博 士 ( 理 学 ) 針 ケ 谷 弘 子
学 位 論 文 題 名
Studies on the Stereochemistry of Gymnopilins, the Poisonous Principles of Gyrnnopi2us spectabilis.
( オ オ ワ ラ イ タ ケ の 毒 成 分 ジ ム ノ ピ リ ン 類 の 立 体 化 学 に 関 す る 研 究 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
本 論 文 は 幻 覚 性 の 毒 キ ノ コ オ オ ワ ラ イ タ ケ の苦 味 成 分と し て 単離 さ れ たジ ム ノ ピ リン 類 の 立 体 化 学 、 特 に 連 続 し た1,5‐ ポ リ オ ー ル 部 分 の 立 体 化 学 に つ い て 、 得 ら れ た 研 究 成 果 を ま と め た も の で あ る 。 本 研 究 は 、 当 研 究室 で 海 産性 ポ リ エー テ ル の全 合 成 研究 の 際 に見 出 さ れ たv0(acac) ユ を 用 い る ビ ス ホ モ ア リ ル ア ル コ ー ルの エ ポ キシ 化 反 応を 、 ジ ムノ ピ リ ン類 の ポ リ オ ー ル 部 分 の 構 築 に 適 用 し て 種 々 の 異 性 体 を 合 成 し 、そ れ ら と天 然 物 とを 比 較 して 立 体化 学 を 決 定す る こ とを 目 的 とし て 行 なわ れ た 。従 っ て 、研 究 の 遂 行に お い ては 、 立 体化 学を 明 確 に す る こ と を 最 重 要 課 題 に 取 り 上 げ 、 立 体 化 学 の 確 立 され た 合 成法 を 採 用す る こ とと し た 。 そ こ で 合 成 方 法 諭 の 確 立 と 異 性 体 間 の 分 光 学 的 な 区 別 法を 確 立 する た め 、ま ず 初 めに 簡 単 な モ デ ル 化 合 物 の 合 成 を 行 な っ た 。 そ の 際 、 イ ソ プ レ ノ イド の 生 合成 を 考 慮に 入 れ 、ジ ム ノ プ レ ノ ー ル の 連 続 的 な1,5‑ポ リ オ ー ル 構 造 は 全 て 同 一 の 立 体 配 置 を 有 し て い る もの と 想 定 し て 、all‑synの 立 体 化 学 を 有 す る 化 合 物 の 合 成 を 中 心 に 研 究 を 行 っ た 。 ま た 、 そ れ ら の 結 果 か ら 、 新 た に 三 級 水 酸 基 に も 導 入 可 能 な 光 学 活 性 な 保護 基 の 必要 性 に 迫ら れ 、 キラ ル な エ ー テ ル 化 剤 を 開 発 し た 。 こ の 試 薬 の 有 用 性 に つ い て 検 討を 加 え るー 方 、 天然 物 の 誘導 体 に こ の 試 薬 を 反 応 さ せ 、 合 成 品 と の 比 較 か ら 、 最 終 的 に 天 然物 の 立 体化 学 を 推定 し た 。本 論 文は 、 序 章 と5章 か らな る 本 文に よ り 構成 さ れ てい る 。
序 章 で は 、 ジ ム ノ ピ リ ン 類 に つ い て こ れ ま で 報 告 さ れ てい る 研 究の 概 要 を述 べ る と共 に 、 こ の 化 合 物 の 有 用 性 並 び に 立 体 化 学 を 決 定 す る 意 義 お よ び 必 要 性 に つ い て 触 れ た 。 ゛ 第1章 で は 、 天 然 物 の 抽 出 に つ い て 記 し た 。 以 前 、 当 研 究 室 朝 倉 に よ り 抽 出 方 法 は既 に 確 立さ れ て い るが 、 合 成研 究 に 先立 ち 抽 出を 行 な った 。 朝 倉の 方 法 に 若干 の 改 良を 加 え 、ま た、
HPしCを 用 い た 分 析 も 併 せ て 行 な い 、 報 告 通 り 炭 素 激 の 違 う 物 質 が 存 在 す る こ と を 確 か め ると と も に 、そ れ ら を分 離 精 製し た 。
ー13―
第2章 で は 、 ジ ム ノ ピ リ ン 類 を 加 水 分 解 し て 得 ら れ る ジ ム ノ プ レ ノ ー ル に つ い て 、 そ の 逆
合成と合成の方法論について諭じた。
1,5‑ ポリオール部の構築には、前述のようにピス ホモアリルアルコールのエポキシ化反応と、生成したエポキシアルコールの位置選択的還元 反応を鍵反応として用いることとした。本合成法の利点は、数多くの反応例からエポキシド の立体化学を容易に推定できること、また、それらを対応する五員環エーテルヘ誘導するこ
と に よ り 、 生 成 物 の 立 体 化 学 を 容 易 に 確 認 で き 、 確 実 に1,5‑ジ オ ー ル 部 の 立 体 化 学 を 決 定 で き る こ と で あ る 。 逆 合 成 に つ い て は 、 ジ ム ノ プ レ ノ ー ル 骨 格 を 炭 素 数15ま た は10の ユ
ニットに切断し、三級不斉アルコール部分の導入を行ないながら順次炭素鎖の延長を行なう という方法を立案した。
第3章 で は 、 天 然 物 よ り も 炭 素 鎖 の 短 い モ デ ル 化 合 物 の 合 成 に 関 す る 詳 し い 説 明 を 記 載 し た 。 第2章 で 示 し た 方 法 諭 に 沿 い 、 合 成 を 行 な っ た か 、 こ の 際 原 料 と な る 炭 素 数15お よ び 10の ユ ニ ッ ト は 、 そ れ ぞ れ 容 易 に 入 手 可 能 な フ ァ ル ネ ソ ー ル お よ び ゲ ラ ニ オ ー ル か ら 数 工 程 を 経 て 調 製 し た 。 す な わ ち 、 最 初 に フ ァ ル ネ ソ ー ル ユ ニ ッ ト を 合 成 し 、2個 の キ ラ ル な 三 級 水 酸 基 を 構 築 し た 後 、 ゲ ラ ニ オ ー ル ュ ニ ッ ト を 結 合 さ せ て 炭 素 鎖 を 延 長 し 、 炭 素 数 25の セ グ メ ン ト を 合 成 し た 。 こ の 化 合 物 に 再 び 、 新 た な 三 級 水 酸 基 を 導 入 し た 後 、 末 端 の ト リ オ ー ル 部 を 結 合 し て 、 炭 素 数40か ら な る モ デ ル 化 合 物8種 類 の 異 性 体 を 合 成 し た 。 そ れ ら を 対 応 す る MOMエ ー テ ル 体 ヘ 誘 導 し た が 、 こ れ ら は IH‑NMRお よ び 13C̲NMRス ペ ク ト
ル等では全く区別ができず、また、高速液体クロマトグラフでも分離できないことが判明し た。
第4章 で は 、 第3章 の 異 性 体 区 別 の 問 題 を さ ら に 掘 り 下 げ 、 三 級 ア ル コ ー ル が2個 結 合 し た 化 合 物 を ニ 種 類 合 成 し て 種 々 検 討 し た 結 果 と 、 そ の 研 究 の 途 上 で 発 見 し た 新 た な 光 学 活 性 試 薬 の 有 用 性 に つ い て 記 し た 。 異 性 体 の 区 別 に 閲 し て は 、 先 ず 市 販 の 保 護 基 を 種 々 検 討 し て み た と こ ろ 、 ア セ チ ル 基 、 ペ ン ゾ イ ル 基 等 の エ ス テ ル 系 の 保 護 基 は 何 れ も 複 雑 な 混 合 物 を 与 え る こ と か わ か っ た 。 さ ら に 、 天 然 物 の 構 造 決 定 に 利 用 さ れ て い るMTPAも 同 様 に 複 雑 な 生 成 物 を 与 え た 。 一 方 、 ベ ン ジ ル 基 、MOM基 、BOM基 等 の エ ー テ ル お よ び ア セ タ ー ル 系 の 保 護 基 は 収 率 よ く 導 入 で き る こ と が 判 明 し 、 さ ら に ベ ン ジ ル 基 、 MOM基 の 場 合 に は ジ ム ノ プ レ ノ ー ル の 全 て の 水 酸 基 が こ れ ら に 置 き 代 わ っ た 化 合 物 を 与 え る こ と が わ か っ た 。 次 に キ ラ ル な 保 護 基 の 導 入 に よ る 立 体 化 学 の 区 別 を 試 み た 。 前 述 の よ う に 、 ア セ タ ー ル 型 の 保 護
基は三級水酸基にも導入できることが判明したので、光学活性なMTPA をアセタール化剤 に変換して導入を検討した。モデル化合物の1 ,
5‑syn‑ジオールを有する化合物と、
1,
− 14−
5‑anti‑ジ オ ー ル を 持 っ 化 合 物 に 適 用 し た と こ ろ 、BOM基 の 時 と 同 様 に1,5. ジ オ ー ル 部 分 の み 保 護 さ れ た 生 成 物 か 得 ら れ た 。 こ れ ら の lH‑NMRお よ び ユ 。F‑NMRス ペ ク ト ル を 比 較 検 討 し た と こ ろ 明 ら . か な 差 異 か 認 め ら れ 、 こ の 方 法 で 初 め て 異 性 体 を 区 別 で き る こ と が 判 明 し た 。 こ れ ま でMTPA試 薬 に つ い て は 、 そ の 有 用 性 は 広 く 知 ら れ て い る も の の 、 複 雑 な 三 級 水 酸 基 に 直 接 導 入 し た 例 は 殆 ど 報 告 さ れ て い な か っ た 。 こ れ に 対 し 、 新 た に 開 発
し た 試 薬 は 、 三 級 水 酸 基 に 直 接 か つ 高 收 率 で 導 入 で き る た め 、 今 後 天 然 物 の 構 造 決 定 に 広 く 寄 与 す る も の と 期 待 さ れ る 。
第5章 で は 、 天 然 の ジ ム ノ ピ リ ン 類 の 構 造 推 定 と そ の 根 拠 と な る 各 種 ス ペ ク 卜 ル デ ー タ に ついて記 載した。 天然物の ジムノプ レノール から誘導 した化合物 に第5章で開発した試薬を 反 応 さ せ 、 得 ら れ た 生 成 物 と 化 学 合 成 し た 8種 類 の 異 性 体 の lH‑NMRお よ び | OF‑NMR ス ペ ク 卜 ル を 比 較 す る こ と に よ り 、 ジ ム ノ ピ リ ン 類 の 立 体 化 学 を 推 定 し た 。
以 上 、 本 論 文 で は オ オ ワ ラ イ タ ケ の 毒 成 分 の 本 体 で あ る ジ ム ノ ピ リ ン 類 の 立 体 化 学 に つ い て 、 以 下 に 示 す よ う な 結 諭 に 到 達 す る こ と か で き た 。
O H
nz=l, 1z=7, 8, 9 m=2, n=5, 6 m=3, n=5, 6
Gymnopilins
− 15―
学位論文審査の要旨
主 査 , 教 授 宮 下 正 昭
副 査 教 授 村 井 章 夫 副査 助教授 中村英士 副 査 講 師 松 田 冬 彦
学 位 論 文 題 名
Studies on the Stereochemistry of Gymnopilins, the Poisonous Principles of Gymnopilu.s spectabilis.
(オオワライタケの毒成分ジムノピリン類の立体化学に関する研究)
本 論 文は 総 ぺ ー ジ 数
146の 英文論 文で あり 、幻覚 性の 毒キ ノコ 、オオ ワラ イ タケ の毒 成分と して単離されたジムノピリン類の立体化学、特に連続した
1.
5−ポ リ オ ー ル 部の 立 体 構 造 の 決 定 にっ いて 論述し たも ので 、別 に参考 論文
2編 が添 え られている。
近年 の微量 分析技術の飛躍的発展により、古くから注目されてきた毒キノコ類 の重 篤ナ ょ中毒 症状や異常な幻覚症状を引起こす毒成分の化学構造や作用機序が相 次い で明 らかに され てい る。 オオヮ ライ タケ の毒 成分の 本体 であ るジム ノピ リン は 、 こ れ ま で
7種 類 の 類 縁 体 が 単 離 さ れ て い る が 、 何 れ も 複 数 (
5〜
9) 個 の
1,
5− ポ リオ ー ル 構 造 と プ レ ニ ル 構 造が 連 続 的 に 結 合 し た 炭 素数
45〜
60から 成 る直 鎖状 のポリ プレ ノー ル誘 導体で ある 。そ れら の立体 構造 に関 しては 、末 端の トリ オー ル部の 絶対構造が明らかにされているのみで、肝心の1 .5 ―ポリオ―ル部 の立 体化 学にっ いて は全 く解 明され てい ない 。こ れは、 孤立 した 三級水 酸基 の絶 対配 置を 決定す る有 効な 方法 が未だ 開発 され てい ない上 、ジ ムノ ピリン 類の ポリ オ ー ル 部 に は こ の 様 な 孤 立 し た 三 級 水 酸 基 が 数 多 く 存 在 す る た め で あ る 。
申請者針ケ谷弘子は、有機合成的手法によるジム丿ピリン類の
1,5 −ポリオ―ル 部の 立体 化学の 解明 と孤 立し た三級 水酸 基の 絶対 配置決 定法 の開 発を目 指し て、
本 研 究 に 着 手 し た 。先 ず 始 め に 、
8種 類 の 異 な った 立 体 構 造 を 有 す る 炭 素 数
40の 光 学 活 性な プ レ ノ ー ル 類 、 即 ち
4個 の三 級 水 酸 基 が 炭 素
5個 を隔 てて連 続的 に
結 合 し た
8種 類 の テ ト ラ オ ― ル 類を合 成し 、そ れらの 化合 物の 保護 基の違 いに よ
―
16―
る 立 体化 学 の識 別 を詳 細 に 検討 し た。 そ の結 果 、エ ス テル 系 の保 護基は三級 水酸 基 固 有の 立 体障 害 のた め に 何れ も 利用 で きな い こと が 明ら か にな る一方、エ ーテ ル 系の保護 基は種々の タイプの三 級水酸基に 収率よく導 入できるこ とが判明し た。
そ こ で 上 記 の
8種 類 の テト ラ オー ル 類に 同 一の 汎 用エ ー テル 保 護基 を 導 入し て 、 そ れ ぞ れ の 誘 導 体 の 識 別 を 最 先 端 の
NMR装 置 や
HPLC分 析 装 置 を 用 い て 検 討 し た が、 立 体異 性 体の 識 別 は全 く でき な かっ た 。多 く の実 験 を積 み重ねた結 果、
最 終 的に キ ラル な ェー テ ル 系保 護 基が 有 効で あ るこ と を突 き とめ た。そして 新た に フッ素を含 む2 種の キラルなエーテル化剤、(R )及び(
S)‑1 ーメトキシ−
1−トリ フルオロメチル‑1 ―フェニルエチルトリメチルシリルエーテル (C6H5C (OCH3 )(CF3)
CH20 Si(
CH3)
3)を 開 発 し 、 こ れ ら の 試 薬 を 用 い て 合 成 し た 化 合 物 の
19FNMRス ペ ク ト ル に よ り 、 始 めて
8種類 の 立体 異 性体 の 識別 が 明確 に でき る こ とを 発 見 し た 。 こ れ ら の 知 見 を 基に 、
5個 の プレ ノ ール 構 造を 含 む天 然 のジ ム ノ ピリ ン か ら 誘 導 し た ぺ ン タ オ ー ルと 新 たに 合 成し た
8種 類 の光 学 活性 な ぺン タ オ ール 類 と の
19FNMRス ペ ク ト ル お よ び 比 旋 光 度 と の 比 較 か ら 、 こ れ ま で 不 明 で あ っ た ジ ム ノピ リ ン類 の
1.
5− ポリ オ ール部の 立体化学は 全て同一で 、
aー シンの立体 構 造を有しているという結論に達した。
本研 究 で 開発 さ れた キ ラル な エー テ ル化 剤 及び 立 体化 学 の識 別法 は、これま で 困 難 とさ れ てき た 三級 水 酸 基の 絶 対配 置 の決 定 法に 道 を拓 く もの であり、有 用性 を 含 めて 高 く評 価 され る 。 審査 員 一同 は 、本 論 文の 提 出者 針 ケ谷 弘子が博士 (理 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 備 え て い る も の と 認 定 し た 。
GymnoplnnS m=l, n=7, 8, 9 m=2, n=5,6 m=3, n=5,6
― 17ー