博 士 ( 理 学 ) 谷 口 透
学 位 論 文 題 名
Carbohydrates and Natural Products Analysis via VCD (VCD に よ る 糖 お よ び 天 然 物 の 解 析 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
分子の光学活性は創薬化学、生命現象解明において重要な研究分野であるが、分析法は限 られている。紫外領域円二色性(ECD) はこれまで広く用いられてきたキラル分光法である が、対象とずる分子が紫外領域に吸収を持たなけれぱならず、また得られたスペクトルの解 釈が困難であるといった短所を持っ。
そこで本研究では近年新 たに開発された
CDである赤外円二色性(VCD) に着目した。VCD は分子振動遷移における赤外領域での左円偏光と右円偏光の吸収の差を測定する。全ての有 機化合物に応用可能であり、また広範囲かっ詳細なスペクトル情報が得られ、理論計算を用 いたスペクトルの予測も容易で信頼性も高いといった利点において、光学活性を持つ分子全 般の解析において非常に強カな手法である。本論文ではVCD を用いた、様々な複合糖質と 天然物の新規キラル分析法の開発と応用について述べる。
第一章ではVCD にっいての理論的、実験的な基礎を述べるとともに、その歴史と現在の 応用例について簡潔に述べた。
第二章では、各種天然物への
VCDの応用について述べた。天然物の絶対立体化学の決定 は従来、全合成を行う、発色団や内部標準を化学的に導入するなど煩雑な操作が要求され、
またX 線結晶学を用いる場合にはサンプルを結晶化させなければならなぃといった制約が あった。そこで本研究ではVCD を用いて、測定スペクトルと理論予測スベクトルを比較す ることにより、化学変換の必要なく溶液状態で各種天然物の絶対立体化学を帰属してきた。
これらの天然物の中には、従来法では帰属が困難な第3 級アルコール、スピロ立体中心、ハ ロゲン置換基を有する立体化学、過酸化物などが含まれている。これらの化合物の合成、も しくは単離による調製法も簡潔に述べた。
第三章では、各種糖・複合糖質へのVCD の応用について述べた。近年、糖鎖の生体内に おける重要性が明らかになるとともに、糖鎖の分析研究が盛んに行われている。しかし、糖 の構造の複雑さのため分析は容易でなく、新たな分析法の開発が望まれている。糖はいわぱ 不斉炭素の集積体といえるが、そのキラル情報に着目した分析法はほとんどなく、NMR や
MSなど光学不活性な手法に 基づぃて糖の分析が行われている。そこで本研究ではVCD を 用いることにより糖の立体化学に基づく全く新しい分析法を開発できると考えた。VCD の 糖への応用はほとんど報告されておらず、未開拓の研究領域である。本研究では包括的な糖
VCDデータベースをまず構築し、これをもとにVCD のパターン認識による糖の識別の方法 論を創造し、実用化させることを目標とした。
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各種 糖類 を 赤外 指紋 領域(1600‑1100cm‑1)に おい てVCDを 測定 した 結 果、a−グ リコシド 結合を持つ 糖にのみ1145cmIl付近に強 くシャープな負のVCDバンド 、「Glycoside band」が共 通に現れる ことを見出した。本バンド は初めての糖構造一VCDスペ クトル相関の報告であり、
NMR以 外で の最 初の 実用 的 なア ノマー立体化学 決定法の発見である。本バン ドを用いたa:6 比 の定 量も可能であ った。さらに、酵素による 多糖の分解過程をモニタリン グすることにも 成 功し た。 本 研究 は酵 素反 応をVCDによ っ てモ ニタ ーし た初 の 報告 例で あり 、生 化学研究 へ のVCDの 応用 を初 めて 提 示し た。 本バ ン ドの 振動 モー ドに っ いて 、モ デル 化合 物を調製 し 、 測 定 ス ベ ク ト ル と 理 論 ス ペ ク ト ル を 比 較 す る こ と に よ り 検 討 し た 。 次に 、各 種 の糖 を網 羅的 に測 定 する こと によ り、 立 体配 置の わず か な違 いで もVCDスペ クトルは顕 著に変化することを見出し、本データベースを用いて糖の種類の識男I亅も可能であ る こと を示した。さ らに、特定の立体中心付近 の水酸基に官能基を導入し、 その官能基に基 づ くVCDを 観測 する こと に よっ て、 複数 あ る立 体化 学の うち ー っの 立体 化学 だけ を抽出し て観測しう ることを初めて示した。
また 、C‑H伸 縮振 動領 域 く3050‑2750cm‑I)に おいてグルコース二糖11種類 を測定すると、
結 合位 置の 違 いに よっ てVCDパ ターンが劇的に 異なり、識別が可能であるこ とが示された。
糖 ユ ニ ッ ト 問 の 水 素 結 合 詮 ど 局 所 環 境 が 反 映 さ れ た 結 果 と 考 え . ら れ る 。 第四章で は以上の内容について総括 した。
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学位論文審査の要旨
主 査
助 教 授門 出 健 次
副査 教授 田中 副査 教授 出村
勲 誠
学位論文題名
Carbohydrates and Natural Products Analysis via VCD (VCD による糖および天然物の解析)
糖は非 常に多 様性 に富む 構造を 持ち、 その 構造解 析はNMR、質量分析などの手法を相補的に用いる ことに より行 われて きた 。しか し、糖の根本的な性質であるキラリティーに着目した手法は旋光度や uv−CDな どごく 限られ ていた 。 .
本論文 は、赤 外領 域の円 二色性 であるVCDを 精力 的に糖 鎖に用 いるこ とに より、 無保護 の状態 で も糖の キラリ ティー に基 づく構 造情報 を抽出 できる こと を示し た。著 者は、 これ までの 糖VCDのア プロー チと異 なり、 系統 的に糖 を測定 してい くこと によ り、糖 のアノ マーがaxialのグリ コシド 結 合をと ってい るとき のみ に観察 される、「Glycoside band」を発見した。さらに、本バンドがアノマ ー立体 化学と ともに 糖の コンフ ォメー ション を帰属 しうることを示した。本指標は、糖構造―VCDス ペ ク ト ル 相 関 と し て は 初 め て の も の で あ り 、 糖VCDの 先 駆 的 研 究 に な る と 考 え ら れ る 。 さらに 、この バン ドの振 動モー ドにつ いて 、同位 体置換 実験と 理論計 算によるアプローチにてそ の振動 を帰属 した。 理論 計算に おいて 、糖は 構造が フレ キシブ ルであ り、水素結合性溶媒の影響の ため 理 論 計 算 と実 測 でず れが生 じるこ とが糖VCD計算の 問題点 だった が、著 者はaxialグ リコシ ド のモデ ル化合 物を適 切に デザイ ンする ことに より、 非常 に一致 のよいVCDの 予測ス ペク トルを 得る ことに 成功し た。本 研究 は糖VCD研究 に初め て精度 の高 い理論 計算ア プロー チを取 り入 れたも ので あり、 この研 究を規 範に 今後こ れ以外の有用な構造―スペクトル相関が検討されていくものと期待さ れる。
また、 各種複 合糖 質の解 析、酵 素反応 のモ ニタリ ングな ど既存 の枠組 みを 越えたVCDの 応用展 開 を行 っ て お り 、将 来VCDが糖 構 造 解 析 の強 カ な ツ ー ルと な り う る こと を 示 唆 す る 結果 を 得た 。 これを 要する に、 著者は 、最初 のVCDスペク トル 一糖構造相関を深く研究していくことを通じ、糖 VCD研 究 全 体 を 飛 躍 的 に 向 上 さ せ る 種 々 の 応 用 や 新 し い 方 法 論 を 創 成 し た 。 よ っ て 著 者 は 、 北 海 道 大 学 博 士 ( 理 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る 。
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