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ポリリン酸による口腔扁平上皮がん細胞の

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Academic year: 2021

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博士(歯学)ワリードラガブラドワンラガブエルーベイアリ

学 位 論 文 題 名

ポリリン酸による口腔扁平上皮がん細胞の      抗がん剤感受性増強効果

学位論文内容の要旨

  ポリリン酸は10数個から数百個の正リン酸が直鎖状に結合したポリマーで、ほとんど全ての生 物に存在することが知られている。ポリリン酸の生物学的機能については、これまで主に微生物 で検討 されており 、1)ATPの代 換物とな ルエネル ギー源と なる2)リ ン酸のりザ ーバー3) 二価陽 イオンのキ レート剤4)アルカ リ性スト レスに対 する緩衝 作用5)糖質 とアデニ ル酸 キナーゼのドナー6)ストレス刺激や細胞死の調節などの機能があることが報告されているが、

真核細胞では、ポリリン酸がFGFを安定化することや骨芽細胞の石灰化を促進することなどが最 近報告されている程度で、報告は少ない。

  口腔扁平上皮がんではがん抑制遺伝子であるp53の変異が高頻度に認められている。p53の変異 は、細胞周期の停止やアポトーシスの誘導などの細胞DNA損傷に関与する遺伝子の調節に反応に 深く関わっており、腫瘍細胞を殺滅する目的で行われる放射線療法や化学療法に対する抵抗性の 一部はp53の変異によるものであることが示されている。しかし、シスプラチンをはじめとする 抗 が ん 剤 に 対 す る 抵 抗 性 とp53変 異 と の 関 連 性 に つ い て は ほ と んど わ か って い ない 。   HSCー3は口腔扁平上皮がん由来細胞株で、変異型p53をゲノムにもち、シスプラチンのような抗 がん剤に抵抗性を示すことが報告されている。今回、著者はシスプラチンによる細胞死誘導にお よばすポリリン酸の影響について検索した。

1.シスプラチンとポリリン酸による細胞死の誘導効果

  コロニーフオーメーションアッセイでグノムに変異型p53をもつ口腔扁平上皮がん細胞株HSC―3 のシスプラチンによる細胞増殖におよばすシスプラチンとポリリン酸の効果を検討した。通常の 培 養を行っ た際、6穴ウェル1個当たり3000個のHSC―3細胞をまき時間培養した際には97.6土 6.1個のコロニーが認められた。ImMのポリリン酸を培養液に加えるとコロニー数は143.3土3.1 個と有意に増加した。5ルg/mlの濃度のシスプラチン単独処理では、コロニー数は73.8土5.9個に 有意に減少し、ポリリン酸とシスプラチンの共処理でコロニー数は52.8土6.9個とさらに有意の 減少をみた。MTSアッセイにより、HSC―3細胞のシスプラチンの濃度による細胞死誘導および、こ

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の細胞死におよばすポリリン酸の影響について検索した。その結果、HSC―3細胞はシスプラチンの 濃度が0.5ルg/mlではシスプラチンに抵抗性を示したが、1ug/mlでは78.4%に減少し、2.5u g/mlでは64,7%、5皿g/mlでは37,9%に減少し、シスプラチンの濃度依存性に細胞死が誘導さ れた。ポリリン酸との共処理ではシスプラチン単独では抵抗性を示した0.5弘g/mlの濃度でも細 胞濃度は73,3%に減少し、シスプラチン単独処理に比べて有意に低値を示した。シスプラチン濃 度1ロg/mlでもポリリン酸との共処理することによルシスプラチン単独処理の77.5%に細胞数は 有意に減少し、2.5H g/mlでも単独処理の90.9%と有意に低い値を示し、ポリリン酸処理によル シ ス プ ラ チ ン が 低 濃 度 で も 細 胞 死 の 誘 導 が 生 じ る こ と が 明 ら か に な っ た .

2.シスプラチンとポリリン酸によるアポトーシス誘導タンパクの発現

  シスプラチン処理およびシスプラチンとポリリン酸で共処理したHSC―3細胞から抽出したタン パクのWestern blotでアポトーシス関連タンパクの発現について検索した。シスプラチン単独処 理により、HSC―3細胞でBax、活性型Caspase―9、PARPの発現亢進がみられたが、ポリリン酸との 共処理で、Baxはシスプラチン単独処理の1.2倍、活性型Caspase―9の発現は1.9倍、活性型 PARPの発現も1.2倍に増加した。

  抗がん剤はがん細胞に、主にストレス経路によるアポトーシスを誘導することで効果を現すこ とが明らかになっており、この際には野生型p53が重要な役割を演じていることが明らかになっ ているが、変異型p53をゲノムにもつ腫瘍細胞でのアポトーシス誘導機構の詳細は明らかではな い。

  本研究では、変異型p53をもつHSC―3細胞も高濃度のシスプラチンで処理することにより細胞 増殖の抑制・細胞死の誘導が起こった。この際、アポトーシス誘導因子であるBaxの発現亢進と その下流に位置するCaspase―9の活性化、PARPの活性化が認められた。これはp53非依存性に細 胞 内 で の ス ト レ ス 経 路 の 活 性 化 が 生 じ 細 胞 死 が 誘 導 さ れ た こ と を 示 唆 し て い る 。   さらに、抗がん剤に抵抗性を有することが示されている変異型p53をゲノムにもつ口腔がん細 胞でも、ポリリン酸と共処理することで、より低濃度のシスプラチン処理で細胞死の誘導が認め られ、効果的な抗がん作用が認められることが明らかになった。ポリリン酸は単独では細胞増殖 を促すがアポトーシスは誘導しないため、シスプラチンによる細胞死誘導が生じた際に、その細 胞内でのアポトーシスを誘導する分子に対して効果的にはたらいたものと考えられる。ポリリン 酸をシスプラチンと共処理することで、Baxの発現がより亢進した。Baxの発現は転写亢進による ところが大きく、ポリリン酸はシスプラチン処理により細胞に生じたBaxの転写をより活性化し たものと考えられる。Baxの転写調節領域にはp53の結合部位の他にEts、Myc、ARFなどがあるこ とが示されている。ポリリン酸はタンパクの安定化にはたらくことが既に示されており、細胞内 での転写因子の安定化によりBax発現がより亢進した可能性がある。Caspaseー9とPARPの活性化 もシスプラチン単独処理の場合に比べより亢進することが認められた。これはBaxの発現亢進に

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よるところが大きいと思われるが、原核細胞においてはポリリン酸がエネルギー源,となることや 細胞内でのりン酸の濃度が上昇しATP濃度を超えた際にはATPを置き換えることが知られており、

真核 細胞で もポ リリ ン酸 がCaspase−9やPARPの活性化にはたらいた可能性が考えられる。

  変異型p53は抗がん剤による細胞死誘導に抵抗性にはたらくことが示されており、高濃度の抗 がん剤投与でも効果が得られない場合があるが、今回の結果は、ポリリン酸がシスプラチンの抗 がん作用を高め、シスプラチン耐性細胞にも有用であることが示され、シスプラチンの用量を減 ら す こ と に よ っ て 副 作 用 を 軽 減 す る こ と が で き る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

ポリリン酸による口腔扁平上皮がん細胞の      抗がん剤感受性増強効果

  審 査 は , 審 査 員 全 員 出 席 の 下 に , 申 請 者に 対し て 提出 論文 とそ れに 関連 した 学科 目に つ い て 口 頭 試 問 に よ り 行 わ れ た . 審 査 論 文 の 概 要 は , 以 下 の 通 り で あ る .

  ポ リ リ ン 酸 は10数 個 か ら 数 百 個 の 正 リ ン 酸 が 直 鎖 状 に 結 合 し た ポ リ マ ー で , ほ と ん ど 全 て の 生 物 に 存 在 す る こ と が 知 ら れ て い る . ポ リ リ ン酸 の生 物学 的機 能に つい て は, 主に 微 生 物 で 検 討 さ れ て お り , 真 核 細 胞 で は , ポ リ リ ン 酸 がFGFを 安 定 化 す る こ と や 骨芽 細胞 の 石 灰 化 を 促 進 す る こ と な ど が 報 告 さ れ て い る に す ぎな い. がん の治 療に おい て ,放 射線 療 法 や 化 学 療 法 に 対 す る 抵 抗 性 の 一 部 はp53の 変 異 に よ る も の で あ る こ と が 示 さ れて いる が , シ ス プ ラ チ ン を は じ め と す る 抗 が ん 剤 に 対 す る 抵 抗 性 とp53変 異 と の 関 連 性 につ いて は ほ と ん ど わ か っ て い な い . 本 研 究 は , グ ノ ム に 変 異 型p53を も ち , シ ス プ ラ チ ンに 抵抗 性 を 示 す こ と が 知 ら れ て い る 口 腔 扁 平 上 皮 が ん 由 来 細胞 株HSC―3を対 象と して , シス プラ チ ン の 細 胞 死 誘 導 に 及 ば す ポ リ リ ン 酸 の 影 響 に つ い て 検 索 し た も の で あ る .   最 初 に , コ ロ ニ ー フ ォ ー メ ー シ ョ ン ア ッ セ イ で , 口腔 扁平 上皮 がん 細胞 株HSC−3の 細胞 増 殖 に 及 ば す シ ス プ ラ チ ン と ポ リ リ ン 酸 の 効 果 を 検 討 し た .6穴 ウ ェ ル1個 当 た り3000 個 のHSCー3細 胞 を ま き ,48時 間 通 常 の 培 養 を 行 っ た 際に は97.6土6.1個の コロ ニ ーが 認め ら れ た .ImMの ポ リ リ ン 酸 の添 加で ,コ ロニ ー数 は143. 3+3.1個と 有意 に増 加し た .一 方,

5p g/mlの 濃 度 の シ ス プ ラ チ ン 単 独 処 理 で , コ ロ ニ ー 数 は73.8土5.9個 と 有 意 に 減少 し,

ポリ リン 酸と .シ スプ ラチ ンの 共処 理で はコ ロニ ー数 は52.8土6.9個 とさ らに 有意 に減 少し た . 次 , にMTSア ッ セ イ に よ り ,HSCー3細 胞 の シ ス プ ラ チ ン の 濃 度 に よ る 細 胞 死 の誘 導,

お よ び 細 胞 死 に 及 ば す ポ リ リ ン 酸 の 影 響 に つ い て 検 索し た. その 結果 ,HSC―3細 胞は シス プ ラ チ ン の 濃 度 が0.5p g/mlの 場 合 は シ ス プ ラ チ ン に 抵 抗 性 を 示 し た が ,1皿g/mlで は細 胞 数 は78.4% に 減 少 し ,2.5弘g/mlで は64.7% ,5pg/m1で は37.9% と , シ ス プ ラ チ ン の 濃 度 依 存 性 に 細 胞 死 が 誘 導 さ れ る こ と が 示 さ れ た .ポ リリ ン酸 との 共処 理で は ,シ スプ ラチ ン単 独で は抵 抗性 を示 した0.5ルg/mlの 濃度 でも , 細胞 数は73.3%と有意に減少した.

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シスプラチン濃度1p g/mlではシスプラチン単独処理の場合の77.5%,2.5ルg/mlでは単 独処理の90.9%と,いずれも細胞数は有意に減少した.ポリリン酸は単独ではアポトーシ スを誘導しないことから,これらの結果は,ポリリン酸がシスプラチン処理により細胞に 生じた細胞死誘導をさらに活性化し、低濃度のシスプラチンでも細胞死を誘導できるよう に作用したことを示唆している・

  抗がん剤による細胞死はアポトーシス誘導によることが示されている。この際、野生型 p53が重要な役割を演じているが、HSC一3細胞のp53は変異型であることから,今回のシス プラチンとポリリン酸の共処理により生じた細胞死は,p53非依存性にストレス経路の活 性化が生じて細胞死が誘導されたことを示唆している.実際に,シスプラチン処理および シスプラチンとポリリン酸で共処理したHSC‑3細胞から抽出したタンパクを対象に行った Western blotで,Bax,活性型Caspaseー9,PARPの発現はシスプラチン単独処理の場合に 比べてBaxでは1.2倍,活性型Caspase−9は1.9倍,活性型PARPは1,2倍に発現が亢進し た.ポリリン酸はタンパクの安定化に働くことが示されていることから,p53以外の転写 因子の安定化にポリリン酸がはたらき、シスプラチン処理により生じたBaxの転写をより 活 性化 し、 スト レス 経路に よる アポ トー シス 誘導 経路 を刺 激し たも のと考えられた・

論文の審査にあたって,論文申請者による研究の要旨の説明後,本研究ならぴに関連す る研 究に つい て質 問が 行わ れた ・

主な 質問 事項 は,

  1) ポ リ リ ン 酸 の 機 能 、 と く に エ ネ ル ギ ー 供 与 体 と し て の 役 割 に つ い て 2) ア ポ ト ー シ ス 誘 導 機 構 に お け るCaspase9やPARPの 活 性 化 は どの よう に生 じる か 3) 変 異 型p53を も つ 口腔 が ん 細 胞 が抗 がん剤 に対 して 抵抗 性を もつ のは どう して か 4) 細 胞 増 殖 能 お よ び 細 胞 毒 性 を 検 索 し たMTSア ッ セ イ の 原 理 に つ い て 5) 実 験 に 用 い た ポ リ リ ン 酸 と シ ス プ ラ チ ン 濃 度 の 妥 当 性 等 で あ っ た ・

  いずれの質問についても,論文申請者から明快な回答が得られ,また将来の研究の方向 性にっいても具体的に示された.本研究は,ポリリン酸がシスプラチンの抗がん作用を高 め,抗がん剤に抵抗性を有する変異型p53をゲノムにもっがん細胞にも有用であること,

またシスプラチンの用量を減らすことによって副作用を軽減する可能性を示したことが高 く評価された.本研究の業績は,口腔外科の分野はもとより,関連領域にも寄与するとこ ろ 大 で あ り , 博 士 ( 歯 学 ) の 学 位 授 与 に 値 す る も の と 認 め ら れ た .

参照

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要旨 F