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独占, 蓄積と環境

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(1)

独占,蓄積と環境

近 藤

学 著

(2)

独占,蓄積と環境

近 藤

学 著

(3)

本書の目的は,国家独占資本主義と呼ばれるわれわれの経済システムがどのよ うな構造と矛盾を持ち,どのような動態的過程を作り出して行くか,また,そう した矛盾に満ちた独占資本の運動が国民諸階層の聞にどのような困難をもたらし, 逆にそれがどのような新しい歴史的可能性を作り出しつつあるか,という視角か ら現代資本主義を貫く基礎的過程を歴史的かっ理論的に考察したものである.も とより課題の重要性に比してなされた貢献はささやかなものであるが,資本主義 的生産様式をあくまでも特殊歴史的な存在対象として捉えるマルクスの方法的立 場と,現代資本主義の構造的矛盾を鋭く洞察したケインズの方法的立場とを踏ま え,国家独占資本主義の諸現象を,できるだけ体系的に,かっ論理的な透明性を 損なわないように把握することを心がけた.そっした試みがどこまで成功したか は読者の判断に委ねる他はないが,マルクス経済学のみならず,いわゆる近代経 済学をベースとして経済学研究に関心をもたれている方々にも批判的に検討して いただければ幸いと考えている. いわゆる「ケインズ革命」を随伴しつつ

1

9

3

0

年代の経済危機の中から新たな独 占資本主義が生まれてきた.それは冷戦体制の中で,財政・金融政策による経済 過程の部分的制御にとどまらず,労働力政策,産業政策,科学技術政策,社会資 本政策,社会政策,国家資本輸出政策,環境政策を含む全面的な国家と経済の統 合形態へと急速に成長・転化し,マルクス経済学において「国家独占資本主義」 と呼ばれるにふさわしい内実と機構を備える歴史的存在となった.この国家独占 資本主義の分析は必然的に経済学と政治学および社会学などの学際的研究を必要 とするものであった.そこで,経済学研究の新しい方向として次の

2

つのものが 現れてきた.第ーの方向は,経済学の対象から政治学的領域(とくに国家論)を 除き,

r

純粋領域」に自らの研究課題を限定しようとするものである.第二の方向 は,従来の経済学の対象領域をより拡大し,政治学や社会学的領域をも含みうる 新たな経済学体系の構築を目指そうとするものである.筆者は,マルクスの社会 構成体論を手がかりに,後者の立場から経済過程と政治過程の両面にまたがる問 題領域を統一的に分析できる枠組みの構築をも目指した.

(4)

合による国民的収奪と搾取の時代である.独占体は国家・行政システムと結びっ くことによって,独占の支配とは直接には何の関わりも無かった地域や国民諸階 層をも苦しめることとなった.両者の融合した力はかつてない規模と速度と影響 力で資本の蓄積を進展させたが,他方で,国民経済の健全な発展を阻害し,分配 関係を歪め,浪費性と寄生性を強め,あるいは地球的規模での自然生態系を歪め, その微妙なメカニズムを狂わせつつある.資本主義の「成功」そのものが,

r

歴史 の弁証法」によって自らの発展の基盤を脅かしつつある.また,国家独占資本主 義の危機への対応が,かえって国家と経済過程との統合を強め,独占体と国家機 構の癒着構造をさらに強化する方向に進み,勤労国民との聞にさらなる矛盾と新 たな社会的事

L

離を惹起している. しかしながら,国家独占資本主義は,国家と経済の全面的統合化を通じて,生 産の社会化・計画化を新たな段階へと押し上げ,自然過程を含む経済過程を人聞 の意識的な制御の対象として取り扱う客観的・物質的可能性を切り聞きつつある. また,政治的意思決定過程への国民の参加の高まりと地方自治権の拡大や市民運 動の発展は,新たな社会システムを担うべき共同的価値観をもった民主的主体形 成を準備しつつある. 経済学が机上の空論や自己満足で、なし現実的・科学的で、あり実践的なもので あるためには,国民を苦しめる諸困難を直視し,諸現象の背後に潜む真の原因= 生産関係をひるむことなく突き止め,その論理を解明し,その克服の道を示さね ばならない.本書を通じて筆者にとって明らかとなってきたことは,自然環境が 許容する範囲内での経済の民主的改革とその計画化こそ今日の国民的諸困難を打 開する可能性をもっ唯一の道ではないか, ということである. 次に,本書の各章となった論文の初出を明らかにしておこう. 「価格の計画化について

J

r

彦根論叢』第

2

1

3

号,

1

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年. (第

9

章) 「現代国家の介入について一一レーニンvs.ケインズの国家介入論一一

J

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彦根論 叢』第

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号,

1

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年. (第

7

章第

1

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節) 「総供給関数と『独占

ur

彦根論叢j第

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5

号,

1

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年. (第

4

章) 「不安定性の論理構造

J

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彦根論叢』第

2

8

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号,

1

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3

年. (第

5

章)

(5)

根論叢

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9

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号,

1

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6

年. (第

8

章) 「経済の寡占化と不安定性

(

1

)

,(II)

J

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彦根論叢』第

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0

6

号,

1

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9

7

年. (第6章) ただし,本書の問題意識に添って最小限の範囲において必要な加筆や修正また は削除を加えた.また,ソ連崩壊といっ歴史的状況の変化に対応して不適切な部 分にも修正を加えた. 本書がこのような形でまとまるについては,多くの諸先生,友人,同僚の方々 の心強いご指導とご鞭撞があったことを逸するわけにはいかない.とくに岡山大 学法文学部専攻科(当時)での高木彰,羽鳥卓也両先生,神戸大学大学院での置 塩信雄,水野武,足立英之,中谷武の諸先生には,まことに本の読み方から論 文の書き方までといった技術的なことばかりでなく,経済学研究の面白き,異説 に対する寛容さ,異説を理解することの大切さを教えていただいた. 諸先生の学思の大ききに比べ,その成果の少なきに自らの怠慢を感じるほかは ないが,これを一つの区切りとして更なる前進を期するのみである.

1

9

9

8

9

月 近 藤 A主£与 す』

(6)

第1章 史的唯物論と現代社会システム 第l節社会システムと個人,社会関係と行動・・H・H・....・H・...・H・....1 第2節 自己組織化モデルによる社会システムの進化……… 4 第3節所有関係,所有写像・…...・H・...・H・...・H・-…H・H・...・H・...・H・..13 第4節 生産概念の拡張,生産関係,生産力...・H ・-…...・H・....・H・-…18 第5節 生産様式,純生産および再生産可能集合,剰余労働………24 第6節独占化と独占体....・H・....・H・...・H・-…...・H・-…H・H ・....・H・...29 第7節国家………...・H ・...・H ・...………30 第

2

章 固定資本と資本の増殖 第1節 固定資本と基本定理………....・H ・...一…33 第2節 固定資本と資本増殖率…...・H・...・H・..…………...・H・..…..40 第

3

節 固定資本の回転と最低必要投下資本...・H・...・H ・...・H・..…

4

9

3

章 生 産 と 資 本 の 集 積 と 独 占 化 第l節部門内競争と独占力…………...・H ・..………....・H ・...….58 第2節生産の集積と参入障壁の形成………・………….68 第

3

節 カルテル化一独占化への分岐点-...・H・H・H・...・H・....・H・..・

7

5

第4節独占価格と独占利潤………・………・…・…………80 第

4

章 総 供 給 関 数 と 独 占 第1節問題の所在…....・H・..…...・H・..…...・H・..………..89 第2節 総供給関数の再構成…・…...・H・・・H・H・...・H・....・H ・-…...・H・.91 第3節独占の導入とモデルの提示………102 第4節 総 供 給 関 数 の 規 定 因 独 占 と の 関 連 で 一 一H・H・H・H・....…109 第5節 結びー総供給管理政策の必要性一…....・H ・....・H ・-……・..112

(7)

第1節問題の所在...・H ・..………...・H ・..115 第

2

節議論の前提とモデル…...・H・...・H・...・H・H・H・..…...・H・..116 第

3

節 モデルの安定性………117 第4節均衡成長...・H・..…………....・H・..…...・H・...・H・..…...・H・.121 第5節 需要追随型投資関数の現実妥当性…...・H・....・H・...・H・..122 第6節不安定性の根拠とその累積性...・H ・..………124 第6章 経 済 の 寡 占 化 と 不 安 定 性 第1節問題の所在………...・H ・..…...・H ・129 第2節統合型寡占経済モデル...・H・...・H・..…...・H・..…...・H・..…129 第3節 長期均衡成長経路と黄金均衡成長経路…...・H ・....…・・…l34 第4節 黄金均衡成長経路の数値例…・…・・……・...・H・-…H ・H・-…..140 第5節 黄金均衡成長経路の意義とその規定因...・H・...・H・..…..141 第6節 シミュレーションの準備と 5つのシナリオ……… 144 第7節 シミュレーションのまとめと要約…...・H ・..…...・H ・..……146 第7章現代国家介入と構造不安定性 はじめに一市場経済と国家-....・H・H・H・..…...・H・-…H・H ・-…...・H・.151 第1節 ケインズの国家介入論………...・H・..153 第2節小括…...・H・-…H・H・-…...・H・...・H・...・H・..…...・H ・...・H・.164 第3節 軍需経済の矛盾一財政赤字との関連で一………・…...・H ・.167 第8章 経 済 過 程 と 環 境

N

.

ジョージェスク=レーゲンの所説に寄せてー 第1節問題の所在…...・H・..……...・H・..…・…...・H・..……...・H・..175 第

2

節 ジョージェスク=レーゲンの生産把握…………...・H ・..…

1

7

7

第3節マルクスの生産把握……...・H・...・H・...・H・H・H・..………185 第

4

節 生態系・エントロビーと経済過程………...・H ・-…・…189

(8)

第1節問題の所在...・H ・H ・H ・....…...・H ・...・H ・...・H ・...・H ・..…・…… 195 第2節 諸仮定および諸限定…・・………....・H ・...・H ・.198 第3節準備的考察………・H ・H ・...・H ・..…...・H ・..………202 第

4

節展開...・H ・...・H ・H ・H ・..…...・H ・...・H ・H ・H ・..…...・H ・..……207 第

5

節価格の民主的計画化の展望的結語………217 引用文献...・H ・H ・H ・..…...・H ・..………・・…...・H ・..…...・H ・H ・H ・..………… .219

(9)

1

史的唯物論と現代社会システム

l

節 社 会 シ ス テ ム と 個 人 , 社 会 関 係 と 行 動

現代経済の諸現象は現実に生き,生活をしている自由な諸個人(現実的輯個人) の行動の合成結果として表れる.彼らの行動は多様で、気まぐれなものもあるが, 大量現象として平均的に考察してみると一定の規則性,あるいは類型化された行 動様式を持っているものが多い.そして,その行動様式も不変で、はなく,教育・ 学習や経験の蓄積により,あるいは自らを取り巻く外的環境条件の変化により, 自発的にせよ非自発的にせよ,長い時聞の聞には徐々に修正されてゆく.そして, こうした行動様式のわずかな量的変化がついには大きな質的変化を生み出し,自 らと他者との関係を変え,さらには社会制度や既存の秩序,一般に社会構造と呼 ばれるものをも変えて行く.まさに現実的個人の行動は社会進化の原動力である. 社会とは,現実的諸個人の単なる集合物ではなく,むしろ諸個人が相互に取り 結ぶ結合関係,交易関係そのものの総体である.あれこれの結合関係の総体をさ しあたり社会関係という用語で表現するとすれば,社会とは一定の社会関係に よって秩序づけられた人間の集団である.一般に,

r

いくつかの要素が何らの関係 で結合したものj をシステムというが,われわれの定義は社会をシステムとして 理解しようとするものである.社会システムは現実的諸個人とその部分集合(例 えば法人や産業など)からなる社会行動の主体の集合N={l,2,…, n} (厳 密には

N

は,現実的個人の集合から作られる巾集合のある部分集合である),それ らの主体によって形成された社会関係の全体によって表現される.そこで,第i 主体が取り結んでいる社会関係の全体を RIと書き,全ての社会関係の集合をR と書くことにすれば,社会システムとは, { ( i

R1)

I

i E

N

RI E R } 1 )森下 [74J p.1.

(10)

と記述することが出来る. 社会関係Rはそれ自体重層的構造をもち,多様な領域ないしレベルの人間関係 から構成きれる.その最も本源的なものは血縁関係や地縁関係であるが,マルク スが強調したように,歴史的には生産手段や生活手段に対する所有関係が人聞社 会の理解にとって基本的に重要で、ある.所有関係については後に考察する.また, 近代社会においては膨大な商品群と貨幣の交換関係として現れる再生産的諸関係 (生産一消費一分配関係)が個々の主体と関係の「二重の再生産」にとって重要 である.また.

r

科学革命

J

r

市民革命

J

r

産業革命」の三者を媒介とした近代社会 の成立は,王侯貴族の身分的・政治的特権や「独占」を否定し,中央集権的な国 家制度の確立による圏内市場の統ーを達成するとともに,他方では,三権分立制, 普通選挙権,議院内閣制などを含む近代的国家制度を作り出し,合理的な評価シ ステムを持つ「平等で自由な個人」を創出した.その結果,われわれの近代社会 では,国民主権の担い手として彼らが取り結ぶ政治的諸関係も重要な分析対象と なってきた.このように社会関係の内容やそのあり方自体も歴史的・社会的に規 定きれるとともに,逆にそれらが現実的諸個人の行動をも規定してゆく関係にあ る. 次に,ある主体の行動について考える.各主体は一定の与えられた,あるいは 自ら創造し付加した社会関係RIの中で,自分の社会的役割,立場,責任,地位, 権限といったものが与えられ,それを理解しているとする.また同様に,各主体 は一定の社会的関係の中で,利用可能な制御手段(労働手段,生産手段,意思伝 達手段,私有財産等を含む)を与えられているとする.ある主体iにとって考え うる限りの行動の集合をAIとすると,その行動の集合の中には彼にとって無効 なもの,選択できないものが含まれている.例えば,賃金労働者は自らの雇用や 新技術導入,利潤の分配や投資について決定を下すことはできない.年収400万円 の家計が年収4000万円の生活(消費選択や投資行為など)をすることはできない. 土地の所有者でないものは土地の利用について意志決定を下すことはできない, 等々.従って,ある主体が実際に選択可能な行動は制約されざるを得ない.ここ では,各主体の選択可能な行動の集合を制約する基本的要因として,ある主体の 社会関係RI (それは制御手段の所有関係を含む)を考え,それがある主体の選択

(11)

可能な行動の集合を規定している,と考える.よって, 主体 iの選択可能な行動の集合

=

A

1

1

RI と書ける.次に,ある主体が何らかの行動の選択を迫られる根拠,理由が考察さ れねばならない.ある主体が何らかの行動を選択した場合,それは他者ないし外 部に対して一定の作用,制御行為または情報として出力される.その出力UIは, 他者に影響を与え,他者からある種の反作用や反応を期待し,引き出そうとする ものであったり,自分を取り巻く客観的状況や制約条件の変化に対応して自分自 身の内的状態を改善しようとするものであったり,さらには制約条件それ自体を 変更しようとする場合もある.こうした出力の対象を一般に主体にとっての制御 対象と呼ぽう.従って,行動には何らかの外的な制御対象と主体の行動の目的が 必要で、ある.一般に,行動とは制御対象がとるある状態に対して能動的・意識的 に働きかけ,そのことによって制御対象を自らの目的にとって都合の良い状態へ と変化させることである.制御対象がどのような働きかけに対しでも何の変化も 引き起こさない場合には,その行動は無効である.しかし,適切な行動によって 外的制御対象が変化する場合には,その変化が好ましいものであるか,または好 ましくないものかを識別し,さらなる制御を加えなければならない.従って,行 動主体と制御対象の聞にはフィードパック関係がある.行動の原因は制御対象の 状態であり,その変化である.行動主体は外的制御対象の状態または情況xを入 力として受け取り,みずからの行動UIを出力する.行動主体の出力UIは制御対象 の情況を変化させ,それがまた行動主体に新たな行動を呼び起こす,等々.また, 行動主体は対象の状態を記憶し,新たな情況を分析したり,評価することができ なければならない.さらに,行動主体が制御手段を持つか持たないか,どのよう な制御手段を持っかによってもその行動の効果は大きく異なると考えられる. 以上の考察を図

1

で説明しよう.ここでは,制御対象の状態ないし情況をxで, また,主体iの制御対象への作用,行動をUIで示す. 行動主体iは独自の評価,判断システム(または目的関数),情報の記憶・学習・ 分析システム,選択可能な行動の集合をもち(これらを一括してデシジョン・シ ステムと呼ぼう),それに基づいて情況の変化に応じた一定の戦略を決定する.し かし,その戦略に中には一定の社会関係のもとで選択可能なものと選択不能なも

(12)

図 1

I

デシジョン・システム 実行可能な い 情況の判断M二 ニ 斗 + 最 適 政 策 の 選 択 x 情況

千手合

一定の社会関係 制御対象への 行二重)JUI のがありうる.もし,選択可能でない場合には選択可能な行動の集合を参照した り,自分の置かれている情況を分析しなおし,あるいは評価方法を修正し,こう して一定の社会関係のもとでの選択可能な最適戦略=行動を選び出す.選択され た最適戦略=行動は,みずからの利用可能な制御手段を通じて制御対象に伝達き れ,それによって制御対象に何らかの変化を引き起こす.主体はこの情況の変化 をさらに入力として受け取り,自らの目的にふさわしい状態へと制御対象を変化 させて行しこれが合理的な行動主体による外的対象の制御の内容である.

2節

自己組織化モデルによる社会システムの進化

「一般に,多数の同一構造の要素が集合しているシステムがあり,要素聞の相 互作用の結果として時聞の経過とともに要素間にある秩序だった関係が自然に構 成 さ れ て ゆ く と き , そ の シ ス テ ム を 自 己 組 織 化 シ ス テ ム (self-organizing system)

J

と呼ぶが,サイバネティックスにおける自己組織化の考え方は,マルク スの史的唯物論の考え方に一脈通じるものがある.ここでは,この理論を用いて マルクスの社会理論を再構成してみよう. まず,各人は一定の生産力とそれに照応する社会関係RIが与えられ,従って選 2 )森下 [74]p.18.また,サイバネティックスの応用可能性についてはウィーナー [133].

(13)

択可能な行動の集合AIIRIが与えられている.その選択可能な行動はUl,U2, U3 の3種類とし, Ulは「開発優先の政党に投票するJ,U2は「中間派の政党に投票す る

J

,U3は「環境優先の政党に投票する

J

こととする.各人は10行10列からなる格 子平面のーブロックとして配置されている.各人が配置された格子平面を社会の 形と呼ぽう.各人は行列の第 i行,第 j列 , す な わ ち (i, j) (i

=

1

2

, 10 ; j =1, 2,…, 10)によって特定される.記法の簡略化のため, (i, j)を(ij) と書く.次に,各人はそれぞれの評価ベクトルW(IJ)を持つ.これは,情況 xと同じ 次元をもっ荷重ベクトルであり,評価関数g(lJ)( x)二 w(川Xは評価ベクトルw(叫こ よる主体 (ij)の情況

x

に対する評価値を表す.各人はそれぞれ3種類の評価ベク トル

w

(

(p=1

2

3

)

を持っと仮定する.この意味はある情況Xが与えられたと き,各人はそれを様々な尺度で自由に評価することが出来る, ということを示し ている.従って,われわれの場合,各主体 (ij)は,情況

x

に対してg(!j)p(

x

)ニ

w

(

川 p x

(p=l

, 2, 3)なる 3つの評価値をもっ.そして,各主体はそれらのうちから最 大の評価値を与えるPを最適戦略として選び出すものとする.すなわち,主体(ij) の最適戦略p(p =1, 2, 3)とは, g(lJ)p(x)=max [g(!j)l(X)

g(lJ)2(X)

g(IJ)3(X)J を満たすPのことである.この Pは選択可能な行動Upと対応している.従って, P =1ならこの主体は行動向を選ぶ,等々.また,時点t= 1を初期時点とし,初 期における各主体 (ij)の3つの評価ベクトル w(!j)p(1)

(

p

=

1

2

, 3)は大きさ

1

の 任意の方向ベクトルとし,より具体的には表

1

の10種の方向ベクトルからランダムに3つを選 ぴ与えるものとする. 次に,各人は

2

次元ベクトルx

=

[

x

1, X2Jを 情況ベクトルとして受容する.ここで, Xlは環 境の状態を示し,その値が大きいほど環境の状 態は改善されたとする.同様に, X2は経済の状 態を示し,その値が大なるほど,経済活動の状 態は改善されたとする.さらに,これらの情況 を表すxは,表2の3つの状態 (C1,c2, I 2 3 4 5 6 7 8 9 10 表1 初期の評価ベクトル

l 0.587785 0.809017 0.951057 0.309017 0.951057 -0.30902 0.587785 -0.80902

-1 0.58779 -0.80902 -0.95106 -0.30902 -0.95106 0.309017 -0.58779 0.809017

(14)

表2 3つの情況ベクトル

c

3により区別する)のみをとることが出来るとする. える. この3つの情況は,環境と開発の聞にトレード・オフの 関係を反映するように作つである. 各人にとって3つの情況のどれが生じるかは予測不可 能であり,モデノレのシミュレーションではランダムに与 次に,行動型について説明する. 3つの情況ベクトルXと各人の評価ベクトル w(り)p(p=l,2, 3)が与えられたとき,それぞれの評価関数g<!j)p( x) =w(j!)pX (p=

1

2

, 3)を最大にする最適戦略は3つの情況に応じて3つ定まる. (同じ評価値 を与える最適戦略が複数ある場合には,より小さいほうの戦略を最適戦略とする) 例えば,情況xがc1のとき,ある主体 (ij) は3つの評価値g(!j¥(x) (p=l, 2, 3) を計算し,その最大値を与えた評価パラメータw(ωpが一つ決まる.その場合の 主体(日)の最適戦略は Pである.以下同様に,情況Xがc2のときの最適戦略が q,情況Xが

c

3のときの最適戦略が

r

などと決まる.行動型とは,この3つの 最適戦略の組(p, q, r)(p, q, r=l, 2, 3)のことである.これらの最適戦 略の組み合わせは33=27通りあるが,それぞれ表3の番号で行動型を区別するも のとする. 行動型は評価ベクトルが変われば変化する.また,行動型が同じであれば,各 主体はいかなる情況

x

に対しでも同じ最適戦略=行動を選ぶことになる. 表3 27通りの行動型 行動型 c1 c2 c3 行動型 c1 c2 c3 行動型 c1 c2 c3 1 1 l 1 10 2 2 3 19 l 1 3 2 2 2 2 11 2 3 2 20 l 3 3 3 3 3 12 3 2 2 21 3 1 1 4 l l 2 13 3 3 2 22 l 2 3 5 1 2 1 14 3 2 3 23 1 3 6 2 l l 15 2 3 3 24 2 3 1 7 2 2 l 16 3 3 1 25 2 l 3 8 2 l 2 17 3 1 3 26 3 1 9 1 2 2 18 l 3 3 27 3 2

(15)

図 2

:

1

4

1

2 2 3 2 ③ 3 (A) (B) (C) 次に,多数派最適戦略について説明する.今,情況ベクトルXが与えられば, 各人はみずからの評価ベクトlレw(lj)p(p= 1, 2, 3) を用いて評価関数 g(ωp(x) = w(ωpx(p=l, 2, 3)を計算し,最適戦略を一つ定める.従って, 10

x

10の格子平 面には,各人の最適戦略が総計100個並んで・いる.こうした状況を踏まえて,各人 はみずからの評価パラメータを修正すると考える.その時,各人は自分の周りの 最適戦略の状況を見渡して,自分も含む多数派の最適戦略に影響されるものとし よう.ただし,周りの範囲としては本人を中心に最大

3

x

3

の格子を選ぶものと する.本人が与えられた社会の形の格子平面のどこに位置するかによって,周り の主体数は異なる.例えば,図

2

O

印の位置に本人がいるとすると,

ω

では考 慮すべき主体の数は自分をも含めて

4

つである.またこの場合,本人の最適戦略 は3であるが,多数派最適戦略は 1となる.同様に, (鴎では周囲の主体数は6, 本人の最適戦略は2であるが,多数派最適戦略は 2または 3となる.この場合は 便宜的に数値のより小さい方を多数派最適戦略とする.従って多数派最適戦略は 2となる.(c)では周囲の主体数は 9,本人の最適戦略は 3,多数派最適戦略は 1 となる.ある人が多数派戦略を決める場合にどこまで周りの状況を考慮するかは ある人が利用可能な情報量の格差構造を反映していると見ることが出来る.例え ば,

ω

の状況は本人が地方の辺境部に位置しているため情報量が少なしこれに 対して(c)の状況は本人が都市部に位置しているため情報量に恵まれている場合で ある,等々.このように社会の形の状況設定も最終結果に影響を与える. 3 )森下 [74] p.24参照.

(16)

X2 図3 X2 W

ヘ (

t

l

l

W 11]) p (t) w IIJ) p (t

+

1 ) W

(t

+

1) --...官

.

x (t) x (t) Xl Xl q=pの場合のwの修正 q手pの場合のWの修正 多数派最適戦略は本人にとって,みずからの評価ノfラメータw(lj)p

(p= 1

2

3

)

を自己修正する際の判断基準を与える.時点

t

における情況をx(

t

)と書くと, 情況

x(

t)に対して多数派最適戦略Pとみずからの最適戦略qが一致した場合に は,次期のみずからの評価ベクトルw(lj)p( t

+

1)は情況Xの方向に向かうように 修正されると考える. (図3参照)このことの意味は,将来同じ状況Xが生じた場 合には最適戦略としてPを選ぶ可能性が高くなるようにみずからの評価パラメー タに修正を加える, ということである.逆に,多数派最適戦略Pと最適戦略qと が食い違った場合 (qヰp)には,そのような評価パラメータはみずからの最適 戦略とならないように,方向は同じままで評価値をより小さくするように修正を 加える. 具体的には, r w (lJ)p ( t

+

1) - w (lJ)p ( t )

=

c (x ( t ) -w(lj)p ( t )) (*)

i

l

w (lj)q ( t

+

1) -W(IJ)q ( t )

=

-cw(lj)p ( t ) (qヰp) と書ける.これを学習法則という.ここで cは評価ベクトルが一期間に修正さ れる速度の大きさを表す正のパラメータである.調整はゆっくり進むと考えれば

O<c<l

である. 以上でモデルの説明を終えたので,具体的なシミュレーションを行おう.なお, c

=

0

.

0

2

とする. [シミュレーションの手順] ① t

=

1

とする.

1

0

個の初期評価ベクトルのうちから,ランダ、ムに

3

つを選ぴ, これを主体 (ij)の時点tにおける評価ベクトル

w

(

川p(t)

(p=l

2

3

)

とす

(17)

る.同様のことを10X10の主体について繰り返し,総計100X3個の時点tにお ける初期評価ベクトル

w(

t )を定める. ② 3つの情況ベクトルc,1 C 2, C 3を順次選ぴ,評価ベクトル

w(

t)を用 いて,それぞれの情況に対応する各人の最適政策を3つ確定し,各人の行動型 を確定する.その結果を格子平面に記録する. ③ 3つの情況ベクトルからランダムに 1つを選び,これを時点 tにおける情況 ベクトルx( t )とする.さらに,各人の時点tにおける評価ベクトルw( t )を 用いて各人の最適戦略を一つ選ぶ.各人の時点 tにおける最適戦略を格子平面 に記録し,最適戦略表を完成させる. ④ 時点tの最適戦略表から,各人の多数派最適戦略を1つ定める.それを用い て, 100X 3個の評価ベクトルw( t)に学習法則(*)によって修正を加え,次 期の100X3個の評価ベクトルw(t+1)を定める. 以下, t=t+1として①に戻る. 第一回目のシミュレーションの結果は図

4-8

の通りであった.なお,図中の 番号は各時点における行動型(表3参照)を表す. 初期 (t

=

1)においては,各人の行動の多様性を反映して,行動型は

1

6

種類 あった(図1).しかし,各人の評価ノfラメータが多数決原理によって少しずつ修 正が加えられる結果,隣接した各人の評価方法は類似性を帯びてくる.その結果, 図4 (t=l) 図 5 (t=40) ト一一ー 2 2 2 3 ト一一一 2 1"-

3 21

「τ1

2 1 6 1

(18)

図6 (t=70) 図8 (t=100) 3 図7 (t=90) 行動型の多様性は徐々に失われ,特定少 数の型へと収赦して行く. t =40の時に は,行動型は11種類となり(図 5),t

=

70では5種類(図6),t =90では7種類 (図7),t = 100では4種類となる(図 8). t=100でこのモデルの運動は定常 状態に到達し,その後どのような情況ベ クトルを与えても行動型は不変となる. 従って,この自己組織化モデルは諸個人 の自由で合理的な選択行動が,結果とし て,その反対物である一定の安定した社会構造または社会秩序に転化してゆくこ とを説明しえるモデルとなっている.t =100の行動型が意味していることは,開 発優先の政党支持者(開発容認派)が51%,中間派政党支持者(中間派)が25%, 環境優先の政党支持者(環境保全派)が22%を占めるということであり,この場 合には社会システムの多数派は開発容認派が単独過半数を占めるということにな る. ただし,上述の過程は必然的であるが,結論は偶然的なものである.例えば3 つの情況C

1

, C

2

, C

3

の番号を付け替えてC

1

をC

3

としてやれば,環境保

(19)

全派の人々が多数派となるモテールを作ることが出来る.さらに,初期の評価ベク トル w (1)の選び方はランダムであったから,この初期条件を変えてやれば,まっ たく異なった自己組織化のストーリーを作ることも出来る.以下に初期の評価ベ クトルの与え方を変えた場合にどのような自己組織化が生じるか,を例示する. [第二回目のシミュレーション] 図 9 (t=1) 図 10 (t=114)

~

12 2 T 2

1 2 トー 2

I

」 一 一

t

=

1

の時,行動型は

1

6

種類であったが(図

9

)

t

=

1

1

4

においてモデルの運動 は定常状態となり,このとき行動型は2種類に自己組織化される(図10).このケー スでは最終的に開発容認派は41%,中間派が59%を占め,中間派が単独過半数を 獲得する. [第三回目のシミュレーション] 図11 (t=l) 図12 (t=88) 2 9 t = 1の時,行動型は15種類であったが(図

1

1

)

,t =88の時,運動は定常状態と

(20)

表4 シミュレーション 収束時期 初期行動型数 終期行動型数 終期行動型特徴 第一回目 t =100 16 4 1が単独過半数 第一回目 t =114 16 2 2が単独過半数 第三回目 t =88 15 4 3者鼎立 なり,そこでは4種類の行動型に自己組織化される(図12).ここでは,開発容認 派が38%,環境保全派が34%,中間派が20%となり,いずれも単独で過半数を占 めることはできない.従って中間派に対する多数派工作が議会運営上の鍵となろ

.

以上 3つの場合につき初期評価ベクトル

w

(1)の与え方を変えた場合,どの ような定常状態が生まれるかを検討した.そこでの結論は,表4にまとめである. 上記のシミュレーションに共通していることは,いずれも初期においては 15-16程度の多様な行動型が2ないし 4つといった少数特定の行動型に集約きれ てしまうこと,収束時期もほぼ88-114期と類似的であること,またすべてのシ ミュレーションで自己組織化が生じ,社会システムは定常状態に到達することで ある. ただし,このモデルがどのよっな結末を迎えるかは全くの偶然に依存している. 例えば,初期評価ベクトル w (1)の与え方,社会の形,多数派原理の妥当性やそ の場合の周囲の選び方,情況の型の選び方や分布の与え方,評価ベクトルの修正 速度Cの不変性などの想定を変えてやれば,様々な結末を作り出すことができる. また,モデルの運動が生産力を変化させ,社会関係に一定の変化を及ぼし,それ が選択可能な行動の集合や利用可能な制御手段を変化させ,評価パラメータを含 むデシジョン・システム全体を変化させ,あるいは学習法則を変化きせ,事態の 進展を大きく変化させるといった可能性は考慮されていない.さらには,社会シ ステムの運動が一定の傾向性を帯びる場合には,人々はその結末を予測し,国家 の介入などにより運動の自然な進行を外的に規制しようとするかもしれない.自 己組織化モデルにはこのよつな弱点はあるものの,一見何の法則性・規則性も持 たないかのように見える自由な意思決定を含む社会システムの運動が,一定の学 習法則によって次第に規則性ないし必然'性を帯びた秩序形成へと変化し,ついに

(21)

は社会システム全体の自己組織化へと向かう傾向を持つこと,いわば量から質へ の転化,偶然から必然への転化を説得的に示している点はこのモデルの評価され るところであると考える.

3

節 所 有 関 係 , 所 有 写 像

個人および一定の人間集団の存続のためには,不断の生活手段・消費財の獲得 が不可欠で、ある.採集・狩猟・漁労時代の人類は共同体の一員として一定の大地 や山野・海辺等を事実的に占有・利用し,一定の生産手段,一定の労働を投下し て,消費財を獲得した.しかし,社会集団の人口増加速度が自然の生産性を上回 れば,早晩その集団は当該地域に居住することは不可能となり,人々は新たな大 地を求めて移動することになろう.このように採集・狩猟・漁労時代の人類は生 産力の未発展のゆえに定住化が困難であり,土地所有の観念は未成熟であったと 推察される.しかし栽培食物や農耕法の発見により,自然の生産性を労働によっ て人為的に増大させることが可能になると,剰余生産物の獲得が可能となり,集 団の定住化が進行し,土地の希少性の認識とともに,土地所有の観念が発生する ことになった. このように,所有観念(ないし所有関係)が社会的に成立するためには,①剰 余生産物を獲得するに足る生産力の発展,②人聞の生存や欲望の充足にとって何 等かの対象(主として生産手段)が所有(=排他的独占)に値する重要な対象物 として認識されていること,さらに,③自分(または自分達)以外の他者が特定 の所有対象と関わりをもつことを社会的に排除出来ること,が必要である.第ー の条件を剰余生産可能条件,第二の条件を所有対象の認定,第三の条件を所有主 体の公認と呼ぶことにすると,ある社会に所有関係を導入するためにはこの3条 件が必要である.剰余生産可能条件については後述する. きて,ある社会において何が排他的に所有するに値する重要な「財産」である か,は主として生産技術・科学技術の水準や歴史的に与えられた社会制度に依存 する.例えば,土地,建物,家畜,奴隷,道具,熟練技能,機械,発電所,石油, 道路,自動車,ロボット,特許,現金,預金,株式,債権などの財産の諸形態を 考慮すればそのことは明かであろう.

(22)

次に,所有主体の公認については2つの方法がある.まず第ーの方法は黙認に よる方法である.ある主体がある財産を排他的に使用・利用することに誰も公に 意義を唱えない(または唱えることができない)ならば,その財産はそれを事実 上支配している人の所有物として社会的に是認される.第二は,公示制度による 方法である.土地や建物といった不動産については登記により所有権が確認・保 全される.また自動車や株式といった動産も所有者の登録,証書による確認など により,所有者が特定きれる. 近代社会では主要な財産(土地,建物,株式,特許など)は公示されていると みなされるから,以下ではこの場合を中心に考察する.公示された所有権は,① 相続,②売買,③贈与,④その他によって変更される.④その他の中には無主物 の先占(せんせん),遺失物拾得,錯誤などが含まれる. 所有関係とは,一定の生産技術・一定の社会制度をもっ社会において,主要な 生産手段・生活手段となっているある特定の財に対し,ある特定の所有主体によ る排他的利用・受益・処分にれを一括して財に対する支配関係という)が社会 的に是認きれていること,あるいはその状態を示す概念である. 以下の考察では所有関係を主要な生産手段に対する部分に限定する.というの は,ある人が主要な生産手段をより多〈握ることが出来ればそれだけ剰余生産物 をより多〈我が物とし,それゆえ生活手段の量と質をより多〈支配できると考え られるからである.また,

r

主要なjという限定は暖昧なものであるが,労働者家 計も一定の財産価値のある株式をもつような今日の情況では,支配権のない泡沫 株主と支配権のある株主を区別することが必要となる.こうした区別は経験的・ 社会的に定まっている, と見なす.次に,所有主体が個人であれ集団であれ,私 的な利益の追求を目的とした主体である場合,その所有は私有とよばれる.特に, 株式会社のように集団的に所有きれていても,所有主体聞の関係が平等でなく, 「主要な株主」が私的利益の追求を目的としている場合は私有である.また,所 有主体が公的な利益の追求を目的とした主体である場合は公有とよばれる.所有 主体聞の関係が平等であり,彼らが一定の集団となり,かつその目的が成員全体 の一般的利益の追求である場合には共有と呼ばれる.共有というのは所有対象が 構成員全体のものみんなのもの"であり, またそれ故特定の主体による排他的

(23)

支配(特権,独占)を認めない所有状態である.共有と公有はどちらも一定の集 団による集団的所有であり,その構成員の一般的利益を目的とする点では同じで あるが,所有主体が公的強制力(他者の財産に対する支配を物理的に排除できる 公的な強制力)をもつか否かでその性格が区別される.財に対する支配の具体的 内容は確定的なものでなく,社会状況により変イじする.例えば,地上権や地下権 をどこまで認めるか,

r

公共の福祉」と「権利の濫用

J

とのかねあいをどう考える か,に依存し,さらにそれらは社会状況に依存する. 所有関係は社会関係を,従って社会システムを特徴づける.そこで,所有概念 をさらに明確化しておこう. その社会における主要な生産手段(およびその支配権を表示するものを含む) の数を

n

とする.すなわち公示制度により所有権が確定きれている財産の数を

n

とする.このような財産を以下,公示財産とよぶ.各公示財産の集合

Kh K

2

'

…,

Kn

は公示制度により適当な分類(または分割)が行われ,それぞれに分類番 号が付きれ,その所有者が確定しているとする.例えばK,を土地とすれば,

K

, = {k,a, k,¥…, k,Z }

K

k1aUk1bU…Uk

Z であり ,k,a

a

という所有主体がもっ一定の地籍番号・面積の土地である.ま た,混乱の恐れがないかぎり ,k,a で

a

の所有する財産iの量をも表すものとす る.現実にはある個人が複数以上の土地を所有することがあるが,ここではk,a いうのは

a

という所有主体によって所有されている財産

Ki

の全てを表すものと する.すなわち,全ての財産は所有主体aのもとに名寄せされていると見なす. 次に,所有主体を考えよう.自然人の集合M ={a, b,…, m} からつくら れる部分集合の集合を'IJf(M)とする.kiaεK,を任意に選べば,公示制度をもっ 社会においては財産k,aの所有者

a

E'IJf(M)は確定しているから, k,sに対しそ の所有者

a

を対応きせる写像。Iを考えることが出来る.

φ

:K,→'IJf (M) (i=l, 2,…, n). 任意の

K

,の

2

要素k,S, k1bに対し,

φ

1(k,s ) =仇 (k1b)ならば,名寄せの仮定に より, k,a=k1bが成り立つことは明かであるから,

φ

i

は単射である(ただし全射 ではない ).このような写像は n個のすべての公示財産について考えることができ る.そこで, φ=(φ"φh…, φn)とし, φを公示写像, φ1を財産iに関する

(24)

公示写像と呼ぽう.φj(Kj) = W Mj (i=l, 2,…, n)とおけば, W Mjは公示財 産iをもっ所有者の集合である. すると,公示財産の所有者の集合 (wealthymen) W Mは, W M = {mε'l'(M)

I

少なくとも一つのiに対してφj-l(m)=空でない} {mε'l'(M)

I

U W Mt,. λεA} が定義きれる.ここで, A= {

1

2

,…, n}は添字集合とする.すなわち,所 有者とは,自然人と法人を含めて,何らかの公示財産をもっ人々の集合である. 同様に,無所有者の集合 (poormen) PMは, PM= {mEM

I

M c'l'(M),全ての iに対してφj-l (m) =空} = {mEM

I

'l'(M) パW M,t. λεA} が定義される.すなわち,無所有者とは何の公示財産も持たない自然人の集合で ある. この時, M = (WM什M) UPM, (WMパM) nPM=空が成り立つ.すなわ ち,自然人の集合Mは,自然人所有者 (WMnM)と自然人無所有者PMに類別 きれる.この類別を生産手段の所有関係による社会階級の類別という.また, W M には自然人以外の集団的所有主体(例えば村落,法人,

NPO

団体,地方公共団 体,国家など)も含まれている.これらの非自然人の所有者はW M一(WMnM) で表せる. さらに,所有者の集合W Mは私的所有主体(個人および法人など)と共同的・ 公的所有主体(村落,

NPO

団体,地方公共団体,国家,国連など)に区別するこ とが出来る.私的所有主体PWMとは,所有主体W Mのうちで,その所有目的, 利用動機が私的利益の追求と いう性質をもっ部分である. これに対し共同的・公的所有 主 体SWMとはその所有目 的,利用動機が構成員全体の 利益の増進,あるいは公共的 利益の増進という性質をもっ 部 分 で あ る . 明 ら か に , 図13 所有者W M ¥ (WMnM) (WM一(WM内M)) 無所有者 npWM npWM PM (WM一(WMnM)) 内SWM 自然人M 非自然人

(25)

WM=PWM U SWM, PWM

n

SWM=空,である.すなわち, W MはPWMと SWMとに類別される. (図

1

3

参照) 公示写像φ1の終集合

W

(M)をW M1に制限してやれば, φ1は全単射となる. そこで,ゆiの逆写像を利用して ,W MからK=IIK1へ の 写 像 2 = ι ι ・,

'

;

n

)

を考えることが出来る. 宮 =

(

ι

ι

,…,

'

;

n

)

:

W M→

K

B (a)= (';1 (a), 品 (a ),…,品(a )) =(φ1-1 (a), ゐ-1 (a),…, φn -1 (a))

(k1a, k2a,…, kn a). この時,次の命題が成り立つ. 命 題

1

所有者集合W Mから公示財産

K

への写像

E

は,全単射である.写像包を 所有写像とよぶと,所有写像は公示写像φの逆写像を所有者の集合W Mに制限 したものである. [証明]φI:K1→W MJ,ご"I:WM1→KIとすれば,ごi(φ1 (k1a)) = k1aおよびφ1

(

(a)) =aは明か.よって ,~rþl は KI の上の恒等写像,同じく φ1';1 は WM1の上の 恒等写像となる.従って ,';1およびφ1は全単射となる.また, ~=φ1-11wM1 で ある . (証明了) こうして,公示財産Kに関する公示写像φ を用いて,当該社会における所有写 像 Z を定めることが出来た.この所有写像 Eについては,全てのm ε W Mに対 し , B(m)=空でない, ~B(m) = K,が成り立つ.また,公示財産の単位あたり 評価ベクトルP= {P1, P2,…, Pn}が存在するものとして,所有者の財産価値に 関する評価関数gを次のように定義する. g :WM→

R

, g (m) = P . B (m) =~PI ・ k1m,三 R

(

R

は実数の集合). 即ち gはある所有者mtこ対してその公示財産の評価額(財産価値)を指定する 関数である.任意のm1,m2εMに対して

I

g (m1)) -g (m2)

I

<ε ,εは十分 に小きい正の数,が成り立つ社会を,資産の平等分配社会と考えることが出来る. また, B (M) = Kが成り立つ社会は,全ての公示財産(生産手段)は社会成員全 4 )恒等写像については,森田 [75J~2.

(26)

員の所有であり,完全な全人民的所有の社会である. 所有写像宮は,その始集合を PWMに制限したものを私有写像,同じく SWM に制限したものを共有・公有写像と呼ぶことが出来る.また, 8 (PWM)を私有 財産,冨 (SWM)を共有・公有財産と呼ぶことが出来る.私有財産の主要なもの は,土地,建物,工場,機械,特許権,株式,預金などである.労働力や消費財 は私有財ではあるが,所有主体と所有対象の関係は公示するまでもなく明かであ るから公示財産ではない.共有・公有財産の主なものは固有地,公有水面,道路, 橋梁,夕、ム,港湾などの社会資本や自然の一部,文化財,村落の共有地,

NPO

の 建物などである. 環境は公示制度の対象とならない.従って所有主体が確定できない財である. あるいは全社会成員の共有財産である.これを純粋共有財と呼ぽう. 社会主義とは,主要な生産手段Kの所有主体8-1(K)SWMに含まれるかま たはその利害に有効に影響される社会と定義される.他方,資本主義とは,主要 な生産手段Kの所有主体8-1(K)PWMに含まれるかまたはその利害に有効 に影響される社会である.結局のところ,両者の違いは主要な生産手段を誰が所 有し,誰がどのような目的・利害により利用(=意思決定)しているか,に依存 している.この意味で,所有関係およびそれに規定された様々な生産関係は社会 体制(社会構成体)を特徴づける根本的なメルクマールである. 第

4

節生産概念の拡張,生産関係,生産力

現実の生産,例えば農業や資本制機械工業などの具体的生産の場面においては, 生産手段の所有関係と利用関係,労働組織の編成と指揮系統,諸個人の生産にお ける役割・権限や分担などがあらかじめ確定しており,またその生産物の処分な いし分配方法,継続的取引や顧客関係,下請け関係,系列関係,株式所有関係, 情報の流れ,などの生産における社会的諸関係が所与のものとして与えられてい る.こうした生産における社会的な諸関係を総称して,生産関係という.現実の 生産において生産関係が不確定のまま生産活動が行われることは有り得ない. 生産関係は次の諸関係から構成される.

(

1

)

その社会における主要な生産手段の所有関係

(27)

(2) 生産手段の所有者とその利用者(経営責任者)との関係 (3) 経営に関する諸関係

(

4

)

労働に関する諸関係

(

5

)

産業内および産業間における関係 (6) その他の生産関係.

(

1

)

の所有関係は,最も基本的な生産関係である.所有関係はまず,何がその社 会で主要な生産手段(すなわち公示財産)であるかを定め,有産者と無産者を確 定するのみでなく,有産者聞の相対的地位や社会的役割,権限の基本的分布をも 定める.生産手段を巡る所有関係は有産者の生産における支配的地位や役割を規 定し,その裏面として無産者の生産における従属的地位や役割を規定する.(2)は 所有者自らが生産を実行する場合には不要であるが,株式会社制度のように生産 手段の所有者と利用者が相対的・機能的に分離している場合には,出資者の有限 責任制や株主権などがあらかじめ法的に確定していることが必要で‘ある.(3)は生 産・補填・利益処分・投資に関する経常的意思決定権の所在を定める.(4)は(3)と 密接な関係にあるが,今日の労働現場では,労使協調型の労働組合による労働者 支配や科学的な装いをもっ「人間工学j による労務管理,下請け関係を利用した 企業ぐるみ選挙などの多様な問題が生まれており,単なる経営権の問題を越える 問題を含むため別項として掲げた.

(

5

)

は,例えば継続的取引関係,系列関係,下 請け関係,ある業界での独占的地位などの諸関係である.(6)は産業を超えた関係, 例えば企業と金融機関との関係,企業集団や経済団体との関係,企業や経済団体 と国家機関との関係,国際的カルテルや国際的な資本結合関係などである. これらの生産関係は相互に独立でなく,その社会における社会的分業と職能の 分化の程度,利用可能な生産方法,管理方法,知識・文化・情報処理能力の水準, 民主主義の発展度,政治的権利や法制度など,総じて生産力の水準や社会制度の 在り方に依存している.また,逆に生産力や社会制度の状況は生産諸関係のあり 方に影響きれる. 生産とは,一般に,人間と自然の物質代謝過程を意識的に媒介する行為であり, 一定の自然的・技術的条件と一定の生産関係の下で,生産手段と労働力を結合投 下して,一定の生産物(最終的には消費財)を獲得する能動的・意識的かっ組織

(28)

表5 自然 社 会 的行為のことである.ただし,人聞の生産 が自然環境に対して不可逆的な影響を与え 生態系① │資源財の抽出②│ るに到った今日では,この定義はやや狭い. 廃棄物の排出③│ 狭義生産④

生産を人聞の目的との関係だけで捉えるの ではなし自己の行為にまつわる「社会的費用j をも含めて捉え直すべきである. そこで,自然と社会の2者を主体とする交互作用の全体を考えよう.表5の①は 自然の内部的な関係を表している.自然自身が自らの状態を再生産する生命力を 持ち続けることは,われわれの生命・生産活動の究極の前提である.②は自然か ら社会へ流れ込む物質のフローを表す.具体的には人聞は自然を資源・エネルギー として利用する.③は社会から自然に流れて行く物質のフローを表す.具体的に は人聞は廃棄物(高エントロビー)を最終的には自然の中に放棄する.④は人聞 社会内部の物質の流れを示す.これが狭義の生産であり,再生産である.明らか に,人聞の生産行為は④の内部でのみ完結しているのではなし②③を通じて自 然環境との聞に社会的費用を発生させる.生産概念は今日,④のみでなく,②③ を含むものへと拡張されねばならない. 生産をストックの面からみれば,生産過程に投下され消耗した財を上回る財の 増殖過程として捉えることが出来る.これを抽象的に表現すれば,以下のごとく である.なお,以下では大文字でストック量,小文字でフロー量を表すものとす る. 生産には社会資本財

SK

,資源財

R

,生産財

K

,労働力

L

の各財が使用され, 廃棄物wが排出される.また,労働者家計を一種の生産過程,すなわち労働力部 門ととらえ,ここでは,社会資本,資源財,消費財,労働力(家事労働)を投入 して,労働力が作られ,廃棄物が排出されるものとする.また,社会資本財は固 定的な生産財の一部分であるが,短期的には増減が困難でbあること,その供給主 体が中央または地方政府であり政策的に決定されるという点で通常の生産財とは 区別することにする.環境財,社会資本は個別的に利用されるのではなし共同 的に利用される. また,廃棄物は個別の生産および消費過程で排出されるが,個々の排出量では なく全体としての排出量が環境の状態(便宜的に環境財

E

とよぶ)に影響を与え

(29)

ると考える.

生産を開始する時点をゼロとし,各財の社会全体でのストック水準を S(0)

=

(E(O), W(O), SK(O) I R(O), K(O), B(O), L(O))とする.ここで, Eは

何らかの環境財ストック, Wは蓄積された廃棄物のレベル, S Kは社会資本, R は資源財,

K

は生産財

B

は消費財

L

は投入可能な労働力の量を表す.次期の 生産の開始時点をしその時点での各財の存在量をS(1)=(E(l), W (l), S K (1)

I

R (1), K (1) , B (1), L (1) )とする.一般に,ある財の時点 tと t+hに おけるストック量とフロー量の関係は,時点 tにおけるある財のストック量をX ( t )とすると, X(t+h)=X(t)+(x-d). h なる関係が成り立つ.ここで

x

は一期あたりのフローの生産量, dは同じくフ ローの消耗量, hは生産期間の長きである.従って,その財の一期あたりの純生 産量 (x-

d

)

が正であれば,ストック量は増加する.例えば,財を木材(資源 財)とすれば t期において森林が産出した木材生産量x以上に木材を利用すれ ば,そのストック量Xは減少する.財を原油埋蔵量とすれば t期における生産 量

x

はゼロ,従って t期に消耗した分だけ原油埋蔵量Xは減少する,等々. きて, sS=S(l)-S(O)=(E(1)-E(O),W (1)-W(O), S K(l)-SK(O)

I R (1) -R (0), K (1) -K (0), B (1) -B (0), L (1)一L(0))とおき, sS> 0 とすると,この場合には消耗や補墳を上回る純生産が行われており,従ってストッ ク量が増大し,何らかの生産行為が行われたことを示す.しかし,生産を私的な 立場で捉えるか,社会的な立場で捉えるかによって生産の意味は異なる. 私的(資本家的)な意味での生産とはK(1) -K (0)

>

0, B (1) -B (0)

>

0と なることである.すなわちそれは端的に言って,剰余生産物が増大することであ り,それ以外の財の変化には基本的に関心を持たない.次に,社会的な意味での 生産とは,私的な意味の生産に加えて, S K (1) -S K (0)

>

0, R (1) -R (0)

>

0, L (1)一L(0)

>

0となることである. (ただし, L (1)一L(0)

>

0の条件につ いては生産技術の進歩如何により緩和されうる)すなわち,社会資本財ストック や利用可能な資源財ストックが増加する場合である.さらに,永続可能な生産(環 境保全型生産)とは,社会的な意味での生産に加えて, E (1)

>

E (0), W(l)< W

(30)

(0)となることである.すなわち,環境財ストックは増加するが,廃棄物のストッ クは減少する場合である.これを強い意味の環境保全型生産と呼ぼう.さらに, E (0) < E (1), W(O):壬W (1)となる場合は,弱い意味での環境保全型生産と呼ぽ う.この場合は,廃棄物が増大する(または一定)にもかかわらず環境財の水準 は増加するから,短期的には環境の急激な悪化は生じにくいと考えれられ,将来 に明るい希望をもつことが出来る.同様に, E (0)孟E(1), W(O) >W(1)の場合 も,弱い意味での環境保全型生産であり,環境の状態は悪化(または一定)する が,廃棄物が減少しているから,この場合も将来に一定の希望を抱くことが出来 る.次に,社会的生産が行われ,かっE(0) > E (1), W(O) <W(l)となる場合は 環境破壊型生産である.例えば,原生林の伐採や焼畑による生産行為は他方でそ れを上回る植林を行わなければ環境破壊型の生産となる.また現代の先進国の工 業=都市文明も地球規模で考えればこうした傾向をもっと考えられる.このよう な場合には長期的にも短期的にも将来への希望を抱くことは困難で・ある. 個別の生産過程は次のように表現される.なお,下付きのサフィックスは個別 の生産過程を示す.またフローの変数はマイナスで投入・消耗を表し,プラスで 産出を表す. ①社会資本生産部門(第一部門) (E, W, SKI一九一k!,-ll!)→ (XI, W!) すなわち,社会資本部門(1)はE,W, SKを所与として,資源財をr!,生産財 をk!,労働を ll!投下し,社会資本財X!と廃棄物(汚濁付加量)W!を生み出し た. ②資源財部門(第二部門) (E, W, SK

I

-r2, - k2, -ll2)→ (X2, W2) すなわち,資源財部門(2 )は, E, W, SKを所与として,資源財を r2,生産財 をk2,労働を ll2投下し,今期に消費可能な資源財むと廃棄物(汚濁付加量)W2 を生み出した. ③生産財部門(第三部門) (E, W, SK

I

-r3, - k3,一向)→ (X3' W3) すなわち,生産財部門(3 )は, E, W, SKを所与として,資源財を r3,生産財

(31)

をk3,労働をn3投下し,生産財X3と廃棄物(汚濁付加量)W3を生み出した. ⑤消費財部門(第四部門) (E, W, SK

I

-r4, -k4, -n4)→ (X4' W4) すなわち,消費財部門(4 )は, E, W, SKを所与として,資源財をr4,生産財 をk4,労働を n4投下し,消費財X4と廃棄物(汚濁付加量)引を生み出した.生 産された消費財X4は労働力の更新分(二マルクスのいう必要消費財)BNと,所 有者階級への分配分B K,およびその他とからなる. ⑥労働力部門(第五部門) (E, W, SK

I

-rs, -BN, -ns)→ (Xs, ws) すなわち,労働力財部門(5 )は, E, W, SKを所与として,資源財を rs,必要 消費財を BN,労働(家事労働)をns投下し,労働力(労働供給量)Xsと廃棄物 (汚濁付加量)Wsを生み出した. 今,自然自体もみずからに有害な廃棄物を生み出すかもしれない点を考慮して, その一期あたりの排出量をWOとしよう. (環境はゼロ部門とする)すると,今期 の総生産過程における総汚濁付加量は

2

叫である.次に,自然

E

の汚濁物を浄 化処理する能力は一期あたり o(E)で与えられるとすると,環境財の状態が劣化 しないためには, o

(

E

)

>};Wt なる条件が必要で、ある.また,各生産量が (X1,X2, X3, X4, Xs)のとき,社会 資本SKの減耗分σは生産水準によって規定きれ, σ=σ(XI, X2, X3, X,4 Xs) と書けるものとする. 以上の想定のもとで,永続可能な成長 (sustainabledevelopment)とは,毎期 (S D 1)o (E) -};Wt> 0 (SD 2) ~SK=Xl 一 σ(XI, X2, X3, X4, xs) > 0 (SD3) ~R=x2-};rt>O (S D 4) ~K ニ x3-};kt> 0 ( S D 5) ~ B

=

X4 -BN

>

0 ( S D 6) ~ L

=

Xs -};nt

>

0 なる6条件を満たし続ける経路のことである.

(32)

次に,生産力とは,

S

(

0

)

から

S

(1)への社会的生産過程におけるストックの状 態の変化(変換)の大きさ,より厳密にはその速度のことである.われわれの記 号で書けば,一期あたりの

sS

で表される.その大きさは投入生産要素量と産出物 量の比によって捉えることが出来る.投入生産要素

1

単位あたりの生産物の量は ある生産要素の物的生産性を表す.投入生産要素が労働力の場合は労働生産性(狭 義)という.これらの値は生産技術によって短期的にはほぼ確定しているとみな せる.これらのパラメーターによって定まる投入一産出構造は社会的生産力の具 体的表現である.

5

生 産 様 式 , 純 生 産 お よ び 再 生 産 可 能 集 合 , 剰 余 労 働 社会システムの経済的土台は生産様式と呼ばれる.ある社会の歴史的に与えら れた生産様式は,①生産力の水準,②所有関係を核とする生産関係,および③財 の存在状態の3つの要素により区別される.生産様式を構成する各要素は相互に 独立で、なし一定の生産力水準,一定の生産関係,一定の財の存在状態の聞には 相互に依存的な関係がある.例えば原子爆弾の存在は一定の技術の状態と資源、の 存在を前提し,また核兵器開発の必要性というある社会の生産関係,社会関係の 存在を前提している. 今,環境財E,廃棄物'W,公共財SK,資源財R,生産財K,消費財B,労働力 Lのそれぞれが有限個あるとし,それらの財の総数をmとする.また,公共財, 生産財,消費財の財の総計を

n

とする.

(n < m

である)ある社会のある財のある 時点における存在量は正の実直線R+上の一点とみることが出来るから, R+のm 乗を財空間と呼び,これを

S

で表そう.すると,ある社会αの財の存在状態 Saは 財空間

s

の一点、として表現きれる. さらに,歴史的に存在したあれこれの投入一産出構造をもっ生産力の集合をP, 同じく所有関係の集合をB,財空間をSとし,これらの直積集合を考える.P xBx

s

は歴史的に存在した全ての社会の生産様式の集合である.すると,ある社会α の生産様式とは生産様式の集合の1要素,すなわち(Pa,Ba, Sa)εP xBx Sと して表現することが出来る. 次に,財空間

S

から環境財,廃棄物,資源財,労働力を除いた空間を産出財空

(33)

間SQと呼ぶ.上で述べた仮定により SQはn次元の正の実数空間

R

n+である.生 産可能集合Qとは,ある社会のある生産様式 (Pa,8a, Sa)が与えられた時,そ の社会が生産物の水準 (xESQ)として選択可能な全ての組合せとして定義され る.その際,生産可能集合Qを規定する具体的な制約条件となるものは環境財, 資源財,労働力の存在量である.例えばある期においてその社会がもっ環境財ベ クトルを

E

,資源財ベクトルを

R

,労働力の総供給可能量ベクトルを

L

とし,第 j財を

1

単位あたり生産するのに必要な第 i番目の消耗制約財の量をそれぞれ EIJ,σIj,列すると, (例えば, εIJは第 j財を単位産出するのに必要な第i環境財 の量,以下も同じ.各要素は非負とする.なお,労働力τIJについては,各種労働 は必ずいづれかの部門で用いられており,各部門は少なくとも一種類の労働投入 を必要とする,と仮定する)その社会における生産可能集合Qは (P 1)εX三五E 環境財制約) ε:環境財の種類 x nの行列 (P 2)σx孟R 資源財制約) σ:資源、財の種類 x nの行列 (P 3)τX孟L (労働力供給制約)τ:労働力の種類 x nの行列 の3式を満たす生産量ベクトルXとして規定きれる.即ち, 0= {xεSQ

I

(P 1) -(P 3 )の条件式を満たす} である.生産可能集合Qは凸集合である.生産可能集合の東北フロンテイアを生 産可能フロンテイアと言う.生産可能フロンテイアは当該社会のある期間におけ る達成可能な経済状態の上限を定める.ただし,環境財の制約条件は短期的には 識別困難で、あり,歴史上しばしば無視されてきた. 次に,純生産可能集合

ry

とは,生産可能集合の生産量ベクトルのうちで,さら に生産において消耗した財を上回る産出財の獲得を可能にする選択可能な全ての 生産量ベクトルの組合せとして定義される. 今,産出財(公共財,生産財と消費財)の種類をn個,労働力の種類を4個, a!jを第 j財を1単位生産するのに必要な第 i財の量, C!jを第 j財を 1単位産出 するときに結合生産される財iの量(ただし Cjj=1とする),とする.さらに, A =

[aι(n

X n行列;投入行列), C

=

[CIJJ

(

n

X n行列;産出行列)とすれば, 産出財空間SQの投入一産出関係は,

(34)

( A l x

I

C

(nxn) J (nxl)→

l

(nxn) x (n X

1

)

投入財の総量 (n X

1

型) 産出財の総量 (n X 1型) と表現きれる.これより,純生産可能集合とは,

ry= {x ESQ

I

x

E

n

.

Cx>Ax}

と表記される.純生産可能集合

ry

も凸集合である.また定義から明かなように

ry

はQの真部分集合である.この集合が空集合とならないための条件は,①Qが 空でないこと,② D

=

C - A, D

=

[d!j]とおくと, d!j孟

o

(iヰ i, ニ

1

2

,…, n)であること,③ある正ベクトル

x>O

に対して,

Dx> 0

となる ことである.この③の条件は,通称ホーキンス=サイモンの条件(以下,

H. S

条件と略記)と呼ばれ Dの左上隅から順次とった主座行列式が全て正であるこ とである.①②③を純生産可能条件と呼ぴ,以下その成立を仮定する. 次に,再生産可能集合

rz

とは,純生産可能集合の生産量ベクトルのうちで,さ らに生産において消耗した労働力の再生産のために必要な消費財を上回る産出財 の獲得を可能にする選択可能な全ての生産量ベクトルの組合せとして定義きれる. 再生産可能集合を具体的に規定する条件は,消耗生産量を上回る生産量が得られ ること,労働力の再生産に必要な消費量(必要消費財)を上回る消費財が獲得さ れることである. 今,第 j種類の労働

1

単位あたり再生産するのに社会的に必要とされる第i消 費財の量を blj註0,

B

=

[bι(n X .e型)とすれば,

Brx (

n X .e型..e x n型-nXl型=nXl型)は生産水準がXのときの各種消耗労働力を再生産するのに 社会的に必要な消費財の量を表す.また,第一種労働を単純労働とする.すると, 再生産可能集合

rz

は,

rz= {xεSQ

I

n

.

Cx>Ax+Bτx}

により定義される.再生産可能集合

rz

も凸集合である.また定義から明かなよう に

rz

ry

の真部分集合である.再生産可能集合が空集合とならないための条件 は,①Qが空でないこと,②

M=C-A-Bτ

M=[m

!j

J

とおくと,

m

!j壬

o(

iヰ i,

j=

,l

2

,…, n)であること,③ある正ベクトル

x>O

に対して,

Mx>

O

となること.即ち,

M

の左上隅から順次とった主座行列式が全て正であること,

図 1 I  デシジョン・システム 実行可能な い 情況の判断 M 二 ニ 斗 + 最 適 政 策 の 選 択 x  情況 千手合 │  一定の社会関係 制御対象への行二重)JUI  のがありうる.もし,選択可能でない場合には選択可能な行動の集合を参照した り,自分の置かれている情況を分析しなおし,あるいは評価方法を修正し,こう して一定の社会関係のもとでの選択可能な最適戦略=行動を選び出す.選択され た最適戦略=行動は,みずからの利用可能な制御手段を通じて制御対象に伝達き れ,それによって制御対象に何らか
表 2 3 つの情況ベクトル c  3 により区別する)のみをとることが出来るとする. える. この 3 つの情況は,環境と開発の聞にトレード・オフの関係を反映するように作つである.各人にとって3 つの情況のどれが生じるかは予測不可能であり,モデノレのシミュレーションではランダムに与 次に,行動型について説明する
図 6 (t=70)  図 8 (t=100)  3  図 7 (t=90)  行動型の多様性は徐々に失われ,特定少数の型へと収赦して行く. t =40の時には,行動型は11種類となり(図 5),t  = 70では5種類(図6),t =90では7種類(図7),t = 100では4種類となる(図8).  t=100でこのモデルの運動は定常状態に到達し,その後どのような情況ベクトルを与えても行動型は不変となる
表 4 シミュレーション 収束時期 初期行動型数 終期行動型数 終期行動型特徴 第一回目 t  =100  1 6  4  1 が単独過半数 第一回目 t  =114  1 6  2  2 が単独過半数 第三回目 t  =88  1 5  4  3 者鼎立 なり,そこでは 4 種類の行動型に自己組織化される(図 1 2 ) .ここでは,開発容認 派が 38% ,環境保全派が 34% ,中間派が 20% となり,いずれも単独で過半数を占 めることはできない.従って中間派に対する多数派工作が議会運営上の鍵となろ
+6

参照

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