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造血幹細胞移植後の抗利尿ホルモン不適合分泌症候群;

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(1)

博 士 ( 医 学 ) 鈴 木 秀 久

学 位 論 文 題 名

造血幹細胞移植後の抗利尿ホルモン不適合分泌症候群;

幹細胞源による臨床的相違と

神経学的後遺症予測因子としての意義 学位論文内容の要旨

【 背景 と目的】造血幹細胞 移植(SCT)は種々の疾患に有 用だが,多くの合併症を起こし 得る.抗利尿ホルモン 不適合分泌症候群(SIADH)もそのーっだが報告は極めて少なくその 特 徴 や 機序 も不 明で ある ため ,SCT後SIADH例を 解 析し ,臨 床像 や予 後を 検討 した .

【 対 象 と 方 法 】 対 象 は1988年2月 より2007年3月 まで に北 海道 大学 病院 小児 科 でSCT を受けた197例(男126例,女71例),原疾患は急性リンパ性白血病等の悪性疾患149例,

再 生不 良性貧血等の非悪性 疾患48例,移植法は骨髄移植(BMT) 122例,末梢血幹細胞移 植(PBSCT) 25例,BMT十PBSCT4例,臍帯血移植(CBT) 46例,ドナーはHLA一致血縁者(MRD) 62例,HLA不一致血縁者(MMRD) 16例,HLA一致非血縁者(NIUD) 48例,HLA不一致非血縁 者(MMUD) 38例 ,自 家33例 ,前 処置 にcyclophosphamideが125例 ,busulfanが69例 , melphalanが57例,抗ヒト胸腺細胞グロブリンが43例に 投与され,全身放射線照射が93 例 に行 われ た. 移植 片対 宿主 病予 防にcyclosporinが119例 ,methotrexateが113例,

tacrolimusが33例,methylprednisoloneが44例に 投与 され た.血中Na濃度130mmol/l 未 満 を 低Na血 症 と 定 義 し ,SIADHの 診 断 はBartterとSchwartzの 基 準 に 従 っ た ,

【 結果 】SCT197例中26例 (13.2% )でSIADHを発 症し た, 男17例,女9例,発症時年 齢o〜15歳 ,移植法はCBT16例,BMT9例,PBSCT1例,ドナーはMMUD14例,MUD6例,MMRD5 例 ,MRD1例 .SIADH症 状は 嘔気16例 ,痙 攣5例 ,傾 眠2例, 四肢 硬直1例,無症状2例で あった,最低血中Na濃 度は106〜128(中央値120) mmol/l,SIADH発症時の移植後日数と 自血球(WBC)数は15〜  74(中央値24.5)日とO.1〜13.3(中央値2.1)Xl09個/1であっ た.神経学的後遺症( 精神発達遅滞,痙攣)はSIADH発症例の26例中5例(19.2%)に対 し非発症例は171例中2例(1.2%),生存者でもSIADH発症例の22例中5例(22.7%)に 対し非発症例は93例中2例(2.2%)と,ともにSIADH発症例で有意に多かった(pく0.01),

SIADH発症 例をCBT群とBMT/PBSCT群に分けて比較すると ,性別,年齢,最低血中Na濃度 に有意差はなかったが ,重症なSIADH症状(痙攣, 傾眠,四肢硬直)はBMT/PBSCT群では 10例中O例 に対 しCBT群で は16例中8例(50.O%)に見ら れ,CBT群で有意に多かった (p くO. 01).SIADH発症時の移植後日数とWBC数は,CBT群の15〜54(中央値19.5)日に対し

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(2)

BMT/PBSCT群は18〜  74(中央値46)日,CBT群の0.1〜4.2(中央値1.1)Xl09個/1に対 しBMT/PBSCT群は2.5〜13.3(中央値3.1)Xl09個/1と,CBT群で有意に早く,また少な いWBC数 でSIADHを 発症 して いた (pくO.01) .神 経学 的後 遺症 はCBT群の16例 中4例 (25.0% ) に 対 しBMT/PBSCT群 は10例 中1例(10.0%) ,生 存者 で もCBT群 の14例中4 例(28.6%)に対しBMT/PBSCT群は8例中1例(12.5%)と,ともにCBT群で多いが統計学 的有意差はなかった(p>O.38).

【考 察】 薬剤 や疾 患はSIADHの発 症や 幹細 胞源 によ る臨 床的 相違 に影 響を与えておら ず,CBT群とBMT/PBSCT群とのSIADHの臨床的相違点は,SCT後SIADHの発症機序がこの二 群間のより本質的な相違点に関連するかこの二群問で異なる可能性を示唆していると考え られた,両群の大きな違いはCBT群で血液学的・免疫学的再構築により時間を要すること で あ る が ,CBT群 で約3週間 早く かつ 約3分 の1のWBC数でSIADHを 発 症し てお り, ドナ ー細胞の生着自体がその発症に直接関係する可能性は考え難い,最近高熱と体重増加を伴 うpre―engraftment immune reactions(PIR)と呼ばれるCBT後早期の免疫反応が提唱さ れている,BMT/PBSCT後の 報告はなく,CBT後9日頃に発症し,サイトカインの関与が推測 されている.今回サイトカインの評価は未施行だがイ ンターロイキン6とSIADHの関連は 以前 より 報告 され ているため,一定の潜伏期を経てPIRがCBT後SIADHの発症に関与して いる可能性があり,SIADHの臨床的相違点をPIRの関与 ,っまり両群問のサイトカインの 差から一部説明できるかもしれない.今回SCT後のSIADH発症例では非発症例より神経学 的後遺症が有意に多いことも明らかにした,CBT群とBMT/PBSCT群に分けても同様の傾向 があり,さらにCBT群でよ り多い傾向であったが,これらは症例数が少なく有意ではなか った.SIADH発症後に髄液 からヒトヘルペスウイルス6(HHV―6)DNAが検出され,HHV−6 脳炎と診断した症例が一例あったが,その症例では的確な治療を受け問題なく低Na血症か ら回復したにも関わらず,痙攣と精神発達遅滞の後遺 症を残した,SIADHとHHV−6脳炎と の関連は報告されており,この症例のSIADHと神経学的後遺症の原因はHHV―6脳炎と考え た,この他に神経学的基礎疾患がみっかったSIADH発症例はなかったが,SCTに関連した 感染性や薬剤性,代謝性の脳症や脳炎,及び脳血管障害等が診断されずに隠れていた可能 性は否定できない,中枢神経症状のないBMT後の患者髄液からHHV―6DNAが検出された報 告もあり,頭痛等の明らかな中枢神経症状がなくてもSCT後の患者には無症候性の神経学 的疾 患がSIADHと 同時に存在し得る かもしれない.それゆえSIADHはSCT患者の神経学的 疾 患 の 存 在 を 示唆 する とと もに 神経 学的 後遺 症の 予測 因子 とな る 事が 考え られ た.

【 結 語 】 機 序 は 明 ら か で は な い がCBT後 のSIADHはBMT/PBSCT後 と 比べ より 早期 に,

より 少な いWBC数 で発症するうえ症 状も重いということ,さらにSCT後のSIADHの発症は 神経学的基礎疾患の存在とそれに引き続く神経学的後遺症の可能性を示唆することが新た に 発 見 さ れ た .発 症機 序の 解明 には さら なる 症例 の蓄 積と その 解 析が 必要 であ る.

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

造血幹細胞移植後の抗利尿ホルモン不適合分泌症候群;

幹細胞源による臨床的相違と

神経学的後遺症予測因子としての意義

  造血幹 細胞移植 (SCT)の合併症としての抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH) の報告 は極めて 稀なた め,SCT後SIADHの多数例 を解析し ,臨床 像や予後 を検討した,

  対象は1988年2月 より2007年3月ま でに北 海道大学 病院小 児科でSCTを受 けた197例,

原疾患 は悪性149例, 非悪性48例 ,移植 法は骨髄 移植(BMT)122例,末梢血幹細胞移植

(PBSCT)25例,BMT十PBSCT4例 ,臍帯 血移植(CBT)46例,ドナーはヒト組織適合抗原

(HLA)一致血 縁者62例 ,HLA不 一致血 縁者16例,HLA一 致非血縁 者48例,HLA不一致非 血縁者38例,自家33例.前処置にcyclophosphamide125例,busulf an69例,melphalan57 例,抗 ヒト胸腺 細胞グ ロブリン43例,全 身放射線 照射93例 が,移植 片対宿主 病予防に cyclosporin119例,methotrexate(MTX)  113例,tacrolimus33例,methylprednisolone (mPSL) 44例 が 用 い ら れ た ,SIADHの 診 断 はBartterとSchwartzの 基 準 に従 っ た .   SCT197例中26例 (13.2%) でSIADHを発症し た,若年患者,CBT,mPSL,自家やHLAー 致血縁 者以外の ドナー (alternative donor)が発症因子であったが,多変量解析では alternative donorのみが危 険因子 となった ,SIADHの最低血中Na濃度は120mmol/l,発 症時の移植後日数は24.5日,白血球数は2.1X l09個/1(以上すべて中央値),症状は嘔気 16例,痙 攣5例 ,傾眠2例, 四肢硬直1例 ,無症状2例で あった ,神経学 的後遺症(精神 発達遅 滞,痙攣 )はSIADH発症26例 中5例に残り ,非発症171例 中2例 と比べ 有意に多か った(pく0. 01).SIADH発症例をCBT群とBMT/PBSCT群に分けて比較すると,性別,年 齢,最低血中Na濃度に有意差はなかったが,SIADH発症時の移植後日数及び自血球数は,

BMT/PBSCT群の46日及び3.1X l09個/1に対し,CBT群で19.5日及び1.1X l09個/1(以上す べて中 央値), 重症なSIADH症状 (痙攣 ,傾眠, 四肢硬直)はBMT/PBSCT群の10例中O例 に対しCBT群で16例中8例と,SIADHはCBT群で 有意に早 くかつ 少ない自 血球数で発症す るう え 症 状 も重 く なって いた(pく0. 01).神経 学的後 遺症に有 意差は なかった .   薬剤や 疾患はSIADHの発 症や幹細 胞源に よる臨床 的相違に影響を与えていないため,

SIADHの 幹細胞源 による 臨床的相 違は,SCT後SIADHの発症機序がこの二群間の本質的な

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相違点に関連する,またはニ群問で異なる可能性を示唆していると考えられた,両群の大 きな違いはCBT群 で血液・免疫学的再構築により時間を要することであるが,ドナー細胞 の増殖自体がその発症に直接関係する可能性 は考え難い.インターロイキン6とSIADHの 関連は以前より報告があり,pre―engraftment immune reactions(PIR)のようなニ群問 のサイトカインの差がその発症に関与しているかもしれない,また神経学的後遺症を残し た症例の中にSIADHと同時にヒトヘルペスウイルス6(HHVー6)脳炎が存在した症例があ った ,中 枢神 経症 状の ないBMT後 の患 者髄液からHHV−6DNAが検出された報告もあるた め,無症候性あるいは軽度症状のみの神経学 的疾患がSIADH発症時に診断されず,それら が神経学的後遺症の原因となった可能性は否 定できなぃ, SCT後のSIADHの発症は神経学 的基礎疾患の存在とそれに引き続く神経学的 後遺症の可能性を示唆すると考えられた,

  公開発表に際し,今村雅寛教授からSIADHが小児に多いかどうか,なぜSIADH発症例で 生存率が良いのに神経学的後遺症が多いのか ,SIADH発症と薬剤の関連を完全否定できる のかについて,次いで武藏学教授からPIRとMTXの関係やHHV−6感染の早期発見法につい て,最後に主査の有賀正教授から今回の結果を今後の移植にどう生かすかにっいての質問 が あ っ た が , い ず れ の 質 問 に 対 し て も 申 請 者 は 妥 当 な 回 答 を し た .   本研究は,SCT後SIADHの臨床像が幹細胞源 によって異なり,しかもその発症は生存率 の改善にも関わらず何らかの神経学的基礎疾患の存在と神経学的後遺症の可能性を示唆す るこ とを 初めて明らか にした点で高く評価された.今後,更なる症例の蓄積か らSCT後 SIADH発 症 機 序 の 解 明 , そ の 管 理 , 治 療 法 の 確 立 に っ な が る こ と が 期 待 さ れ る ,   審査員一同は,これらの成果を高く評価し,大学院課程における研鑽や取得単位なども 併せ ,申 請者 が博 士( 医学 )の 学 位を受けるのに 充分な資格を有する者と判定した.

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