博士(工学)福原 学位論文題名
HF ー有 機塩 基溶 液を フッ 素化 試薬 とす る 有機フッ素化合物の合成に関する研究
学位論文内 容の要旨
彊
安 価な 素材 の大 量 供給 に大 きな 役割 を果 たし た石 油化 学工 業を有機化学工業の主 流と した 時代 から 変 遷し ,エ レク トロ ニク ス工 業や メデ ィカ ル工業などの異分野の 産業 で要 求さ れる 新 しい 物性 や機 能を 持っ スペ シヤ リテ イあ るいはハイテクケミカ ルの 開発 や供給がわが国のような先進国の化学工業のあ り方として求められている。
当 面目 標となるスペシヤリテイケミカルの対象は新素 材と生理活性物質であって,
前 者 は20世 紀 後 半 最 大 の 技 術 進 歩と 言え る情 報産 業 や宇 宙産 業な どの 分野 に用 い られ る特 殊材 料に , また ,後 者は 生命 の健 全な 維持 に不 可欠 な高活性・高選択的に 作用 する 医薬 ・農 薬 に代 表さ れる 。と ころ で天 然に は存 在し ない有機フツ素化合物 は非 常に ュニ ーク な 特性 を有 して おり ,今 日様 々な 工業 ・産 業分野で最も関心を集 めて いる スベ シヤ ル リイ ケミ カル のー っで ある 。本 研究 はこ のような観点から経済 性 の 高 い 無 水 フ ツ 化 水 素 (AHF) を 基 剤 と し た 試 薬 を 用 い る 高収 率・ 高選 択的 有 機 フ ツ 素 化 合 物 合 成 法 を 開 発 す る こ と を 目 的 と し て 行 っ た も の で あ る 。 本論文は5章から構成されている。
第1章の 序論 では ,有 機化 学工 業に おけ る有 機フ ツ 素化 合物 のス ペシ ヤリ テイ ケ ミ カ ル と し て の 位 置 付 け と 重 要 性 を 明 確 に し , フ ツ 素 化 試 薬と して のAHFなら び にHF一 有 機 塩 基 溶 液 の 性 質 と 特 徴, およ びこ れら を 用い る有 機フ ツ素 化合 物合 威 反応の研究の進歩を概観し,本研究の 目的を述べた。
第2章で は, オレ フイ ン類 のヒ ドロフツ,素化および アルコ―ル類の脱ヒドロキシ ル フ ツ 素 化 反 応 をAHFに ア ミ ン 等 の 有 機 塩 基 を 共 存 さ せ た 溶 液を 用い て行 い, 反 応 に 及 ぼ す 有 機 塩 基 の 影 響 に つ いて 述ぺ た。 その 結 果,HF− メラ ミン 溶液 が水 に よ る 活 性 劣 化 が 他 のHF― 有 機 塩 基 溶 液 に 比 較 し て 小 さ く , 第2級 お よ び 第3級 フ ルオ ロア ルキルを簡便かつ効果的に与えるフツ素化試薬 となることを明らかにした。
また ,反 応を 不均 一 相を 形成 する 四塩 化炭 素や ペン タン を共 存させて行うことによ りHF― メ ラ ミ ン 溶 液 の 反 復 使 用 が 可 能 で あ る こ と を 明 ら か に し た 。 第3章 で は , ハ ロ ゲ ン 交 換 フ ツ 素 化 試 薬 と し て 汎 用 さ れ るKFな どを 用い ると 脱 離 反 応が 優先 する ハロ ゲ ン化 脂環 式ア ルキ ルや 第3級 ハロ ゲン 化ア ルキ ルに 対し , HFーCu20― エ ー テ ル 溶 液 が 定 量 的 か つ 位 置 選 択 的 に ハ 口 ゲ ン 交 換 フ ツ 素 化 を 行 う こ と を 見 い 出 し た 。 一 方 ,C u20をAHFに よ っ て 処 理 し て 得 ら れ る 赤 紫 色 結 晶 を80〜150゜Cで 焼 戚 し て 得 ら れ る 化 合 物 はCuF.1/2H20の 組 成 を も つ 室 温 で 安 定 な 新 規 化 合 物 (CuF様 化 合 物 ) と 考 え ら れ , ピ ピ リ ジ ン のよ うな 塩基 を配 位 させ るこ とに よっ て 第、1級 ハロ ゲン 化ア ルキ ル から 第1級フ ルオロアルキル合成の 為 の 優 れ た 試 薬 と な り , ま た ,AgFに 対 し て も 同 様 の フ ツ 素 化 活 性 を 認 め た 。 第4章 で は ,AHFま た はHF― 有 機 塩 基 溶 液 を 用 い る 芳 香 族 アミ ン類 (ArNH2) の 脱ア ミノ フツ 素化 ( 一段 法/ ジア ゾ化 ―脱 ジア ゾフ ツ素 化) 反応ならびに芳香族ジ アゾニウム塩(ArN2X)の脱ジアゾフツ素化反応による芳香族フツ素化合物(ArF)の合 威について述べている。
第4章1節 で は , ユrFの フ ァ イ ンケ ミカ ル合 成中 間 体と して の重 用性 と既 知の 芳 香核へのフツ素導入反応法について概 説した。
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第4章2節では,ArNH2の脱アミノフッ素化反応の進歩について述ベ,本反応の 特徴や問題点について論じた。
第4章3節では,アニリン(PhNH2)の反応生成物組成とHF/PhNH2比(N)との関 係を明らかにし,反応溶液のiH−nmr観察から,N値の小さい溶液中では基質のNH2基 がNO+の反応を受けてN−ニトロIソアミノベンゼンを経てPhN2+を与え,その熱的な脱 ジアゾフツ素化反応によってPhFを与えるが,N値の大きい条件下では基質はプロト ン 化されてNO+と 反応出来 ないが,昇温することによってHFが一部気化して反応 溶液組成が変化(N値の減少)し,非プロトン化状態の基質が生じることでニトロ ソ化が可能となルニトロソアニリニウムイオンを与える。このような条件下ではこ の中間体は容易にNOを脱離してジフルオロピフウニルやジアミノピフウニル,ター ル様化合物の前駆体であるアニリニウムカチオンラジカルとなるものと結諭した。
こ の知見に基 づいてピ リジンのような有機塩基を別途にAHFに共存させた溶液を 用いて本反応を行った結果,o一位またはp一位に極性基が置換する若干のArNH2を除 くほとんどのArNH2から,ArF合成法として著名なBaltz←Schiemann反応より一段と 優 れた収率で 対応するArFを与えることを見い出した。また,HF―ピリジン溶液 にクロルベンゼンのような不均一相を形成する有機溶剤を共存させて反応を行うこ と により,生成物を連続して有機層から抽出させることができ,HF―ピリジン溶 液の繰り返し使用が可能であることを見い出した。
第4章4節では,HF一有機塩 基溶液を 用いるArNH2の 一段法/ジ アゾ化ー 脱ジ アゾフツ素化反応を紫外線照射下で行った結果,前節の反応方法では良好なArF収 率の得られなかった基質も含めて高収率でArFが得られることを明らかにし,より 複 雑 な 置 換 基 を も つArNH2から の 高選 択 的 なArF合 成の 可 能 性を 示 唆し た 。 第4章5節では以上の知見を基にして,医農薬合成中間体として有用なフルオロ (チオ)フウノールづ頁の合成を目的として,アミノ(チオ)フウノール類を基質と す るHF―ピリジン溶液中での脱アミノフツ素化反応を検討した。その結果,ベン ゾキノン,キノンジアザイド,フウニルピリジン類等が副生すること,およびこれ らの生成機構と反応条件(HFモル分率(XHF),ジアゾ化温度,脱ジアゾ化温度,
紫外線照射効果,基質内置換基)との関連を明かにし,従来の報告例に比較して優 れ て 良 好 な 収 率 で 対 応 す る ArFが 得 ら れ る こ と を 見 い 出 し た 。 第4章6節では,従来脱アミノフツ素化反応を効率良く行うことが困難であった 極性基を持っArNH2からの無水条件下で行うことによる効率的なArN2Xの合成法と,
そ の脱ジアゾフツ素化反応をHF(―塩基)溶液中で熱または紫外線照射下で行う ことによる,高収率ArF合成法について述べた。
第4章7節で は ,HFま たはHFー塩 基 溶 液中 に おけ るArN2X塩 の 脱ジ アゾフ ツ 素化反応速度に及ぼす基質の置換基の影響とその脱ジアゾ化機構について検討し,
得られた速度諭的データからアリルカチオンを中間体とするSnl反応によって進行 していることの示唆を得た。また,速度定数(k)はp―位置換の電子供与基および
.求引基いずれの場合も小さくなることが認められハメット式が適用できないが,
SwamnやTaftの提唱する二元置換基パラメータを合む式に対してはm―およびp―置換 の 基 質 と も 比 較 的 良 い 相 関 が こ れ ら の 速 度 定 数 に 関 し て 得 ら れ た 。 第4章8節で は , アミ ノ 複素 環 芳 香族 化 合物 のAHFおよ びHF― ピ リジ ン溶液 を用いる脱アミノフツ素化反応によって,既知の反応では合成の困難な4一フルオロ ピリジンはじめ対応する複素環フルオロ芳香族を高収率で得られることを見い出し,
また,その脱ジアゾ化速度がPhrN2+のそれより〜l03倍以上も遠いことから,この 場合の脱ジアゾフツ素化は前節で述べたArN2+の分解フツ素化反応機構(Snl反応)
と 異 な るSnAr型 の 遷 移 状 態 を 経 る 機 構 で 進 行 す も の と 考 察 さ れ た 。 第5章では本論文の総括を行っている。
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学位論文審査の要旨
主 査 教授 米 田徳彦 副 査 教授 鈴 木 章 副 査 教授 杉 野目 浩 副 査 教授 横 田和明 副 査 教授 小 林 宏
( 九州大学 大学院総合 理工学研 究科)
学 位論文題 名
HF一 有機塩基 溶液をフツ素化試薬とする有機フツ素化合物の合成に関する研究
今日,わが国のような先進国の化学工業のあり方としてェレク卜ロニクス工業やメディ カル工業などの異分野の産業で要求される新しい物性や機能を持っスペシャリテイあるい はハイテクケミカルの開発や供給が求められている。
当面目標となるスペシャリテイケミカルの対象は新素材と生理活性物質であって,前者 は20世紀後 半最大の 技術進歩 と言える 情報産業や宇宙産業などの分野に用いられる特殊 材料に,また,後者は生命の健全な維持に不可欠な高活性・高選択的に作用する医薬・農 薬に代表される。ところで天然には殆ど存在しない有機フツ素化合物は非常にュニークな 特性を有しており,今日様々な工業・産業分野で最も関心を集めているスペシヤルリイケ ミカルの ーつであ る。本研 究はこの ような観点から経済性の高いフツ化水素(HF)を基 剤とした試薬を用いる高収率・高選択的有機フツ素化合物合成法を開発することを目的と して行われたものである.
第1章の序論では,有機化学工業における有機フツ素化合物のスペシヤリテイケミカル とし て の 位置付け と重要性を 明確にし ,フツ素 化試薬と してのHFな らぴにHF― 有機塩 基溶液の性質と特徴,およぴこれらを用いる有機フツ素化合物合成反応の研究の進歩を概 観し,本研究の目的を述べている。
第2章では,オレフイン類のヒドロフツ素化およびアルコ―ル類の脱ヒドロキシルフツ 素化反応 をHFにアミ ン等の有 機塩基を 共存させた溶液を用いて行い,反応に及ぼす有機 塩基 の 影 響にっい て述ペ,HF− メラミン 溶液は他 のHF―有機 塩基溶液 に比較し て水に よる活性 劣化が小 さく,第2級および 第3級フルオロアルキルを簡便かっ効率良く与える フツ素化試薬となることを明らかにしている。
また , 四 塩化 炭 素や ペ ン タン を 共存 さ せて反 応を液― 液2相系で 行うこと によりHF− メラミン溶液の反復使用が可能であることを明らかにした。
第3章では ,ハロゲ ン化脂環 式アルキ ルや第3級ハ ロゲン化 アルキルがHF−CuこOーエ ーテル溶液により定量的かつ位置選択的にハロゲン交換フツ素化を行うことを見い出した。
一方 ,C U20をHFに よ って 処 理 して 得 られる 赤紫色結 晶を80〜150゜Cで焼成し て得ら れ る 化 合 物 はCuF‑l/2H20の 組 成 を も つ 室 温 で 安定 誼 新 規化 合 物(CuF様 化合 物 ) と考えら れ,ピピリジンのような塩基を配位させることによって第1級ハロゲン化アルキ ル を 第1級 フ ル オ ロ ア ル キ ル に 変 換 さ せ る 優 れ た 試 薬 と な る こ と を 認 め て い る。
第4章では ,HFまたはHF一有機塩 基溶液を用いる芳香族アミン類(ArNHa)の脱アミノ
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フツ素化(ジアゾ化一脱ジアゾフツ素化)反応ならびに芳香族ジアゾニウム塩(Ar NaX)の脱 ジ ア ゾ フツ素 化反応に よる芳香族 フツ素化 合物(ArF) の合成に ついて述 べている ; すなわち,HFを用いるアニリン(PhNH;a)の反応の生成物組成とHF/PhNH2比(N)との 関係,ならびに,反応溶液のlH−nmr観察かち,N値の小さい溶液中では基質のNH‑基が容易 にNO の反応を受けてPhN2゛を与え,その熱分解(脱ジアゾフツ素化反応)によってPhFを与 え,N値の大きい条件下では基質はプロトン化されてNO゛と反応出来ないが,昇温によって HFが 一部気化 して反応 溶液組成 が変化(N値の減少)し,非プロトン化状態の基質が生 じることでニ卜ロソ化が可能と顔ルニ卜ロソアニリニウムイオンを与えることを明らかに した。このような条件下ではこの中聞体は容易にNOを脱離してジフルオロピフウニルやジ アミノピフェニル,タール様化合物の前駆体であるアニリニウムカチオンラジカルとなる ものと結諭した。この知見に基づいてピリ ジシのような有機塩基を別途にHFに共存させ た溶液を用いて反応を行い,o‑位またはp‑位に極性基が置換する若干のArNH2を除くほと ん どのArNH2から,優れた収率で対応するArFを与えることを見い出した。また,HF−ピ リジン溶液にクロルペンゼンのような有機溶剤を共存させて液―液2相系で反応を行うこ とにより生成物を連続して有機溶剤層に抽出させることを可能にし,HFーピリジン溶液の 繰 り 返 し 使 用 を 行 い 得 る 工 業 的 に 有 用 な プ ロ セ ス を 提 示 し て い る 。 ー 方,HF一有 機塩基溶 液を用い るArNH2の一段法/ジアゾ化一脱ジアゾフツ素化反応 を紫外線照射下で行うことにより,常法では良好なArF収率の得られなかった基質も合め て高収率でArFが得ちれることを明らかにし,より複雑な置換基をもつArNH:aからの高選 択的なArF合成の可能性を示唆した。
これらの知見を基にして,医農薬合成中間体として有用なフルオロフウノールおよびチ オフウノール類の合成を目的として,アミノ・フウノールおよぴアミノチオフウノール類を 基質とする脱アミノフ゛/素化反応を検討し,. ベンゾキノン,キノンジアザイド,フウニル ピリジン類等が副生すること,及び、これらの生成機構と反応条件(HFモル分率(XHF),
ジアゾ化温度,脱ジアゾ化温度,業外線照射効果,基質内置換基)との関連を明かにし,
従来法に比較して優れて良好な収率で対応するArFが得られることを見い出している。さ らに,HF(一塩基)溶液中におけるArN2X塩の脱ジアゾフツ素化反応速度に及ほす基質置 換基の影響を検討し,従来不明な点の多い脱ジアゾ分解反応を良`く説明できるアリルカチ オンを中間体とするSN1反応機構を提出している。また速度定数(k)はp一位置換の電子供 与基およぴ求引性基いずれの場合も小さくなり,ハメット式の適用はできないがSwamnや Taftの提唱する二元置換基パラメータを含む式に対してはmーおよびp一置換の基質とも比 較 的 良 い 相 関 が こ れ ら のkに 関 し て 得 ら れ る こ と な ど を 明 ら か に し た 。 ま た,アミ ノ複素環 芳香族化 合物のHFお よびHF―ピリ ジン溶液を用いる脱アミノフ ツ素化反応を行うことによって,既知の反応では合成の困難な4−フルオロピリジンはじめ 対応する複素環フルオロ芳香族を高収率で得られることを見い出し,その脱ジアゾ化速度 がPhrN2゛のそれより〜10す倍以上も遠いことから,この場合の脱ジアゾフツ,素化は前節で 述べたArN2→の分解フツ素化反応機構(SN1反応)と異なるSNAr型の遷移状態を経る機構で 進行するとする重要顔知見を得ている。
これを要するに,著者はスペシヤリテイケミカルとしての重要性に益々高い評価を得て いる有機フツ素化合物の合成を経済性の高いフツ化水素を用いて高選択的・高収率に合成 することを可能にし,さちに有機反応諭的にも未解明であったジアゾニウム塩の分解機構 にも重要な知見を与えるなど,有機フツ素化学のみならず有機工業化学分野の今後の進展 に寄与するところ大である・
よって著者は,北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める.
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