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国際災害法と気候変動

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著者 阿部 満, ファーバー, ダニエル, 信澤 久美子, 辻 雄一郎

雑誌名 明治学院大学法律科学研究所年報 = Annual Report of Institute for Legal Research

32

ページ 3‑14

発行年 2016‑07‑31

その他のタイトル Daniel Farber,  International Disaster URL http://hdl.handle.net/10723/2782

(2)

国際災害法と気候変動

Daniel Farber, “International Disaster”

ダニエル・ファーバー1 阿部  満(監修)・信澤久美子(監訳)・辻 雄一郎(訳)

I.はじめに

 近年、自然災害は、大規模な影響を及ぼし続け、そしてその規模は持続的に拡大し続けている。

気候変動、世界の人口の増加、そして沿岸部に居住する人々の増加が原因で、災害は深刻な脅威 となりつづけている。国連の発展プログラムによれば、「過去20年間以上、自然の脅威を原因と する災害は44億人の人々に影響を及ぼし13億人の生命と2兆ドルの経済的損害を引き起こしてい 2さらに悪いことに、被害者は普通、災害発生以前から最悪の状況におかれる人々であった。

「これらの災害は死亡や破壊をもたらすだけでなく、貧困で、社会的に軽視される人々に対して 過度に引き起こされてきた3。」

 気候変動の視点からみれば将来はおそらく一層悪化するだろう。2014年の赤十字社の報告は、

この点と気候変動との関係の重要性を強調している。この関係は、「貧しい人々を不利な立場に 置き、新たな災害が発生し、災害は一層深刻になるだろう4繰り返すと、そのメッセージは「最 も社会的に軽視され、排除される人々が命を失い、家屋が破壊され、生計の途を断たれるという、

最も重い対価を支払わねばならない」というものである5

 最近では、干ばつや熱波などの非常に極端な事象が、人間の活動とは別個独立して発生してい るのだろう、と述べることは一層難しくなっている。気候変動はすでに一定の極端な事象の発生 を増加させており、将来さらに一層、増加させるだろう。結果として、気候変動に対する適応は、

国際的な交渉で注目されてきている。過去に自然災害として考えられてきた干ばつや洪水といっ た極端な種類の影響を減少させる戦略が気候変動に対する適応に含まれている。

 実際、科学者は、気候変動の産物である一定の事象を特定する能力を発展させつつある。これ から検討する2つの事象、すなわち、西ヨーロッパとロシアの熱波は、すでに数万人の人々の命 を奪ったかもしれない。本稿では、災害と気候変動の関連性が増していることを検討する。我々 は、災害を人間の統制の及ばないものとして考える傾向がある。これはまったく正確ではない。

人間と極端な事象との関係が存在していない場合ですら、リスクにさらされている人間の数を測 定し、どのような予防策を事象発生以前に講じるかを決め、緊急時の対応の効果を左右するのは、

人間の行動である。しかしながら、今日では、熱波や洪水のような極端な事象ですら、環境をこ れまで変化させてきた人間の活動が一端となっているかもしれないことを我々は知っている。そ の結果、災害についての自然原因と人為的原因の間に明確な境界を引くことがもはや難しくなっ ているのが通常である。このため、自然災害と環境上の損害を扱う法的枠組みがさらに関連性を 増している。とりわけ、国際災害法は、気候変動法と強力な関係を展開し始めている。これは前 向きな発展だろう。自然災害の支援、とりわけ予防的措置の支援について国際的な共同体が強い

(3)

法的枠組みを創設することは不幸にも困難であった。災害法が気候変動法と密接に関連付けられ るにつれ、その結果として、災害を扱う法的制度が強化されるだろう。

 このことはおそらく不可避的な展開だろう。将来、災害法と環境法は相互に支えあい、世界を 取り巻く、人間に関係するリスクを全域にわたりカバーするだろう。その結果として、あらゆる 種類の災害の問題を扱う国際共同体の能力は向上されるはずである。極端な事象に人々が遭遇す る見込みは高く、そのような改善は緊急に必要とされている。

 どのように気候変動法と災害法が密接に関係しているのかを理解するうえで、国際的な災害法 の現状を最初に理解する必要がある。気候変動の問題と別個独立に展開してきた国際災害法の検 討から始めたい。それから、科学者が災害と気候変動について知っているいくつかの点を検討し、

気候変動法が災害問題をどのように扱い始めているかを議論する。これらの変化は、国際災害法 を結果として強化させるだろう。そのため、災害の問題は国際法の特別な領域に孤立するという よりは、成長する国際的な気候変動枠組みと統合されていくだろう。

II.自然災害と国際的枠組み

 影響を被る諸国の対応能力を超えた災害を扱う国際共同体の努力を議論することから始めよ う。これらの主要な災害を扱う法的枠組みを改善しようとする試みは、たどたどしく、首尾一貫 してこなかった。やろうとする意志はおおいにあったようであるが、制度構築に対する関心は十 分ではなかったように思われる。その過程はたいへんフラストレーションに満ちたものである。

前進するに有意義な一歩は、後退を伴ない、進歩を遅くしてしまう。

A.国際レベルにおける災害法

 国際的な災害の救済の歴史は長く、1755年にポルトガルのリスボンが破壊された大地震まで、

少なくとも260年さかのぼる6。この地震から3年後に、スイスの偉大な学者バッテル(Emer de Vattel)が国際法の一部として人道的な支援を提供する義務を認めた7。1921年までに赤十字社 は災害に関する国際的な代表者会議を推奨し、国際救済連合(International Relief Union)が創 設された。国際救済連合が第二次世界大戦のあとも存続しなかったのは残念なことである8。今日、

災害救済の何らかの世界的監視機関といった程度で、国連災害救済調整官(UN disaster coor- dinator)が存在し、これは、のちに国際連合人道問題調整事務所(office for the coordination of humanitarian affairs)に包摂された9。しかし、災害に対応する複数の政府やNGOの努力を全世 界的に調整する機関は存在しない。

 地球規模で災害の問題を扱う努力とは別に、地域上の協定、電子通信や航空について特化した 条約が存在する10。災害法の調整についての持続的な努力としてスフィア・プロジェクト(Sphere Project)が含まれる11。仙台防災枠組(Sendai Framework for Disaster Risk Reduction)のよ うな災害の救済のための幅広い原理に関する協定も存在する。しかし、これらの行動指針は特定 の法的拘束力をもたらさない。これらの国際的な努力にかかわらず、赤十字の専門家は、災害対 応についての国際法に「大きな隔たり」が存在するという12。実際、ある国際災害法に関するロー レビューのシンポジウムでの前置きにおいて、統一的な法形態が存在していないことを認めるこ

(4)

とは若干恥ずべきことであった13

 国際災害対応のための首尾一貫した法的枠組みが存在しないため、非効率と協力の欠如が現実 的な結果として表れる。2004年の東南アジアの津波に対する大規模な国際的な対応に問題のいく つかを認めることができる。この津波では、200以上のNGOや数十の政府が関係した。その災害は、

15万人の人々の命を即座に奪い、数百万の人々が家屋を失うという想像を超えるような規模で あった14。支援団体と地方政府との間の調整が不十分であることから混乱が生じ、意思疎通は不 十分で、努力は重複し、共有される専門性も欠けていたため、支援の失敗を招いた15。結果として、

最良の意図にもかかわらず、大規模な資源の投入は、それを必要とする人々に対する現実の支援 の量に至らなかった。

 個人や外国政府の自発的な寄付とは別に、自然災害の直撃した国々に対する財政的支援を提供 するために国際的な仕掛けは登場しはじめたが、その数はいくつかに限られる。災害が国際収支 を混乱させる場合、IMF(国際通貨基金)は、利用可能な特別基金を国々に提供することができ 16。国際通貨基金は、「地震、干ばつ、ハリケーン、洪水やサイクロンの場合に資源を提供し てきた17」世界銀行も災害資金提供と関係してきた。インドネシア(東南アジアの津波)やハ イチの復興への努力のために、世界銀行によって「特別目的基金」が創設された例がある18。も ちろん、なによりもまず、災害発生後に各国政府の寄付からの財政的支援が、人道的あるいは戦 略的な理由でその場かぎりで提供されてきた。

 国際赤十字の専門報告書は、「21世紀の初めに、国際災害法を結集する方策は、20世紀初頭よ りもあまり進んではいない19」としている。実際、国際的な枠組みとして統合される見込みは、

現在よりも100年前、第一次世界大戦以前のほうが、はるかに将来性が認められていたのかもし れない。学問的な面でも災害に関する国際的、比較法的な学問として「未発達な状態」と言及し ているアメリカ国際法学会(American Society of International law)に大きな溝が存在する20 もし我々が大災害を扱う適切な仕組みをもとうとするならば、なすべきことは明らかに多い。も し今日の災害を適切に扱うことができない場合、将来に予想されるだろう、はるかに大きなリス クをどのように扱うのであろうか。

 自然災害から発生する大被害(disaster)の観点からみれば、国際共同体がその対応において 通常、物惜しみせず寛大であったことは良い知らせである。しかしながら、これまで見てきた通 り、災害対応を調整する枠組みは弱かった。事象発生後の対応と比べると、現実化する被害を予 防しようとする既存の国際的枠組みはとくに弱かった。しかし、事象の発生以前にとられる予防 策は、事象後の緊急的な対応に比べるとはるかに低い予算で多くの人命を救うことができるのが 通常である。

 実際、国際災害法の最も深刻な穴は、災害後の活動、初動緊急対応、そして復興にほとんど唯 一重点をおくことである21。国際災害法は、リスクを緩和する取り組みをあまりしていない22 想定される点は、リスクが実際に現実化したあとの対応を国際化する姿勢に取り組むのは困難で あるけれども、災害発生前のリスク減少は国内だけの関心事である。もし台風後の災害の救済が 国際的な関心事であれば、論理的にみて、台風から人々を助けるよう前もって適切な予防策がと られるべきかどうかが国際共同体の関心事であるべきように思われる。

(5)

 主として自然が災害の原因である災害法を、直接人間によってもたらされる災害を扱う国際法 の他分野と比較することは有益かもしれない。海洋上の石油流出に適用される国際法を検討する。

国際災害法と異なり、この法分野はよりよく発達している。自然災害と比較すると石油流出は、

広範な国際的な交渉と法的拘束力を有する協定の主題となってきた。石油による海洋汚染防止の ための国際条約(International Convention for the Prevention of Pollution from Ships)は、石 油タンカーの新しい建造基準を策定させ、シングルハルタンカーを段階的に廃止した23。石油に よる汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約(International Convention on Oil Pollu- tion Preparedness Response and Cooperation OPRC条約)24というもうひとつの条約は、可能 性のある石油流出をあらかじめ準備する緊急計画に従事するように船舶や沿岸の国々に要請して いる。石油による汚染損害についての船主の民事責任に関する国際条約(International Conven- tion on Civil Liability for Bunker Oil Pollution Damage)は、石油タンカーの船主に保険に加入 することを求めている。この民事責任に関する条約は、石油流出の被害者が保険会社に対して直 接訴訟を提起することを認めている25。民事責任と被害者の補償に適用される国際条約は拡大し 続けてきた26。これらの多くの条約は、とても広く国家を構成員にしている。比較すると、自然 災害に関する初めての世界的な条約の登場をいまだに我々は待ち続けている。いくつかの理由で、

人間の失敗によって明らかに発生した石油流出のような災害に対応するのは容易になってきてい る。これが、人間の活動と気象上の災害とを気候変動を通じて関連させれば、気象上の災害を優 れて扱うことができるだろうと期待する理由である。

III.気候と災害との関連性

 50年前、数名の科学者を除き、多くの人々は、熱波、干ばつ、洪水やほかの極端な気象上の事 象が単に自然の産物に過ぎないと明らかに考えてきただろう。しかし、現在、我々はより知るよ うになった。気候変動は特定の災害の可能性を増大させ、少なくとも2つの死に至る熱波の主要 な責任を負ってきた。したがって、大きな地震や津波が人間の活動とは独立して現在も発生して いるけれども、「自然」災害の概念は、気候上の事象からみれば時代遅れになってきている。気 候変動自体がより大きくなればなるほど、気候と災害の関連性はより強くなるだけなのだ。実際、

科学者は、気候変動と特定の災害とを結び付けた問題にすでにかなり注目してきた。

 結果として、気候に関する法は、災害上の問題を扱い始めた。これまでの国際災害法の相対的 な弱さにかんがみると、災害法が気候法から強さを注入されることを望むしかない。気候崩壊問 題について気候の法が十分にたくましい本体を発展させることが、もちろん、前提である。

A.気候変動と極端な事象

 人間の活動による炭素放出が気候変動を引き起こしている証拠は、現在明らかでありすぎて議 論の余地がない。さらなる気候変動を科学者が予測するだけではなく、炭素排出の影響はすでに 感じられてきた。直近の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)27の報告によれば、最近30年間 のどの時点においても、地球の表面が1850年以降のいずれよりも、暖かくなってきており、北半 球では、この30年間は過去1400年間でおそらく最も暖かくなってきた28。報告によれば、2015年

(6)

は、記録上もっとも温暖であった。

 気候変動のもっとも劇的な影響は、気温や降雨量の平均量の変化よりも極端な事象と関係して いる29。今世紀、先進国を襲った気候と関連する災害を検討する30。未曽有の気象と関連する災 害が2003年ヨーロッパを静かに襲い、数万人の死者を残した。2003年の夏は、少なくとも過去 500年間でもっとも温暖であった(およそ江戸城が日本で建設されたころになる)長期の熱波は 壊滅的であった31。死者の推計総数は3万にはじまり5万にのぼった32。悲惨な死者総数に加え て、熱波は農業に影響を与え、無数の森林火災を引き起こし、64万ヘクタール以上の森林が破壊 された33。ある科学者は、「過去の人間の影響は、ヨーロッパ人のリスクを2倍以上とし、2003 年の夏の気温のような暑さをひき起こし、そのような事象の可能性は、次の40年間にかけて100 倍に増加することが予想される34」としている。

 もうひとつの歴史的な熱波が2010年にロシアを襲った。最初の公式の死者総数の評価では、

1万5000人だったが35、WMO(World Meteorological Organization世界気象機関)の評価では、

総数は5万5000人以上に及ぶ36。さらに、穀物や森林に大規模な損害が発生した。

 これらの特定の事象は、主要な傾向のうちの数例である。将来的には気候変動は、災害のリス クを増加させ、災害対応体制をさらにもっと緊張状態におくだろう37。気候変動と関連する災害 の一覧は長く列挙され、「熱波、干ばつ、穀物被害、野火、疾病の発生」を含む。人間の生命や 財産に対する直接の脅威に加えて、農業に関する影響は深刻で、「害虫の増加、水のひっ迫、疾 病そして極端な天候」が原因である38。気候変動に対する適応についてのIPCCの最近の報告書は、

高い確実性をもって相当数の追加的なリスクの数を特定している。リスクの一覧は、次のものを 含んでいる。沿岸地域の低地や小さな島での死亡者、極端な気象上の事象の原因による重大な基 本施設やサービスの破綻、熱波による死亡、干ばつや洪水による食料システムの崩壊である39 実際、IPCCの報告によれば「かんばつによる作物の不作から熱波による死亡や病に至る多くの 種類の混乱にとって、極端に言えば、主な危険は、時候、厳しさの変化と一種の極端さといった 気候の通常の状態の変化によるものである。」

 IPCCが指摘するように、これらの災害の影響は特に、災害以前ですら不利益な立場に置かれ ていた集団にとって特に重大なものになっていくだろう40

    気候と関連する災害は、生計、穀物生産の減少、家屋の破壊といった直接的な影響、そし て、例えば、食物価格の高騰、食料の不安定性の増加という間接的な影響を貧しい人々の生 活に及ぼしている。都市や田舎の一時的な貧困は、様々な喪失に直面し、極端な事象や一連 の事象の結果、慢性化する。侵食された資産を再建することはできない41

 気候変動と特定の極端な気象事象を結びつける能力は向上しており、2つの問題について我々 の思考方法を変える可能性がある。一方で、もはや我々は、それらの特定の気象事象が真に自然 の問題で、運が悪かっただけだとは考えることはできなくなるだろう。災害的な結果を生み出す 自然と社会の相互作用を検討する他の手立てがあることがおそらく示されるだろう。他方で、気 候変動の害悪は、もはや一般的で抽象的なものではなくなるだろう。実際、気候変動の害悪は、

(7)

特定の被害者と関係する人の死亡、他の害悪としてますます特定されるだろう。その被害者たち のいくつかの顔を見ることができる場合、気候変動は、一層、実体的な争点のように思われるだ ろう。

B.災害の争点、気候変動や国際環境法

 「自然災害」から「気候による災害」への概念上の移行は、異なる視点を備えており、災害の 問題を扱う他の手立てを示している。

 後進国が適応の問題を要請する結果、この争点は、気候交渉の任務を一層、担っている。国際 法は、適応の努力に携わる義務を認識しはじめた42。2010年のカンクン合意では、「適応の行動は、

国を主体として、ジェンダーに配慮し、参加的で、完全に透明性のある方策で、脆弱な集団、共 同体、生態系を考慮に入れなければならない」としている。さらにカンクン合意のIII⑷は、「(特 定の行動をとる際に)、すべての関係当事者が、適応の行動を強化し、共通だが異なる責任、能 力を考慮に入れる」ことを要請している43

 リオ+20宣言は、気候変動と災害のリスクとの間の関連性を扱う必要性を認めてきた。第188 パラグラフは次のように示している。

      我々は、災害リスクの減少、再生、長期的な開発計画の間のさらに強い相互関係の重 要性を強調し、より調整され、包括化された戦略で災害リスクを減少させ、気候変動へ の適応を公的、私的投資として考慮に入れ、人道的で開発に関する行動を意思決定した り、企画したりして、リスクを減少するために、耐久力を強化し、救済、再生と開発の 間の緊張の緩和を提供する。

 第190パラグラフはまた、「気候変動への適応は緊急かつさし迫った世界的優先事項であると強 調する。

 さらに最近では、2015年パリ合意は、適応をさらに優先し、災害の問題に特別な注意を払った。

パリ合意7条は、カンクン合意の適応についての誓約を前進させ、7⑺条の適応計画のための特 定の指針を含んでいる。さらに、損失と損害(loss and damage)に関する8条は、初期の警告 制度、緊急的な準備、リスク評価と管理、共同体の回復力の視点から国家間のより強い協力を求 めている。

 気候変動への適応は、いくつかの点で災害の害悪を減少させるだろう。第1に、適応プログラ ムは、災害発生前にリスクを緩和するための資金源を創設するかもしれない。すでに検討したよ うに、国際災害法は、この点では弱かった。第2に、適応と気候変動は、回復力を強化させると いう共通の目標を共有し、そして、類似のリスクと関係する。リスクが異なる場合ですら、ひと つのリスクを扱う準備をすれば、別のリスクも扱うという便益が存在するかもしれない。たとえ ば、台風の被害者を助ける緊急的な対応システムの改善は、迅速な助力が必要な地震の被害者の 助けにもなる。第3に、気候変動に対する対応は、災害の被害者に対する補償のような問題を扱っ たり、また、必要とされる生活の場所を発見したりするという新しい方策を創造したりすること に関係するかもしれない。これらの災害後の問題は、完全に無視されていなければ、場あたり的

(8)

に国際共同体によって扱われてきた。気候変動法は、より体系的な方策を創設する助けになるか もしれない。

 IPCCが指摘するように、「災害のリスク減少のための国際的な基金は、国際的な人道的対応に ついての支出の規模と比べると小さい」44。対照的に、適応の基金に従事する20以上の基金が現在、

存在している45

 災害のリスクを、少なくとも一つの基金が注目している。防災グローバル・ファシリティ(the Global Facility for Disaster Reduction and Recovery, GFDRR)は、世銀によって運営されてい 46。災害の改善対応の必要性と比較するとGFDRRは穏当(約3億ドル)47だが、少なくともこ れははじまりである。将来、より多くの資金と統合、あるいは、少なくとも様々な基金の努力を 集中させて調整する必要性があるのは明らかなように思われる。災害と関連する企画に費やされ てきたこれらの基金をどれだけ統合させるかを追跡する必要もあるだろう。

 気候変動と明らかに関連する企画の資金を生み出す以上に、適応は災害法と共通する目的を有 している。適応は通常、さらに回復力のある共同体を創造する努力として概念化される48。その 用語は、生態学から採用される。生態学の適応とは、耐久力を備えた生態系が、突然の混乱にも 関わらず、混乱に耐え、その構造を維持することである49。現在、回復力について類似したかた ちが災害緩和という目標である50。耐久力を備えた共同体は、気候と関連する、あるいはそれに 関わらない、あらゆる種類の災害に耐えうるようによりよく準備されている。目的の共通性を前 提に、適応の努力は災害法の目的に役立ち、干ばつや洪水のような類似の脅威を扱うかもしれない。

 これらの分野は重複するが、適応の努力は、災害の争点を扱う新しい道具を生み出すことにな るかもしれない。被害者に再建を許可する災害後の基金は、ふつうは限定されている。気候に関 する交渉は、災害の被害者の補償という新しい方策になるかもしれない。そのような支援は、た とえ気候変動の適応の実施が成功しても必要とされるだろう。なぜなら、適応は完全ではないだ ろうからである。気候変動の新たなリスクを完全に消滅させる能力を社会が備えているとか、か りに可能な場合であっても費用効果的になるだろう、と考える理由はない。災害のリスクは、適 応が成功しても増加するだろうから、国際共同体は、「損失と損害」51に分類される、これらの「除 去できない」リスクの増加にとり組み始めている。最初の一歩は、パリ合意ですでに採用されて いる。すでに議論したが、損失と損害の問題にさらに注意を払っていくことである。「損失と損害」

の用語の意味は曖昧であるが、「多くの人々にとっては、『責任と補償(liability and compensa- tion)』の婉曲表現である52」パリ合意は、責任や補償の争点を扱っていないが、発展途上国の 高い関心事となっている。

 基金に加えて、国際枠組みは、気候変動と特に関連する事象、極度な事象で立ち退きを余儀な くされた人々を支援する必要があるかもしれない。影響を被った集団、とりわけ気候変動から自 分たちを守る資源を持たない人々たちは荷物をまとめて移動するかもしれない。たとえば、農業 がより困難にリスクを伴うにつれ、田舎の人々は伝統的な土地を放棄せざるを得なくなるかもし れない。気候変動に対応し、気候変動と一緒に増加する別の災害や他の否定的な事象に対して確 立された対応は移住である。気候変動の結果、立ち退いた人たちの権利について研究者は関心を 持ってきた53。そのような人々は、しばしば「気候移民」とか「環境上、立ち退いた人々(もっ

(9)

とも口語的には気候難民)」と呼ばれている54。少なくともこれらの人々が国境を越える場合に、

彼らを保護する国際会議が提案されている55。ひとつの国から別の国の移動だけではなく、ひと つの国の中だけの移動を扱う国際会議を要請する論者も存在していた56。今日まで、これらの努 力は「論争的で、大部分は成功してこなかった。人々に対する法的保護は弱く、救済のための気 候変動の適応の資源は乏しかった57。」気候難民を扱うように進歩すれば、他の別の種類の災害 で家屋を離れた人々にも用いられる方策が確立されるかもしれない。

IV.結論

 環境法は、人類が環境にあたえる損害を扱っている。災害法は、環境が人類に与える害悪を扱っ ている。これらの法分野はいくつかの点でお互いの表裏であり、両者が重なり合い始めているの は若干驚くべきことかもしれない。その過程で、自然災害と人間が原因の災害との間の区別はあ いまいになってきている。気候変動が法的・概念的境界におけるこの移行の原因である。干ばつ、

熱波や洪水など、より頻発で、深刻で、極端な事象を気候変動が引き起こすだろうという確信は 増している。影響の規模は、究極的には、どれだけ排出を制限できるかに左右される。しかし、

今日、統計上の徴候としてすでにこの傾向がはじまってきたことを気象上の記録は示している。

これまで見てきたように、適応に関する法律と国際災害法との間の重複は大きく広がっている。

気候に関する問題の卓越性ゆえに、そして先進国が、後進国に譲歩するかもしれないために、リ スク緩和や、災害後の対応の仕組みを強化することを通じて、気候交渉が災害のリスクを扱う支 援を提供するのも当然である。一般的に国際災害法の脆弱な状態にあること。このことを前提に して、適応に関する法律と国際災害法とが重複することで現在の災害の枠組みは弱体化するとい うよりはむしろ強化する見込みがある58

 実際、科学者たちは気候変動の可能性と測定の事象の深刻さの関係性を一層、認めることがで きるようになっている。2つの熱波は、4万5000人と10万5000人の人々の命を奪ったが気候変動 と結びつけられる徴候である。

 科学が発達すれば、深刻な災害についての人間の責任を確立するという可能性が増すかもしれ ない。災害についての我々の考え方を変えるだけでなく、人間の引き起こした害悪を扱う他の法 分野に頼るのも有用かもしれない。災害はもはやただ自然、偶然、神の所業ではなく、大気中に 大量の炭素を排出してきた国々の行動に起因するだろう。

 気候変動は災害に関する我々の概念を変えていく一方、災害法の分野を拡大させた。国際災害 法は、前世紀、国際的な災害対応について調整された枠組みを確立させる努力をしてきたが、十 分な成功ではなかった。気候法は、リスク緩和(適応の形態をとった)を扱う災害法の足場を確 立し、被害者補償(損失と損害の形式のもと)し始めている。気候法が発展することで、揺らぐ 国際災害枠組みを強化する助けになるかもしれないという有望な見込みがある。気候変動を扱う 努力は、必要とされる多くの資源を災害リスク緩和に注ぐかもしれない。

 気候交渉は、干ばつのようなとりわけ後進国の極端な気象事象で移動を余儀なくされた人々の 要請を扱うルールを設定できるかもしれない。交渉は、再建と他の災害発生後の行動を支援する という新たな助けになるかもしれない。したがって、国際災害法を強化するという気候法の積極

(10)

的な効果について楽観的である理由が存在している。いずれにせよ、我々は国際災害法を強化す る必要があるだろう。来たるべき数十年間、増大する危険と災害に対決するのだから。

1

Sho Sato Professor of Law, University of California, Berkeley.

2

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11

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. 1087, 1093 (2011).

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20

http://www.asil.org/community/disaster-law.

21

Similarly, the share of humanitarian funding going to disaster prevention is under one percent.

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23

See Thomas J. Schoenbaum, The Deepwater Horizon Oil Spill in the Context of the Public Interna- tional Law Regimes for the Protection of the Marine Environment: A Comparative Study, 25 U.s.F.

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25

IMO Sales No. 1490M (2004).

26

See Schoenbaum, supra note 23, at 11-12.

27

The IPCC is a United Nations body with 195 member nations, whose mission is to improve scientific understanding of climate change. See IPCC, Organization, available at http://ipcc.ch/organization/

organization.shtml.

28

Note: in-line citations in the report will be deleted in quotations throughout this article without nota- tion to that effect.

29

See Sonia Senevaratne & Neville Nicholls, Changes in Climate Extremes and their Impacts on the Natural Physical Environment, in IPCC, m

anaging tHe

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126 (srex) (2012).

30

Disasters in the developing world have sometimes caused hundreds of thousands of deaths, dwarf- ing those in the developed world. See Jason K. Levy & Chennat Gopalkrishnan, A Policy-Focused Approach to Natural Hazards and Disasters—Toward Disaster Risk Reduction (DRR), 2 J. n

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32

Larsen, supra note 31. The World Bank gives 35,000 deaths as the lower bound. w

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[Un- Natural Disasters], supra note 21, at 219 n.8.

33

United Nations Development Programme, supra note 2.

34

Peter A. Stott, D.A. Stone, & M.R. Allen, Human Contribution to the European Heatwave of 2003, 452 n

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610 (2004).

35

Id.

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33.

37

Id. at 71-73.

38

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. 2203, 2207 n.2 (2011).

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53

(2014).

41

Id. at 51.

42

Adaptation requires society to manage climate impacts using strategies of resistance, adjustment,

(12)

and retreat. See Robert R. M. Verchick, Adapting to Climate Change While Planning for Disasters:

Footholds, Rope Lines, and the Iowa Floods, 2011 ByU l. r

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. 2203, 2209 (2011).

43

Decision 1/CP.16, The Cancun Agreements: Outcome of the Work of the Ad Hoc Working Group on Long-term Cooperative Action under the Convention (UN Doc. FCCC/CP/2010/7/Add.1, 15 March 2011).

44

IPCC [Extreme Events], supra note 29, at 15.

45

For discussion of the funds, see UNFCCC, Adaptation Funding, http://unfccc.int/adaptation/

implementing_adaptation/adaptation_funding_interface/items/4638.php

46

See UNFCCC, Adaptation Funding: GFDRR, available at http://unfccc.int/adaptation/implementing_

adaptation/adaptation_funding_interface/items/4632.php

47

See GFDRR Consolidated Pledges and Contributions as of 31 December 2012, available at http://gfdrr.org/

sites/gfdrr.org/files/GFDRR_Consolidated_Update_Dec_2012_1.pdf. The Fund is still small but is al- ready actively assisting developing countries:

In FY14, GFDRR’s portfolio consisted of 226 operational grants financed with $156 million in commit- ments. GFDRR approved 85 new grants worth $60 million. In the year, 26 GFDRR-financed projects reached completion. Global Fund for Disaster Response and Recovery, Our Portfolio, available at https://www.gfdrr.org/our-portfolio.

48

See, e.g., Council on Environmental Quality, Climate Change Resilience, available at https://www.

whitehouse.gov/administration/eop/ceq/initiatives/resilience; F

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(2012); available at http://

www.fao.org/docrep/017/i3084e/i3084e.pdf; Georgetown Climate Center, 20 Good Ideas for Promot- ing Climate Resilience: Opportunities for State and Local Government (2014);

49

See Craig Anthony Arnold & Lance H. Gunderson, Adaptive Law and Resilience, 43 e

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. 10426-10427 (2013).

50

See, e.g., John R. Nolon, Land Use and Climate Change Bubbles: Resilience, Retreat, and Due Dili- gence, 39 w

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51

United Nations Framework Convention on Climate Change (UNFCCC), Approaches to Address Loss and Damage Associated with Climate Change Impacts in Developing Countries that are Partic- ularly Vulnerable to The Adverse Effects of Climate Change to Enhance Adaptive Capacity, UN- FCCC/CP/2012/8/Add.1, Decision 3/CP.18 (2012).

52

Saleemum Huq, Loss and Damage: A Guide for the Confused (August 12, 2014), http://www.rtcc.

org/2014/10/20/loss-and-damage-a-guide-for-the-confused/. For extensive discussion of the issues posed by liability for climate change, see Richard Lord, Silke Goldberg, Lavanya Rajamni, & Jutta Brunnée, C

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For a more recent discussion of the issue, see Jessica L. Noto, Creating A Modern Atlantis: Recogniz- ing Submerging States and Their People, 62 B

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57

Carlarne, supra note 55, at 164. For an argument that much of the analysis of the issue has lacked sufficient nuance, see Sheila C. McAnaney, Sinking Islands? Formulating A Realistic Solution to Cli- mate Change Displacement, 87 nyU. l. r

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. 1172, 1174 (2012).

58

Clearly, reducing carbon emissions is itself a potent method of reducing future disaster risks. Al-

though this section has focused on the connection between climate adaptation and disaster law, cli-

mate change mitigation is also crucial.

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