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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 歯 学 ) 小 玉 尚 伸      学位論文題名

     象牙質接着に関する研究

―象牙質表面処理が接着性レジンの接着性に与える影響について一

学位論文内容の要旨

【目的】

  接着性レジンはエナメル質に対して強い接着性を有するが,象牙質に対する接着性は十分と はいえず,これまで多くの検討がなされている,本研究では,象牙質に対する接着性の向上に きわめて有効とされているりン酸と次亜塩素酸ナトリウムによって処理された象牙質被着面に 接 着性 レジ ンを接 着さ せた 場合 の接 着機 構の 解明 を目 的と して 種々 の検討 を行 った.

【材料と実験方法】

実験1.接着強さおよび接着耐久性の検討

  象牙質試料としてヒト健常抜去臼歯の象牙質を露出させ,樹脂包埋後,耐水工メリーペーパ ー#1000まで研削仕上げを行い,A)未処理,B)40%リン酸10秒処理,C)40%リン酸10秒 処理後,10%次亜塩素酸ナトリウム処理5分の3条件で処理した.

  接着試験片としては,直径4 mm,厚さ3mmのSUS304ステンレススチール片を使用した,

  接着性レジンとして(株)クラレ社製パナビア21を使用した.試料は接着30分後に37℃水中 に投入し,24時間保管後,4℃と60℃各1分間の熟サイクルを0,1万,3万,5万回負荷したの ち剪断接着強さの測定を行った.得られた値は一元配置分散分析にて統計学的処理を行い,剪 断試験後の試料の破断面をSEM観察した.

実験2.象牙質表面処理面のESCA分析

  象牙質表面処理面をESCA ‑850((株)島津製作所)を用いて,象牙質の代表的な成分である N, O,C,P,Caに つ い て 深 さ 方 向 に , 各 元 素 の 濃 度 分 布 の 変 化 を 観 察 し た . 実験3.象牙質表面処理面および接着界面のSEMによる観察

  表面処理された象牙質表面および接着性レジンと象牙質との接着界面をSEM観察した.

実験4.接着界面のTEMによる観察・

  抜去後37℃で水中保管されたヒト大臼歯の歯冠中央部を厚さ100,um以下の象牙質板に仕上 げ,条件Cの処理を行い,クラレ社製クリアフイルフォトボンドを塗布して40秒間光照射を行つ た試料と,クラレ社製EDプライマー1分間処理後,シリンジにてマイルドエアーでブローした 後,クリアフイルフォトボンドを塗布し,40秒間光照射を行った試料とを作製し,超薄切を行 いTEMにて観察した.また,一部の試料は中林らの方法に準じて,O.OOlmol/L塩酸に4秒間浸 して樹脂含浸層の観察を行った.

【結果および考察】

実験1

  実験1の結果,条件Aの初期接着強さは20.lMPaであった.これに対し条件B,条件Cではそ

(2)

れ ぞ れ 平 均27.8,27.3MPaで あ り , 条 件Aに 対 し て 有 意 に 高 い 接 着 強 さ を 示 し た .   熱サイクルを負荷することによって条件A,条件Bでは接着強さの有意な低下が見られたのに 対して,条件Cでは熱サイクル5万回負荷後でも接着強さの低下は見られなかった.この結果,

条件Cは特に接着の耐久性について効果があると考えられた.

  実験2〜4の結 果, 条件Aでは 象牙質表面にスメア層が観察され,接着界面には厚さが0.5,u m程度の樹脂含浸層が観察された.レジンタグは細く,疎らであった.また,接着試験の破断面 は象牙質表面のスメア層内での界面破壊がほとんどであったことから,条件Aではスメア層自体が 脆弱なため,接着の破壊がこの層から起こると考えられる.

  条件Bではスメア層は除去され象牙細管が開口し,管間象牙質表面にコラーゲン繊維の露出が見 られた.ESCAにおいてはPとCaの濃度がほぼOになり,無機成分はほとんど残存しないと考えられ た.接着界面には厚さが2メm程度の樹脂含浸層が観察され,レジンタグは太く密生していた.しか し,接着耐久性試験後の破断面の観察から,象牙質内の凝集破壊像が観察され,樹脂含浸層の底部 に脆弱なレジン含有量の少ないコラーゲン層が残存していたことが示唆され,これが接着耐久性の 低下にっながったものと考えられた.

  条件Cでは露出したコラーゲン線維が除去され,象牙細管はさらに開口し,管間象牙質表面は微 細な凹凸が観察され,象牙細管の側枝が開口しているのが明瞭に認められた.ESCAでは表層を含 めてほぽ健全象牙質に近い組成となっていた.接着界面のSEM像では樹脂含浸層ははっきりと確認 できなかったがレジンタグは根元が太くフイラーが入り込み密生していた.さらに,レジンが象牙 細管の側枝にも入り込んでいる像が観察された,破断面のSEM像では熱サイクル負荷前後ともに混 合 破壊 であ った .セ ルフ エッ チン グ作 用の少 ない フォ トボ ンドを用いた試料のTEM観察では 0.0 0lm ol/L塩酸で脱灰することにより厚さが0.1メm程度の樹脂含浸層が確認できた.これまでは同 様な条件において樹脂含浸層は確認できなかったことから,良好な象牙質接着を得る上では樹脂含 浸層が必ずしも必要ではないときれていたが,今回,その存在が確認でき,象牙質接着における樹 脂含浸層の重要性があらためて示唆された.また,EDプライマー処理を行うと,そのセルフエッチ ング作用によルハイドロキシアパタイトを含む約0.5メm程度の健全象牙質に形成された移行的樹脂 含浸層が確認され,この層は接着界面にスメア層や変性コラーゲン層などの劣化を起こす層が介在 することなく,直接健全象牙質内に形成されていることから安定な接着が可能になっているものと 考えられる・

【結論】

1.リン酸処理およびりン酸と次亜塩素酸ナトリウム処理を行った場合,未処理研削面に対する場合 よりも有意にパナビア21の初期接着強さは向上した.

2.未処理研削面およぴりン酸処理面では熱サイクルを負荷することにより,接着強さの低下が見ら たが,リン酸と次亜塩素酸ナトリウム処理を行った場合は熱サイクル5万回負荷後でも接着強さの 低下は認められなかった・

3.リン酸と次亜塩素酸ナトリウム処理を行った象牙質面はスメア層,および脱灰コラーゲン層が完 全に除去され,健全象牙質が露出していた.また,象牙細管および象牙細管側枝が開口し,その表 面には微小な凹凸が形成されていた.この微小な凹凸にレジンが入り込んだことと,太いレジンタ グが形成され,タグの根元にフイラーが入り込み象牙細管側枝にもレジンが入り込んでいたことが 初期接着強さの向上に寄与したものと考えられた.

‑ 150ー

(3)

4.リン酸と次亜塩素酸ナトリウム処理を行った象牙質面にフォトボンドを接着した場合,従来樹脂 含浸層は存在しないとされてきたが,TEM観察においてごくわずかであるが樹脂含浸層の存在が確 認でき,象牙質接着における樹脂含浸層の重要性が示唆された.

5.リン酸と次亜塩素酸ナトリウム処理を行った象牙質面にEDプライマー処理後フォトボンドを接着 した場合,ハイドロキシアパタイトを含むO.5 m程度の樹脂含浸層が確認された.これは,接着阻 害因子となるスメア層や,長期的に不安定な脱灰コラーゲン層が介在せず,直接健全象牙質内に形 成 さ れ て い る こ と か ら 安 定 な 接 着 が 可 能 に な っ て い る も の と 考 え ら れ た .

(4)

学位論文審査の要旨 主査    教 授    内山洋一 副査    教 授    亘理文夫 副査   教授   下河邊宏功

     学位論文題名

     象牙質接着に関する研究

一象牙質表面処理が接着性レジンの接着性に与える影響について―

   本研究は,象牙質被着面に接着性レジンを接着させた場合の接着機構の解明を目 的として3 つの実験から種々の検討を行っている.

実験1 接着強さおよび接着耐久性の検討

   ヒト健常抜去臼歯の象牙質を被着試料とし,A )未処理,B )40 %リン酸10 秒処 理,C )40 %リン酸10 秒処理後,].O %次亜塩素酸ナトリウム処理5 分の3 条件で処 理した.

   接着試験片としては,直径4mm ,厚さ3mn のSUS304 ステンレススチール片を使用 した.

   接着性レジンとして(株)クラレ製パナビア21 を使用した.試料は接着30 分後に 37 ℃水中に投入し,24 時間保管後,4 ℃と60 ℃各1 分間の熱サイクルを0 , 1 万,3 万.5 万回負荷したのち剪断接着強さの測定を行った.得られた値は一元配置分散 分 析 に て 統 計学的 処理 を行 い, 剪断試 験後 の試 料の 破断面 を SEM 観 察し た.

実験2 象牙質表面処理面のESCA による分析

実験3 象牙質表面処理面および接着界面のSENI による観察 実験4 接着界面のTEM による観察

   抜去後37 ℃で水中保管されたヒト大臼歯の歯冠中央部を厚さ100 〃m 以下の象 牙質板に仕上げ,条件C の処理を行い,クラレ社製ク1J アフイルフォトボンドを塗 布した試料と,クラレ社製ED プライマー1 分間処理後,クリアフイルフォトボンド を塗布した試料とを作製し,超薄切を行い,観察した.また,一部の試料は樹脂含 浸層の観察を行った.

結果および考察

   実験1 の結果,初!引接着強さは条件A は条件B ,条件C に対して有意に高い接着強 さを示した.

   熱サイクルを負荷することによって条件A ,条件B では接着強さの有意な低下が

見られたのに対して,条件 C の処理では熱サイクル5 万回負荷後でも接着強さの低

(5)

下 は児 ら れな か っ た, このこ とは条件Cが 接着の耐 久性に貢 献してい ると考え られ た.

  実 験2〜4の 結果 , 条 件Aでは 象 牙質 表 面 にス メ ア層 が 観 察さ れ ,接 着 界 面に は 厚 さが0.5Pm程 度 の樹 脂含 浸層が観 察された. また,接 着試験の 破断面は 象牙質表 面のス メア層内 での破壊が ほとんど であった ことから ,スメア 層自体が 脆弱な層と 考えら れる.

  条 件Bで はス メ ア 層は 除去され 象牙細管が 開口し, 管間象牙 質表面に コラーゲ ン 繊 維の 露 出が 見 ら れた .ESCAにお い て はPとCaの濃 度がほ ぼ0になり ,無機成 分は ほとん ど残存し ないと考え られた. 接着界面 には厚さ が2 m程度 の樹脂含 浸層が観 察され たが,接 着耐久性試 験後の破 断面の観 察から, 象牙質内 の凝集破 壊像が観察 され, 樹脂含浸 層の底部に 脆弱なレ ジン含有 量の少な いコラー ゲン層が 残存してい た こ と が 示 唆 さ れ , こ れ が 接 着 耐 久 性の 低 下に っ な がっ た も のと 考 えら れ た .   条件Cで は露出し た・コラー ゲン線維 が除去され,象牙細管はさらに閉口し,管間 象牙質 表面は微 細な凹凸が 観察され ,象牙細 管の側枝 が開口し ているの が明瞭に認 め られ た .ESCAで は 表 層を 含 めて ほ ぼ 健全 象 牙質 に近 い組成と なってい た.接着 界 面のSEM像で は 樹 脂含 浸層はは っきりと確 認できな かったが ,レジン が象牙細 管 の 側枝 に も入 り 込 んで いる像 が観察され た,破断 面のSEM像で は熱サイ クル負荷 前 後とも に混合破 壊であった .セルフ エッチン グ作用の 少ないフ ォトボン ドを用いた 試 料のTEM観察 で はO.OOlmol/L塩 酸で 脱 灰 する こ とに よ り 厚さ がO.lメm程 度 の 樹 脂含浸 層が確認 できた.

  これら の結果か ら次の結論 を得てい る.

1.未処 理研削面 およびりン 酸処理面 では熱サ イクルを負荷することにより,接着強 さの低 下が見ら たが,リン 酸と次亜 塩素酸ナ トリウム 処理を行 った場合 は熱サイク ル5万回 負荷後で も接着強さ の低下は 認められ なかった .

2.リン 酸と次亜 塩素酸ナト リウム処 理を行っ た象牙質面にフォトボンドを接着した 場 合,TEM観察 に お いて ごくわず かであるが 樹脂含浸 層の存在 が確認で き,象牙 質 接着に おける樹 脂含浸層の 重要性が 示唆され た.

3.リン 酸と次亜 塩素酸ナト リウム処 理を行っ た象牙質面にEDプライマー処理後フオ トボン ドを接着 した場合, ハイドロ キシアパ タイトを 含む0.5バm程 度の樹脂含浸層 が確認 された. これは,接 着阻害因 子となる スメア層 や,長期 的に不安 定な脱灰コ ラーゲ ン層が介 在せず,直 接健全象 牙質内に 形成され ているニ とから安 定な接着が 可能に なってい るものと考 えられた .

  こ のような研 究内容に ついて主 査および 剛査が一堂に会し,口頭により試問と審 ゴたを行った.接着の機構,接着界而の構造などについて多方lflJから質問が試みられ た が.いずれ も適切に して十分 な解答が 得られた.巾でも接着耐久性に関連して樹 脂 含浸層の重 要性を指 摘したこ とは価値 があり,博士(歯学)の学位を授与するに 他することを審査員一同が認めた.

参照

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