータインヒビター 1 遺伝子発現調節機構に関する研究)
プラス ミノゲ ンアク チベー タ¢ ノヒビター1 (pas血nogenac血繊or,血hibitorロpe1,PAト1)は線溶系の生理 離 艇 齟 子 で あ り , 循 環 血 液 中PA卜1濃 度 の 増 加 は 心 血 管 疾 患 の 危 鰡 子 と 捉 え ら れ てい る . 凝 固 ・線 溶 系 の 異 常 は , イ ン ス リ ン 抵 抗 性患 者 に お け る 心血 管 疾 患 罹 患率 お よ び 死 亡率 の 増 加 と 護耐 る . 舸 潮I胞 増 細 子 (bepaめc舛e罰awm缸 尤or,HGF冫 は 血 管 新 生 作 用 を 有 す る 内 皮 増 殖 因子 で あ る , 血清HGF濃 度 は 多 く の ´ い血 管 疾 患 の 重鑑 渡 と 相関 し,ま た, インス リン抵 あ弛患 者にお いて 血清HGF濃度 が上昇 するこ と が 知 ら れ てい る . 培 養 鼾瀬H胞 に おいてHGFはR虹 ―1発現, を伍鎚 サるこ とから ,HGFは線 溶系に 作用し , 心 血 管 疾 患 の病 臓H繃 こ 関与 す る 可 能 陞カ ミ 示 唆 さ れ る, イ ン ス リ :/抵 抗 性 患者 におい てPAHレベ ルが上 昇 す る が , その 調 節 臓 構 は完 全 に は 解 明 され て い な い .イ ンスリ ン抵抗 性患者 によく みら れる脂 肪肝の 程 度 と 血 清P.AHレ ベ ル は 相 関 す る こ と か ら ,E瀧 ぼ 循 環 血 液 中PAHレ ベ ル を 規定 す る 重 要 な臓 器 と 考 え ら れる. ;本 研究の 目的は ,胴孫 聞包 におけ る,HGFによ るPAト1発現 に関 わる分子生物学轡掩謝冓を解明し,
動 所弼町 ヒ1生血栓 症に 対する 新たた 治療法 の開 発に寄 争する ことで ある.
ヒM瑚 馳 由 来 細 胞 抹H印G2をHGFで 粥 瞰lた と こ ろ , 細 脆 蜂 瀁 液 中 のPAト1濃 度 は 用 量 依 存 牲 に 増 加 し た , ま た ,HGF東I激に よ りHepG2細 胞PAトlmRNA発 夢 む ま有 意 に 増 加 し た, さ ら に , マウ ス にHGFを 静 朋 ヤ 崎 投 与した ところ ,胴: 臓に おけるPA卜lInRNA発 現旧 :有意 にゅ曽 加した .HGFによ るPAト1mRNAの 増
一 之
郎
聡 裕
喜
輪 井
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三 筒
松
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
(5 −CACATGー3')が 存 在 す る . こ のEBoxに 点 変 異 を 導 入 す る と ,HGFに よ るPN‑1プ ロ モー ター 活 性の 増加 は有 意 に抑 市iJさ れた ,こ の こと から , このEBoxがHGF応 答配 列で あ ると 考え ら れた.Eユectrophor出c mo恥 ぢsh沚asSayに よ る 検 討 の 結 果 , こ のEBox配 列 に は 転 写 因 子upStr℃amm弧dataヴ齔tor(USF) ー1お よ びUS卜2の 二 量 錐 が 結 合 し 得 る こ と が 明 ら か に な っ た .USFはDト 弧 と 結 合 す る 際 に り 濯 牝 を 必 要 と す る こ と か ら ,HGFに よ るUsFの り ン 酸 化 を 検 諦 虎 .HGFで 刺 醐 ー たHepG2細 胞 の 核 抽 出 液 をUS卜1 特 異 臓 樹 で 勉 支 沈 降 し , わ 砂 ン 醐 は り ン 抗 体 を 用 い て り ン 醐 匕USF一1を 検 出 し た と こ ろ ,HGFはMAPK お よ ぴ 卿 鹸k缸ase経 路 を 介 し てUSP1を り ン 醐 け る こ と が 明 ら カ 牝 な っ た .HepG2細 胞 にU舛1発 現 バ ク タ ー を 遺 伝 孑 導 入す るとJP甜1遺 伝子 プロ モ ^ー タ丶I一灘 は ±曽 加し た .HGFによ るPA卜1遺 伝 子プ ロモーター活性の 増加は,転写因子Ste賦r昭1】at邨′elem卸tぬdめgpr・ate血(SREBP)ー1aおよびー1c発現ベ ク タ ー を そ れ ぞ れ 遺 伝 子導 入す る と抑 制さ れ たが ,sREBP一2発現 ベ クタ ーの 遺 伝子 導フ 心 は 抑制 さ れな か っ た . さ ら に ,US卜1に よ るPAHプ ロ モ ー タ ー 活 性 増 加 はSREBPlaの 共 発 現 に よ り 抑 制 さ れ た . こ の こ と か ら ,SREB卜 1aは P. 甜 ―1発 現 に お い てUS卜1と 相 互 作 用 す る こ と が 明 ら か に な っ た . I珊 「 お よ び そ の 特 黌墜 珸 醒# ドで あ るc―M乱 が ヒト 血小 板 にも 見出 さ れる こと な ど,H汀と 血栓 性 疾患 の 関 係 を 示 唆 す る 報 告 付 耋 熨 多 い . こ の こ と か ら ,mFに よ るPAト1嬲 き を 制 御 す る こ と は 心 血 管 疾 患 の 治 廉 お よ ぴ 予 防 に 寄 与 す る と 考 え ら れ る . 本 研 究 に お い て 我 々 は ,HGFに よ るPAト1発 瑪 臨 黼 の一 部を 解 明し た.HGFiよ イン ス リン 抵抗 陛 にお いて 過 剰発 呪し ,UsFは 炭7jくイ ば 勿や 糖・ 脂 質代 謝に 関 わ る こ と か ら ,HGFに よ るPA卜1発 呪 誘 嶺 醜 囈購 に 鰍よ ,千 噸 駐異 常と 載 棚随 剛M生 血栓 症 を類 :た に 関連 づけるものと捉え ることができる.
口 頭 発 表 に 際 し , 主 査 の 三 輪 教 授 か ら 内 因 陸 に 弼Fカ 鍵 肋 ロ す る機 序 ,PAト1プ ロモ ー ター に他 の 珊開 麟 鯆 或 カ 淳 在 す る 爾 眺 , さ ら にUSFリ ン 唆fヒ の 局 在 と 意 卦 こ つ い て 質 問 繊 £ さ れ た . 狐 ヽ で 冨 睦 の 桝 謝 授 か ら 血 諦 鮭 に お け る PAI一 1の 意 義 , HGF遺 ぼ 隴 黼 こ お け る 栓 め 爾 眦 こ つ い て 質 問 が な さ れ た . 最 後 に 副 査 の 簡 井 瑚 受 か ら イ ン ス リ ン 抵 碗 陛 に お け る ー ヒ 流 ヌ デ ィ エ 一夕 ー とHGFとの 関 連 , 今 後 の 研 究 の 方 向 性 に つ い て 質 問 が な さ れ た . い ず れ の 質 問 に 対 し て も , 申 請 者 は 研 究 結 果 に 基づいて,あるい は文献貴匂知識に より,概ね適切な回 答を行った.
こ の 論 文 は , イ ン ス リ ン 抵 抗 牲 に お け る 線溶 不 全の 発症 饑 溝を 報告 し たも のと し て,Arほ ぬcl{ 駒s過 m. ombo晦and弧c血B蜘gy諾 で 高 く 評 価 さ れ , 今 後 , イ ン ス リ ン 黝 性 と い っ た 醐 禰 騨 甜 血 樹 め 高危膨群患者に対 する新たな治療法 の開発に寄与するこ とが期待される.
審 査 員 一 同 は , こ れ ら の 成 果 を 高 く 評 価 し , 大 学 院 調 呈 に お け る研 鑚や . 驗得 単出 な ども 併せ 申 請者 が博士(医学)の 学位を受けるのに 充分詮資格を有する ものと半咤した.
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