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固定資本と資本の増殖

ドキュメント内 独占, 蓄積と環境 (ページ 41-65)

第1節 固 定 資 本 と 基 本 定 理

資本とは,マルクスによれば,不断の自己増殖を遂げる価値の運動体である.

それは単なるモノではなく,資本主義的の生産関係の中で一個の独立した生命体 のように,人間に対峠し,人間を支配するに到った対象的存在である.マルクス はこうした資本の独特の性格を「生産関係の物象化

J r

物神性」と呼んだが,その 神秘性は自由な私人による商品交換の全面化と労働力の商品化という資本主義的 生産関係の基礎の上で,資本の無限性と私人による利潤追求の無制約性が初めて 人格として一体化しえた資本主義社会そのものの独自性に起因している.この点 に関してルカーチは,

r

生産者が自己の社会的な生活条件を支配する力を失ってし まっているようなj資本主義社会では,

r

社会的な生活条件が事物化し,物象化す ることによって,完全に自律的なものとなり,生活そのものを動かす自律的・自 己完結的な,それ自体で意味のある体系となっている j と述べている.

そこで,資本の本質は次の点にある.すなわち,ある資本家が時点Oにおいて G (0)の貨幣額を投下し,一定の生産期間の後に回収した貨幣額を G(1)とする と,一般に, G(O)<G(l)となるのは如何なる理由によるものか,ということ である.マルクスはここから剰余価値の秘密を発見したのであるが,今その論理 を簡単に振り返ってみよう.

ある産業 jに属するある資本家αは一定額の貨幣G勺(0 )を時点Oで投下し,

これを元手としてn種類の生産財と一種類の労働力を購入し,生産X"j>0を 行ったとしよう.すると,

(1)  G"j ( 0 ) 

=  L :

Plalj"x"jWTj"X"j

)ルカーチ [109J p.383. 

が成り立つ.ここで, aij<<は第 j産業の第 α 資本家による第 i財の投入係数,げ は同じく(単純)労働の投入係数である.各生産において労働は必須で、あり, γ >

Oと仮定する.piおよびwは第i財と労働力の価格である.産業 jには Sj人の資 本家が存在するとすると,第 j産業では,

(2)  (aljXj, a2jXj,… anjXj,匂 Xj)→Xj

なる投入産出関係が成り立つ.ここで, (alj, 'lj)は第 j産業の標準的生産方法 であり, Xj=

Xaj,alj=

aljaλぺλa==X<<j/Xj,匂=払aλaで、ある.すなわち 第 j産業の標準的生産方法とは,各資本家の投入係数をそれぞれの生産シェアで 加重平均したものである.標準的生産方法については拙稿 [40Jを参照きれたい.

きて, ~Gaj (0) = Gj (0)とし,投下資本の回収時点を 1とすると,

(3)  Gj ( 1 ) =pjXj 

である.よって, Gj ( 0 ) 

Gj ( 1 )となるためには,あるいはGj( 0 ) ( 1 + g) = Gj  (1)を満たす資本増殖率gが正値をとるには,

(4)  {pj ‑(L:PlaljW句)}Xj > 0 

が成立しなければならない.しかるに,仮定により Xj>0であるから,結局(4)は (5) 凶 (~Plalj+W句)> 0 

となることが必要かっ十分で、ある.同様のことは,他の産業でも生じているから,

すべての産業のすべての資本家にとって, G (1 ) = (G(1),  G2 (1) ,…,  Gn (1))が 投下資金 G( 0 ) = (G(0), G2 (0),…,  Gn(O))を上回るためには,

(6)  P ‑ (PA+wτ) > 0 

となる p>o,w > Oが存在することが必要かっ十分で、ある.ここで Pはn次 元横の価格ベクトル,

A

はn x n型の生産財に関する投入係数行列,τはn次元縦 の労働投入係数ベクトルである.

きらに,労働者の単位労働時間あたりの標準的必要消費量ベクトル (n次元縦) をb

(bl, b2,…,  bn)とし,各成分は非負であるが,少なくとも一つは正と仮定 する.すると,労働力の再生産のためには,

(7)  wPb

も同時に成立しなければならない.

(6)(7)を同時に満たす

p>o

w>o

なる解が存在するための必要十分条件は,

次の命題として既に知られている.

命題1(マルクスの基本定理)経済体系に利潤が存在し,資本の自己増殖率が正 となるのは,生産過程において労働者の剰余価値が搾取されているからである.

我々は命題1を出発点として,固定資本を明示的に考慮した場合にも,基本定 理は成り立っかどうかを検討しよう.

経済は1:固定資本財 2 流動資本財 3 消費財の3部門からなり,固定 資本はどの部門でも 3期でその生産的機能を停止すると仮定する.生産の開始か ら第α期後の第 j部門の固定資本をKJ'''(α, j =1, 2, 3)と表記し, Kj3= 0であ る.同様に第α期目の第 j部門の生産量,価格,賃金率をそれぞれXjapja,  a (α, j =1, 2, 3)と表記する.賃金率はすべての部門で同ーとする.また,各 価格や賃金率は同ーの生産期間内は不変に留まるが,期間が異なれば可変で、ある

と仮定する. (ただし,後に示すように,固定資本財の価格だけは3期間中不変で なければならない)各部門の投入係数は同一固定資本の存続期間中は不変とし,

(kj, aj,匂)(j 

1, 2, 3)とする.固定資本の投入係数kJは次のように定め る.一定の固定資本KJが与えられれば,それを標準的に稼動した場合, 3期間に わたってほう, f2j, f3j)の標準生産量の流列が得られるとしよう.すなわち,こ れらの標準生産量は固定資本KJによって規定され,その増加関数と考えよう.そ して,これらの標準生産量の平均を

z

とする.すなわち ,x=~f~/3 である.こ れを用いて一期あたり生産物 1 単位あたりの固定資本の投入係数をム =~/x と 規約する.従って,現実の生産量が標準生産量を上回れば固定資本の投入係数は 予想より小さくなり,それだけコストは低下する.逆は逆.

きて,固定資本をもっ資本家の行動は以下のようである.時点Oにおいて一定

2 )証明は基本的に置塩 [99Jに負う.また, Morishima  [73J, Roemer [108J, Fujimori 

1J,中谷 [82Jも参照.

の貨幣額G(0)を投下し,第1期目の生産を開始するために固定資本,流動資本,

労働力を購入する.第1期目の生産の終了時点1においてみずからの商品を販売 し,一定の貨幣額G(1)を回収する.ただし,第2期目の生産を開始するために は,流動資本財の購入分の貨幣額は控除しなければならない.第2期目の生産を 終えるとともに,時点 2において一定の貨幣額 G (2)を回収するが,同様に流動 資本部分は控除しなければならない.さらに第3期目の生産を終えるとともに,

時点 3において一定の貨幣額 G (3)を回収する.時点 3においては流動資本の控 除は必要で、なしまた固定資本は機能停止する.

L

斗制闘し1!!

3il11

以上の諸点に注意すると,次の諸関係が成り立つ.

(8)  Gj(O)=P

'Kj+P2'ajXj'+w'Xj'(j=1, 2, 3)  (9)  Gj ( 1 ) = P;' x;'一(p22ajXj2+w2X/) (j=1, 2, 3)  (10)  Gj ( 2 ) = P j2  X j2 (P23ajXj3+w3Xj3)(j=1, 2, 3)  (11)  Gj (3) = P j3  xj3 (j=1, 2, 3). 

次に,一般的に,投下資金とその回収資金の流列(Ao,A" A2'  A3)が与えられ たときの,そのプロジェクトの増殖率の定義を与えよう.現在時点を第3期末(あ るいは時点3)とする.2期前に回収されたA,の貨幣額を預金銀行に預け,その預 金金利を iとすると,現在時点では元利合計はA,・(1十 i) 2となる.同様に1期 前の貨幣額はA2・(1

i)となる.従って,現在時点の貨幣総額は, A,・(1+

i )2+A2・(1+i)+んとなる.他方,一期あたりの資本増殖率をgとすると,

投下資金A。が3期間で、A,・ (1+ i )2+A2・(1+i)+A3へと増加したのである から,増殖率gは,次の関係

Ao・(1 + g) 3 = A

,  . 

(1 + i ) 2 + A2 . (1 + i ) + A3 

を満たさねばならない.きらに,預金金利iより資本増殖率gのほうが大なる場 合(一般には i<gと考えられる),預金するよりも回収した貨幣額(A"A2)を再 ぴみずからのプロジェクトに再投下したほうが有利である.ただし,実際には再

投下資金がそのプロジェクトの最低必要資金額A。を下回る場合にはプロジェク トを拡大することは出来ないが,もしプロジェクトがどこまでも分割可能で、ある と仮定すれば, g = と考えることができるであろう. (プロジェクトが任意に分 割可能であれば資本家と労働者の区別は無意味となるが…)この意味で, gのこと

を最大可能増殖率または簡単に資本増殖率と呼ぶことにする.以上の議論より,

資本増殖率gは,次の3次方程式 (12)  AOX3̲AIX2̲A2X‑A3= 0 

の根から 1を差し引いた値として定義される.

以上の資本増殖率の定義を踏まえて,われわれの問題に戻ろう.われわれの問 題は, (8)(11)によって記述される投資プロジェクトがすべての産業において正の 資本増殖率をもっとすれば,その経済的根拠は何か,ということである.定義式 (

12)に, (8)(11)を代入すると,各産業の資本増殖率は, ρIj=1 +gjとおいて,

(

13)  Xjl{p/ (ρ,/) ‑P21 (向3)aj‑w1(ρIj3)句}

+X/{p/Pj  ‑P22 (ρIj2) aj ‑ W2 (pj2)笥}

Xj3{pj3 ‑P23()aj‑w3(向)句}

PI1Kj (ρIj3) = 0 (j=1, 2, 3)  より決まる.

しかるに,後に示す命題4より,方程式(13)が1より大なる根をもつための必要 十分条件は(13)の方程式においてpj=1とおいたときに,右辺が負となることであ るから,

(14)  Xjl{p/‑p21aj‑wl匂}

+Xj2{p/‑P22aj ‑ w2句}

+Xj3{pj3‑P23aj ‑ w3句}

‑PIIKj 

0 (j=1, 2, 3) 

となればよい.ここで kjの定義より ,P jIKj =P/(k j /3) ・L:.f~ (j = 1, 2,  3)であるが,固定資本の価格はその存続期間中不変と仮定すると,すなわちpjl=

p/=pj3が成り立っと仮定すると, (14)式は,

(15)  X/{pjl̲P2Iaj ‑ wl PI1(kj)/3} 

+Xj2{pj2‑p22aj ‑ W‑PI2(kj)/3} 

+Xj3{pj3̲p23aj ‑ W3角 一PI3(kj)/3}(j=1, 2, 3) 

となる.(15)式において,各期の生産水準は任意に変動しえるから,すべてはゼロ でない任意の非負の生産水準 (X/

x /

, Xj3)  (j=1, 2, 3)に対して闘が成り立 つためには, (15)式内のすべての中括弧内が正とならねばならない.同様のことは,

他の産業でも生じているから,すべての産業のすべての資本家にとって pa

(Pl a, P2a, P3a) (α=1, 2, 3), 

k1/3  k2/3  k3/3 

。。。 。

。。。

A =  al  a2  a3  b= 

。。。 。。。

b  τ=(τ10τh 巧)

とおくと,

E‑K‑A  b  (

16)  (Pa, wa

1  1>0

同 2,3) 

‑r  1 

が成り立つような(Pa,wa) 

0が3組存在しなければならない.ただし, bは労 働者の単位労働時間あたりの標準的必要消費量であり, b> 0とする.また E

は単位行列.

ところが,条件(16)は結局,一組の(P,w)>Oが存在することと同値である.

何故なら,もし一組の価格ベクトル(P

w*)

0が存在すれば,任意の正数λに 対して(λP

λw*)

0もまた(16)を満たすことは明らかである.また, (P

w*) の中の任意の一つの要素をどこまでも上昇きせ, (16)式のある成分が等号で成立し たとしよう.すなわちある部門の利潤を消滅させるようなある要素の価格水準を Pmaxとし,元々の価格ベクトノレ(P*wホ)の対応する要素を Pmaxと置き換えた価 格ベクトルを (PmaxwmaJ とし,

( P

, UJ) 

(1一μ)(P

w)+μ(Pmaxwmax) 

として新しい価格ベクトル

( P

uJ)を作ると,任意のO孟

μ<

1に対して(16)が成り 立つことは明らかである.

次に,商品1単位あたりの価値量ベクトルを t

(tlo  t2, t3)とすれば,固定資

本を含む場合にはtは, (17)  t 

t (K 

A) 

'T 

により決定される.経済体系は,ある X>Oなる生産ベクトルに対して (18)  ( E ‑K ‑A) x 

なる関係を満たすことが出来ると考えられるから(純生産可能条件), (18)の行列 はH.S条件を満たす.従って,非負の逆行列 (E‑K‑A)‑lが存在して,

(19)  t =τ(E‑K‑A)一1

[ 1 / det ( E ‑K ‑A ) ]・ τ・adj( E ‑K ‑A) > 0 

となる.ここに, det ( E ‑K ‑A)は行列E‑K‑Aの行列式(determinant),adj  (E‑K‑A)は行列E‑K‑Aの余因数行列 (adjugatematrix)である.

次に, (16)を満たす価格ベクトル (P,w)>Oの存在条件を考えよう.そのため には,

1 T

E‑K‑A  ‑b 

(

20) 

G  = 

がH.S条件を満たさねばならないが,行列Gの第n次までの首座小行列式がH.

S条件を満たすことは純生産可能条件の想定(18)より明らかである.よって,行列 GがH.S条件を満たすことは, detG> 0の成立と同値である.しかるに, detG  の最後の列 (n

1列)で余因数展開を行うと,

detG = ‑ ' T  ・adj(E ‑K ‑A)・b

det ( E ‑K ‑A) 

det(E‑K‑A) . t

b

det ( E ‑K ‑A ) 

= det ( E ‑K ‑A)・(I‑t.b)>O

となるから, detG> 0の成立は1‑t

b>Oの成立と同値である.1 ‑ t

b>

Oは剰余労働の存在,あるいは資本主義的生産関係の上では資本家による剰余価 値の搾取の存在を意味しているから,結局,固定資本の存在を考慮した場合にも 命題1と同様のことが言えるわけである.この議論のn部門への一般化は容易で、

あるから省略する.

以上の考察を次の命題にまとめておこう.

命題2(固定資本を含むマルクスの基本定理)命題1は固定資本の価格がその存

続期間中不変に留まるという仮定のもとで,固定資本を含む場合にも拡張するこ とが出来る.

第2節 固定資本と資本増殖率

前節で,資本増殖率,すなわち最大可能増殖率の定義を与えたが,これに関し て次の命題が成り立つ.

命題3(利潤率と資本増殖率の同値性)固定資本が存続している期間における各 産業の資本増殖率と各産業の利潤率は等しい.同じくすべての産業の均等な資本 増殖率と均等利潤率とは等しい.

[証明]前節と同じ3産業からなる経済を考える.固定資本の存続している3期 間における各産業の利潤率を7rj(j=l,2, 3)とすると,

(第1期)qllKjl+pjlxl'= (1 +喝)(P1Kj +P21ajX/+p31bXjl) (21)  (第2期)QI2K/+p/x/= ( 1 +均)(QllKjl+p22ajx/+p32bX/)

(第3期)pj3Xj3二(1+均)(QI2K/+p23ajxj3P33bXj3) (j=l,2,3) 

が成り立つ.ここで, Plは固定資本の新品価格であり,考察期間中は不変で、ある.

pj"は第α期の第 j財の新品価格である.Ql"は新品から第α期古くなった固定資 の中古価格である.実際の中古市場が無い場合には会計上の評価額と見なされる.

Xjaは第α期の第 j財の生産量である.また,各期の生産は新商品と一期古くなっ た固定資本を結合生産する, と考えている.

上式の第一式に(1+πl)2を,第二式に(l+7rj)を乗じて辺々引くと,固定資本 の中古価格部分が消去されて,

(22)  pj3Xj3 + ( 1 +均)p/X/+(1 +均)2pjlXjl 

= (1 +7rj)3(P1Kj+p21ajx/+p31bxl') +(1+均)2 (P22ajXj2+p32bXj2)

+(1+均)(P23ajXj3+p33bXj3) (j = 1, 2, 3) 

)われわれの議論は資本の増殖率という視点を一貫させていること,固定資本の存続期間中の 能率を一定と仮定していないこと,固定資本の存続期間中の諸商品の価格を不変と仮定してい ないこと,という点で従来の議論より若干一般化されている.Okishio, Nakatani & Kitano 

03]参照.

ドキュメント内 独占, 蓄積と環境 (ページ 41-65)

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