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大動脈から起始する冠状動脈奇形 : その血管造影所見と臨床的意義、特に心筋虚血との関係に関する研究

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Academic year: 2021

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Anomaly of the Coronary Artery Arising from the Aorta:

Study of Angiographic Features and

Clinical Significance Including Myocardial Ischemia

Tatsuo ISHIKAWA

Department of Pediatric Cardiology (Director: Prof. Atsuyoshi TAKAO), Heart Institute ofJapan

Tokyo Women's Medical College

Purpose of this study is to determine angiographic definitions of anomalous arotic origins of the coronary artery and to review their clinical significance. Materials consisted of 20 cases with anomalous aortic origin of the coronary artery. In 19 cases diagnosis was made angiographically. In another case diagnosis was made by necropsy.

When the left coronary artery arises anomalously from the right sinus of Valsalva, 4 courses of

the left cornary artery have been described. On angiographic features of these courses, an interarterial course showed a cranial posterior loop, an anterior free wall course a cranial anterior loop, a septal

course a caudal anterior loop, and a retroaortic course a caudal posterior loop. In other types of anomalous coronary arteries, no major difficulties were encountered to assess the pathways of the arteries angiographically. In 2 cases with septal course the anomalous left main coronary artery was demonstrated echocardiographically, which have not been reported previously. Furthermore, in one of the two the course of the artery was confirmed during surgery.

Previously reported 34 cases with 39 anomalous left coronary arteries from the right coronary sinus of Valsalva or proximal right coronary artery were reviewed from the angiographic points of

view. In 22 anomalous left coronary arteries which diagnosis had been made as the interarterial course by authors, 18 arteries indicated the septal course.

Necropsy in a patient with anomalous left main coronary artery from the non-coronary sinus of Valsalva showed myocardial infarction in the area of the vessel supply. The orifice of the artery was

slit-like and the trunk was flattened without compression between the great arteries. Clinical features

and findings of necropsy of this anomaly have not been reported previouly. With increased expansion

of the aorta during exercise, the already slit-like opening of the left coronary artery may be occluded by a flap-like closure of the orifice.

(2)

緒 言 大動脈から起始する冠状動脈の奇形は,先天性 心疾患,特にconotruncal malformationを有す る心内奇形に高頻度で合併するが1>,心内奇形を 合併していなくとも大動脈から起始する冠状動脈 の奇形は比較的稀に存在することが知られてい る2).この奇形は選択的冠状動脈造影術の際に偶 然発見されることが多く,最近では,本邦でも症 例報告が散見されるようになった鋤.心内奇形を 伴わない冠状動脈奇形の臨床的意義は,Cheitlin ら‘)の報告以来,心筋虚血および突然死との関連 より注目されてきた.しかし,報告された文献中 には,血管造影所見が誤認されている症例も多く 含まれている6).また,冠状動脈奇形のなかには, その臨床的意義や突然死にいたる病因が依然不明 なものがあり,冠状動脈造影所見を正しく評価し, 疾患を正しく認識する必要がある. 本研究の目的は,大動脈から起始する冠状動脈 奇形の血管走行を正確に診断するためにはどのよ うな冠状動脈造影所見が必要かにつき検討し,併 せて過去に報告された判読可能な大動脈から起始 する左冠状動脈奇形の症例につき一部再評価を試 みた.最後に冠状動脈奇形の臨床的意義,特に予 後や突然死との関係について自験例および文献的 考察を加え報告する. 対 象 対象は著者が群馬循環器病院,Green Lane Hospital(Auckland, New Zealand),日本医科

大学小児科学教室で経験した大動脈から起始する

冠状動脈奇形の20症例である.Green Lane Hos−

pitalでは心血管造影約10,000例中,5例の左主冠

状動脈起始異常が発見された.この5症例のみが

Green Lane Hospitalからの症例で,本論文に含 んだ.これらの冠状動脈奇形の診断は,16例が選 択的冠状動脈造影により,3例は大動脈造影によ り,1例は剖検により確認した.症例の疾患別臨 床プロフィールを表1に示した.年齢は1歳から 73歳までであった.本論文中に含まれた先天性心 疾患は心室中隔欠損症,肺動脈弁閉鎖症,大動脈 縮窄症,右室異形成症などであった.冠状動脈奇 形の内訳は良主冠状動脈または左冠状動脈洞から の右冠状動脈起始3例,右冠状動脈または右冠状 動脈洞からの磨出冠状動脈起始9例,無冠状動脈 洞からの左主冠状動脈起始1例,右冠状動脈から の左回旋枝起始2例,右冠状動脈高位起始3例, 左冠状動脈孔分離2例であった.このうち無冠状 動脈洞から起始した戸主冠状動脈の1例は,冠状 動脈造影は施行されなかったが,剖検にて確認さ れた. 方 法 症例4,13,16,18以外の症例にはすべて選択 的冠状動脈造影術を施行した.症例4は大動脈造 影所見より,左冠状動脈の走行に関し特徴的所見 を確認でぎた.症例13に対しては血管造影は施行 できず,剖検にて診断した.症例4と16と18では, 大動脈造影にて診断した.選択的冠状動脈造影術 の手技としては,右鼠径部からのSeldinger法で, 5∼8French sizeのJudkins左と右(ともに2∼5 cm)選択的冠状動脈造影用カテーテルを大腿動脈 よりシースを介し挿入した.冠状動脈の奇形では 冠状動脈孔の冠状動脈狂喜での変位がしぼしぼ認 められ,通常のJudkinsカテーテルでは選択的冠 状動脈造影が不可能な場合があった.このため

Amplatzカテーテルや先端を変形させたJud−

kinsカテーテルも場合により使用した. 造影剤はUrographin 76%またぱIopamiron 370が使用され,成人の左冠状動脈には1回の造影 に5∼6ml,右冠状動脈には3∼4mlの造影剤を注 入した.小児の左冠状動脈には2∼3ml,右冠状動 脈には1∼2mlの造影剤を注入した. 選択的左冠状動脈造影術の基本撮影斜位は① 左前斜位45∼50度に頭側位20∼25度,②右前斜位 30度,③左前斜位60度であった.これら3斜位で 血管の重なりを取り除けない場合には,左側属籍 と左前斜位45∼50度に尾側位15度,または右前斜 位30度に尾側位15度を加えた.選択的右冠状動脈 造影術の基本的撮影斜位は,①左前斜位45∼60度, ②右前斜位30度であった.右冠状動脈の後下行枝 の起始部がよく描出されない場合には左前斜位 45∼50度に頭側位15度を加えた. 左主冠状動脈が右冠状動脈より起始し,継室流 出路円錐部中隔中を走行した症例11,12に対し,

(3)

心エコーを施行し,左主冠状動脈の走行を検討し た. 過去に報告されている右冠状動脈または右冠状 動脈洞から起始する左冠状動脈奇形に関する文献 中,冠状動脈造影所見を誤認している報告が多く みられるので,特殊対象として過去に報告された 文献中2)5)7)∼21),冠状動脈起始およびその走行に関 し評価可能な冠状動脈造影図が掲載されている34 症例の左冠状動脈の走行を,著者の用いた診断上 のcriteria6)に基づき再評価し,4走行に分類した (図1). また,本論文中で扱われた冠状動脈奇形の血管

走行につき,Brandt’s coronary diagram22)上に記

戴することが可能であるか検討した. 最後に,無冠状動脈洞から起始した賢主冠状動 脈を有する極めて稀な1症例の臨床経過および剖 検所見を報告した. 結 果 1.冠状動脈造影所見による各奇形の診断につ …一 夕 自∼試 A =減 post ・÷1・ ant

こ㌍

、 \ E D LCA C B 図1 右冠状動脈洞より起始する左顧冠状動脈の4走 行パターン

A:正常の左主冠状動脈起始,B:anterior free wall course, C:septal course, D:interarterial cQurse, E:retro・aortic course いて 1)左冠状動脈または左冠状動脈洞からの右冠 状動脈起始 表1に示すごとく3例の本奇形が含まれた(症 例1,2,3).選択的左冠状動脈造影時に,異所 表1 対象の臨床プロヒール

Case no Age(Y)/Sex Coronary anomaly Symptoms CoronaryarterioSCIerOSis Remarks

1 59/M RCA from LCS Angina pectoris 十

2 71/F RCA frorn LCS Angina pectoris 十

CABG

3 72/F RCA from LCS Dyspnea 一

AVR

4 9/M LMCA from RCS Dyspnea

MVR

5 58/M LMCA from RCS Angina pectoris 十 6 43/M LMCA from RCS Chest pain

7 53/M LMCA from RCS Angina pectoris 十

8 73/F LMCA from RCS Myocardial infarction 十

CABG

9 1/M LMCA from RCS

CHF

一 VSD

10 2/F LMCA from RCA Cyanosis PA

11 55/M LMCA from RCS Chest pain

12 66/M LMCA fronl RCS Dyspnea 十

AVR

13 14/F LMCA from NCS CoUapse 一 Autopsy

14 45/M LCX from RCS Chest pain 十

15 6/F LCX from RCS Failure to thrive

一 Co/Ao

16 22/M High takeo鉦of RCA Asymptomatic RV dysplasia 17 59/M High takeo仕of RCA Angina pectoris 一

18 1/M High takeoff of RCA

CHF

一 VSD

19 19/F Double orifices Angina pectoris

HCM

20 68/M Double ori且ces Angina pectoris 十

CABG

AVR:大動脈弁置換術後, CABG:冠状動脈大動脈バイパス術後, CHF:うっ血性心不全, Co/Ao:大動脈縮窄症, Double orifices:左冠状動脈孔分離, F:女性, HCM:肥厚性心筋症, LCS:左冠状動脈洞, LCX:左回旋枝, LMCA:料紙冠状動脈, M:男性, MVR:僧帽弁置換術後, NCS:無冠状動脈洞, PA:肺動脈弁閉鎖症, RCA: 右冠状動脈,RCS:右冠状動脈洞, VSD:心室中隔欠損症

(4)

性の右冠状動脈の一部が描出された場合と,選択 的右冠状動脈造影術を試み,右冠状動脈洞内造影 にてもまったく右冠状動脈が描出されない場合に 本疾患が疑われ,本疾患発見の手がかりとなった. 3症例のうち2例で右冠状動脈孔が左冠状動脈 孔と同一であった.すなわち,右冠状動脈が左冠 状動脈洞から起こる単一冠状動脈(左冠状動脈と もいえる)の途中から分枝した.この右冠状動脈 は左冠状動脈洞より起始し,右前そしてやや後方 へと走行し,その後通常の右冠状動脈の走行する 右房室蝉騒に達するまで下方に走行した(写真1 A,B, C).この所見を解剖学的位置関係で記述す ると,左冠状動脈洞より起始した右冠状動脈は大 動脈主肺動脈間を通過し,右冠状動脈洞の外側を 走行したのち右房室間溝に達する走行に一致す る. 2)右冠状動脈または右冠状動脈洞からの左主 冠状動脈起始

表1に示すごとく9例がこの奇形を有してい

た. 選択的左冠状動脈が不可能で,左冠状動脈洞で の造影でも左冠状動脈が描出されない場合に本疾 患を疑い,右冠状動脈洞でのテスト造影にて発見 された症例(症例12)があった. 左主冠状動脈が右冠状動脈または右冠状動脈洞 から起始する場合,左主冠状動脈が,①大動脈と 主肺動脈間を走行するinterarterial course,②右 室流出路前面を走行するanterior free wall course,③大動脈弁後方を回るretro・a6rtic course,④右室流出路円錐部中隔中を走行するse− ptal courseの4つの走行パターンをとることを 著者は先に報告した6)(図1).本研究対象では3 走行パターンが認められた.

A

C 写真1 A:左前斜位に頭側位を加えると,左主冠状 動脈の起始部から起始し,右方へ進む右冠状動脈 (RCA)が描出された.左前下行枝(LAD)と左回 旋枝(LCX)の走行には異常はなかった. B:正面像 で右冠状動脈は起始後下方へそして右方へ進んだ. C:右前斜位像. B

(5)

(1)右室流出路前面を走行する左主冠状動脈 anterior free wall course

2例がこの冠状動脈奇形を有していた(症例9, 10).症例9の贈主冠状動脈は右冠状動脈洞より, 症例10は右冠状動脈起始直後にそこから左主冠状 動脈が起始していた.従って,1回の造影剤注入 により左右冠状動脈が描出された.左前斜位 45∼60度での造影では,起始直後の山主冠状動脈 が右冠状動脈と一部重なり合い,右前斜位では左 冠状動脈は前方に向かうように描出され,起始直 後下行することはなかった(写真2A, B).このこ とは左主冠状動脈が起始した直後,やや右前方ま

A

B

写真2 A:左前斜位像で前方に向かう左主冠状動脈 (LMCA)が右冠状動脈(RCA)の起始部から起始し ほぼ水平に左側に走行し左前下行枝(LAD)と左回 旋枝(LCX)に分枝する. B:右前斜位像は催主冠状 動脈が前方へ,しかも水平に走行していることを示 した. たは前方に向き,大きく前方へ突出していること を意味している.その後,左方にそしてほぼ水平 に走行した.左主冠状動脈が前室間溝に達する以 前に左前下行枝を分枝し,左回旋枝はやや後方に 向かい下行した.この所見を解剖学的に説明する と,右冠状動脈洞または右冠状動脈より起始した 左回冠状動脈は大動脈の前方に位置する右室流出 路前面を左方に横切って走行し,前室上溝に達す る以前に左前下行枝と左回旋枝に分枝することを 示す. 症例10では心室中隔欠損症閉鎖術時に,右室流 出路前面を横断し,左室へ向かう左冠状動脈の走 行を確認した. 噛 (2)右二流出路円錐部中隔中を走行する左主冠 状動脈septal course 6例が本走行を示した(症例4,5,6,7, 11,12).症例5,7,11の左主冠状動脈は右冠状 動脈の近位部より起始していた.症例6,12の左 主冠状動脈孔は右冠状動脈孔と隣接しており右冠 状動脈からの起始ではなかった.症例4では選択 的冠状動脈造影が施行されていないので,右冠状 動脈から起始するか,または右冠状動脈洞から左 主冠状動脈が別々に起始しているか不明であっ た.6例記すべての症例で右冠状動脈は通常の走 行を取った.症例4,5,6,7,11では左主冠 状動脈は起始後,左側前方でやや下方に走行した が(写真3A, B),症例12では左側前方やや上方に 走行した(写真3C, D).その後の走行は6症例と も三主冠状動脈は左上方へ向い,前下行枝を分枝 した後,左回旋枝は左後方へ向きを変え左房室間 溝に到達した.本走行では6例とも左主冠状動脈 より直接,中隔枝を分枝しており,特徴的所見の 一つとなっていた.これを解剖学的に説明すると, 二二冠状動脈は起始後,直ちに右三流出路を形成 する円錐部中隔中または中隔前面を前室間溝付近 まで走行し,左前下行枝を分枝した.中隔枝の一 部は三主冠状動脈より直接分枝した.左回旋枝は そのまま後方へ向き,左房室凹凹に達した.この

septal courseの造影所見は, Robertsら30)が病理 解剖学的に本走行を報告した図と一致した(図

(6)

A

C B D 写真3 A:左前斜位像で右冠状動脈(RCA)の起始部から左主冠状動脈が起始し, 左側やや下方へ走行したのち左前下行枝(LAD)と左回旋枝(LCX)に分枝した. B:右前斜位像で左主冠状動脈(LMCA)はやや下方そして前方に走行したのち左前 下行枝を分枝したのち後上方へ向かった.C, D:症例12では左主冠状動脈が下行す ることなく上方へ向かっていた.その後の走行は他の症例と同一であった.SP:中 隔枝. 開にて,肺動脈弁直下で右室流出路円錐部中隔の 表面を横切る左冠状動脈を確認した. (3)大動脈主肺動脈間を走行する左主冠状動脈 interarterial course 表1に示すごとく1例がこの冠状動脈奇形を有 していた(症例8).左主冠状動脈は右冠状動脈洞 内で右冠状動脈とは別々に起始した.至論冠状動 脈は起始後,直ちに左側後上方へ走行した後,前 方に向い左前下行枝と左回旋枝に分枝した(写真 4A, B).この所見を解剖学的に説明すると,右冠 状動脈洞から起始した左主冠状動脈は大動脈の前 面から大動脈主肺動脈間を後方に向かった.肺動 脈弁は大動脈弁より上方に位置するので左主冠状 動脈は後上方に向き,主肺動脈の後面を回り,通 常の分枝部位で前下行枝と左回旋枝を分枝した (図2). 3)右冠状動脈または右冠状動脈洞からの左回 旋枝起始 表1に示すごとく2例がこの奇形を有していた (症例14,15).右冠動脈から左回旋枝は起始し, 左側後下方へ向き,その後左側上方へ向い左房室 間溝に到達した(写真5A, B).この所見は右冠状 動脈から起始した左回旋枝が大動脈弁外側後面を 回り,左房室間溝に達することを意味し,この走

(7)

A

P R Septal course LAD B

図2 Septal courseとinterarterial courseの解剖学的位置関係(文献30を改変) Ao:大動脈, CS:右室流出路円錐脳中隔, LAD:左前下行枝, LC:左回旋枝, PT: 主肺動脈,RV:右室, SP:中隔枝. 癒 A B 写真4 A:右前斜位像で左主冠状動脈(L)は上後方へ向き,それから通常の走行を 示した.*:カテーテル,矢印:中主冠状動脈孔.B:左前斜位に頭側位を加えた像 で左主冠状動脈(L)は右冠状動脈洞(AS)から起始し,左側後方へ進み左前下行 枝(a)と左回旋枝(cx)に分枝した. d:対角枝, s:中隔枝. 行は左室造影の右前斜位像にて確認できた(写真 5C).この左回旋枝の走行は右冠状動脈または右 冠状動脈洞から起始した左主冠状動脈が大動脈弁 外側後面を走行するretro・aortic courseと一致 する.左前下行枝は左冠状動脈洞から起始し,対 角枝を分枝するのみであった(写真5D). 以上,右冠状動脈または右冠状動脈洞より起始 する左冠状動脈の初期走行に関する冠状動脈造影 所見のまとめを表2および図3に示す. 4)右冠状動脈の高位起始 表1に示すごとく3例が含まれた(症例16,17, 18).症例16は左室造影時に右冠状動脈高位起始が 疑われ,他の2症例では普通の選択的右冠状動脈 造影で右冠状動脈が可視できず,その存在が疑わ れた.3例とも大動脈造影にて証明された.左右 冠状動脈洞交連部の上方に右冠状動脈孔が存在 し,大動脈前面を一部横切るように下垂し,右房 室間溝に到達した(写真6).

(8)

A

麟籍・

莞乳㌧ 魔魅 ・ 象 鱒購.・, ・諫集 :憲 .

∫ゴ■之 ㌦擁

鍵1、

≧ 諺

C

B D 写真5 A:左前斜位像で左回旋枝(LCX)は解剖学的に低形成な右冠状動脈(RCA) から起始したのち左側に向かい,その後上方に向いた.B:右前斜位像で左回旋技は 起始したのち,下後方へ進んだ.C:左室造影右前斜位像で大動脈弁の直後方に左回 旋枝ゐ断面像が描出した.D:左前下行枝(LAD)は左冠状動脈洞より起始し,対 角枝(DG)のみ分枝した. 表2 右冠状動脈または右冠状動脈洞から起始する 左冠状動脈の初期走行一血管造影所見のまとめ 走 行 右前斜位 左前斜位 LoOP Interarteria且 Anterior free wall Retro・aortic Septa1 Crania1 後上方 左上方 posterior ま勇三方ま紮碧羅C・ani・・an・・・… Cauda1 後下方 右下方 posterior ,勇繍方,難島Caud・l an・・・… 5)左冠状動脈分離起始 表1に示すごとく2例に認められた(症例19, 20).両症例とも選択的冠状動脈造影時に容易に診 断されており,左前下行枝および左回旋枝に特別 の走行異常は認めなかった. 2.右冠状動脈洞または右冠状動脈から起始し, 右室流出路円錐部中隔を走行する左主冠状動脈 (8eptal cour8e)の心エコー図所見について 症例11,12に対し,心エコー法を施行すること ができた.大動脈弁レベルでの短軸像で大動脈弁 前面を走行する血管を認めた.肺動脈弁から右室 流出路にかけての長軸像で,症例12では大動脈弁 の前面を走行する血管は肺動脈弁直下の右室流出 路円錐部中隔上に存在した(写真7).症例11では 右堺流出路円錐部中隔中に血管の走行を認めた. 症例12では血管の内径は3mmであった.前述の

(9)

A)Normal course B)Anterior free wall COU「se C)Septal course D)lnterarterial course 右前斜位 〆 、 A9・..、 ・ 一診 1 、

, l

C・・一曽 l l蔓. E’㌔『 ・ )㌧玉・ト G㌔∼、 1 E)Retro−aortic , 9 、

C。urse , ll

l’・一一 } J’ 図3 左冠状動脈の右冠状動脈または右冠状動脈洞か らの起始異常と冠状動脈造影模式図

∼ 左前斜位

写真6 右前斜位像で右冠状動脈(RCA)はパルサル パ洞より高位の大動脈から起始し,左冠状動脈 (LCA)は通常の位置から起始していた. 選択的冠状動脈造影所見を加味し考慮すると左主 冠状動脈が右室流出路円錐部中隔を走行するもの と判断された. 3.過去に報告2》5)7)∼21)された右冠状動脈または 右冠状動脈洞より起始した左冠状動脈の造影所見 に対する著者による再評価(表3) 現在までに報告されている本冠動脈異常の症例 で,それぞれの論文中の図より再評価可能な34症

右長流出路短軸断層右室流出路長軸断層

写真7 Septal courseの心エコー所見 例につき,下主冠状動脈の走行を再評価した.文 献中の症例の中には左前下行枝と左回旋枝が右冠 状動脈または右冠状動脈洞より別々に起始する場 合も含んでいた.これら別々に起始した左冠状動 脈の初期走行も当然,著者の述べた上記の4つの 初期走行に分類可能であるので,34症例合計39本 の左冠状動脈の走行について再評価した.その結 果,著者の基準から判断すれぽ39本の左冠状動脈

のうちseptal courseが19本, interarterial course が4本,anterior fr,e wall courseが5本, retro・

aortic courseが11本であった.また,文献中で interarterial courseと診断されていた22本の血 管のうち,著者の診断では18本はseptal course

をとり,4本だけが本来のinterarterial courseを とっていた.anterior free wall courseと論文中 の記載より考えられた1本がseptal courseで あった.retro・aort孟。 courseに関しては12本中1 本が著者によりanterior free wall courseと診断

され,残りの11本目は誤診例はなかった.表4に

まとめを示した.

4.Brandt,s comnary diagram22)上での記載

Brandt’s coronary diagramは冠状動脈の潅流

域の表記法として,また冠状動脈病変の半定量法 として優れている.従って,本法によって冠状動 脈起始異常の初期走行を適切に記載し得るかも検 討した. 右冠状動脈の左冠状動脈洞起始では左冠状動脈 孔の右となりより起始した右冠状動脈はdia− gramの右室流出路前壁上部にあたるCの部分を

(10)

i3 Review

of previously published angiography Firstauthor

/Refno FigurenoCaseno Authors'artery

Assessment course * Our artery Assessment course Liberthson7)

Fig2A,B

LM

Passinganteriorlyacross

RVinfundibulum

A

LM

Anteriorfreewall Cheitlins) Case1

Fig4

LM

BetweenAoandPA I

LM

Inter-arterial

Pachinger8)

Fig1A,B,C

LAD

cx AcrossRVoutfiowtractPosteriorlyaroundgreat.arterles

?A

R

LAD

CX Septal Anteriorfreewall Engel9) Fig5A,B,

C,D cx

LAD

AnteriortoaorticrootPosteriortoaorticroot ?IR

LAD

CX

SeptalRetro-aortic

Fig6

LM

Anteriortoaorta ?I.

LM

Septal Chaitmanio) Fig2

LM

Posteriortoaorticroot R

LM

Retro-aortic

Fig3A,B,C

LM

BetweenAoandPA I

LM

Septal

Fig4

LAD

LX Directlyanteriorbetween

AoandPA

Retro-aortically IR

LAD

cx Septal Retro-aortic

Fig5A,B

LAD

CX AnteriortoPAPosteriortoAo AR

LAD

CX Anteriorfreewall Retro-aortic Baltaxen} Case5

Fig5

LM

AnteriortoAoandPA

A

LM

Septal

Case9

Fig8 CX Posteriortoaorta R CX Retro-aortic

Kellyi2) Fig2

LM

BetweenAoandRVinfun-

dibulum,betweengreatves-sels

I

LM

Septal Murphyi3) Fig2

LM

PosteriortoAo R

LM

Retro-aortic Kimbiris2) Fig3

LM

PosteriortoAo R

LM

Septal

Fig8

LM

BetweenAoandPA I

LM

Septal

Liberthsoni4)

Fig2A,B

LM

Passingtoleftandposter-iorlybetweenAoandRV

infundibulum

I

LM

Septal Moodieis) Case1

Fig2

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BetweenPAandAo I

LM

Inter-arterial

Case2

Fig3A,B

LM

BetweenPAandAo I

LM

Septal

Case3

Fig4A,B,C

LM

BetweenPAandAo I

LM

Septal

Mustafai6) Case1

Fig1

LM

BetweenAoandPA

I

LM

Inter-arterial

KimbirisM Figl

LM

BetweenAoandPA I

LM

Septal

Fig2

LM

BetweenAoandPA I

LM

Septal

Fig3A

LM

BetweenAoandPA I

LM

Septal

Fig3B

LM

BetweenAoandPA I

LM

Septal

Fig5

LM

PosteriortoAo R

LM

Retro-aortic

Fig7

LM

PosteriortoAo R

LM

Retro-aortic Sheris)

Fig1A,B,C

LM

BetweenAoandPA I

LM

Septal

Liptonig)

Fig3A,B

LM

AnteriortoPA

A

LM

Anteriorfreewall

Fig5A,B

LM

BetweenAoandPA I

LM

Septal

Fig6A,B,

C,D

LM

PosteriortoAo R

LM

Retro-aortic

Click2e) Fig4

LAD

cx Betweengreatarteries Posteriortogreatarteries IR

LAD

Cx

Anteriorfreewall Retro-aortic

Fig7

LM

BetweenAoandPA I

LM

Inter-arterial

Cohen2i) Fig2

LM

Betweengreatvessles I

LM

Septal

Fig4

LM

Betweengreatvessels I

LM

Septal A : anterior free wall, Ao : aorta, CX : Left circumfiex artery, I : inter-arterial,

LM : left main coronary artery, PA : pulmonary artery, R : retro-aortic, RV : of authors' diagnosis of course, #:See text for definitions of course

LAD : left anterior descending artery, right ventricle, ': our interpretation

(11)

-1343-表4 過去に発表された右冠状動脈または右冠状動 脈洞より起始した左冠状動脈の初期走行の再評価 34症例

39 本の左冠状動脈

論文著者らの診断 再評価の診断 Anterior free wall 4本 →Anterior free wall 4本

1本?→Septa1 1本 Septal o本 Interarteria1 20本 →Interarterial \ Septa1 2本?→Septa1 4本 16本 2本 Retro・aortic 12本 →Retro−aortic 11本 \

Anterior free waU ユ本

通過するように描けば記載可能であった.左主冠 状動脈の右冠状動脈洞より起始する4つの走行パ ターン(図4)でば,interarterial courseは起始 直後に左後方に向かうように描き,anterior free wall courseでは比論流出路前壁にあたるCの部 位を通過するように描き,retro−aortic courseで は右冠状動脈血の右心より起始し右上方から左:方 へ,すなわち後方に描くことにより記載可能で あった.Septal courseでは一室流出路前面にあた るCの部分は通過せず,septumのanteriorの部 位を通過するように描けば記載可能であった.右 冠状動脈高位起始では通常の起始部より左上方に 右冠状動脈の起始を描けば可能であった.左冠状 動脈分離は特に問題なかった.以上,大動脈から

起始する冠状動脈奇形はBrandt’s coronary dia− gram上にその初期走行を記載することが可能で あった. 5.無冠状動脈洞から起始する三主冠状動脈の 1症例について 症例は12歳の女児で,極めて稀な奇形ではある が,重篤な転帰をとったのでその臨床像と剖検所 見について報告する.中学校の体育の授業で,1000 mのランニング中に突然意識不明となり倒れた. このエピソード以前にはまったく自覚症状を訴え ていなかった.近くの救急病院で心室細動が確認 され,蘇生後,著者らの施設へ移送されてきた. 来院時意識はなく,血清CPKは14700U/L, GOT は1394U/しと著明に上昇し,心電図ではV1−6ま CORONARY ARTER「OGRA「調 DATE= NAME: AGE= CINE No:

c=‘oPり与 51eno5P51「}95匙,偲㎏d Oノ。‘ro53一戴tPD ar田1055. HOSP.NQ,

Rv a・anleδ。r i=inrerior ★起始部付近の ハ置関係

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②anterl。r free wall c。urse ③retr。・a。r廿。 c。urse ④septal course ★点線は正常の 、 左冠状動脈の走行 、 ノ

丁NTL駐od for YES cor.arL.? NO Normal HyPQkin巳tic Ak[netic Dyskinε督C ARTERY G旧d巳 LCA RCA AD LC!RC, TotaI To匙a1 Tota1 TOコAL

犠’ SCo爬 CgllatDist.ArtQual.

Dia賦D[lc VolUme Sy5吐olic Vok」111e E」已cllOII Fraolio・、 m[ m1 %1

図4 Brandt’s coronary diagram上に左主冠状動脈 の右冠状動脈洞起始の4走行を記載することは可能 であった.本文参照. でQSで広範囲な左室の急性心筋梗塞を認め,心 エコーでは左室中隔,前壁,側壁がakinesisで あった.その後の集中治療にもかかわらず左心不 全のために死亡した.剖検にて左冠状動脈が潅流 する心筋に梗塞像を認めた(写真8A).左主冠状 動脈は無冠状動脈洞内で,左冠尖との交連部に接 する位置より起始していた(写真8B).左冠状動 脈孔はslit状で,左下冠状動脈は扁平化し,しかも その先ではpoststenotic dilatation様に軽度拡張 していた(写真8C).左右冠状動脈内には器質的狭 窄性病変を認めなかった.この症例では左主冠状 動脈が大動脈と主肺動脈との問を走行していな かった.つまり,両大血管により左主冠状動脈は 圧迫されなかったが,左冠状動脈の全支配領域に 冠不全を認めた.

(12)

A

騨凝

’趨

C 写真8 A:左側面からみた無冠状動脈洞より起始し た左主冠状動脈の剖検心.右室表面には心筋梗塞を 認めなかった.B:左冠状動脈孔(矢印大)は無冠状 動脈洞(N)内で左冠状動脈洞(L)との交連部に接 ・する位置に存在した.右冠状動脈孔(矢印小)は通 常の右冠状動脈洞(R)に位置していた.P:主肺動 脈.C:左目冠状動脈(LM)の起始部(矢印)は通 常の起始部より後方で,左下冠状動脈は扁平化して いた.左前下行枝(LAD)と左回旋枝(CX)は通常 の走行をとった.Ao:大動脈, PA:主肺動脈 B 考 察 冠状動脈の奇形としては冠状動脈が肺動脈から 起始するBland・White−Garland症候群が有名で, その臨床的意義は確立されている23).一方,大動脈 から起始する冠状動脈奇形としては表5に示した 奇形が知られている.これらの冠状動脈奇形は臨 床的にminor anomalyと考えられていたが,1974 年,Cheitlinら5)により突然死と関連する冠状動脈 奇形が報告されて以来,臨床的に注目されてきた. しかし,いまだに臨床的予後的意義について議論 の余地がある異常も含まれているので,本論文で は主な冠状動脈奇形につき検討し考察を試みた. 1.左回冠状動脈または左冠状動脈洞より起始 表5 大動脈力∼らの冠動脈異常起始 1.単一冠動脈 2.高位冠動脈起始 3.左冠動脈の重複冠動脈孔 4.園主冠動脈の右冠動脈または右冠動脈洞からの起始 A)intera貢erial course

B)anterior free wall course C) retro−aortic course D)septal course 5.右冠動脈の左冠動脈または左冠動脈洞からの起始 6.冠動脈の無冠動脈洞からの起始 7.左前下行枝または左回旋枝の右冠動脈または右冠動脈 洞からの起始

(13)

する右冠状動脈 本奇形の右冠状動脈の走行は左前冠状動脈また は左冠状動脈洞から起始して大動脈主肺動脈問を 走行するパターンが有名である.しかし,右冠状 動脈が前下行枝より起始するときには,右冠状動 脈は右心流出路前面を横断する走行パターンをと ることもある24).また,右冠状動脈が左回旋枝より 起始するときには,右冠状動脈は大動脈後面を走 行するパターンをとることもある191.Kimbiris ら2)によると7000例の選択的冠状動脈造影にて12 例(0.17%)発見したと報告している.Cheitlinら5) の18例の本奇形中で死因が本奇形に関係した症例 はなかったと報告している.しかし,一方では, Kragelら2‘)によると本奇形25症例のうち死因が 本奇形によるものが8例あり,すべて突然死して いたと報告している.その死亡時年齢は16歳から 49歳であったが,5例は23歳までの若年者であっ た.また,乳児例で突然死した症例報告もある27). 突然死発生の病因に関しては,冠状動脈奇形によ る心筋虚血の機序についての検討の項で後述す る. もし,本奇形が偶然に発見された場合,特に若 老年であった場合には運動負荷を加えたRI検査 を施行し心筋虚血の有無を調べる必要があろう. もし心筋虚血を認め,右冠状動脈の左室への分布 領域が広範囲のときには,冠状動脈血形成術,

internal mammary graft, saphenous vein graft

等の外科的治療法を考慮すべきである. 2.右冠状動脈または右冠状動脈洞から起始す る左主冠状動脈 この奇形の発見頻度はKimbirisら2)によると

選択的冠状動脈造影を施行した7000例中4例

(0.06%)であった.著者の経験した3施設での選 択的冠状動脈造影の総数は約12000例で,この奇形 の発見頻度は約0.075%で,Kimbirisらの報告と ほぼ同様と思われる. 前述のごとく著者らの研究から,初期走行によ

り,①interarterial course,②anterior free wall

CourSe,③retrO−aortiC CoUrSe,④Septal COurSe

に分類される6).Interarterial course, anterior free wall course, retro−aortic courseはともに病

理学的にも臨床上でも確認されていたが5)27)∼29), septal courseは病理学的には確認されていたも のの5)30>,本研究で明かにされたように臨床的には interarterial courseと混同され多数報告されて いる.混同され続けた理由としては,比較的稀で あるseptal courseに対する臨床的認識がなかっ たこと,解剖学的位置関係の誤認,特に肺動脈弁 と大動脈弁の位置関係の誤認によると考えられる (図2).一方,Mustafaらエ6)は選択的冠状動脈造 影所見が,著者の言うinterarteial courseの所見 と一致する症例を報告している.この症例に対し 冠状動脈孔の形成術を施行し,左主冠状動脈が大 動脈主肺動脈間を走行していたことを手術時に確 認している(表6). Interarterial coursdよ1974年にCheitlinら5)が 8例の突然死を含む28例の症例を発表以来注目さ れ,思春期から青年期にかけての症例では運動時 や運動直後の突然死・心筋梗塞発症例が多く報告 されており臨床上重要である5)27)29).Cheitlinら5) によるとinterarterial courseの症例で運動中や その直後に突然死や心筋梗塞に至った8例中7例 までが左主冠状動脈が右冠状動脈洞より右冠状動 脈とは別々に起始し,その左冠状動脈孔はslit状 であった.突然死をきたしたinterarterial course の症例では上記の形態学的特徴の他に左主冠状動 脈が右冠状動脈洞より起始した後,鋭角に左後方 に走行するという特徴も有している.しかし,最 近のKragelら2‘)の報告によると冠状動脈孔の slit状の形状は必ずしも突然死と関連がないとし 表6 右冠状動脈洞または右冠状動脈から起始した 譲国冠状動脈の冠状動脈造影以外での確認 本論文中の ヌ例番号 確認法

Anterior free wall course 10 OP Interarterior cOurse OP* Septal course 11 Echo

12 OP, Echo OP:手術時, Echo:心エコーによる.

院本論文の症例8と同一の冠状動脈造影所見を有する文 献報告例16)で長握冠状動脈の走行が手術中に確認されてい る.

(14)

ている. Interarterial courseを有する者が,特に若年者 が運動時に胸痛を訴え,虚血性の心電図変化また は心室細動等の重篤な不整脈を合併する場合に は,外科的療法を積極的に考慮すべきである.手 術法としては,冠状動脈孔の拡大術6>,internal

mammary artery graft15)21), saphenous vein

graft13)31), coronary arterial ostioplasty16)等があ

り,成功例がそれぞれ報告されている. Anterior free wall courseは右冠状動脈の枝で

あるconus branchの初期走行やFallot4七福の

約5%32)に認められる左前下行枝の右冠状動脈起 始と初期走行は一致する.本論文中の症例10は手

術中にanterior free wall courseが確認されてい

る(表6)。Retro−aortic courseでをま左回旋枝が右 冠状動脈より起始する奇形の初期走行と一致す

る.

Anterior free wall courseな:らびにretro−aor・

tiC CQurseはともに稀である.しかし,左回旋枝が

右冠状動脈より起始する奇形は冠状動脈奇形のう

ちで最も多く認められる起始異常の一つである (0.37∼0.67%).Anterior free wall courseおよ

びretroaortic courseはともに臨床的意義はすく ない33). Septal courseは右冠状動脈または右冠状動脈 洞より起始する左主冠状動脈の4走行のうちもっ とも多い走行と思われる6).しかし,前述のごと く,interarterial courseとして誤診されており, 臨床的意義が確立されていない.この冠状動脈奇 形に器質的狭窄病変を伴わずに突然死に至った症 例が1例報告されている5).その他の症例では狭 窄性病変を伴わずに心筋虚血の状態を示した例は 見あたらない.著者ら6)の報告は血管造影上の特 徴を述べているが,手術時や剖検にてその走行を 確認していない.本論文では心エコーによりse− ptal courseを確認することができた(写真7).

また症例12では大動脈弁置換術時にseptal

courseを確認でき,選択的冠状動脈造影のみなら ず,心エコー法および術中にも確認された(表6). この冠状動脈奇形を心エコー法および術中に発見 した報告は調べ得た範囲では見あたらなかった. Septal courseの臨床的意義の可能性として,右 曲流出路円錐部中隔を切除または切開する手術 法,すなわちFallot 4候症の心内修復術34)や大動 脈弁輪拡大術としてのKonnoの術式35)で問題と 成り得る.従って,これらの術式を施行する必要 がある症例においては術前の評価時にseptal courseの除外が必要となる. 3.無冠状動脈洞より起始した左主冠状動脈の 症例について 無冠状動脈洞からの冠状動脈起始は極めて稀 で,無冠状動脈洞からの右冠状動脈起始は4例の 報告を見るに過ぎない1)36)∼38).Roberts38)はこの奇 形には心筋虚血にいたらしめるような臨床的意義 はないだろうと結論付けている.一方,無冠状動 脈洞から起始した左主冠状動脈の症例報告はない とされていたが1)38),著者は12歳の女児例を経験し た。この症例は非常に稀であるが,運動中のcol− lapseを初発症状としており,広範な急性心筋梗 塞という重篤な転帰をとった.剖検にて左主冠状 動脈は無冠状動脈洞より起始していることが証明 され,大動脈と主肺動脈との問を走行していな かった.しかし,冠不全に陥った症例である.冠 状動脈奇形に起因する突然死の病因を考えるにあ たり極めて重要な症例である.Slit状の左冠状動 脈孔が運動時に狭小化または完全閉塞したことが 十分推測された. 4.冠状動脈奇形による心筋虚血の機序につい ての検討 大動脈から起始する冠状動脈奇形のうち,秘曲 冠状動脈が右冠状動脈洞から起始し,大動脈主肺 動脈間を走行するinterarterial courseと右冠状 動脈の左冠状動脈洞起始では心筋虚血に陥る症例 が多いことが知られている.また,無冠状動脈洞 から起始した左冠状動脈は極めて稀ではあるが, 自験例のように心筋虚血に陥っていた症例もあ る.これら奇形の心筋虚血の機序として,1)起始 異常の冠状動脈が心拍出量増加時に両大血管の拡 大により,圧迫閉塞する39),2)起始異常の冠状動 脈が冠状動脈洞に対し鋭角に起始し心拍出量増加

時に且ap−like ostium closureによる5),3)冠状動

(15)

㍗コ◎

R.Cor, (A) L,Cor, R.Cor,

(B) L,Cor, 図5 左主冠状動脈が右冠状動脈洞に対し鋭角に起始 し,心拍出量増大時にHap−like ostium closureによ るとする機序の模式図

虚血slow controlled ischemia40>による,5)2)に

合併したcoronary ostial valve−like ridgeによ る41)等の諸説がある.両大血管の拡大による冠状 動脈の圧迫説に対しては,冠状動脈は運動時の肺 動脈圧では圧迫閉塞されないという反論があ り2),さらに,本論文中の無冠状動脈洞より起始し た左主冠状動脈のように,大動脈と肺動脈による 圧迫を受けなくとも心筋虚血に陥った症例も存在 する.Slit状の冠状大動脈孔に原因を求める説に 対する反論として,Kragelら25)はostial shapeは 予後と関係ないとしているが,左主冠状動脈が右 冠状動脈洞より起始している症例7例中slit状の 冠状動脈孔を有しているものは4例で,冠状動脈 奇形が死因と考えられた症例5例中4例までに slit状の冠状動脈孔を認め,死因が冠状動脈奇形 と関係ない症例ではslit状の冠状動脈孔を有して いなかったと報告している.他の報告でも突然死 をきたした症例ではslit状の冠状動脈孔を有する ものが多い27)∼29).冠状動脈奇形の心筋虚血の機序 は単一とは考えられないが,slit状の冠状動脈孔 が心拍出量増大時に冠状動脈洞の拡大により狭窄 状態の増強または完全閉塞をきたすことにより心 筋虚血が生じたとする説5)が現在最も有力で(図 5),著者の剖検例もそのことを強く示唆してい る. 心筋虚血発生時の運動強度は必ずしも過去に経 験したことがない程激しいものぽかりではなく,

上記の形態学的変化のみならず,冠状動脈の

vasospasmを含めた何らかの機i能的障害がたま たま合併して発生した可能性はある.突然死をき たした症例の多くは若年者であり,このことが何 を意味し,また73歳の自験例を含め,同一奇形で あっても若年期に心筋虚血に陥らなかった症例と の差異は何であるのかなどの疑問が残る.今後, 症例の蓄積により,これらの疑問が解決したとき, 冠状動脈奇形を有する患者の治療方針を正しく決 定することができるであろう. ま と め 1.著者が経験した大動脈からの冠状動脈奇形 19例の血管造影所見につき検討した.さらに剖検 例1症例を提示し,この症例を含め臨床的意義お よび心筋虚血の機序につき検討した. 2.冠状動脈造影上,冠状動脈の初期走行より冠 状動脈奇形の走行パターンを正確に診断すること が可能であった.Interarterial courseでをよ左後上 方へ向かうcranial posterior loopを, anterior

free wall courseでは右前上方へ向かうcranial

anterior loopを, retro−aortic courseでは右後下

方へ向かうcaudal posterior loopを, septal courseでは左前下方へ向くcaudal anterior loop

を冠状動脈造影所見上認めた.過去に報告されて いる論文中,interarterial courseと判断されてい た症例の多くはseptal courseと診断された. 3.Septal course例を心エコーおよび術中所見 により走行異常を確認し,その異常を術前,生前 診断したことを初めて報告し,臨床的意義を確立 した.

4.Brandt’s coronary diagram上に,大動脈か

ら起始する冠状動脈奇形の走行を解剖学的特徴を

加味して記載することが可能であった.

5.左主冠状動脈が無冠状動脈洞より起始した

(16)

た症例を臨床と病理所見につき初めて報告した. この奇形の詳しい臨床経過については,調べ得た 範囲では過去に報告が見あたらなかった. 6.著者の経験例を含め,突然死や心筋虚血は

slit上の冠状動脈孔が心拍出量の増加時にHap− like ostium closureをきたすとする機序が有力視

された. 稿を終るにあたり,御指導,御校閲を賜りました恩 師高尾篤良教授に深謝の意を表します.また,懇切な 御指導を頂きましたEr本医科大学小児科学教室斎藤 正敏講師に感謝するとともに,ご協力を頂きました群 馬循環器病院の原田昌範先生をはじめ諸先生方に感 謝の意を表します. 文 献

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man 195124), Deterling 195325)).その結果,これら同

信心辮口無窄症一〇例・心筋磁性一〇例・血管疾患︵狡心症ノ有無二關セズ︶四例︒動脈瘤︵胸部動脈︶一例︒腎臓疾患

et al.: Selective screening for coronary artery disease in patients undergoing elective repair of abdominal

筋障害が問題となる.常温下での冠状動脈遮断に